「さぁさぁ!!遂に遂に始まりました!!第三回ヴァンガードチャンピオンシップ!!全国各地に点在するファイター達にとってはいわば祭典!大会!決戦の地とでもいいましょうか!!しかし、今回は行われるのは従来のそれとは似て非なるものなのです!何故なら今回は団体戦!賞品!エキシビションマッチの存在があるからです!!そして、その新たな歴史への偉大な第一歩となるファイトを実況するのはこのわたくし!歌いも踊れもしませんが声の大きさだけは誰にも負けない鳴子キョウコがやらせていただきます!!」
ヴァンガードチャンピオンシップ、ショップ大会後のエキシビションマッチの日。この日は生放送でエキシビションマッチの内容をテレビで放映することになっており、前の作戦会議の日に集まっていたメンバーは全員、アネモネに集合しテレビを眺めていた。
そしてその中継が遂に始まったわけであるが、画面に写る赤いベレー帽の女性があげるけたたましい声が、テレビを見ていたカイリ達に冷や汗をかかせるという予想外の始まり方をした。
「凄いですね、この人。音量普通なのにテレビの出せるスペックを最大限まで発揮させてますね……」
「とりあえず音量は最少にしておきましょうか……」
吉田君がリモコンをテレビに向けてボタンを押そうとしたその時、実況者は感嘆の声を上げ画面外から渡された紙を読んだ。
「あ!!すいません!!わたくしの声がでかすぎるというクレームを只今いただきました!!これはあらかじめわたくしがマイクの音量大きくしてあるからなので、特に気にしないでください!!実況の声が聞こえないとなったら問題ですからね!!」
「この方はよほどの目立ちたがりか、それともただの自己中なのか」
呆れた顔で吉田君がテレビを見ていると、少しずつだが声が小さくなっていった。恐らくこれに気づいたスタッフが彼女に秘密で下げたのだろう。
それに気づいていない実況者のキョウコはそのまま進行を続けた。
「さてさて!!早速今からエキシビションマッチが始まるわけですが!はっきり言って、わたくしはヴァンガードが苦手!下手!無能でありますので!今回は解説役としてこの方にきていただきました!!ヴァンガードを世界へ発信し、今なおその勢いは滞ることを知らないムシャロードの社長!!木谷芳明さんです!」
キョウコは自分の横へと視線を向けると、カメラが後ろに下がり、キョウコとその横にいたもう一人の男を映した。
ガッシリとした体格をスーツで纏ったその男は、かけていたメガネをクイッと上げるとカメラ目線で口を開いた。
「まずはこの素晴らしい舞台を作っていただいたアメージングドリーム社ならびに、参加していただいたファイターの方々に感謝の意を述べさせていただこう。今回、エキシビションマッチの解説をさせていただく木谷芳明だ。よろしく頼む」
重い面持ちで挨拶を終わらせると、そんな重い雰囲気を吹き飛ばすかのようにキョウコが間髪入れずに社長の方を見て挨拶を返した。
「こちらこそよろしくお願いします!!しかし開口一発目からお礼だなんて社長も結構思慮深いところがあるんですね!!」
「当然のことをしたまでだ。ヴァンガードというコンテンツをこれほどまでに大きくなったのは、ユーザーやスタッフのおかげに他ならない。このような大きな場を設けられたことは、とても幸福なことと実感しているよ」
「なるほど!!常に周りへの感謝の言葉を忘れないという心がけは流石は社長といったところですね!!ところで今回のエキシビションマッチの対戦相手は社長がお決めになったということですが、何か意図があるんでしょうか!!??」
「勿論だ。このエキシビションマッチは新カードの公開の為に設けられたものだが、ただそれだけに使うにはあまりにも惜しい。そこで私は、今大会のファイター達に強さの指標というものを知ってもらおうと思ったのだ。自分の力に自信がある者、そうでない者も、これを見てもう一度自分を振り替えってほしい。それがならなる力の鍵となると私は確信している」
両手を口の前で組むと、社長はニヤリと笑みを浮かべた。そんな彼の態度に関心したキョウコは、また横から渡された紙をチラリと見た後視線をカメラ目線に戻した。
「おお!!この対戦カードには社長の熱い気持ちが込められていたのですね!!であれば!全国のファイター達がこのファイトを待ち焦がれるのは必然!!早速始めさせていただきましょう!!選手、入場!!」
実況者の言葉を合図に、画面は解説席から闇に包まれた広い空間へと映り変わる。ざわざわとした雰囲気から、大勢の人がそこにいることを感じとることは出来るが、画面に映っているのはスポットライトに照らされた二つのスタンディングテーブルのみだった。
「さぁ!!西方からやってきましたファイターは、かのヴァンガードチャンピオンシップ第二大会において準優勝という功績を上げた実力者!!フーファイターズ、トラプル・ゲイン所属!!鉄穴(カンナ)エース君です!!」
キョウコの説明が始まる前には既に歓声が沸き立ち、スポットライトに照らされた一人の青年が一番近くのスタンディングテーブルへと向かう。
茶髪の髪と線のような細い目の青年は、終始ニコニコ笑みを浮かべながらスタンディングテーブルに立つと、悠々としながら向かい側の少し離れたスタンディングテーブルの方へと視線を向ける。
「皆さん!!お待たせいたしました!!遂にあの集団の一人が登場です!!」
カンナがスタンディングテーブルに立ったと同時に、まるで今までは余興と言わんばかりのテンションでキョウコは吠えた。
「東方から現れるは、ヴァンガードの立役者にして、ヴァンガードチャンピオンシップ第一大会の功労者!!世界に名を轟かしたピオネールの一人にして、フーファイターズ、トラプル・ゲインの長!!如月トキ君の登場だぁ!!」
スポットライトが光り、ある一人の人物をカメラが写す。
光に反射した真っ白の軍服と髪は、真っ暗の空間の中で一際存在感を放ち、右目に眼帯をつけたその顔はどことなく不機嫌な印象を与えた。
しかし、そんな彼の心情など観客からしてみたらどうでもよいことであり、彼の登場によってボルテージは最高潮を達しようとしていた。
トキがスタンディングテーブルに立つと、待っていたカンナが特に表情を変えず、飄々とした態度で彼に声をかけた。
「こんな大勢の前なのにトキは本当にマイペースだにゃ~。もっとこう笑顔を振り撒いたり手をふってあげるとかのファンサービスは出来ないんかにゃ?」
癖のあるしゃべり方でそうカンナは指摘した。同じフーファイターズのメンバーであるためか、その接し方はとても親しげだった。
二人の距離は大体5メートル前後。少し大きめに声を出さなければ聞き取りにくい距離ではあるが、トキは右目を押さえながらいつもよりも低いトーンで呟いた。
「……解せぬな。余がこのような晒し者のように扱われるとは、木谷の奴も大きくでたものだ」
エキシビションマッチなど関係ないと言わんばかりに、トキは恨めしげに実況席の方へにらみを聞かせた。
「まぁ、そんなギスギスしても仕方ないんじゃないかにゃ?カンナたちは言われたことを言われたようにやっておけば間違いはないんだし」
「余が他に従うなどこれきりだ。これ以上余の領地をおかそうものなら、二度とこのような過ちが起きぬよう逆鱗を突き立て己の犯した行いを五臓六腑に刻み付けてやろう」
「またそんな物騒なこと言ってー。とりあえず責務を果たさなきゃじゃないのかにゃ?」
そう言うと、カンナはデッキを取りだしスタンディングテーブルにセットした。
「ふん、仕方あるまい。かかってくるがいい」
まだ釈然としていないトキであったが、同じようにデッキを取りだすとスタンディングテーブルにセットした。
そのデッキは、彼の風貌と同じような白いスリーブに包まれていた。
「ピオネール特有の色違いのスリーブ……。間違いなくこの人は……」
テレビを見ていたシロウがポツリと呟くと、ミヤコはそれに相槌をうち、視線をクリアに向けた。
「そう。彼が正真正銘、ピオネール第二位の如月トキよ。同じくピオネールで彼に負けた誰かさんは何を思ってるんでしょうね?」
「…………」
クリアはチラリとそちらを見ると、また何事もなかったかのようにテレビへと視線を戻した。
「さてさて!!二人がファイトの準備をしている間に社長に話を伺わせていただきましょう!!先ほど強さの指標というものを定義させると言いましたが、何故社長は彼らを選んだのでしょうか!?」
「無論、彼らが強いからだ。それもトップクラスの、な。ヴァンガードというゲームは単純に見るだけでは実力の差を判別することは難しい。運の要素の大きいゲームだからな。しかし、彼らであればその蟠りの一切を無くすことも可能だろう。フーファイターズのトラプル・ゲインというのはそういう集団だ」
キョウコは横目でデッキをシャッフルしている二人で見たあと、再び話を切り返した。
「社長自らが運営しているフーファイターズの中では、それほど劇的な実力の格差があるんですか!?」
「そうとも。フーファイターズに所属するファイターは全てが高水準。デッキ・プレイングにおいては、全国でも通用する強者揃いだ。しかし、その中でも一線を画す力を持つ者だけがトラプル・ゲインになることが出来るのだ」
「なるほど!!トラプル・ゲインの13人はそれ程特別ということなのですね!!具体的にどう違うかはこのファイトの中でわかるのでしょう!!おぉっと!!どうやらその注目の二人も丁度準備を終えたようです!!」
キョウコが上手く話を繋げている最中、ファイトをする二人は一度スタンディングテーブルを離れ、お互いのデッキをシャッフルすると、再び自分の席へ戻りマリガン後のカードを引く……
パンッ!
カードを引く間際、カンナは唐突に手を叩く。それを見ていた観客は特に気にも咎めていなかったが、トキはそれを見て鼻で笑った。
「さぁさぁ!!前座が長くなりましたが!!遂にファイトが始まります!!友情や努力なんてものは必要ない!!必要なのは勝利のみ!!さぁ!!始めましょうか!!皆さんも準備はよろしいでしょうか!!」
キョウコの声に合わせ、歓声が沸き立つ。期待に満ちた視線を送りながら。
世界最高峰のファイトに、カイリ達もテレビを凝視する。いずれ当たるかも知れない強敵に息を飲みながら。
そしてその当事者達は、左手に5枚の手札を握り、自分の分身に手をかけた。
「「「スタンドアップ!!」」」
「My」
「「「ヴァンガード!!」」」
会場にいた全員の声が響き渡ると、その瞬間、それに呼応するように会場は眩い光に包まれ、暗闇に慣れていたキョウコを含む観客は思わず目を瞑る。
「こ……これがモーションフィギュアシステムの世界……!!わたくし生で見るのは初めてです!!」
興奮を隠し切れないかのように声を震わせながらキョウコは席を立ちあがりながら会場を覗き込む。そして、その場にいる観客達も同じような反応を見せた。
今まで暗闇に包まれていたそこには、辺り一面を見渡す限りの荒野が広がり、まるでその環境に同化しているかのように会場の中心には現実世界ではありえないような異形の生物と、一人の騎士が立ち尽くしていた。
「リザードソルジャー サイシン(5000)」
「紅の小獅子 キルフ(5000)。カンナから行くにゃ~」
そんな状況の中心にいるトキとカンナは、特に気にすることなくファイトを開始するのだった。
「……っは!!すいません!!わたくし!!あまりの光景に目を奪われていました!!しかしこれ程の物であればわたくしの反応も当然!!必然!!無罪でありますので怒られる筋合いはありません!!しかし二人のファーストヴァンガード、ロイパラとかげろうに似ているように見えますが、少し雰囲気が違いますね……。あれが今回新たに追加された新クランなのですか!?」
自分の責務を忘れていたキョウコは、何食わぬ顔でそう社長に質問を投げかけた。
「ご名答。あれらは英雄を追われ、残された力によって結成された新たな力、“ゴールドパラディン”と“なるかみ”だ。どちらも元のクランであるロイヤルパラディンとかげろうに酷似しているが、その性能は別物だ。何が違うかは、ファイトを見ていればわかるだろう」
「おお!!あのクランにそんな設定があったとは!!これは発動されるスキルにも注目していきたいですね!!」
「早速新クランですか……。これはよく見ておいた方がいいでしょうね」
実況席の声は会場にも響き渡り、観客もカイリ達も関心を示しながらファイトを見つめた。
「ドローにゃ!すれいがる・ダガー(7000)にライド!スキルでキルフは左下にコールしてターンを終了するにゃ」
先行のカンナは、ライドをしただけでターンの終了を終える。非常に少ない動きであるが、見ていた観客席は驚きの連続だった。
「ユニットのパワーとクリティカルがカードのビジョンの下に表示されてる!?ファイターズドームでやってた時とあのモーションフィギュアシステムは違うんすか!?」
前に見たモーションフィギュアシステムの仕様と違うことに気づいたハジメは、テレビを指さしながら製作者であるツカサに問いただした。
「そうだよ~。あれから色々バージョンアップしてるからね~。大体はソラがやってくれてボクもよくわからないけど、これからのモーションフィギュアシステムはパワー・クリティカルは自動表記。今まで音声認識システムでスキルを発動してたものは、手に流れる神経の電気信号をファイトグローブが認識して、声を発さなくてもスキルを発動できるようになったんだ~。勿論、言った方がわかりやすけど、口に出さなかった場合はスキルがビジョンとして投影されるようになってるからお互いがスキルの共有することが出来るよ~」
「うおぉ!!すっげぇ進化してるっすね!なんかアニメとかでやってるのを見てる感じっすよ!」
まだ一度もモーションフィギュアシステムに触れたことのないハジメは、目をキラキラさせながらテレビに映るユニット達を眺めた。
「ふんふん、つまり今お二方が使ってるスタンディングテーブルが離れてるタイプのモーションフィギュアシステムを作るのにそういう機能が必要になったというわけですな」
「正解~。やっぱり近すぎると大きなアクションが出来ないからね~。目の前に自分のヴァンガードがいるっていうのもなんか雰囲気いいし~」
「……ごめん、ツカサ君の言うアクションというのが僕にもちょっと理解出来なかった」
自分の作ったモーションフィギュアシステムが好評であることに気分を良くしたツカサの傍らで、ショウは苦笑いで呟いた。
「余のターン。デザートガンナー ライエン(7000)にライド、My・ヴァンガード。サイシンは左後方に後退。余は宣言する。ライエン、己が敵を殲滅せよ」7000
手を翳し、トキは自己流の言い方でアタックを宣言した。アタック先を指定していないが、ツカサの言っていた通りライエンは自身の先導者の考えを認識しているかのように目の前の青色の狼に向かっていった。
「ドライブチェック、サンダーストーム・ドラグーン。余のターンはここまでだ」
「ダメージチェックにゃ~。光輪の盾 マルク。とほほ、完全ガードが落ちちゃったにゃ……。この恨みはでかいにゃりよ!カンナのスタンド&ドローにゃ!」
お互いグレード1の昇格し、新カードを続々と操っていくトキとカンナ。一つの区切りに入ったこの状況に、実況者のキョウコは己の最も自信がある喉を軽快に震わせていく。
「静かな闘志の中に激しい戦略!!使い慣れない新カードもなんのそのと扱う彼らは流石の一言に尽きます!!まだ珍しいスキルは使われていませんが、どれくらいから戦況は一遍するんでしょうか!!」
「焦るんじゃない。もう間もなくだ」
「……おお!!それは期待期待です!!」
社長の短い返答にまだ続きがあると思ったキョウコはワンテンポ遅れてから反応を示した。
「神技の騎士 ボーマン(10000)にライドにゃ!そのまま後ろに美技の騎士 ガレス(8000)をコールして、紅の小獅子 キルフのスキルを発動させるにゃ!」
カンナの目の前にいるヴァンガードのすれいがる・ダガーの足元にヴァンガードサークルが光り、雄々しい騎士が姿を現した。その後、カンナの後方に黄色と赤を基調とした鎧を纏った騎士が現れるのと同時に、左に待機していたキルフからスキルのテキストと共に光が走り、ボーマンとガレスを繋いだ。
その光は、灼熱の炎となって燃え上がり、それを振り払うように長い髪をなびかせる一人の騎士が大地に降り立った。
「全ての騎士は悠久の時の中で英雄を待つ。あらゆる絶望を燃やし尽くし、全ての希望を背負った獅子の咆哮は、新たな戦士達が切り拓く時代の序奏となる!!スペリオルライド!灼熱の獅子 ブロンドエイゼル!(10000)」
先行2ターンでありながら、CBを使用せずにG3へと昇格したカンナ。二振りの剣を構えるブロンドエイゼルの姿は、新たな先導者としての素質を感じさせた。
「な、なんとぉお!!これはわたくしにもわかる程凄いスキルです!!あのFVは場の特定カードをソウルに入れることでデッキからあの強そうなカードをスペリオルライドすることができるのですね!!これがこのクランの特徴なのですか!?」
自分にも理解出来たということで、興奮した様子で社長に熱い視線を送るキョウコ。しかし社長はクールな感じでほくそ笑んだ。
「あれはゴールドパラディンの性質の一端にすぎん。あのクランの本領は、こんなものではない」
社長がそう語るのと同時に、カンナはさらにユニットを展開していく。
「にゃはは~、まだまだいくにゃりよ~。左下に美技の騎士 ガレス、その前に聖弓の奏者 ヴィヴィアン(9000)をコールしてバトルに入るにゃ!」
ヴィヴィアン/エイゼル/
ガレス//
「ガレスのブースト、ヴィヴィアンでヴァンガードにアタックにゃ!」17000
「……よい、通す」
表情を変えることなくデッキからカードを一枚捲る。15000ガードを強要するこのアタックに、流石のトキも守ることはできなかった。
「オールド・ドラゴンメイジ。余は一枚引き、その恩恵は余の分身に受け継がれる」12000
「ああっと!!いきなりのダメージトリガー発動!!これではパワーが10000しかないブロンドエイゼルのアタックがヒットしないぃ!!」
「もう少し静かに出来んのか?まだ慌てるような状況ではない。ゴールドパラディンは……」
社長はそこで止めると、視線をユニット達に向けた。
今しがた弓でアタックをしたヴィヴィアンは、流れるように弓をヴァイオリンのように奏で、いつしかその音楽に呼応するようにリアガードから光の粒子が浮かび上がってきた。
「あらゆる状況からユニットをコールすることが出来る」
「ヴィヴィアンのアタックがしたからスキル発動にゃ!CBでデッキトップのカードをオープンし、そのカードがゴールドパラディンならリアガードにスペルオルコールすることが出来る!」
光の粒子はいつしか獣の形を形成し、それは赤い鬣を蓄えた獅子へと変貌した。
「守護聖獣 ネメアライオン(8000)を右下にコールにゃ!」
カンナはG2のユニット、エスペシャルインターセプトのスキルを持つネメアライオンがコールした。しかし、G2である為ブーストすることは出来ず、自身のパワーも低いこのカードをカンナは後列にコールした。
「あぁー、惜しかったですね!!もしここでブーストの出来るカードが来てくれればエイゼルの後列にコールしてパワーを上げることが出来たのですが!!いやあ!!惜しい!!残念!!」
悔しそうな素振りを見せながら実況を続けるキョウコに、社長はなおも落ち着いた雰囲気で口を開いた。
「何度も言わせるな。もう少し落ち着けとな。心配せずとも、ゴールドパラディンの力はこんなものではない。少なくとも、現状の長であるあのカードにとってはこのような状況、なんてこともない」
「ブロンドエイゼルでヴァンガードにアタックにゃ!んでもってスキルで自分のターン中、ブロンドエイゼルは場のゴールドパラディンの数だけパワーを+1000追加させるにゃ!」13000
カンナがアタックを宣言したと同時に、ブーストをしていないにも関わらず、ブーストと同じような黄色い光が全てのユニットから伸び、それはブロンドエイゼルへと繋がっていき、エイゼルのパワーを表すカウントが上がっていった。
「ツインドライブ!!イー、光輪の盾 マルク。アル、美技の騎士 ガレス。トリガーなしにゃ!んでもってカンナのターンは終了にゃりよ」
アタックを通したトキは、目を瞑りながらダメージを置く。そのカードはサンダーブレイク・ドラゴンであった。
「……くだらぬ」
自分のターンに回ったトキは、ドローしたカードを見た後溜め息をつきながらそう呟いた。それから30秒ほど指一本もピクリとも動かないトキに、次第に会場がざわめき始めた。
「トキよ。一体何を……」「よもや、これ以上の余興を強要しようとは言うまい。のうのうと続けたところで太陽が沈むのを待つのと変わらぬ。……少し話すぞ」
ポツリと呟いたトキの言葉に少し驚いた社長であったが、すぐにほくそ笑むと肘をつきながら顔の前で手を組んだ。
「ふん、構わん。特に止める理由もない」
「驕るでない、雑種。余は貴様の許可を取ったわけではない。貴様は余の話を邪魔せぬよう黙っておればよいのだ。そこの横にいる肺活量の高い女もだ」
「は、肺活量が高いとはわたくしのことですか!!」
そう言うと、ギロリと睨みを利かせてきたトキにキョウコはしょんぼりしながら大人しく椅子に座った。
「さて、テレビ中継という媒体によってほぼ全てのファイターが知の共有をする期、一つはっきりさせておかねばならぬな」
ようやく落ち着いたところで、トキはスタンディングテーブルに持たれながら話を切り出す。
その為、ファイトを見ていた観客の視線はトキに集中し、改めて彼の特徴的な風貌に様々な考えが飛び交った。
しかし、トキにとってはそんなことは問題ではなかった。彼は既に自分の世界に入っており、その話すべき内容は己の真理に基づくものであった。
「ヴァンガードは運ゲーではないということを」
「……なんだと?」
不敵な笑みを浮かべながら言い切ったトキに、彼を見ていたクリアは思わず声が漏れた。
「このゲームの性分は、山札の山頂に大きく依存するということ。先の見えぬ道筋に、数多の者は躊躇し、道を踏み外せば奈落に落ちる。それを運命(さだめ)と断定し、己の非を認めぬ。まこと、愚かな思考と同情をする気も起きぬ」
トキは俯きながら話し続ける。今まで沸き立っていた観客は、彼の否定的な言葉に絶句し、淡々と彼の話を黙って聞いていた。
「あらゆる物を蹂躙するデッキ構築も、あらゆる物に対抗するプレイングも、禍患(かかん)の前に堕落してしまうのであれば、更なる力を使えばよい。人の力でどうにもできないなら、人知を超えればよい。それがファイターとしてのあるべき姿であろう」
スタンディングテーブルに手をついていたトキはその手を放し、不敵な笑みをこぼした。
「しかし、それが出来ぬから凡人というのであろう。己ではどうしようもないからこそ、他を非難し、正当化しようとする。何故なら、それがそのものの理解の飽和であるからだ」
すると、トキは右目の眼帯に手を運ぶ。その表情は今までの不満そうな表情ではなく、新しいおもちゃを買ってもらった子どものように純粋で、悪意を知らぬ笑顔に包まれていた。
「ならば見せてやろう。人知を超えた力、『規格外適合者』の本当の力というものを!!」
ネタ切れはよほどのことがない限りないんですけどいかんせん話が長くなってしまって更新が遅れてしまう・・・
こんな計画性のない作者ですが、これからもどうぞよろしくお願いします