機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-42.5 決戦のために

 C.E.71 8月9日 大日本帝国 習志野陸軍病院

 

 一人の男が病室のベッドの上で腹筋運動をしている。見た目には彼は入院を強いられているほどに病状が深刻とは感じられない。しかし、彼がこの陸軍病院にて入院しているのには当然ながら訳がある。

まず第一に、彼は一時は生死の境を彷徨ったほどの重症であったという事実だ。内臓の損傷や全身の骨折など、普通の人間であれば死んでいてもおかしくない状態でありながらもその生を維持することができたのは戦闘用コーディネーターとして製造された彼の強靭な肉体のおかげであろう。

そして第二に、彼は陸軍病院という隔離された環境での拘留が必要であったという点が挙げられる。男の名は叢雲劾、今年5月に地球連合軍アラスカ基地で発生したスカンジナビア王国向けの撃震輸出モデルの奪取未遂に実行犯の一人として関わっていた。

彼以外の実行犯は皆アラスカの地で死亡していたため、日本は彼を本件に関する最重要参考人と見做していたのである。結果、容態が安定した頃を見計らって彼は最初に収容されていた札幌陸軍病院から習志野陸軍病院に搬送され、現在は病室を機械化歩兵の一個中隊によって封鎖されている状態だ。

これはアラスカの事件の首謀者による口封じを防ぐことと患者の脱走を警戒したためである。彼の供述で大西洋連邦の軍部に黒幕がいると分かった以上、重要な証言者である彼をむざむざ殺されるわけにもいかず、彼がその優れた身体能力を駆使して脱走することも容易に想定できた。

それ故の機械化歩兵の一個中隊の配備だったが、これは彼の収容されている隔離病棟の特殊個室前の警備である。当然隔離病棟全体にも多くの精鋭が配備されていた。空挺部隊、対テロ特殊部隊、etc……と、凄まじい精鋭が病院の各部にいたのである。あるものは患者として、看護婦として裏からもさりげなく配備されていた。

大西洋連邦側も一度はこの傭兵の口封じを検討したらしいが、この警備状況を知ったとたんに計画を白紙に戻した。ある陸軍の高官曰く、

「どうせグリーンベレーが半壊するのであればパトリック・ザラを襲撃して半壊させた方が有意義」

だそうだ。

 

 大西洋連邦陸軍の誇る最精鋭特殊部隊がさじをなげる警備状況の中、警備対象である劾は一人レトロなゲームをしていた。元々この入院生活中は娯楽もなく、人との会話も無い空間では流石の劾も飽き飽きしてくる。偶に検診に来る彩峰という看護婦も愛想が全くと言っていいほど無く、体の各部を検診して包帯を取り替えるとさっさと帰ってしまう。

こんな毎日は流石に暇であり、何か暇つぶしを用意して欲しいと彼女を通して警備部隊に伝えた結果、渡されたのがこのゲーム機であった。何でもこのゲーム機の初代の型は爆撃されても動き続けるゲーム機だそうだ。そしてこのゲーム機はその復刻版で、当時と違い液晶画面がカラーと白黒に切り替えられる仕様になっており、内部にバッテリーとメモリーを搭載しているらしい。

爆撃されながらゲームをする阿呆がいるのかどうかは疑問であったが、そんな些細な疑問はどうでもいいほどに娯楽に飢えていた劾はゲームを起動した。

 

 劾は焦っていた。手持ちの戦力はもはや半壊……いや、壊滅状態にあったのだから。

 桃色の牛を模した生物が転がりながら迫り、頭に赤い羽根が生える鳥を轢き潰した。緑のHPバーが見る見るうちに減り、バーは消滅した。同時に鳥は倒れる。劾は引きつった顔をしていた。既に劾の戦力は壊滅状態にあるのだ。

関西弁の少女の戦力の内、妖精は火鼠の火炎車で難なく倒すことができた。しかし、少女の切り札は協会認定のジムリーダーの名に恥じぬ強さを誇っていた。火鼠は敵の体力を3分の1ほどにまで追い込んだものの、牛の回転攻撃を受け、そこで力尽きる。次いで投入した槍蜂、電気羊も瞬殺された。そこで素早さに秀で、先手を取れるだろう鳥を投入して砂かけで敵の命中率を落とした。なんとか敵の猛回転攻撃を回避することに成功する。

しかし、敵は再度の砂かけを実施したこちらに対してモーションをかけ、鳥はメロメロ状態に陥ってしまう。その間に牛は自身から搾り出した牛乳を用いて体力を回復、そのまま回転攻撃をしかけた。技が3連続で発動しないという不運な状態にあった鳥は撃墜、劾の手持ち戦力は残り2体となっていた。劾は次いでウーパールーパーと似たフォルムを持つ水魚を繰り出す。雌であったためにモーションはかけられなかったが、水鉄砲を2発命中させた後に轢き潰された。

前作の赤箱に登場する岩蛇使いにも最初に大木戸博士から火蜥蜴を貰ったためにタイプ相性で苦労したが、ここまで戦力を揃えた上で苦戦したことは前作の赤箱では無かった。既に赤箱をクリアした劾はそのまま彩峰に続編をねだり、金版を手に入れていたのだ。

前作から懲りずに火鼠を空木博士から貰い、鳥使いと蟲使いは軽く蹴散らした。しかし、3人目のジムリーダーの関西弁ピンク娘の桃色牛を相手にして劾の戦力は残り一体。しかもその一体はいまだ育成中でまともな戦力とは言えない。しかし、ここでリセットボタンを押すことは彼の流儀に合わなかった。故に彼は一か八か空木博士から預かった卵から孵化した針玉を繰り出した。

問題は敵の牛の回転攻撃を回避できるかどうかだ。既に2度砂かけを命中させて敵の命中率は低下している。育成には手を抜いていないのでレベルだけを見れば対抗できないほどの差が敵との間にあるわけではない。それに、水魚の奮闘によって数発命中させれば敵を沈められるところまで追い詰めている。

劾は「たたかう」のコマンドを選択し、技を選んだ。そして戦闘場面に入った。

「ミルタンク の ころがる!」

劾は祈る。これが避けられなければ勝利は無い。

「しかし ミルタンク の こうげきは はずれた」

劾はグッと拳を握る。これで勝利に必要な第一条件はクリアした。彼の流儀には反することであるが、後は運を天に任せるしかない。劾は眉間に皺を寄せながらAボタンを押した。

「トゲピー の ゆびをふる!」

劾は手に汗を握りながら祈る。最低でも麻痺を与えなければ次のターンは無い。そして、技は発動された。

「トゲピー の はかいこうせん!」

劾は目を見開いた。おそらく、ランダムに発生しうる技の中で最強の技である。固定威力はノーマルタイプのとくしゅ技のうちで最強クラス、更にタイプ一致で威力は1.5倍ときた。これで心躍らぬ者はいないだろう。

そして、はかいこうせんは命中した。元々およそ半分ほどまで削られていた敵のHPバーは赤に変わり、そのまま消滅した。桃色の牛は画面外に沈む。劾は勝利時に流れるBGMを聞いて思わずガッツポーズを取った。その時、同時に病室の扉が開いた。勝利のBGMが軽快に鳴り響く中、背広を着た男と目が合う。ゲーム機片手にガッツポーズを取っている傭兵と帝国の官僚らしき男というなんとも言えない構図がそこにあった。この気まずい雰囲気に誰も口を開くことができなかった。

 

 官僚は咳払いをして場の空気を換えようとする。劾もレポートを書き、ゲーム機の電源を落とした。

「さて、かの傭兵集団サーペントテールのリーダー叢雲劾。今日は君に提案をしにきた。ああ、これは入院している君への見舞い品だ。この人形はとある街に住む物真似娘とやらも愛用しているという逸話がある妖精の人形でね。野生の動物に出会ったときにはこれを囮に逃げることができるという評判が……」

劾は男を観察する。パナマ帽を被った中年の男だ。その雰囲気ははっきり言ってかなり胡散臭い。経験からすると諜報畑の人間である可能性が高い。男の両脇に待機している二人の男も只者ではない。こちらは陸軍の特殊部隊といったところだろう。

劾が観察していることなど気にも留めずに男は話を続ける。

「ああ、自己紹介がまだだったね。私は国際警察のハンサムと」

「偽名を名乗るのであれば、もう少し考えた方がいい。その顔でハンサムは無いだろうに」

あまりにも堂々とセンスの無い名前を名乗る男に劾はうんざりした様子だ。だが、男は少しも気にした様子を見せずに飄々としている。

「まぁ、コードネームというものはそういうものさ。それに、私はこの偽名を中々に気にっている。かつて同じコードネームを持つ男が北海道にて銀河団を名乗るカルト宗教組織を追い詰めたとか追い詰めなかったとか、結局は少年から手柄を奪ったとか……」

「用件はなんだ」

本題以外の話に触れれば暫くは話の筋が脱線したままになることを理解した劾は男に本題を話すように迫った。

「せっかちだな、劾君。まぁいい……本題に入ろうか。劾君。帝国政府は君を傭兵稼業に戻す用意がある」

この場に帝国政府の人間が来たということはなんらかの取り引きを持ちかけるためであると踏んでいたために劾に驚きはなかった。そして、自分を釈放するということはそれ相応の見返りが必要なはずであることも察していた劾は黙って男に続きを促す。

「分かっているだろ無条件で君を解放するわけではない。当然、いくつかの条件を呑んでもらう必要がある」

「条件はなんだ」

「フム、第一に、君には帝国政府からの依頼を最優先で処理してもらう。拒否権はあるが、その場合は違約金を帝国側に支払ってもらうことになる。任務一回の拒否の違約金は日本円で400万円とする。帝国の利害が絡む依頼を受ける際には帝国側からの許諾を必要とする。当然お目付け役も付けさせてもらうぞ。そちらが条件を呑むのであればこちらは君を釈放する。君のMSの整備や補給等は我が国の所有する工廠で格安に行えるように手配しよう。どうだね?」

劾は躊躇わずに答えた。

「これは俺に対する取引ではない。サーペントテールに対する取引だ。いくらリーダーが俺とは言え、これは俺が独断で判断できる範囲を超えている。メンバーが同意するならば俺も同意する用意がある。まずはメンバーの同意を得てからここにこい」

事実上保留の判断をしたのにも関わらず、男はまるで悪戯が成功した子供のような表情をしていた。これには劾も訝しげだ。

「まぁ。そう言うと思っていましたよ。ですから、ここに連れて来させて頂きました」

男は劾に背を向けて病室の扉を軽く2度ノックする。それを合図に病室のドアが開いた。

「劾!!劾!!」ドアが開くと同時に小さな女の子が駆け出し、劾に跳びついた。

「風花……心配かけたな。元気だったか?」

「うん……でも、イライジャは?ねぇ、劾。イライジャもここにいるんだよね?本当は生きてるんだよね!?」

風花の目から流れる涙が止まらない。劾にイライジャの生存を必死に問いかける声も最後は涙声になっていた。風花も帝国政府から既にイライジャの最後は聞いているのだろうが、それを納得できない感情が強いのだろう。しかし、ここで嘘をつくことはできない。それは彼女のためにもならないし、仲間であるならば真実を知る義務があるからだ。

劾は風花の両肩をつかんで自分の正面を向かせた。そして言い聞かせるような口調で風花に語りかける。

「イライジャは死んだ。任務中にミラージュコロイドで擬装した敵MSから不意打ちをされたんだ。イライジャのジンは一撃でコックピットを打ち抜かれて爆散した。骨も残らなかった」

真剣な目で語りかける劾の言葉に偽りはないと分かってしまったのだろう。風花はその場で泣き崩れた。母親であるロレッタが娘に駆け寄って抱きしめる。

それを横目で見ながらリードが劾に話しかける。

「イライジャが死んだのは聞いた。残念だったな。また後で詳しい経緯を教えてくれ」

「ああ、勿論だ。ところでリード。お前達は帝国に拘束されていたのか?」

「いや、俺達の判断で自分達を売り込んだってところだ」

リードはこの場では詳しいことは話さなかった。別にいつでも話せることであると判断していたのである。

後に劾が聞いた話によれば、アラスカでの任務が失敗した直後からサーペントテールのメンバーは大西洋連邦の息がかかった特殊部隊に命を狙われたらしい。幾度も命の危機に曝された結果、彼らはこのまま逃げ切ることは不可能だと判断した。大西洋連邦の狙いは恐らくサーペントテールが大西洋連邦と結んだ契約を証明する契約書類であろう。これが日本の手に渡れば大西洋連邦は日本に対して申し開きができなくなるのだ。

そのことが分かっていたサーペントテールはいち早く日本の勢力圏に逃亡し、大使館に身柄の保護を求めた。彼らは懇意にしている情報屋から劾が日本に救出されていることをすでに掴んでいた。そして契約書の提供と引き換えに身の安全を手に入れていたのである。当然彼らにも劾に申し入れた件については通達してあるが、彼らもこの件はリーダーである劾の同意なくしては決められないと決断を留保していた。

 

「さあ、劾君。君の決断に必要な仲間を集めた。その上で君の考えを聞かせて欲しいな」

日本側に監視されながらの話し合いは正直不愉快であるが、仲間と話し合う機会を与えてもらっただけでありがたいと考えることにしよう。それに、日本側が提示した条件は破格のものであった。監視されていようがいまいが結論が変わることは無いだろう。

「……俺自身はその提案を受ける価値があると思っている。お前達はどう思う?」

劾は視線を仲間達に送る。

「悪くないと思うぜ。どうせこの提案を蹴ったらあのおっそろしいインペリアルに目をつけられることになる。そんなことしてみろ。まともな仕事にありつくことは不可能になるだろうよ。アンダーグラウンドなところでひっそりと汚らしく生きていくのは御免だしな」

リードに続いてロレッタも口を開く。

「私もリードに賛成よ。ある程度は自由にやらしてくれるっていうんだし、補給面でバックアップを受けられるのならば多少不愉快なことがあっても目を瞑るべきよ。そして何よりね、劾」

その時、ロレッタの眼に暗い何かが写りこんだ。

「貴方がものすごい額を投資したブルーフレームを喪失したし、依頼に失敗して報酬を受け取れずに大西洋連邦から逃亡を続けたせいで私達は大赤字なのよ。そう……そもそもブルーフレーム1機のためにどれだけお金を借りたのかしらねぇ。ここで日本の提案断ってジャンク屋経由で装備をそろえた時、一体いくらかかるのかしら。貴方の専用機はジンに乗ってたときも維持費だけで年間いくらかかったか。いい部品使ってたわねぇ、特注でいろいろと装備を造ってたし。ねぇ、いくらかかったか覚えてる?」

凄まじい気迫を発しているロレッタに圧されて劾は冷や汗をかく。

 

 傭兵というのは儲かる!と言い切れない部分がある。MSを駆る傭兵は基本自分の保有している機体で依頼を遂行する。依頼人が機体を用意してくれることもあるが、そのような場合その機体はあまりいいものではないし、レンタル料という形で料金を割り引くことを余儀なくされることも多い。

自分の命がかかっている以上は傭兵は自分の武器には妥協はしない。昨今はびこるジャンク屋から少しでもいい機体、少しでもいいパーツを融通してもらうことで彼らは自分にあったMSを揃えているのである。

ただ、その整備費用は自前であり、傭兵の機体の整備を積極的に引き受けてくれる施設はジャンク屋関連の施設しかない。ジャンク屋が保有しているMSのハンガーは各地にあるが、彼らが保有するMS部品の大半が回収品か自前の工廠で製造したものである。闇ルートから正規品を入手してもいるが、闇ルート故にその数はあまり多くはない。

安定供給可能な部品が少ない以上、どうしてもジャンク屋の手を借りることになれば整備にかかる費用も高くつく。一国の軍や大企業に継続して雇用されている傭兵であればこの問題は深刻にならないが、劾のようなフリーの傭兵となれば深刻だ。フリーの傭兵というのは業界の中でも底辺の素人か、仕事人の流儀を持つ超一流の(プロフェッショナル)のどちらかが属するものであるからだ。ある程度の腕があり、名を知られて安定志向のある傭兵は大概どこかの組織に長期間の契約で雇われるためである。

サーペントテールもフリーの傭兵である以上は台所事情は厳しかった。一番深刻だったのは報酬を出し渋ったり自分達を裏切る依頼人の依頼を受けて結局骨折り損のくたびれもうけとなるパターンが増えたためであった。また、劾が愛機をブルーフレームに切り替えたのも大きな出費となっていた。

それまで使用していたジンであればプラントから流出した正規品の部品や、ワークスジンを運用している関係でジン系列の一部部品を自作しているジャンク屋の工廠で生産された部品、各地の戦場から回収した部品を使って整備や修繕ができた。元々戦前から生産が始まっていたジンの部品はどこにでも溢れていたのである。

しかし、モルゲンレーテの試作MS、ブルーフレームの部品となれば簡単には手に入らない。ジンなどザフト系列の部品との互換性はないため、ジャンク屋ではまともな整備もできない。連合のダガー系列の機体の部品とであれば一部互換性があったが、連合内部でも生産が始まったばかりであったためになかなか部品を手に入れることはできなかった。例外としてジンなどの部品を改造して一個一個部品を用意しているジャンク屋もいるが、彼のような技術と根気をもつジャンク屋などそうはいない。

結局、劾はブルーフレームの部品を生産しているモルゲンレーテから直接部品を買い付けるほかなかった。足元を見られてオーブからの依頼を格安で優先的に受けさせられることとなったサーペントテールの台所事情は悪化した。ロレッタが劾にブルーフレームをジャンク屋に売ってしまえと提案したのは一度や二度ではないのだ。

そのたびにパイロット組から激しい抵抗を受けていたロレッタは凄まじいストレスを抱え込んでいたのである。

 

「劾、結論はわかっているわよね?」

未だ泣きじゃくる娘を抱きながら冷たい視線で劾に促す。その視線に屈したわけではないが、劾は冷や汗をかきながら日本の代表者たる男に顔を向ける。

「……もう一つだけ、条件を足したい。俺は専用機をアラスカで喪失しているからな。代替機を用意してもらいたい。当然、前の機体の性能と同等以上の性能を持つ機体をだ」

劾の提案にハンサム(仮)は頷く。

「いいだろう。それは補給と整備に関する契約に盛り込む。では、契約書にサインをしてくれたまえ」

そういうとハンサム(仮)は懐に手を入れ、契約書を取り出した。劾はその内容に目を通し、その後リードに書類を渡した。リードも目を通すとロレッタに書類を渡す、ロレッタも一通り目を通し、劾に書類を戻し、頷いた。

仲間達の承諾がでたことを確認し、劾は書類にサインした。それを見たハンサム(仮)は笑みを浮かべる。

「交渉成立だ。劾君。君は明日には退院できるように手配しておこう。それでは、また会おう」

そう言い残すとハンサム(仮)は護衛を引き連れて病室を後にした。

 

 

 

 

 習志野陸軍病院を後にしたハンサム(仮)はその足で霞ヶ関にある情報局に赴いていた。

「局長、失礼しますよ」

突然情報局長室に入室した鎧衣に辰村は顔をしかめる。

「鎧衣か。何度も言うが、その台詞は扉を開ける前に言って欲しい。それで、成功したらしいな」

ハンサム(仮)改め鎧衣左近情報局外務1課課長は飄々とした様子で答えた。

「ええ。まぁ、あの条件を断ることは普通であれば考えられないことですからな」

海皇(ポセイドン)作戦には彼らの力が必要不可欠だ。ここでやつらを引き入れられなかったらお前の首を飛ばせたのにな。そうだ、彼らに用意する機体の手配も済んだぞ」

「ほう、かの最強の傭兵に任せる機体とは?」

辰村がほくそ笑みながら答えた。

「XFJ-Type5だ。三友重工の最新作で、マスドライバーの手配ができ次第、宇宙に挙げる予定になっている」


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