機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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今回は台詞ネタが多いです。


PHASE-45 秒読み

 C.E.71 9月20日 L5宙域

 

「今日も異常なし……フレッドよう、もうこの辺にはいねーぜ、帰ろうや」

ジン長距離強行偵察複座型にの索敵要員として搭乗しているジョン・ハウジィは操縦要員であるフレッド・ラクムアに欠伸交じりに声をかけた。

「真面目にやってるのか?欠伸交じりでの報告を信用してやることはできんぞ」

「そうは言ってもよう、もう3日連続だぜ?こう何日も連合の『れ』の字も見ないんだ。いくらなんでも退屈だ。そもそも、本当に連合はこのルートで来るのか?」

「お偉方がそう言ってる以上、俺達はそれを信じて網を張るしかないだろう。俺達は網を張って飯を食わしてもらってんだ。文句言うな」

「へいへい」

ジョンは相変わらずだらけた態度である。しかし、フレッドもジョンの言うことには一理あるとも感じていた。連合の艦隊となればザフトを圧倒する数で襲来するはずだ。それが連合の常套手段なのだからそれならば自分達が、いや、このジン長距離強行偵察複座型に備え付けられた高性能レーダーが見逃すはずはない。それならば、やはりここの網は空振りだったか。

そうジョンが考えていたその時であった。レーダー画面を見つめていたジョンが声をあげた。

「おいフレッド!!距離980グリーン42マーク90ベータに反応だ!!これは……」

ジョンの言葉を最後まで聞くこともなく、フレッドはフットバーを蹴とばし乗機を強引に全身させた。その直後、緑の閃光が真上から降り注いだ。緑の閃光はジンの特徴的な鶏冠のようなアンテナを撃ち抜く。

「敵襲だ!!ジョン、艦に知らせろ!!」

「分かっ」

だが、彼がその危機を味方に伝えることは叶わなかった。直後、彼らの駆るジン長距離強行偵察複座型は漆黒の宇宙から突如放たれた3本の杭にコックピットを貫かれて沈黙したためである。

 

 

「フン、チョロイな」

大西洋連邦第一艦隊第41任務群 アガメムノン級空母マシュー・ペリー航宙隊所属、ダナ・スニップ曹長は目の前で沈黙するジンを目の前にそう吐き捨てた。

彼が駆るMSはGAT-207Aブリッツである。彼は母艦が捉えた偵察用レーダーの電波を頼りにミラージュコロイドで姿を隠しながら接近し、牽制射撃で動きを誘導し、そのコックピットユニットに寸分違わぬ正確さでランサーダートを叩き込んだのである。

ジンのパイロット2名は即死。しかし、ジンが爆散してザフトに敵の存在を教えることを嫌ったダナがパイロットと情報発信機を同時に始末したため、その最後をザフトが知ることは叶わなかった。

「さて、戻るか。予定までに間に合わんと置いていかれちまう」

そう言うと彼は機体を母艦が待っているであろう方向に向けるとブースターを一瞬灯した。ブリッツは慣性に従ってまっすぐ進む。そしてブリッツはミラージュコロイドを展開して再び闇へと溶け込んでいった。

 

 

 

「スニップ曹長が帰還しました。敵偵察機を沈黙させることに成功したとの報告です」

大西洋連邦第一艦隊旗艦アガメムノン級空母の『ケネディ』にマシュー・ペリーからレーザー通信が届いたことを通信士が第一艦隊司令官ヴァルター・エノク中将に通達する。

「よし……参謀長、そろそろかな?」

エノクは参謀長ジェル・マース中佐に問いかける。

「はっ。これ以上の欺瞞が成功する確率は低いでしょう。既に偵察機からの連絡が長時間途絶えているでしょうから、敵も怪しんでいる可能性が高いかと」

エノクは参謀長の言葉を聴いて深く頷いた。

「うむ……では、そろそろかくれんぼもおしまいでいいだろうな」

そう言うと、エノクは艦長席から立ち上がり命令を下した。

「第一艦隊の全艦と第七艦隊の全艦に通達しろ!!かくれんぼはおしまいだ!全艦発艦準備に入れ!!10分後に艦隊は最大加速で前に出る!!無線封鎖も解除する!!」

 

 大西洋連邦第一艦隊―コールサイン白鳥星(キグナス)は同国の第七艦隊――コールサイン龍星(ドラゴン)と共にザフトの誇る宇宙要塞ヤキンドゥーエの攻略を任されていた。彼らはヤキンドゥーエにギリギリまで接近するためにブリッツを艦隊の周囲に展開し、隠密に、そして徹底的な偵察機狩りを実施することでヤキンドゥーエの近くまでザフトに気づかれることなく接近していた。

作戦開始時刻が近づき、尚も他国の艦隊が戦闘に入ったことを示す通信も入っていないことから他国の艦隊も同じ方法でそれぞれの標的に順調に接近することができているのだろう。作戦開始時刻まで後10分、10分後には全艦隊がその剣を抜き、油断している敵に襲い掛かるのである。

「待っていろよ、ザフト。貴様等の息の根を止めてやる」

エノクは獰猛な笑みを浮かべた。

 

 

「フレイ、もうすぐ出撃だ。準備はいいな」

第一艦隊の先鋒を務める第31任務群、アークエンジェル級強襲機動特装艦2番艦『ドミニオン』のハンガーでムウ・ラ・フラガ少佐が赤毛の少女、フレイ・アルスター少尉に声をかける。彼女はこれが2度目の実戦で、初陣というわけではないが、まだ経験が浅いということもあってムウが気にかけていたのである。

「問題ありません、少佐。コーディネーターを蹂躙する機会を前に準備を怠ることはありませんから」

ムウに顔を向けずにそっけなく答えた彼女はそのままハンガーの床を蹴って愛機のコックピットに向かう。

彼女の駆る機体はGAT-01A2『105ダガーMk.Ⅱ』だ。しかし、空間認識能力の素養があった彼女の機体には試作のビーム兵器搭載型有線ガンバレルM16M―D4を搭載したガンバレルストライカーが装備されている。

因みにムウの機体はGAT-105E、ストライクEだ。バックパックにはガンバレルストライカーを採用しているが、彼のガンバレルストライカーは特注品で、全部で6基のガンバレルを搭載している。そのうちの2基はフレイの機体にも搭載されているM16M―D4が使われているが、残りはこれまで使ってきた通常のレールガン搭載型である。

ムウはそっけないフレイのことも気にかかったが、彼女以上の問題児がまだいることを思い出し、格納庫の隅でそれぞれの娯楽に興じる少年達の元へと向かった。

「オルガ!シャニ!クロト!」

ムウの呼びかけに反応して三人は顔をこちらにむける。しかし、正直オルガ以外はまともに話を聞く気が皆無なことが見れば分かる。これで何度目か分からない態度にフラガは溜息をつく。しかし、いくら彼らに改善が見られないとしてもフラガは彼らの上官にあたるため、教育する義務があるのだ。

「お前らも出撃の準備をしろ!いいな、任務は敵MS部隊の掃討だ。深追いはするな。オルガ、シャニ、クロトの順番で10分の間隔を空けて発進だ。時間切れの10分前には戦闘を切り上げて母艦に戻れ。これが守られなかった場合、お前らの飯はザフトから鹵獲したたんぱく質合成食材になる」

ザフトから鹵獲したたんぱく質合成食材と聞いた3人の顔色が青ざめる。フラガが彼らの上官になってからおよそ3ヶ月、何か失敗するたびに飯がこれに変えられてきた。しかもフラガは意図的に不味いものから選んでいくという酷さだ。これを繰り返されれば犬でも従順になるだろう。

案の定、聞く気がなかった二人も姿勢を正し、ムウの説明を真剣に受け始めた。

 

 

「もうすぐ……もうすぐよ、パパ……」

ハッチが閉められ、様々な淡い色の光が投影されるコックピットでフレイは一人獰猛な笑みを浮かべる。

「いっぱい、いっぱいね、殺すの。一人ひとり苦しませて……うん、分かってる。ごめんなさい。そうだよね、即死させないと反撃されちゃうかも知れないわね。一撃で殺さなくちゃ……」

 その時、彼女の目の前のモニターにブリッジからの通信が入る。モニターにはヘリオポリスを脱出した頃からの縁であるナタル・バジルール艦長が映っていた。発進場所は艦長の私室だ。おそらく、ブリッジという周りの耳がある場所からは言えないことを言いたいのだろう。

「アルスター少尉、問題は無いか?」

フレイは表情を先ほどまでの陽気さを崩すことなく答えた。

「大丈夫ですよ。心配しなくても化け物どもは駆逐しますから」

その陽気さにナタルは不気味さを覚えた。まるで狂気。彼女にはそう感じられたのである。そして彼女はその狂気を見過ごすことはできなかった。彼女をMSパイロットにした責任の一端は自身にあると彼女は考えていたからだ。

「アルスター少尉……君はずっと復讐のために戦い続けるのか?この戦いが終わったら、もっと別の……」

しかし、ナタルは最後まで自身の考えを口にし続けることはできなかった。モニターに映るフレイの狂気に歪んだ表情を見て口を思わずつぐんでしまったのだ。

「……貴方も、自分の帰る場所をコーディネーターに焼き尽くされて、肉親を骨も残さず焼かれてみなさいよ」

そう言うと、フレイは一方的に回線を切断した。そして、先ほどまでの狂気とは一転し、コックピットの中で感情を映さない虚ろな表情を浮かべる。その表情は能面を想起させる不気味さを秘めていた。彼女はその表情のまま口を開いた。

 

「私は宙の化物(コーディネーター)を許さない」

 

 

 フレイの父はザフトに殺された。モントゴメリィの艦橋に撃ち込まれたミサイルが彼女の父を劫火に包んだ光景を彼女は鮮明に覚えている。そして失意の内から抜け出すために彼女は復讐に縋った。だが、自分にはコーディネーターと戦えるだけの力は無い。そこで婚約者の友人であるキラを利用して復讐を果たそうと考えた。

キラはコーディネーターだ。それも、直接の因果関係は無いとはいえ、彼女が父を失う原因の一端を担った男だ。キラも、彼女にとっては復讐の対象であった。キラにコーディネーターを沢山殺させ、そしてキラ自身も戦いの中で死んでいく。それが彼女が望んだ結末だった。

しかし、キラは彼女の思惑は半分失敗する。キラは確かにコーディネーターを次々と殺していったが、キラは自身をギリギリまで追い込んで研鑽を続けた。結果、並の部隊ではキラに対抗できないほどの実力の差がザフトのコーディネーターとキラの間に生まれていた。このままではキラに対する復讐を完遂できないことにフレイは内心で焦りを募らす。そして何らかの対処を考えている間にアークエンジェルはアラスカに入港してしまう。

そこで軍人に志願していたフレイは異動命令を受けてしまう。ここでアークエンジェルを離れれば自身が復讐を遂行することは難しくなることは分かっていたが、ここで除籍を申請してしまえば芋蔓式に他のヘリオポリスの学友達も除籍申請してしまう可能性がある。そうなればキラも軍を離れる可能性が高い。

キラがザフトを殺して戦いの中で死ぬためにはキラが軍人であることが不可欠だったため、フレイは異動命令を受け取る以外の選択肢が無かった。そして、内心で心残りを募らせながら、彼女の乗った潜水艦はカリフォルニアのサンディエゴ基地に向けて出港してしまう。

サンディエゴ基地に上陸したフレイはそこでアークエンジェルがアラスカで奮戦の末にザフトの大軍を巻き込んだ大爆発に巻き込まれたことを知る。彼女は歓喜した。沢山の化け物共とキラは戦い続け、その末に戦場で死んだのだ。彼女の復讐はここで実った。

しかし、サンディエゴで彼女は再度復讐の炎をその心中に沸き立たせる報告を聞いた。彼女と今は亡き父、幼少期に亡くなった母の思い出がつまったボストンの家が開戦後に大西洋連邦が実施した対コーディネーター政策に不満を持ったコーディネーターを中心とする暴徒による焼き討ちを受けたのである。そして畳み掛けるようにアークエンジェルがアラスカを脱出し、父を見殺しにした日本に亡命したことを知る。

復讐は成らず、父を守れなかったキラが父を見捨てた国でのうのうと暮らすことを彼女は許せなかった。そして父も、思い出も、帰る場所も全てを失った彼女は自身の全てを復讐に費やすことを決意する。そして直属の上司であったバジルール大尉に自身がMSの基礎訓練を受けられるように協力して欲しいと申し出る。彼女の実家は軍人家系で、高官に伝もあった。

最初は私的なコネを積極的に活用することを渋っていたナタルであったが、せめて高官と話す機会だけでも用意して欲しいという彼女の懇願に渋々承諾する。そしてフレイは高官に自身を売り込んだ。大西洋連邦前事務次官の娘が父親の仇を討つべく戦うという宣伝文句や、自身の美貌はいいプロパガンダになると説得する。

実はフレイは既に根回しを終えていた。サンディエゴに来て数日後に行われた父の葬儀に出席した生前の父と関わりの深かったブルーコスモスの幹部達と顔を合わせ、彼らを通じて便宜を図ってもらっていたのである。それもあり、フレイの要求は受け入れられ、彼女はMS訓練のためにネバダ州のグルームレイクに異動となり、『乱れ桜』の異名を持つレナ・イメリア中尉の指導を受けることになった。

そして彼女は自身の天性の才能もあり、MS戦における実力を短時間で急激に伸ばした。そしてナタルが艦長をつとめるドミニオンの機動戦力の一人として戻ってきたのである。

現在ドミニオンに配属されているパイロットは『エンデュミオンの鷹』ムウ・ラ・フラガ少佐、ブーステッドマンの3人、そしてフレイである。

 

 フレイは再び虹色の光を投影し始めたコックピットの中で発進直前に愛機のモニターをそっと撫でた。そして、安らかな笑顔で静かに呟いた。

 

「お願い。宙の化物(コーディネーター)を殺して」

 

 

 

 同時刻 大日本帝国 内閣府

 

 作戦開始時刻まで残り数分。閣議の出席者たちは皆真剣な顔つきでその報告を待っている。その時、会議室のドアがノックされた。入室を許可すると、室内に武官らしき男が入室し、吉岡に書類を一枚手渡した。それを吉岡が受け取ると、敬礼して会議室を後にする。

閣僚の視線が自然に吉岡に集まるのを感じ、吉岡は口を開いた。

「ただいま、全軍が攻撃を開始したとの報告が入りました」

会議室の面々は息を呑んだ。この作戦にはこの地球の命運がかかっているといっても過言ではない。それ故に、各々が抱える不安も大きいのだろう。沈黙が支配する会議室で千葉が口を開く。

「……彼らは勝てるのでしょうか」

その言葉に閣僚は息を呑む。常に最悪の事態を考慮する職業である政治家についているだけあって、彼らは皆同じ問いを胸に抱えていたために辰村の問いかけに答えることができなかった。たった一人の男、大日本帝国内閣総理大臣澤井総一郎を除いて。

「勝つさ」

閣僚の視線が澤井に集まる。澤井も閣僚一人ひとりに目を配る。

澤井の表情には一片の不安も見えない。そして澤井はいつもと変わらない朗らかな笑みを浮かべながら口を開いた。

 

「勝つさ。私はいつだって、そう……信じてきた」




フレイさんはGAMERA3における比良坂綾奈さんのようなキャラにしました。思えばこれをやるためだけにジョージ・アルスターさんにはお亡くなりになってもらったのですから、ここまで長かったですね……ようやくできました。
初期案ではマユ・アスカさんに比良坂綾奈のような復讐キャラをやってもらうプロットでしたが、『シン君お亡くなりにしてまでもやるべきネタではなかろう』という判断のもと没にしたんです。

そして久しぶりのナタルさんとムウさん。ちょい役でしたけどねww

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