先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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俺の名は……

俺とライカが目の前の青年に目を奪われている中、店長を名乗る男はしめしめといった様子で笑みを浮かべた。

 

(これでこいつらはリョーガに釘付けだな。さて、後の事はリョーガに任せて俺は宝探しの続きでもすっか)

 

俺たちの意識が完全にリョーガに向かれていることを確認した店長は、その場を背に先ほどまで寛いでいたカウンターの方へと足を運ぶ……、

 

ドンドン!!

 

「ったく、今日はついてねぇなぁ。次から次へと……」

 

俺たちが入ってきた扉からノックの音が鳴り響いたのを聞き、店長はそう悪態をついた後、頭を掻きながら重い足取りで扉の方へ進行方向を変えた。

 

ドンドンドンドン……

 

「…………」

 

店長が聞いてから延々と鳴り響くノックの音。その音に従ってか、次第に足取りが速くなり、額には血管が浮き出る。

 

扉の前まで来た店長は、その場で少しの間立ち尽くしたと思うと、扉の向こうに人がいることなどお構いなしに物凄い勢いで一気に扉を開けた。

 

「うっせぇぞ!んな何度も叩かなくても聞こえてんだよ!こうなったのもテメェのじごうじと……」

 

頭に血が上った勢いで、このノックの元凶に制裁を加えようと試みた攻撃であったが、扉の向こうにこの一撃を受けて倒れているはずのものがそこには無かった。

 

老朽化が着々と進行している階段の通路にあったのは、店長の登場に怯える一人の少女と、先ほどのノックの元凶と思しき折り畳み傘を持ちながら意地悪い含み笑い浮かべる少年の姿だった。

 

「今のはテメェだな……!ミズキ!」

 

「今日もタバコ臭いね、店長。でも折角来てあげたのに開口一番でそれはないんじゃない?」

 

鬼の形相と化した店長は、顔を近づけながらミズキに対して眼を飛ばす。そこら辺のチンピラであれば一発で追っ払えるほどの威圧感を放つ店長であったが、ミズキは涼しい顔で店長の顔を見ながらそう言った。

 

傍から見れば完全に小学生に対して大人げなく喧嘩を売るヤンキーという構図が成り立っていたが、この場にそれを止めようとする大人などいるわけがなく、唯一彼らを止めようと奮起するのは可愛らしい少女のみだった。

 

「あ、あの……!け、喧嘩はいけない……と思いま……」

「姉貴は黙っててよ」「嬢ちゃんは黙ってな!」

 

「ふにゅ……」

 

二人に完全に気圧されたアサギは、子犬のような鳴き声と共に崩れるように座り込んだ。

 

その後再びミズキを睨み付けた店長だが、ここまでの流れでミズキが何を企んでいるのかを理解し、顔を離し鼻で笑った。

 

「はっ!さては、さっきここに来た奴らもテメェの差し金だな」

 

「さっきの奴ら?何のこと?」

 

「惚けんじゃねぇ。今しがたここにでかい声上げて二人組が入ってきたんだよ。どうせお前が面白がって連れてきたんだろ」

 

「さぁね、確かに二人組がここに入って行ったのは見てたけど、別にオレが連れてきたわけじゃないし」

 

「そんな顔で言われて信じると思ってんのか、テメェは……まぁいいや」

 

終始面白そうに笑みを浮かべるミズキの態度に店長はそう零した後、埒が明かないと判断し、仕方なさそうに部屋の中へと戻る。

 

「どうせ見にきたんだろ?さっさと入れ」

 

「そうしたいのはやまやまだけど、流石にこんな状態の部屋の中に入るのはいくらオレでも無理なんだよね」

 

「あ?……あぁ」

 

部屋の中を覗いたミズキがそう言うと、部屋の中を再度観察した店長はミズキが何を言いたいかを理解した。

 

部屋の天井を覆い尽くすようなタバコの煙。こんな空間に成長期の子どもを放り込むのは流石に色々不味いだろう。

 

「凄いね、ミズキ君!これなら火事だー!って言われてもわたし信じちゃうよ」

 

「似たようなものじゃない?身体に与える害って意味なら。でもこれじゃずっとドアを開けて喚起しても当分は入れなさそうだね」

 

「ふっ、心配はいらねぇよガキ共!こんなこともあろうかと」

 

部屋の惨状に各々の感想を零す二人に、店長は不敵に笑みを浮かべながらどこからともなく小型の像を模した掃除機のようなものを取り出した。

 

「わぁー、可愛い像さんだー」

 

「……まさかとは思うけど、その掃除式みたいなので煙を吸い込もうなんて言わないよね?」

 

尻尾の部分がクルリと曲がり取っ手の役割を果たし、鼻の部分が掃除機の吸引部分になっているそのどこから見ても胡散臭い象さんを、店長は自慢げに見せびらかした。

 

「こいつは掃除機じゃねぇよ。≪モクモクフンフン君≫だ!」

 

「いや、そういう事を聞きたいわけじゃないんだけど……」

 

「まぁ見てろ」

 

店長はそういうと、≪モクモクフンフン君≫を部屋の中に向けて取っ手の近くのボタンを押す。

 

ブオオオオオオオオオン!!!

 

けたたましい音とともに鼻の吸引部分からすごい勢いで風が吹き出し、先ほどまで部屋を覆っていた煙を一気に払い除けた。

 

「うわぁ、像さんすごーい!」

 

「それ掃除機じゃなくて扇風機だったんだ……」

 

「どうだ?俺の≪モクモクフンフン君≫の性能は。こいつも通販で見つけた優れもんだ」

 

「また通販、本当に好きだよね……あとどうでもいいけど」

 

ドヤ顔を浮かべる店長に、ミズキは呆れた様子で呟きながら店内を眺めた。

 

≪モクモクフンフン君≫によって煙は消えたかに見えたが所詮は払い除けたに過ぎず、密室の逃げ場のない店内の隅に煙がモクモクと漂っていた。

 

「これじゃあ一時凌ぎにしかなんないんじゃない?」

 

「別にあいつらのところまで行く道中に煙が無けりゃ問題ないだろ。また煙が辺りを覆う前にさっさと入れ」

 

「ほんと適当だよね、いつものことだけど」

 

「ライカお姉ちゃん大丈夫かな……」

 

≪モクモクフンフン君≫を辺りに向けながら奥に入っていく店長に、ミズキとアサギは煙の全くない店長の後ろに張り付く形で店内に入って行った。

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「トラプル・ゲイン……」

 

「暁……リョーガ……」

 

まるで息を合わせたかのように俺とライカはそう呟く。俺たちの目の前にいるこの視界を持たない青年が、クラマと同じトラプル・ゲインだというのか。

 

だがこの青年、暁リョーガをじっくりと観察し、今まで俺が出会ったトラプル・ゲインと重ねることで、その風格が紛れもないそれと同じ物だと直感した。

 

過去に俺が出会ったトラプル・ゲインは3人。

 

よく俺にちょっかいを出してきた巫女服の少女、久留麻クラマ。

 

正義と誠実さの塊で、何故か青と白を基調とした騎士のような風貌のフェイ・デュラック。

 

それとは真逆の不実で適当、長い赤髪と同じく真っ赤な服装に至る所にシルバーのリングやらチェーン、終いには手錠まで身につけていた紅ケンタ。

 

トラプル・ゲインの人間はそういうコスプレ染みた衣装が義務付けられているんじゃないかと疑うほど目立つ連中だったが、リョーガもある意味では同類の匂いを発していた。

 

まぁ、そんなことでこいつをトラプル・ゲインの一員として認定していいのかは俺にも分からないけど……。

 

「なんでトラプル・ゲインがこんなとこ……」「わたしは……!」

 

俺が話し出そうとするのと同時に、ライカはそう言いながら前に出る。

 

どことなく嬉しそうに、だが何故か不安そうな、今まで一緒に居た時には見せたことのないこの表情に、俺は思わず口をつぐむ。

 

「わたしの名前はライカ!鳴護ライカ!」

 

ライカは自分の胸に手を当て、リョーガに対して自分の名前を連呼した。知り合いなのか?

 

ライカの自身の主張に、リョーガは特に表情を変える事なくライカの前まで歩み寄ると、手を差し出し笑みを浮かべる。

 

ライカはぱあっと満面の笑みを浮かべると、差し出された手を握った。

 

「リョーガ!わたしのこと覚えて……」「合格だ」

「え……」

 

リョーガの言葉に、ライカは思わず声を零す。思っていた返答とは違っていたからだ。

 

「俺は合格と言った。君にはここにいる適合がある」

 

自分の言ったことが聞こえないと思ったのか、リョーガは笑みを絶やさず付け加えるようにそう言った。

 

「リョーガ……」

 

初対面の相手をするような礼儀正しい態度。彼のこの言動に、ライカは視線を落とし小さく呟いた。

 

(そう……そうよね。名前は同じでも苗字が違うし、わたしの知ってるリョーガがこんな店長のいる店を放っておくわけないもの……)

 

リョーガはそんなライカの手を放すと、今度は俺の方へと顔を向ける。

 

恐らく、今の合格っていうのがさっき店長が言っていたここにいる権利があるってことの答えなんだろう。実際そう言ってたし。

 

「…………」

 

「…………」

 

俺とリョーガは黙ったまま、その場に立ち尽くす。

 

そもそも、そんなことを決められる筋なんか全くないが、ライカが合格を貰ったことで何とも言えなくなってしまい、俺は大学の合格発表で自分の番号が書かれているかを探す最中の気分になった。

 

沈黙が続く中、おもむろに踵を返すリョーガ。まだ判定を聞いていない俺は思わず声をかけようとするが、先にリョーガの声が響く。

 

「⦅武士は常に自分をいたらぬものと思え⦆」

 

「な……は?」

 

リョーガのこの発言に、合否しか考えていなかった俺の頭では即座に対応することが出来ず、ただただ首を傾げることしか出来なかった。

 

「江戸時代の武将、加藤 嘉明の言葉だ。己の能力を常に吟味し、少しずつ目標を達成することで人間は向上する。今のお前ではここに至るには早すぎる。今一度己と見つめあい、見合った目標に向けて努力を積むことだな。さぁ、行こうか。ライカ」

 

「え……ノブ……」

 

そう言うと、リョーガはライカの手を取ると先ほどまでいた店内のほうへと足を進める……

 

「おい!ちょっと待てよ!ファイトもしないで何がここに至るには早すぎるだ!冗談じゃねぇぞ!」

 

当然今のリョーガの言葉に納得のいかない俺は、そう言ってリョーガに走り寄り、肩を掴む。

 

これでも俺は自分の実力には自信はある。何回も言ってる気がするが、ファイトの経験だったら誰にも負けない自信があるんだ。そんな一言で片づけられては俺のプライドも黙ってないぞ。

 

すると、リョーガは冷めた表情でこちらに振り返り、げんなりとした様子で口を開いた。

 

「わからん奴だな、貴様は。折角俺がオブラートにここから退くよう諭してやったというのに」

 

「何がオブラートだよ!俺はここに用があるからこうしてわざわざ足を運んでんだ!そんな簡単に引き下がれるかってんだよ!大体、なんでライカはよくて俺はダメなんだ!理由を言え!理由を!」

 

(ノブ……なんか顔が引き攣ってる……)

 

リョーガのその態度に少しカチンと来た俺だったが、決して笑みを絶やさなかったのは流石と言ったところか。ライカがなんか心配そうにこっち見てるけど。

 

俺がそう満面の笑みで怒鳴り散らすと、リョーガは重いため息をつきながらライカの手を放し、俺と相対し、自分の眼を親指で指を指した。

 

「俺はトラプル・ゲイン。お前は知らんかもしれんが、俺には常人には持ちえない力がある」

 

「常人には持ちえない力……規格外適合者ってやつか」

 

「なんだ、知っているのか。ならば話は早い。俺の能力の名は照魔鏡(プロビデンス)。近くにいる人間の持つ適合者の適性を見透かす能力だ」

 

「近くの人間の適合者の適性!?」

 

クラマの能力と被ってないか……。まぁ、今はそれを置いておくとして、リョーガが何を判別して合否を決めているかを俺は認識した。

 

つまり、こいつはその照魔鏡(プロビデンス)とかいう能力で適合者を受けいれているということ。たしかにそれならライカが合格で俺が不合格というのにも納得が言った。

 

ご存知の通り、俺には適合者として特別な能力は持ち合わせていない。しかし、ライカにはそれがある。

 

それもあって、俺は今までライカとのファイトでほぼ負けていた。

 

「これでわかっただろう。ここに残れるのは強者のみ、つまり適合者としての適性を受けた者だけだ。お前にはそれが無かった。⦅過失者は生まれ変わらせて使え⦆という言葉があるが、どうやら俺にはそれを実行には移せなかったようだ」

 

リョーガの言ってることはたしかに的を得ていた。折角ファイトするなら強いやつがいい。まして相手が適合者であれば、通常では味わえない珍味以外の何物でもない。

 

もしかしたら、少し昔の俺だったらここで引き返していたかもしれない。しかし、今は違う。

 

「だから俺にここからいなくなれってのか。確かに俺には適合者としての適性はねぇし、ライカとのファイトだっていっつも敗けちまってる。だが、それは昔の話だ!今なら誰とやっても負けない自信がある!」

 

「……たしかに自信があるというのはある種の才能だ。だが、ここでそれは通用しない。大人しく……」

 

リョーガはそこまで呟くと、突然口を閉じる。何事かと思った俺だったが、後ろから聞こえるけたたましい音に、思わず後ろを振り向いた。

 

「あ、やってるやってる」

 

「どうだ、リョーガ。話はついたかよ」

 

「ライカお姉ちゃん!大丈夫!?」

 

そこには何故か像のような何かを握る店長と、先ほどまで一緒にいたミズキとアサギの姿があった。

 

「お前ら……っていうか、あんたの持ってるのなんだ?凄い風圧だな」

 

「これか?こいつは≪モクモクフンフン君≫だ!」

 

「やめときなよ。話が長くなるから。それで?ここは目的の場所だった?」

 

物凄い勢いで煙を押しのける象さんに少し興味があったが、このミズキの一言にそんな興味はどっかいった。

 

「ミズキ……お前こうなることを知ってやがったな」

 

「だから言ったじゃん。後悔するって。その様子だと、どうやらそっちの姉貴のほうは良くてノブの兄貴はダメだったみたいだね」

 

ミズキはライカの傍に走り寄るアサギを眺めながらそう言った。

 

「よかった!ライカお姉ちゃんは認められたのね!これで一緒にファイト出来るね!」

 

「え……えぇ。そうね……」

 

先ほどより人が増えたことで騒がしくなり、≪モクモクフンフン君≫のおかげで多少煙が払われた店内。リョーガは表情を変えることなくおもむろに口を開いた。

 

「……騒がしくなったな。ミズキ」

 

「もしかして怒ってる?」

 

「馬鹿を言うな。むしろ感謝している」

 

名を呼ばれ、ミズキはニヤリと笑みを浮かべながらそう言うと、リョーガも同じように笑みを浮かべた。

 

「こうして新たな仲間が出来たのがお前のおかげだというのならば、俺は最大の称賛をやろう。⦅勝った時には褒美を、負けた時には優しい言葉を⦆」

 

「流石。リョーガの兄貴は話がわかるね。ノブの兄貴も見習った方がいいんじゃない?」

 

「お前なぁ……ってか、ちょっと待て!たしかここに居られるのは適合者だけって言ってたよな。まさかミズキとアサギも……」

 

生意気なミズキにムカッときた俺だったが、先ほどのリョーガの言葉を思い出し、ミズキとアサギの二人を交互に見た。

 

「なんだ、結構察しはいいんだね」

 

ミズキはそう言うと、店長と共に俺の横を通り過ぎ、リョーガの横に移動する。

 

つまり、ここにリョーガ・ライカ・ミズキ・アサギの4人の適合者が揃ったということか……。

 

「お前の推理通りだ。この二人も俺と同じ規格外適合者。俺たちはもうすぐ始まる第三回ヴァンガードチャンピオンシップに向けて仲間を集めている。最低でも5人集めなければ出場できんからな」

 

「そ、そうだ!大会に出場するには5人いる。しかも大会出場出来る期限はもうない!だから俺もこうして大会に参加する仲間を探してたんだ!頼む……俺も仲間に……」

 

「勘違いするな、三下。俺は別にこの大会に参加したいんじゃない。この大会で勝ち続けることこそが俺の目的だ。⦅戦に勝つということは、五分を上とし、七分を中とし、十分を下とする⦆これだけの戦力があれば良いという油断が、足を救われる原因となる。お前のような不適合者を入れてそのような余念を残すのであれば出場しないほうがましだ」

 

こんなに頼んでもダメなのか……。なんつう頭のかてぇ野郎だ。こりゃあ本格的に何かこいつの興味を誘ってなんとかファイトまで持っていくしかないな……。

 

ファイトさえ出来れば何とかなる。以前久我マサヨシとファイトした時のようなことは絶対起こさせはしない。

 

そう、今の俺なら――

 

「ちょっと!そんな言い方しなくたっていいじゃない!ノブもわたしもここまで苦労してやってきたのよ?それに、あなたの能力、照魔鏡(プロビデンス)だっけ?多分それ完璧じゃないわよ」

 

「何?」

 

先ほどまで落ち込んでいたライカだったが、アサギの登場で少し気を紛らわせたのか、いつもの調子で笑みを浮かべながらリョーガにそう言った。

 

「だって、ノブが適合者じゃないわけないもの。たしかに普段はわたしがいつも勝ってるけど、それはノブが本気出してないだけで第一大会の時は凄かったんだから!」

 

「第一大会……そうか、お前らも第一大会の出場者か。それなりのファイターであることは認めよう。だが、俺の照魔鏡(プロビデンス)は絶対だ。適合者を見間違うことなどありえん。これはピオネールの如月トキと共に編み出した能力なのだからな」

 

ライカの挑発も虚しく、リョーガは自分の能力の絶対性を揺らぐことは無かった。

 

恐らく、俺が大会の成績を言ったとしても嘘と決めつけられるか、もしくはその程度かと一蹴されるのが落ち。こいつの適合者へのこだわりはかなりのものだ。

 

何かないのか……。不適合者である俺とファイトしたくなるような何かは……。

 

そうだ!不適合者じゃない有名なファイターだと偽るってのはどうだ!

 

……いや、そもそもそんな奴いるのか?大体、有名なファイターって時点で顔バレしてるだろうし、偽るっていうのは流石に無理があるか……。

 

「全くしつけぇな。こいつ」

 

「諦めなよ。どんだけ考えたってリョーガの兄貴は考えを曲げるような人じゃない。時間の無駄だよ」

 

「――そういうわけには……いかねぇんだよ!」

 

無駄なもんか。俺にはここで引き下がれねぇ理由があるんだ。

 

俺はアネモネで決意したんだ。絶対にアイツと再びファイトすることを、小野クリアと真剣勝負することを……!

 

その為にはこいつを認めさせる必要がある。ファイトでこいつを見返す……!

 

しかしどうしたら――

 

 

 

『お前のような不適合者』

 

 

 

いや、待てよ――

 

 

 

『第一大会の出場者か』

 

 

 

なんだ、簡単じゃねぇか――

 

 

 

『ピオネールの如月トキと共に編み出した』

 

 

 

あるじゃねぇか、こんなに近くに――

 

 

 

『小野クリア』

 

 

 

この問いの答えが――

 

 

 

「くぅ……本当に意地っ張りの男ね!言っとくけど、ノブを入れないならわたしもあんたの仲間になるなんてまっぴらごめんだからね!」

 

「え……ライカお姉ちゃん一緒にヴァンガードやらないの……?」

 

「え!?そ、そんなわけないじゃない!え、えーっと……」

 

リョーガになんとか対抗しようとするが、アサギの寂しそうな声を聞いて困惑するライカ。

 

「もういいんじゃない?リョーガの兄貴が考えを改めない限りこの人に返す言葉なんてないし」

 

「それもそうか。⦅組織を保つ秘訣は、下の者の意見をよく聞くこと⦆ライカの能力も見ておかねばならんしな」

 

「じゃ、俺は今度こそ宝の散策でもすっかなぁ」

 

リョーガ・ミズキ・店長の三人は、顔を俯かせる俺を見限ると、踵を返す……

 

 

 

 

 

 

「ふっふっふ……」

 

「なんだ?」

 

踵を返した三人は、突然の笑い声に再び俺のほうへと視線を向ける。

 

「はっはっは……なーはっはっは!!!」

 

「なんなんだ?」

 

「あまりにどうしようも無さ過ぎても頭がおかしくなったんじゃない?」

 

唐突な俺の高笑いにそれぞれの反応を見せるリョーガとミズキ。

 

「あまりにどうしようも無さ過ぎて?はっ!ちげぇねぇや!ったく、まさかこんなところで正体をばらす羽目になるとは思ってなかったぜ」

 

「正体だと?」

 

「ノブ、本当に大丈夫?」

 

俺の様子が変になっていることを気にしてライカはそう問いかけるが、はっきり言って心配される要素など俺には何もない。

 

「大丈夫かって?そんな心配は無用だぜ、ライカ。むしろ俺は今最高にハイってやつだからなぁ!」

 

「いや、お前は頭がおかしくなっている。この状況でハイになれるわけがない。ファイトをするまでもなく、俺は適合者ではないお前を絶対に認めないんだからな」

 

「いんや、俺は正常だぜ、暁リョーガ。そしてお前は次に俺とファイトしたくなる。この不適合者である俺とな」

 

「何?」

 

俺の一言に、リョーガはあからさまにしかめっ面を浮かべる。だが、そんなもんは関係ない。

 

俺は愛用のバンダナを巻いた左腕を振り上げ、親指で自分を指す。

 

 

 

 

 

「俺の名は椿ノブヒロ!今や伝説して語り継がれる第一回ヴァンガードチャンピオンシップにおいて、決勝トーナメントまで上り詰めた無敵の代名詞、ピオネールが一人。その名も……≪リセ≫!それを証明するのは、お前自らが言った不適合者であるからだ!」




これから一気に適合者の比率が高くなってくるので、次からここで能力の概要などを書いていきます。興味の無い方は飛ばしてもらって結構です。

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