「まず俺のターン、ドロー!ブラウパンツァー(6000)にライド、The・ヴァンガード!この瞬間、ブラウユンガーのスキル発動!デッキからブラウクリューガーを手札に加える!これで俺のターンは終了だぜ!」
ノブヒロの先行第1ターン。ブラウシリーズのスキルを発動させ、盤石の体制でターンを終了させる。
それと同時に、ノブヒロは対戦相手である暁リョーガのほうへと視線を移す。
(……流石はトラプル・ゲインといったところか。眼を隠してるっていうのもあるかもしれねぇが、完璧なポーカーフェースだ。何を考えてるのか全然読めねぇ)
カードを引き、手札に加えたリョーガは確認してるのかしてないのかよくわからないが、手札のほうへと顔を向ける。
相手の表情などから情報を汲み取ろうするのを諦めたノブヒロは、リョーガの扱うデッキに着眼点を移した。
リョーガのファーストヴァンガードはメカトレーナー。スパイクブラザーズのクランに所属するユニット。
竜魂乱舞からトリガーが実装され、サブクランの中でも早い段階で単独クランが組むことが出来たクランの一つ。
収録されているカードの種類はそこまで多くないが、トリガー配分・ギミック共に高いクオリティを誇り、これまたサブクランの中でもスペックは随一。
特に騎士王降臨で収録されたジャガーノート・マキシマムとハイスピード・ブラッキーの瞬間火力の高さ、そしてそれを生かすダッドリー・ダンなど、1ターンに要求するガードの高さが脅威。
更にそれをプレイヤーが任意に選択出来る為、全クランの中で最もファイナルターンが成功させやすいクランでもある。
ただし、それらのスキルを使用した場合には凄まじいディスアドバンテージが生じ、ペース配分をきちんと調整しなければ成す術なく敗北することも少なくない。
粗暴な印象のあるクランイメージとは対照的に、プレイヤーのプレイングが大きく問われるクランと言えるだろう。
「俺のターン、ドロー。ワンダー・ボーイ(8000)にライド、My・ヴァンガード。メカ・トレーナー(5000)のスキル発動。ヴァンガード裏にスペリオルコール。そしてバトルに入る」
/ワンダー・ボーイ/
/メカ・トレーナー/
ユニットを配置し終え、バトルステップを宣言したリョーガ。ノブはその配置されたユニットを見て、少しの違和感を覚えた。
(ワンダー・ボーイのパワーは8000。俺のブラウパンツァーもスキルで8000にパワーが上がっている。わざわざヴァンガードの裏にメカ・トレーナーを置かずともアタックはヒットする。そして俺は今ブラウユンガーのスキルで次のターンにブラウクリューガーにライドすることが確定。ブラウクリューガーもスキルで10000にまでパワーが上がり、単体でブラウクリューガーにアタックするには相手も同じ10000のパワーを持つ至宝 ブラックパンサーでアタックする他ない。そして重要なのはスパイクブラザーズはヴァンガードの裏のユニットがほぼダッドリー・ダンで確定していること)
ノブヒロは視線をスペリオルコールされたメカ・トレーナーへと移す。
(メカ・トレーナーのスキルはかげろうのコンローと同じCB1と自身の退却でデッキのG1以下のユニットを手札に加えるスキル。従って、キーカードのダッドリー・ダンをいつでも呼び出すことが出来、自身が退却出来ることを考えればどこに置こうとも邪魔にならない。わざわざメカ・トレーナーをヴァンガードの後ろに置いたという事は、リョーガの手札にライド用のG2とG3があることを考えて、残り手札は3枚。その中にG1のユニットと他のG2のユニットがある可能性。もしくは……)
最後にノブは視線をリョーガ本人へと移す。
(G2のライド先としては最も安定となる至宝 ブラックパンサーにライドせず、わざわざその他の優秀なスキルをもつ10000に満たないG2にライドする可能性。つまり……)
ノブはおもむろに先ほどのリョーガの言葉を思い出し、ニヤリと笑みを浮かべる。
「なあ、暁リョーガさんよ。あんたのさっきの⦅敵に塩を送る⦆行為を見習って俺も一つ当ててやるよ」
「…………」
リョーガがアタックする前に、ノブヒロはそう言いながらリョーガの手札に指を指した。リョーガ本人は表情を変えることなくそのまま黙りこくる。
「なんか言い出したぞ。こいつ」
「聞いてあげたらいいんじゃない?本人は楽しそうだし」
「相手の喋り方まで真似してる辺りファイトしてもらえたのが相当嬉しかったみたいね。そういうところが本当に子どもっぽいわよね、ノブは」
「わぁ~、お兄ちゃん子どもっぽ~い」
「おい!うっせぇぞ!外野!」
ライカ達の会話で完全に調子を崩されたノブヒロだったが、「コホン」と咳払いをした後、気を取り直して口を開いた。
「次のターンにあんたがライドするG2。それは“デビル・サモナー”なんだろ?」
「!?コイツなんでそれが……」
先ほどまで馬鹿にしていたこの店の店長は、このノブヒロの言葉に思わず目を見開く。
デビル・サモナーとは、スパイクブラザーズのG2のユニット。
パワーはたったの7000と、シャドウパラディンの髑髏の魔女 ネヴァンが出るまでG2の中で最もパワーの低いユニットとされていた。
それもあってそのスキルは強力で、場に登場した時にデッキトップを公開し、そのユニットがスパイクブラザーズのG1もしくはG2だった場合、スペリオルコールすることが出来るというもの。
スパイクブラザーズの中で唯一のアドバンテージ源でもあり、決まればより有利に試合を進められ、クラン特性の特攻の基盤を作ることが出来る。
反面、成功率が2分の1と確実性が無く、失敗すればただのパワー7000のユニットしか残らない。
非常にリスキーなこのカードは、アドバンテージの稼ぎずらいスパイクブラザーズと言えど多くは採用されず、安定性の高い他のG2に枠を奪われていた。
しかし、ノブヒロはあえてこのカードにリョーガがライドすると睨み、先ほどのお返しと言わんばかりに言い放つ。
その発言の後、リョーガは暫く沈黙を守っていたが、しばらくしてその口元は緩んだ。
「⦅敵に塩を送る⦆……か。⦅言うは易く行うは難し⦆、言うだけならば誰にでも出来るが、それを実行に移すのは俺の勝手だ。が、そう言うからにはそれなりの理由があるんだろ?」
「当然!」
リョーガからの問いに、ノブヒロはドヤ顔を作りながら説明を始めた。
ヴァンガードのファイトそのものは、そのクランによってやれることが限定される為ある程度読み解くことは可能。
故に、ある程度の安定択というのも存在するが、この暁リョーガというファイターのこの手は、はっきり言ってその安定択から些か離れたものだった。
例えば、メカ・トレーナーの移動先。
ノブが言うように、スパイクブラザーズには優秀なスキルを持つG2が多く、攻撃の要ハイスピード・ブラッキーと守りの要パンツァー・ゲイルが採用されやすい。
それらのユニットは全てリアガードにて真価を発揮する為、ライド先にはスキルを待たず、最も防御力の高い至宝 ブラックパンサーが望まれる。
ノブヒロが次のターンに10000ヴァンガードにライドすることが確定しているとはいえ、ドライブチェックおよび次のターンのドローでブラックパンサーを引く可能性のある為、パワーの足りない上記G2を補う役割としてメカ・トレーナーが左右の後列に配置されることが一般的となる。
もしその二回のドローでブラックパンサーを引けずとも、次のターンのノブヒロの攻撃で確実にダメージを貰うリョーガは、メカ・トレーナーのスキルを使いダッドリー・ダンをサーチし、ヴァンガードの裏にコールすればガード要求することが出来る。
故に次のリョーガのターンにライドされるG2。それこそが……
「おい、ちょっと待てよ」
「ん?」
ノブヒロの説明の途中に店長はそう割って入ると、≪モクモクフンフン君≫を片手に彼の適当な論理に文句をつけた。
「お前のその理屈で言ったら、例えデビル・サモナーにライドするとしても他のG2と同様にダッドリー・ダンをサーチしてコールすりゃあいいんじゃねぇのか。大体、お前のデッキはどう見てもヴァンガードの連続攻撃を得意とするシュテルン・ブラウクリューガーが主軸のデッキだ。後攻であるリョーガが、デビル・サモナーなんて低パワーのユニットにライドしたらそれこそカモ以外の何物でもねぇ。それでもお前は次のターンにリョーガがデビル・サモナーにライドすると言えるのか?」
してやったりと言った表情で店長はそう指摘した。
片手に常時起動中の≪モクモクフンフン君≫がカード吹き飛ばさないか心配になるものの、彼が言ってることは間違ってはおらず、ライカ達もノブヒロの返答を待った。
「そう焦りなさんな。これはあくまで一般的な運用法を言ってるだけなんだからよ。他のG2ユニットにライドするってんなら単なるプレミだと思うけどよ、コイツがそんなミスを犯すわけがねぇ。どんなプレイングだろうと、理由があるはずだ」
それに対し、ノブヒロはニヤリと笑みを浮かべると、自信満々に答えた。
「まず考えることは二つ。まず第一に、メカ・トレーナーのスキルは何もダッドリー・ダンをサーチする専用のカードってわけじゃあねぇってことだ。状況に応じて安定したパワーを供給できるワンダー・ボーイ、多くの場面で活躍出来るセンチネルのチアガール マリリンをサーチすることだって出来る。
メカ・トレーナー自身もパワー5000と最低限のブーストは可能。安直にスキルを発動させず、ゲームの流れに応じてサーチするカードを選択したほうがいいに決まってるよな。
ただ、既に俺のデッキの最終ヴァンガードのパワーが11000になるのは割れている。左右にメカ・トレーナーを配置した場合は否が応でもパワーの高いG1ユニットに変換するしかないわけだ。
だからこそリョーガはヴァンガードの裏にメカ・トレーナーを配置した。スパイクブラザーズのG3はパワー11000のジャガーノート・マキシマムとスカイダイバー。そしてアタック時に3000のパワー上昇を持つ将軍 ザイフリートがいる。これならメカ・トレーナーのブーストでも俺により多くのガード要求出来る」
「ノブの兄貴の言い分はまぁ合ってると思うよ。でも、それじゃあまだ店長の答えになってないんじゃない?大体、メカ・トレーナーの運用法であんた自身が言った基本的にヴァンガードの後ろにはダッドリー・ダンを配置するってのはどうなのさ。それに、メカ・トレーナーを温存するっていうなら、結局ヴァンガードがデビル・サモナーである理由が不明確になるんだけど」
ミズキがそう指摘すると「チッチッチ」と指を振りながら、ノブヒロは真っ直ぐ目の前の対戦相手に視線を刺した。
「言っただろ?考えることは二つあるってな。
第二に、暁リョーガの適合者としての力。照魔鏡の存在だ」
「ほう」
ノブヒロのこの発言にリョーガは思わず感嘆を挙げる。
「“相手のデッキの中身を筒抜けにする”。これによって、相手の行動範囲を予測、妨害するヒントを掴むことが出来るわけだが、折角それだけの力を持っているならそれを最大限に使わなきゃ勿体ないってもんだ。
そこで俺は、思ったんだ。あんたはあらかじめ、複数のデッキを所有し、相手のデッキに応じてデッキを変えてるんじゃねぇかってな。
俺のデッキはスタンドトリガーが八枚入っているということをあんたは知っていた。なら、そのスタンドトリガーの的になりやすいエスペシャルインターセプトは採用枠から極力削られる。
そうなれば、必然的にG2の枠にはデビル・サモナーが入ってくる。なんせ、カードプールの少ないスパイクブラザーズにとって、他に入れられるG2がいねぇからな。
で、そのデビル・サモナーにライドしたら俺のシュテルン・ブラウクリューガーのカモにされるって話だがよ、そもそもシュテルン・ブラウクリューガーのスタンド効果はクリティカルトリガーが乗って初めて脅威になるんだ。
そのクリティカルトリガー入ってないっていうことなら、例え通したとしてもダメージは2点より増えることはない。むしろ、スキルを使わせて手札を使わせたほうが後々楽になるってわけだ。
後々邪魔になる7000のデビル・サモナーをヴァンガードとして扱うことで無駄なくスキルの発動と消費を両立、それによるリスクまでキッチリ把握している。
そして、ここで第一に戻るとあら不思議。もう一つ浮かび上がってくるものがあるんだよなぁ、これが」
ノブヒロはすまし顔で更にもう一つの可能性についても言及する。
「デビル・サモナーはライドした時にスキルが発動する。つまり、可能性は低いとはいえ、ダッドリー・ダンがスペリオルコールされる可能性があるわけだ。なのに、あんたはメリットがあるとはいえ、ヴァンガードの後ろにメカ・トレーナーを配置した。ということは……」
ノブヒロは右上を天に向けて振り上げると、リョーガの手札に向けて振り下ろしながら指さした。
「既に暁リョーガ、あんたの手札にはダッドリー・ダンが加えられている。違うかよ!」
そう言い放つノブヒロの表情には自信に満ち溢れていた。自身の力を相手に知らしめるかのように。
しかし、それを裏付ける綿密かつ論理的に考えられたノブヒロの考察。まだリョーガにターンが渡ってからライドしかしていないにも関わらず、これほどの考察が出来たことは、今までリョーガのことを見ていたミズキ達にとっても称賛に値するものだった。
「たったこれだけの情報でそこまで考えてたってのか……こいつは」
「……へぇ、やるじゃん」
「す、凄いですね……まだライドしただけなのに、あんなにリョーガさんのことについて言い当てるなんて。本当にあのお兄ちゃんは強いんですね!」
ノブヒロの実力に圧倒される各々。アサギもノブヒロの活躍に興奮しながらそうライカに声をかけた。
「お姉ちゃん?」
しかし、ライカはアサギの声に気づいていないのか、ただジッとノブヒロのほう見ながらどことなく怒りをはらんだ笑みを浮かべていた。
(凄い……。最後にわたしとファイトした時とは比べ物にならないほどの洞察力だわ。やっぱり、わたしとやってた時は本気でやってなかったのね!)
そんな外野の状況など全く気に留めていないノブヒロは、リョーガからの返答を待っていると、彼から放たれたのは答えとは言い難い行動であった。
「メカ・トレーナーのブースト、ワンダー・ボーイでヴァンガードにアタック」13000
「なっ!?俺の力説は無視ってか!?これでも俺はさっきのあんたのお返しのつもりでやったのに……」
まるで何事も無かったかのようなリョーガの攻撃。
この行動にノブヒロは驚きを隠し切れず、少々拗ねたような言い方でそうぼやくと、リョーガは小さく溜め息をつき、口を開いた。
「お前は勘違いしている、椿ノブヒロ」
「何をだよ」
「簡単なことだ。⦅敵に塩を送る⦆というのは、争っている相手が苦しんでいるときに、争いの本質ではない分野については援助を与えることのたとえ。だが、別に俺は苦しんでいるわけではない。無理に難しい言葉を使うと己の品位を落とすことになるぞ」
((そこのツッコミなのか……))
多少リョーガの反応に期待していたミズキ達は、このリョーガの返答に心の底からそう思った。
予想の斜め上からの指摘に反論を言うに言えないでいるノブヒロを傍目に、リョーガはおもむろに手札のカードを二枚取り、それをノブヒロに向けて公開した――
「だが……」
「!?」
――そのデビル・サモナーとダッドリー・ダンを。
「悪くない着眼点だ。ならば見せてみろ。その洞察力から俺を降す手段をな」
リョーガは笑みを浮かべていた。
それは、今までノブヒロが見てきた“ファイトを楽しむ者の表情”そのものであった。
それを見たノブヒロは、リョーガのアタックに対してノーガードを宣言し、これから繰り広げられる攻防に胸を高鳴らせながら言い返した。
「はっ!何上からもの言ってんだよ。言われなくてもそのつもりだぜ!」
能力名:照魔鏡
使用者:暁リョーガ
効力:リョーガが元々持っていた能力の一つ。
相手のデッキ構成をファイトが始まる前から見通すことが出来る。
彼はこの能力を使い、相手に合わせて複数のデッキを使い分けている。