先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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試される刃

「アイリスナイトでVにアタック!」10000

「……ノーガード」

 

10000ガードを使えば確実にガードできるアタックにシロウはそう宣言する。

 

まだネオネクタールにはクリティカルトリガーは1種類しかない。ここでクリティカルが出る確率はそこまでないと思ってのノーガード。

 

尤も、ブライトプスを採用する理由がクリティカルなどの割り増しだとすれば定かではないが。

 

「ドライブチェック、ダンガンマロン。クリティカルトリガーだ。クリティカルはV、パワーはブライトプスに振り分けるよ」14000

「ダメージチェック、一枚目……ザ・ゴング。GET、ドロートリガー。一枚引いてパワーはVに。二枚目……アシュラカイザー」13000

 

予想に反してクリティカルが発動。しかし、こんなことはヴァンガードをしていればよくあることだ。

 

「カローラのブースト、ブライトプスでVにアタック!」22000

「ウォール・ボーイでガード!」23000

「これ以上の進撃は許さない……か。これで僕のターンは終了さ。どうだろう、僕も結構普通のファイトができると思わない?」

「ブライトプス出した口でよく言うよ。まぁ、いい意味で通常運行で僕は安心したよ。お兄ちゃんがまじめにファイトをしてくれてるということだからさ」

 

息を吹き出しながらシロウはそう言う。自分のターンに回ったことによる緊張の緩み。

 

まだファイトが終わっていない状況でこれは自殺行為に思われるかもしれないが、そういつまでも気を尖らせていては逆に気が滅入ってしまう。

 

シロウのこの言葉もショウへの適当な返答。しかし、ショウは更に話を掘り下げた。

 

「いんや、これは僕にとって普通のファイトと同じさ。同じネオネク使いのユウさんが堅実な手で僕達を遮ったのと同じように、僕もシロウの未来を堅実的に遮る。だからシロウはそれに抗わなければいけない」

「……何が言いたいのかわからないけど、言われなくてもお兄ちゃんを倒すという気持ちは揺るがないよ。僕のスタンド&ドロー!ブラウクリューガー(10000)にライド、The・ヴァンガード!」

 

話の意図が掴めないシロウは少し顔をムスッとすると強引に会話を終わらせ、ユニットを展開してゆく。

 

「パンツァーを後列に移動してそこにキング・オブ・ソード(10000)、V裏にタフボーイ(8000)をコール。バトルに入るよ!」

 

/ブラウクリューガー/キング

/タフボーイ/パンツァー

 

「フフン、なるほど。こちらのライド先を考えてのタフボーイの配置。いい布陣だ」

「余裕を言ってられるのも今のうちだよ。たとえ読むことができてもそれを回避できるかは別問題。もしあのカードを引くことができれば、僕は一気に主導権を握れるんだからさ」

 

シロウもまた挑発的な笑みを浮かべながらそう忠告する。これが人見知りを振り払ったシロウの本性なのだろう。

 

ショウもそんなシロウに慣れているのか、フッと笑うと自分の手札を場に置いた。

 

「それはごもっとも。じゃあ早速その主導権への船出と行こうじゃないか」

「言われなくても……タフボーイのブースト、ブラウクリューガーでVにアタック!」18000

 

自分の挑発にも動ずる事のない兄に、シロウは行動でもってショウに攻め立てる。

 

「ノーガード」

「ドライブチェック……アイゼンクーゲル」

「ダメージチェック、ウォータリング・エルフ。スタンドトリガーだ。パワーはVに加えてカローラをスタンド」15000

「……パンツァーのブースト、キングでVにアタック」16000

「ダンジング・サンフラワーでガード!」20000

「……ターン終了」

 

ノヴァ

手札6

ダメージ表2

ダメージ裏0

 

気難しい表情を浮かべながらシロウはターンを譲った。

 

(最後のキングのアタック……ブライトプスのスキルを気にしてVにアタックしたけど、あれで本当に良かったのかな……)

 

現状を頭の中で整理するシロウ。何をしてくるか読めないショウが相手だからこそ、自分のプレイングの最適化が必要となる。

 

(ブライトプスは自身がRからドロップゾーンに落ちた時にCBでデッキからG0のシールドンを手札に加えるスキルを持ってる。ネオネクタールはCBをそこまで多様するクランじゃないから、わざわざスキルを誘発させてアドバンテージを取らせるメリットは少ないと思ったけど……)

 

視線をショウの手札に向ける。

 

(お兄ちゃんの手札にアタッカーがいない可能性だって考えられたからブライトプスへのアタックもなくはなかった……あれ、この感じ……どこかで……)

 

シロウは頭の中に霧がかかったような違和感を感じた。が、その違和感はすぐに晴れた。

 

(そうだ。大会の始めにお兄ちゃんが使ってたクレステッドと同じなんだ。もしかしてお兄ちゃんは僕にアタッカーを攻撃されないようにブライトプスを……)

 

湧き上がる憶測の中、シロウは今にもライドをしようとするショウの方へと意識を向けた。

 

「メイデン・オブ・トレイリングローズにライド!(11000)そして、左上に収穫の騎士ジーン、V裏に木漏れ日の貴婦人(7000)をコールしてバトルに入ろう」

 

収穫ジーン/トレイリングローズ/ブライトプス

/木漏れ日/カローラ

 

「収穫の騎士ジーン……前にユウさんと話していたデッキはこのことだったんだね」

「ほほう、覚えてたんだ。その通り、あの時はこのカードを使うだけで若干変わり者扱いされたけど、僕が他に使うカードに比べれば全然まともでしょ」

 

澄ました表情でショウはそう言う。

 

そんなショウの様子が気に障ったのか、シロウは険しい面持ちでショウを見つめる。

 

「いやにまともって言葉を強調するね。それに何か意味はあるの?」

「特に何もないさ。ただ、知っておいてほしいのさ。僕もちゃんとみんなと同じようにファイトが出来るってことをさ。もっとも、僕本人はこういう戦い方はあんまり好まないけどね。カローラのブースト、ブライトプスでキングにアタック」17000

 

今度はショウが会話を無理やり終わらせるかのようにアタックを宣言する。

 

「っ……ノーガード。キングは退却」

 

これ以上無駄口を言えばこちらもペースが乱れると考えたシロウは無理やり邪念を払いのけ、アタックに対応した。

 

結果に満足したショウはニヤリと笑みを浮かべた後、次のアタックに移る。

 

「木漏れ日のブースト、トレイリングローズでVにアタック」18000

 

甦る過去の記憶。自分の兄を敗北へと突き落とした刃が、その兄の手によって自分に突きつけられる。

 

「トレイリングローズ……確かに強力なスキルを持ってるけど、それはあくまでペルソナブラストのコストが払えられればの話……」

「ご名答。今の僕の手札はたったの一枚。ここでその目的のカードを持ってる確率はそこまで高くないことになるけどさ――」

 

ショウはその手札の一枚を指に挟むと、まるで自分を見下すように顔を上げた。

 

「まさか、この僕が自分のショーを披露することなく終わるとでも思っていないよね?」

「……っ!」

 

長すぎる前髪から覗かせるショウの鋭い視線がシロウに深々と突き刺さる。普段のショウからは感じたことのないプレッシャーに、今まで食い気味な態度をとっていたシロウも動揺せざる負えなかった。

 

(もし……例えばの話だけど……お兄ちゃんがスキルを発動させたとして……コールされる場所は恐らくジーンの後列とアタックし終わったブライトプスのいる前列。後列に置かれたカードは単純なハンドアドバンテージを得られるけど、前列はブライトプスを圧殺したことでプラマイ0……違う)

 

仮説を組み立てながらショウの思惑探る。焦ったままで事を運んではいい結果を生まない。それは、前のクリアとのファイトで経験済みだった。

 

(ブライトプスの退却効果はあくまで場からドロップゾーンに置かれた時に発動することが出来るスキル。つまり、圧殺による退却もそれに含まれるということは……お兄ちゃんが狙っているのは……)

「……ガード、ツイン・ブレーダー。手札のレッド・ライトニングを捨てて完全ガード……」25000

 

シロウは惜しみながらカードを二枚切った。レッド・ライトニングをガードに使い、さらにアイゼンを追加すれば一枚分ガード出来るが、それをすれば次の戦線を弱体化させてしまう。

 

それを確認したショウはフッと笑みを浮かべると、デッキに手を添えた。

 

「ツインドライブ!!ファースト、ダンガン・マロン!クリティカルトリガーの効果は全てジーンに。セカンド、カローラドラゴン。ジーンでVにアタック」

「……ノーガード」

 

シロウは努めて無表情でそう宣言する。このたった15000のアタックをガードできないことが、どれだけショウにメリットを与えるかは理解出来ているが、これによってもたらされる自分へのメリットとを天秤にかけた上での判断であった。

 

「ダメージチェック。一枚目……ブラウパンツァー。二枚目……武闘戦艦プロメテウス」

「ジーンのアタックがVにヒットした時、スキル発動。収穫の騎士ジーンをデッキに戻し、デッキから若葉の騎士ジーンを左列に二枚コールして僕はターンを終了するよ」

 

ネオネクタール

手札3

ダメージ表2

ダメージ裏0

 

「僕のスタンド&ドロー、よし」(準備は整った。後は……アタックするだけだ!)

 

引いたカードを手札に加えたシロウは、そう思いながら獲物を捕えたかのようにショウを見据えた。

 

「ライド、The・ヴァンガード!シュテルン・ブラウクリューガー!(11000)右下にロケットハンマーマン(6000)をコールしてスキル発動!このカードをレストして、シュテルンのパワーを+2000する!そして右上にアイゼンクーゲル(10000)、左上にアシュラ・カイザー(11000)をコールしてバトルに入るよ!」

 

アシュラ/シュテルン/キング

ロケット/タフボーイ/パンツァー

 

シロウがデッキを作成した時に思い描いていた最高の布陣。2000のパワー上昇によって、シュテルンはタフボーイのブーストを合わせてパワー21000。このパワーはシュテルンのスタンド能力を使用した後も効力が継続し、上手くいけば一ターンで相手に大きな痛手を与えることが出来る。

 

「アシュラで若葉の騎士ジーンにアタック!」11000

「なるほど、いいアタックだ。ノーガード、ジーンは退却しよう」

 

完全に流れはこちらに向いている。そのはずだが、ショウはまるで涼しい顔でそうジーンをドロップゾーンに置いた。

 

当然、そんな態度を取られてシロウがなんとも思わないわけがなく、何故彼がこれだけ余裕でいられるかの予想を探らざる負えなかった。

 

(さっきの態度でお兄ちゃんの手札にあるカードがペルソナブラストを使う為のトレイリングローズであることは間違いない。さっきトリガーした合計ガード値は15000、そして場にあるブライトプスのインターセプトを合わせれば20000ものガードをすることが出来て、シュテルンのアタックをギリギリ一枚分ガードすることが出来る。横のキングでブライトプスを処理しようとしても、スキルでデッキからシールドンを持ってこられたらさらにガードに余裕を作らせてしまうから、こればかりは仕方ないとしても、手札、前列を全て消耗させてもお兄ちゃんは何とも思わないのだろうか……)

 

しかし思案を巡らせても答えは出ない。故にシロウは、そんな不確定な思いのまま、アタックするしかなかった。

 

「タフボーイのブースト、シュテルンでVにアタック!」21000

 

全身全霊のアタック。このデッキにおける最強火力をぶつけるシロウのこのアタックは、ショウからしても警戒を置くに足る存在である。

 

更にシロウのダメージは四点。ここで止めることが出来なければ、大きな打撃、もしくは致命傷を与えられてしまいかねない。

 

しかし、そんな局面を作ったのはショウ自身。当然対抗策は考えており、彼が四点にしたのはむしろシロウにこのような運用を促したに他ならない。

 

「ガード、メイデン・オブ・ブロッサムレイン。手札のダンガン・マロンを捨てて、完全ガード」

守護者(センチネル)!?そんな……、じゃああの時言ったあの言葉は……」

 

完全に意表を突かれたシロウは、驚愕の意を隠せないかのように狼狽えながらショウの顔を見つめた。

 

ショウという人間が、どれだけ奇策にこだわっているかは大会最初のコウヘイとのファイトでショウ本人が公言している。そしてトレイリングローズがアタックした時、それを暗示するかのような言葉もあり、彼がトレイリングローズのスキルを用いてブライトプスとのコンボを決めにかかっていたのは火を見るより明らかだった。

 

しかし、実際には違う。それは、今このガードによって証明された。

 

もしショウがあの言葉を言わなければ、シロウは迷わずトレイリングローズのアタックをノーガードで済ませただろう。実際、あれをノーガードにすれば、もっとシロウが有利に事を運ぶことが出来たのだから。

 

しかし、もしその言葉が嘘だったのだとしたら、ショウは自分の奇策を、自分の思想を盾にしてシロウを騙したということになる。あのショウが、だ。

 

「言ったはずだよね。僕もその気になればまともにファイトを出来ることをさ」

 

だからこそ、シロウは信じられなかった。今のショウにとって、ファイトの中身より、ファイトの結果のほうが重要だったのだ。

 

「お兄ちゃんは……これでいいの?こんな勝ち方で、お兄ちゃんは満足できるの?」

 

真実を知るためにシロウは恐る恐るそう問いかける。ショウの口から本当の事を聞かない限り、このモヤモヤした考えが晴れることはないと思ったからだ。

 

「そんなの決まっていることさ。満足できるわけがない」

 

穏やかな表情で返したショウの返答は、シロウの考えていた返答とは別の意味で予想通りだった。こんなファイトで満足できるわけがないということを。

 

「じゃあ……どうしてこんな嘘までついて……」

「それも決まっていることさ」

 

フッと笑みを浮かべながら、ショウはまたそうすぐに返答した。

 

「勿論、シロウの為さ」

「僕の……為?」

 

自分を指さしながら名前を呼ぶショウに、シロウは困惑した。それが表情に出ていたのか、ショウは唐突に話を始める。

 

「僕はね、今までに二度、本気で勝ちたいと思ったことがある。最初はツカサ君とファイトした時」

 

それは知っている。一回戦目の大一番。誰もが注目した彼らのファイトは、シロウですら初めて見るショウの怒りに驚かされると同時に、彼が勝ちにこだわってしまったことを頷く理由にもなった。

 

「あの時ツカサ君に裏を突かれて、僕は彼を認めた。でも、心の中ではやっぱり悔しかった。同じ戦い方をする彼に、僕は今までに感じたことのない劣等感を味わったのさ」

 

思い出すように目を閉じながらショウは当時の事を語る。それを、シロウは黙って聞いていた。

 

「だから僕はヴァンガードを始めて初めて勝ちたいと思った。これが一回目」

 

ショウはそう呟きながら指を一本立てる。すると今度は二本目の指を立て、シロウの方を向きながら目を開いた。

 

「そして二度目は今この瞬間。シロウ、君とのファイトのことさ」

「僕とのファイト……」

 

シロウは思わず呟く。そしてその言葉にショウは頷いた。

 

「そうさ。だから僕は嘘をついた。それはそのカードの尊厳を踏みにじる行為かもしれないけれど、それ以上に僕にはシロウ、君の方が大事だからさ」

「……どういうこと?」

 

シロウの問いかけに、ショウは再び口を開く。

 

「この先、きっと色んなファイターとファイトすることになる。色んな困難に見舞われることになる。アネモネだけじゃなく、全国の色んな猛者とのファイトによって。それは大会とか関係なしにさ」

 

「だから、シロウには覚えていてほしいんだ。『ヒーローの条件は、最後に立っていること』だということを。シロウからしたら今の僕は尊敬に値する兄ではないかもしれない。でもいつまでも綺麗事を言っていられない。言える状況じゃない場面に出くわす可能性だってある」

 

真剣な眼差しで語る彼の口が少しだけ綻ぶ。その言葉の中には、シロウへの感謝の思いも込められていた。

 

「どんな相手、どんな状況でも、シロウには本質を見極めてほしい。これが僕の……兄である宮下ショウから送るシロウへの思い。昨夜、シロウが僕とファイトしたいと言ってくれた時、僕は凄く嬉しかった。だから、シロウには誰にも負けない『ヒーロー』であってほしい。勝手な僕の希望だけど、僕の思いはシロウに伝わるかな?」

 

今度はショウからシロウに問いかける。ぎこちない笑みを浮かべる我が兄に、シロウは少し間を置くと、情けなさそうに溜め息をついた。

 

「本当、お兄ちゃんは人づきあいが苦手だよね。こんな形じゃないとそういうことも言えないのかって、ちょっと情けなく思っちゃうよ」

「それは面目ない……」

「でもさ」

 

シロウはショウに向けてニッと笑いかけた。

 

「僕も久しぶりにお兄ちゃんっぽいことを言ってくれて嬉しかった。言われなくても僕は負けるつもりもないし、このファイトだってすぐに挽回するつもりさ。『ヒーロ-』になるのはこの僕だからね」

 

今度は挑発的な笑みでシロウは言った。ショウを気遣っているわけでもなく、本当に自分を慕ってくれるシロウの姿に、ショウも自然と笑みが零れた。

 

「フフン、それでこそ僕の弟だ。じゃあファイトを再開しようか!」

 

二人の兄弟はそうしてファイトを続けた。ショウの策によって生まれた差は大きく、何とか挽回を試みたシロウであったが、力及ばず勝負はショウの勝利に終わった。

 

この時点で地区大会への道は遮られてしまったが、シロウは全く後悔はしていない。

 

これほど素晴らしい兄が自分の代わりに出てくれる。だから安心して後を任せることが出来る。

 

シロウは、兄が自分に送ってくれた言葉を胸に刻みながら、対戦カードを持っていくショウの後ろ姿を見送った。

 

 

決勝トーナメント 一回戦

勝者 宮下ショウ


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