早速ですが、更新が極端に遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
基本的に話の本筋はあらかた考えてはあるんですが、今回の話はまだ細かい設定が定まっておらず、それを考えるのに時間がかかってしまいました。
いつもお世話になっている方々にはご迷惑をおかけしましたが、これからも執筆を頑張って行く所存ですので、これからもどうぞよろしくお願いします。
あと感想も随時お待ちしております!
「にしても暇ね……。あっそうだ!こうぼんやりしてるのも勿体ないしファイトでもしない?」
俺が物思いに耽っていると、ライカは思い出したように笑顔でそう提案してきた。
「いや、流石にそれは無理だろ。まず場所がないし」
「あー、そっかー。確かにヴァンガードだと結構場所取っちゃうか。それじゃヴァイスのほうでもする?」
「何が違うんだよ!なんだったらあっちのほうが場所取るんじゃないか!?」
俺も相当ファイト好きな方だが、ライカには敵わない。
ヴァンガードに限らず様々なカードゲームに精通しているライカは、あらゆるジャンルのデッキを常備しているらしく、何時でも誰でもデュエルだったりファイトだったりしているらしい。
俺もそんなライカに誘われて色んなカードゲームをやらされてきたが、やっぱりヴァンガードが1番だな。
「とか言って他のやつやりたくないんでしょ?本当にノブはヴァンガード以外からっきしなんだもん」
悪戯っぽく笑いながらライカはそう言った。
本当にライカの相手は調子を狂わされる。こんなに俺がツッコミをするのはライカくらいなもんだ。
「悪かったな。大体ヴァンガードだってライカのほうが勝率いいんだからカードゲームじゃあライカには敵わないよ」
俺は若干捻くれながら窓際に肘をつきそうぼやくと、ライカは何故か頬を膨らませ怒りの表情を作り、こちらに顔を突き出した。
「それはノブが本気でやってないからでしょ?自分でそう分かってるならそろそろ初めてファイトしてくれた時みたいにこうズバズバ!っとやってくれると嬉しいな」
「それは何の擬音語なんだ……?前から何度も言ってるだろ。俺が手加減するはず無いって」
このライカの問いに、俺はまたかと内心呆れながらでそう返した。
それというのも初めてファイトした大会終了後、別の日にまたファイトをしたんだが、その時から何度も言われていたからだ。
なんだったらその最初の時の方が適当にやっていたっていうのに……。
「ふーん、じゃあこれからもわたしとのファイトは負けっぱなしでいいんだ。そんな気はしてたけど、やっぱりノブってドMだったんだ」
「ドMではねぇよ!それに俺だって日々進化してるんだ。今までみたいに行くと思ったら大間違いだぜ」
誤解を生まぬようきっちり否定した俺は、ニッと笑みを浮かべながらそう言い放った。
「ふーん」と何とも疑い深い表情浮かべたライカであったが、フッと笑みを浮かべた後に「期待しとくわ」と呟きながら自分の席に座った。
「あ、そういえば思ったんだけどさ」
「ん?何をだ?」
ライカは座った途端にそう思い出すようにこちらを見ながら呟くと、俺はその視線が俺の頭部向いていることを感じた。
「いやさ、ノブって昔は頭もじゃもじゃだったけど今は普通になったなーって」
「だからもじゃもじゃはやめろ。絶対アフロと勘違いするからね。っていうか絶対いるからね、勘違いしてる人。俺のあれは天パーだからね。アフロじゃないからね」
俺は自分の頭を押さえながら無表情でそう言った。
昔から頭のことにコンプレックスがあった俺だったが、以前にライカ、そして狭間レイに頭のことを言われたことで克服することを決意した。
壮絶な手間とお金を浪費するに至ったが、俺の頭は完全無欠のセットされたイケメンヘアーに進化している。
梅雨を憎み、夏を憎み、学校で初見の先生からまず怒られ、何故か雨の日がわかる特技が身に付き、油断すると何物から目や耳を攻撃されたりする俺はもういない。
もう誰にももじゃもじゃとは言わせない。
そんな俺の全力を込めた否定の声がよほど面白かったのか、ライカは腹を抱えながら笑った。
「そんな全力で否定しなくてもいいじゃない。大体天パもアフロも似たようなものじゃない?」
「お前は今、全国の天パーを敵にまわした」
「なんか性格変わってない?大体、その言い方は全国のアフロの方を敵にまわしてると思うけど?」
「グッ……」と思わず怯む俺は、やはりライカに口で勝つのは無理だと察する。
そもそも俺はもう昔の俺とは違うじゃないか。何をむきになっていたのか。
俺は落ち着く為に大きく深呼吸をすると、詫びるように頭を下げた。
「悪い、ちょっと暴走してた。どうにも頭の事を言われると目の前が真っ白になっちまうんだよな……俺ってやつは」
「あ!ううん、わたしのほうこそごめん。そこまで深刻に悩んでたなんて知らなくて……。でも今の髪型はカッコいいと思うよ!うん、マジマジ!」
「そう言ってくれると頑張ったかいがあるってもんだ。まぁ、この話はこれで終わりにして、もうすぐ目的の駅に着くんじゃないか?」
俺は窓から現在止まっている駅の名前を見ながらそう尋ねた。
「あっ、もうそんな時間なんだ。そうね、そろそろ出発する準備をしたほうがいいかも」
「そういえば今から行くところって子どもの頃に行ったきり行ったことがないんだろ?道とか覚えてるのか?」
俺は不安そうにそう聞くと、ライカは誇らしげに胸に手を当てた。
「任せときなさいよ!小さい時はもうしょっちゅう通ってたし、元々記憶力だってそこまで悪くないんだから!それに、もしわからなくなっても……」
ライカはおもむろにポケットに手を突っ込み、中から四角い物体を取り出した。
「携帯のナビ機能を使えばどこにいたって一発よ!」
「現代技術の勝利だな」
そんなこんなあって目的の駅についた俺たちは、そこそこある荷物を持って駅の外に出た。
外に出た俺たちの前に最初に見えたのは人通りの少ない商店街。昔は栄えていた名残はあるが、今は完全にシャッター通りと化しており、時代の流れを感じさせる。
「ここも随分変わっちゃったなぁ……」
「たしかにこういうのを見ると寂しい気持ちになるよな……。あと悪い予感も……」
「悪い予感?どうして?」
冷や汗を流す俺に、ライカはそう問いかける。
「いや、これを見る限りだとライカの言ってた店ももしかしたらここと同じようになってる可能性が……」
「だ、大丈夫よ!たしかに昔より店が少なくなってるけど、カードゲームは今がブーム!賑わらないわけがないわよ!」
「だといいんだけどな……」
ひとまず先に進む俺とライカ。
ちらほら人は見かけるが、あまり治安が良くないせいか、いかつい顔のお兄さんや、ホームレスのおじさんだったりと、その場で人に道を聞くのは難しい状況だった。
「なぁ、ライカ。それでここからどう行けばいいんだ?」
つまり、ここから先はライカの記憶が頼り。そう思った俺は、道順を尋ねようと後ろからついてきてるライカに声をかけながら後ろを振り返る。
「ちょっと待って。この辺店の名前がたくさんあってどこになにがあって自分がどこにいるのかよくわからないのよ」
「はじめっから秘密兵器使っちゃってるのか……」
先ほどの自信はどこへやら……。携帯と睨めっこしているライカに困惑した俺は、溜め息をつきながら辺りを適当に見渡していると、携帯を弄りながら歩いている小学生くらいの男の子を発見する。
「なぁ、君。ちょっといいか?」
「何?」
早速少年に近づいた俺はそう道を尋ねる。俺のことに気づいたその少年は、視線を携帯から俺の方へと向けた。
極端に小さな黒目とそれにともなって広がる白目。俗にいう三白眼と、青と黒が混じったような短髪を蓄えたこの少年は、無関心な態度で口を開いた。
「この辺にカードショップがあるって聞いたんだけど、どこにあるかってわからねぇかな?」
「カードショップ……まさかとは思うけど、もしかして『アンノーン』を探してるの?」
「『アンノーン』?なんだそれ、カードショップの名前か?」
何のことかさっぱり分からなかった俺は、そう少年に聞き返すと、何やら俺をジッと品定めするように凝視し、含み笑いをするとくちを開いた。
「……さぁね。この辺にあったカードショップ……っていうか、見ればわかると思うけどこの辺の店は軒並み潰れちゃったからね。昔はあったらしいけど、今はそのお店も潰れちゃったんじゃない?」
「じゃない?ってお前……結局カードショップあるのかないのかどっちなんだよ」
まるで俺をからかっているかのような言い方をする少年は、再び携帯を弄りながら俺の横を通り過ぎた。そんな少年に対し、俺は慌てて呼び止める。
「お、おい!今度は無視かよ!」
「別に。ただ、面倒事に巻き込まれるのはごめんってだけだよ。オレも暇じゃないし。でも、一つだけ教えておいてあげるよ」
少年はそう言うと、弄っていた携帯をポケットにしまい、怪しげな微笑を浮かべながらもう片方のポケットから四角い物体の何かを取り出した。
「あんた達が探してる場所はここにはないよ。確実にね」
「それは……ヴァンガードのデッキケース!?お前もファイターだったのか!頼む!教えてくれ!お前が通っているカードショップがどこにあるのかを!」
少年の持つカードケースのロゴから、それがヴァンガードのデッキケースであることを知った俺は、この少年が俺たちの求める情報を握っていると確信する。
しかし俺がそう頼んでも、少年は気に留めることもなく己の進行方向へと体を向けた。
「言っとくけど、オレはそれにイエスともノーとも言わないよ。気になるならついてこればいいんじゃない?多分、後悔することになるだろうけどね」
「後悔ってどういう……っておい!」
俺の声も聞く耳持たずというような態度で、少年は歩き始めた。
「ったくなんなんだよあいつは……。見た目通りの生意気坊主だなありゃあ。ま、あてもないしついていくしかないか……って、その前にライカを呼ばないとだな」
少年の後ろ姿を見失わないよう、地図検索に没頭しているライカに事情を説明し、俺たちは少年を尾行するかの如くついて行った。
その折、少年にとても興味を湧いたライカはまるで俺の後ろに隠れるようにしてついていったが、こちらの様子が気になった少年がこちらのほうを振り返った際にライカの存在に気づき、何とも言えない表情で冷や汗をかいていた。
「……なんで一人増えてるわけ?」
「まー気にすんな。ついていくくらい一人も二人も変わんねぇだろ」
「ねぇねぇ!君何年生!?こっちにカードショップがあるって本当なの!?」
「……うるさい。ついてくるだけだったら話しかけないでよ」
「うっわー!マジかっわいー。やっぱり子どもはこれくらい生意気じゃないとね!」
「なんだなんだコイツ……」
勝手に盛り上がっているライカに少年は困惑の表情を示すと、まるで逃げるように走り出した。
「あっ!逃げた追いかけるわよ!ノブ!」
「お、おう……」
ライカが本来の目的を忘れていないことを真に望む。
少年は俺たちを振り払うように全力で走ってるようだが、所詮は子ども。体格差もあり、追いかけるのは容易だった。
しばらくして、少年はとある建物の前で足を止める。後ろから追いかけていた俺たちは、その建物を眺めた。
その建物は2階立てで、よくある各階に別の店を営んでいる構造のもので、一階は他の建物と同じようにシャッターで閉ざされているが、2階には窓ガラスに『カードショップ』と書かれてあり、一目そこが俺たちの目的の場所だと認識できた。
「どうやらあいつについてきて正解っぽいな。ここがライカが昔通ってたカードショップか?」
「うん、場所的には合ってるし、間違いなくここであってるんだけど……なんか昔とちょっと違う気がするのよね……」
ようやく見つけたというのに、ライカは何故か不安そうな表情でそう呟きながらその建物眺めた。
「そりゃあ実際に変わってるからな、この商店街全体が。じゃなきゃこうして小学生を追い掛け回すという事案が発生しなかったわけで……」
自分で言ってて思ったが、今自分達がやってる行いって犯罪なんじゃないか……?まぁ俺たちもまだ学生だしな、多分大丈夫か……。
そんなことを考えながらおまわりさんがいないか辺りを見渡す最中、ライカはこの建物の違和感に気づいた。
(思い出した……。無いんだ、あのカードショップの文字の下にあるものが……。このショップの名前が……)
軽いペースでついて行った俺たちは、ようやく少年に追いつく。少年は俺たちを待っていたのか、肩を揺らしながらあきれた表情でため息をついた。
「本当についてきたんだ……。あんた達も物好きだね」
「そりゃあ俺たちも引くに引けない事情があるからな!」
「ねぇ、君。ちょっと聞きたいことがあるんだけど……」
ライカは先ほどと打って変わって少し不安そうにそう問いかける。
「別にいいけど、答えるかどうかは俺の勝手だよ」
「うん、それで大丈夫。あの二階の窓ガラス、あそこにカードショップって名前が書いてあるけど、その下にも何か書いてなかった?ほら、ショップの名前とか」
「ショップの名前……?」
ライカはその窓ガラスを指さしながらそう少年に伺う。
よく観察してみると、たしかに窓ガラスの大きさに比べてカードショップの文字が小さく上よりの場所に書いてあった。
たしかにあのレイアウトだと、その下にデカデカとショップの名前が書かれてたほうが自然だろうな。
「さぁね。オレがここに来た時からここはこんな感じだったし。そもそも、ここのショップに名前なんて無いんだし」
「ショップの名前がない!?どうして?」
「オレが知るわけないじゃん。だからオレ達はここのことを『アンノーン』って呼んでる。店長も話したがらないし、オレもそこまで名前に興味があるわけじゃないしね」
「そう……」
ライカは落ち込んだ様子で小さくつぶやいた。
「まぁそんな落ち込まなくてもいいだろ?ショップはきちんとやってるんだから直接その店長さんに聞いてみようぜ!」
「そう……そうね。店長に会えばきっと何かわかるわよね!」
俺がそう元気づけると、ライカも少し無理矢理ではあるが笑顔を取り戻した。
あのライカがここまで落ち込むのは初めてだ……。余程このショップに思い入れがあるんだろうな。
「そういうことだから、早速行こうぜ!」
「はぁ、なんか事情がありそうだけど、とにかくオレ達は巻き込まないでよ。」
「おう、任せとけ!」
「不安だな……」
少年はなんとも釈然としない様子で建物の右側にある階段へと歩みを進めた。
俺が任せとけって言ったのにどうして不安に思うんだ……?俺にはわからん。
っていうか、オレ達ってどういうことだ?この少年以外にも誰かいるのか?
俺のこの疑問は、階段のを上る際に響いた可愛らしい声によってはっきりすることとなった。
「あー!やっと来た!ミー君おっそいよ!わたしずっと待ってたのに!」
階段を上っていくと、先ほどの窓ガラスがあった階の扉の前でこちらを仁王立ちで見下ろす人影があった。
見た目は小学生か中学生の少女で、少年と同じような黒と青が混じったような髪を、サイドは肩にかかる程度のショート、後ろ髪は腰ほどまでに伸ばし、リボンで縛って右肩から降ろしている。
目元以外はどことなく少年に似ているその少女は頬を膨らませながら少年に対してそう訴えてきた。
「それは姉貴が勝手に先走ったからじゃん。っていうか、ミー君って猫みたいな名前で呼ぶのやめてって前にも言ったよね」
姉貴……ということはこの子はこの少年の姉なのか。でもたしかにミー君は猫っぽい……いい例えをするな。
「だってこっちのほうが可愛いもん!どうしてわかってもらな……ひゃう!?」
少年の言葉にだだをこねていた少女は、少年の後ろからついてきた俺たちに気づいたのか、今までの威勢から一転して飛び上がり、少年の陰に隠れこちらを恐る恐る覗いてきた。
「こ、この人たちは誰……?知り合い?」
「知らない。なんかカードショップの場所が知りたいって勝手についてきた。姉貴は別に気にしなくていいよ」
「気にしなくていいって……凄くこっち見てきてるんだけど……」
別に見てるんじゃなくてそこに君たちがいるから先に進めないだけなんだけどな。
俺たちが上ってきている階段の横幅は大体俺の身体1.5人ぶんくらいの広さしかなく、そこで普通に立ってられると店の中に入れなかった。
俺たちは怪しまれないよう全力の笑顔を作り、なんとか警戒を解いてもらおうと自己紹介を試みた。
「あー、そんなに怯えなくても俺たちはあやしいもんじゃないぜ?俺の名前は椿ノブヒ……」「わたしはライカ、鳴護ライカよ。実は昔ここのカードショップに通ってて、久しぶりにここに顔を出そうと足を運んできたのよ。あなた、名前は?ここにはよく来るの?」
俺が自己紹介を始める最中、突然後ろにいたライカが無理矢理俺を押しのけて前に出ると、少女に顔を近づけてそう問いかけた。
「名前は……アサギ……。大きなカードショップだと人がたくさんいるから……」
「そうなんだ、アサギちゃんは人見知りな性格なのね。ヴァンガードは好き?」
「大好きだよ!あんまり強くないですけど……わたしのユニットが活躍させられた時がとっても楽しいの!」
「そっか!じゃあ今度その自慢のユニット達をお姉さんに見せてほしいなー。いいかな?」
「うん!いいですよ!ライカお姉さん!」
「ありがとう、アサギちゃん」
ライカ……子どもを手なずけるの滅茶苦茶上手いな……。完全に俺が除け者になってるぞ……。
「本当になんなんだコイツ……。オレの時とは全く対応違うじゃん」
「それが男ってやつなんだぜ。ミー君」
「何の解決にもならないこと言わないでほしいんだけど。後オレがその呼び方を嫌ってるってさっき聞いてなかったの?」
「いや、だって俺お前の名前知らないし……」
どうやら俺はライカと違って子どもの相手は得意ではないようだ。わかってたことだけど……。
少年は重いため息をつくと、階段の奥の壁にもたれかかり、口を開いた。
「オレの名前はミズキ。あんた達、ここのショップに用があるんじゃなかったの?さっさと入ったら?」
多分俺たちのことを鬱陶しく思ってるからそう言ってるんだろうな。性格は良いとは言い難いが、俺たちをここまで連れてきてくれたのには感謝しないといけないな。
「ありがとうな、ミズキ!道を教えてもらってよ」
「別にいいよ。あんた達が勝手についてきただけだし」
「素直じゃないわねー。アサギちゃんはミズキ君のお姉さんってさっき言ってたけど、ミズキ君はいっつもこんな感じなの?」
「はい、そうですよ。でも根はとっても優しいんですよ。わたしよりもしっかりしてるし自慢の弟です」
「だそうよー。良かったわね、ミズキ君」
「……さっさと行けよ」
ニヤニヤ笑うライカにミズキはぶっきらぼうにそう言った。完全に照れ隠しだな。
「さぁ、それじゃ行きましょうか!」
「ライカ……いつになくいい笑顔だな」
もう弄るのにも満足したのか、ライカは満面の笑みを浮かべながらそう言った。
ミズキとアサギは俺たちに道を譲るように奥の方まで詰めると、俺はドアの前に立ちドアノブに手をかけ、自分がここに訪れた目的を頭の中に巡らせる。
ここに来たのはヴァンガードチャンピオンシップに出場する為、そして最終的にクリアとファイトをすることだ。
そしてそこまでたどり着くには俺だけの力だけでは不可能。仲間との協力は不可欠だ。
「よし行くぞ!」
「おっけ!」
そんな不安要素が多くあることを再認識した俺は、気を引き締めてドアノブを回してドアを開けた。
「あ、そうだ。ねぇミズキ君、勿論ライカお姉ちゃん達にあのこと話してあるんだよね?」
俺たちが中に入って行ったのを見て、アサギはおもむろにミズキにそう問いかける。それに対してミズキは、悪戯っぽく笑うと口を開いた。
「話してないよ」
「えぇ!?話してないの!?」
「だって聞かれなかったし。でも忠告はしたんだ。文句を言われる筋合いなんて無いよ」
「もう!ミズキ君ったら悪戯がすぎるよ……。お姉ちゃん達大丈夫かな……?」
* * * * *
二人より先にショップの中に入った俺とライカ。
いつもなら初めてのショップにワクワクしてるものだが、今回は違った。
「煙い!なんだこりゃ!」
「この匂い……タバコ?」
ショップの中はカードショップではあり得ないようなタバコの煙がたちこめており、俺たちはワクワクよりもそれに対しての驚きのほうが大きかった。
「ったく、どうなってんだよ……。カードショップでタバコとか……。カードに匂いがついたらどうするんだよ……」
「その心配がないのかもよ?その証拠にほら」
ライカはそう言いながら部屋の中にあったショーケースを指さす。
俺もそちらに視線を向けると、中にはカードなど一枚も入っておらず、それどころかここ最近まで全く触れた形跡がみられなかった。
もはやここが本当にカードショップとして機能しているのか怪しくなってきた……。俺たちはとりあえずショップ内を見渡し店長を探した。
店内はそこそこ広かったが電気が全くついておらず、光源が窓から差し込む日差しだけの為か、部屋の奥のほうは薄暗い。
一応掃除はしていることから、管理はされているようだが、小学生であるあの二人がこんなところに通っているのが信じられない……。タバコ吸うならせめて換気しろよ……。
そんなことを思いながら辺りを見渡していると、カウンターでパソコンの前に座る一人の男性の姿があった。
そしてその手には、この煙の原因であるタバコが握られていた。
俺たちは早速文句を言いに、その男性の元へと歩み寄った。
「おい、あんた!」
「あ?」
カウンターに足を乗せ、右手でマウスを、左手でタバコを器用に操る男は面倒臭そうにそう返した。
全く生気を感じさせない死んだ魚のような目で俺とライカを捉えると、カウンターに乗せていた足を降ろし、立ち上がった。
「なんだてめぇら。お前らみたいな奴が来るなんて聞いてねぇぞ」
「んなことはどうでもいいんだよ!なんでタバコなんか吸ってんだよ!」
「そうよ!大体あなた誰よ!こんなことしてここの店長が黙ってるわけないわ!」
俺たちはそう口ぐちに文句を言うが、男は全く気に留めることなくただただ俺たちを観察していた。
「おい!なんか言えよ!」
「あ?ああ、安心しろ。店長は俺だ。ここで何しようが誰も咎めたりしねぇ」
「嘘よ!そんなはずないわ!だって……」「ちょっと待てよ、お前ら」
ライカが言い終わる前に、店長と名乗る男は俺たちのほうへ手を突き出し静止させた。
「お前らここのよく知らねぇだろ。ここは会員制のショップだ。他のショップみたいに万人を受け入れるショップとは違ぇんだよ。ここにどんな用があるにしろ、まずはその権利がお前らにあるか確かめる必要がある」
「会員制のショップ!?そんな話聞いたことないぞ!」
「そりゃそうだ。なんせ最近そういうことになったんだからな」
一体こいつが何を言っているのか理解できない……。
会員制のショップ……?そんなんで商売が成り立つのか……。事情を聞くにもその権利があるか確かめるってどうやって確かめるんだ?
恐らくライカも同じことを思っているのだろう。怒りと混乱が入り混じった様子で男のほうを見ている。
「ふっ、どうやってその権利を確かめるんだって顔してるな。安心しろ、時間はかからねぇ。ただ、とある人物から了解を取ればいいだけだからな」
「とある人物……ここにはあんた以外にもいるのか?」
「そういうこった。おい!選定の時間だぞ!」
男は薄暗い店内の奥の方へ向けて何者かを呼んだ。
俺たちもそれに従って、店内の奥に視線を向けると足音と共に一人の人物が現れた。
白いフードを被り、水色の前髪の俺たち同い歳くらいの青年。しかし、一目見てこの青年が只者でないと俺とライカは察した。
「なんだコイツ……」
「どうしてそんなものを巻いてるの……」
あろうことか、青年は自分の目を包帯で巻いていたのだ。視覚を封じられているのは明白だが、そんな中でも青年は俺たちを認識しているのか、俺たちの前まで来ると歩みを止めた。
それと同時に、男はその青年の横まで歩み寄ると、その肩に手を置いた。
「紹介してやるよ。こいつの名前は『暁リョーガ』。かの有名なフーファイターズ、