先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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弱者の本音

対戦相手となった俺とノブさんは、最後に呼ばれたこともあり、特に混雑することなく席についた。

 

正直言って、この人とファイトするのはあまり望んでいなかった俺は、笑いながら俺のデッキをシャッフルするノブさんの顔をチラリと見た。

 

「なぁ、カイリってよ」

「はい、なんですか?」

 

声をかけられた俺は、同じくノブさんのデッキをシャッフルしながら受け答える。しかし、次の一言で、俺はシャッフルしていた手を止めることになった。

 

「お前、実は俺とファイトするの避けてなかったか?」

「えっ……ど、どうしてそう思うんですか?」

 

思いもよらない質問にしどろもどろしながら問い返す俺に、首を傾げながらノブさんはデッキを俺に返した。

 

「いや、何となくそんな気がしただけだ。変な質問しちまったな、楽しくやろうぜ!」

「は、はい……あはは……」

 

愛想笑いを浮かべながら俺もノブさんにデッキを返す。その手は、何故か湿っていたのを俺は感じた。

 

気のせいじゃない。俺は心のどこかでこの人を避けていた。

 

「よし、それじゃあ行くぜ!」

 

デッキを引き直した後、ノブさんの掛け声に合わせ、俺もFVに手を置いた。

 

「スタンドアップ、ヴァンガード!」

「スタンドアップ・THE・ヴァンガード!」

 

「バトルライザー!」3000

「イニグマン・フロー!」5000

 

俺のデッキはいつもと同じライザーデッキ。そしてノブさんのデッキもいつもハジメ達とファイトする時に使うディメンションポリスのデッキだった。

 

どういう運用の仕方をするかは、ファイトを見たことがある為あらかたわかっているが、それはノブさんの方も同様だろう。例え俺のファイトを見たことがなくても。

 

「バトルライザーか。なかなか面白いデッキを使うな。っていうか、そういえば俺ってお前のファイトを見たことも無かったな……」

「そうですね。大体いつも僕がファイトを見る方でしたし……」

「ふ~ん……」

 

どことなく納得していない表情を見せるノブさんに、俺はどぎまぎしながらカードを引いた。

 

「と、とにかく俺のターンからですね!ドロー!ライザーカスタム(6000)にライド!バトルライザーはスキルで右下にコールしてターン終了です!」

「俺のターンだな。ドロー、ダイヤモンド・エース(6000)にライド、The・ヴァンガード!んでもってエースでVにアタックするぜ!」6000

「ノーガードです」

 

連携ライドとは違う別のユニットにライドしたノブさんに、俺は少しだけ勝機を見出した。連携ライドによるアドバンテージと、確定ライドを阻止。連携ライドの特性上、G2はあまり投入しないことを考えれば、G3で出てくるであろうストームのパワーが低くなる可能性は十分ある。

 

「ドライブチェックだ。超次元ロボ ダイユーシャ、トリガーなし」

「ダメージチェック……Mr.インビンシブル」

「俺のターンはこれで終了だ」

 

ディメンションポリス

 

手札6

ダメージ表0

ダメージ裏0

 

「戦況は俺が不利な訳だがよ。油断は大敵だぜ?」

「勿論です……。俺のターン、ドロー。キング・オブ・ソード(10000)にライド。えっと……」

「……?」

 

俺が次にどう行動を起こそうか考えていると、不信に思ったのか、ノブさんは首を傾げながら俺の方をジッと見つめた。

 

「よし……右上にストリート・バウンサー(8000)をコール!そして、コールした時にバウンサーのスキルを発動します!」

 

決心がついたのと同時にカードをコールした俺は、そう言ってコールしたバウンサーとバトルライザーをレストさせた。

 

「このカードと縦列のカードをレストさせて一枚ドローします。……バトルライザーはブーストしないのでデッキには戻らないですよね?」

「?あぁ、そうだけどよ……」

 

自信なさげに聞く俺に、ノブさんもそうぎこちなく返す。流石に大会という状況でスキルの確認をするのは不味かったかな……。

 

「まぁ、なんだ。ストリート・バウンサーは最近発売したカードだし、スキルを使うのに自信がないのはわからんでもないけどよ……」

 

そう思っていた俺を察したかのように、ノブさんは頭を掻きながらそう切り出した。

 

「お前はそのカードが自分のデッキに必要だと思ったから入れてるんだろ?そんな自信なさげにやってたらお前のユニット達も思い切って戦えないぜ?」

「いや、そうなんですけど……。実はこのカード、俺が考えて入れたカードじゃないんですよね」

「……どういうことだ?」

 

言い訳のように俺がそう言うと、ノブさんは険しい表情を浮かべながらそう問い詰めてきた。

 

「いや!別にあれですよ!誰かに無理矢理入れさせられたとかじゃなくてですね……」

 

そんなノブさんに俺は慌てて勘違いさせないように正直にバウンサーを入れた経緯を説明しようと試みた。ノブさんと今まで接してきて、この人は曲がったことがあまり好きではないということは熟知している。

 

「ストリート・バウンサーはショウさんに勧められて入れたカードなんですよ。俺、まだ新しいカードの事よくわかってなかったし、ショウさん自身もいい人だからきっとこのカードがこのデッキに合ってるのは間違いないかなと俺も思いましたし……」

「そういうことか……。つまりそれは、お前が選んでデッキに組み込んだカードではないということでいいんだよな?」

「まぁ……そうですね」

 

一向に険しい表情を解かないノブさんの様子を見ながら、俺は身を屈めながらそう呟いた。

 

誤解が解けていないのかどうかはわからないが、まだノブさんは何かに納得がいかないということは感じ取ることが出来た。

 

「と、とりあえずバトルに入ります!キングでVにアタック」10000

「……ノーガード」

 

これ以上沈黙が続けば俺の精神が持たないと思い、少し強引だがアタックに移った。ノブさんもまだ釈然としない様子だったものの、一先ずはそれに対応してくれたようだ。

 

「ドライブチェックです。……ザ・ゴング、ドロートリガーで一枚引きます」

「ダメージチェック……コスモ・ビーク。トリガーなし」

 

ノヴァグラップラー

 

手札7

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

「俺のスタンド&ドロー……」

 

重い空気が流れる。ノブさんの表情は一向に晴れる気配はない。

 

俺は不安になりながら、今までの自分の行動を振り返る。ノブさんに気に障るようなことをした記憶は何一つないものの、この人がいつ不信感を感じていたかはわかる。

 

「ツインオーダー(10000)にライド、The・ヴァンガード。そのままツインオーダーでVにアタック」

「ザ・ゴングとストリート・バウンサーをインターセプトしてガードします」20000

 

ガードを宣言しながら俺は恐る恐るノブさんの表情を窺う。

 

普段は晴天のような曇りひとつない笑顔を浮かべているけど、今は逆に暗雲が立ち込めたかのようなどんよりした雰囲気を醸し出していた。

 

ノブさんが不信に思っていたのはファイトが始まる前、俺に質問を投げかけてきた時から。そしてそれを露わにしたのは俺がストリート・バウンサーの事を話した時。

 

その時のノブさんの感情は、怒りとは違う、言わば葛藤のようなものに支配されていた。俺に配慮している為か、それを表立って口に出そうとしてはいないようだけど、俺にはわかる。

 

「ドライブチェック……」

「ノブさん……」

「なんだ?」

 

俺は思い切ってカードを捲ろうとするノブさんに声をかけた。俺に気を使っているのにこちらから切り出すのも空気が読めてないけど、俺のせいで伸び伸びとファイト出来ていないと思ったら、黙っているわけにはいかない。

 

「俺に気を遣わなくても大丈夫ですよ。俺のせいでノブさんが楽しくファイト出来なくなってるというのは薄々感じています。何か気になることがあったら、構わず言ってください」

 

ノブさんは俺の言葉で少し面喰ったような表情を浮かべる。しかし、すぐに「フッ」と鼻で笑いながら、デッキに伸ばしていた手を引いた。

 

「別にお前に気を使ってるわけじゃないだがよ。どうにも、俺は不器用な性格らしい」

 

頬杖をつきながら溜め息を零す。その様子を見て、強張っていた俺の緊張も、少しだけ緩んだような気がした。

 

「たしかに俺は、お前に対して少し気になったことがあった。しかしそれは、俺の押しつけのようにも感じる。馬鹿みたいだよな、勝手に悩んでお前に気を使ってもらうなんていうのはよ」

 

苦笑いを浮かべながら心情を吐露するノブさん。俺が感じていたこの人の葛藤は恐らくこのことだったのだろう。

 

「そんなことはないですよ。事の原因を作ったのは俺だし、多分そのノブさんが思ったことは間違っていないはずです」

「お前は本当に優しい奴だよな。――だがよ、その優しさは自分の為になってるのか?」

「え……?」

 

唐突に問いかけられ、返す言葉が瞬時に出てこなかった俺の口からはそんな間抜けな声しか出せなかった。

 

今、ノブさんから感じられたのは決意。葛藤を乗り越え、喉元でつっかかていたわだかまりを吐き出す準備が整ったかのようだった。

 

「俺はどんなことでも楽しんだもん勝ちだと思ってる。それはファイトだけじゃない。デッキの作成や他の勝負事、人間関係に至ってもそうだ」

 

真剣な眼差しで俺を見据えるノブさん。その雰囲気は、どことなくクリアさんに似たようなものを感じた。

 

「デッキ作成ってのは、ファイターとカードが初めてやる共同作業だ。自分がどれだけファイトをして、その結果試行錯誤を重ねて初めて使いたいカードの役割と意味が浮かび上がってくる。それで勝って初めて嬉しくなるし負けて悔しいかったり、強くなりたいと努力をしようと思う。けどお前は単に他人が考えてデッキをお前がただ使ってるだけのレンタルデッキで遊んでるのと同じだ。そんなデッキを使ったって、使いこなせる訳じゃないし、勝っても負けても心の奥底から嬉しくなければ悔しいとも感じない。ヴァンガードをやっていて楽しくもない……と俺は思う」

 

ノブさんの言葉が俺の心にグサッと刺さったかのような錯覚を覚える。別に努力を怠ってるわけではないけど、あのストリート・バウンサーをコールした時、少なからずショウさんという保険を用意していたのは確かだった。

 

「それを1番理解しなきゃいけない奴がそれに気づかずに、ただデッキを使ってファイトしたところで、カードが応えてくれるはずがない。そんな奴とファイトして勝っても、俺は嬉しくもなければ楽しくもない。何よりお前自身が本当に自分の勝利のイメージ、先導者としての役割を果たせるはずないんだよ」

 

俺は黙ったままその言葉を受け止める。俺がノブさんを避けていた理由、それは俺とこの人はまるで正反対の性格だからだ。

 

俺が初めての大会に感じていた不安。それは、自分は何を糧にしてファイトをすればいいのかということ。そんな小さなこと、きっとノブさんは気にもしないだろう。

 

しかし、それはハジメとのファイトで解決した。自分とファイトしてくれる人に満足してもらえるように徹するということ。

 

しかしノブさんの言う通り、俺はヴァンガードちゃんと楽しんでやっている自信はなかった。自分が戦うことで、他の人の道を遮ってしまうかもしれない。そんな風にしか思えなかった俺が、無心に楽しむなんてことは出来るわけがない。

 

でも……、

 

「ノブさんが言ってることは正しいと思います。俺はヴァンガードを楽しんでいない。なんなら、ここにいる誰よりも、俺はヴァンガードと真正面に向き合ったことはありません」

「……自覚はしてるんだな」

 

俺は静かに頷く。それに間違いはないんだから。それでも……、

 

「それでも、それが俺という人間なんです。人の感情に敏感で、何をするにも人の顔を窺って、何一つ自分の為に何かをしようとはしない。自分の感情は二の次で、人の気持ちを第一とする。そういう人間なんです、俺は」

「……そういう返答は予想してなかった。だがよ、それじゃあお前は自分のユニット達もあくまで人との関係を保つただの道具だとでも言うのか?」

 

俺の言葉に困惑な表情を浮かべながらも、俺の真意を知ろうとするノブさん。真剣にそのことを問い詰めようとするノブさんだったが、俺はたまらず声を出しながら笑った。

 

「な、なんだよ。突然吹き出してよ」

「いえ、ノブさんも俺に負けないくらい優しい人だと思ったんですよ。俺のことの心配もして、それで俺のユニット達の心配もして」

「当たり前じゃねぇか!こいつらは俺たちの為に戦ってくれてんだ。それに敬意を表さない奴はヴァンガードをする資格はない!」

 

ノブさんは机を叩きながらそう熱弁する。

 

あぁ、やっぱりこの人は俺がイメージしていた通りの人なんだな。俺はそう思いながら、自分のデッキに手を置いた。

 

「実はこのデッキ、元々ハジメに作ってもらったデッキなんです。それを俺がそのまま使って、最近になってショウさんに少し改良してもらった。ノブさんの言う通り、これはレンタルデッキみたいなものなのかもしれない」

 

「なら……」と口を開いたノブさんに、俺は重ねて話をつづける。

 

「でも、だからこそ俺はこのデッキを大切にしたいと思ってるんです。みんなが俺の為に作ってくれたデッキで、俺がそれに答えないわけにはいかない。それは、作ってくれた人たちもですが、このユニット達も例外ではありません。先導者として俺は適任ではないかもしれない。でも、俺は俺のやり方で皆を導きたいと思ってます。それが、俺に出来るみんなへの恩返しだと思うから」

 

目を丸くしながら俺の言葉を聞いていたノブさんは、溜め息をつきながら笑みを浮かべた。

 

「……そうか。俺とは形が違っても、こいつらにかける思いは同じなんだよな。悪いな、まるでお前を否定するようなことを言っちまってよ」

「そんなことはありません。ノブさんの言ってることは俺の心に響きました。事実、俺はまだこのデッキを完全に理解できていなかったんですから。でも、それはさっきまでです」

 

俺はデッキに置いていた右手を握り、自分の胸元まで持ってくると、自分の決心を揺るがないものにするためにその表明をノブさんに突き付けた。

 

「もう俺に迷いはありません。ハジメと約束したんです。二人で地区大会に行こうって。だから、俺はここでノブさんに勝ちます!絶対に!」

「言うじゃねぇか、カイリ。いいぜ、それでこその真剣勝負だ。じゃなきゃ勝っても楽しくねぇし、負けてもこれならどんなことでも笑って受け入れられる。さぁ、俺のドライブチェックから再開だ!」

 

いつもの笑顔が戻ったノブさんは、意気揚々にデッキからカードを捲った。

 

「アーミーペンギン、ドロートリガーGETで一枚引くぜ!」

 

緩やかに進展していくファイト。しかし、ノブさんも俺も、クリティカルを自力で上げるスキルを持つユニットを保有している。勝負は今のような緩やかに進むことはないだろう。

 

ディメンションポリス

 

手札8

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

「スタンド&ドロー。Mr.インビンシブル(10000)にライド!スキルでSC(ウォールボーイ)。左下にライザーカスタム(6000)、V裏にパーフェクトライザー(11000)、左上にマジシャンガール キララをコールしてバトルに入ります!」

 

キララ/インビンシブル/

ライザーカスタム/パーフェクトライザー/バトルライザー

 

俺の方は準備が整っている。次のターンから一気にパーフェクトライザーで仕留めにかかる!

 

「ほう、既に全開というわけか。いいじゃねぇか!なかなか楽しませてくれる!」

「まだ満足するには早いですよ。次のターンからこのデッキの本領を見せますから!インビンシブルでVにアタック!」10000

「コスモ・ファングでガード!そいつは楽しみだ!」20000

「ツインドライブ!!ファーストチェック、ストリート・バウンサー。セカンドチェック、タフ・ボーイ。トリガーなしです。ライザーカスタムのブースト、キララでVにアタック!」15000

「ノーガードだ!ダメージチェック!コスモ・ビーク!トリガーなし!」

「これで俺のターンは終了です」

 

ノヴァグラップラー

 

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

「俺のスタンド&ドロー!確かにお前のパーフェクトな姿を見るのも楽しみだが、そうなりゃ俺も結構厳しくなるんでよ。少しばかり削らせてもらうぜ?正義の心が炎と燃える! ライド、The・ヴァンガード!超次元ロボ、ダイユーシャ(10000)!」

 

超次元ロボ ダイユーシャ……ストームと同じ、パワーが4000上がった時にクリティカルを+1することが出来るユニット。

 

俺のデッキが攻撃に特化してることもあり、このカードのスキルが発動したアタックを防ぐには、ノブさんが言うようにそれ相応の犠牲を払わなければいけないだろう。

 

そして、わざわざこういう風に言うのだから、当然パワーを上げるカードもあるのだろう。

 

「右上にコスモ・ビークをコール!そしてCB2でダイユーシャのパワーを+4000!さらに、俺はこのカードをビークの後ろにコールするぜ!」

 

もったいぶってそうカード取るノブさん。何かと気になりそのカードに注目した俺は、そのカードの持つ潜在力に、圧倒されることになる。

 

「コマンダー・ローレル(4000)。この序盤にクリティカルを上げてもノーガードされるのが落ちだからな。どうせなら、全力の攻防をしようじゃねぇか!」

「それは……勘弁してほしかったですかね……」

 

まるで俺の考えを見透かしたかのようにノブさんは俺を見据えた。ノブさんの言う通り、これで俺はVを通すことが難しくなったと言えるだろう。

 

いや、はっきり言ってこのアタックを防ぐのはかなり難しい。俺は次のターンにパーフェクトライザーにライドする為にかなりのユニットを場にコールし、手札にはライドする為のパーフェクトと先ほどのドライブチェックのカード2枚。そして、元々持っていたライザーカスタムと、叫んで踊れる実況シャウトがあるのみ。

 

あそこでトリガーが発動していれば、多少は楽になったかもしれないけど、贅沢は言ってられない。今あるカードでどうにかするしかない。

 

「加えて、V裏にグローリー・メーカー(6000)をコール、左上にミラクル・ビューティー(10000)、左下にコスモ・ロアー(6000)をコールしてバトルに入るぜ!」

 

ビューティー/ダイユーシャ/ビーク

ロアー/グローリー/ローレル

 

容赦なく盤面全てを埋めてきたノブさん。マジでかなりきつい……。

 

「グローリー・メーカーのブースト、ダイユーシャでVにアタック!」20000

「ぐっ……」

 

見事なまでに最低15000ものガードを要求してきたノブさん。その数値に、俺は思わずうめき声を上げる。

 

これを通せば2ダメージは確定。さらにドライブチェックでアドバンテージが取られ、ローレルのスキルでクリティカル2のダイユーシャがスタンドする。これはなにがなんでも防がないといけない!

 

「キララをインターセプト。加えて、叫んで踊れる実況シャウト、ストリート・バウンサータフボーイでガード!」20000

「なーはっは。カード4枚使ってのガードとは必死だな。それでこそローレルを出した甲斐があるってもんだけどよ」

「ぐぬぬ……」

 

言い返す言葉が見つからなかった俺は、顔を強張らせながら、高笑いするノブさんを睨む。

 

しかし、これでとりあえず防ぐことが出来る。後は、これ以上痛手がないようトリガーが出ないことを祈るしかない……。

 

「ツインドライブ!!アイン!ジャスティス・ローズ!GET、ヒールトリガー!回復して、パワーをビークに。ツヴァイ!ミラクル・ビューティー!ロアーのブースト、ビューティーでVにアタックだ!」16000

「ノーガードです。ダメージチェック、バトルライザー。スタンドトリガーでライザーカスタムをスタンド、パワーをVに加えます!」15000

「次だ!ローレルのブースト、ビークでVにアタック!」17000

「……ノーガードです。ダメージチェック、ウォールボーイ!ヒールトリガーでダメージを一枚回復させます!」

「これで俺のターンは終了だぜ!」

 

ディメンションポリス

 

手札4

ダメージ表0

ダメージ裏1

 

一番の脅威は乗り切ったが、それでもこのターンに生じた傷跡はあまりにも大きい。あれほど余裕のあった手札がいまや二枚しかなく、ノブさんは手札にもダメージにも大きな余裕がある。

 

この俺のターン。このままインビンシブルで何とかやり過ごすか、それともパーフェクトライザーにライドして一気に攻めるか。この選択が、この後の選択を大きく左右することになる……。

 

「俺のスタンド&ドロー!」

 

思い切り引いたカードを恐る恐る確認する。それを確認した俺は、この場でするべきことが何かがすぐに感じ取ることが出来た。

 

「唯我独尊!完全無欠の最強ライザー、今ここに爆誕!ライド!パーフェクトライザー!!」

 

今までファイトしてきた中で恐らく一番高いテンションでライドした、と俺は思った。正直、ちょっと恥ずかしい。

 

しかし、それは勝利を諦めていない現れであり、俺がどれだけこのカードを信じているかを物語っていた。

 

「パーフェクトライザーのスキル発動!この場に存在する全てのライザーをソウルに吸収!そして自ターン中、パーフェクトライザーのパワーは+12000!クリティカルが+1となる!」

「ついに完成したパーフェクトライザーおでましか!いいぜいいぜ!燃えるじゃねぇか!」

 

ノブさんも俺と同様にテンションを上げながら、ライドしたパーフェクトライザーに注目していた。こういうところは、どことなくツカサ先輩に似てる気がした。

 

「そして俺は、右上にマジシャンガール キララ、右下にライザーカスタムをコールして、バトルに入ります!」

 

/パーフェクトライザー/キララ

//ライザーカスタム

 

俺が今引いたのはマジシャンガール キララ。キララにはアタックヒット時にCBでカードをドローするスキルを持っている。

 

このパーフェクトライザーのアタックは必ずノーガードしてくるだろう。これだけダメージに余裕があるんだから。そしてこのドライブチェックでトリガーを引いて要求値を底上げ。ダメージチェックのトリガーでVのパワーが上がったならばビューディーにアタックすればいい。

 

攻めと守り。今の俺にできる双方ともにバランスが取れた最高の布陣!これを、ノブさんにぶつける!

 

「パーフェクトライザーでVにアタック!」23000

「ブーストなしでも圧巻のパワーだな。流石は無敵のライザー、そのアタックはノーガードだぜ!」

「ツインドライブ!!ファーストチェック、レッド・ライトニング!クリティカルトリガーでクリティカルはVに、パワーはキララに加えます!二枚目、パーフェクトライザー。トリガーなしです」

 

ここでクリティカルトリガーが出たのは大きい。これでノブさんは一気にダメージを3点受けることになり、一気に即死圏内へと入った。

 

しかし、逆に言えばダメージトリガーが出やすくなるとも言える。そうなれば、キララで手札補強をすることが出来なくなってしまうかもしれない。

 

後は、神のみぞ知るといったところか……。

 

「ダメージチェック!アイン、カレイロイド・デイジー。ツヴァイ、ガイド・ドルフィン!GET、スタンドトリガー!ローレルをスタンドし、パワーはVに加える!ドライ、イニグマン・ウェーブ。トリガーなしだ」

 

なんとか一枚で事なきを得ることが出来た。これで予定通り、パワーの上昇したキララでビューティーにアタックすることが出来る!

 

「ライザーカスタムのブースト、キララで……」「ジャスティス・ローズ、ビークをインターセプトでガード」25000

「えっ……」

 

突然の出来事に思わず声を零す。俺が宣言を言い終える前に、ノブさんは既にガードを完了させていたのだ。

 

たしかにこのシチュエーション、ビューティーにアタックをするのが碇石。しかし、それにしてもこのガードはあまりにも不気味なものだった。

 

「と、とりあえず、俺のターンはこれで終了です……」

 

ノヴァグラップラー

 

手札2

ダメージ表2

ダメージ裏0

 

息もつかせぬそのガードは、少なからず俺の動揺を誘い、それによって生じた不安な気持ちを、俺は手札を眺めながら落ち着かせようとした。

 

このターン、ダメージにビークがかなり落ちてしまっているのはとても大きい。これなら、ダイユーシャのスキルが発動される心配はない。それに、今までのファイトでノブさんのデッキにクリティカルトリガーが入ってないことは知ってるから、今ある手札でガードすることは可能なはずだ。

 

自分落ち着かせる為に戦略を巡らせる俺は、これからコールされるであろうノブさんの盤面へと視線を向ける……

 

「えっ!?」

 

再びだらしのない声を上げる。しかし、それも当然だ。少し、ほんの一瞬目を離しただけなのに、ノブさんの盤上にはいつアタックするか今か今か待ち構えるユニット達で埋め尽くされていたのだ。

 

ビューティー/イニグマン・レイン/ビューティー

ロアー/グローリー/ローレル

 

「いつの間に……」と呟こうとした瞬間、それを遮るようにノブさんは行動を移した。

 

「ロアーのスキル発動。このカードをレストし、レインのパワーを+2000。その前のビューティーでキララにアタック」10000

 

考える余地もない疾風の如きノブさんのアタックが俺を襲う。ヴァンガードがレインに代わっていたり、そのレインのパワーが2000上がったという状況を何とか理解し、俺はノブさんのその早すぎる行動に誘われるようにキララはドロップゾーンに置いた。

 

「グローリーのブースト、レインでVにアタック」22000

「それは……っ!?これはっ!?」

「気づいたか?」

 

次のアタックのガードをどうしようかと考えた最中、俺はとんでもないことに気づいた。そしてその俺の動揺は、ノブさんにも容易に感じ取ることが出来ただろう。

 

「残念ながら、このターンでフィナーレだ。俺のデッキを知ってるお前なら、これから何が起きるかわかるよな?」

「…………」

 

俺は、死んだ魚のように口をパクパクしながら茫然とノブさんの盤上を眺める。そう、知っている。これから起きる出来事。それは……

 

「ツインドライブ!!アイン!アーミー・ペンギン!GET、ドロートリガー!一枚引いてパワーはVに!ツヴァイ!ガイド・ドルフィン!GET、スタンドトリガー!グローリーをスタンドさせ、パワーは全てVに加える!」

 

「……ダメージチェック、キング・オブ・ソード。トリガーなし……」

 

「アタックがヒットした時、レインのスキル発動!ミラクル・ビューティーをスタンドォ!さらに、ビューティーのスキルで後列のロアーもスタンドォ!そしてVのアタックがヒットした時、ローレルのスキル発動!ビューティ2枚とロアー、ローレルをレストし、Vのレインをスタンドさせる!そしてスタンドしたレインでVにアタック!ツインドライブ!!アイン!イニグマン・ウェーブ。ツヴァイ!コスモ・ファング!GET、スタンドトリガーだ!右のビューティをスタンドさせ、パワーは全てVに加える!さらに、ビューティのスキルで後列のローレルをスタンドォ!さらにレインのスキルでアタックがヒットした時、左のビューティもスタンドォ!スキルでロアーもスタンドォ!Vのアタックがヒットした時、ローレルのスキルで今スタンドした4枚レストし、レインをスタンドォ!」

 

俺の敗北……。俺のダメージがいくつかなんて全く関係ない。

 

俺が負けるまで何度も、何度も何度もアタックし続ける。前にハジメとファイトした時に見たことがある。こうなったノブさんは、トリガーを外したりはしない。

 

「どうだ?俺の不滅なる無限の正義(レジェンド・オブ・インフィニティ・ジャスティス)はよ」

「……あの時のハジメの気持ちを心の底から共感した気分です……」

「なーっはっは!まっ、気持ちはわからなくもないがよ。けど、俺がこのデッキを使う理由だ。お前の心情を無視するつまりはないがよ、ユニット達と共に成長する強さっていうのはわかってもらえたら、俺としては満足だな」

 

高笑いをした後、少し照れくさそうに頬を掻くノブさんを見て、俺は圧倒されたことを忘れてクスリと笑った。

 

「身に染みてわかりましたよ。ノブさんの強さの秘訣。やっぱり俺じゃあノブさんみたいに強くなれないですかね」

「そんなことはねぇよ。お前の言ってることだって筋が通った立派なもんだ。仲間を大切にするっていうのは簡単なようで難しい。それが出来るお前は十分立派なファイターだ。俺も覚えておくぜ、お前のその心構えをな。お前の意思、俺が引き継いでやるぜ!」

「はい、ノブさんになら俺、心配することなく送り出すことが出来ます。絶対にヴァンガードチャンピオンシップで優勝してくださいね!」

「ゆ、優勝か……。ま、まぁ、それくらいの気構えがないとクリアとは戦えないよな!」

「そうですよ!」

 

そんな風に俺は笑顔でノブさんとの会話を楽しんだ。自分が負けて悔しいとか、ハジメとの約束を守れなかった罪悪感だとかという感情は一切湧いてこなかった。

 

それは、あまりに圧倒的に負けすぎたせいなのか、それとも相手がノブさんだったからなのか、それは定かではない。

 

ただ、このファイトは俺にとってかけがえのないものであるのは間違いない。それが例え敗北であっても、それが俺にとって力になる。そう思うことで、俺はまた少しだけ成長したと実感することが出来た。

 

 

決勝トーナメント 一回戦

勝者 椿ノブヒロ


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