機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-16 力の差

 C.E.71 5月6日 地球連合軍 アラスカ基地

 

 武は撃震S型のコックピットで最終調整を行っていた。

「各部の反応も電磁収縮炭素帯の張度もOK!行けるぜ!!」

撃震を固定しているアームロックとボディアームが開放される。武はハンガーのゲートが開放されたことを確認し撃震を歩かせる。ハンガーの外をでたところで管制から連絡が入った。

「シルバーブレット01、健闘を祈る!!」

「了解!!シルバーブレット01、白銀武、いくぜぇ!!」

武の駆る撃震は大地を蹴り飛び立った。目的地は演習場だ。

 

 演習場では既に対戦相手のハイペリオンMPが待機していた。武が着地すると、ハイペリオンMPが起動した。どうやら、向こうも準備万端なのだろう。ハイペリオンMPから通信が入った。

「覚悟しろよ日本人、我等大陸の英知を前に跪かせてやるよ!!このアルテミスの荒鷲、バルサム・アーレンド様が直々になぁ!!」

肩にペイントされた撃墜マークは7つ、おそらくこれはMAで撃破したジンの数だろう。未だに連合のMSはストライクを除き実戦投入されてはいないはずだ。パイロットの口調からは自意識過剰で野蛮な印象を受けるが、恐らく自分の戦果に裏打ちされた自信なのだろうと武は推測した。

だが、武はアルテミスの荒鷲などという二つ名を持つパイロットのことなど聞いたことがない。ジンをMAで7機も撃墜したことがあるのなら当然プロパガンダに使われているはずなのだが。

 

 そんなことを考えているうちに演習の開始を告げるブザーが鳴った。

この演習場は見晴らしのいい地形を想定しているため、遮蔽物は一切存在しない。遮蔽物のある市街戦を想定した演習はまた後日の日程に組み込まれている。

武の感情は昂ぶっていた。今日は各主力MS候補対抗の対MS戦闘演習――ブルーフラッグの初戦、ユーラシア連邦のハイペリオンMPとの演習だ。ここで勝利して勢いを付けたいところである。というか、一度でも撃震に土がついたら魔女の大釜にくべられてしまうだろう。彼には勝利以外許されていないのだ。

 

 「いくぜぇ!!」

武はフットバーを踏み込み大空に跳躍した。それに対してハイペリオンMPは装備している2丁のビームマシンガンで弾幕を張り迎撃する。しかし、ビームマシンガンによる攻撃を腰部スラスターと脚部に追加されたスラスターを巧みに操ることで回避していく。光線級の支配する空を翔けた彼にはこの程度の弾幕を潜り抜けることはどうということもない。演習のため実際にビームは発射されているわけではなく、JIVESによって映し出されているだけなのだが。因みに今回の演習ではビームサーベルやビームライフルを含めたビーム兵器は各機のモニター上での再現に留まっているが、実弾はペイント弾に換装されているためにその衝撃は変わらない。

武は高度さを生かして加速し、ハイペリオンMPに突っ込んでいく。今回武が選んだ装備は突撃前衛ストーム・バンガード、彼の最も得意とする兵装である。このポジションは攻めて攻めて攻め続けることに意義があるのだ。攻撃こそが最大の防御とはこのポジションにおける真理である。今の武はただ前に突き進む暴風と化していた。

武はハイペリオンMPに長刀を振り下ろす。しかし、それは目の前に展開された光の壁によって防がれた。装甲した光アルミューレ・リュミエールをハイペリオンMPは使用したのだ。そして光の盾によって斬撃を阻まれたために後退する武に追い討ちをかけるようにビームマシンガンを光の盾の内側から連射する。

盾を構えて武は防ぐが、反撃することができない。盾の耐久値の判定も危ないところまできている。事前にこの兵器の存在は知らされていたが、厄介なものだと武は思った。盾の内側からは攻撃を通すくせして外からの攻撃はシャットアウト。まるでMSサイズの要塞である。

だが、どうやら機動力は撃震ほどではないらしい。あちらはあの光波防御帯の奥からの攻撃が基本パターンらしい。なるほど、堅牢な防御の奥から銃撃をすれば隙は生まれず圧倒的な優位を誇れると踏んだのだろう。だが、そのドクトリンには穴がある。それを証明してやろう。

 

 武は腰部スラスターを全開にし、匍匐飛行でハイペリオンMPに再び迫る。再びビームの雨を浴びるが、そこで武は盾をハイペリオンMPの頭部目掛けて投げつけた。ハイペリオンMPのメインカメラの視界が盾によって一瞬ではあるが遮られる。だが、その一瞬で十分だった。

武は操縦桿を左に思いっきり倒した。機体は加速を保ったまま左に急旋回する。そしてハイペリオンMPの真横を通過した瞬間、撃震のガンマウントが起動し、120mm弾の描く太い曳痕がハイペリオンMPの腹部に吸い込まれていった。機体の前面にしかアルミューレ・リュミエールを展開できないハイペリオンMPにそれを防ぐ術は無い。着弾を意味する黄色い塗料を左半身にかけて全面に被ったハイペリオンMPが着弾の衝撃で姿勢を崩したのと同時に演習終了を告げるブザーが鳴り響いた。

 

 わずか3分で決着がついたことにアクタイオン社の技術陣は呆然としていた。ハイペリオンMPのコンセプトは無敵の防御で敵の攻撃を遮断し、その間に連射性能で他の武装を圧倒するビームマシンガンで攻撃するというものだった。だがそのコンセプトは高機動戦においては相性が悪いということを日本のMSによって明示されてしまったのだ。

ハイペリオンMPの原型となったハイペリオンならば全方位にアルミューレ・リュミエールを展開することで死角を失くすことができた。だが、量産仕様であるハイペリオンMPには全方位にアルミューレ・リュミエールを展開させることはできない。そうなれば機体一機あたりの単価が上がってしまうからだ。

 

「くそ!くそが!なんだよこれは!欠陥品じゃないのか!?」

ハイペリオンMPから降りたバルサム・アーレンドは技術陣に詰め寄った。

「前から言おうとは思っていたがな、なんであんなに反応が鈍いんだ!!回り込まれたらおしまいだろうが!そんなことも分からないで私をこのMSに乗せていたというのかね!?」

はっきり言ってクレームだ。彼はこれまでに幾度もこの機体に乗っており、シミュレーションも幾度と無くこなしていた。つまり彼は機体のことをよく知っていたはずなのだから。まぁ、実際にはいつもアルミューレ・リュミエールの防御力をあてにした遠距離戦闘ばかりしており、近接戦闘等ほとんどやってはいなかったのだが。それゆえ今回のように近距離戦闘が起こることなど全く予期していなかった。だが、彼にしてみれば自分が恥をかいたことが許せないのだろう。このまま延々と技術陣に怒鳴りたてていた。

 

 当り散らすバルサム・アーレンドを横目に整備班は機体にとりついてデータを整理し始めた。まだ、チャンスは残っているからだ。明後日に予定されている大西洋連邦のストライクダガーとの対戦に、6月に実施予定の小隊対抗戦で勝利すれば、ハイペリオンMPの評価を上方修正することができると考えているのである。

 

 因みに、バルサム・アーレンドは武の予想していたようなエースパイロットではない。肩にペイントされた撃墜マークは全てシミュレーター上での記録だ。さらに二つ名も自称でしかない。噂では「エンデュミオンの鷹と並ぶ存在になる」という決意表明だそうだ。しかも、パイロットとしての素質にはムウと雲泥の差があることを彼は理解できていなかった。

そんな三流パイロットがどうしてブルーフラッグに参加できたのかといえば、彼の古巣の上司が彼をパイロットにするようにごり押ししたたからだ。彼が所属していたのはユーラシア連邦の宇宙要塞、アルテミスだった。その司令官、ジェラード・ガルシア少将はCATシリーズに深く関わっており、自分の基地のパイロットに活躍させることで自身の評価を上げようと目論んでいたのだ。多少腕の悪いパイロットでもアルミューレ・リュミエールさえあれば負けることは無いだろうと高を括っていたが、彼の想定は甘すぎたのである。


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