機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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皆様には今回の作品削除で多大なるご迷惑をおかけしたことを謝罪します。本当にもうしわけございませんでした。
罪滅ぼしというつもりはありませんが、最新話を楽しんでいただければ幸いです。


PHASE-43.5 煌武院家の人々

 C.E.71 9月15日 L4 大日本帝国領 名古屋 煌武院邸

 

 

 武は悠陽の書斎にて硬直していた。その眼前にあるのは一冊のノートだ。見た目は至って普通。昔自分も使っていたものと似ていると感じた。しかし、これは何かが違う。名前を書くだけで人を殺せるという死神のノートのような禍々しさがそこにはあった。

 

 そのノートを見つけたのは偶然であった。以前に同僚である篁唯依中尉からとある歴史小説を勧められ、武はそれにはまってしまった。以来、暇を見つけては歴史小説を読んでいたのだが、如何せん紙の本というのは珍しい時代だ。中々手に入らない。紙の本に愛着のある武は煌武院邸の書斎であれば歴史小説の類のものもあるかと思い、ここに足を踏み入れていたのである。

そして武はお目当ての小説を見つけた。明治の初期を舞台に3人の男の視点から日本を描く歴史群像小説の大作だ。それを手に取り、武は書斎を後にしようとする。その時、書斎の壁にかけられた額入りの絵が傾いているのに気がついた。この部屋に来たついでと思い、それを直そうと手をかけると絵の裏から一冊のノートが落ちた。それがあのノートだったのである。

 

 まず、表紙が何かおかしい。首を吊っている赤毛の男が表紙を飾っている時点でおかしい。そして、そのタイトルが危険すぎる。

 

 

 よいこのめっさつしりーず いちにちさんさつ ジャプニカ暗殺帳 ふくしゅう こうぶいんゆうひ

 

 これがかの名前を書かれると心臓麻痺で死んでしまうという有名な死神のノートなのだろうか。ものすごく嫌な予感がするが、これが怖いものみたさというやつか、ついページを捲ってしまった。日記は昨年の12月から始まっている。この頃は確か撃震の宇宙での運用試験のために宇宙にあがっていたことを思い出す。

 

『12月10日 東京 晴れ ☆

 

今日の出来事

武様は宇宙にて任務についておられるらしく、中々逢瀬の機会がございません。寂しいものです』

 

 出だしは普通の日記だ。普通であれば他人のプライベートを除くことに抵抗を覚えるが、この出だしが嵐の前の静けさのように感じられてならない。武は更にページを捲る。

 

『12月16日 京都 晴れ ☆

 

今日の出来事

今日は私と武様の、ついでに冥夜の誕生日。武様からは簪が届く。武様は私が送った懐中時計を気に入ってくれたでしょうか?しかし、やはり直接お逢いしたかったです』

 

『12月17日 東京 晴れ ☆

 

今日の出来事

武様から電話がかかってきましたが、ちょうど議会にいたためにでることができませんでした』

 

 

 

 至って普通といっても過言ではない。自分に中々逢えないことを悲しんでいることがよくわかる。しかし、まるで平安時代のラブストーリーを思わせる。悠陽が大和撫子の鏡であり、このような達筆で日記が書かれているためにそのように感じるのであろうか。本当にできた婚約者であると満足していたが、まだ日記には続きがあることに気づく。

 

 

 

『12月24日 東京 曇り ☆☆

 

今日の出来事

武様のいらっしゃる安土に視察する予定でしたが、予算委員会の審議が長引いたために延期となりました。愛民党は野党たる自覚はあるのでしょうか?彼らの活動というのは国会の動きを遅延させることと如何なる違いがありましょうや』

 

『1月1日 京都 晴れ ☆☆

 

今日の出来事

誉れある帝国宇宙軍は年中無休である以上、武様も都合が取れないのは分かります。しかし、仮にも婚約者なのですから、逢いにいけずにすまないという言葉くらいは頂きたいものです』

 

『1月16日 京都 晴れ ☆☆☆

 

今日の出来事

冥夜が煌武院家の人間として前線視察の名目で安土に向かう計画を立てているとのこと。姉を差し置いて義理の兄となる人物を誘惑するつもりなのでしょう。させません』

 

『1月25日 東京 雨 ☆☆☆

 

今日の出来事

武様が護衛として随伴した練習艦隊がヘリオポリスに寄港中、ザフト部隊に襲撃を受けたとのこと。詳細は未だに把握できておりません。武様に傷一つでもつけたらザフト潰す』

 

『2月1日 東京 曇り ☆☆☆

 

今日の出来事

武様が無事に安土に帰港なされたとのこと。とても喜ばしいことです。しかし、このような事態を招いたザフト許すまじ』

 

 

 

「……」

武は無言で日記を見つめた。よく読むと、途中から口調が荒くなりかけている。心配してもらえるのは冥利に尽きるところだが、いささか恐怖を覚える。だが、日記を捲る手は止まらない。まるでそういう魔術をかけられているようだ。

 

 

 

『2月6日 東京 晴れ ☆☆☆☆

 

今日の出来事

国会で先のザフトと我が国の練習艦隊が交戦した件が取り上げられた。愛民党の代表が練習艦隊による反撃を過剰防衛だなんだ言って批判する。私の武様が無抵抗に撃たれればよかったといいたいのか。あの男の脳みそはどうかしている』

 

『2月20日 東京 曇り ☆☆☆☆

 

今日の出来事

我が国の練習艦隊も巻き込まれたヘリオポリス襲撃事件でオーブ側がザフトに対してそれ相応の対応をとっていないことが判明。巻き込まれた我が国もオーブにはこの件に対して納得のいく対応をしてもらってはいない。今日の党の会合で、私を含めた議員団がオーブ政府に対してこの件に関して釈明を求めるためにオーブを訪問することが決定する。武様が帰ってきて久しぶりに会える機会だったというのに。オーブ憎し』

 

『3月7日 オーブ ヤラファス島 晴れ ☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

オーブ行政府を尋ね、ヘリオポリスの件について釈明を求める。しかし、外務省の担当者は「これはオーブの問題であり、貴国からプラントへの謝罪を強制される筋合いは無い」とほざく。この下っ端に説明させるのは無駄だと判断。翌日のオーブのアスハ代表と会談で何とか進展させるしかなさそうだ。あの理想バカがこちらの主張を素直に受け入れてくれるとはとても思えない』

 

『3月8日 オーブ ヤラファト島 晴れ ☆☆☆☆☆

今日の出来事

オーブの獅子とやらはコミュニケーション障害か。何を言おうとも、我が国には我が国の理念がある。それを他国の意思で曲げることなどできないの一点張り。あの無駄に豊かな髭を愚かな理念ともども引っこ抜いてやりたい。こちらにも大国の面子がある以上、ここで抗議をさせなければいけないのだが、この老害には何を言っても無駄か。流石はかの愛民党の現代表と大学時代親友だったこともある。あまりの話の通じなさによるストレスで肌があれているようだ。こいつの元でこの国は滅びるだろう。ここまで愚かな支配者を抱え、さらにそれを担ぎ上げた国民を抱えた国に未来は無いのだから』

 

 

 

 ……どうやら婚約者は貴族院議員として活動する中でかなりのストレスを溜め込んでいるようだ。オーブの酷さも愛民党の酷さも知ってはいたが、実際にそれを相手にしていればかなりのストレスになることだろう。最近悠陽のスキンシップが過激になっていた気がするが、それはこのストレスを解消する意味もあったのだろうか。今度からはもう少し彼女に配慮すべきかもしれないと武は思った。

だが、まだ日記は続いている。

 

 

 

『5月8日 東京 曇り ☆

 

今日の出来事

武様が訪れているアラスカにザフトが侵攻したとのこと。武様ならば大丈夫だとは思いますが、不安が消えません』

 

『5月20日 京都 晴れ ☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

武様がご帰還し、査問委員会や技師との打ち合わせも終了して前々から申請していた休みがようやく取れたとのこと。こんな時に私は京都にて茶会でお逢いすることができない。夜に専用ヘリで横浜に舞い戻ると、高校時代のご友人を侍らせて眠っていた。高校時代の恩師という女性の膝で寝ている武様。許せない』

 

『5月21日 横浜 晴れ ☆

 

今日の出来事

夜這いを仕掛けようとしていた冥夜をワインセラーに閉じ込めることに成功する。私の武様に色目を使う女は実の妹でも許せない。計画通り武様との添い寝に成功する。朝食後にもデートのお誘いを受ける。武様から誘ってくださって私は天にも昇る心地。今夜も武様といっしょです』

 

『6月12日 東京 晴れ ☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

武様が種子島にてザフトのMSの迎撃のために出撃、撃墜され病院に搬送されたとの報が入る。ザフト許すまじ』

 

 

 

 自分の負傷や危機がどれほど婚約者を苦しめていたのかを思い知らされ、武は今度は自己嫌悪モードに入りつつあった。そういえば、何かあっても回復したとか、無事だったというあっけらかんとした報告しか彼女にはしていなかったということを思い出した武は自身の浅慮さを恥じる。

先ほどから日記のページを捲るたびに怯えたり考えさせられたり自己嫌悪したりと忙しい男である。いつの間にか人の日記を盗み見る罪悪感を捨てているあたり、調子のいい男でもあるが。そして、いつの間にか扉に迫り来る影にも気づいていない。戦闘時の察しの良さは一体何処にいったのだろう。

 

 

 

『7月2日 L4 名古屋 晴れ ☆

 

今日の出来事

宇宙軍の本拠地である安土勤務に戻った武様に会いにL4に向かいました。そこでラクスさんを武様から託されました。まるでもう一人妹が増えたようでとても楽しい毎日が過ごせそうです。久しぶりに一夜を共に過ごすことができました』

 

『7月3日 L4 名古屋 晴れ ☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

ラクスさんから武様に救出されたときのことを聞く。武様はその時巨乳の美人士官と一緒であったという。しかも中々に親しい雰囲気だとか。要調査。鎧衣に調査を依頼する』

 

 

 

 鎧衣課長による調査の文字を見た武の顔は文字通り引きつった。冷や汗がその頬を伝う。ページを捲る手もまるで老人のように震えだす。

 

 

 

『7月10日 東京 晴レ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

鎧衣より報告あり。武様は私という婚約者がありながら巨乳の美人艦長とバーに行き、酔いつぶれた彼女を家まで送ったとのこと。許せない』

 

 ……確かに送ったが、やましいことはしていないと神に誓おう。

 

『7月15日 大坂 曇リ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

鎧衣より報告あり。武様は私という婚約者がありながら山吹の姫武将なる二つ名を持つ美人パイロットの胸を揉んだ。許せない』

 

 ……廊下の角で出会いがしらにぶつかって、手をついたところが彼女の胸だったというだけだ。事故だ。情状酌量の余地があると本官は主張します。

 

『7月20日 京都 晴レ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

鎧衣より報告あり。武様は私という婚約者がありながら新米のオペレーターの女性にモーションをかけられ、一緒に食事に行ったとのこと。許せない』

 

 ……普通に食事に誘われただけだ。本当に。信じて欲しい。自分はそんなフラグを乱立させた覚えは無い。

 

 なんだろうか、鎧衣課長は俺に恨みでもあるのだろうか。明らかに悪意を混ぜた報告だ。いや、もしかするとあの人は軽い悪戯心から少しバイアスをかけた報告をしただけなのかもしれない。しかし、鎧衣課長。自分にとっては悪戯ではすまされないのであります。本官は被害者として課長に迅速な再調査と裏づけを求めるものであります。

 

 

 

 だが、まだ日記には続きがある。

 

 

 

『7月30日 神戸 晴レ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

鎧衣より報告あり。武様は私という婚約者がありながら、押しかけてきた冥夜と一夜を共にした。許せない』

 

 

 

 ……これは事実だった。いや、弁解をするが冥夜は完璧な変装の上に明け方に寝室に突入してきたのだ。しかも、スケスケのすごい刺激的な格好で。たしかに一晩中いっしょにいましたが、本番5秒前で気がついてその後に冥夜とずっと屋敷中を使って逃走中をやっていたんですよ?鎧衣課長、誤解を招くような表記を積極的にしないでください。というか、さりげなく真実をありのままに書かないで下さい。他の話の信憑性が増してしまいます。そして、この☆の数は何でしょうか。しかも10個。天空竜とか巨神兵とか翼神竜とかと同格ですか?

 

 

 

『8月5日 博多 晴レ ☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

今日の出来事

鎧衣より報告あり。武様の女性を見る眼差しが何処と無くいやらしいと思うとのこと。とにかく許せない』

 

 

 

 鎧衣課長、勘弁してください。本官のライフはもうゼロです。

武はそっと日記を閉じ、それを手に立ち上がった。とりあえず最初にやることはこの日記を読んだことを悠陽に悟られないように擬装することだ。そして、後はともかく悠陽のお相手を一晩中するだけだ。前後不覚になるまで相手をして彼女が抱く色々なものを忘れさせる他ない。

そうと決まれば話は早い。まずは、日記を戻し、その後は色々と活性化させてくれることで有名なお薬、オルガナイザーG11を飲めば……

そこまで考えを及ばせていたとき、鈍い音を出しながら書斎の扉が開いた。

 

「おや、武様、書斎に長いこといらっしゃいましたね。一体何の本をお読みに?」

書斎に足を踏み入れたのは自身の婚約者、煌武院悠陽だ。その笑顔の裏には何か恐ろしいものが見え隠れしている。

「いや……その、あのさ」

「おや……そちらは私の日記ですわね。……武様、お読みになりましたか?」

笑っているが、その眼光は婚約者に向ける目では無い。

「まぁ、それはさ」

「お読みになりましたね?」

断定が入った。ゆっくりと首を縦に振ってしまうのも仕方が無いだろう。

 

 もはや生まれたての小鹿のように膝を震わせ、立つことも厳しい武に対して悠陽は諭すような口調で声をかける。そこに見え隠れする何か恐ろしいものをしまってほしいものだ。

「婚約者といえど、女性の日記を勝手に読むとは、悲しいことです。ですが、武様、安心してください。何も、罪を償って欲しいとは私は思っておりません」

武は一縷の希望を見つけたと思った。しかし、それは幻であった。悠陽は普通の男であれば間違いなく魅了されるであろう笑みを浮かべながら武に言った。

「私は、更生してほしいだけなんですよ」

ああ、悠陽の後ろに何かが見える。そうか、これがこのノートを手にしたものだけが目にすることができるという死神だったのか……

悠陽の言葉を聞いたとき、背後から衝撃を感じ、俺の意識は闇に墜ちた。

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、俺は一糸纏わぬ姿でベッドの中にいた。となりにぬくもりを感じて顔を向けると、悠陽が微笑んだ。

「お目覚めですか?武様」

「……あっ、ああ。でも、あれは」

ベッドに入るまでの記憶がはっきりしない。昨晩に色々といたした記憶も無い。

「どうかなさいましたか?」

そう言いながらこちらの瞳を見据える悠陽の眼差しに武は何故か寒気を覚えた。

「なっ、何でもないヨ、僕ノ勘違イ」

悠陽に見つめられた武は思い出すことをやめた。そうだ。何かあったかもしれないが、きっとそれは夢だろう、夢だ、うん、そうだ。そうしよう。

 

 現実から逃避している武の隣にいる女性の瞳に映りこむ暗い何かの存在から目を逸らし続ける武であった。

また、余談ではあるが、7月31日夜、煌武院家本邸で食事中の煌武院家の次女が食事に毒をもられる事件が発生する。次女は1週間腹痛に苦しめられたということだそうだ。




ネタはFateホロウアタラクシアより間桐家の人々より

冥夜さんは武さんのことをいまだにあきらめていません……流石恋愛原子核

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