機動戦士ガンダムSEED ZIPANGU   作:後藤陸将

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PHASE-14 帝国の守り

 C.E.71 4月21日

 

 

 大日本帝国 内閣府

 

「ザフトの大規模作戦の発動が間近になっているようです。各地で動きが慌ただしくなっているとの報告が入っています。恐らく早ければ5月はじめには作戦が実施されます」

会議の冒頭に発言したのは辰村だ。

 

「現在の戦況にどう影響しうるものだと情報局では分析していますか?」

奈原が尋ねる。

 

「諜報活動の結果、パナマを狙う可能性が高いと分析されています。パナマ基地が狙われた場合のシュミレーションを防衛省のほうでしているそうなので、そちらの報告を吉岡大臣、お願いできますか?」

吉岡が言った。

「現状、パナマには大西洋連邦の陸軍の主力部隊が配置されています。ザフトの攻略部隊の規模は現在各地で用意されている物資の量からの推測ですが、軌道降下部隊が二個大隊、ボズゴロフ級潜水母艦が擁する強襲揚陸部隊が二個連隊、上空支援部隊が二個大隊に及ぶという試算が出ています」

 

 吉岡が試算した戦力規模に閣僚達は絶句した。ザフトの一作戦あたりの投入兵力では過去最大の規模である。

「……それだけの規模とは……防衛大臣、この作戦に投入される戦力はザフトの地上戦力のどれだけに相当するのかね?」

「およそ4割は投入される計算になります。ザフトはこの作戦の成功にかなり力をいれています。彼らにとっての天王山といっても過言ではないでしょう」

「連合は守りきれるのか?」

「防衛省の予測では守りきることも可能という結論が出ております。その理由は大きく分けて二つあります。一つは、パナマに展開されている連合の戦力規模です。パナマにはリニアガンタンクをはじめとした陸戦兵器を多数配備しているほか、連合初のナチュラル用MS……GAT-01ストライクダガーを最優先で配備しているようなので、現在パナマは連合で最強の基地といっても過言ではありません。二つ目はMSの性能差です。このストライクダガーはビームライフルを採用しており、ザフトの主力MS、ジンがいまだに実弾兵装しかないことを考えるとMSに質では連合に分があると判断されたました。無論パイロットの技量の差はあると思いますが、我が国の提供したOSの性能を考えると、ザフトのパイロットの力量に遠く及ばないということはないといってもいいでしょうし」

吉岡ら防衛省の予想を聞いた澤井は腕を組み考え込む。

 

 その間に五十嵐が辰村に問いかける。

「辰村局長。確かあなたは以前の会議でザフトがパナマを襲撃するにしては不自然な点がいくつか見られると仰っていましたね。その点についてなにか新しい情報は入ってきていませんか?」

「残念ながら、何も情報は入ってきていないんです。すみません」

辰村は申し訳なさそうな表情をしていた。

 

「いや、辰村局長。気にすることは無い。君達情報局の能力は認めている。反省することもない」

澤井が言った。

「そういえば、防衛大臣、例の新型戦艦がもうじき竣工するそうだが」

話を振られた吉岡が笑みを浮かべる。

「竣工は明後日です。報道陣もよんで大々的に報道します。それまでは艦名は秘密となっております」

「確か、新型の推進システムを採用したと聞いているが?」

「マキシマオーバードライブという新型機関を搭載しています。理論上は巡洋艦以上の速力を発揮可能です」

「……この戦艦の存在が明るみになることでL4を狙う勢力に対する抑止力になればいいんだがな」

澤井は天を仰いだ。

 

 元々澤井は武力による威圧を好む人間ではなかった。だが、彼は自分の好き嫌いを臣民の命を左右する政治の場に持ち込むような俗物でもない。

それが必要であるならば武力の使用も容認する政治家としての判断力を有した人物なのだ。

 

 

 

「外務省からも一つ報告があります」

閣僚の視線が千葉に集まる。

「アラスカでの国際MS演習についての情報が集まってきましたので報告します。実施日は5月5日です。大西洋連邦からはストライクダガー、アクタイオン社からはハイペリオンMPがそれぞれ参加するとの公式表明があったとのことです。また、この演習を地球連合加盟国に公表する用意が既に整っているとの報告もあります」

 

 吉岡が言った。

「既に先方は準備万端ということですか。我が国の方もパイロットに都合もつけましたし、整備体制も整えつつあります。明々後日にはアラスカに向かうと聞いています」

「勝てるといいですな。勝利すれば我が国のMSが連合内の市場に食い込むチャンスが生まれますし」

榊が笑みを零しながら言った。

 

 この演習は帝国の軍需産業にとってのビジネスチャンスとなりうる。榊はそう考えていた。元々は大西洋連邦の企業に対する軋轢を生む可能性があったMSの輸出などだれも実現するとは考えなかっただろう。

しかし、ユーラシア連邦が現場との意見対立を恐れて演習によるコンペを行いたいと打診してきたことから好機が生まれた。こちらから積極的に売り込んだわけでもないので軋轢もそれほど生まずに大きな取引先を得られる機会が到来したのだ。閣議のあとも榊の顔には笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 C.E.71 4月23日

 

 L4 大日本帝国領 宇宙軍工廠コロニー『天之御影』 F4ドッグ

 

ドッグから出てきた巨体を初めて目にした報道陣は息を呑んだ。その巨体はどこか扶桑型戦艦を彷彿とさせたが、扶桑型のものよりも一回り大きな砲身はまるで凶悪な牙のように見えた。その牙の数も12本、扶桑型の8本よりも多い。

艦のいたるところに設置されたイーゲルシュテルンも天を突いている。

 

 大日本帝国宇宙軍史上最大、最強の戦艦から感じる威風に羽立進大佐は身震いしていた。

大きさだけでいけば大西洋連邦のアークエンジェル級ほどではない。しかし、あの艦が優美な天使だとすればこの艦はまるで鎧を着た雄雄しい武士のようだった。

 

「なんとも頼もしい艦だな。宇宙軍の軍人としては一度は乗ってみたいものだ。君がうらやましいよ」

いつのまにか羽立の隣にいた古雅が話しかけてきた。いつものように顔の表情は厳ついが、口調の節々からは彼の高揚が感じられた。宇宙軍一筋で生きてきた彼にとってもこの艦はとても魅力的に見えたようだ。

「は……あの船に乗れることは自分の生涯の誇りになります」

羽立は練習艦隊での任務の成功を受けてこの新鋭戦艦の艦長を拝命したのである。といっても彼自身は古雅ら歴戦の将軍をさしおいて艦長に任命されてことで恐縮しているのだが。

 

「しかし、この艦が予定を前倒しして竣工するということは、状況が悪化しているということです。……もしかすると、実戦もそう遠くないかも知れません」

羽立はこの艦の早期戦力化の裏にある意図を察していた。

本来の予定であればこの艦が竣工するのはC.E.72になるはずであった。宇宙軍の上層部としてはMSを運用できる空母の大量運用がこれからの時代の主流戦術になると睨んでいたためである。優先されて建造されるのは空母のはずだった。

しかし、アークエンジェル級の竣工はそのドクトリンを揺るがした。MS運用能力と戦艦以上の火力、防御力を併せ持ったこの艦の活躍は戦艦のこれからのあり方にも影響を与えた。

ザフトのMSが数機がかりで攻撃を加えても耐え、その戦艦に匹敵する火力で後方の敵巡洋艦にまでダメージを与える装備を備えたこの艦への対抗策が軍事上必要になったのである。

そこで日本が考え出したドクトリンが艦隊決戦である。MSは後方の母艦で運用し、敵MS戦力を拘束する。その間に艦隊戦を行い敵艦を撃破するという寸法だ。元々新星や世界樹での攻防戦でも戦艦はそう簡単に沈むことは無かった。指揮系統の集中するブリッジを攻撃されて戦闘不能となる例は多数あったが。そこでこの艦は指揮系統を装甲の集中した区画に設置した。指揮系統さえ生きていればMSによる攻撃を強引に突破して敵艦との砲撃戦に持ち込めるというわけである。

 

「戦争が近いか……一臣民としては主上の御心を煩わせることは心苦しいが、軍人としては武者震いするところでもあるな。」

「やはり、平和に越したことはないのですがね。今回の公表によってこの艦の存在が戦争への抑止力になってくれればいいのですが」

 

 二人はそれからも暫くこの艦を見つめていた。

 

 

 

 この日、全世界に向けて大日本帝国宇宙軍の新鋭戦艦の存在が公表された。

 

 

豊葦原千五百秋瑞穂国を戦火から守る新鋭戦艦、『長門』の竣工だった。


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