ルルーシュはユーフェミアの後ろ姿を眺めていた。
華奢なのに豊かな肉付きで、女性らしい、なめらかなラインをしている。
それが凛として、姿勢よく歩いている。
美しいとしか言いようがない。
「ルルーシュ。話があるんだけど」
と、見とれていたところへ、ミレイに話しかけられた。
「なんだ?」
「その、ここじゃあちょっと」
ルルーシュが促すが、ミレイは視線を泳がせるばかりだ。
ユーフェミアが気になるのだろう。
「彼女は俺の味方だ。聞かれてもいい」
ルルーシュはいつもの余裕を持って述べる。
いや、それでも聞かれるべきでない情報はあるのだが、本人の手前、それに、彼女に耳触りのいい言葉を聞かせたいがために、深く考えずに了承してしまったのである。
「ルルーシュ!」
そして当人は、とてもいい笑顔になっている。
だから、やはり、これでよかったのだ。
妹に笑顔を向けながら、そう信じることにした。
ミレイはロイドから聞いたことを詳細に語っていった。
「つまり、あいつは初めから俺達のことを知っていて、どころか、お前にラクシャータの話を出された時点で、生存を疑っていた。そう言ったのだな」
「ええ。ユーフェミア様からは何も聞いていなかったらしいわ。それに、アッシュフォードに興味がわいたのも、ガニメデがマリアンヌ様の愛用機だったことが関係しているのですって」
「……まあ可能性はあるな。深くは覚えていないが、昔に俺と会った時も、終始機嫌がよかった気がするし」
「ルルーシュ、それじゃあ」
ルルーシュは顎に手を当てて考える。
ミレイは緊張感を保ったままで、ユーフェミアは期待に満ちた表情で、彼を見つめる。
「前向きに検討しよう。信じきるわけではないが」
「やったわ。って、喜んでもいいのかしら?」
ユーフェミアは表情をいっそう輝かせて、ルルーシュに尋ねる。
「条件次第だな。ロイドにナナリーを任せるかどうかは」
「そう」
と、これで少しだけ静まったが、やはり晴れやかなままだった。
今度は条件を話し合うために、ロイドも交えて4人で話すことにした。
そのロイドは生徒会室にいて、セシルに日頃の愚痴を聞かされていた。
「ですから、せめて総督の前では口調を改めていただきたいのです」
「うーん。そう言われてもなあ」
「それはセシルさんの言う通りです。だってあの総督ですよ。ねえ!」
「抑えが利かないでしょうね。一度怒ったら」
「ううっ。考えただけでゾッとする」
「ほら、学生達ですらこう言っていますよ」
「うーん」
そのセシルをリヴァルとシャーリー、それになぜかカレンまでが盛り上げるので、彼女も気分が乗るのであろう。
「アスプルンド卿。今度は4人で話し合いますので、ついてきてくれますでしょうか」
と、そこへミレイが話しかける。
「うん? 僕はいいけどお」
「なあルルーシュ、もういいんじゃねえか? アスプルンド卿は信頼できる人だ。心配なのは分かるけど、見た目で判断するもんじゃないぜ」
「それってけっこうひどくない?」
ロイドが眉をひそめると、ドッと笑いが起きる。
ずいぶん仲良くなったようである。
よく見ると、ナナリーも笑っているし。
しかし、それでも、ルルーシュは譲れなかった。
まだ信用が足りない。ブリタニア人全体への偏見はそれだけ深いのだ。
話し合う部屋はまたルルーシュの自室となった。
ここは大切な殿下を守るための防護がしっかりなされていて、都合がいいのだ。
「ロイドにナナリーを見てもらう条件。その前に、お前に俺達の本性が知れている時点で、監視は絶対に必要なんだ」
「ええー。僕、殿下一筋なのにい」
「黙ってろ」
「はあい」
「だが、監視してもらうにしても、信用できる人間がほとんどいない。それこそ、生徒会メンバーと、いつも世話になっている咲世子さんと、ユ、ユフィくらいだ」
「うれしいわ! ルルーシュ!」
ユーフェミアは顔の前で手を合わせて、顔を輝かせる。
「だが実は、もう一人いるのだ。河口湖での事件の時に、説得に当たっていた男。枢木スザクがな」
「まあ!」
「ルルーシュは確か、枢木家にいたのよね。戦争が始まるまでの1年間は」
ミレイが確認を取ろうとする。
「そうだ。そこで仲良くなった」
ルルーシュはゆっくりとうなずく。
「でしたら、その方を私の騎士にでも」
「早まるなユフィ。スザクは日本人だ。皇族の騎士にでもなれば、いらぬやっかみを買ってしまう。それこそ、暗殺者を送り込まれることもあるだろう」
「そう、ですか」
ユーフェミアは少しうつむいてしまう。
しかし、それゆえに上目遣いとなって、かわいらしいから、ルルーシュは緊張してしまった。
「そ、その代わりに、特派のテストパイロットになってもらいたいと考えている。監視も兼ねてな」
「えっ」
と、声を漏らしたのはロイドである。
実はスザクはランスロットの操作能力において最も高い数値を残しており、ロイドとしても何とか引き抜きたいと考えていたのだ。しかし都合が合わなかった。
だから、予想外の幸運に声が出てしまったのである。
すぐに手で口を覆ったためか、気に止められなかったが。
「俺もあれからすぐにあいつについて調べたんだ。そして、名誉ブリタニア人になって軍に入っていると知った。しかし、今のあそこは純血派が台頭しているから、あいつにとっていい場所ではないだろう。だから代わりに、特派にと思ったのだ。テストパイロットなら現場に出ることもなく安全だろうしな」
「なるほどお。僕はいいですよお」
「私もそれはいい考えだと思います。あと純血派はすぐにでも何とかします」
と、ユーフェミアもロイドもルルーシュの予想以上に好感触だ。
「では、決まったな」
ルルーシュは満足げにつぶやく。
「ただし、スザクに何かあった場合は消えてもらうことになる。それをしっかり頭に置いておけよ、ロイド」
「分かりましたあ」
ルルーシュはすごむが、ロイドは能天気なままである。
これには残り3人とも拍子抜けしてしまった。