先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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理想の像

「くぅ……ショウさんとツカサさんのファイトのおかげで気は紛れたけどやっぱりあそこで負けたのは悔しいなぁ……」

 

椅子に座りながらぐでーと机に横たわるカイリ。ハジメは苦笑いを浮かべながらそんな彼の肩に手を置いた。

 

「そうしょぼくれんなよ。あそこでインビジブルにライドしときながらあそこまで追い込まれるとは思ってなかったわ。もしあの段階でパーフェクトにライドされてたら俺ボッコボコだったろうぜ」

「今考えると本当に俺なんであんなことで悩んでたんだろ……。昔の自分に会ったら殴ってやりたい……」

 

身体を起こしながら握りこぶしを作る。

 

「まぁ仕方ないんじゃないか?俺達にとっては初めての大会だ。どうやって挑めばいいのかっていうのは俺にもよくわかってないからな」

「でもハジメがああ言ってくれたおかげで俺は吹っ切ることが出来たんだ。本当に感謝してるよ」

「気にすんなって。俺としてはあの時のお前が昔みたいな口調と態度になってたことのほうが驚きだ。あの頃のお前は今とは真逆で人を気遣うなんてまったく考えてない感じだったもんな。あの頃と今を足して2で割れば丁度よさそうだわ」

 

ヘラヘラ笑いながらそう言うハジメにカイリは何とも言えない笑みを浮かべながらその場をやり過ごした。

 

「意地を張るのもいいけどさ、俺達は親友だ。何か困ったことがあったら何でも俺に言えよな!」

「……ああ!」

「いつもみたいにのんびりしてるのもいいけど、もうそろそろ次の抽選が始まるみたいよ?」

「うおっ!?そりゃやばい!カイリ、俺達も行こうぜ!」

 

進行役の吉田君の方へ向かう店長が通り際にクスクス笑いながらそう呟くと、ハジメは焦った様子で立ち上がり、店長を追い抜きながらそちら向かった。

 

「うん、そうだね……」

 

カイリもそう返事をするが、彼はジッとハジメの後ろ姿を眺めていた。

 

(ごめん、ハジメ。本当は俺、隠し事をしているんだ。とても重要なことを。でも、俺にはそれを話す勇気がない……)

 

カイリは自分の手のひらをジッと見つめる。まるで過去の自分を見つめるかのようにとても悲しい表情をしていた。

 

(もし君があの力のことを知ったら、君はきっと、俺を軽蔑してしまうと思うから……)

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「それでは2回戦の抽選を始めます」

 

ざわざわと落ち着きのない店内の中、吉田君は特に気にしない様子でそう宣言する。

 

身内の仲間の戦績を聞いていたその場のファイター達も、その声を聞き少しずつ騒ぎは収まる。

 

「今回も先ほどと同様、名前を呼ばれましたらカードを持って所定の場所に待機していただきます。加えて、2回戦目からの注意事項を話していきます」

 

まるで台本をそのまま読んでいるかのように淡々と語っていく。

 

「ここから予選を勝ち抜く方が出てくると思います。勝ち上がりが決定した方は、昼からの決勝トーナメントまで自由時間とさせていただきますが、大会の都合でここで野良ファイトをすることは禁止します。ご了承ください。それでは早速一戦目の対戦を決めていきましょう」

 

抽選箱に手を突っ込む吉田君を固唾を飲んでを眺めるファイター達。ここからは短期決戦、12人という少ない枠の中を争わなければならない。

 

1回戦目に負者はここで焦っても3回戦目まで縺れ込まなければ先はない。むしろ開き直れる分落ち着いてファイトすることが出来るが、勝者はそうはいかない。

 

自分が勝つ前に枠が埋まってしまうかもしれないというプレッシャーの中を戦わなければならないのだ。

 

だからこそ、ここでどれだけ有利な相手とあたるかが問題となる。

 

「まず最初は……ブレイドさんです!」

「あっ、はい!」

 

油断していたシロウは自分の名前が呼ばれて反射的に手を真っ直ぐ上げた。

 

「おっ、初っ端からシロウか。優しい相手ならいいな!」

 

タイキは悪戯っぽく笑いながらシロウを送り出した。

 

「しかし、ブレイドか……。名前と合わせて出来損ないの魔術師みたいだな」

「一体誰を連想してるんですか……」

 

真剣な眼差しでそういうハジメにシロウは苦笑いを浮かべる。

 

「では、ブレイドさんの対戦相手ですが……K.です!」

「K.……一体誰が……」

「俺だ」

 

ハジメが相手を探すまでもなく、本人は静かに前に出てきた。

 

アネモネ最古にして最強のファイター

 

小野クリアが。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「はぁ……」

「ちぇ、またお預けか……」

 

対戦相手がシロウに決まり、他のファイターが安堵のため息をつく中、やはりあの二人だけは不満そうな表情を浮かべる。

 

「ほんとあの人ら見てると笑えるよなー。よほどクリアさんとファイトしたいんだろうぜ。あれだけ俺達と反応が真逆だとな」

 

ケラケラ笑いながら他人事のように言うタイキに、ハジメもその二人に視線を向ける。

 

「本人達は大会を勝ち進むというよりクリア先輩と戦うことが目的だったから当然といえば当然だろうな。しかしクリア先輩とファイトしたいとかさすが大会経験者ともなると肝の据わり方も違うな……」

「いや、それと大会経験は多分関係ないと思うけど……」

 

眉間を摘みながら真剣に考察するハジメにカイリは苦笑いをしながらそう指摘した。

 

「さて、彼の幸福を祈りながら次の抽選に行きましょうか。次は……アクセルさん!」

「おっ、俺だな。さぁて、対戦相手は誰だ?」

 

名前を呼ばれ、前に出るノブヒロ。彼がそう言いながら辺りを見渡すのと同時に吉田君をその対戦相手の名を呼んだ。

 

「その対戦相手は……グローリアさん!」

「そう……あなたと……」

 

壁にもたれていたミヤコはそう小さく呟きながら前に歩み寄る。

クリアを狙う二人のハンターは、あろうことかその矛先を同業者に向けたのだった。

 

「こいつぁ……ただで済みそうになさそうだ」

 

今まで落ちついた様子だったノブヒロは冷や汗を流しながらも、湧き上がる闘志に口元を綻ばせた。

 

 

第二回戦の描写を書いていくのは以下の通りです。

 

シロウVSクリア

 

ノブヒロVSミヤコ

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

僕はこの人のファイトを二回見たことがある。

 

最初は僕が初めてここへ訪れた時。

 

まだヴァンガードそのもの知らなかった僕は、ちょっとした好奇心でその人だかりのできていたテーブルに近寄った。

 

ルールを知らない僕は、二人が何をやっているかは具体的にはわからない。

 

ただ……感じたんだ。言葉に言い表せないような高揚を。ひしひしと伝わる二人の意志と意志のぶつかり合いが、僕に鳥肌を立たせた。

 

無心になりながらそれを眺める僕の中に、自然と1つの思いが芽生えた。

 

『自分もこんな風にファイトがしてみたい』と。

 

それが、僕のヴァンガードを始めるキッカケになった。

 

これが一回目。

 

二回目はファイターズドームの決戦。

MFSの迫力もさながら、本気を出した全国区の二人のファイトは、見ていた僕達の目を奪うには十分すぎるまでの効力を発揮した。

 

しかし彼等はそんな気楽な僕達とは違い、譲れないもの、退けない理由を胸に抱きながら戦っている。

 

パンドーラ・イメージというチートじみた能力に対してこの人は、勇敢にも真っ向から勝負を挑んだ。

 

少しも臆することもなく、むしろ相手を動揺させ、己の信念を貫き、最強の名に恥じない力を持つこの人の姿は正に――

 

――僕の理想の姿そのものだった。

 

 

 

「おい、何をボーっとしている。さっさとデッキをシャッフルしろ」

 

感傷に浸っている僕に対して、クリアさんは自分のデッキを突き付けながらそう言った。

 

「は、はい!」と少しパニックになりながら返事をし、クリアさんのデッキを受け取ると、僕はその手に取ったデッキを眺める。

 

他の例にも漏れない普通のデッキ。しかしその所有者がクリアさんであるという事実が、僕に威圧的なまでの存在感を感じ取らせた。

 

こんな自分とやって本当にクリアさんを満足させられるのだろうか……。

 

その時の僕は、勝敗依然にちゃんとしたファイトが出来るかどうかという心配で頭がいっぱいだった。

 

デッキを返却し、マリガンを終えた手札を確認する。グレードは全てが揃ってるから、悪くない手札だけど、肝心の切り札となるG3がない……。

 

なんとかG3になるまでにあのカードを引かなければ、アッとういう間に終わってしまう……。

 

僕はそんな不安に刈られながら、Vに手をかけた。

 

「スタンドアップ、The・ヴァンガード」

「スタンドアップ、ヴァンガード!」

 

「神膺一拍子(5000)」

「ブラウユンガー!(5000)」

 

クリアさんのデッキは、普段よく使ってるツクヨミデッキ。

 

連携ライドという不安要素はあるものの、ひとたびライドを成功させれば抜群の安定感を持つ油断のならないデッキだ。

 

僕は最初のクリアさんのファイトを思い出しながらデッキからカードをドローする。

 

「ブラウパンツァーにライド!」

 

緊張に手を震わせながらも、なんとか連携ライドを成功させデッキからブラウクリューガーを手札に加える。

僕のデッキは典型的なシュテルン・ブラウクリューガーを軸としたデッキ。

 

vでの連続攻撃さえ決めることが出来ればカイリさんやハジメさんにも勝つことが出来るこのデッキだけど、問題はそのシュテルンが手札にないこと。

 

そもそも連続攻撃をさせてもらえるかも分からないクリアさんに対して、この状況は何としてでも打破しなければならない……!

 

僕は不安を目先の目標を決めることで紛らわせながら、ターンの終了を宣言した。

 

「俺のターン、ドロー。その瞬間、一拍子のスキルを発動する」

 

いつものようにデッキの上から五枚を取ると、クリアさんは中身を確認する。

 

連携ライドを完璧にライドすることは、満月が11000になるだけでなく、単純に手札のアドバンテージを得ることに繋がる。

 

そうなればもうどうしようもないと考えた僕は、祈るような気持ちで五枚のカードを眺めるクリアさんを見つめた。

 

「……対象カードはなし。手札より、バトルシスター しょこら(6000)にライド、The・ ヴァンガード。その後列にお天気お姉さんみるく(6000)をコールし、バトルに入る」

 

/しょこら/

/みるく/

 

……あまりにクリアさんが平然とバトルに入ったため少し呆然としていたが、クリアさんが連携ライドを失敗したことで僕は胸を撫で下ろした。

 

これでクリアさんは半月のスキルでソウルを貯めることが出来ず、満月のパワーも9000に下がる。

 

そこにシュテルンの19000のアタックを叩き込めば、クリアさんは最低でも15000ものガード必要となり、流れを持っていくことが出来るかもしれない。

 

希望が見えてきたことを心の中で確認しながら、 僕は今にもアタックしてくるであろうクリアさんに視線を移す。

 

「…………」

 

その瞬間だった。

今しがた勝利への活路を見出だした僕に、まるでそれを凍りつかせるような悪寒が体全体を走った。

 

「…………」

 

悪寒の根源、それはクリアから発せられる視線がこちらに集中していることが原因だった。

 

何かを見定めるようにこちらを見るクリアさんに、僕はまるで蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。

 

何故アタックに入ったにも関わらずこちらを凝視している……。もしかしてライド事故をしてホッとしたことがバレた……?僕が調子に乗ったことに腹をたてている……?

 

様々な思考が頭に過る中、クリアさんはおもむろに口を開いた。

 

「お前……」

「は、はい!」

 

反射的に甲高い声で返事を返す。我ながら情けないとは思うが、正直今回は仕方ないと無意識に自分を正当化する。

 

覚悟を決めろ!宮下シロウ!何を聞かれようと凛とした態度で答えるんだ!

自分自身に渇を入れ、出来る限り顔を引き締めるよう努力すると、僕はクリアさんからの言葉を待った。

 

「あのショウとかいうやつの弟なのか?」

「えっ……そうですけど……」

 

思わぬ問いに声がくぐもる。自分ではなく、お兄ちゃんのことを聞かれた僕は少し混乱した。

 

この言葉からクリアさんがお兄ちゃんについて何かを知りたいのではないかと推測するが、今まで見てきてクリアさんとお兄ちゃんとの関係性はほぼない。

 

少し怖いけど、こちらからそのことについて聞いたほうがいいだろうか。

 

僕は品定めするようにこちらを眺めるクリアさんにそのことを問うが……、

 

「いや、大した意味はない」

 

と軽く流されてしまい、すぐにアタックの宣言をされた僕はその対応の為に頭から今までの雑念を払った。

 

「みるくのブースト、しょこらでVにアタック」16000

「あっ……ノ、ノーガードで……」

「ドライブチェック、半月の女神ツクヨミ。トリガーなし」

「ダメージチェック……ツインブレーダー。僕もトリガーなしです」

 

最初の攻防は目立つこともなく終わる。しかしクリアさんの威圧は想像以上に重く、たったこれだけの間に額には一粒の汗が流れ落ちていた。

 

こんな調子で本当にこの人とのファイトを乗り越えられるのだろうか。不安は募るばかりだった。

 

オラクル

手札5

ダメージ表0

ダメージ裏0

 

しかし考えよう、流れはこちらに傾きつつある。いくらクリアさんのデッキが防御に特化したデッキだとしても9000のVでは息切れするのは必至。

 

CBを全てツクヨミに委ねているクリアさんのデッキは、ライド事故をしてしまえばその脅威に恐れる必要も少ない。

 

問題はラインの形成。

 

ここまでの有利な局面を生かさないわけにはいかない。

 

「僕のスタンド&ドロー!ブラウクリューガーにライド!スキルでパワー10000!」

 

……シュテルンはこなかったけどまだ焦る必要はないはず。ここで貯金を作っておけば多少の不利は切り返せるはずだ。

 

「左上にアイゼンクーゲル(10000)V裏と右上にタフボーイ(8000)をコールしてバトルに入ります!」

 

アイゼン/ブラウクリューガー/タフボーイ

/タフボーイ/

 

僕がここまで悠長に考えられる理由はこのタフボーイの引きの良さ。

 

アイゼンは自身のスキルでパワー2000引き上げるスキルを持ってるからわざわざ手札のパンツァーをコールする必要もない。後列全てにタフボーイを配置できれば主導権はこちらが握られるはずだ。

 

相手の事故で強がるのはかっこいいことじゃないけど、容赦できる相手でもない。全力でぶつからなければ勝てない!

 

「タフボーイでVにアタック!」8000

「ミラクルキッドでガード」11000

 

僕のアタックに間髪いれることなくガードをしてくる。

 

さすがはクリアさんだ。僕がコールした段階でこちらのアタックを予測し、すでにガードの算段をたててきている。

 

このこちらに余裕を与えないプレイングが相手を自分の術中に嵌める為の鍵になるのだろう。

 

と、頭の中では理解していても実際と予測ではこんなに違いがあるのか……。あの時カイリさんが気後れする気持ちもわかる気がする。

 

けど……、

 

「タフボーイのブースト、ブラウクリューガーでVにアタック!」18000

 

今有利なのは僕だ。それを実証するために僕は圧倒的火力を持ってアタックを宣言した。

 

「ノーガード」

 

当然クリアさんもノーガード。その為に最初のタフボーイのアタックをガードしたんだろう。

 

「ドライブチェック、ザ・ゴング!ドロートリガーGET!一枚引いてパワーはアイゼンに!」

「ダメージチェック、戦巫女タギツヒメ」

「アイゼンでVにアタック!スキルでパワー+2000!」17000

「ノーガード。ダメージチェック、GETヒールトリガー。ロゼンジのスキルで回復し、パワーはVに加える」

「っ、ターンエンドです……」

 

あれだけ攻めたのに結局1点しかダメージを与えられなかった……。

 

今のドロートリガーでもシュテルンを引けなかったし……次のクリアさんのターンでこちらの痛手を最小限に抑えないとまずい……。

 

ノヴァ

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

「俺のスタンド&ドロー。半月の女神 ツクヨミ(9000)にライド、The・ヴァンガード。加えて、左下にダークキャット(7000)をコールし、スキル発動」

 

クリアさんの言葉と共にお互いデッキからカードを一枚ドローする。ここでのドローは僕としてもありがたいけど、目的のシュテルンはまだ来ない……。

 

クリアさんは引いたカードを確認した後、鼻で笑いながらそのカードをそのまま場にコールした。

 

「ダークキャットを前列に移動、その後ろにサイキックバード(4000)をコール。更に右上に半月をコールし、バトルに入る」

 

ダークキャット/半月/半月

サイキック/みるく/

 

クリアさんもかなりの数のユニットをコールしてきた。目的は大体わかる……。

 

「Rの半月でタフボーイにアタック」9000

「ザ・ゴングでガード!」13000

 

やっぱりタフボーイにアタックしてきた。さすがのクリアさんもタフボーイによる高パワーのブーストはあまり好ましく思っていないようだ。

 

いや、これは当然の考え。半月にライドした段階で、クリアさんは次のターン、半月の連携ライドのスキルを使わざる終えなくなる。

 

もちろんアマテラスが手札にあればその場凌ぎとしてライドすることができるが、僕のようにそう都合よく手札にあるとは限らない。

 

もし手札にアマテラスがなく、僕が順調にライドした場合、クリアさんは2度の15000以上のガード要求が必要となるアタックを強いることが出来る……。

 

……ん、ということはクリアさんの取る行動は必然的に……。

 

僕は頭の中で1つの可能性に辿り着く。自分にとって最も気をつけなければならない一手。

 

最悪の状況を自分で作ってしまったという自覚を、僕はガードをした後に気づいた。

 

「サイキックのブースト、ダークキャットでタフボーイにアタック」11000

 

「あっ……うっ……ノーガードです……。タフボーイは退却……」

 

「みるくのブースト、半月でRのアイゼンクルーゲルにアタック」15000

 

僕の恐れていた状況を、クリアさんは当然のように突いてくる。

 

そう、アイゼンクルーゲルを出した段階でクリアさんは僕のデッキがシュテルンを主軸としたデッキと気づいている。当然、そのスキルを熟知してるはず。

 

シュテルンの連続攻撃は、ジ・エンドと違いスタンド後にツインドライブを失うが、同時に後列をスタンドできる強力なもの。

 

当然そのコストも膨大であり、アタックをVにヒットさせ、CB2と手札のノヴァを二枚捨てなければスタンドすることはできない。

 

1度スキルが発動し、クリティカルが乗った日にはたとえ相手のダメージが少なくても一気にゲームエンドまで持っていけるポテンシャルを秘めるこのカードだけど、先ほどの条件のどれかを未然に防いでしまえば、このカードのアタックはまったく怖くない。

 

ダメージはお互い1点。たとえシュテルンにライドし、アタックが成功してもこちらはCBが足りずスキルを使うことはできない。対してクリアさんはダメージに余裕があるから、ガードする必要は皆無。

 

クリアさんはここまでの未来がすでに見えていたんだ……。

 

僕のアタックを最小限に防ぐことで次の僕のシュテルンのアタックのリスクを下げ、次の自分のアタックで相手に圧力をかけつつシュテルンのスキルの発動を抑制。

 

いや……まてよ……。じゃあわざわざRを2列作る必要なんてないじゃないか……。

 

こちらのRの前列は2枚。双方を退却されてはクリアさんはVにアタックする他なくなる……。

 

僕は、思案を巡らせながらクリアさんの表情を伺う。

 

「さっきのドロートリガー、お前にとってはあってないような物だったようだな」

 

自分へ視線が向けられたことに気づいたクリアさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべながらそう言った。

 

……クリアさんはわかっていたんだ。僕がこの局面でドロートリガーをガードに使うことを……。

 

アタックされたユニットとドロートリガーを天秤にかけた場合、おおよその場合アタックされた方に軍配が上がる。

 

したがって手札にドロートリガーがある場合、相手がRに5000ガード要求をしてきたら必然的にそのドロートリガーを使いたくなる心理をクリアさんはついてきたんだ。

 

デッキ構築、状況判断、相手の心理、あらゆる面でこの人は圧倒的に僕の上をいっている……。

 

カードのスキルや運、本来であればこの2つを競うヴァンガードにおいて、クリアさんは純粋なプレイングのみで僕を圧倒してきている……。

 

これが全てのヴァンガードファイターの頂点に立ったピオネールの実力……。自分の方が有利?そんなものは端から存在なんかしてなかったんだ。

 

僕とクリアさんがこうして向き合った段階で、すでに優劣はついてしまっていた。

 

僕は肩を落としながら搾り出すようにノーガードという言葉を口にした。

 

「ドライブチェック、満月の女神ツクヨミ。トリガーなし。そしてターンを終了する」

 

オラクル

手札3

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

クリアさんから僕にターンが移行する。

 

絶対的に攻撃側が有利なヴァンガードにおいて、攻めのターンは流れを変えるための唯一の機会となり、守り以上に気合いをいれなければならない局面であるが、その時の僕にはその気概が全くなかった。

 

「スタンド&ドロー……。アシュラ・カイザー(11000)にライド」

 

そして結局シュテルンは引けずじまい。一応ブーストと合わせて15000要求はできるけど、ダメージに余裕のあるクリアさんには何の圧力にもならない。

 

「左列にロケットハンマーマン(6000)、キング・オブ・ソード(10000)。右上にブラウパンツァーをコール。ハンマーマンのスキルでレストし、パンツァーのパワー+2000にしてバトルに入ります……」

 

キング/アシュラ/パンツァー

ハンマーマン/タフボーイ/

 

空いてしまったRを一先ず埋めバトルに入る僕に、盤面を見たクリアさんは疑問を抱いたかのように眉をひそめた。

 

それに気付いていない僕は、そのままアタックをする為にカードに手を添えると、クリアさんは自分の手札を裏側にして置き、口を開いた。

 

「今から俺が言うのは独り言だ。当然、お前は俺の発言に答える義務もないし、耳を貸す必要もない。勝手にファイトを続けて構わない」


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