ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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第二十八話 夜明け

通用しない――――――デストロイに対して装備されていた武装は殆どが未だに有効打を与えるに至っていない。インパルスは既にソードシルエットに換装して攻撃を、グフもビームソードやスレイヤーウィップで接近戦を仕掛けようとするが、そもそもデストロイが接近を許さない。セイバーやフリーダムの収束ビーム砲もIフィールドの前では形無しだ。

 

『こいつらッ!』

 

時間が無い――――――すぐにでもエネルギーが尽きたとて不思議ではない。フリーダムは核動力故にエネルギーの残量を気にする必要は無いが、他の三機は別だ。セイバーとインパルスならデュートリオンビームで補給出来るのだが、相手がそれを許さない。

しかも、ザフトの部隊が壊滅させられた戦況から連合の増援が辿り着く。ウィンダムやダガーLが殆どであり、来た端から撃ち落してはいるもののその数は増しつつあった。

 

『厄介な野郎だぜ!?迂闊に近づくことも出来ねえッ!』

 

近づけない――――――これが最も厄介だ。何せ砲撃を行おうとも効果が無いのだ。一方的にあちらから攻撃が可能であり、近づけさせさえしなければいいのだ。バッテリー切れも望めない。先にエネルギーが尽きるのは確実にミネルバの三機のMSの方だろう。そして、そうなればフリーダム一機ではデストロイに届かず、遠くないうちに撃破されることが目に見える。

 

『いい加減にッ―――ウアァァッ!?』

 

『シン!?』

 

デストロイのスーパースキュラがインパルスを撃ち抜く。地上を移動せざる得ないソードシルエットでは回避できる場所も限られ、攻撃を受けてしまう。

 

『くっそお、ミネルバ!チェストフライヤーを!それに、フォースシルエットも!』

 

インパルスは傷ついた上半身を切り離し、チェストフライヤーを取り付け、対艦刀エクスカリバーを持ったままフォースシルエットに切り替える。地上戦ではやはり無理があったと判断したのだろう。有効打を与えれる武器は持ったままで、空戦に切り替える。

 

「ハハハ、ハハッ―――死ねよッ!!」

 

砲撃によって街が更に燃やし尽くされる。母艦であるミネルバもアークエンジェルも大型MSの火力を前に迂闊に近づくことが出来ない。

 

『一体どうやって倒せば……!』

 

キラはフリーダムのレールガンを出来る限り胸部や頭部を狙って放つ。武器をつけている部分や精密機械が多い場所を狙えば効果があるかもしれないという考えからだ。しかし、こういった方法でまともなダメージを与えれるのはフリーダムだけだ。ミネルバのMSはどの機体も射撃武装がビーム兵装である。唯一ハイネのグフの取り外し可能なガトリングは自由に実弾を放てるが、既に弾薬など撃ち尽していた。

接近をしようと幾度と無く攻撃を繰り返すが、デストロイへの接近は何度も繰り返して数えるほどしか成功していない。それとて陽電子リフレクターによって防がれ、ミサイルや砲撃による迎撃によって離れざる得ないものだった。

 

「落ちろォォォ――――――!!」

 

砲撃が放たれる度に被害が広がる。最早、デストロイのパイロットは正常な判断能力も欠けているのだろう。味方であるはずのウィンダムやダガーLの部隊にまで被害が及び始める。おそらくそれを止めれるであろうネオもアウルも今は戦場を離れている。より正確に言うならネオは母艦に帰還せざる得ない状況であり、アウルはアビスを破壊されてベルリンの一角で撃ち落された状況だ。

一歩間違えれば自身の戦友や上官すらも巻き込むような攻撃を放ち続けるスティング。目は充血し、思考は戦闘に殆ど割かれている。以前の冷静さを持った彼と見比べ、明らかに異常の域と言えるだろう。

 

「死ね、死ね、死ねェェェェッ――――――!!!」

 

何故彼がこうも変わったのか?記憶を消去したことが原因なのか?或いは、別に要因があるのかもしれない。しかし、今は戦闘が続いており、誰もそんなことに思考を割く余裕は無い。

 

『アンタは、なんでそんなに簡単に無抵抗な人たちを、殺せるって言うんだよォォォ―――!!』

 

既に覚醒していたキラやアスランのように、シンもSEEDを覚醒させる。エクスカリバーを分離させ、片方のエクスカリバーを投げつける。無論、あくまでそれは囮であり、インパルスはそのまま突撃するように攻撃を開始した。真っ向から攻めようとしたインパルスに反撃を与えようとするデストロイ。しかし、そうやって注意を引くことこそがシンの本当の目的だった。

ひきつけられたデストロイは注意がインパルスに偏り、セイバーが後ろから一気に襲い掛かる。その腕にはインパルスが投げつけたエクスカリバーが握られており、それはシンとアスランによる見事な連係プレーと言えた。咄嗟に気づいたデストロイは外していた片腕を使って迎撃するものの、大きく傷をつけられる。この戦闘において初めてといってもいい致命傷だった。

 

『ナイスだぜ、二人とも。巧いじゃねえか!』

 

そんな中で彼等のその異常ともいえる覚醒についていけているハイネは、ある意味では彼ら以上に卓越した技量を持っているのだろう。しかし、如何にハイネが優れていようとも、グフの方がその要求された行動に追いつくことが出来ずにいる。

セカンドシリーズであるセイバーやインパルスはギリギリで彼等の要求に応えていたが、グフは遂に悲鳴を上げた。

 

『クソッ、しまった!?』

 

『ハイネッ!』

 

フライトユニットの不調か、修理に不具合があったのか、はたまたエネルギー不足によるものか、それとも他に要因があったのか。何にせよ、グフは墜落をしはじめ、動きを明らかに鈍らせる。そして、そんな相手を見逃す筈も無く、デストロイは一気に砲撃を集中させる。

 

『グオォォッ!?』

 

爆発が起こる。一瞬、誰もがハイネが落とされたと思った。しかし、攻撃が当たる直前にシールドを構えたグフは何とか攻撃を防ぎきっていた。とはいえ、腕は爆発し、足は溶かされ、機体の何処を探しても無事な所など無い。

 

『ッ痛、まあ、俺の運もここまでって事なのかね?』

 

グフはまともに動くことも出来ず、地上に落下する。衝突するグフ。普通に考えれば即死だ。高いところから何の姿勢制御も取れずに壊れた機体で地上に落ちる。そのままスクラップの仲間入りしてもおかしくなかった。

 

『ハイネさん!応答を、ハイネさん!』

 

ミネルバでメイリンが必死に呼びかける。しかし予想に反してハイネは生きていた。

 

『生きてるみたいだぜ……無事とは言いがたいがな……』

 

奇跡的なことだといえよう。しかし、グフは最後まで主であるパイロットを守りきった。ハッチを開き、外の様子と共にグフの様子を見るハイネ。最早完全に機能を停止したグフ。壊れた様子を見る限り、修理も不可能だろう。

 

「ありがとよ、俺を守ってくれて――――――」

 

ハイネの愛機、オレンジカラーのグフはこのベルリンの地で最後までパイロットを守るという務めを果たし、完全に沈黙した。

 

 

 

 

 

 

ラー・カイラムがベルリンに辿り着く。しかし、MSの補給は終了しきっておらず出撃できる機体がない。いや、出撃させることも可能だろうがはっきり言って戦力にならない。

 

「どうする気で?」

 

クラウがグラスゴーにどうする気なのかを尋ねる。

 

「砲撃戦を仕掛ける。味方MSには当てるなよ。この艦なら多少の攻撃にも耐えれる」

 

艦が敵を引き付ける役割を負うと決断する。グラスゴーは元々MSの性能を生かす戦い方が得意だ。故にMSを有効的に行動させる為にラー・カイラムは囮となる。

 

『アレは!?』

 

シン達もラー・カイラムの存在に気付き、驚く。目の前のデストロイを相手に艦で迂闊に近づくなど自殺行為だ。

 

「ジャミング弾発射。ミサイル用意、一番から三番発射。主砲三射一斉発射!」

 

次々と指示を出すグラスゴー。どの攻撃もデストロイに対して有効打になり得なかったが気を引くには十分だといえた。

しかし、ラー・カイラムといえど戦艦ではデストロイを相手取るのは不可能だ。その結果、反撃を受ける事となる。

 

『ラー・カイラムがッ、あそこにはステラが……ッ!』

 

シンはこのままではステラが死んでしまうと、そう思い必死に攻勢を仕掛ける。

 

『シン!?迂闊だぞ!』

 

一気に攻撃に出たインパルスはデストロイの砲撃を浴び撃ち落される。脚部や片腕を失うインパルス。

 

『畜生ォッ!?』

 

ここで、終わるのか?シンはそう自問自答する。ステラを救えず、また誰も助けられないのかと……。

 

『終わって、堪るかァッ―――!!』

 

(シン……スティングを、止めて……)

 

その声を聞いて動きを止める。あの声は確かにステラだ。そしてステラはこのデストロイのパイロットを止めてくれと、そう言ったのが確かに聞こえた。幻聴なのかもしれない。でも、自分には確かに聞こえたのだ。

無理矢理体勢を立て直す。機体が壊れようとも構わない。この身が果てようとも構いやしない。

 

『俺は―――ステラを守るッ!!』

 

「何でだよ!何で生きていやがる!?」

 

スティングは完全に倒したとばかりに思っていたインパルスが向かってくることに驚愕する。そして、エクスカリバーの断刀はデストロイを貫いた。

 

「あッ、がッ!?」

 

スティングは意識が消え去る瞬間、生意気そうな青髪の少年とぼんやりとした金髪の少女が目に浮かぶ。

 

(誰だったかな……)

 

記憶が混濁して思い出せない。だけど、自分にとってとても大事な人間だったと思う。ただ何処か頼りなさげな二人の様子を見て、しょうがねえなと思って引かれていく手に引っ張られていった。

 

 

 

 

 

 

「終わったのか……」

 

戦闘が終わった。デストロイはインパルスによって止められた。エクスカリバーはコックピットを貫いていたのでパイロットは即死だろう。

完全に沈黙したデストロイ。しかし、街は焼かれ、無残な戦争の傷跡を残すばかりだ。

 

「俺たちは守れなかったのか……」

 

アスランは己の無力さを責める。無意味だったとは言わない。だが、全てが遅すぎたんだ。結局、その場限りの火消しをしただけなのだ―――そう自分達を責める。

 

「アークエンジェルも撤退していくんだな……」

 

追える余力はない。向こうも余力はないだろうが、それはこちらも同じなのだ。

 

「―――クソッ!」

 

あの大型兵器が出てくる前に何とかできなかったのだろうか。甘い理想論だって事は分かってる。だけど、また同じことが繰り返されたとして、同じように駆けつけて、同じようにその場の火消しだけして、それでまた出てしまった被害と犠牲を見て悔やむのか?

 

――――――また間に合わなかった、と。

 

それこそ、本当にただのヒーローごっこじゃないか……。

 

「俺は、本当はどうすれば良かったんだ……」

 

艦に帰還して全員の様子はその戦果に浮かれるよりも先に疲れが見えていた。シンも疲れが出ているようだ。ロッカールームで全員が椅子に座るかロッカーにもたれかかっていた。

 

「シン……その、良くやった。あれを止めることが出来たのはシンのおかげだ」

 

「そう、ですね……ありがとう、ございます―――」

 

シンも手放しに喜べるような状況ではないのだろう。だが、戦果は教えるべきだ。

 

「俺たちは、何を守れたんだろうな……」

 

「仲間が守れただけでも満足するべきじゃないかな?」

 

「クラウ―――来てたのか?」

 

ラー・カイラムからこちらの損傷した機体の修理を行う為に彼が来たらしい。作業はまだ始まっていないのかこちらの様子を先に見に来たようだ。

 

「守れたものは決して少なくないよ。あのままアレが暴れまわってたら他の地域にだって被害が及んだだろうしね。気にするな、とは言わないが考え込みすぎるなよ」

 

クラウはそのまま部屋から出て、機体の修理の為にマーレに会いにいく。

 

「マーレ、来たよ。修理とフライトユニットの装備でいいのかい?」

 

「ああ、もしかしたらこれがコイツの最後になるかもしれんがな」

 

修理しているゲルググを見上げる。機体はマーレのを含めて殆どが急いで修理している。マーレのゲルググも修理されている機体の一機だ。ミネルバ自体を含め相当どの機体も疲弊していることは明らかだろう。

マーレは本来ミネルバクルーではない。そのため彼独自に新たに受けた命令なども存在している。そして、彼は次の任務を最後に新たな機体の受領となっていた。故に彼はこのゲルググに乗るのは最後かもしれないとそう言った。

 

「ああ、ちなみに次の任務の内容は知っているのかい?」

 

「知らねえし、知る必要もねえだろ」

 

「まあ、そうだね。その内わかる事なんだろうし」

 

そう言って笑みを浮かべながらクラウは作業に戻っていった。

 




ハイネのグフは完全に大破してしまいました。同じ撃墜なのに、何故こうまでクラウとハイネでは違うのか……。

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