先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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消耗戦

「フフーン、そうこなくちゃ面白くない、それじゃ、まずはこういこう」

 

鼻で笑ったショウは空いている枠を埋める様に立て続けに手札を切った。

 

「ボイドマスター(9000)、ロゼンジ・メイガス(3000)を右列に、さっき空いた左前にはチガスミコール、バトルに入る!」

 

チガスミ/満月/ボイド

ドレッド/ブルーアイ/ロゼンジ

 

「ロゼンジをコール……。ヒールをデッキに戻してトリガーの発生率を上げる作戦ね……」

「……いえ、それだけではありません。なるほど、彼がオラクルを使う理由はそれだったのか……」

 

訂正を入れる吉田君は、そのまま自分だけ納得したように頷いた。

 

「ちょっと!勝手に解釈しないで私にもちゃんと説明してちょうだいよ!」

「勿論そのつもりですよ。さっきショウさんは、舞台は完成したと呟いた。その理由がわかりました」

「舞台が完成したって……、たしかにそうかもしれないけどそれはあくまで自分のターンだからなんじゃないの?ツカサ君もきっとその意味を理解してるだろうし、きっとこれを崩しにくるわよ……?」

「えぇ、おそらくそうでしょう。ですが、それも彼の想定内の範囲。この流れを崩すことを困難を極めますよ」

「うーん、結局ショウ君が何をしようとしてるのかわからないんだけど……」

 

困惑したような表情をする店長を見て、吉田君は楽しそうに笑った。

 

「クスクス、見ていればわかりますよ。今回の彼の奇行は、非常に理にかなったものですからね」

 

バトルに入ったこともあり、無意識に身構えるツカサ。

 

「ロゼンジのブースト、ボイドマスターでRのブルーブラッドにアタック!ロゼンジはブーストした時にブースト先にパワーを3000増やす」15000

「…………」

 

ぬばたまの魔の手が降りかかるこのアタックに、ツカサは珍しく長考を見せる。

 

普段とは真逆のこの状況。

今まで自分が相手してきたファイターがどんな気持ちで自分とファイトをしていたのかがわかったような気がした。

 

「本当、いやらしい戦い方だよね。お互い」

 

フッと息を吐きながら笑みを浮かべるツカサ。己という影に隠れた戦いの本質を直に触れる初めての体験。

 

自分というファイターがいかに滑稽であったのかを心で理解した彼は、どうしようもなく笑いがこみ上げてきたのだ。

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「ドライブチェック、GET!ヒールトリガー!回復はしないが、パワーをVに加えることでパワー30000!せっかく築いた壁だが、俺のイカズチはその程度じゃ止まらないぜ!」

「グッ……。ダメージチェック……、ドロートリガー……」

 

六点目のダメージを受けた少年は、意気消沈したように肩を落とした。

 

「ありがとうございました!いいファイトだったぜ」

 

礼儀正しく挨拶をすまし、初戦を白星で飾るノブヒロ。ダメージは4対6。手札は7枚と快勝であった。

 

「しかし危なかったな、あそこで無理にVにアタックせずリアガードを潰しにかかられてたら結果が変わってたかも……」

 

ノブヒロがそう親しげに話しかけると、少年は顔を俯き、ブツブツぼやきながらカードをかき集め始めた。

 

「チッ、何がいいファイトだ……。運がよかっただけだろ」

 

少年はそう悪態をついた後、乱暴にカードをしまい席を立った。それを見たノブヒロは仕方なさそうにため息をつく。

 

「ヴァンガードやるからにはこれくらい覚悟してやらなきゃ駄目なんだがな……。いちいちトリガーで文句垂れてちゃ楽しくないだろうに……」

 

ノブヒロは哀れみの視線で少年の後姿を見つめた。

 

「まぁ、他人の心配したってしょうがないか。ちゃちゃっと勝敗を報告して他の奴のファイトでも拝みにいくか、せっかく早く終わったことだし」

 

「よっ」と年甲斐もなく声をあげながら立ち上がるノブヒロ。そんなに座っていたわけないが、周りから漂う緊張感から身体が強張ってしまっていたのだろう、身体の至る所から違和感を感じた。

 

少し身体を解した後、ノブヒロを勝敗を書き終えた二枚のカードを手に取る。

 

大会の勝敗は基本的にそれぞれ渡されたカードに対戦相手の名前とともに記入されることになっており、勝者がその双方のカードを運営者に書き終えたカードを渡すことになっている。

 

ノブヒロはその場で辺りを見渡し、吉田君を探す。すると、店長と共にファイトを観戦している吉田君の姿を捕らえた。

 

「お、いたいた。誰かしらのファイトを見てるみたいだな。まぁ、このままファイトが終わるのを待ってるのも退屈だし、当然か」

 

ノブヒロはまだファイトをしている机の脇を慎重に進みながらファイトに夢中になってる二人に近寄った。

 

「おいーっす。勝敗ついたから報告しにきたんだけど……俺の話聞こえてる?」

 

周りのことも考えて音量控えめにそういうが、二人はまるで聞こえていないかのように目の前のファイトに釘付けだった。

 

そんな二人の反応にノブヒロは苦笑いを浮かべると、二人が夢中にさせるファイトを誰がしているのかを確認した。

 

「……なるほど、そりゃ夢中にもなるわな……」

 

自分の声にも気づかないほど没頭している理由。それがノブヒロの視線の先に広がっていた。

 

宮下ショウVS新田ツカサ

 

ハジメが言っていたように、彼らのファイトスタイルを知るものであれば誰もが見たいと思うであろう一戦。それはノブヒロも例外ではなかった。

 

「しかし……。まったくなんなんだ、この盤面は……」

 

歴戦のファイターであるノブヒロですらそれまで形跡を辿ることのできない摩訶不思議な二人のフィールド。

 

お互いのダメージは3。ファイトを終えたノブヒロが来た今でもまだまだファイトは均衡を保っていた。

ただしまともなのはダメージに関してのみ。場・手札・ドロップゾーン・デッキ、あらゆる領域が怪奇にまみれていた。

 

「ハラハラするわね……。一体どういう結末になるのかしら……。あれ、ノブ君じゃない、どうしたの?」

 

ようやくノブヒロの存在に気づいた店長は自分の立場も忘れてそう問いかける。

 

「どうしたのってそりゃ対戦が終わったからその報告にきたんですよ。はい、これ結果」

 

腰に手を当てながら呆れた様子でノブヒロはカードを渡す。それと同時に声に気づいた吉田君もこちらに視線を向ける。

 

「あぁ、ノブさんもう終わってたんですか。すいません……ファイトに夢中になってまして……」

「大丈夫大丈夫。他の人はまだファイトやってるし、そもそもノブ君が終わるのが早すぎるだけなんだから」

「ん、それ俺の台詞じゃないか……?」

 

申し訳なさそうに俯きながら謝罪を述べると、お気楽そうな笑みを浮かべた店長がそう慰めた。

 

まぁいいか――と一先ず事を済ましたノブヒロは、早速今までの経緯を吉田君と店長に尋ねた。

 

「ところでこのファイト、一体何がどうなってこうなってるんだ?流石の俺でも全然わからないんだけど……」

「わからないって、例えばどの辺が?」

 

悪戯っぽく笑いながらわざとらしく聞いてくる店長にムッとした後、ノブヒロは答えた。

 

「そりゃどうしてツクヨミとぬばたまが共存してるのかと、そんなデッキを使っていながら何故手札がほぼ同じなのかと……」

 

疑問を述べるノブヒロは次にある一点へ視線を向ける。それが、彼にとって最も気がかりになっていた点だ。

 

「どうしてショウさんに比べて銀髪の子のデッキはあんなに少ないんだ?」

 

至極単純なノブヒロのこの疑問。

 

ヴァンガードはSC・回復・ドロー・サーチといった要因が発生しない限り、お互いのデッキ枚数に差はでない。

 

故によほどのことがない限りデッキの枚数に大きな差が産まれることはないが、目の前に広がる盤上はその常識容易く覆す。

 

「あー、確かにそれは疑問に思うわよね。ショウ君のドロップゾーンはまだデッキの3分の1くらいしかないのに、ツカサ君のデッキ枚数はドロップゾーン以下になってるんだもの。疑問に思わないほうがおかしいわよね、うん」

「……なんか俺で遊んでません?」

 

ノブヒロの質問に口元を緩めながら焦らすように言葉を並べる店長。傍からみてもふざけているとしか思えないその態度にそう指摘した。

 

「だってノブ君、たまにしか来ないんだもん。いじれるときにいじっとかないとね!」

「ちょ!まじで面倒なんですけどそれ!」

「店長もそこまでにしましょうか。おそらくノブさんも察しはついてると思いますが、彼のデッキがこれ程削れているのはグランブルーのクラン特性のせいです」

 

調子に乗る店長を宥めると吉田君はそう答える。

 

グランブルーはSBとドロー、そして特有のデッキ破壊能力を保有するクラン。

ノブヒロ程のファイターがそれを見落とすわけがなく、彼が疑問に思う理由は他にある。

 

「勿論そんなのはわかってる。けどこのデッキの減り様はイービルやルインのスキルを多様しているとしか思えないんだよ……。グランブルーはドロップゾーンが多くなれば有利になるクランだが、無理にそのスキルを使えばデッキ切れで自滅しちまう。あのクリアが認めるこいつがそんな浅はかな真似をするとは思えない」

「そうですね、ノブさんの言うとおりです。では何故彼のドロップゾーンがあんなに溜まっているのか。それはお互いが自身の能力を最大限に発揮してファイトを行っているからです」

「お互いの……能力?」

「えぇ。相手の意表をつくデッキ構築でゲームを支配するショウさんの奇抜な構成力。自身のデッキを記憶し確実な最善の一手を可能にする『アイデティック・イメージ』。このファイトはこの二つの力がより大きい方が勝負を制するといっても過言ではないでしょう」

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

「ノーガード、ブルーブラッドは退却するよ」

 

長い沈黙のちに下したツカサの判断はノーガード。これにより、ショウはあのスキルを起動することが可能になった。

 

「ボイドマスターのアタックがヒットした。そして手札は僕のほうが少ない。この瞬間、ボイドマスターのCBを発動!手札を1枚捨ててもらうよ」

 

ついに放たれた最初のハンデス。当然、それを知っていてノーガードを宣言したツカサは落ち着いた様子で手札からカードを一枚取る。

 

「いやに潔いわね……。退却されたブルーブラッドとハンデスで1度に2枚のカードを消費させられたっていうのに……」

「単純に手札に10000ガードがなかったのかもしれませんよ。最初にトリガーした見張り番はガードに使ってしまいましたし、前のドライブチェックでカットラスを引いてましたから、無理にガードする必要がなかったのでしょう」

 

場の状況を考察しながら意見を出し合う最中、ツカサは手に取ったカードドロップゾーンに置いた。

 

「僕はこの突風のジンを捨てるよ」

「えっ!?」

 

突風のジン……グランブルーにおける完全ガードに属するユニット。守りの要であるこのユニットを捨てるツカサの行為に、店長は目を丸くしながら声を漏らした。

 

奇策に対してさらに奇行で対抗していくツカサ。他に捨てるカードがなかったのではと考えるが、カードを捨てる彼の表情に一切の迷いはない。

 

気になるのはこの動きにショウがどう考えているのか。店長と吉田君は同時にそれを確認するため顔を振る。

 

「…………」

 

ノーコメント。

なにものも拒まない温和な表情は一転、あらゆるものを拒絶するポーカーフェイスに変わっていた。ショウはそのまま何事もなかったように次のアタックに入る。

 

「次、行こうか。ブルーアイのブースト、満月でVにアタック。この瞬間、ブルーアイのスキルを発動するよ」

 

ショウはそういうと徐にカードを1枚ドローした。

 

「カードを一枚引き、手札からカードを一枚デッキボトムに戻す。君のデッキに除去のカードが入っていない都合、僕は毎ターンこの動作を行うから次のターンからは何も言わずにやっていくけど構わないかい?」

「うん、問題ないよ。そのアタックもノーガードで」

 

足早に処理を進める両者。それに遅れまいと状況を整理するが、あまりに複雑な盤面にどうしても吉田君に助け舟の視線を送ってしまう店長であった。

 

「ブルーアイはソウルが六枚あることによって使用できるオラクルによくある条件のスキルです。同じブーストと手札交換を行うエルモ系列と違い、アタックがヒットしなくてもスキルの使用が可能、先に引くことができるので戻すカードの選択肢が広い、デッキに戻すのでオラクルによくあるデッキアウトを抑制することができます」

「それは大体理解してるわよ。特にツクヨミ軸のブルーアイの役割は、手札調整と同時に詰め込み領域の拡大。より円滑に、デッキアウトを恐れずにデッキを掘ることができることがあのカードの強み。……でも彼はそれを狙ってない……」

 

握りこぶしで口を隠す店長。彼女が考えていることはある程度察しはつく。

 

「そうですね、既に彼はロゼンジをブーストしてしまっている。このターンが終了された段階でロゼンジはデッキに戻りシャッフルされる。つまり、詰め込み領域は完全に崩壊するということ。でもそれは今に始まったことではありませんよ」

「えっ?どういうこと?」

 

口から手を離しながら店長はそう問いかける。吉田君はそれに対してニヤリと笑みを浮かべると、視線を店長に向けた。

 

「彼は端からツクヨミのデッキ把握能力使う気はさらさらなかったということですよ、ツクヨミのスキルを発動している段階で。上位互換である彼の能力を意識した為か否かは定かではありませんが、ショウさんのやろうとしているのはツカサ君の能力とは真逆の奇行ですよ」

 

許可が下り、固まっていた表情を少し緩ませたショウはデッキに手を添えた。

 

「ツインドライブ!!ファースト、忍竜 ドレッドマスター。セカンド、ロゼンジ・メイガス!ヒールトリガーで一枚回復し、パワーはチガスミに加える」13000

 

トリガーのカードを手札に加えるショウ。これでツカサとショウの手札の差は逆転。したがって、ぬばたまのハンデスを発動することはできない。

 

 

そしてノーガードを宣言したツカサはダメージチェックに移行。この場面においても、彼は思わせぶりな態度をとった。

 

「奇遇だね。ボクのダメージチェックもトリガーなんだ。ヒールトリガー。おばけのりっくのスキルで回復してからバスカークのパワーを+5000するよ」15000

 

ダメージを確認する前からカードの処理を済ませていくツカサ。その後に公開されたダメージは宣言通り"おばけのりっく"であった。

 

あからさまにこちらの行動を意識した言動。何度目かのこのやり取りにショウはやはり笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

「フフーン、君は意外と負けず嫌いな節があるようだ。別にこんなところで張り合う必要なんてないんじゃないかな?」

「張り合ってる?そんな気は端から皆無だよ。単純にボクはボクのファイトをしてるだけなんだから。ショウさんと同じようにね」

「なるほど。わざと張り合ってるわけではないというわけですな。ならば、何が起きても恨みっこなしってことでよろしいかな?」

 

2度目の問い掛けを投げ出しながらおもむろに最後のユニット達をレストさせアタックの意志見せるショウ。

 

「お互い様じゃないかな。やることは二人とも決まってるんだから、何も遠慮することなんてないよ。その方が、ボクはもっとファイトを楽しめると思うな~」

 

ツカサも問い掛けに答えながら手をデッキの上に移動させる。

まるでお互いの考えをお互いが理解しているかのように、二人はファイトを進めていた。

 

「それはいい考え方。僕達らしい最もな返答ですな。さて、ダメージでバスカークが捲れた所で僕は最後にロゼンジのスキルを処理して、このターンは終了するよ」

 

そう言うとショウはロゼンジをデッキに加え入念にシャッフルをし、それをツカサに渡す。

 

「よーく切っておいた方がいいよ。これが全ての運命を決めることになるだろうからさ」

「ご忠告ど~も。じゃっ、お言葉に甘えてカードが痛まない程度にシャッフルさせてもらいましょうかね」

 

言葉通り入念にデッキをシャッフルしたツカサはデッキをショウに返し、自分のデッキに手を添えた。

 

オラクル

手札4

ダメージ表0

ダメージ裏1

 

ターンがツカサに移り、ドローで手札を増やした彼が次の行動に移すまでにショウは小さくため息をついた。

 

(とりあえずお膳立ては終了。後は手筈通りに進めるだけ……なんだけども……)

 

ショウは今しがた言ったツカサの言葉が頭に浮かんだ。

 

("やることは二人とも決まってるんだから"か……。十中八九あちらもこちらの思惑には気づいてるだろうね。まぁ、ばれる前提でこっちはやってたんだけどさ)

 

そう考えていると、ショウの視線を場に展開されているボイドマスターを捕らえた。

 

(ぬばたまのスキルの最も強いところは、アドバンテージを取りつつ相手とのダメージ差を広げない点。条件を満たした状態で相手のG2を潰しにかかれば相手はガードする、しないに関わらず10000以上のアドバンテージを失うことになる)

 

ショウは前にこのデッキを使用した時のことを思い出しながら、そのまま考えを整理する。

 

(で、ダメージが溜まらないということは相手は思うようにスキルをしようすることができなくなり、必然的にトリガーゲーに持ち込むことができるってわけだ。やれることは単なる殴り合いしかできないからね)

 

(故に展開されるファイトは持久戦。持久戦において重要なのはラインの形成とトリガーの発生率。Vのパワーが11000あれば、こちらは相手のG1のパワーの低いラインを徹底してRを殴りにいけば流れを持っていくのは容易。相手の10000ガードが無くなれば、一度のアタックで継続的に相手の手札を2枚削ることができる)

 

(そしてトリガーの発生率。これに関してはツカサ君に分がある。今までの流れから見るに、彼は完璧にデッキに眠るトリガーの場所をその種類と共に記憶している。イービルがコールされた時点で、僕にあのスキルを防ぐ術はない。そこはもう物量でごり押しするしかないよね)

 

(ブルーアイとロゼンジ、この2枚のカードを使ってデッキ内のトリガーの割合を根本から増やす。ツクヨミのスキルと合わせて積み込みをしてもよかったけど、それじゃ彼とやることが被るからなぁ。しかもあっちは最初から使えるのに対してこっちは結構待ち時間あるし)

 

自分の戦法を整理するショウ。彼の戦い方は始まる前から決まっており、その芯が折れることは敗北を意味する。

 

その為ショウは逐一自分のファイトスタイルを頭の中で確認するのだが、今の彼には一つ疑念があった。

 

("二人共決まっている"ということは彼も揺ぎ無い戦法があるということ。ジンを捨てたことも合わせて今回はいつも以上に相手の動きに注意しないと……。あー、しんど)

 

ショウがそう苦悩していることなど露知らず、ツカサは何事もないようにカードを引くと、Vにカードを重ねた。

 

「ボクのスタンド&ドロー。ライド、The・ヴァンガード!バスカーク(10000)!そしてスキルでSC(ロマリオ)。まずは体制を整えようかな。右下にカットラス(5000)をコール。SB(ナイトミスト,ロマリオ)でドロー。そして今ドロップゾーンに落としたナイトミストのCB。サムライを退却して右上にナイトミストをスペリオルコール。案内するゾンビを後列に移動、その前にルイン・シェイド(9000)をコールしてバトルに入るよ」

 

ルイン/バスカーク/ナイトミスト

案内/イービル/カットラス

 

グランブルーのスキルを操り一気にユニットを並べるツカサ。ショウが危惧していた通り、少しの迷いもないプレイングであった。

 

「カットラスのブースト、ナイトミストでチガスミにアタック」13000

 

セオリー通りというわけかい――唯一10000ガードを要求できるG2のチガスミにアタックされたショウはそう思いながらチガスミをドロップゾーンにおいた。

 

「イービルのブースト、VでVにアタック!イービルのスキルでデッキから2枚を削りパワーアップ!(イービル,サムライ)」22000

「いいパワーだ。それもノーガード」

「ツインドライブ!!ファーストチェックは荒海のバンシー、クリティカルトリガーだ。クリはVでパワーはルイン。セガンドチェックはネグロマール」

 

当然のようにトリガーを発動させるツカサ。イービルのスキルでトリガーが出なかった点から見て、あきらかにこのクリティカルを狙っていたのだろう。

 

しかしダメージはまだ一点。むしろコストを稼いでくれるこのクリティカルトリガーにショウはあまり苦を感じなかった。

 

「ダメージチェック。一枚目、満月。二枚目、オラクルガーディアン ニケ。クリティカルトリガーの効果は全てVに加えるよ」16000

「案内するゾンビのブースト、ルインでボイドにアタック!」19000

「ノーガード。ボイドは退却」

「これでボクのターンは終了だよ」

 

ターンの終了を宣言し、ショウは自分のデッキに手を添えながらツカサを見つめる。

 

ここまで特におかしな行動はとっていない。

……いや、アイデティック・イメージを活用したトリガー操作は十分おかしな行動ではあるが、それはショウも把握済み。

 

問題は自分の策略に対して彼がどのような策を講ずるのか。

深く考えないまでも気に留めておくに越したことはないだろう。

 

グランブルー

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏1

 

「スタンド&ドロー。いい感じに手札が増えてるようだね。さっそく刈り取らせてもらおう」

 

じゅるりと舌なめずりをするとショウは空いてるRをどんどん埋めてゆく。

 

「左上にドレットマスター、右列にオラクルガーディアン ワイズマン(10000)とロゼンジをコール」

 

ドレッド/満月/ワイズマン

ドレッド/ブルーアイ/ロゼンジ

 

「へぇ、ドレッドマスターのラインを作るなんてね。ショウさんはよほどボクの手札を食べたいようだね」

「フフン、僕は目的のためならG1でも構わずコールしちゃう男なんだぜ?けど食べさせるかどうかは君次第。僕は紳士だからさ。無理強いなんてしないさ。ブルーアイのブースト、VでVにアタック!」16000

「…………」

 

セオリーを外れたVからのアタック。これでは相手にガードをする猶予を与え、さらにはツインドライブで手札が増えてしまい、ぬばたまのスキルの使用が厳しくなってしまう。

 

が、そんなことはお構いなしに自信満々にショウはユニットをレストさせた。

 

「懐かしい……というにはまだそんなに月日は経ってなかったかな。だから覚えてるよね?クリア君が君に対して使った戦法の一つなんだから。さぁ、今回君はどんな選択をするのか……楽しみだなぁ」

 

挑発的な態度でこちらを伺うショウ。

 

(覚えているかどうか?そんなの、たとえアイデテック・イメージを持ってなくても忘れるわけないじゃないか。覚えているとも……わざとVからアタックすることでこちらに1枚分ガードを強要させ、たとえガードをしなかったとしても強力なスキルを持ったRでこちらに不利な二択を迫る戦法。クリア君のオーバーロードを彷彿させる局面だよ……でも……)

 

俯いていた顔をゆっくり上げる。

 

「……ほほう」

 

露になった顔を見てショウは感嘆を上げる。

 

その表情はあの時のような緊張などしておらず、活路を見いだした勝ち誇るような笑みを浮かべていた。

 

「荒海のバンシーでガード!たしかにそのプレイングはボクの意表をつくいいプレイングだ。でもショウさんとクリア君じゃあそのシチュエーションが違う。絶対的な圧力の違いがね」

 

たった10000の最低ガード。このドライブチェックで一枚でもトリガー乗ればガードは貫通し、ツカサはダメージを受けることとなる。

 

しかし、このガードにより二人の手札の差は二枚。ツインドライブ!!で手札が増えてしまうショウは、もうぬばたまのスキルを狙うことが出来ない。

 

(なるほどね……。確かに相手のRさえ残っていれば圧力をかけられるオバロと違い、ぬばたまは手札の条件さえ満たさせなければ怖くない。でもそれは些か軽率じゃないかい?僕のデッキのトリガーの割合はかなりの数を占めている。そのガードが自分の首を絞めてしまうということを……)

 

デッキに乗せた手でゆっくりとカードを捲る。願いを越えたショウの信頼に、デッキも果敢にそれに応えた。

 

(後悔するといいよ!)

「ファースト、オラクルガーディアン ニケ!クリティカルトリガーGET!効果は全てVに。セカンド、半月」

 

追撃のクリティカルトリガー。ブルーアイのスキルでトリガーを戻していたショウの思惑通り、ツカサのガードは貫通した。

 

ツカサ自身もこのリスクを把握した上でガードした為、そこまで驚くことはない……いや、むしろ彼はこの結果に満足しているようだった。

 

「どうしたんだい?君のダメージチェックだよ?」

 

デッキに手を乗せたまま動かないツカサに気づいたショウは、そう問いかける。

 

「大したことじゃないよ。ただちょっと、色々考えてたんだ」

 

口元を緩ませながらそう呟く。すると、ツカサは次にショウの顔を真っ直ぐ見つめた。

 

「ショウさんみたいな相手にはこういう時、どういう顔をしていたらいいのかってね」

「ぬぬ?」

 

自分の言葉に首を傾げるショウを横目に、ツカサはデッキを捲っていく。

 

「ダメージチェック、一枚目はスケルトンの見張り番。スタンドトリガーで効果は全てルインに。二枚目はおばけのりっく。ヒールトリガーで回復してから効果はVに加えるよ」14000・15000

 

ショウのトリガーがくすんでしまう程のダブルトリガー。目を丸くするショウとは対照的に、ツカサはいつものようにニヤリと笑っていた。

 

(してやったりといった表情を浮かべちゃってさ。まぁ、実際にこの状況は僕の不利に変わりないけどさ)

 

ツカサの顔から盤面に視線を移すショウ。

 

こちらの残りアタックはドレッド達による14000とロゼンジ・ワイズマンの16000の2つ。

 

対してツカサの前列にはトリガーにより上がった14000のルインと15000のバスカーク。使い捨てのインターセプトであるナイトミストである。

 

どこからどこにアタックしようとまず行われる処理はナイトミストをガーディアンサークルに移動し、ドロップゾーンに置くことだろう。

 

(どこにアタックしても5000ガードで処理される……か。あの時ルインでボイドをアタックしたのはハンデススキルを警戒してのものではなく、デッキにトリガーが残っていたからだね。5000でガードされる満月ではなく、ボイドにアタックすることで自然にデッキトップにトリガーを残したわけだ)

 

現状ではなく過程を考察するショウ。未知に足を踏み入れることは自滅を意味する。そのことを彼はよく知っていた。

 

だからこそ記憶する必要がある。現在までに起こった事象を。

把握する必要がある。残された手を。

 

「もおっと脳みそを弾かせなきゃならんなぁ。気持ちだけじゃあ物事は何も変わらない」

 

風船から空気が抜け出るような脱力感溢れる抑揚でショウは呟く。

 

「僕の好きな人の言葉にこういう言葉がある。

 

『勝利というのは 戦う前に全てすでに決定されている』

 

哲学的だけど、至極シンプルな1つの思想だ。そして僕はこの言葉を理念としてファイトをしてきた」

 

スタンドしているドレッドに手を添える。震えているわけでもなく、かといって冷静を装っているわけでもない。

 

「それは今も、そしてこれからも変わらない。だからこそここで僕は僕の戦い方の証明をする。今度は僕が言わせてもらうよ」

 

彼から放たれているのは気迫。普段は感じられないたった1つの『負けない』という信念である。

 

「勝利の栄冠に輝くのは僕だということをね」


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