先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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トラプル・ゲイン

「最初にあれ?って思ったのはリアガードのブラスターより先にマジェスティでアタックしてきた時っすね!普通ならマジェスティのスキルを使う前にアタックする場面なのに、わざわざヴァンガードからアタックしてきたのは俺に『手札にグルーム・フライマンがあることは知っているぞ』っていうのを伝える為だったんすよね?」

 

「いえいえ、そんな伝えようなんて気持ちはありませんでしたよ。私は貴方の手札がG3に偏っていることを知っていた。だからこそ、あそこでフィニッシャーとなる『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』を手札に加える必要があった。私はただういんがる・ぶれいぶのスキルを発動させる為に先にマジェスティでアタックしたに過ぎません。私の能力を見破ったのは、他でもなく、貴方自身の力ですよ」

 

「げへへー、そっすかー?なんか照れちゃうっすね~」

 

ファイトを振り返りながら談笑を楽しむハジメとマサヨシ。

 

最初はあれ程険悪のムードを放っていたマサヨシが、こうも仲良くハジメと話していることに周りにいたクリア達は茫然と眺めていた。

 

「あっ、そういえば俺まだあのカードのスキル教えてもらってな……」

「まさかとは思いますが……マサヨシさん。貴方はご自身が何故ここに来たのかを忘れてたりしませんよね?」

 

「フフッ、勿論です。私は貴方方と情報を共有するためにやってきました。敵同士である我々がお互いを理解するには、このような時間が必要だと私は考えます。貴殿方はまだ私のことを敵視しているようですからね」

 

吉田君の問いに、マサヨシは仏頂面でこちらをにらみ続けているクリアに視線を向けながらにこやかにそう言った

 

「そうっすよねー。だから早速交友を深めるためにあのカードを……」

「わかった。お前の話は聞いてやる。お前が何を企んでるかはそれから考えても遅くはないだろ」

 

ハジメと友好的に接していることもあり、他のメンバーが彼を好意的に見ているなかで、ばつの悪そうな顔でクリアはなげやりぎみにそう言った。

 

「そうね。自身の能力まで公表するくらいなんだから、こちらもそれ相応の誠意を見せないとね」

 

「ミヤコさんからその言葉を頂けただけで、私は自分の行いが正しかったと安堵しています。これから話す上で、貴方の意見は必要不可欠なものですからね」

 

マサヨシはそう言うと、立ち上がりながら机に置いていた帽子を被り、今までにない程の真剣な表情を浮かべた。

 

「あれ……この流れはもう『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』の効果を聞けない感じっすかね……」

「察しましょう、ハジメ」

 

立ち上がったマサヨシを見上げながら恐る恐るそう呟くと、吉田君がそう追い打ちをかけるように耳打ちした。

 

ガクッと肩を落とす傍ら、マサヨシは後ろのハジメに顔を向け小さく微笑むと、視線を再びクリア達に向けた。

 

「私がこれから話すのはここへ訪れた時同様、フーファイターズに関することです。我々『エトランジェ』がより確実に彼らの脅威を振り払う為には、彼らの事をよく知る必要があります。特にフーファイターズ精鋭部隊『トラプル・ゲイン』についてを」

 

「それはもっともなことだ。お前のその手札を見抜く能力を知ってるのと知らないのとでは戦況は大きく変わるのと同じだろう。だが、そう考えてるということはお前もある程度奴らについて調べてあるんだろう?」

 

「お~、こちらの手の内は晒さずに相手から情報を聞き出すとはさっすがクリア君だ~」

 

「黙れ」

 

探りを入れるようにクリアはそうマサヨシに問いかける。自然な流れでマサヨシから情報を聞き出そうとする様に、ツカサは思わずそう称賛の拍手を送った。

 

「勿論です。俗にファイトを左右する3つの要素にデッキ構築・プレイング・運と言いますが、情報はそれに引けを取らない程重要なファクターであると考えます。フーファイターズの情報は勿論、貴方方のことも例外ではありません。――ですが、フーファイターズ『トラプル・ゲイン』のついてお話することとしましょう」

 

二人のやり取りを微笑しながらマサヨシはそう言った。

 

すると、あらかじめ用意していたかのようにどこからかトランプのケースを取り出すと、中のトランプを皆に見えるように掲げた。

 

「そもそも、『トラプル・ゲイン』とは名前の由来でもあるトランプを象徴としたチームです。13人の所属ファイターには、それぞれ1~13の番号が割り当てられます」

 

今度はトランプの中からスペードのカードだけを抜き取り、順番に机の上に並べて置いた。

 

「今から、私が掴んだ『トラプル・ゲイン』のメンバーを紹介していきます。ミヤコさんには、最後に何か気になる点があれば教えていただきたいのですが」

 

「えぇ、構わないわ。あたしとしても、色々気になることがあるからね」

 

お互いがそう了解を取ると、マサヨシはまず一番左に置いた1のカードに指を置き、その番号に対応する名前を順に語っていった。

 

「まず(エース)。皆さん知っていると思いますが、エキシビションマッチにも出ていた『鉄穴(かんな)エース』

 

(デュース) 『木原ミウ』

 

(トレイ) 心眼を持つと言われる盲目のファイター『暁リョーガ』

 

(ケイト) 木原ミウの兄『木原ゴウ』

 

(シンク) ピオネール、毛利ヒノワの妹『毛利ツクヨ』

 

(サイス) 元ディーラーの老人『スティーブ・テイラー』

 

(セブン) 規格外適合者の選定当事者『久留麻(くるま)クラマ』

 

(エイト) 気高き貴公子『フェイ・デュラック』

 

(ナイン) 次の地区大会で我々に立ちはだかる最初のフーファイターズ『紅ケンタ』

 

10(テン) フーファイターズ最高戦力『泉堂アイキ』

 

(クイーン) ピオネール第三位『毛利ヒノワ』

 

(キング) ピオネール第二位にして、フーファイターズの頂点『如月トキ』

 

彼らは各々が適合者としてのチカラを持っており、その規模は私やミヤコさん、ツカサさんと同等かそれ以上だと推測されます。

 

これらが私の知っている『トラプル・ゲイン』のメンバーの名前と特徴です」

 

数字に対応したカードをなぞりながら、説明を終える。カイリ達にとっては、ピオネールなどの有名どころ以外ほとんど聞いたことのない名前ばかりだった。

 

「あの、一ついいですか?」

 

「はい、なんですか?」

 

シロウはそう言いながら手を上げると、他の皆も気になった素朴な疑問についてマサヨシに問いかけた。

 

「『トラプル・ゲイン』ってトランプの数に割り振られてるんですよね?どうして(ジャック)はいないんですか?」

 

「なるほど、まだ幼いのにいい質問をしますね。その通り、(ジャック)の席は長い間空席となっていました。それと言うのも、配属されるはずだったファイターがことごとくフーファイターズへの参入を拒否したからです」

 

マサヨシはシロウの頭を撫でながらそう答えた。

 

「初めてフーファイターズが結成されたとき、最初に声をかけられたのはピオネールの4人でした。一世を風靡した彼らが入れば、フーファイターズの名はより一層際立たせることが出来ますからね。しかし、トキとヒノワの二人は了承を得ましたが、第一位のシンジは拒否、第三位のリセに関してはそもそも消息が不明ということで断念せざる負えなくなったそうです」

 

「たしかフーファイターズは、ムシャロードの社長の木谷芳明が発足した組織ですよね?まだ発展途上のヴァンガードというコンテンツに何故そこまでの援助をしようと思い立ったんですか?」

 

「それは私も存じませんが、おそらくモーションフィギュアシステムの開発がトリガーになったと私は考えます。事実、現在のヴァンガードはもはや世界中に注目され、スポーツにも似た絶大な人気を獲得しましたからね。そのうち、全国大会から世界大会にまで発展するかもしれませんね」

 

吉田君の質問にも冗談を交えながら答えたマサヨシは、並べたカードから5枚を取り上げた。

 

「それ以降、多くのファイターがフーファイターズに入るようになりましたが、それでも(ジャック)の枠は埋まりませんでした。それというのも、A・10・J・Q・Kの五つの数字はアナー・カードと呼ばれ、他とは一線を画す数字としてそれ相応のファイターにその番号を当てはめたかったのでしょう」

 

「ハハッ、なるほどね~。じゃあもしかしたらボクがその(ジャック)になってたかもしれなかったんだね~」

 

「そう言えばお前、俺とのファイトで勝ってたらフーファイターズに行くとか言ってたな」

 

以前のファイターズドームでの一戦を思い出しながら、クリアは言った。

 

誰にも負けない強さを求めていた当時のツカサは、より高みへと登る為の方法としてフーファイターズで修行することを考えていた。

 

(もし、あそこでクリアが負けていたら……)と考えたカイリとハジメは、敵として立ちはだかるツカサのイメージを思い浮かべ身震いした。

 

「そうだったのですか。なんとか引き止めることの出来たクリア君には感謝しなければなりませんね。(ジャック)の枠には、ツカサ君の他にも私自身が勧誘されたこともありました。勿論断りましたけどね」

 

「流石マサヨシさんっすね!まぁ、誘われて当然っちゃ当然かもしれないっすけど」

 

含み笑いを浮かべるマサヨシに賛同するハジメ。まるで断って当然というような彼を、ショウはまるで人が変わったようにジッと見つめた。

 

「そして私はミヤコさん、貴方も(ジャック)の枠に誘われた一人だと考えてます。貴方の力ならば、十分トラプル・ゲインに入るに十分な素質を持っていますからね」

 

自分の憶測ミヤコに話すマサヨシ。彼の説明を聞いてからどことなく不満気な表情をにじませていたミヤコは腕を組みながらゆっくりと口を開いた。

 

「ハズレよ。たしかにあたしはトラプル・ゲインにトキ自ら勧誘されたわ。トラプル・ゲインがトランプを象徴にしてるということも彼に聞いた。けど、あいつあたしを(ジャック)として勧誘してたわけじゃ無かった」

 

「そうなのですか?しかし、トラプル・ゲインには(ジャック)以外に空いている枠は……」

 

「ある……というより、最近になって空いたというのが正確ね」

 

眉間に皺を寄せながらミヤコはそう言った。

 

「具体的にいつかは知らないけど、(トレイ)のファイター『暁リョーガ』が抜けたらしくて、その穴埋めとしてあたしを勧誘してたそうよ。……まったく、このあたしを誰かの補欠みたいな扱おうなんて虫が良すぎるのよ」

 

(あっ、ミヤコさんがトラプル・ゲインの加入を断ったのってそういう理由だったのか……)

 

ミヤコの態度と言葉で、今まで謎だったミヤコの拒否理由を察したアネモネの一同。

 

しかし、マサヨシはその発言を興味深そうに聞き入れると、より自身の考えをまとめるべくミヤコに問いかけた。

 

「つまり、(トレイ)の枠も現在は不在ということですか?」

 

「あたしが行った時はそうだったってだけで、今は知らないわ。まったく、思い出しただけで頭にくるわよ」

 

「何かあったのですか?」

 

マサヨシがそう聞くと、まるで溜まっていた鬱憤を吐き出すかのように、凄い剣幕で普段は使わないような乱暴な言葉を使いながら声を荒げた。

 

「あいつ、どうしてあたしが(ジャック)じゃないのかって問いただしたら、(ジャック)としての実力だったら(デュース)の『木原ミウ』でも十分とかぬかしやがったのよ!(ジャック)にはイメージ的にも男にしたい、あくまであたしは(トレイ)に選ばれたファイターだとね。あそこまで馬鹿にされて入ってくれると思ってるあいつの頭はどうかしてるわ!」

 

普段は冷静に振る舞うミヤコがここまで取り乱している姿から、どれほどの怒りが湧き上がっているのかを物語っていた。

 

そんな彼女に追い打ちをかまそうと口を開いたクリアの口を全力で塞ぐハジメの傍で、マサヨシは神妙な面持ちで帽子のツバで自分の顔を隠すと、ニヤリと笑みを浮かべ、ここへ来たことで大きな収穫を得たことを噛みしめながら口を開いた。

 

「フフッ。なるほど、これはいい情報です。まったく実力を掴めなかった(デュース)の『木原ミウ』が本来はオナー・カードにもなりうる実力を持っているということ。そして、(トレイ)は不在、もしくは『暁リョーガ』以外の即席のファイターがいるということ。そして……」

 

マサヨシはジャックのカードだけを頭のところまで持ってくると自身の憶測が正しかったことを誇らしげに感じながら続けた。

 

「フーファイターズには3人のピオネールがいるというトキの発言から、現在、(ジャック)の枠にはピオネールの最後の一人、かげろう使いの『リセ』がいるということがはっきりしたわけですね」


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