「フフッ」
マサヨシは嬉しそうに笑いながら、眼鏡をクイっと上げるハジメを見つめた。
(どうやら本調子になったようですね。ですが、そう簡単に私の力は暴けませんよ。身内の適合者との相互性を捨てない限りは……貴方にそれが出来るでしょうか?)
これは余裕の笑み。ファイトは言うまでもなく、自身の懐を晒したとてそれを理解することは容易くはないという自信の表れ。
それはハジメに限らず、この敵地のファイター全員に対しても例外ではない。
「エリート怪人 ギラファ(10000)にライドっす!さらに、右上にテイル・ジョー(8000)をコールしてバトルに入るっす!」
/ギラファ/テイル・ジョー
//
相手のユニットの全てがレストしている状態であればパワーを上昇させることが出来るテイル・ジョー。これに近いスキルとしてブースト時にパワーを上げるステルス・ミリピードが存在する。
メガコロニーの特性であるこの条件は、アタックやブーストをするのに必要なこのゲームでは容易に満たすことの出来るスキルであるが、完全に受け身となるこの条件は相手の采配次第で使えなくなってしまう。
アタックやブーストを抑制出来るのは十分なメリットであるが、次のこちらのターンのパワー上昇とアタック・ブーストを天秤にかけての判断は相手に左右される。
その優劣を見極める力を、この久我マサヨシというファイターは完全に熟知しているであろうと、ハジメは直感した。
(今でこそ、俺はメガコロニーを使っていて良かったと思ったぜ。こういう駆け引きは、メガコロニーが特に得意とする分野。この人が一体どういう着眼点で攻めてくるか、それを俺が見極めさせてもらうっすよ!)
不安を払拭したハジメは、コールしたテイル・ジョーに指を置き、横にスライドさせる。
「テイル・ジョーでヴァンガードにアタックっす!テイル・ジョーがアタックする時、相手のユニットが全てレストしていればパワー+3000!」11000
「ガード、といぷがる。パワー14000です」
「ギラファでヴァンガードにアタックっす!」10000
「ドライブチェック、ファントム・ブラック。トリガーなしっす」
「ダメージチェックです。アラバスター・オウル、効果は全てヴァンガードに加えましょう」14000
「アタックがヒットしたんでギラファのスキル発動っす!次のスタンドファイズでぶれいぶはスタンドを禁じて、俺のターンはこれで終了っす」
メガコロニー
手札6
ダメージ表0
ダメージ裏0
無駄トリガーにも全く意に介さないマサヨシ。
通常のファイトでは特に日常的な状況ではあるが、ここでハジメは一つの情報得ることが出来た。
(もし、この人がツカサ先輩と同じようにデッキから出てくるカードを知ることが出来るなら、最初のテイル・ジョーのアタックをノーガードにしてトリガーを発動。ヒット時にスタンド封じを行使できるギラファのアタックでガードを使うはず。つまり、この人はツカサ先輩とはまた別のジャンルの能力の使い手)
メガネを上げながらこちらに視線を送り続けるマサヨシを考察する。元々、マサヨシはこちらとの友好関係を築くために自身の能力を公開すると宣言したのだ。
先ほどの言動から本当にその気があるのかは疑問であるが、ここで能力を出し惜しみするということはまずない。
一つずつ穴を潰していくことが、マサヨシの底を見定める判断材料となる。
「私のスタンド&ドロー。無限の勇気と覚悟の影が一つになる時、最強の騎士が生まれる。ライド、マイ・ヴァンガード。マジェスティ・ロードブラスター(10000)」
ぶれいぶのスキルを不発に終わらせることは出来たが、ドライブチェックで既に引いていたこのライドは予想に難くない。問題は、このユニットが万全の状態となる札をマサヨシが握っているかどうか。
「加えて、私は右上にこのスターコール・トランペッター(8000)をコールします。その瞬間、私はCBを2枚消費、スキルを発動させてもらいましょうか」
そういうと、マサヨシは自分のデッキを手に取り、その中からカードを一枚取り出した。
「デッキから、ブラスター・ブレードを左下にスペリオルコールします。デッキカットをお願いできますか?その後、私はアタックに入ります」
/マジェスティ/トランペッター
ブラスター/ぶれいぶ/
デッキを差し出すマサヨシに、ハジメはそれに応じる。
アタッカーとしての適性を持つブラスター・ブレードをわざわざ後列に置く狙いは二つ。
1つ目は、レストしていることでパワーを上昇させるテイル・ジョーのようなユニットを抑制する為。
2つ目は、マジェスティのスキルを発動させる鍵となるブラスター・ブレードを退却させない為。
例え持久戦になったとしても、マジェスティがスキルを発動させれば常時パワー12000・クリティカル2というとんでもないスペックとなり、簡単に戦況を引っくり返すことが出来る。
何より、その状況を作る前に手札を消耗させてしまうことがマサヨシにとっては痛手になり、防御に回ることは堅実な一手と言える。
そんなマサヨシに対して、ハジメはまたもう一つの情報を得ることが出来た。
(マジェスティ・ロードブラスターを中心にしたデッキを使ってきたから、もしかしたらミヤコさんみたいに特定のカードを手札に引き寄せるようなものも予想してたけど、その様子もなさそうだな。つまり、ミヤコさんともまた違う能力の使い手)
「トランペッターでテイル・ジョーにアタックです」8000
「ノーガードっす。テイル・ジョーは退却」
「マジェスティでヴァンガードにアタックです」10000
(ガードしたいけど、丁度いいガード札がない……仕方ない)「ノーガードっす」
「ツインドライブ!!と行きましょう。ウーナ、まぁるがる。ドロートリガーの発動により一枚引き、パワーはトランペッターへ。ドゥオ、ブラスター・ダーク。ブランクです。ダメージチェック後、私はターンを終了します」
ロイヤルパラディン
手札7
ダメージ表0
ダメージ裏2
ターンの終了を告げるマサヨシ。ハジメはこのアタックで被るダメージとなったパラライズ・マドンナをダメージゾーンに置いた後、無意識にマサヨシの方へ視線を向けると、依然としてこちらを見続ける彼と目が合い、視線を逸らす。
クリティカルやスタンドによる大きな打撃はなかったものの、このドライブチェックでマサヨシはブレードとダーク、双方のブラスターを手にした。
除去手段を持たないメガコロニーが相手となるこのファイトでは次のターン、マジェスティは本来の力を発揮することになるだろう。
「俺のスタンド&ドロー!……お前の降りかける希望と絶望は、俺が支配する!邪甲将軍 ギラファ(11000)にライド!」
自身のヴァンガードへとライドしたハジメは、今しがた引いたあるカードに再び視線を向けた。
そのカードというのは『グルーム・フライマン』というG1のユニット。
パワーが7000であるこのカードはスキルを持っており、内容は『このユニットが(G)に登場した時、あなたの《メガコロニー》のヴァンガードがいるなら、相手のグレード0のリアガードを1枚選び、【レスト】する』というもの。
現在、既に2体のブラスターを握っているマサヨシは次のターン、マジェスティのスキルを発動する前にどちらかのブラスターによるアタックが発生するとハジメは確信していた。
何故なら、マジェスティのスキルがアタック時に2体のブラスターをソウルに入れることによって発動するものだからだ。
ヴァンガードのアタックで場からいなくなってしまうのであれば、先にアタックして相手の戦力を削ぎ、用が済んでレストしているブラスターをソウルに送る方が効率がいいのは必然。
そのアタックの時にこのカードでガードすることができれば、ほぼ完全ガードでしか防ぐことの出来ないマジェスティのアタックにブーストするぶれいぶをレストさせることが可能となる。
「俺は更に、右上にヴァイオレント・ヴェスパー(9000)をコールしてスキル発動!デッキトップを公開……よし!アイアンカッター・ビートル(10000)を左上にスペリオルコール!ヴェスパーの後ろにファントム・ブラック(8000)をコールしてバトルに入るっす!」
アイアンカッター/ギラファ/ヴェスパー
//ファントム
アタックフェイズへの宣言をしたハジメはその勢いでマサヨシを視線に入れるが、やはりこちらを凝視し続ける彼の威圧感にまたも視線を逸らす。
(なっさけないな俺……。あんだけ啖呵切っておきながらまとも視線も合わせられないなんて……。けどやっぱ怖いもんわ怖いもんな、この人の……あれ)
ハジメは眼鏡を上げようとした瞬間、一つの疑問が浮かんだ。
(俺、この人の何に怖がってんだ……?第二大会覇者という肩書に?圧倒的実力による敗北に?いや、そういうものじゃない……)
ハジメは恐る恐るこちらを見ながら微笑むマサヨシのほうを向く。
(俺はこの不気味な視線に怯えていた……。まるで自分の管理する動物を観察しているような、こちらの心を見透かすように、決して逸らすことのないこの視線に俺は……)
ハジメは真っ直ぐマサヨシを見据える。
今まで決して自分から合わせることのなかったこの視線を交わす行為によって、ハジメは初めてマサヨシと対等に向き合ったのだ。
「アイアンカッター・ビートルでスターコール・トランペッターにアタック!」12000
「ノーガードです。トランペッターは退却します」
「邪甲将軍 ギラファで、ヴァンガードにアタックっす!」11000
「まぁるがる2枚でガードします」20000
「ツインドライブ!!っす!ファーストチェック、レイダー・マンティス!ドロートリガーで一枚引いてパワーはヴァンガードに加えるっす!」
「ほう、ダブルトリガーにかけますか。なるほど」
マサヨシは感嘆を上げながら感心したようにそう呟いた。
完全に目の前の相手を見据えるハジメを眺めるクリアは、既に彼がアネモネのヴァンガードとしてこのマサヨシという人物に牙を向けているのだと直感し、口を緩ませた。
(それでいい。このギラファのアタックへのガードから、こいつは10000ガードを持っていない。もし、次のヴェスパーのアタックを防ぐとしたら最低でも手札を2枚消費することになる。ブラスターをソウルに送るマジェスティ・ロードブラスターは手札を枯渇させやすい以上、次のアタックは十中八九ノーガード。どうせノーガードになるならヴァンガードに乗せてダブルトリガーに賭けたほうがまだ奴に痛手を加えることが出来る。自分の言ったことを後悔させてやれ、ハジメ)
アネモネで最も付き合いの長いクリアは、マサヨシの言った侮辱に特に反感を持っていた。
だからこそ、こうしてマサヨシへ矛を立てるハジメの姿を楽しむように見守った。
「セカンドチェック……邪甲将軍 ギラファ。次にファントム・ブラックのブースト、ヴァイオレント・ヴェスパーでヴァンガードにアタックっす!」
「ノーガードです。ダメージチェック、スターコール・トランペッター」
「これで俺のターンは終了っす」
メガコロニー
手札7
ダメージ表1
ダメージ裏0
ダブルトリガーにはならなかったが、それに気負いすることなくハジメは自分のターンを終了した。
「私のスタンド&ドロー。ブラスター・ブレードの前にブラスター・ダーク(9000)、右上に爆炎の剣士 バロミデス(10000)をコールしてバトルに入りましょう」
ダーク/マジェスティ/バロミデス
ブレード/ぶれいぶ/
予想通りダークをコールしたマサヨシ。
グルーム・フライマンをガードに使う為、ダークにアタックしてもらう必要のあったハジメは、あらかじめ餌となるパワー9000のヴァイオレント・ヴェスパーをコールした。
G3ではあるが、既に後列がコールされており、残しておけば17000というスキル発動後のマジェスティにも十分な打点となるヴェスパーを残しておくメリットはマサヨシにはない。
バトルに入り、早速グルーム・フライマンをガードに使おうと身構える……
「フフッ」
「っ!?」
不敵に笑うマサヨシに驚いたハジメ。しかし、何も驚いたのはマサヨシが笑ったからではない。
彼がアタックする為に手を置いたユニット、そのカードに原因があった。
「ういんがる・ぶれいぶのブースト、マジェスティ・ロードブラスターでヴァンガードにアタックします。その瞬間、私はマジェスティのスキルを発動することにします」
一切の迷いもなく、マサヨシはスタンド状態のブラスター・ブレードとブラスター・ダークをソウルへと入れる。
「このバトル中、マジェスティ・ロードブラスターのパワーを+10000となります。更に、ソウルにブレードとダーク、双方のブラスターがいる為、もう一つのスキルでパワー+2000、クリティカルを+1とします」27000
膨大なパワーとクリティカル、更にぶれいぶのサーチスキルを含んだマジェスティのアタック。
しかしそれ以上に不可解なのは、アタックすることの出来たダークをそのままソウルに入れたこと。
このアタックをガードするには最低20000のガード、トリガーを考慮すると最大30000のガードを必要とする。
完全ガードがあれば少ない負担で凌ぐことが出来るが、今のハジメの手札にそれはない上、それほどのガードを使えば手札の消耗が激しい為、ハジメはガードを宣言する以外に方法はなかった。
「ツインドライブ!!と行きましょう。ウーナ、幸運の運び手 エポナ。クリティカルトリガーGETです。クリティカルはヴァンガード、パワーはバロミデスに加えましょう。ドゥオ、小さな賢者 マロンです。ダメージを3点、受けていただきましょうか」
「ぐっ……ダメージチェックっす。一枚目、エリート怪人 ギラファ。二枚目、パラライズ・マドンナ。三枚目、シャープネル・スコルピオ!効果は全てヴァンガードに加えるっす!」16000
大きな痛手を被ったものの、なんとかトリガーを発動させたハジメ。しかし、このマジェスティ・ロードブラスターのアタックにより生まれた産物はこれだけに留まらなかった。
「ういんがる・ぶれいぶのブーストしたブラスターのアタックがヒットしたこの瞬間、私はこのカードをソウルに送り、デッキからブラスターを含むカードを手札に加えます」
そう言ってデッキを手に取るマサヨシ。現在、ブラスターの名を含むユニットはブラスター・ブレード、ブラスターダーク、マジェスティ・ロードブラスターを除くと四枚。
マジェスティ・ロードブラスターのデッキに入れられるカードは基本的に上の三枚である為、ハジメやクリアなどのその場にいた者達は、その中の何かが加えられるだろうと思った。
「それでは、私はこのカードを手札に加えるとしましょうか」
しかし、マサヨシが手に取ったカードはその三枚のどれでもなかった。いや、それどころか……
「……な、なんすか!そのカードは!」
「お前、何のつもりだ。そんなカード、俺は見たことがないぞ」
マサヨシが手に取ったカードは現在公開されているどのユニットにも含まれておらず、全くの未知数であるそのユニットの存在に、アネモネの店内はどよめきあった。
「『エクスカルペイト・ザ・ブラスター』。教えてあげましょう。これが、このファイトの決着をつける『ヴァンガード』です」
どうも、未だにロックの強さがチートすぎてこれゲーム破綻してるんじゃないかと思ってるイミテーターです。
最近は一ヶ月に一話ペースで申し訳ありません……。リアルが忙しすぎてもう死にそう。
おかげでヴァンガード自体も全然触れなくて僕の環境は黒輪縛鎖で止まってます……。
っていうかリンクジョーカー強すぎじゃないですか?
他のカードも強いとは思うんですけど、やっぱり普通にファイトしたらそうでもないんですかね……。
これからのファイト描写も色々勉強しながら考えていこうと思うので、これからもどうぞよろしくお願いします!