機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-26 第二の矛先

 C.E.71 6月20日 L4宙域 大日本帝国領 軍港コロニー『安土』

 

 その姿を最初に発見したのは安土に帰還する帰路にあった宇宙哨戒機、PAー68『彩雲』だった。

「こちら第17航宙戦隊所属、PAー68『彩雲』!安土管制本部に緊急連絡!!二の丸付近にザフト艦隊を視認!!繰り返す、二の丸付近にザフト艦隊を視認!!」

 

 哨戒機からの緊急連絡をうけて司令室も慌しくなっていた。

「哨戒中のPAー68の熱源探知機が複数の巨大な高速移動体を感知、L4を目指して進行中とのことです!!」

「二の丸より距離10000オレンジ42マーク71デルタに敵艦隊が出現光学迷彩を解除した模様」

「艦影照合の結果、ザフトのナスカ級高速戦闘艦を主軸とする部隊と判明しました、また、敵艦隊にはこちらの識別表に無い未知の新鋭艦アンノウンが3隻存在するとのことです」

「安土より、撃震1個連隊が緊急発進スクランブル続いて瑞鶴1個大隊が出撃を開始しました」

 

 敵味方不明艦の襲来の知らせを受けて司令室に詰めていたL4『安土』鎮守府司令長官の神田輝明中将は眉間に皴を寄せている。

「レーダーを誤魔化してこの距離まで詰めてきたということはミラージュコロイドでも使ったというところか。しかし、何だってこのタイミングでL4に侵攻する?あちらさんがやる気なのは分かったが、いまいち動機が掴めん……」

神田の疑念に副司令の国友満少将も同意する。

「あちらもこちらの戦力については十分承知でしょう。狙いはおそらくこちらの軍事拠点の無力化ないしこちらの戦力の消耗といったところが考えられます。しかし、仮に目的を果たしたとしても我が国の国力であれば戦力の回復も時間を置けば可能です。そうなればザフトを待っているのは長期にわたる消耗戦となります。ザフトはこの戦闘でL4の戦力を全て無力化する意気でいるとも考えられますな」

国友がそう返した時、通信士官の一人が声をあげた。

「第二宇宙艦隊旗艦『扶桑』より入電です。回線をまわします!」

神田は司令席のモニターには第二艦隊司令長官、三雲勝将中将が映し出された。

「司令官、第二宇宙艦隊はこれより安土より出撃し、敵艦隊を撃滅します!!」

息巻く三雲に神田は釘を刺す。

「敵の撃滅も重要だが、敵戦力は未知数だ。このタイミングでの奇襲ということは、地上で使われたEMP兵器のような秘密兵器を擁している可能性が高い。注意してくれ」

「はっ……了解しました」

 

 安土に敵襲を知らせる警報が鳴り響いていた。警報を耳にした航宙隊の隊員は我先にとハンガーに飛び込み、己の機体に駆け込んでいく。

慌しく出撃の準備が進められる中、撃震のコックピットの中で各隊は手短にブリーフィングを済ませる。緊急発進スクランブルとあっては長々と話をする余裕も無い。

準備の終了した隊から発射カタパルトにつく。腰部スラスターに火を灯した撃震が一機、また一機と光の軌跡を描きながら宇宙空間へと吸い込まれていく。整備員や誘導員、発艦士官が敬礼してそれを見送った。

安土航宙隊に所属するMS部隊、第13航宙戦隊隷下のMSが続々と発進する。撃震1個連隊と瑞鶴1個大隊が漆黒の宇宙を翔けていく。

 

「白き牙ホワイトファングスマムより白き牙ホワイトファングス各機、領宙に接近中の部隊はザフト機動部隊と判明、数はナスカ級24!そしてこちらの識別表に無い未知の新鋭艦アンノウンが3!現在、敵艦隊の位置は二の丸より距離10000オレンジ42マーク71デルタです」

安土の司令室にいるCPオフィサーが状況を報告する。

尚、二の丸とは、L4宙域に複数存在する日本の宇宙要塞である。本丸であるL4コロニー郡を囲むように配置されたため、中世の時代の曲輪に準えて命名された。

 

「またザフトが相手か……」

第13航宙戦隊隷下、白き牙ホワイトファングス中隊を指揮する篁唯依中尉は愛機である橙の瑞鶴のコックピットでCPから送られた敵の情報を反芻した後に呟いた。

彼女は4ヶ月程前にもザフトMS部隊と交戦した経験を持っている。その時の相手はMS4機であったが、今回の敵はおそらく1個連隊以上だ。こちらにはコロニー防衛隊とあわせれば2個連隊分のMSが存在するため、数の上では優位に立っていると言えるだろう。

だが、唯依は不安が拭えなかった。ザフトもデブリベルトでの戦いで日本の戦力を痛感したはず。それにも関わらず今ここで戦端を開いたからにはそれなりの理由があるはずだ。死中に活を見出すためであろうか、それとも日本軍を相手にしてなお優位を取れる秘策があるのか。

唯依は意識の片隅にそれらの疑念を抱いたままザフト艦隊へと向かっていった。

 

 

 

「レーダーに感あり!距離6000グリーン37マーク28ブラボー。熱源照合……敵機特定!ゲキシンです!」

観測員の報告を聞いたバルトフェルドはその余裕のある態度を崩さずに命令を下す。

「ニイタカヤマノボレ一二〇八ってところかね?MS隊、発進しろ!!最初から手を抜くなよ!エターナル級各艦はミーティアを準備しろ!!」

バルトフェルドの命令に従ってナスカ級各艦からMSが発艦する。そしてエターナル級からは他のMSとは異なった意匠のMSが発艦していた。そしてそのMSはエターナル級の艦首から分離した巨大なユニット――ミーティアに接続する。エターナル一隻にミーティアが2基搭載されているために、この場では6機のミーティアが存在するのである。6機のミーティアによる編隊は敵対する勢力になんとも言いようが無い威圧感を与えている。

 

「ミーティア、装備完了!!」

「MS隊、発艦完了しました!!」

「安土より戦艦が発進します。艦影よりフソウタイプと確認。後1000でフソウタイプの射程距離に入ります」

次々に入ってくる報告を受け、バルトフェルドは不敵に笑う。その目つきはまるで獲物を狙う虎のそれであった。

「MS部隊、編隊を崩すなよ。距離5500で射撃を開始しろ。さぁて諸君、戦争をしに行くぞ!!」

四肢が欠けようともその強き心は欠けず。虎が天の海原に咆哮した。

 

 

「三雲司令、砲撃準備、完了しました」

砲雷長から報告を受けた三雲は未だに鼻息が荒かった。

「3分で灰にしてやる!!」

彼は日本の誇る戦艦の力を信じていた。扶桑の主砲が当たればザフトの巡洋艦はまず耐えられないのは確定しているのだ。そして彼は不敵な笑みを浮かべながら口を開いた。

「主砲照準、敵の新鋭艦α1!!いいか、母艦からやれ!カトンボなど気にするな!やつらの火気ではこの距離で当ててくることはまず無いからな。それにこの扶桑の装甲はそう簡単に破られはせん!」

「了解。主砲照準、敵の新鋭艦α1!!いつでも撃てます!!」

三雲は砲撃準備完了を砲雷長が告げた後、唾を飲み込んで一呼吸おいた。そして肺に目いっぱい空気を取り込み、声を張り上げる。

「撃てーー!!」

扶桑は第二宇宙艦隊第3戦隊の僚艦、山城と共に第一斉射を放った。4基8門の砲口から吐き出された8本の奔流が敵艦隊にむけて一直線に延びていく。

しかし、その奔流は敵艦隊に近づくにつれて細くなっていった。結果、細い奔流が1本ナスカ級1隻に命中するも、それはナスカ級の船体を大きく揺さぶっただけだった。

 

「どういうことだ!?何故ビームが弱体化したのだ!?」

三雲は大きく目を見開いてCICのメインモニターを見つめた。目前で起こった現象に驚きを隠せない。

参謀たちも驚きの叫びをあげる。

「アンチビーム爆雷が散布されたのですか!?いつの間に!?」

「ナスカ級にはそのような動きはなかったぞ!!」

「だが、実際にアンチビーム爆雷によるビームの減退が起こっているんだ!」

 

CICが混乱する中、第二艦隊参謀長の立花泰三准将が声をあげた。

「司令!!ザフトのMS部隊の航跡に添う形で磁界を持った粒子が放出されています!!」

「何だと!?どういうことだ!?」

参謀らと三雲の視線が立花に集まる。

「彼らはMSに粒子噴出装置をとりつけたんです!先行したMS隊の後方にいる敵艦隊はアンチビーム爆雷の幕の裏にいることになります。これではビーム兵器は役に立ちません!!」

三雲は苦虫を噛み潰したような表情をする。このままでは戦艦の最大の売りである長距離砲撃ができない。しかも、鈍足の扶桑型戦艦ではアンチビーム爆雷が散布された宙域を迂回しようとしても時間がかかる。その間にこちらよりも速度に勝るザフト艦隊は悠々と移動できるだろう。

 

「敵MS部隊、接近!!我が方のMS部隊と交戦を開始しました!!」

参謀達が頭を抱えている中、オペレーターの報告が飛び込んでくる。

 

ザフトの第二の矛先が日本の防人と干戈を交えた。

 

 

 

『扶桑』型戦艦

竣工:C.E.64 11月8日

同型艦:『山城』

 

全長 318.5m

全幅 52.6m

 

核融合炉搭載

 

兵装

200cmエネルギー収束火線連装砲4基8門(1基は艦底部)

45口径36cm電磁単装砲16基16門(4基は艦底部)

55mm機関砲8門(CIWS)(2門は艦底部)

VLS(16セル)×2

SSM発射筒4連装1基(艦底部)

 

大日本帝国が竣工した宇宙戦艦。

金剛型のコンセプトが通商破壊と戦闘時の敵巡洋艦の撃破であるのに対して、扶桑型のコンセプトは敵主力艦の撃破である。

計画が持ち上がった当時金剛型巡洋戦艦に対抗可能なネルソン級戦艦が次々と竣工し始めており、速力を重視して装甲を薄くした金剛型巡洋戦艦では敵主力艦との砲撃戦において不利であったため、竣工された。

故にCIWSやVLSが少なく、対艦打撃力が強い主砲副砲が充実している。ただし、将来的な航空機の火力の増大を見込んで、単装砲を対空火器に換装できるように設計段階で余裕を造ってある。

本艦以前の主力戦艦である『河内』型戦艦に比べると、防御力、速力ともに大幅に向上している。

金剛型以上に艦底の装甲は厚い。

 

PAー68『彩雲』

全長19メートル

外見はウルトラマンティガに登場する月面基地ガロワの飛行艇

 

宇宙軍が採用している哨戒機。

元となった機体はA-67対艦攻撃機。多数の観測機器を搭載し、日本のコロニー周辺を常に巡回している。

今回安土のレーダーでは感知できなかったザフト艦隊を捕捉できたのはこの機体に搭載されている各種高性能センサーと、それらの情報を整理する優秀な情報処理プログラムのおかげであった。

自衛用にASM最大4発装備可能。


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