先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

55 / 86
勝てる気がしない

「…………」

 

クリアは手に持つコーヒーを口に含むと、カップを机に置いた。ノブヒロの話を聞きながら、当時のことを思い出していた。

 

「如月トキ……」「何か言ったかしら?」

「っ!?」

 

物思いに耽っているクリアをしかめっ面で同じくコーヒーを飲んでいるミヤコが口出しする。

 

完全に存在を忘れていたミヤコに一瞬真顔になったクリアは、今自分が置かされている立場を再認識した。

 

(こいつ……本当にしつこいな……)

 

冷や汗を流しながら横目でミヤコを見る。

 

二回戦目終え、決勝トーナメント出場を決めたクリアは、人目を盗んで先にこのファミレスに来ていた。

 

初めはファイターでは自分だけだったが、時間が経つにつれファイトを終えた者、観戦を終えた者が来るようになった。クリア本人は特に気には留めていなかったが。

 

そんな中、大会開始直前と同じような現象が、クリアの座っている机でも起きた。

 

「見つけたわよ……小野クリア……」

 

ドンッと威勢のある音を立てるように机を叩きながらミヤコがクリアの前に訪れた。それも、最初と違いなにやら怒っている様子だった。

 

「あなた、あそこの椿ノブヒロとは普通にファイトすると言ったようね……。しかも、自分から誘うほどとか……」

「…………」

 

クリアは顔を隠すようにカップを口に運ぶ。思い当たる節があったクリアには、その言葉を真っ向から否定する気力がわかなかった。

 

「別に怒ってるわけじゃないわよ。ただ、それだけファイトに飢えているのならあたしとファイトしたって別に問題ないということよね?」

「……断る」

 

開口一番に拒絶の意を示したクリアに、血管を浮き出しながらミヤコは鬱憤を晴らすように机を叩く。

 

「何度も言わせないで!あなたがただファイトをやりたくないというわけじゃないことはノブヒロから聞いてるわ!あたしとやって負けるのが怖いならそう言いなさいよ!」

「……断る」

「……そこまであたしとやりたくないわけ……そういうわけ……。――なら、やってくれるまであなたが逃げないよう見張るしかないようね」

(どうしてそうなった……)

 

クリアがそう心の中でツッコミを入れたのと同時に、ミヤコは店員を呼んで注文をした。

 

そして今に至る。

 

向かい側の席で料理を平らげたミヤコを横目で見ながら、クリアは普段は考えない言い訳を全力で考えていた。

 

(あんまり変なことを言うと火に油を注ぎかねん……。こいつのプライドを尊重し、かつ他の奴とはファイトしてもこいつとはファイトしないという矛盾を払拭、自分から身を退けさせるそんな魔法のような打開策はないものか……)

 

クリアが方法を模索していると、不意にノブヒロに視線が止まった。すると、クリアはカップを手に取りながらため息をついた。

 

「なに?溜め息なんかついて。諦めてあたしとファイトしてくれる気にでもなった?」

「いや、そういうわけじゃない。ただ、情けない気分になってな」

「…………」

 

フッと笑いながら呟くクリアにミヤコは眉を顰める。ここまでは、彼がただ自分から話をそらせたいとしか思っておらず、真っ向から話を聞く気はなかった。

 

「怖いや勝てないなんてもので俺はファイトを止めたりはしない。お前はあのノブヒロという奴の言葉を聞かなかったのか?」

「……どういう意味よ」

 

ここでようやくミヤコがクリアの話に耳を傾ける。それを悟ったクリアは、はコーヒーを全て飲み干すと、ニヤリと笑みを浮かべながらミヤコに言い放った。

 

「ファイトする相手を選ぶということだ。普通のファイターであれば別に野良だろうがなんだろうがやってやる。だが、相手が自分の認める相手だったらどうだ?普通にファイトするんじゃあ背負う物もなく興ざめだろう」

 

クリアは何時ぞやノブヒロが言っていた言葉を自分なりにアレンジして呟いた。あまり自信はなかったが、ここで引くわけにもいかないクリアは、そのままカップを持ち上げながらフィニッシュをかける。

 

「あいつとのファイトはいつでもやってやろう。だが、お前とは普通のファイトでは満足いくものが得られるとは思えない。俺が言いたいことはそれだけだ」

 

全てを告げたクリアは再びカップを口元に運ぶ。慣れない言い訳に口が乾いたというのもあるが、自分の表情を悟らせずにミヤコの様子を窺う為でもあった。

 

クリアのその場凌ぎの言い訳を聞き、ミヤコは視線を落としたが、すぐに不敵な笑い声を放ちながら顔を上げた。

 

「フッ……フフフ……そう……そういうことだったのね……。あたしも少し気が滅入っていたのかもしれないわ。こんな簡単なことにも気付けなかったなんてね……」

(……チョロいな)

 

完全に自分の言い訳を真に受けたと思ったクリアは、心の中でそう呟いた。

 

とりあえずこれで大会の間はファイトをしなくて済み、上手くトーナメント表があえばそのまま対戦せずに退けることが出来る。

 

即席ではあったが、完璧とも言える成果にクリアはファイトで勝った時と同じような達成感を覚える。

 

――が、そんな油断しているクリアにミヤコが不意打ちを放つ。

 

「そういえばノブヒロの話を聞いてて思ったんだけど、ピオネールでもあるあなたも勿論シンジにに会ったことがあるのよね?」

「ああ、俺よりも年下だったが、あいつは強い。出来れば一度手合せしたいもんだ」

「そう――やっぱりあなたはピオネールのリセなのね」

「あ」

 

思わず声を漏らすクリアを見ながら、ミヤコはしてやったりと言ったようにほくそ笑んだ。

 

「……誰も第一大会で会ったとは言っていない。別の場所……そう、ノブヒロと同じようにあいつのショップに行ったときに見たことがあるだけだ」

「ふ~ん、じゃあそこで希望通りファイトを申し込めばよかったんじゃないかしら?折角わざわざ会いに行ったなら……ね」

「…………」

 

完全に墓穴を掘った、とクリアは思った。

 

ミヤコはまだ自分の事をピオネールのリセだという確信を持っておらず、その曖昧な事実をぬぐい切れば完全に自分への矛先を払いのけることが出来たはずだった。

 

(……前にファイトした時から思っていたが、やはり俺はこいつが苦手だ……)

 

クリアは第一大会で彼女とのファイトを思い出しながらため息をついた。

 

「さてと……」とミヤコは苦い表情を浮かべるクリアを見下ろしながら立ち上がった。

 

「十分な収穫が取れたところでそろそろ行こうかしらね。そろそろ昼休憩も終わることだし、次のトーナメントの抽選であなたと当たることを楽しみに待つことにするわ」

 

ミヤコはそう言うと、レジで会計を済ませ、店を出た。残されたクリアは、コップを口に運ぶが、先ほど飲み干したことを思い出し、重いため息をついた。

 

「……不幸だ」

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

食事を済ませ、再びアネモネに帰ってきたカイリ達を待っていたのは、でかでかと貼り付けられた手書きのトーナメント表だった。

 

「……これ、店長が書いたんすか?」

「そうよ!上手くかけてるでしょ?」

 

なよなよだが、無駄にカラフルに書かれた線のトーナメント表を指さすハジメは苦笑いを浮かべた。

 

「これどうやって勝った人に印つけるんすか?普通、勝った人は赤い線で線をなぞるっすけど、こんなにカラフルだと無理っすよね?」

「あ、たしかに。じゃあ勝ったらその人の名前に丸をかけばいいんじゃない?」

「でもそれだと一回しか書けなくないっすか?」

「2回戦目で勝ったら二重丸にすれば問題ないわよ!」

「いいのか……それで……」

 

無駄に自信満々な店長にハジメは呆れながらそう呟いた。

 

「ところで、これはなんですか?なんか、2回戦目のところにテープ貼ってありますけど」

 

カイリはトーナメント表の2回戦目、つまり一度勝って分岐する部分にテープが貼ってある部分を指摘した。これでは、一回戦目で勝った後に次に誰が当たるのかがわからない。

 

「それはあれよ。普通にトーナメントやっても面白くないし、あみだくじみたいに誰と当たるかわからないようにしてあるのよ」

「公式の大会でそんなことが通じるんすか……」

 

そんなこんなで決勝トーナメントに出場するメンバーが揃い、まるでそれを見計らっていたように吉田君が抽選箱を持ちながら、トーナメント表を背に箱を置いた。

 

「それではこれからショップ大会、決勝トーナメントの説明を開始します。ファイトのルールなどは予選と同じなので省略させていただきますが、決勝トーナメントでは注意点が3つあります」

 

吉田君は指を3本立てながらそう言うと、指の一本をもう片方の手で握った。

 

「まず第一は、2回戦目からは全てのファイトを一斉に行うのではなく、1ファイトずつ行っていくというものです。これは早目に終わったファイターが、他のファイトを偵察する可能性を考え、平等にファイトを進めていく為の物です。……わかっていると思いますが、なぜ今までそれをしなかったかは時間の都合なので、そのような細かい質問は受け付けません」

 

吉田君は揚げ足を取りにいこうと手を上げるツカサに視線を向けながらそう後ろに付け加えると、ツカサはつまらなさそうに手を下げた。

 

「第二に、引き分けが起きた場合についてです。今回は時間切れによるタイムアウトが発生した場合、その時のダメージや盤上から有利なほうの勝利とします。それらの要因が完全引き分けだった場合は、仕方がないのでジャンケンで決めたいと思います」

 

吉田君がヴァンガードでよほど起きることのない引き分けについて入念に説明するのは、これまたそれをやりかねない二人のファイターの存在が起因している。

 

「第三に、本来トーナメントでは次に誰が当たるか普通はわかるものですが、今回はこのようにテープを貼って見えなくしてあります。これは、第一の時に説明したように偵察されることを危惧した上での処置です。ですので、普通のトーナメントと同じように次の対戦相手は自分の横の相手だとは思わないでください」

「一応理由はあったのか……」

 

ハジメはぼそりとそう呟いた。

 

「それでは今から抽選を開始したいと思います。名前を呼ばれた方はこちらに来て対戦カードを受け取り、所定の場所に移動。俺が開始の合図をするまで待機していてください」

 

ついに始まる3つしかない地区大会への切符をかけたファイト。

 

多少大会への耐性がついたカイリもやはり呼ばれる時は緊張するのか、ソワソワしながら近くのハジメに視線を送る。すると、普段と違うハジメの風貌に首を傾げながらカイリは声をかけた。

 

「あれ……ハジメ、眼鏡なんてかけてたっけ」

「ん。あぁ、そうだぜ。元々俺コンタクトなんだけど、テストとか長時間緊張状態だと目が乾いちまうから、そういう時は眼鏡かけてるんだ。……これでも俺なかなか頭いいんだぜ?」

「いや、別に眼鏡かけてるからって知的なイメージを意識しなくてもいいと思うけど」

 

苦笑いを浮かべながらカイリはそう言った。しかし、ハジメの言うこともわからなくはない。

 

これだけの緊迫感は普段のファイトでは味わえない代物だ。ましてや、そんな状態で何度もファイトしなければならないとなればそれもどんどん増大するだろう。

 

心なしか、眼鏡が様になっているハジメの横顔を見てクスリと笑みを浮かべると、再び視線を吉田君のほうへ向けた。

 

「それでは始めましょう。一戦目に戦う方は……QMAさんです!」

「また僕一発目!?」

 

吉田君の呼び出しに間髪入れずにつっこみを入れるショウ。このやり取りに、今まで張り詰めた空気が一気に解かれた。

 

「プッ……はっはっは!さっすが師匠。俺達にできないことを平然とやってのける!そこシビれる!あこがれるぅ!」

「いや……別に僕は狙ってやってるわけじゃないんだけどさ……」

 

苦笑いを浮かべながら吉田君のほうへ向かうショウ。

 

しかし緊張が解かれたのも束の間、次に誰が呼ばれるかで会場は再び沈黙に包まれる。

 

もし彼と当たればただでは済まない。今までのファイトを見て誰もがそう思った。

 

「QMAさんの対戦相手は……ブレイドさんです!」

「はい!」

 

曇りのない真っ直ぐな返事をするシロウに、その場にいたファイター達の目はそちらへ集中する。当然それはショウも同じ。

 

「フフン、シロウが相手か。これはむしろ気が楽になるな~」

 

カードを取り、奥のスペースへ移動する二人。ショウが親しげにそう話すのとは対照的にシロウは横目でショウを見ながら呟いた。

 

「余裕を言ってられるのも今のうちだよ。僕はまったく負ける気はないからさ」

 

シロウとは思えないほどの挑発的な発言に一瞬驚くも、シロウの相手がクリアであったことを思い出したショウはニヤリと微笑んだ。

 

「なるほど、並大抵の修羅場は潜ってないわけだ」

 

そう関心したように呟くと、シロウとショウはそれぞれ所定の席へと座った。

 

「ショウさんとシロウ君のファイトかぁ……シロウ君大丈夫かな?」

「逆に大丈夫じゃね?あいつショウさんには結構態度でかいしよ」

「とりあえず師匠と当たらなくてよかったぜ。出来れば決勝まではあの人たちとは当たりたくないな……」

 

カイリとタイキがそう話している最中、ハジメは当たらなかったことに胸を撫で下ろしながらどう呟いた。

 

「それでは次に行きましょう。次に戦う方は……ソキセクさん!」

「……俺か……なんでもいいけどあの人たちとはガチで当たりたくない……頼む……!」

 

名前を呼ばれたタイキは、ツカサ・クリア・ノブヒロ・ミヤコを一瞥した後に懇願するように手を合わせる。

 

「その対戦相手は……K.さんです!」

 

――が、現実は非情である。

 

「よーし、タイキ。クリア先輩にお前がどれだけ強くなったかっていうの見せてやろうぜ!」

「お前……辛い相手が少なくなってうれしいっていうのが見え見えなんだよ……」

 

ニヤニヤ笑いながらそう言い聞かせてくるハジメを、タイキは恨めしそうに睨み付けた。

 

事実、ここで勝ち残るにはあの5人に当たらないようにするしかないのだ。先にその選択肢を減らしてくれるのは有難いことこの上ない。

 

それはカイリも自覚している。もしその内の誰かに当たりようものなら……覚悟を決めるしかない。

 

対戦表にそれぞれの名前を記載した吉田君は、再び箱の中に手を突っ込んだ。

 

次々と呼ばれる名前の中にカイリの名前はなく、ハジメはなんとかあの5人とのファイトを回避した。正直羨ましい、とカイリは思った。

 

最後の名前、つまり10人目の名前を呼ばれた時点でカイリの名前は結局呼ばれることはなかった。しかしそれは、誰が自分の対戦相手になるかということを宣告される前に悟ることが出来るということだ。

 

「そういや、お前とは一度もファイトしたことなかったよな」

 

後ろから声をかけられ、カイリは覚悟を決めながら後ろを振り返る。

 

赤いバンダナを巻き、青色の瞳を輝かせた青年は、いつものように裏表ない笑顔を浮かべながらそこに立っていた。

 

「椿……ノブヒロさん……」

 

自分の知る中で恐らく最高クラスの経験を身に着けたファイター。完全に自分とは対照的だ、とカイリは息を飲みながら頭の中で考えた。

 

「カイリがどういう戦い方をするか、俺も少し興味が湧いてたところだ。楽しませてくれよ?」

 

しかし、当たってしまったからには簡単に終わらせるわけにはいかない。ハジメと約束したんだ。二人で一緒に地区大会に出ると。

 

カイリは息を大きく吸い込むと、ジッとノブヒロを見つめ返しながら言い返した。

 

「望むところです!」

 

 

決勝トーナメント 第一回戦の描写を書いていくのは以下の通りです。

 

シロウVSショウ

 

カイリVSノブヒロ

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「シロウ、君とファイトするのは結構久しぶりになるんじゃない?今までの勝率から考えるとこれはいい勝負になりそうだ」

 

いつもと同じようににこやかな笑みを浮かべながらデッキをシャッフルするショウ。

 

しかし、そんな気さくな態度とは対照的にシロウは無表情で口を開いた。

 

「お世辞はいいよ。お兄ちゃんが今までわざと僕に負けてたのは知ってるからさ」

「フフン、ばれてたか。まぁ安心してよ。流石に今回ばかりは僕も本気でやらせてもらうからさ。僕が見る限り、シロウはもう僕達と普通に渡り合えるだけの精神力を身につけているようだね。きっと前のクリア君とのファイトを乗り越えたからだと思うけどさ」

 

お互いデッキのシャッフル終え本人に返す。まだシロウにはショウがどんなデッキを使うのかを知らない。

 

「でもだからと言って実力が見合ってないと意味がない。もし上を目指すというなら例え僕だとしても乗り越えないといけないよね?勝ち数的にさ」

 

ショウがしゃべる中、お互いは手札を作りマリガンを終えファイトの準備を整える。

 

「これはお兄ちゃんである僕の愛情であり、シロウへの試練。今までの経験を積み重ねたシロウがどれだけの知識を、力を身につけたのかを確かめるためのさ」

 

FVに手を添える二人。その視線の先には、兄弟という枠組みを超え、たった一人のファイターとして自分を負かそうとする信念を灯した瞳が写っていた。

 

「さぁ、始めからショータイムだ。全てを振り絞り、この僕を倒してみせろ!」

 

まるで強風が吹き荒れるかのような感覚をシロウは感じとる。これが本当の兄の姿。

 

しかし変わったのはシロウも同じ。だからこそショウは本気でファイトを挑んでいるのだ。

 

(遠慮なんてしない。お兄ちゃんの望み通り、僕がどれだけ強くなったか見せつけてやる!)

 

「スタンドアップ、ヴァンガード!」

「スタンドアップ、The・ヴァンガード!」

 

自分の分身が表を上げる。すると、ショウのFVを見たシロウは目を丸くする。

 

「シールドシードスクワイア!(5000)」

「ブラウパンツァー!(5000)」

「まずは僕のターン!ブレイドシードスクワイア(7000)にライド!シールドシードはスキルで右上に移動してターンエンドだ」

 

先攻でありながらFVを前列に配置するショウ。かつてファイターズドームでツカサの母親であるユウが使った戦法だ。

 

「僕のターン、ブラウパンツァー(8000)にライド、The・ヴァンガード。ユンガーのスキルでデッキからブラウクリューガーを手札に加える」

 

ライド時の処理を終え、メインフェイズに移行したシロウは視線をショウに戻す。

 

(お兄ちゃんは始めからショータイムと言った。この言葉が発せられたということは何かしらのかくし球が投げられたということ。つまりFVを前列に置くことがお兄ちゃんのかくし球ということ……?いや、これはユウさんの真似事に過ぎない。今までしてきたことを考えるとあまりにも質素な奇策だ。いくらお兄ちゃんでもこんなことで終わると思えないし、かと言ってあの言葉がハッタリとも思えない)

 

「右上にブラウパンツァー(6000)をコール。そしてスキル、手札のアシュラカイザーを捨ててデッキからシュテルン・ブラウクリューガーを手札に加える」

 

思案を巡らせながら手を動かすシロウ。

 

今から自分がするのは前にユウがショウに望んだ試合展開。わざとFVを前列に配置することでG1を誘いだし、パワーが高ければアタックしてガードを誘い、低ければ放置することで奇形ライン形成させるというもの。

 

(お兄ちゃんがもし同じことを狙っていたとしてもそんなことは関係ないんだ。僕のデッキにあるG2の最低パワーはデッキに2枚しか入ってないブラウクリューガーのみ。お兄ちゃんの時とはシチュエーションが違う!)

 

「VのパンツァーでVにアタック!」8000

「ノーガード」

「ドライブチェック……キング・オブ・ソード。トリガーなし」

「ダメージチェック、木漏れ日の貴婦人」

 

お互いトリガーなし。パワーが7000であるブレイドシードにアタック出来なくなったRのパンツァーをまるでそうすることを決めていたかのように間髪なくレストさせていく。

 

「Rのパンツァーでシールドシードをアタック!」6000

「ノーガード、シールドシードは退却しよう」

 

そしてショウ自身もこれをおとなしく受ける。ここまででまだショウが一体何を狙っているのかはわからないが、このまま普通に終わるということはありえないだろう。

 

「僕のターンはこれで終了」

 

それが我が兄、宮下ショウという人間の本質なのだから。

 

「僕のスタンド&ドロー。アイリスナイト(10000)にライド!さらに、僕はこのカードをRにコールするよ」

 

ショウはそう言うと、おもむろに手札のカードを一枚掴む。瞬間、嫌な予感を感じたシロウは咄嗟に身構えた。

 

「そんなに警戒することはないよ。この序盤で何かを起こすという気は毛頭ないからさ。後は……君次第だ」

 

掴んだカードを先ほどシールドシードのいた右上の枠にコールする。

 

ショウの言うとおり、ゲームの流れを変えてしまう程のインパクトのあるカードではない。

 

しかし、そのカードがネオネクタールに本来入るかどうかで言えば……否。

 

「突撃竜ブライトプス(9000)。補足までに言うけど、このカードのスキルは他の退却系ユニットと違ってクラン指定がないんだ。だから、このカードを他のクランに派遣することは珍しいことじゃない」

 

薄笑いを浮かべながら説明口調にショウは呟く。あたかもこれは前座に過ぎないというかのように。

 

「続けて、ブライトプスの裏にカローラドラゴン(8000)をコールしてバトルに入るよ」

 

/アイリス/ブライトプス

//カローラ

 

シロウの考えていた通り、ショウの使うデッキは従来のネオネクタールのそれとは別物。かつてのユウの戦い方はまったく参考にならない。

 

このブライトプスとネオネクタールというクランにどのような化学反応があるのか……シロウは警戒をより強めた。




多分今回ショウさんがやることは結構わかっちゃうかもしれない


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。