先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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回天

「……わっちは聞いとらんぞ。あやつがあんな能力を持ってるとは」

 

 

ノブヒロの視界から状況を見ていたクラマ・フェイ・ケンタの三人。

 

 

リョーガのまるで相手のデッキトップの中身が分かっているかのようなあのリアガードへのアタック。

 

 

ノブヒロの視界を通していることもあり、リョーガが引き起こしたこの状況の異常性を、三人はダイレクトで感じ取っていた。

 

 

「それは私も同じです。相手のデッキトップを見透かす……。彼とは何度もファイトしたことがありますが、こんなことは一度もありませんでした。彼がフーファイターズを抜けた後に会得した力なのでしょう」

 

 

「……そう考えるのが適当かもしれんのう。あやつの能力は数はあるが、はっきり言って他の者達と比べれば見栄えのいい物はなかった。ここを抜けたことで何かが吹っ切れたと考えるほうが自然といえば自然かもしれん」

 

 

クラマとフェイはこのリョーガの用いた力を考察するように言葉を交わす。

 

 

リョーガの適合者としての力“神風”と“照魔鏡”はフーファイターズ内でもそれなり知れ渡っている能力。

 

 

何故そうなったかと言えば、別にリョーガ本人がそれをペラペラと自慢げに話したからというわけではなく、彼の能力を知っている如月トキが自慢げにペラペラと話しまわり、それがさらに人を渡ってしまったのが原因である。

 

 

しかし、リョーガ本人はそれを気にしていなかった。

 

 

元々、ほぼ強さの大部分をプレイングで占めており、能力自体に大きく依存しているわけではなかった彼は、むしろ能力を知られてから対抗策を駆使しようとする相手が現れたことが都合がよかった。

 

 

しかし、まともに対策を講じるファイターはフーファイターズに所属する一般ファイターのみ。

 

 

フェイのようなトラプル・ゲインの面々はそもそもが強大な力を秘めていることもあり、真っ向から勝負することのほうが多かった。故に、対適合者としての力は身についても、自身のスキルアップにはつながらなかった。あまり自軍でのファイトをしないクラマに関しては論外。

 

 

噂で流れている能力しか知らない彼らにとって、このリョーガの扱う力が自分達の手を離れて開花したのだろうと考えた。

 

 

「え?まさか二人とも知らないのぉ?リョーガ君の“あれ”」

 

 

彼、紅ケンタを除いては。

 

 

「なっ!?では貴様は知っているというのですか!?後その憎たらしげな笑みはやめてください!」

 

 

「うん、ごめん。やめるから剣を抜こうとするのやめようか。うん、とりあえず落ち着こう、うん」

 

 

感情を露わにしながら鞘から刀身を覗かせるフェイに、ケンタは片手を前に出しながら滝のように汗を流した。

 

 

「はぁ、全く危ない奴だのう、おぬしは」

 

 

(お、そうだ!クラマちゃん!いいぞ、もっと言ってやれ!)

 

 

そんな二人のやり取りを見ていたクラマはそう溜め息をつく。フェイのこの短気な態度に抗議してくれるものと思ったケンタはそう心の中で応援するが、クラマが向けた視線の先には自分の姿があった。

 

 

「今のはおぬしが悪いぞ?悪戯好きなのも弁えを覚えなければ命がいくつあっても足りん」

 

 

(え?僕って笑っちゃだめなの?笑ったら殺されるの?……あんまりこの状態が続くのはよろしくなさそうだしお茶を濁しておくかな……)

「ゴホン!ゴホン!まぁまぁ、今のは僕が悪かったってことでいいからさ、話戻さない?皆、リョーガ君の今の“技”を知らないんでしょ?」

 

 

「今までの私達の態度を見ていればわかるでしょう。わざわざそう聞いてくる辺り、貴様の性格の悪さを表している。しかし、技とはどういうことなのですか?あれはどうみても力によるものだと思うのですが」

 

 

「いんや、あれはれっきとした技さぁ。彼はあれを“回天”と呼んでるそうだねぇ」

 

 

ひとまずアウェーな状況を打破したケンタは、塞がってないほうの手で汗を拭うと、話を続けた。

 

 

「“神風”の能力は皆も知ってるよね?あれは、常時発動型。自分のターンが回ってきた段階で、そのターンにファイナルターンにできるかどうかの判定をすることが出来る能力。いわば、絶対ファイナルターン。

 

 

これの凄いところは、お互いのトリガーなど全ての観点を加味した上で確実にファイナルターン実行可能かの判定が可能なところ。

 

 

だから彼は、ファイナルターンの可能性を極限まで高めるために、瞬間火力の最も高いスパイクブラザーズを愛用している。元々、スパイクブラザーズは瞬間火力を発揮する代償として、大きなアド損がネックになるものだけど、彼はいつ攻撃に移ればいいかを“神風”によって判定出来るから、アド損の危険を考えなくていい。とっても相性がいいよねぇ」

 

 

「己の能力を良く理解しているリョーガ殿ならではですね。しかし、それが今のこの状況でどう影響を与えているのですか?そもそも、リョーガ殿の実力はファイトを多く経験している貴様よりも知っているつもりです。その私が知らないというのに、貴様如きがそんな戯言を言ったところ説得力がないというものです」

 

 

鋭い眼光でこちらを睨み付けるフェイにケンタは参ったように頭を掻いた。

 

 

(……やれやれ、僕って本当に信用されてないんだねぇ。かと言って、さっきみたいに口答えして殺意を向けられるほど僕も死に急ぎたくないしねぇ)

 

 

そんな中、ケンタの発言を聞いていたクラマは少し考え事をした後、頭に血が上っているフェイに対して声をかけた。

 

 

「……ふむ、確かに普段の態度で見ればそうかもしれんがのう。じゃが、それは些か頭が固いのではないか?」

 

 

「……何故、そう思うのですか?」

 

 

「常人であればそう考えるのも当然じゃが、わっちらは適合者。相手によって相性が出てくるのも不思議ではない。ましてやフェイ、おぬしの力はこのトラプル・ゲインの中でも特に突き抜けておる。ヒールトリガーが関係していることも推して、おぬしの力が原因でリョーガはその“回天”とやらが使えなかったのじゃろうて。

 

 

もっとも、ファイトしたことのないわっちが言うても説得力など皆無であろうが」

 

 

「いやいや、クラマちゃんの考えてることは結構的を得てると思うよ?正直理不尽だもん。フェイ君の“全て儚き幻想郷(アヴァロン)”ってば、絶対防御にも程があるっての」

 

 

「くっ!?それを破った貴様に言われたくないです!……確かに、クラマ殿の言ってることも一理あります。分かったのでさっさとその技とやらの真相を話したらどうですか?」

 

 

観念したような口ぶりでフェイはそうケンタの問いかけた。

 

 

「勿論そのつもりさ。ま、とりあえず一回目を瞑ろっか」

 

 

ケンタはクラマの巻物を指さしながら目を瞑り、他の二人もお互いの顔を見合わせた後目を閉じた。

 

 

閉じた先のノブヒロの視界はまだ何も展開していないのか、リョーガがターンを終了した段階での盤面をそのまま映しており、ケンタとしては説明するのにも都合がよかったのだろう。

 

 

「前のターンの状況は覚えてると思うけど、一応振り返ると……」「貴様、本当に説明する気が……」「いいから聞きなって。それでわかるはずだからさ」

 

「…………」

 

 

話の見えないケンタの語りに意を唱えようとするフェイであったが、彼のそこそこ真面目なトーンの説得に、些か不本意ながらも口をつぐんだ。

 

 

「リョーガ君は最初のヴァンガードのアタックでダブルクリティカルトリガーを引いたよね。その時点でノブヒロ君は6点目のダメージを受けることが確定してしまったわけだ。ここまではいいよね?」

 

 

「忘れるわけがなかろう。あれがこのファイトのターニングポイントじゃった。あのターンに起きた現象がわっちらを混乱の渦に巻き込んだと言っても過言ではない」

 

 

「なんという説得力。ならそれを踏まえた上でリョーガ君の能力を思い出してみなよ。そしたらアラ不思議。全てが見えてくるんじゃない?」

 

 

ケンタの説明を聞いていたクラマとフェイの二人は、言われた通りその時の状況とリョーガの“神風”を照らし合わせた。

 

 

「なるほど、そういうことじゃったか」

 

「紅ケンタの言う事に賛同することは不本意極まりませんが、たしかにこれは力ではなく技ですね」

 

 

そしてケンタの言う通り、そこまで時間がかかることもなく答えは導き出された。

 

 

「前のターン、あの状況でほぼリョーガの勝ちは見えておったが、まだヒールトリガーという可能性もあり、傍目では勝敗はわからなかった。しかし、リョーガは違った。あやつは“神風”により、そのターンでファイナルターンに出来るかどうかがわかっておった」

 

 

「恐らく、“神風”の判定はファイナルターン不可だったのでしょう。あの状況でファイナルターンに出来ない状態となれば、もはや6点目ヒールしかありません。故にリョーガ殿はあえてヴァンガードにアタックせず、リアガードにアタックしたのでしょうね」

 

 

「これがあやつの編み出した技“回天”の正体ということじゃな。しかし、リョーガの向上心の高さには目を見張るものがあるのう。あやつがトラプル・ゲインから抜けてしまったのは大きな痛手じゃ」

 

 

「全くですね。何故リョーガ殿が去り、このような不浄の者が残っているのか理解に苦しみます」

 

 

「戦力的な意味合いなら反論する気も起きるんだけどねぇ。不浄の者って言われちゃったら何にも言えないよねぇ」

 

 

残念がる二人を横目に、乾いた笑みを浮かべながらケンタはそう聞こえないような小声で呟いた。

 

 

(ふぅ、本当にフェイ君は容赦ないねぇ。……“回天”に関しては以前に一度ファイトした時にお披露目してもらったから知ってたけど、さっきのはそれ以上におかしなところがあったんだよねぇ)

 

 

疑問が解けて満足している他の二人とは別に、ケンタはまだ釈然としない表情で他人の視界の先の盤上を眺める。

 

 

(リョーガ君の長考の後のあの軽率とも取れるヴァンガードからのアタック……。結果としてダブルクリティカルトリガーが出たから良かったものの、もし運悪くトリガーが一枚しか出なかったら、ノブヒロ君に攻撃の余裕を与える危険なプレイになってた。……いや、もしかしたら――)

 

 

まるでケンタの心情を汲み取ったかのように、ノブヒロの視線はリョーガの方を向いた。

 

 

(――彼はこのドライブチェックでクリティカルトリガーが出ることが分かっていた……?もしその事実が本当だとしたら、彼は本当に新たな力を身につけたことになる……)

 

 

思考を進めるうちに、彼は戦慄を覚える。

 

 

この短い期間にリョーガは多くの力を身につけた。そして今、彼は自分達の知らない力にまで目覚めようとしている。

 

 

そしてフーファイターズを離れたということで、彼と戦うことは逃れられない運命となった。

 

 

(出来れば、次に君と対峙する場所が大会の中でないことを祈るとしようかねぇ)




能力名:神風
使用者:暁リョーガ
効力:お互いのデッキ・手札・トリガーなど、あらゆる要素を加味した上でそのターンにファイナルターンを行うことが出来るかを判定することが出来る能力。


これによってファイナルターンが判定された場合、どれだけ不利な状況でも100%勝利を勝ち取ることが出来るが、適当にやって勝てるわけではなく、最低でも理論上可能な勝利への道筋を把握していなければ無意味となってしまう。


もっとも、使用者である暁リョーガがそれを失念することは皆無であり、勝利の裁定が出されれば、絶対ファイナルターンとなる。

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