先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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最強VS最弱~その3~

「……どうしてそんなに余裕なんですか?今のSCで次にパワー9000以上を引くのは絶望的で、そもそも引いたカードがカットラスかどうかもわからないのに……」

 

カイリはあまりにも余裕な青年の態度に疑問を抱いた。

 

「ん、そりゃ平気だよ。ボクが引いたこのカードはまさに今の状況を打開出来る数少ないカードだからね」

 

なんの根拠もない自信にさらに困惑するカイリ。

 

「ならお前は、今引いたカードがなんなのかわかるとでも言うのか?確認もせずに。次のカードがG2以上ということも」

 

今の発言に対しクリアは伏せてあるカードを見ながらそう言った。

 

「どうだろうね~。少なくとも、次のカードがパワー9000以上かどうかはわからないかな。というより、そんなことはどうでもいいんだけどね」

 

青年はニヤニヤ笑いながら言った。まるで周りが困っているのを楽しんでいるかのように。

 

「さてさて、それじゃっお待ちかね、御披露目といきましょう!きっと納得してもらえると思うよ」

 

青年は伏せたカードをとり、そのまま右側の前列、ロマリオの前に表側にしてコールした。

 

「死を司る呪術師よ!その禁術をもって、我が当千の兵を再び我に応えさせよ!深淵の呪術師ネグロマールをコール!」

 

痛々しいほどの口上を読み上げた青年。

しかしそれに対しての言葉を上げる者は誰もいなかった。

 

「ネグロマール……そうか!これなら……」

「次のカードに賭ける必要もなく、場を展開することが出来る……。こいつ……!」

 

ハジメとクリアは納得したように呟いた。

しかしカイリは訳が分からずにハジメの反応を見ていた。

 

「大丈夫だ、カイリ。見てろって!」

 

テンションが高ぶっていたハジメは困惑していたカイリに安心させるようにそう言った。

 

「そしてネグロマールのCB!ドロップゾーンより、ルイン・シェイドを左側の前列にコール!さらに、ドロップゾーンの不死竜スカルドラゴンのCB!ネグロマールをドロップゾーンに捨て、右側の前列にスカルドラゴン(10000)をコール!」

 

そして、ハジメに応えるように青年は次々に場を展開していった。

 

ツクヨミ

前列

トム/満月/メテオブレイク

 

手札 6

 

グランブルー

前列

ルイン/バスカーク/スカルドラゴン

 

後列

カットラス/案内するゾンビ/ロマリオ

 

「アタック時にデッキの上から2枚ドロップすることで、カットラスのブーストと合わせてパワー16000のアタックが出来るルイン・シェイド。バスカークは自身のSCによりパワー+2000され、案内するゾンビのブーストと合わせてパワー17000。見事に相手のヴァンガードの11000に対応してる。そして……」

 

ハジメは最後にコールされた骨だらけのドラゴンが描かれたカードに視線を向けると、カイリも同じようにそのカードに注目する。

 

「不死竜スカルドラゴン……?」

「そう、グランブルーに於ける最強のフィニッシャー。CBと場のG2以上のグランブルーを捨てることで場にスペリオルコールすることが出来る。しかもあのカードはアタック時にヴァンガードがグランブルーの時、パワーが+3000されるんだ。ただ、エンド時に強制的にドロップゾーンに置かないといけないんだけどな」

「+3000……ロマリオのパワーと合わせてパワー21000……。15000のガードを要求出来るってことだね!」

 

カイリの言葉にハジメはニヤリと笑って頷いた。

 

「得たアドバンテージを節約し運用、その防御力で相手の手札を削る。そして、相手の防御を削ったところで一気に攻めに転じる。これがグランブルーの戦い方だよ!」

 

青年はクリアを見据えながらそういい放った。

それに対し、クリアは鼻で笑った。

 

「たしかにな。だが、それはあくまで仕留めきれればの話だ。お前の手札は0。このターンを凌げば次のターンでほぼ確実にお前を仕留めることが出来る」

「クリアさんの手札は6枚……。本当に守りきれそうだね……」

「いや、手札はあるけど先輩のツクヨミデッキはさっき言ってたみたいにドロー特化型。手札にほぼ10000ガードがないと考えればこのターンで十分仕留めきれるぜ」

「どうだかね~」

 

青年はカイリ達の会話に横やりを入れる。

 

「さっきのドライブチェックでも10000ガードがなかったから手札にないかもしれないけどさ」

 

青年は机を指でトントンと叩くと再びクリアに目を向ける。

 

「まだ君には、奥の手が残ってるんでしょ?」

「「奥の手……?」」

 

青年がそう言うと、カイリとハジメが首を傾げた。それと同時にクリアはその問いに鼻で笑いながら腕組みをした。

 

「奥の手……か。今さらどうしようというんだ?後やれることはお前のアタックを守りきり、次の俺のターンでお前を仕留める、ただそれだけだ。もっとも、手札に完全ガードを持っているということであれば話は別だが……」

 

澄ました顔で言うクリアに、ハジメも賛同する。

 

「そうっすよ。完全ガードを奥の手っていうには大袈裟だし、先輩の言うようにこれ以上工夫のしようがないっすよ」

 

ぎこちない敬語を使うハジメ。

そんな軽蔑の視線が飛ぶ中、カイリだけは期待を込めた視線を青年に送っていた。

 

(違う……。何かはわからないけど、この人は最初からこれを狙っていたんだ……。この状況を……。この先に待ち受ける終焉へのシナリオを……)

 

一種の直感。なんの根拠もないこの考えをカイリは信じた。この青年はそんなに易々と他人に悟られるわけはないと。

 

そしてカイリの期待通り、青年は清ましたような顔でクリアとハジメの言葉を真っ向から否定した。

 

「もちろん違うさ~。完全ガードがあるかどうかなんて基本的に念頭に入れとくもんだしね」

 

クリアの手札を指差す青年に、クリアは手札を机に伏せ、腕を組んだ。

 

「ほう、じゃあ俺が一体何を隠してるというんだ?」

「またまた惚けちゃって~。君には見えてるんでしょ?」

 

青年は肘をついて顎を支え、またニヤニヤ笑った。

 

「……見えてるって何がですか?」

 

カイリがそう聞くと、青年はクリアのデッキを見ながら答えた。

 

「デッキの中身さ」

 

自信満々に言う青年にカイリとハジメはお互いの顔を見合わせた後、再び視線を青年に戻す。

 

「……デッキの中身?」

「そそ、中身」

 

カイリ達の反応を面白そうに見る青年。

しかしクリアは先ほどまでの澄ました顔から青年をにらめつけるようにして見つめた。

 

「つまり、先輩はデッキの何枚目に何のカードがあるかどうかが分かるってことっすか?」

「そういうこと。たふん、あのデッキの一番上にあるのはヒールトリガーかな」

「えっ、じゃあやっぱりあなたもデッキが見えてるんですか?」

「いやぁ~、これはあくまで推測だけどさ~。でも、当たってるでしょ?」

「さぁな」

 

笑いながら問う青年に、クリアは無表情で返した。

 

「ちょっちょっ!なんか勝手に話進んでるけど、どうして先輩がデッキの中身が分かるか教えてくださいよ!あんだけ俺達いじっといて教えないとかないっすよね!?」

 

慌てて話を戻すハジメ。それに青年は笑いながら謝った。

 

「ハハッ、ごめんごめん。でもこれは何も彼が特別ってわけじゃないんだよね。デッキを見てごらん」

 

青年はクリアのデッキを指差しながらそう言った。

 

「見てって言われても……特におかしなところは……」

 

ハジメは顎を擦り難しい顔しながら言った。

 

「おかしくはないさ。ボクが言いたかったのはデッキの枚数」

「枚数……って言っても見る限りじゃあ判断出来ないんですが……」

 

頬を掻きながらカイリはそう呟いた。すると、青年両手を顔の前まで上げると右手の人指し指と左手の親指以外を立てた。

 

「14枚、ここから先は、月光に照らされた領域。ツクヨミデッキの最も恐ろしい性質さ」

「ツクヨミデッキの最も恐ろしい性質……」

 

神妙そうに青年の言葉を繰り返す。そんな二人に1度ニッと笑った青年は、初めて顔を二人のほうに向けた。

 

「君たちも覚えてると思うけど、最初に彼がツクヨミのスキルでデッキの上から5枚見たじゃん?」

「はい、その中に対象のカードがあったらライド出来るってやつですよね。でもそれがなんの……あっ!」

 

カイリが声を上げると青年はニヤリと笑った。

 

「気づいたかな?そう、5枚のカードを確認した後、残りのカードを自分のデッキの一番下に戻した。しかも、好きな順番に並び替えてね」

「ツクヨミの確認するスキルを使ったのは一拍子と三日月と半月の3回……ん、でもそれだと15枚まで把握出来るんじゃ……」

「おしいな~。三日月のスキルが発動した時、5枚の中に半月があったからスペリオルライドしたでしょ?だから残り4枚のカードを下に差し込んだ。つまり14枚ってわけ」

 

カイリは青年に納得し始めたが、ハジメは依然と難しい顔した。

 

「にいさんの説明でどうして先輩がデッキの中身が分かるか分かりましたけど、どうしてデッキの一番上がヒールトリガーだと思うんすか?他のトリガーかも知れないのに……」

「さっきも言ったじゃん?あくまで推測ってね~。でも、もし最初の一拍子のスキルで確認したカードの中にヒールトリガーがあったならまず間違いなく一番上にあるはずだよ」

「その根拠は……?」

「本来、残りデッキが14枚なんていう事態は稀なのさ。かなりの長期戦を強いられている状況。それほど悪戦苦闘の中であれば必然的にダメージ5点なのは必至。せっかくのトリガーも発動しなきゃ意味がないからね~。ドライブチェックでも発動でき、5点でもダメージチェックを行えるヒールトリガーを一番上に持ってくるだろうな~って考えたわけさ」

「なるほど……。ドローフェイズ以外ならトリガーが発動するから意図的にヒールトリガーを発動出来るってわけっすね」

「そういうこと。後これは秘密なんだけどね」

 

青年はそう言うと、ハジメに対して耳打ちした。

 

(やはり感づかれていたか。これほどのやつが何故あの時あんなことを……。いや、今はそんなことを考えている場合ではないな)

 

「それマジで言ってんすか……。いや……でも」

 

ハジメがそれを聞いて驚いたと同時に、クリアは腕組みを解き、笑いながら青年に言った。

 

「面白い推理だ。たしかにその考えでいけば間違いなくこのデッキトップにあるのはヒールトリガーかも知れない。だが……」

 

クリアは伏せていた手札をとり、それを強調する。

 

「それがわかったところでどうだと言うんだ?俺はヒールトリガーがあることを知った上でアタックを通すことが出来る。そしてこの手札だ。知っていようがいまいが、変わらない」

「変わるさ。少なくともこれでボクはリアガードからヴァンガードにアタックするという選択肢がなくなる。そうしたら絶対に通してヒールを発動されちゃうからね。最悪リアガードにアタックして次のターンにヒールトリガーを引かせても面白いかもね」

「なるほどな。なら俺はお前のヴァンガードのアタックを防げばいいだけのこと。例えお前の言うように次のターンで引かされたとしても問題ない。俺は今デッキに何がいつくるか分かっているからな」

 

カイリは見いっているハジメの肩を叩いた。

 

「えっ?あぁ……どうした?」

「リアガードじゃなくてもヴァンガードのアタックがヒットしたら結局ヒールトリガーが発動すると思うんだけど」

「あー、たしかにそうだけど、もしドライブチェックでクリティカルトリガーが出たらヒールトリガーが2枚出ない限りダメージが6点になるから先輩もそれを警戒してガードせざる終えないってわけ」

「なるほど。あぁ~、後さっきこの人に何て言われたの?驚いてたけど」

「いや……それが俺にもよくわかんないんだけどな」

 

ハジメは先ほど青年に言われたことをカイリに伝えた。

 

「そうだね……でも難しいことを考える必要はないよ」

 

青年は自分のバスカークに手を添えると、クリアに目を向けた。

 

「クリティカルを乗せたアタックを通せばいいだけのこと。ただそれだけのことさ」

 

圧倒的自信。まるでそれが簡単であるかのような青年の態度にクリアは顔を顰めた。

 

「案内するゾンビのブースト、バスカークでヴァンガードにアタック!」17000

 

(チッ、クリティカルを乗せたアタックを通すとは簡単に言ってくれる。だが、ドロー、SCともにトリガーを吸わなかった分次のトリガーが出る可能性は幾分かあるのは確かだ。俺の手札にはガード5000のカードが3枚にリアガードのサイレントトムを合わせて4枚、10000のカードが1枚、そして完全ガードとG3のカードが1枚ずつ……。スカルドラゴンにトリガーが乗った場合を考えると完全ガードはここで使うべきではない。やはりここは15000でガードするのが定石だが……)

 

クリアは前のターンに青年が15000のガードをトリガーで突破された時のことが頭から離れなかった。

 

(またやつがあんなことをやらないとは言い切れない……。ヴァンガードを20000でガードし、もしクリティカルをスカルドラゴンに乗った場合は完全ガードで凌ぐ……ルインのアタックはこちらのダメージがヒールトリガーと信じている以上、リアガードにアタックしてくる……だが……)

 

クリアは青年を見た。圧倒的な不利な状況に於いてもまるで勝利を諦めないという意思がその瞳を通して伝わってくる。まるでトリガーが出ることを知っているかのように。

 

(クリティカルトリガーが2枚出た場合、俺はムザムザとやつに勝利への道を導くことになる……。ヒールトリガーの次のカードはクリティカルトリガー……俺の負けは必至……)

 

不意にクリアは先ほど青年が25000でガードした場面が脳裏に過った。そしてそれを馬鹿にした自分自身を。

 

(トリガーが2枚乗るなんて言うのはありえない。だが、やつの残りトリガーは5枚。クリティカルが3枚にスタンドとヒールが一枚ずつ。そのことはやつも分かっているはず。俺の手札に完全ガードがあると思っていても、10000ガードがあるかどうかは分からないはずだ。もしやつが俺の手札に5000ガードと完全ガードしかないと考えるなら、無理に出るかどうかも分からないダブルトリガーよりも、デッキに多く残っているクリティカルトリガー2枚にかけるはずだ。確実かつ堅実な一手だが、俺の裏をかいてくるのであれば効力は十分あると思うはずだ。)

 

クリアは手札のカードを3枚取ると、ガーディアンサークルに置いた。

 

「三日月と半月、サイレントトムでガードだ」26000

 

(リアガードにトリガーを乗せてみろ。その時点で俺の勝利は確定する)

 

「マジかよ……。本当に15000でガードした……」

「なに?どういうことだ」

 

ハジメがクリアのガードを見て思わず呟いたことにクリアは反応した。

 

「ボクが言ったのさ。さっき彼に耳打ちした時ね。きっと君が15000でガードするだろうなってね」

 

(こいつ……何を考えている……)

 

笑いながら言う青年に怒り以上に青年の意図が読めず、困惑した。

 

「初心者の俺が言うことなのであれなんですけど、正直15000でガードするのって普通じゃないですか?」

「まぁ、そうだけど相手はあのにいさんだぜ?さっきのターンみたいにワンチャントリガーを全部乗せてくるかもしれないだろ?本当にデッキトップにヒールがあるならわざわざ全てのアタックを防ぐ必要はないんだし」

 

「なんか変な風に思われてる……ショックやでぇ……。」

 

青年は苦笑いを浮かべながらデッキに手を添えた。

 

「特に意味はないさ。ただこういう演出があったほうが面白いじゃん?それにボクは知ってるんだ」

 

クリアを察したように青年は喋りだした。

 

「知ってる……だと?」

「そうさ……君はきっとボクがさっきの20000でガードしたのを思い出して15000でガードしたんでしょう?……ツインドライブ!!」

「!?」

 

クリアは驚いた。自分の思考を読まれたことよりも、不意に浮かんだイメージをそのまま言い当てられたことを。

 

「君はなかなかにプライドが高そうだからね。自分が否定したことを受け入れるなんてことはしないと思ったんだ。ファーストチェック……荒海のパンシー。クリティカルトリガーGET!」

 

今まで仏頂面で何が起きても冷静に対処してきたクリアもここで目を見開く。

 

(本当に出しやがったか……。やつは俺の性格を理解した上で、トリガーを乗せないことをわかった上で2枚分ガードをしたというのか。俺がこの場面で1枚分ガードをさせるために……。こいつは完璧に読みきっている……俺の性格を……思考を……)

 

クリアは自分の手札を見ながらそう悟った。

 

「出たね~クリティカル。もちろん対象はヴァンガードだよ。きっと、次のトリガーでクリティカルが出たとしてもリアガードに割り振ったら守りきられちゃうだろうからね」

 

青年はトリガーを手札に加えると再びデッキに手を添えた。

 

「さぁ、君の好きな運ゲーだよ。出ればボクの勝ち。出なきゃ君の勝ちだけど……」

 

デッキの一番上を捲る。全員が見いる中、青年はクリアを見続けた。

 

「悪いけど今回は……」

 

そして、また人を小バカにしたようにニヤリと笑う。

 

「ボクが勝たせて貰うよ」

 

運命のトリガーを捲る青年。皆が注目する中、彼が表替えしたカードには緑色の幽霊が描かれたおり、右上にはアイコンも載っていた。

 

「お化けのリック……ヒールトリガーGET。回復し、パワーはヴァンガードに加えるよ」

 

トリガーの処理を終えた青年はトリガーを手札に加えた。

 

「これでパワー27000、クリティカルの乗ったアタックがヒットするね……。でもまだダメージチェックが残ってるからね。もしかしたらヒールが2枚……」

「ねーよ。お前の思ってるとうりデッキトップはヒールトリガーだが、次はクリティカルトリガー。残りのヒールはここにあるからな」

 

クリアはそう言うと自分の手札を公開し、ダメージチェックを2枚行った。

 

「本当にヒールトリガーだったんだ……この人の言ってた通り……」

「えげつねぇ……」

「いや~、後半のデッキが見えるって言うのはツクヨミデッキ相手なら基本的に警戒するところだからそんな大したことじゃないよ。んじゃっ、ボクはそろそろ……」

「納得いかないな」

 

青年が立ち上がると、クリアは呟いた。

 

「納得いかないというと?」

「それだけのプレイングスキルがありながら、何故あの時、ちゃっぴーのスキルでバンシーを落とした?」

「そうっすよ!あれは俺も気になりました」

 

クリアの発言にハジメも賛同した。

 

「ん~、確かにあれは個人的にもあまり好きじゃなかったんだけどさ~。君の言いたいことはわかるよ。あの場面で落とすべきはロマリオだろうね」

「あれ?」

「そうだ。ツクヨミデッキには相手のユニットを退却させるカードはない。8000のブーストを用意出来ればグランブルーの特性を存分に発揮出来るからな」

 

二人の会話にハジメは冷や汗をかいた。

 

「あれあれ、ハジメさん?どうしたんですかね?確かカットラスがどうとか……」

「あぁん!?お前なんかなんも分かってなかっただろ!」

「いや、俺初心者だし」

「開き直ったよ、こいつ……」

 

 

「ならば何故……」

 

 

「それにはボクと君との意識の違いがあったからだろうね」

 

 

「意識の違いだと……?」

「そうさ、君もきっと最初はバンシーを落とした時に一つの可能性を思い浮かべたでしょ?」

「……ライド事故か……」

「そう、まさにあの時、ボクの手札にG3はネグロマールのみだったんだ。そうなってくると話は変わってくるでしょ?」

 

二人がそう話していると、思うところがあったハジメが二人の間にわって入った。

 

「だったらスピリットイクシードを落としたら良かったんじゃないっすかね?手札にはナイトスピリットがあったし、サムライは案内するゾンビあたりと変わればスペリオルライド出来たのに……」

「う~ん、それは余りうまみがないんだよね~。あ~いうタイプのスペリオルライドはG2にライドしたターンに出来ないとアドが取れないからさ~。サムライとナイトをソウルに置くことで手札2枚分のマイナスとして~。本来手札からライドするはずのG3をドロップから出せるからこれで1枚分のマイナス。本来ただのドライブチェックがツインドライブで出来るからようやくプラマイゼロ。ツインドライブで一枚余分にチェック出来る分のアドが得られ、G3も早い段階から出せるからうまみがあるけど、そのうまみがない以上、あそこでやるのは得策じゃないのさ」

「でもネグロマールのパワーは8000ですよ?そうなると後々ガードやアタックが辛くなってくると思うのですが……」

「確かにパワー10000あれば攻守ともに楽になるかもしれない……相手がツクヨミでなければな……」

 

突然のクリアの発言にカイリとハジメは驚いた。

 

「ヴァンガードが11000になるツクヨミである以上、双方ともに単体でアタックは出来ない。いや、むしろスペリオルライドに案内するゾンビを使わないネグロマールのほうが分があると言っていい。ガードに関してだが、18000というパワーは俺のデッキに於いて前列にG3を置かなければ成立しない。俺のデッキにワイズマンは入ってないからな」

「ならG3を出せば良いだけのことじゃ……」

「そういう訳にもいかないんだよね~。」

 

青年は先ほどまで座っていた椅子に再び腰を掛けた。

 

「そもそもネグロマールがヴァンガードだったら勝ち筋がないんだ。だからボクはバンシーでドローして出来る限り早くバスカークを手札に引き込もうとしてたんだ。結局普通に引けたけどね。せっかく、無理矢理G3を出して18000ラインを作ってもバスカークにライドされたらインターセプトの出来ないG3は腐っちゃうからね~。ましてやあのデッキに入ってるG2のサイレントトムとプロミスドーターはとっても優秀なアタッカーだからね~。ガードのないG3は完全ガードのコストやツクヨミのスキルで処理したいところなんだ」

「深いなー……。先輩達はこんなこと考えながらファイトしてたのか……しかもデッキの枚数や中身も覚えて……。レベルが違いすぎる……」

 

二人のあまりの読みレベルの高さに驚愕を隠し切れないハジメ。その最中、説明を終えた青年は確認を取る為に再びクリアに声をかける。

 

「これで満足してもらえたかな?」

「いや、まただ。まだ一つだけ納得いかないことがある。お前はデッキの中身が見えていたのか?あの最後のトリガーチェックも出ることが分かっていたような素振りだったが……」

 

青年は誤魔化すように笑うと首を振った。

 

「あれはただ演出のためにやっただけだよ!無かったら無かったで違う意味で面白いじゃん?決してイカサマとかしてデッキの中を把握してなんかいないよ!?」

 

「そうしたら今回は運が良かったですね……。あんなどや顔でトリガー出なかったらカッコ悪いとかいうレベルじゃないですもんね」

「ははっ、あれ心の中じゃっ、かなりビクビクしてたからね……」

 

(演出だと……。演出で25000でガードし、デッキに1枚しかないネグロマールがくることに賭けたというのか……?そんなことがあり得るのか……?)

 

カイリと青年がお互い苦笑いしている中、クリアは青年を見つめた。

 

「んじゃっ、ボクはそろそろ帰るよ」

 

青年は立ち上がり、クリアを見下ろした。

 

「ここまで濃いファイトしたのは初めてだよ。また、ファイトしてくれたら嬉しいな~」

 

そういうと、青年は店を出ていった。

 

「濃いファイト……か。俺も久しぶりだ。実力で負かされるとはな……」

 

クリアは青年を見届けると静かに笑った。


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