先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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十字架

「ハイスピード・ブラッキーを前列に移動。メカ・トレーナーのCB、このカードを退却。デッキから、ワンダー・ボーイ(8000)を手札に加える。そしてそのまま右下にコール。ヴァンガード裏にダッドリー・ダン(4000)をコール。ジャイロ・スリンガーのCB、パワー+1000。これでバトルに入る」

 

デビル・サモナー/ザイフリート/ハイスピード・ブラッキー

ジャイロ・スリンガー/ダッドリー・ダン/ワンダー・ボーイ

 

素顔を晒したリョーガは当初の印象から大きく変わり、フードを被り、包帯を巻いていた時の陰険な雰囲気は消え去ってた。

 

しかし、中身は今まで見てきたリョーガそのものであり、むしろその集中力は先ほどよりも増している言っていいだろう。

 

「ジャイロ・スリンガーのブースト、デビル・サモナー」15000

「ガード、キャノン・ボール」20000

 

このアタックによる相手は、必然的に10000ガードを要求できるアイゼンクーゲルとなる。リョーガもそれを理解した上でそこまでしか宣言せず、ノブヒロも右腕振り払い、間髪入れずにガードを行う。

 

「ダッドリー・ダンのブースト、ザイフリート」17000

「ノーガード」

 

次にヴァンガードからのアタック。ザイフリートには、スパイクブラザーズのユニットからブーストされたときにパワーを+3000するスキルを持っている。

 

これによって、スパイクブラザーズ特有のスペリオルコールからの連続攻撃を可能にするダッドリー・ダンのパワー不足を補うことが出来る。

 

また、ザイフリートにはもう一つスキルがあり、それはドライブチェックの際にG3のユニットが出た時にスペリオルコールするというもの。

 

ダッドリー・ダンのスキルを用いることなく追加のアタックを可能にするスキルであるが、このカードでコール出来るのはユニットのいない空いているリアガードに限られる。

 

したがって、全ての盤面が埋まっているこのユニットのスキルは完全に機能してはいなかった。

 

「ツインドライブ!!壱、スカイダイバー。弐、チアガール ティアラ。ヒールトリガーの効果でダメージをドロップ。パワーはハイスピード・ブラッキーに」

「ダメージ、ザ・ゴング。ドロー、パワーは左のアイゼン」

 

このヴァンガードのアタックによって、ダメージの差は大きく緩和されたが、それと同時に手札の差も埋まってきた。

 

ノブヒロの手札は現在四枚。そのうち、ドロートリガーによる未確定のカードが二枚。

 

それでもなお、トリガーによるパワー上昇をリアガードに割り振るということは、ノブヒロの手札に他のアタッカーとなるユニットがいないことを示唆していた。

 

「ワンダー・ボーイのブースト、ハイスピード・ブラッキー」22000

「アイゼンをインターセプト、ザ・ゴングでガード」25000

 

視線を攻撃対象に突き刺しながら言うと、相変わらずの速さでノブヒロは対応する。

 

単純にアタッカーを削るだけなら今のパワー上昇で上がっていないほうのアイゼンクーゲルをアタックすればいいのだが、リョーガはあえてそうはせず、パワーの上がっているほうのアイゼンクーゲルへと矛を向けた。

 

「俺のターンは終了する」

 

 

     ノヴァ スパイク     

   手札 2    4

ダメージ表 2    2

ダメージ裏 0    1

 

 

それは結果的に良い方向へと傾き、アタッカー+手札一枚を消耗させることに繋がった。

 

 

 

ここまでの所要時間はわずか一分。

 

 

 

ノブヒロは当然だが、リョーガもほぼノータイムでカードの選択を行っている為、このファイトをリアルタイムで見ているライカ達は、この二人が一体何を考えてそのプレイに及んだのかをついていくので精一杯だった。

 

「全く、なんつうファイトだ……。こいつ、本当に考えてファイトしてんのか?」

 

「ヴァンガードのアタックフェイズは展開されてるユニットからある程度予測出来るから不可能ではないよ。それでも、今の攻防はそれだけで片づけていい代物ではないね」

 

完全に見入っている店長とミズキの二人。

 

リョーガの眼が見えていることや、彼の髪型のことについて元々知っている彼らは驚くことは無いが、全く知らなかったライカでさえ、今のファイトの凄まじさにそんなことも忘れてしまっていた。

 

「なんでリョーガまでノブのあのスピードについていけるの……?もしかして最後のリョーガの力、“神風”ってノブと同じ……」

「それは違うよ」

 

リョーガが最後の力を発動したことを聞いたライカは思わずそう予想を立てるが、それをミズキはピシャリと否定した。

 

「リョーガの兄貴の力は確かに発動してる。けど、あれはそれによるものじゃない」

 

「それによるものじゃないって……」

 

「考えるまでもないだろ」

 

ミズキの言葉を信じられないという表情で呟くライカに、店長は呟いた。

 

「即座にあれだけのことが出来るのが暁リョーガというファイターの強さだ。アイツにとって、適合者の力はおまけみたいなもんだからな」

 

そう呟きながらポケットを漁るが、タバコを先ほど座っていたカウンターにそのままにしていたことを思い出し、渋りながら探すのをやめた。

 

「ニコチン中毒の人が言う通りだよ。リョーガの兄貴の一番怖いのは、そのプレイングスキルの高さ。照魔鏡も照魔鏡(プロビデンス)も、凡人が使ったんじゃあ話になんないでしょ?ま、流石にあれだけの速さで出来るのは、ある程度行動を制御出来る自ターンだけだろうけど」

 

「たしかによく考えればそうよね……。適合者って分かったからって何か有利になるわけじゃないし、初心者の人がデッキの中身を見たところで何か分かるわけじゃないし……って、その言い方だとリョーガは別にいつもあんな感じでファイトしてるわけじゃないの?」

 

「そうですよ」

 

ライカの疑問に、彼女の傍にいたアサギが答えた。

 

「リョーガさんはいつも相手に合わせて戦い方を変えてるんです。もしあんな風に戦われたらわたしだったら多分慌てて湯気出ちゃいますよ!」

 

「うん……何となくイメージ出来るわ。つまり、今あーやってファイトしてるのはノブが最も戦いやすくする為にやってるってわけね。でも、なんでそんな事を……」

 

先ほどまでの泣きっ面とは対照的な笑みに、ライカは苦笑いを浮かべながらそう呟くと、またも疑問を過らせた。

 

「お前は今までのリョーガの言動で何にもわかんねぇのか?んなもん、全力の相手を叩き潰す為に決まってるんだろ」

 

そんな疑問だらけの彼女に、店長は面倒くさそうに答えた。

 

「リョーガの兄貴は見てればわかるけど不器用だからね。ファイトの中でしか相手と分かり合えないんだよ。お互いの最大限の力をぶつけ合って、お互いの本音をぶつけ合って、相手の本質を見極める。むさ苦しいくらい堅物で、馬鹿みたいに真っ直ぐ。そんな兄貴だからこそ、オレ達はついて行こうと思ったんだ。俺からして見れば、なんでライカの姉貴がそんなにリョーガの兄貴を嫌ってるのかが疑問だよ」

 

補足を入れるようにそうミズキは言うと、視線をリョーガのほうへと向けた。

 

そんな彼の話を聞いて、ライカは彼らがどれだけリョーガのことを信頼しているのかを無意識のうちに感じ取った。

 

ライカ自身、これまでのリョーガの態度を見て、これほど頼れるファイターはいないと感じていた。

 

仲間への気遣いを決して忘れず、決して揺らぐことのない高い志。そして、何人にも負けない高い実力。これだけの要因があって、彼に引き寄せられない人はいないと言っていいだろう。

 

「たしかにリョーガのことは見直したわ……。でも……じゃあなんで……!」

 

そんな彼だからこそ生まれる疑問。これほど人のいい人間でありながら、初めての対面時にライカが嫌悪感を感じていた原因。

 

初めて会った時の期待を裏切られたあの感覚を、ライカは決して忘れてはいなかった。

 

「なんでファイトしてもいないノブを見限ろうと思ったのよ!ファイトの中でしか本質を見れないって言っときながら、適合者じゃないってだけで見捨てるなんて最て……」「……オイ」

 

ライカがそこまで言うと、唐突に店長は彼女の肩に手を置き、顔を近づけた。

 

「…………」

 

その顔を見た瞬間、ライカは口をつぐみながら息を飲む。

 

今まで何度も怒りを露わにしていた店長だが、それらが生ぬるいと感じるほどの鬼の形相。

 

「それ以上口にしてみろ……リョーガが何と言おうと、俺がこの店からテメェを放り出す」

 

マジギレ。

 

今の彼の状態を表すならこれが最も相応しいだろう。

 

「全く、呆れたよ」

 

そんな彼と同じように、まるで蔑んだ目でミズキはライカを見据えた。

 

「腐ってもアンタ、適合者なんでしょ?なら、リョーガの兄貴が……いや、オレ達適合者の苦しみも分かんないの?」

 

吐き捨てるように放たれたミズキの言葉。ライカは何が何やら状況が呑み込めず、助けを求めるようにアサギのほうを見る。……しかし、

 

「リョーガさんのことをそんな風に言うなら……たとえライカお姉さんでも……許せません……」

 

あのアサギが、あろうことかライカに対して敵意を露わにしていたのだ。

 

自分がとんでもない地雷を踏んでしまったと自覚したライカは、今までにない修羅場にどうしたらいいかわからず目を落とした。

 

何も知らないことを知った店長は、まるで埒が明かないという様子で顔を放し、背を向けた。ただ、まだ怒りが収まっていないようで、彼の肩は小刻みに震えていた。

 

「……分からないっていうなら、教えてあげるよ。オレ達がどうしてここにいるのかをさ」

 

そんな彼女に同じく煮えを切らしたミズキが荒っぽくそう言った。その表情から、これから話すことの内容がどれだけ過酷なものかを物語っていた。

 

そして、ライカは思い知らされることになる。自分の環境がどれほど恵まれていたのかを。自分がどれだけ無知であったことを。

 

 

 

「適合者であるからこそ背負わされる十字架。その重みってやつをさ」


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