先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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最近のカードって直線的に強いカードが多くて意外性のある勝ち方を考えるのが辛い……。

そういう意味では、条件が色々と緩い昔のカードは本当に重宝してます。

まぁ、それにも限界はあるので何か出来ないか色々考えておきます……。


負けられない理由

「それは絶対に違うわ!かげろう使いのリセはこいつに決まってる!」

 

マサヨシの言葉を遮るように、ミヤコは声を荒げながらクリアを指さした。

 

そんな彼女の言動にポカーンとしている店内の中で、一番最初に口を開いたのは言葉を遮られたマサヨシであった。

 

「さてさて、何故ミヤコさんはそう思うのですか?そう述べるという事は何かしら理由があるということですよね?」

 

「まったくだ。何か根拠でもあるのか?第二大会のチャンプもこう言ってるというのに。そんなに俺は英雄に仕立て上げたいのか?」

 

マサヨシの言葉にクリアは薄ら笑いを浮かべると、挑発的な態度で言い放った。

 

そんなクリアに苛立ちを覚えたミヤコであったが、既に彼女の中で確信があった。小野クリアがリセであるということを。

 

「あたしはリセと戦ったことがある。そのあたしがこいつをリセだと感じた。それだけ理由じゃ不満かしら?」

 

自信満々に腕を組みながらミヤコは言った。

 

信憑性があるかという点では些か不足しているような気がするが、この話題があまり続くことを避けたかったマサヨシは笑みを浮かべながら話題を逸らそうと口を開いた。

 

「フフッ、なるほど。たしかに信憑性がありますね。しかし、今考えるべき『最悪』なのではないでしょうか?仮に、クリア君が本物だとして、フーファイターズのリセは偽物のデコイであればなんら問題はありません。しかし、もし本物かもしくはそれに近い実力を持っている場合、それに備えなければならないでしょう」

 

「そうだな。どれだけ言ったところでお互い折れることもないだろうしな」

「どうせ合ってる癖に……」

 

話に区切りを入れるようにマサヨシはパチンと指を鳴らした。あまりこの話題が続いてほしくなかったクリアは当然マサヨシの話に乗り、ミヤコはまだ釈然としていないながらもこれ以上続けても無駄だと察し、近くの椅子に座った。

 

「今我々が備えるべきは地区大会です。紅ケンタ率いるチーム『アクロマ』には適合者がトラプル・ゲインであるケンタしか確認出来ていません。例え彼に負けたとしても、他で上手く勝ちを拾えばチャンスは十分にあります。勿論、他のトラプル・ゲインが加わる可能性はありますが、それでも1.2人増える程度。可能であれば、適合者の相手はツカサさん、貴方が担っていただきたいものです」

 

「ん~?ボクを呼んだ~?」

 

完全に話を聞いていなかったツカサは、自分の名前を呼ばれので一応の返事を返した。

 

「そうです。貴方の力『アイデテック・イメージ』は他の適合者を含めても上位に食い込むほどの能力です。相性によっては、相手の力をも無効化する可能性を秘めている。そして貴方自身のプレイングスキルも並ではないと、正直我々からしても貴方の存在は最大の脅威と言っても過言ではありません」

 

「ハハッ、そこまで言われると照れるなぁ~。まっ、間違ってないけどね~」

 

胸を張りながら誇らしげな表情を浮かべるツカサを、ハジメは苦笑いをしながら眺めた。

 

(改めてツカサ先輩のスペック聞くと本当にえげつないよな。それに勝ってるクリア先輩とショウさんはもう頭おかしいとしか思えない)

 

「すいません、少しよろしいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

 

吉田君は律儀に手を上げながらそう言うと、まるで先生が手を上げた生徒を当てるように手を出しながらマサヨシは答えた。

 

「どうして他の適合者の力を無効にできると思うのですか?たしかにツカサ君の能力は俺からしても凄いと思ってますが、それが他の適合者に影響があるのかどうかがわからないんですが」

 

「なるほど、たしかに何も知らない身からすればそう思うのが普通ですね。その点に関しては、社長がいい例えを出していましたね」

 

「シュレーディンガーの猫……っすか?」

 

先ほど見たテレビの内容を思い出しながらハジメは呟いた。

 

「そうです。あの例えは、観測者のいない状態であれば猫が死んでいるか生きているかは傍からではわかる術がないという事例。適合者の能力は、意図的に猫の生死を相手に教えることであたかもそれが『真実』であると認識させるというものです」

 

「あの……さっきもテレビでその例え言ってましたけど、僕にはさっぱり訳が分からないんですけど……」

 

初めてその話が出た段階でまだちゃんと理解できていなかったシロウがそう恥ずかしそうにそう打ち明けた。

 

それに対して「ふむ……」と少し考えた後、何かを思いついたように指を鳴らしながら視線をミヤコの方へと向けた。

 

「それではミヤコさんを例に挙げましょう。ミヤコさんが例えば箱の中に『実は猫ではなく生きた犬が入っていた』と相手に伝えたとします。中の事実を知る由もない相手は、唯一の手がかりであるその情報を信じるしかない。

 

つまり、『箱の中に入っているのは実は生きた犬だった』ということが事実として受け入れられるわけです。

 

これらの事象の、箱の中身を『デッキの中身』に、生きた犬が入っていたという事実をミヤコさんの力である『ソウルチャージ時にトリガーのユニットは絶対に入らない』に代入することで、ファイト中に見られるあのような現象が完成します。

 

デッキの中というのはこの世界でたった一人も知ることのない領域。どのような現象でも、起こりうる事象であればそれは適合者の手によっていくらでも捻じ曲げることが可能なのです」

 

「そんな大それたことをしていたんですね……ミヤコさん」

「そんなややこしいことをわざわざ意識してやってるわけじゃないんだけどね。何でもいいけどそんな目であたしのこと見ないでくれない……?」

 

畏怖の眼で自分を見てくるカイリとハジメとシロウにミヤコを冷や汗をかきながら居心地悪そうに呟いた。

 

「なるほど、そこでツカサ君の能力が登場するわけですね」

 

「Exactly。お見事です、流石店長さん。ツカサ君の能力は誰も知る由もないデッキの中を見通すことの出来る力。相手がこちら側のデッキを操作するタイプの相手であった場合、相手が箱の中に『生きた犬が入っている』と言われても、ツカサ君自身が観測者として箱の中身を知っている為、その証言を拒絶することが出来ます」

 

「ん、いや、俺は店長じゃ……」

「自分のならまだしも相手のデッキを操作する能力とかもはや勝てる気がしないんすけど!?」

 

そう否定するよりも前に、ハジメの声によって遮られてしまった吉田君。

 

結局誤解を生んだまま話は進んでいった。

 

「ハジメさんの言う通り、その類の適合者ははっきり言ってピオネールクラスです。まともにやれば勝ち目はありません。だからこそ、そのような本当の意味での規格外を対処できるツカサさんは非情に貴重なのです」

 

普段の余裕のある笑みから一転、真剣にそう話すマサヨシに周囲はツカサの存在の異常性について再認識することとなった。

 

マサヨシのこの言葉から、ヴァンガードという運ゲーでそのような怪奇現象のようなことが起きることはミヤコによって証明されており、これから先には自分達が想像もできないような化け物のようなファイターが現れることを示唆していた。

 

「なっるほどね~。そんなこと考えたこともなかったよ~。でもそう毎回ボクを初戦で行くわけにはいかないんだよね~」

 

悪戯っぽく笑いながらツカサはそう言った。それに対してマサヨシが理由について問いかけるも……、

 

「それは教えられないな~。マサヨシさんが何か考えてるように、こっちもこっちで色々やり方を考えてるんだからさ~。勿論勝つためのやり方をね」

 

そう言って、ツカサはそっとカイリとハジメに目配せを送るのみだった。

 

ツカサの視線で、二人は前の作戦会議で自分達が大会に慣れるために先鋒と次鋒を任せれたことを思いだした。

 

(そうかツカサさんは俺たちの為に……)

 

「どうやら、貴方方も貴方方で考えを持っていたようですね。申し訳ありません、私の行ったことは大きなお世話だったのかもしれませんね」

 

「そんなことはありませんよ。マサヨシさんのおかげでハジメはこうして自信を持つことが出来、俺たちはトラプル・ゲインについても詳しくなれました。初めは敵陣営が来たという事でかなり身構えていましたが、今では感謝していますよ」

 

「フフッ、そう言っていただけるとは光栄です。わざわざここまで出向いた甲斐があったという――」

「ちょっといいですかな?」

 

マサヨシの言葉を遮ったのは、今まで沈黙を守ってきた宮下ショウ。

 

ようやく話に区切りが来たと言うところでショウが一体何について問いかけるのか、皆の視線はマサヨシへと歩み寄るショウへと集中した。

 

「一応話が終わるまでは黙っておこうと思ってたんだけどさ。結局自分の口からそのことに触れないもんだから、僕から聞かせてもらうことにしようと思ったわけさ」

 

「なるほど、まだ私の説明には言葉足らずな部分があったということですか」

 

「ご名答さ。じゃあ聞かせていただきますぞ?何故あなたは――」

 

いつになく真剣な表情で問いかけるショウの姿に違和感を覚えるカイリ達。

 

しかし、このショウの問いを聞いたハジメ達は、自分たちが大きな思い違いをしていたことに気づく。

 

「そこまでフーファイターズを敵視しているのですかな?たしかに彼らは強大の力を持っているのはわかったけどさ、でもそれはあくまで単に実力不足だったり運が悪かったというだけ。なのにマサヨシさんの言葉は、絶対にフーファイターズに負けてはいけないような異様なまでの危機感に満ちていると僕は思ったわけさ」

 

確信を突くようなショウの言葉に、アネモネは静寂に支配された。

 

そう、普通に考えたらただの遊びであるヴァンガードでこんな大げさに対抗策を考える必要はない。

 

しかし、カイリ達はマサヨシの主張を何の違和感もなく受け入れていた。

 

(俺たちは……嵌められたということなのですか……?)

 

吉田君にはその原因に心当たりがあった。

 

(フーファイターズのトキとエースのエキシビションマッチ。この二人のファイトで俺たちはフーファイターズがどれほど巨大な敵であるかを知らしめられた。こんな相手に本当に勝てるのか、このまま何も出来ずに負けるのではないかという心境の中で、まるでこの人は狙っていたかのように現れた。彼らへの対抗策という俺たちが喉から手が出るほど欲しいものを晒け出し、俺たちはまんまとそれに乗せられた……。対抗策という餌でこの人は、俺たちにフーファイターズが倒すべき対象であると誤認させたということですか)

 

皆の中で、再びマサヨシへの疑心の念が浮かび上がった。

 

自分達をフーファイターズへの当て馬にする為に利用する為にこうして情報を提供したのではないかと。

 

「…………」

 

当のマサヨシは、俯きながら帽子で表情を見せずに黙ったまま凝然としていた。

 

すぐに答えが出ないというマサヨシの対応が、より懐疑心を膨れ上がらせた。

 

(そんな……この人がそんなことを企てたなんて思えない……。でもショウさんの言ってることも間違ってない……。一体どうなってるんだ……)

 

初めて会った時から感じていたマサヨシという人物を本能的に感じ取っていたカイリは、その人間性と行動の矛盾に苦悩していた。

 

この矛盾を解き明かすには、本人からの何らかのアプローチが必要であるが、マサヨシから口を開くことはなかった。

 

「どうしたのさ?何か答えられない理由でもあるんですかな?」

 

痺れを切らしたショウは、煽るような言い方でマサヨシに揺さぶりかける。そんなショウの態度に対しても、カイリは動揺を誘われていた。

 

エキシビションマッチを見てから、ショウの中で何かが変わっていた。このいつもと違うショウに、カイリは少し怯えていた。

 

「フフッ、参りましたね。ここまで上手く話を進められたと思っていたのですが……まさか貴方にこうも問い詰められるとは思っていませんでしたよ、宮下ショウさん」

 

まるで開き直ったように笑みを浮かべると、マサヨシは目の前にいるショウへと真っ直ぐ視線を向けた。

 

「じゃあ、やっぱりマサヨシさんは俺たちを当て馬にする為に……」

 

「それは違いますよ、店長さん。私は貴方方と共に地区大会を突破。可能であれば全国大会まで共に行きたいと考えています。この思いに嘘偽りはありません」

 

「それではあの沈黙はなんだったのですかな?もし後ろめたいことがないのなら、すぐにその理由を言えるのではないですかな?」

 

追い打ちをかけるようにショウは答えを急かせる。ショウにとって、その理由は非常に重要であるかのような言い方であった。

 

「それは……それを言ってしまったら貴方方が純粋に大会を楽しむことが出来ないと私が考えたからです。こんなことが無ければ、私だってこのような真似をする必要もなかったのに……」

 

今までの笑顔から一転、悔しそうに拳を握るマサヨシ。その表情から、彼が嘘をついているようには見えなかった。

 

「私がフーファイターズを勝たせたくない理由。それは、彼らにヴァンガードを独占させたくないからです」

 

「独占……それはどういう……」

 

言葉の意味がよくわからなかったショウは問い直した。

 

「すいません、言い方が悪かったですね。私が彼らに勝たせたくない理由、それは――」

 

マサヨシはすぐに謝罪を述べ、言い直した。

 

「フーファイターズから……いえ、ムシャロードの社長『木谷芳明』から、モーションフギュアシステムの開発した企業『アメージングドリーム社』の乗っ取りを阻止する為です」


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