「SCでトリガーが絶対入らない能力……
店長はミヤコの言葉を繰り返しながら声を震えさせる。
実際、ここまでのSCでトリガーは入っておらず、ファイトを見ている限り、彼女が冗談を言うような性格にも見えない。
「なっはっは!なるほど。あんたのそれはそういう効力があんのか」
ことの原因を作ったノブヒロは、笑いながら興味深そうにソウルを眺める。
そのまるで初めて能力を知ったかのようなノブヒロの態度は、ミヤコの想像していた彼の反応とは違っていた。
「……?あなた、知っててあんな風に言ったんじゃなかったの?」
「まさか。さすがの俺でも初対面の相手がどんな能力があるかなんてわかるわけないだろ?さっきああ言ったのはあんたにそういう雰囲気を感じただけだ。おかげで、あんたがどういう力を持ってるのかもわかったしな」
悪戯っぽく笑うノブヒロを、ミヤコは目を尖らせながら見つめた。
「あなた、見た目に反してなかなか抜けめないのね」
「お褒めの言葉と受け取らせてもらうぜ。にしてもあんたの能力なかなか凝った名前だな。あんたがつけたのか?」
「ハズレよ。これはどこぞの厨二病患者が勝手につけた名前。便宜上これを使ってるだけで、別に好きでこんな名前を使ってるわけじゃないわ」
((いや、それにしてはかなりノリノリで名乗ってたように見えるんだけど……))
ミヤコ以外のその場にいた者達の心がシンクロした。
「とにかく……」
ミヤコは手札のカードを一枚取ると、挑発的な視線でノブヒロを見据えながら左上にナイトメアドール・ありす(10000)をコールした。
「あたしはその領域内にトリガー以外のカードがあればかならずそのカードをソウルに入れることが出来る。つまり、SCをすればするほど、デッキ内トリガーの割合が高くなる。ソウルの質とデッキ圧縮。そしてそれを最もうまく使いこなすことのできるペイルムーンを使うあたしに死角なんて存在しない」
よほどその力に自信があるのか、彼女の言葉からはその行く先に勝利しか見えていないかのような超然的な理想を感じとることが出来た。
しかし、そんな彼女の理想を嘲笑うかのように告げ口をする一人の男の姿もあった。
「ヴァンガードは運ゲーなんだから、いくら確率が高くなっても確実な勝利なんてものはないだろ?」
してやったりといった表情でノブヒロはそう言うが、言われた本人も鼻で笑いながら言い返した。
「当たり。でもあなたにあたしのこの戦法を邪魔することは出来ない。違う?」
「……当たり」
今のノブヒロの心中を一言で表すなら「ぐぬぬ……」が相応しいだろう。
「最後にV裏にレインボー・マジシャン(4000)をコールしてバトルに入るわ」
ありす/ロベール/ニトロ
トラピ/レインボー/
「まずはニトロでビークをアタック」9000
「ノーガードだ。ビークは退却」
「レインボーのブースト、ロベールでVにアタック」14000
このアタックにノブヒロは沈黙する。
ここでのガードは容易い。先ほどトリガーしたスタンドトリガーをガードに使えばそれだけで一枚分ガードにになる。しかし、問題は次のアタック。
ナイトメアドール・ありす……このカードのアタックが成功した時、CBとこのカードをソウルに入れることでソウルからユニットをスペリオルコールする能力を持っている。
新しくコールされるそのユニットはスタンド状態で置かれるため、当然アタックすることが出来、更にソウルにあるトラピをコールすれば前のターンのバニーよろしく、再び一ラインを形成することも可能。
しかし、スペリオルコールする関係上、トリガーによるパンプは出来ない。もし、こちらのダメージチェックでトリガーが発動すれば、ミヤコはリアガード処理をしてくるだろう。
スペリオルコールの要であるトラピはソウルに一枚しかない以上、場のトラピをコストにしたいと考えるのは当然の思考。
(ペイルムーン……トリガー配分……決してソウルにトリガーが入ることのない
ノブヒロはさらに深く掘り下げる。最も最悪な展開から最も好ましい展開。そしてどこまでの展開であれば今の自分に対応できるか。
長い沈黙の中、流石に痺れを切らしたミヤコはうんざりしたように口を開く。
「いくらなんでも考えすぎじゃないかしら?このファイトは普段やっている野良ファイトとは違うのよ?」
「ん、ああ、悪いな。ちょっと色々考えてた。そのアタックはノーガードだ」
「そう、じゃあドライブチェック。一枚目、レインボー・マジシャン。ドロートリガーGET。一枚引いてパワーはありすに。二枚目、ナイトメアドール ありす。まぁ無理もないわね。あたしの力は普通のファイターであればそもそも理解できないもの。少し考えただけで対応は……」「安心しな」
ミヤコの言葉を遮りながらノブヒロはニヤリと笑みを浮かべ、ダメージチェックとなるカード、ドロトリガーであるアーミーペンギンをダメージに置きながら瞳を尖らせた。
「こっからは……ノンストップだぜ!」
先ほどとはまた違った雰囲気の変化。最初はファイトをより楽しむことが出来る喜びから不敵に笑っていたように見えたが、今は違う。
(……気に入らない……)
ミヤコは眉間を顰めながらそう思った。
彼のこの笑みからは、何故か勝利を確信しているかのような、そんな心意気を感じた。
「あなたが何を企んでいようと、あたしの猛攻は止まらない。アタックがヒットした時、レインボー・マジシャンのスキル発動。デッキから一枚SC(パープル・トラピージスト)して、レインボー・マジシャンはデッキに戻してシャッフル」
ドロートリガーであるレインボー・マジシャンをデッキに戻し、さらにSCをすることでデッキを圧縮していくミヤコ。しかもそのSCで連続アタックの基盤となるトラピージストが入り、盤石の体制を敷いていく。
次のアタックはありす。今のトリガーでパワーは上がったが、ノブヒロのヴァンガードもトリガーを発動している為、ガードに変動はない。
「次よ、トラピージストの……」「ノーガード、ツイン・オーダーは退却」
またもミヤコの言葉を遮り宣言を下すノブヒロ。少し頭にきたミヤコだったが、自分が選択していたのは彼の言う通りツイン・オーダーだった。
「ありすのCB、このカードをソウルに入れて、ソウルからトラピージストをスペリオルコール。さらにトラピージストのスキル発動。ニトロをソウルに入れ、デッキから再びありすをスペリオルコール」
新しく形成したこのラインで要求出来るガード値は5000。退却させたツイン・オーダーのインターセプトを考えれば、合わせて10000の要求となる。
わざわざこんなことをしなくてもヴァンガードにアタックすれば10000の要求を強いれるアタックとなるが、その場合10000ガード一枚で事が済む。何より、彼のダメージはまだ三点。ノーガードする可能性もある。
そもそも、ミヤコのデッキでCBを使うカードは、バニーやありすの連続アタックに使用する物のみ。彼女が今までこのデッキを使ってきてCBが足りなくなる局面は余りなく、それらの様々な要因を考えてのリアガードへのアタックだった。
そしてこのアタック、宣言せずとも誰にアタックするかは誰にでもわかるが、まるでそれを自分に訴えるかのように、ノブヒロは手札からカードを切った。
「マスクドポリス・グレンダーでガード」21000
「……あたしのターンはこれで終了」
ペイルムーン
手札3
ダメージ表1
ダメージ裏2
「ソウル九枚……。G3になった直後にこんなにソウルが溜まってるのなんて初めて見たわ……。でもあの子……あんなに手札を使って展開してたけどこのノブ君のターンを凌げるのかしら?」
「前のターンにダメージを三点に抑えたのはおそらくここでダメージトリガーに期待する為でしょう。彼女が言っていた通り、ソウルチャージによるデッキ圧縮はかなり堅実なトリガー率の上昇の貢献に繋がると言っていい。まだ一度もヒールトリガーは出ていませんし、先ほど再びドロートリガーをデッキに戻した。次のダメージチェック、トリガーが発動する確率は極めて高いでしょう」
(一先ずここまでは綺麗にソウルが溜まったようね。出てしまったトリガーの数は五枚、残ったデッキ枚数は大体30枚を切ったところかしら。それにしても気になるのはこの男のプレイング……。いやにあたしの宣言に土足で踏み込んでくる……まさか、ノンストップと言ったのはまさかこういうことをするから言ったのかしら……。そんな子供騙し、あたしに通用……)「バトルに入るぜ」
「なっ!?」
ほんの数秒、少し視線を逸らしている間にノブヒロの場にはユニットが既に形成されていた。
ミラクルビューティー/ストーム/ツイン・オーダー
ロアー/コマンダー・ローレル/
(いつの間に……。確かにこんなに早く展開されると思ってなかったからユニットのコールを聞きのがしたかもしれない……でもいくらなんでも早すぎる……。引いたカードを確認しているのかも怪しいわ……。こいつ、一体何を考えて……)「ロアーのブースト、ミラクルビューティーでVにアタック」16000
「くっ……(ここでダメージを受けるわけには……)スカイハイ・ウォーカーでガード!」20000
「ストームでVにアタック」11000
「それはノーガ……っ!?」
ミヤコがノーガードを宣言しようとした瞬間、このターンを流れで続けていた彼女は初めてローレルとミラクルビューティーの存在をはっきり認識した。
(この形成は……まずい……)
ミヤコは膝の上に置いていた右手をギュッと握る。
コマンダー・ローレルはG1のパワー4000のユニット。そのままブースターに使うには余りにも貧弱なカードだが、その本領はスキルにある。
そのスキルとは、Vのアタックがヒットした時にリアガードを四枚レストさせることでVをスタンドさせるというもの。簡単に言えば、二つのアタックラインを潰し、Vによるドライブチェックのアドバンテージに変換させるスキルである。
Vがスタンドする以上、ジ・エンドと同じようにクリティカルが乗ればそのままクリティカルが上昇したままアタックすることも出来るので、CBや手札コストを用いないこのカードも十分強力なのだが、やはり問題はアタックがヒットするかどうか。
ただ、リアガードをレストするのはアタックがヒットした後でよいのでヒット時における牽制と見れば悪くないが、やはりリアガードに4000のユニットを置くというのはそれだけでパワーラインに低下に繋がる。
何より、このスキルを発動させるにはリアガードを四枚用意し、さらにスタンドしている必要があり、先にVがアタックしてスタンドトリガーが発動してもスタンドできるのはV裏の後列くらいのもの。アタックがヒットすれば問題ないが、そうでなければスタンドが無駄となってしまう。逆に、スタンドトリガーを期待して先にリアガードでアタックするというのもやはりリスクが伴う。
しかし、ヒットしようとしなかろうと、スタンドトリガーによって膨大なアドバンテージを稼ぐことが出来れば話は別。そしてこのミラクル・ビューティーにはそのスキルがあり、このカードがスタンドした時、その後列もスタンドさせることができる。
今のノブヒロの場にはレストしたビューティーとロアー、わざとブーストしていないローレルとオーダーがいる。ミヤコが危惧しているのは、もしこのアタックを通してスタンドトリガーを発動させられた時のこと。
一度ローレルのスキルが発動すれば流れは間違いなくノブヒロに傾く。いくらデッキ圧縮による高トリガー率があっても、そのアドバンテージを取り返すのは至難の業。
また、それ以上にミヤコの中にはもっと屈辱的な思いが募っていた。
(最初のアタックを通しておけばこんなことにはならなかった……。このあたしが……戦況を見誤ったというの……?こんな子供騙しにあたしが……)「俺も一つだけ、教えておいてやるよ」
視線を落としていたミヤコはゆっくり視線を上げる。自分をこうまで陥れた人物の顔を見る為に。
「俺のデッキにはクリティカルトリガーは入ってない」
「なっ!?」
追い打ちをかけんとするようにノブヒロはそう揺さぶりをかける。もちろん、それを真に受けるミヤコではないが、ノブヒロの顔は今までにないほど真剣そのものだった。
もし、彼の言う通りクリティカルトリガーが入っていないのであれば、現状で可能なトリガー配分はヒール4ドロー4スタンド8となる。
「いいわ、そのアタックはノーガード」
覚悟を決めたミヤコはそう宣言する。いずれにせよ、今の手札でカードできるのは先ほどトリガーしたドロートリガーのみ、スタンドトリガーが発動すれば防ぐことはできない。
「ツインドライブ!!アイン、コスモビーク。ツヴァイ、ダイヤモンド・エース。トリガーなしだ」
トリガーはなし。ミヤコは安堵に胸を撫で下ろすと、握っていた右手でデッキを捲った。
「ダメージチェック、スパイラル・マスター。ドロトリガーGET。一枚引いて……Vにパワーを加えるわ」15000
「オーダーでありすにアタック」10000
「ノーガード、ありすは退却」
「ターン終了」
ディメポリ
手札4
ダメージ表1
ダメージ裏2
「あたしのスタンド&ドロー。ロベールのスキルでSC(ターコイズ・ビーストテイマー)……」
期待通りにトリガーを発動させたミヤコは自分のターンになったことで一度状況を整理した。
(何を焦っているの……。何もあたしまで相手のペースに合わせる必要はない……。いえ、でも彼のあの速さは異常すぎる……。引いたカードから戦略を巡らせる気も、お互いの発動したトリガーから状況を整理している素振りも見せない。ただ我武者羅に坊主捲りをしているようなそんな感覚……でも……)
ミヤコは、自分を追いつめたノブヒロの場に視線を移す。あれほどの状況をノータイムで考えられるとは思えない。
(……あたしと同じ規格外適合者……。もしくはそれに近い何かか……。少なくとも不利なのは間違いなくあたしのほう。この状況打破する方法を見つけないと……)
ロベールのスキルでデッキトップを確認するミヤコ。すると、ミヤコはフッと笑みを浮かべた後そのままカードを上に戻した。
「右上にありす、V裏にバニーをコール。バトルに入るわ」
/ロベール/ありす
トラピ/バニー/トラピ
「トラピージストのブースト、ありすでビューティーにアタック」16000
「ジャスティス・ローズでガード」20000
あいかわらず刹那の見切りでもしているかのように間髪入れずに宣言するノブヒロ。しかしこれはミヤコも予定の範囲。
「バニーのブースト、ロベールでVにアタック」17000
「ノーガード」
「ドライブチェック!!一枚目、スカイハイ・ウォーカー。スタンドトリガーGET。効果は全てありすに。二枚目……宵闇の奇術師 ロベール……。トリガーなし」
「ダメージチェック、超次元ロボ ダイユーシャ」
「アタックがヒットした時、バニーのCB。このカードをソウルに入れて、V裏にトラピージストをスペリオルコールさらにスキルで右下のトラピージストをソウルに入れ、左上にマッドキャップ・マリオネット(6000)をスペリオルコール。そしてマリオネットのスキルで手札のロベールをソウルに置く。トラピージストのブースト、マリオネットでツイン・オーダーにアタック」12000
突如、G1のみでラインを形成したミヤコ。普通に考えれば理解できないが、もちろん彼女にも考えがある。しかし、彼女としてもこれは苦渋の策。手札に来てしまったロベールを処理する為には仕方がなかった。
「……?」
ここで少し違和感を抱く。今までの流れではすぐに対応してきたノブヒロが、黙りこくっていたのだ。
「あんた……本当に強いファイターなんだな」
「……当たり。でも突然どうしたの?さっきの勢いはどこへ……っ!?」
突然のお褒めの言葉に場を見ていたミヤコはクエスチョンマークを浮かべながら視線をノブヒロに向ける。すると、何故かミヤコは思わず後ずさりしながら顔を強張らせた。
「事故が起きようとも動じることなく対抗策を講じる計画性……奇形ラインをも躊躇しない大胆さ……何よりそのヴァンガードを楽しむ姿勢……!俺がヴァンガードをやっている理由はあんたみたいな人とやることだと言っても過言じゃない!」
まるで大好物の食べ物が目の前にあるかのような目をキラキラ光らせながらノブヒロはミヤコを見ていたのだった。急すぎるこのテンションの高さは、ミヤコにとっても受け付けがたい代物であった。
「そ、そう……ありがとう……。とにかく、ガードするかどうかだけでも決めてくれないかしら?」
「おう!それはノーガード!オーダーは退却!」
(……忙しい男ね……)
最初は喧しいくらい元気にプレイしていると思ったら、突然静かになって運用が高速化、再び元気にファイトを始める彼の姿に、ミヤコは今までに感じたことない疲労感を覚えたのだった。
「ありすでビューティーにアタック」15000
「ダイヤモンド・エースでガード!コマンダーローレルを捨てて、完全ガード!」
完全に先ほどの高速プレイから初めのプレイに戻り、多少荷が軽くなったミヤコであるが、やはり彼の声は頭に直接響くほど鬱陶しかった。
「あたしのターンはこれで終了よ」
ペイル
手札3
ダメージ表1
ダメージ裏3