先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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狭間シンジというファイター

「はーっ!……はぁ……」

 

俺はこれでもかと言わんばかりに息を吸い込み、大きなため息をつきながらPCをいじっていた。

 

第一回ヴァンガードチャンピオンシップ終了後、不完全燃焼で終わっちまった俺はどうにも収まらない煮え切らない思いを抱えながら日々を過ごしてたんだ。

 

まっ、それもこれも大体俺の勝手な思い込みが原因なんだけどよ。初めにイメージしていた大会の雰囲気と違っていたっていう勝手な思い込みによる不満……けど、色んなファイターと楽しくファイトしたいって考えは何も間違ってないだろ?

 

あの時参加していたファイターはどいつもこいつも目が死んでやがった。相手の顔なんか目もくれず、ただただ勝つことしか考えていないかのような振る舞い。そして少しでも運が悪ければ舌打ちを打つような胸糞悪い態度。俺は絶望したよ、こんな奴らが俺と同じファイターなのかってよ。

 

まっ、それこそ俺の勝手な思い込みだ。勝ちたいっていう気持ちは大事なのは違いないし、人がどんな戦い方をしようとそいつの勝手だ。

 

けど、それでもやっぱり俺は納得出来なかったんだよ。結局最後までそんな自分と違う相手とばかりファイトしてたわけだからな。こんな気持ちになるとは大会前の俺も思ってなかったわけだしよ。

 

そんな時だ、俺の携帯が鳴り始めたのはよ。それは当時の大会で知り合ったファイト友達からの電話で、俺がうじうじしてるのを気にして連絡をよこしたらしい。それも、とっておきの情報を持ち寄って。

 

それは当時……いや、今現在でもおそらく最強と呼び声高いピオネール第一位のファイター、“狭間シンジ”が通うショップの住所だったんだ。

 

元々詳細不明の“リセ”は置いとくとして、他のピオネール、“如月トキ”と“毛利ヒノワ”の二人も具体的な所在地が分からない中、シンジだけは裏ルートでなんとかその詳細について調べることが出来たらしい。

 

当然、俺は早速バンダナを頭に巻いてそのショップまで行ったんだ。結構距離はあったけどな。

 

到着したショップは、全国最強のファイターを輩出したとは思えないくらい質素な店だったが、俺は構わずそのドアを開けて中に入った。

 

「たのもぉー!!!」

 

年甲斐もなく大声で啖呵を切った。今思うと流石の俺も恥ずかしいことやってたと思うが、その時はそれくらいワクワクしてたんだよな。

 

「おっ、珍しくお客様がご来場のようだぞ?」

「おっ!ほんまや!どうしたんや?道でも迷ったんか?」

 

店内に入った俺を出迎えてくれたのはどこにでもいるスーツ姿のサラリーマンと、黄色のパーカーを着たどこにでもいないようなショートカットの緑色の髪と頭にかけたゴーグルをフードで被せた中学生程の少女だった。

 

『主に胸が?主に胸が中学生程ってことかい?』

『どうでもいいことで話を止めないでよ、お兄ちゃん』

『ぐほぉっ!?……グ、グーはいかん……グーは……』

 

……話に戻るが、道に迷ったと思われた俺は間違いなく挑戦者を装いながら入ったと再確認しながら、そう声をかけてきた少女に返答した。

 

「ん、いや……。俺はここが目的地でここに来たんだけど……」

「はぁ?んなもん嘘に決まっとるやん!だってここめっちゃ路地裏やし普通にカードショップいくんやったらもっと近くにめっちゃでっかいところがあるんやで!?なのにわざわざここに来るなんてぜっっったいありえんわ!」

 

ここにきたと言っているのにそれでも嘘つき呼ばわりするこの子は相当ここに来た客に恨みでもあるらしい。なおも俺に敵対心を燃やす少女に途方に暮れていた俺を気遣ってか、一緒にいたサラリーマンの男が少女をあやしながらこちらに近づいた。

 

「待て待て。彼の話も聞かず追っ払うのも悪いだろ?悪いな坊主。困らせてしまったな」

「トシっちはだまっとき!今はウチがこいつと話しとるんやから!ええか、ウチの目は何でもお見通しや!その頭ん中に寄生獣隠し持っとるんやろ!?」

「俺のバンダナは考える筋肉を隠す為につけてるわけじゃない……。ん?」

 

目を強調しながら言い寄る少女を否定した俺はあることに気づいた。指差す右は明るい黄色の瞳だったが、それとは対照的に左は暗い緑……。

 

「オッドアイ……?」

「彼女にも色々あるんだ。寛容に見てくれると助かる。それで?君は何が目的でここに来たんだ?」

「ちょっ!?ウチは無視かい!?」

 

少女の頭をグイっと引っ張りながらトシと呼ばれた男は俺の前に立った。少女は依然として頭から湯気を噴出させているかの如く声を上げていた。

 

「はぁ……。実は俺、ここに狭間シンジがいると来たんだけど……」

 

場の雰囲気に気おくれしながら目的を答えると、またもや少女が俺の前に飛び出しながらしかめっ面を浮かべた。

 

「はぁ?あんたまさか、ウチの兄貴に挑戦しようっちゅう気ちゃうやろな?悪い冗談はそこまでにしとうたほうが身のためやで?」

「それが冗談じゃないんだよなぁ、これが……ってか、ウチの兄貴ってまさかあんた……」

 

こちらも負けじと言い返そうとしたさなか、何かの違和感に気づいた俺に少女はドヤ顔を浮かべながら自分の名前は言い放った。

 

「ウチは狭間レイ!世界最強のファイター、狭間シンジはウチの兄貴なんやで!」

 

どんなもんだいと言いたげなその表情に、思わず凄いのはあんたじゃないだろとツッコミを入れてやろうかと思ったが、なんかそんな自分を想像したら大人げなかったので言わないことにした。

 

そんな彼女に意識を向けていた俺は、品定めをするようにこちらを見るトシの視線に気づいた。

 

「まぁ、いいんじゃないか?レイ、彼を呼んできてくれないか?」

「えーっ!?ウチがかっこよく決めたの見てなかったん!?そんでウチがトボトボ言うこと聞いてたらめっちゃかっこ悪いやん!」

「本当に君は滅茶苦茶だな……。後で人参やるからシンジにセカンドでやるよう言ってきてくれ」

 

人参って……馬か何かかよ……。

 

「ぐぅ……トシっちがそこまで言うんなら……。ってセカンド!?それ本気で言うとるんか!?」

「もちろんだ。それじゃあ頼むよ」

「……りょーかーい。いいもん、兄貴にこてんぱんにされるこの奇天烈頭の姿が見れる思うたらむしろ楽しみになってきたで!」

 

そんなに俺の頭には寄生獣いるように見えるのか……?確かにもじゃもじゃしてますけど。

レイは俺の顔を見ながらそう言うと、店の奥に入っていった。

 

「……いつもあんな感じなのか。あいつは……」

「俺もそこまで彼女のことを知ってるわけじゃないからな。まぁ、悪い子じゃないのは保障しよう」

 

げっそりと肩をすくめる俺に、トシはそんな中途半端な答えを俺に示した。

 

しばらくして、レイが出て行った扉からは同じような緑色の短髪と中学生程の風貌の瓜二つな人物が出てきた。しかし、黒のブレザーに特徴的なシルクハット、先ほど見たオッドアイの瞳がレイとは左右対称であることから、彼が彼女とは別人であるという確証を得た。

 

「堪忍な。なんや、ワイのせがれが世話になったみたいで」

 

はんなりとした口調で少年は俺に近づいた。シルクハットから覗かせるその顔は、全く同じように見えてもレイとは全く違う颯爽たる雰囲気を醸し出していた。まさに、全国優勝者という刻印がぴったり当てはまる人物だと、その時の俺は思わず思った。

 

「い、いえいえ……お元気な妹さんで……っていうか妹さんは?」

「あぁ、レイならちょっとお使いにいかはりましたわ。ここにおってもあんさんに邪魔ばっかさせてしまうさかい、ワイがそう言伝をさせてもらはったんやけど……何か問題でも?」

「いえ、別に……」

 

兄貴と俺とのファイトが見れなくて喚いてるレイの顔が容易に想像できるあたり、俺の適応力は捨てたもんじゃないな。

 

そう思いながらも、シンジの雰囲気に圧倒されたまま俺はただ受け答えをした。さすがは第一回大会優勝者……もう会っただけでわかるくらいただ者じゃない。喋り方のせいかもしれないが。

 

しかし、ここでいくつか俺の中で疑問が生まれた。彼ほどの実績を持ちながら何故こんな人気のないショップに通っているのか。俺はもっとこうもてはやされてるようなイメージがあったんだが……その疑問はすぐに晴れた。

 

「せや、少しあんさんに相談があるんやけど」

「ん?なんだ?」

 

シンジは思い出したように俺に声をかけると、何やら気まずそうな顔をしながら口を開いた。

 

「ここにくるまでに、ワイがここにいるっちゅうこと誰かに教えてたりしてはります?」

「いや、誰にも教えてないけどよ……」

「ほんまか!悪いんやけど、ワイがここにいるっちゅうこと黙っててくれへんか?あんまり目立つのは好きちゃうんや」

「あぁ、そういうことか。いいぜ!俺は言ったことは守る男だからな!約束だ!」

「おぉ!おおきに、ほんま助かるでぇ!」

 

シンジは俺の手を取りながらにこやかな笑みを浮かべそう言った。こう接することで、俺はようやく彼の幼さが垣間見ることが出来た。それに、それくらいの約束なら朝飯前だ。

 

何よりも重要なのはこいつが世界最高のファイター……狭間シンジであるということ。重要なのはそれだけだ!

 

俺が心の中でそう自分を奮い立たせていると、シンジは安心したように俺から手を放すと、顔をトシの方へと向けた。

 

「これで少し肩の荷が降りたわ。でトシ、さっきの話はマジなんやな?」

「あぁ、俺の目に狂いがなければ、彼は君がセカンドを出すに値する相手だ。シンジ」

 

自信満々に言い切るトシ。何を言いたいのかはわからなかったが、恐らく俺の実力を認めてくれたのだと俺は思った。悪い気はしなかったが、そもそもあんた一体何様なんだと思いながら俺はこちらへ振り向くシンジと顔を合わせる。

 

「さようか。なら、ワイもあんさんを認めんわけにはいかんわなぁ」

 

ショップに備え付けられたスタンディングテーブルに移動する彼の右手には黒色のスリーブに包まれたデッキ。大会上位者にのみ渡される通常の青色とは違う色違いのスリーブ。これこそがピオネールである動かぬ証拠。

 

「そういえば自己紹介がまだやったな。ワイの名前は狭間シンジ。せっかくここまで来たんや。世界最高の肩書は伊達じゃあらへんっちゅうこと見せたりますゆえ、あんさんもどうか……」

 

こちらを向いたシンジの顔は既に先ほどの幼さは消えており、シルクハットから覗かせる二つの奇妙な瞳は、既に俺を狩る対象として捕えていた。

 

「簡単に終わらんようきばってや」

 

湧き上がる闘志……プルプルと震える俺の両手は、今までに味わったことない高揚にこれから始まるであろうファイトをいまかいまかと待ち構えていた。そう……俺が待ち望んでいたのこんな燃えるようなシチュエーション!こいつと戦える機会を作ってくれた友人に感謝の意を唱えながら、俺もまたデッキを取り出し、スタンディングテーブルに移動する。

 

「その減らず口、後悔しないといいな……!」

「そうこなおもろないわな。んじゃま、ひとつ……」

 

やる気満々な俺に思わず笑みを浮かべるシンジ。彼は今まで被っていたシルクハットを取り、まるで紳士を気取るかのようにお辞儀をした。

 

「よろしゅう、頼みますわ」

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「そ、それでどうなったんすか!?ファイトの結果は!?」

「お、やっぱり気になるか?」

「当たり前じゃないっすか!狭間シンジのファイトは前の中継でのファイトで見たことありますけど、画面越しと実際に見るのとじゃあ全然違うっすからね!」

 

ノブヒロの話を聞いて居ても立っても居られないハジメは、そう立ち上がりながらノブヒロに問いただす。シンジの強さはもはや言わずもがなだが、ノブヒロがその最強の相手にどれだけ食いつくことが出来たのかが気になって仕方がなかったのだ。

 

そんなハジメを見た後ため息をついたノブヒロは、座っていた椅子にもたれながら天井を見上げた。

 

「そりゃもうボロ負けもボロ負け。清々しいまでの完敗だったな」

「そんな……あのノブさんが手も足も出なかったんですか?」

 

面喰いながらカイリはそう呟く。今までのファイトでカイリを含む他の仲間もノブヒロの実力は十分知っている。だからこそ、信じられなかった。

 

「ああ、一応俺もそこそこ自信はあったんだけどよ。まさかあそこまで何もさせてくれないとは俺も思ってなかったんだよな」

「ん~、それってさっき言ってた規格外適合者っていうやつの能力が関係あったりするのかな?」

 

ツカサは首を傾げ唸りながらそう問いかけると、ノブヒロは同じ言葉を繰り返しながら答えた。

 

「シンジが規格外かどうかってことか?それは俺にもよくわからんよ。あの頃はまだ俺も規格外について知らなかったからな。セカンドというがもしかしたら何かしらの能力かもしれないけどよ。まぁただ、これだけは言えるぜ」

 

ニヤリと笑みを浮かべながらノブヒロは言った。あの時のファイトの高揚感を思い出しながら、そしてその時の彼の圧倒的なまでの実力に震えた自分を振り返るように。

 

「あいつは……狭間シンジは間違いなく、このヴァンガード世界の頂点に君臨してる。今、あいつが何と呼ばれてるかは知ってるよな?」

「そうくらいなら知ってるっすよ。確か……」

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「魔王?」

 

椅子に座って観戦していたトシは立ち上がりながら言うと、ノブヒロは訳が分からずそう呟いた。それを言われたシンジは、カードを集めながら不満そうな表情でため息をつく。

 

「あのなぁ、トシ……。勝手に人のことを悪役みたいに言うのやめぇやって何度も言うとるやん……。無理やりシルクハット被らされてるこっちの身にもなりぃや……」

「そんなに嫌か?俺としてはお前のそのミステリアスな感じを引き立ててかなりキてるんだがなぁ……。それに、手加減してるお前の姿は誰がどう見ても魔王だぞ?」

「なんで手加減してるほうが怖くなってるんだ……」

 

二人の会話をしながら同じくカードをデッキに戻していた俺に、トシはここぞとばかりに人差し指を立てながらニッと笑った。

 

「いいことを教えてやろう。シンジはな、基本的に俺が本気を出せと言わない限り本気でやらない。必ず対戦相手の気持ちを尊重した戦い方をするんだ」

「相手を尊重した戦い方……?もっと訳がわからなくなってきたんだが……」

「それはまた別のシンジの対戦を見ればわかるだろう。その時、俺の言っている意味がわかる」

 

不敵な笑みを浮かべながら言うトシ。それを傍で聞いていたシンジは不満そうな表情から今度はムスッと拗ねたように口を尖らせた。

 

「……そんなにワイの戦い方はあくどい感じに見えるんやろか……」

「別に咎めてるわけじゃないから安心しろ。むしろ俺はそのいうお前のほうが好きだから基本的には本気ださせないからな」

「んなことでワイに変な縛りつけたんか……。ほんまトシは歳に比べてやることが幼稚やな……」

 

悪戯っぽく笑うトシを冷めた目で見るシンジを見ながら俺は思った。世界最高のファイターとは言え、彼もどこにでもいる普通のファイター。普通に怒ったり、仲間と笑ったり、そしてファイトを楽しむ心は他の奴となんら違わないんだな……と。

 

俺は口を緩ませながらデッキをしまうと、気合を入れながら立ち上がった。

 

「うしっ!やることやったし、俺はそろそろおいとましますか!」

「ん、もうええのか?別にもう少しここにおってもワイらはかまへんで?」

「いや、いいんだ。俺はあんたと会えただけでもうお腹いっぱいだからな。世界最高の肩書、いい土産にさせてもらった!けどな……」

 

俺は自分の右手をシンジに向けて突き出した。シンジは少し驚いたようだったが、すぐに笑みを浮かべながら同じく右手を突き出した。

 

「次はこうあっさりと終わらせるつもりはないからよ!首を洗って待ってろよな!」

「ええでぇ。ワイもちゃんと覚えておくさかい。椿ノブヒロっちゅう名前」

「そりゃありがたいこった。じゃ、邪魔したな!」

 

背を向けた俺は、右手を上げながら店を出る。すると後ろから、俺を呼び声が聞こえてきた。

 

「おーい、ノブヒロ!」

「なんだ?」

 

俺が振り向くと、こちらに手を振りながら走り寄るトシの姿があった。

 

「そういえば君は強いファイターを探しているんだったよな」

「ん?そうだけどそれがどうかしたのか?」

「ちょっと思い当たる節があってな。カードショップ“アネモネ”っていうところに行ってみるといい。きっとそこのファイターが、君に新たな価値観を見出してくれるだろう」

「アネモネか……。そこの一番強いファイターに会えばいいのか?」

「それは君の判断次第だ。だがその前に、君は一度自分の持ち味を振り替えしてみたほうがいい。そうすればきっと色んな答えが見えてくるはずだ。君がシンジに負けた理由とかな」

 

まるで学校の先生のようなトシの忠告。学校の先生がこんなヴァンガードの話なんかでアドバイスなんかくれるわけなく、トシの見た目も相まってそのシュールさに俺は思わず噴き出した。

 

「なーはっは、あんたみたいな人は初めてだぜ。まぁ、言われなくても俺はこんなところうずくまってる気はねぇからよ。次にあんたと会う時は、その上達ぶりをあんたに見せてやりたいもんだ」

「それは結構。だが、俺とシンジとを比べるなよ?あいつの強さがおかしいだけだからな」

「なっはっは、そこそこに期待してるぜ!じゃあな!」

 

俺がそう別れを告げ歩みを進めると、トシは俺の姿を後ろから眺めていた。

 

「行ったみたいやな」

 

俺が自分達の存在を認識できない程度に離れたところで、シンジはトシの横に並んだ。

 

「ああ。しかし、彼とやってた時のお前、なかなかいい顔してたじゃないか?」

「せやな……。出来れば、ワイを倒してれるんは彼みたいなファイターがええなぁ」

「そんな心配より、自分を倒してくれるファイターを探すほうが先なんじゃないか?」

「んなもん言われんでもわかっとるわ。けど、ワイの情報網じゃあフーファイターズっちゅうファイター集団がいるくらいが限界やで?」

「フフフ、そんなことだと思ってな、ここに俺が面白い情報を持ってきてやった」

 

不敵な笑みを浮かべるトシは、胸ポケットからある写真を取り出し、それをシンジに渡した。

 

「お前と同じ『カードに愛されし者』。名前を“泉堂アイキ”というらしい」

 

名前を聞きながら、シンジは受け取った写真を凝視した。

 

「さよか。泉堂アイキ……彼みたいなファイターやとええなぁ……」

 

シンジはそう呟きながら脱いだシルクハットを被ると、再び小さくなった俺の姿を眺める。そんなシンジの言葉は当然俺の耳に届いてはいなかったが、俺はいつかこいつが戦いたくなるようなファイターになると心で決めながら、トシの言っていたアネモネのファイターに胸を膨らませ、歩みを進めた。


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