人質には軽く身辺調査がなされたが、ユーフェミアの「彼等も憔悴しきっていますから」の一言で本当に軽いものになった。
無事帰還できたルルーシュ達は、ミレイの提案でパーティを開くことになった。無事を祝うパーティである。
しかし、ここで当然の問題が出てくる。複雑な恋の問題が。
シャーリーはまだいい。恋する乙女で済むから。しかしミレイは、本来ルルーシュの部下であるし、現在は後見人の娘であるし、今後ルルーシュ以外の男と見合いをしていく立場なのである。
この恋は成就しえない。
ミレイはそれを知って恋していることにはならないだろうか。いや、その答えが分かっているからこそルルーシュとミレイは気まずかった。リヴァルも気まずい。親友に嫉妬なんてしたくないが、それを防ぐことはできない。
「そう言えばお兄様。ミレイさんとシャーリーさんと、どちらとお付き合いなさるおつもりですか。ああいえ、2人共という可能性もありますが」
そんな中、ナナリーが何事も無さそうに尋ねてしまう。ルルーシュの顳顬がピクリと動く。
「ミレイは家のことがあるだろう。シャーリーも、軽々しく返事することはできない」
「えっ、そんな……」
「お兄様、これは学生同士の話です。結婚や家は関係ありませんよ」
ルルーシュは黙ってしまう。
「お兄様が一番好きなのは誰なのでしょうか。それが問題なのだと思います」
「一番好きなのはナナリーだ。それは当然のことだろう」
「しかしそれは、男女の仲とは関係ないではありませんか」
「関係あるじゃないか。女性で一番好きなのがナナリーなんだから」
ルルーシュが当然のように言うと、今度はナナリーがうつむいてしまう。顔を赤らめているのは、なぜなのだろうか。
「シスコンのルルーシュ! ロリコンのルルーシュ! 裏切りのルルーシュ!」
リヴァルが突然1人で叫ぶ。
「ところでルル。あの、ユフィ? ユーフェミア? 桃色の彼女は何者だったの? ずいぶん親しそうだったけど」
と、今度は唐突にシャーリーが尋ねる。
「ああその、彼女は、本国にいた時の知り合いでね。あまり深く探らないでくれると助かる」
「ふーん。じゃあ一つだけ教えて。ルルは、彼女のことが好きなの?」
シャーリーとしては、軽い気持ちで尋ねていた。きっと違うと言うだろう。幼馴染か何か程度だろう。そう思っていた。
しかしルルーシュは、口を閉ざしてしまう。それも酷く後ろめたげでかなり怪しい。ちょろっと否定するだけでいいのに、なぜできないのか。
「まさか、遠距離恋愛……?」
「いえ、シャーリーさん。そういうことはありませんから安心してください」
「そ、そうなの?」
なぜかナナリーで否定してくれて、シャーリーは一応落ち着く。しかし、心にはもやもやが残ったままだ。
「彼女とのことは黙っていてくれると助かる。彼女が何者だったとしても」
「ルルがそう言うのなら、私はいいけど」
「俺は納得できないぞルルーシュ! この裏切り者め!」
シャーリーは退いたが、リヴァルは噛みつく。
「リヴァル。私からもお願いしていいかしら」
「会長、そんな……。ああっ、あああああああっ」
リヴァルはまた崩れ落ちてしまう。
「みんな!」
しかし、この暗い雰囲気をぶち壊す明るい声が鳴り響いた。赤髪の少女、カレンだ。今回の旅行には都合が合わなかったようだが、このパーティには来てくれたらしい。
「良かった。無事でいてくれて……」
あまり付き合いの長くない彼女だが、目に涙を浮かべて喜んでいる。
それを見ていると、リヴァルも、シャーリーも、ちょっとだけミレイも、己の浅ましさを思い知らされているような気分になる。だから一旦情事から離れて、ふつうに無事を祝おうと思えたのだった。
その頃、河口湖付近にて。
「ああっ。間に合わなかったか」
ガックリとうなだれるのは、前総督のクロヴィスだ。
実は、テレビを見てユーフェミアが人質になっていることが分かったので、自分が助けて、コーネリアに恩でも売ろうと考えていたのだ。
「クソッ。この力があればできたはずなのに」
クロヴィスは歯噛みする。
そんな中、専用の無線が受信を知らせる。バトレーからのものだ。
「なんだ?」
「申し訳ございません。実験体を逃がしてしまいました」
「なっ、なっ、なにいいいいいいいいい!!!!」
星の多い夜空に、クロヴィスの絶叫が鳴り響く。彼はそのまま崩れ落ちてしまった。
近くにはまだ多くのブリタニア軍人が残っていた。絶叫はよく聞こえていたので、何事かと思って集まっていく。その中心(クロヴィスの護衛も10近くいた)が皇子だと知れると、大いに驚くことになった。
その頃、とある空港の近くでは。
「しいいいいつううううううう。あいたかったよおおおおお」
「うるさい。それにあまり寄るな。暑苦しい」
「そう言わないでさあ。しいいつうう。また一緒に暮らそうよお」
「私は旅が好きなんだ。一つの場所に留まりたくはない」
「でも、きっと気に入ってくれるはずなんだよお。オーストラリアののどかな町に建てたんだ。立派なお屋敷をお」
「だから私は旅がしたいと」
「一度でいいからさあ。しいいつうううう」
「だから暑苦しいから寄るなって」
皇子が崩れ落ちた原因、C.C.もまた悩んでいた。
このマオの取り扱いについてである。はっきり言って鬱陶しいが、助けてもらった手前無下にすることはできない。かつて捨ててしまった責任も感じている。
彼女は結局、オーストラリアに飛んだ。
その頃、とある広間では。
「しいいつううが見つからんだとおおおおおお! なあああんたる愚かしさああああああ!」
「申し訳ございません。陛下」
「ぶるうううらあああああああああ!」
「あなた、そう責めなくてもいいじゃない。アーカーシャの剣ができるのはまだ先なんだしさ」
「しかし、それもじきに完成するぞ」
「いざとなれば軍全部動かしてもいいんだしさ」
「うーむ、それは避けたいがなあ」
2人の男と1人の少女が何やら言葉を交えていた。