ゲルググSEED DESTINY   作:BK201

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お久しぶりです。覚えてる人がいるかどうか怪しいですけど。更新待ってますという感想が来たので、モチベーションが上がって書きました。
雑ですけど楽しんでください。何かまた要望があったら感想に(願望)


IF もしも議長が勝ったら

「うおぉぉぉ――――!!」

 

シンの乗るデスティニーがアロンダイトを振り下ろし、レイの動かすレジェンドに狙いを定める。

 

『当たるものか!』

 

だが、レイはドラグーンを駆使し、シンの動きを制限した上で誘い込んでカウンターを狙うように反撃する。結果、シンはデスティニーの最大の武装であるアロンダイトを失った。

 

「まだッ!」

 

アロンダイトを手放し、右手のパルマフィオキーナを放つ。レジェンドはそれをドラグーン搭載型のシールドで受け止め、反撃の為に右手のビームライフルを構えた。だが、それを読んでいたシンは左手にビームブーメランを引き抜いてライフルを切り裂いた。

 

『チィッ!』

 

「ここだァ!」

 

左手に握っていたビームブーメランをそのまま投げ、手放した左手を伸ばすように構えたままパルマフィオキーナを放つ。既に懐に入ったデスティニーの攻撃をかわすことは出来ない。かといって防御する事も難しく、また仮に防御したとしても後ろから迫るブーメランに断ち切られる。まさにシンの乾坤一擲の一撃。この攻撃を突破する方法は無いだろう――――――そう、機体がレジェンドで無ければ、或いはパイロットが空間把握能力を持つエースパイロットのレイでなければ。

 

「そん、な!?」

 

全方位から撃たれたビーム。レジェンドのドラグーンが数cm、数mm単位の精度で後ろから迫るビームブーメランとデスティニーの左腕を撃ち抜いた。腕が誘爆することもなく撃ち抜かれ、咄嗟にシンは後ろに下がったが、それを読んでいたのか今度は足を撃たれ、必死に抵抗しようとしたシンの努力も徒労に終わるかのごとく、ドラグーンがデスティニーの両腕、両足を破壊した。

 

 

 

 

 

 

「当たれェェェ――――!!」

 

『結局そいつはファンネルもどきなんだよ!』

 

迫り角度を変えて撃ち続けるドラグーンの攻撃を避け、撃ち返し、ビームナギナタを回転させて弾き飛ばす。

 

『まずいぞキラ、このままじゃ……』

 

キラと合流し、共闘していたアスランが現状の不味さを伝える。無論、キラも状況を把握できていない訳ではない。

だが、たった一機の機体が彼らの行く手を阻んでいた。

 

『セイバーをカスタマイズしたのは俺だ。その上で言わせてもらうけど、セイバーのスペックでこのゲルググ相手に勝ち目なんてないさ!』

 

「アスラン、先に行って!!」

 

セイバーに襲いかかったクラウのゲルググのナギナタを両腕のビームシールドで防ぎ、クラウの足止めをしようとした。しかし

 

『足りないね、そのエネルギーじゃ!!』

 

二重のビームシールドを断ち切りストライクフリーダムの両腕も断つ。核融合炉を保有するゲルググ用に造られたビームナギナタはストライクフリーダムのどの武装よりも威力、性能ともに桁違いだったのだ。

 

『キラァッ――――!?』

 

無力化されるストライクフリーダム。ドラグーンやその他武装も完全にその機能を停止させられてしまう。

そして、その数分後。アスランのセイバーもクラウのゲルググの前に倒されるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『く、くそぉ……』

 

『僕達は、こんな所で……』

 

無残にも武装を破壊され、両腕を失ったMS。デスティニーもストライクフリーダムも、いや、それだけでなく反議長派の部隊は多くが既に敗北を喫していた。

 

「最早君達の負けだ。もうすでに君達オーブ、ザフト反逆部隊の主力は敗北した。今ここで降伏すれば命だけはとらないでおこう」

 

一方で、余裕を見せ付けていたのは議長やクラウ、レイの乗るMSだ。議長のナイチンゲールはかすり傷1つ無く、クラウのゲルググも片腕をなくした程度で戦闘に支障をきたすものではなかった。レイはドラグーンの多くを失っているものの、継戦能力という面で見れば先ほどまで戦っていたシンのデスティニーに比べれば随分ましと言えた。

最早、大局は議長派の勝利で決したと言っていいだろう。元々、戦力差が大きく存在していた上に、クラウ・ハーケンの特異な技術力によって機体の性能差が大きく開いていた。特にナイチンゲール、クラウ専用ゲルググ、レジェンドはその機体性能を十全に発揮するパイロットが居たことも要因の一つと言えるだろう。

 

『ギルバート、あなたはこの世界をどうしたいって言うの!』

 

「タリア――――私がしたいことは世界の理不尽や悲しみを少しでも減らす事さ。完全な平等というものはこの世には存在しない。だが、機会こそ平等に与えられるべきだと私は思っている」

 

その言葉に嘘偽りは存在しない。その感情の機微を察してか、機体が大破しているアスランは通信によって問いかける。

 

『議長、貴方の言うデスティニープランはその機会を平等に与えるシステムだとでもいうのか?』

 

「その通りだ。そして、その抵抗勢力である君たちは私に可能性を喰われた。敗者に残されている道はここで恭順するか、世界の悪として断罪されるかの二択しかない」

 

こうなってしまっては投降するしかないのか――――多くの面々がそう思い、諦めの表情を見せる。だが、未だそれに反発する者も当然のようにいた。

 

『そうは、行くかよ!!』

 

ビームサーベルを構えてナイチンゲール突撃するリ・ガズィ。そして、その後ろからビームライフルによって攻撃を仕掛けたマーレのゲルググ。

 

『逃げろ、お前ら!今更諦めんな。最後まで戦え!こいつの創る世界は確かに誰も不幸にならないのかもしれねぇ……』

 

リ・ガズィの攻撃を止めたのはレイのレジェンドが持つシールドドラグーン。マーレのゲルググにはクラウが同じゲルググでナギナタを回転させてビームを弾き対応していた。

 

『だが、不幸でないことが、必ずしも幸福であるというこではない。今はいい、だが、子供の世代は、孫の世代はどうなる?

未来と夢、そして可能性の無い世界で、幸せがどこにあるのだと言う!!』

 

『はなから、デスティニープランで戦争が無くなるなんて根拠もねぇんだしなぁ!』

 

彼等はデスティニープランが戦争を終わらせるきっかけにならないと断じた。寧ろ新たな混乱を生む火種だと。自分たちが行っていることも戦争を継続させている要因であることは理解している。だが、これでは独裁だと、人類の衰退への一歩だと彼らは断じた。

 

「残念だ、君達のような人材はこれから先、大いに役立っただろうに」

 

ネオ――――いや、元をただせばムウ・ラ・フラガである彼は、出会いさえ違っていればラウ・ル・クルーゼと同じようにギルバート・デュランダルの良き友となれたかもしれない。

 

『生憎、テメエとは気が合う気がしねえんだよ!!』

 

『ギルの障害になる相手は、ここで殺す!』

 

皮肉にも、同じDNAの流れを持つ者同士が剣を抜き、相争う。それに続く様に幾ばくかの機体が最後の抵抗とばかりに動き始めた。その多くは呆気なく撃ち落とされ、その儚い命を散らしていく。

 

『クラウ、邪魔をするなら例えお前であってもここで殺してやる!』

 

『お前を殺す、って?殺されちゃうのは君の方だろ、マーレ!』

 

マーレも総指揮を握っているギルバートを執拗に狙おうとするが、その行く手をクラウが塞いだ。こちらも同様に皮肉なことで、マーレの道を広げたクラウがその最後の障害となった。

 

「争うというのであれば仕方あるまい。君たちの未来は運命によって定められた。それは死だ」

 

ネオとマーレ。彼らを含めた何機かのMSが決死隊として敵のエースを抑え込み、その間にアークエンジェルやミネルバは退却した。だが、それも議長にとっては計画のひとつにすぎなかった。

世界にはまだ不穏因子が必要なのだ。議長が固持にデスティニープランの計画を進めようとしても反抗する勢力は確実に存在する事になる。しかし、規模が小さすぎれば社会は軍の存在を必要でないと判断し、軍縮への道は逃れられない。また、散発的な取り留めない小規模の反抗は民衆を巻き込むテロへと繋がりやすい。議長は軍縮の回避と敵を一致団結させるために旗印となる象徴をあえて残そうとしていた。

 

「君達は今日をもって世界の敵となる。タリア、私は君だからこそ信頼してる。それは、スーパーコーディネーターのキラ・ヤマトやニュータイプに覚醒しつつあるシン・アスカも同様だ。そう、君達は敵として優秀な人材のままでいてくれることが、このデスティニープランの求める君たちの役割なんだよ」

 

全てギルバート・デュランダルの計算通り――――とまでは言わない。しかし、この勝利によって彼の望んだ世界が創られていくのは確実だった。

 

 

 

 

 

 

~数年後~

 

「今ここに、プラントと地球圏の友和を宣言する。これは私一人では決して成し遂げる事の出来ない偉業である。皆が手を取り合い、認め合い、共に歩むべき友として接することが出来たからこそだ。しかし、この友和の宣言を掲げたにもかかわらず、未だ理解を示さない国も少ないながら存在している。

何故、こうも彼らは自ら固持するのか。人はもとより大きな変化を嫌う。故に保守的になるのもわかる。だが、こちらの歩み寄りを拒絶し、全てを否定する。それどころか、逆に我々に変化をするよう強要し、武器を構える。これでは人類が分かり合える日は永久に来ない――――――――私は、世界を人類から争いを取り除きたいと心から願っている――――――――」

 

ギルバート・デュランダルは世界を一新させた。もはや統治者のいなくなった地球連合は組織としての体を成すことが出来ず、大洋州連合、南アメリカ大陸などの親プラント圏はもとより大西洋連邦の僅かな残党を除いて地球連合はプラント側の支配を受け入れていた。

デスティニープラン提示当初こそ、一部の中立国や反プラント体制を構えてる国家は反発していたものの、ギルバート・デュランダルは、経済的に屈服させプラントの要望を受けざる得ない状況まで持ち込んでいった。勿論、時には武力を持って制圧し、あくまで徹底抗戦を掲げる相手などに対してはザフトの高性能MSが次々と軍の駐在する都市部、軍事施設への直接強襲を行い次々と制圧していった。

そうして彼は世界の頂点にまで、いや世界の統一者として、その地位を上り詰めつつあった。先の演説を終え、残る少ない抵抗勢力の確認をクラウと共に行う。

 

「これで受け入れを拒絶している国家は残す所オーブとスカンジナビア、一部民族規模の集落のみか……かつて拒絶していた国の経済復興支援も着実に進んでいるようだな」

 

デスティニープランは殆どの国で受け入れられた。元々、デスティニープラン実施の資金や技術の提供はプラント側によって、その殆どが賄われている。

そして、デスティニープランとは個人の眠っている才能を引き出す計画である。その成果を出すのが例え初期段階の一部であっても、才能の無い人材と才能のある人材では差があり過ぎた。受け入れなかった者は相対的に退化し、受け入れた者は進化する。強制でなくとも人々は受け入れる。意固地になって否定しても得は少ないからだ。更には、デスティニープランの示す第一の才覚を受け入れない個人レベルの要望を受け入れる体制もあり(人殺しが嫌いなのに軍人への適性が高いなど)、第二第三の才能のある遺伝子情報の提示や、遺伝子に依存しない仕事の紹介をする事で保守的な立場の保証もある程度は行っていた。

 

「大規模な反対派はあの大戦以来、殆ど勢力として残っていませんでしたし、既に多くの国家レベルでの信用も勝ち取っていましたからね。本当にロゴスを上手いこと利用しましたよね」

 

更に言えば、今クラウが口にしたようにギルバート・デュランダルは過去も、そして今までも多くの相手に対して友好的に接してきた。反発、拒絶、怒りをあらわにしてきたのは理由づけが成されているものばかりであり、非常に理性的な判断を下してきていた様に民衆や社会は感じていた。

 

「ふむ、これが最後の戦いになるかもしれないな」

 

「だったら、いい加減新型やゲルググの開発は止めにしません?周りに比べてもう二、三世代くらい差がありますよ……というかこのままじゃマジで過労死する……」

 

「それは受け入れられんな。君の技術は確かに戦争で最も活躍しているが、間接的直接的問わず、世界に大きく貢献している。今更その手を止めてもらうわけにはいかん。というわけでしばらく有給休暇もなしだ」

 

ザフトでは新型のゲルググやエース機の開発が進み、あまりの高性能に開発者自身がその武力の大きさの危険性を議長に直接訴えに出たとも噂されている。勿論、ただの噂である。もう一度言うがこれは噂でしかない。何の証拠もない事実無根の根も葉もない噂である。

 

 

 

 

 

 

「アスラン、この戦いが僕たちの最後の戦いになるかもしれないね」

 

クラウやギルバートがオーブとの決戦を考えていた頃、キラはオーブの岬でそんな事を呟いていた。大戦後も幾度とデュランダルの勢力と戦い続けてきたが、彼らの抵抗虚しく、勢力は徐々に削られていった。

既にオーブでも恭順派と徹底抗戦派に分かれており、あのカガリですら恭順派に理解を示し始めている。キラがいる勢力であるアークエンジェルも常に戦線に曝され、疲弊していた。

 

「こんな弱気なこと言ったら、君やラクスに『今までの犠牲を無駄にする気か』とか『今の歪んだ世界を見て、満足なのですか』って怒られちゃうね。それとも『弱気になるな』って励ましてくれるのかな……?」

 

キラの目線の先、岬の端にあったのは慰霊碑だった。そこにアスランやラクスの名前が書かれているわけではない。だが、キラがそこに向かって声をかけているという事は――――つまり、そういう事だった。

アスランの最後は壮絶だった。SEEDを覚醒させ、獅子奮迅の活躍をし、窮地に立たされた絶望的な状況から多くの仲間やミネルバを救った。腕や足を捥がれようとも諦めず、最新型の敵エースのMSを撃ち落とし、そして最後は多くの敵MSと母艦を巻き込んで自爆した。アスランが居なければ今頃アークエンジェルもミネルバも、そしてキラも生きてはいなかっただろう。

そしてカガリはアスランが居なくなってから衰弱していった。あれほど豪傑だったカガリは今や淑女と言って差し支えない位、気が弱くなっている。最初こそ、すぐに怒りへと変貌し、徹底抗戦を唱えるに違いないと誰もが思っていた。にもかかわらず、結局カガリは落ち込み続けたままであり、その考えも今や保守的になりつつある。進んで民衆の保護を行い、国力を衰退させつつも、オーブ国民を私財を投げ売ってでも守っていた。

今や彼女は国内外問わず、最も民衆に愛されている傾国の美女などと言われていた。

 

「でも、僕は諦めないよ、だって今の世界は明らかに不自然なんだ。歪んでいるんだ。僕の目がそう移してるだけなのかもしれない、僕の方が時代に取り残されたのかもしれない。だけど――――それでも間違っている。そう思うから――――だから、戦う」

 

今まで仕事をこなしていたにも関わらず、才能の適性が無いと判断され、仕事を続けることが出来なくなった人間がいた。才能と自身の望みが一致せず、最後まで反発し、結果心が壊れてしまった人がいた。

世代が変わることで、子供のころから自身の才能によって仕事を決められることを見れば、こんな不幸は起きないのかもしれない。だけど、それが本当に正しいことなのか。キラはずっとそれを疑問に思い続けていた。

 

「総ての罪を背負う覚悟だってある。世界最後の大罪人になるかもしれない。でも、僕は戦う」

 

そう言って、キラはオーブの最後の戦い、本土決戦へと向かう。

 

 

 

 

 

 

「オーブ軍とザフトが正面から事を構えるようです」

 

「そう、でも私達に直接支援できる事はないわね」

 

岩盤周辺に隠れるように居たミネルバでは、オーブとザフトがぶつかるという情報が届いており、艦長であるタリアはそれを聞いていた。

オーブ軍や連合軍残党が抵抗している一方で、ミネルバや反議長派のザフトは表立った活動は殆どしていなかった。元々、前者と比べ戦力が少なかったこともあるが、大戦で敗北した以上、正面から戦って得られる成果は無いと判断したからでもある。

既に反ザフトであることを辞め、プラントに戻った者も多くいた。事実、ミネルバ艦内に居たのは艦長であるタリアと副官のアーサー、残るごく少数の人員しかおらず、進水式にいたメンバーの半分以下の人数で艦を動かしていた。

 

「オーブが勝利するにしても敗北するにしても両方の準備だけはしておいて頂戴」

 

「わかりました」

 

そんな中で彼らが行っていたことは主に地下潜伏と敗残兵の回収及び斡旋行為である。表に出られなくなった彼らはラガシュ基地やギガフロートなどのあまり表になっていない施設で活動し、反議長派の敗北した国家などにいた人々の支援を間接的に行っていた。

当然、議長はそれを知っているのだが、あえて放置している。軍縮を反対する口実として使ったり、施設を攻撃する名目に彼らの存在が役立つからであり、議長自身の手に零れた人々を彼らが救っていたからだ。

 

「ギル……貴方はこうなる事を予想していたというのね……」

 

オーブが亡びれば次は彼らが狙われるかもしれない。だからこそ、彼女のプライベート通信に一通のメッセージが届いていた。

 

《これは君に届ける最後の通告だ。投降しなくてもいい。せめて君の子供の為にプラントへと戻ってくる気はないか?もちろん、悪いようにはしない。君の仕事はこの戦いで終わりになるんだから》

 

反抗勢力の存在――――議長が必要としていた便利な駒。結局は彼らも踊らされた。既にミネルバに残っているMSもニコイチのインパルスと改修して騙し騙し使っているデスティニーだけである。反抗などというのは最早当の昔に無理となった話だ。

その上で、ギルバート・デュランダルはタリアに最後の免罪符を与えようとしたのだろう。或いは、これで自分のものになると思ったのか。

 

「馬鹿な人ね……今ならなんでも自分の思い通りになると思ってるのかしら」

 

タリアは自分の行動に責任を持つために最後までいるつもりだった。他のクルーには悪いが降りてもらうつもりである。タリアは自分の最後を覚悟していた。

 

「全員にオーブ侵攻に関する情報を伝えて。それとオーブでの戦いが終わり次第、全員この船を降りなさい」

 

「艦長、何を!」

 

突然下船するように言われて、真っ先に驚いたのはアーサーだった。これまで何度もクルーは降りている。艦も含めギリギリの人数で動かしているし、何より此処に残っているのは多くが死に場所をミネルバでと決めていた面子だ。

 

「もういいの。わかってるでしょ、アーサー――――私たちの戦いはオーブが戦う時点で終わりなのよ。国家規模で抵抗できる戦力が無くなる時点でレジスタンスは完全にその意味を失う。小規模の戦力では何も変えられないし、何より、これ以上闘っても不毛だわ」

 

敗北宣言――――だが、同時に重荷が取り除かれたようにほっとしていた人達が多かったのも事実だ。

 

「普通に戻れば私達は戦犯者としての扱いをうけることになるでしょうけど、これまでの繋がりを使えば、あなた達ならきっと大丈夫よ」

 

これまでも反逆しつつもプラントへと帰属したい人物をザフト時代のコネやハッキング、金銭などの手段を使ってプラントへ返したり、地球圏に戻りたい人達をジャンク屋や傭兵の伝手を使って親プラント国家や組織へと送り届けた。

その結果、彼らが抵抗するための戦力が少なくなり続けていたのは皮肉だが、指導者となれる人物がいない抵抗戦力で無理に所属させても内部から崩壊するだけであり、その判断は間違いではなかった。

ミネルバにいた彼らがザフトやプラントに戻る事は出来ないだろうが、彼らの能力なら地球圏で暮らす事は十分に可能だと、この数年でタリアはそう感じていた。ギルバート・デュランダル議長が彼らを見逃すという事も含めて。

 

「艦長は如何するおつもりで……?」

 

タリアは最後までその問いに応える事はなかった。しかし、全員解っていた。タリアは最後までこのミネルバに残る気だと――――本来であれば、一人や二人、止めただろう。以前であれば確実にアーサーが「自分も残ります」、「艦長こそ降りてください」などと言っただろう。

今は違う。信頼からか、成長したからこそなのか、それとも退廃的な現状による諦めからか、誰も言葉を投げかけなかった。

 

 

 

 

 

 

――――――――数日後、当然だがオーブは敗北した。

キラ・ヤマトはオーブ軍が戦線を崩壊させた後も最後までストライクフリーダムで抵抗し続け居た。友軍や民間人が撤退するまでの時間を稼ぎきった後、レジェンドタイプの機体によってオーブ近海に沈められたと言われている。

オーブ国防本部は民間人の退避が完了させてから、地下シャルターに本部を移して徹底抗戦を行った。MSの攻撃やミサイルなどの攻撃は通用せず、オーブ軍の殆ど総てを壊滅させられる最後まで戦い抜いたという。戦後、そのオーブの戦いを貫く姿勢にギルバート・デュランダルは墨守のようだと称賛した。

 

「議長、遺伝子適性と希望職種の不一致の割合はここ2ヶ月で0.2ポイントから0.4ポイント上がっています」

 

「敵対勢力不在によって不満の方向性がこちらに向かってきたか……」

 

クラウはデスティニープランのデータや数字の殆どを管理している。勿論、監視や二重三重の細かいチェックを行っているものの、彼がシステムの根幹を支え、ギルバート・デュランダルが民衆の動きを操作していた。

 

「あと、ミネルバの拿捕も完了したようです。ただ、艦内にいたのはタリア・グラディスただ一人でした」

 

「そうか――――オーブを占領して以来、すぐにミネルバの元クルーが街にいるのを発見してからそうだとは思っていたがやはりか」

 

最早、地球・プラントに住む殆どの人はデスティニープランのデータ、システムによって管理されている。管理されていないのはごく一部の社会に協調しきれていない組織や団体のみであり、それはジャンク屋や傭兵とさまざまではある。しかし、そういった類の職業に所属しておらず、尚且つデスティニープランに参加していない人物は全てクラウ達によって発見及び監視されていた。

 

「ギル、どうしますか?必要なら裏切り者はすぐにでも俺の手で――――」

 

レイがすぐに危険因子を排除するべきではないかと進言する。自分には友を撃つ覚悟もあるという意志も同時に示していた。

 

「やめたまえ、彼らは十分に我々に貢献した。裏切り者の汚名を返上させるというわけにはいかないが、プラントに戻らない限りは放置で良いだろう」

 

寧ろ、これまで役に立ってきた度合から考えれば援助すらしても良いと感じる。ただ、タリアだけは、自分のもとに戻って欲しかった。そんな気持ちが無かったわけではない。だが――――

 

「年甲斐もなく、フラれてしまったという事か……タリア、君らしいよ」

 

そう言った彼は悲しみを表情に浮かべていたが、どことなく笑顔にも見えた。

 

 

 

 

 

 

オーブが沈んでからさらに数年の年月が経ち、地球連合とザフトの戦いから既に十年という時が経った。

その間、推し進め、世界を革新へと導いていたデスティニープラン、いやギルバート・デュランダルの世界規模の統治は大勢の民衆に支持され続けた。

タリア・グラディスと後にプラントに自ら投降したアーサー・トラインを除き、ミネルバのクルーは全員地球に散り散りとなって過ごしていた。

 

(議長のやっていることは、間違いじゃなかったのか……)

 

ニット帽を被り、紙袋を持った若い男性はその赤い瞳を街中のテレビに映るギルバート・デュランダルを見つめ、そのすぐ後に公園に居た子どもたちを見た。

十年――――既に少年と言える顔つきから二十代の大人びた顔になったシンは複雑な表情を浮かべる。議長は間違っていなかった。いや、あの戦いは誰もが間違っていなかったのかもしれない。逆に間違っていたのは自分達だったのかもしれない。

 

「今が戦争の無い世界だって言うのなら、これでよかったのかもしれない」

 

「うん、君たちの理想とは外れたのかもしれないけど、限りなく現実的な世界平和だと今でも思っているよ」

 

「ク、クラウ!?」

 

シンのボヤキに応えるように後ろから突然声をかけたクラウ・ハーケン。何故ここに、どうして会いに、まさか捕まえに、いやそもそも生きてたのか、などと様々な考えがよぎるがそれを無視してクラウは言葉を進める。

 

「ちょっと、仕事をさぼりに……いやシン、君に会いに来たんだよ、元気にしていたかい」

 

「元気に……って?」

 

「警戒しなくていいよ。別に取って食おうってわけじゃない。久しぶりに弟分に会いに来ただけさ」

 

クラウはシンを別に恨んでいたわけじゃない。寧ろ、よく思っているからこそ今ここにおり、捕まえる気も一切ない。

 

「シン、夢や理想を追いかけ続けるのも良い。だけど、夢はいつか覚める」

 

「……」

 

「でも、また人は夢を見れる。なあ、そろそろ新しい夢を追いかけるんだ。好きに生きたっていいんだよ」

 

「どういうつもりで、会いに来たって言うのかは俺にはわからない……けど、ありがとう。クラウ」

 

そう言って、結局すれ違う様に彼らは別れた。時間にして一分に満たない邂逅。だけど、シンは憑き物が落ちたかのように晴れ晴れしい顔つきになっていた。その数年後、シンは外宇宙を目指す探索パイロットの一人として、また銀河系よりも広い宇宙に名をはせる事となることを、まだ誰も知らない。

 

「さて、クラウ――――休暇は楽しめたかね?」

 

「ギクゥッ!?」

 

こうして、彼らは自分たちの夢を運命を創っていく。多くの人が笑顔で過ごし、充実した生活を過ごし、ナチュラルもコーディネーターも関係ない社会が構築されていった。

しかし、人類は忘れてはならない。今の社会の統治は指導者であるギルバート・デュランダルとそれに付き従う優秀な人材がいるが故に成り立っているものであると。この平和は次代となる後継者が見つからなければ容易く崩壊してしまうものであるということを――――――――

 

「所でクラウ――――リスクのない記憶継承可能なクローン生成技術やテロメアの活動期間を延ばして寿命を延長させる技術があると聞いたんだが」

 

「どこで聞いてきたのそれ!?」

 

――――――――どうやら、統治体制が崩壊するのはまだまだ先のようである。

 

 

 

 

 

 

――――更に数年後

 

「レイ、クラウ――――私は最後の大仕事というものをそろそろ始めようと思っている」

 

「ご命令を、どこまででもついて行きます」

 

「ハァ、今更なにを……何の仕事でも付き合いますよ?」

 

「よし、これは人類発展のために行う前人未踏の仕事でもある。宇宙クジラ――――地球外生命体の正体を発見し、接触する」

 

人類の統一、デスティニープランの成功。それはまだ彼らにとってほんの始まりに過ぎず、新たな戦いが始まる事になるとはこの時まだ誰も知らなかった――――

 

クラウのブラック人生と議長の旅はまだまだこれからだ!

 





議長勝利フラグ
1.レイとクラウの友好度が高い→レイ強化+テロメア治療により覚醒状態。
2.議長へのクラウの好感度が高い(本編と同程度以上)→議長の裏切りフラグとクラウの裏切りフラグ両方消滅。
3.マーレの活躍が少なめ、又は、マーレの議長への信頼度が中以上→登場人物全体のマーレの影響力DOWN、オマケにクラウの影の濃さUP
以上をクリアすると議長の一人勝ちになります。

なお、クラウの議長に対する好感度がシンより高い場合は無条件で議長が勝利しますが、チート(例えば最近だとバディ・コンプレックスの強制カップリングとか?)を使用しないと好感度がシンより上になることはありません。

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