出来る限りわかりやすく描写していきたいと思いますので、よければお付き合いください。
「ボクのターン、ドロー。しかし驚いたな~。最初は様子見といきたかったのに、最初から仕掛けてくるんだもん」
言葉とは裏腹に楽しそうな笑みを浮かべるツカサ。彼がいかにショウとのファイトを楽しみにしていたのかを伺える。
「君に対しては遠慮はいらないと思ったからさ。いや、むしろ始めから全開でいかないと君を出し抜くことは出来ないからさ」
「そうなんだ。なら、ボクも全力でいかないといけないね。ライド、The・ヴァンガード!サムライ・スピリット(7000)!案内するゾンビ(5000)は左上に移動。その後ろにサムライ・スピリットをコール!」
案内/サムライ/
サムライ//
ツカサはチラッとデッキを一瞥した後、ショウを真っ直ぐ見据えながらバトルに入った。
するとツカサのこの展開が腑に落ちなかったのか、ショウは「あれっ」と気抜けた声を溢す。
「それだけでいいのかい?せっかくダークキャットで二枚引かせてあげたんだから遠慮しなくてもいいのにさ」
その問いに、ツカサはニヤリと笑う。
「それについては感謝してるよ~。でも、これで問題ないんだ。サムライのブースト、案内するゾンビでRのダークキャットをアタック!」12000
「ふんふん、普通に来たね。それはノーガード。ダークキャットは退却するよ」
異様な存在感を放っていた前列のダークキャットを一枚退却させたツカサ。これについて、吉田君は口を押さえながらブツブツ呟く。
「セオリー通りにダークキャットを潰しにかかりますか……」
「何か気にかかることでもあるの?吉田君」
普通のプレイングに唸りを上げる吉田君を見て、店長はそう問いかける。吉田君は横目で店長を見た後、視線を盤面に戻した。
「えぇ、あからさまに狙ってくれと言わんばかりにコールされたダークキャット。普通に考えればそのままそれらをアタックして相手の手札を削るのが定石。しかし、相手はショウさんです。何かしら裏があるに違いありません」
「そうね……。でもツカサ君は普通に攻撃したということはそれをツカサ君は気づいてないのかしら……」
「いえ、彼もそれには気がついているでしょう。しかし、あえて相手の策に乗っかったというのが正しいでしょうね。もし知らないのであれば、ダークキャットで潤った手札のユニットを惜しむことなく展開し、全力で潰しにかかるでしょうから」
「たしかに……。序盤からなんてファイトをするのかしら……この子達は……」
吉田君の説明に呆気をとられる店長。この二人がいかに恐ろしいファイターなのかを再確認させられた瞬間であった。
「何か狙っている……。それはボクにも分かってるよ」
ツカサは目を瞑りながらVの上に手を翳す。
「でもそれが何か分からない以上、ボクは堅実にいくしかないんだよね」
「ほほう。ならこのシナリオが僕の企みの範疇であるとしたら、君はただなすがままに受け入れるとでもいうのですかな?」
ツカサの発言に感心したのかと思いきや、わざとらしく挑発するような一言を呟くショウ。
しかしそれをフッと笑いながら受け流し、ツカサはVに手を添える。
「そう簡単にはいかせないよ。ボクも、ボクなりの方法であなたを出し抜けるよう努めるだけだ!VでRのダークキャットにアタック!」7000
堅実とは程遠いVによるRへのアタック。これには堪らずショウも吹き出した。
「何が堅実にいく、さ。きっちりアイデテック・イメージの力を使ってるじゃないか」
顔を綻ばせながらショウはツカサのデッキを見る。
ショウの言うアイデテック・イメージとは、デッキの中にあるカードの配置を一枚一枚記憶する能力。
前はまだ病み上がりでその能力を控えていたが、最近になってようやく使用することを許可された。
この能力は既に身内のファイターには知られており、ショウはもちろん、ファイトを見ている店長や吉田君にも明らかにされていた。
「ツカサ君も始めから全開というわけね。得意のアイデティック・イメージを利用したアタックで相手を錯乱させようという……」
「それはどうでしょうか……」
店長の言葉を遮りながら吉田君は語り出す。
「たしかに今までのような普通のファイターであればこのアタックは理解に苦しむプレイング。しかしショウさんはそんな異常な運用への抵抗は高いはず。本人も似たようなファイトスタイルですからね。ツカサ君もそれを考えた上であのような運用を見せているのでしょう」
「……そうね、あのプレイングはいわばツカサ君の十八番。自分のファイトへの士気を上げるものとも考えられるわね。でも吉田君、このままじゃどんなに頑張っても相手に策が読まれて、いたちごっこになるんじゃないかしら?」
「いえ、彼らの間には決定的な差があります。それもかなり大きな」
吉田君は似たような笑みを浮かべる二人のファイターを交互に見た。
「ショウさんはツカサ君の能力を知っていますが、ツカサ君はショウさんのデッキ構築を知りません。ショウさんは彼の能力を加味した上で展開を考えられますが、ツカサ君は彼のデッキを常に警戒してファイトを進めなければならないということです」
「とりあえずノーガード。まずはその君の企みを見物させてもらうおう」
「ふぅん。まずお手並みを拝見しようというわけだ。では、ドライブチェック!GET!」
ドライブチェックのカードを捲る前からツカサはトリガーの発動を宣言した。しかしこれははったりではなく事実。このようなことに疑問を感じる者は誰もいない。
「ほほう、それはトリガーだったんだね」
予想外のトリガーの発動に少し身震いを発てたが、ツカサがアタックしたのはR。クリティカルやヒールは無駄トリガーとなる。
故にショウは涼しい顔でトリガーのカードを眺めていたが、カードが捲れた瞬間、ショウは顔を曇らせた。
「スタンドトリガー!スケルトンの見張り番の効果はRの案内するゾンビに加えるよ!」
この状況において唯一生きるトリガー、スタンドトリガー。
ツカサは体勢を立て直した案内するゾンビで最後のアタック対象であるVにアタックをしかけた。
「ぐぬ……、ノーガード。ダメージチェック、ダークキャット」
戸惑いを隠せないショウ。最初のダメージを置いた後、不気味にも見える笑みを浮かべるツカサを見つめる。
「ハハッ、必要最低限の圧力はかけられたようだね。ボクのターンは終了だよ」
グランブルー
手札7
「あのショウ君が動揺してる……。彼もアイデティック・イメージは知ってるはずなのに、今のスタンドトリガーが読めなかったのかしら……」
「おそらくそうでしょうね。俺もあのトリガーには驚かされましたよ」
「吉田君も!?どういうことよ……。二人ともあの瞬間にアイデティック・イメージの記憶でも消されたの?」
困惑した様子で呟く店長に吉田君は苦笑いを浮かべた。
「忘れてはいませんよ。俺もショウさんも、彼の能力は知っています。“デッキ内にある特定カード一枚と不特定のトリガーの場所を記憶する能力”」
「ならどうして……」
「分かりませんか?彼はトリガーの位置を記憶することは出来てもトリガーの種類を記憶することは出来ないはずです。しかし、今の彼の動きは次にスタンドトリガーが出ることを前提としたプレイング」
「あっ……」
吉田君の言いたいことを察した店長は声を漏らす。
それを確認した吉田君は視線を再びファイトをしている二人に向けた
「やはり二人とも、一筋縄ではいかないようですね」
「にゃろう……僕のスタンド&ドロー!」
引いたカードを確認したショウは、冷や汗を流しながら目の前の薄ら笑いするツカサを見る。
(ちょっと話と違うんじゃないですかねぇ……。たしかデッキのトリガーの種類が分かるのはパンドーラーのおかげであって、普段はトリガーの位置を覚えるのが限界じゃなかったのですかい……。参っちゃったな。こっちのペースでいけると思ってたけど、気を引き締めたほうが良さそうだ)
自分のファイトに集中し、早速行動を起こすショウ。
「ライドフェイズの始めにVの三日月の女神 ツクヨミ(7000)のスキルを発動!デッキの上から五枚を確認し……」
五枚の中にあったカードを見てニヤリと笑みを浮かべる。
「その中の半月の女神 ツクヨミ(9000)にスペリオルライド!残りはデッキボトムに。更に、ソウルに一拍子と三日月がいるからSC2!(オラクルガーディアン レッドアイ、オラクルガーディアン ニケ)」
連携ライドを成功させ、手札一枚分のアドバンテージを獲得する。しかし、それでも戦況はショウが不利であった。
「ショウさんは前のターンにダークキャットを退却されています。単純に二枚のディスアドバンテージを招き、ダークキャットによるスキルでツカサ君は豊満な手札を得た。しかし、これはショウさんがわざと作った状況。これから彼が一体どんなマジックを起こすのか……」
真剣な眼差しでファイトを見守る吉田君。
その時、長すぎる前髪で隠れてしまったショウの瞳が光る。
「君が……いや、これを見ていた誰もが理解出来なかった僕の奇行について、君は当然警戒したはずだよね。でも君はそのままRをアタックして僕の手札を削る手法を取った。堅実ないい手だ」
先ほどの動揺が嘘のように堂々とした態度で語るショウ。
「それはど~も。でもショウさんにとってはそれが狙いなんでしょ?わざとボクの顔を立ててなんかして何をするつもりですかね?」
「またまたそんなこと言っちゃってー。まぁ、こちらとしてはむしろ警戒して一枚くらい残っててくれたほうが良かったんだ。けど君の言う通り、ここまでは僕の計算通り。あのスタンドトリガーには驚いたけど、ダメージを与えてくれて良かった」
ショウは手札から二枚のカードを取り出す。なんの変哲もない普通のカードであるが、彼の持つそれは異様な威圧感を放っていた。
「さぁ、お待ちかねのショータイムだ。君がどんな対応をしてくれるか、楽しみだよ」
そう呟きながら二枚のユニット並べてコールするショウ。
そんな中、ツカサは期待と興奮の入り交じった表情を浮かべていた。
「左列に忍獣 チガスミ(8000)と忍竜ドレッドマスター(7000)をコール!」
オラクルの明るく煌びやかなカードとは対称的な暗い印象を与えるカードがコールされる。
その見た目からわかるように、このカードはデッキの中核を担うオラクルシンクタンクとは別に所属するクラン。
“ぬばたま”
「へ~、ぬばたまのカードなんて久しぶりに見たよ。一向に強化されなくて、後継クランのむらくもが出てから色んな意味でネタにされてるカード。でも不遇とは思わないし、ボクも好きだけど、まさかオラクルと組み合わせるとは……」
感心した様子でコールされたユニット達から視線をショウに向ける。
ぬばたまは第一弾に登場したクランでスキルも非常に強力であったが、これらのカードを扱うファイターは数少ない。
その要因として挙げられるのが、カードの種類。第一弾で四種類のユニットが出てから現在に至るまで、ぬばたまは一枚としてカードが追加されることはなかった。
デッキを作るには最低でもトリガーが四種類、通常のユニットが九種類を必要とするため、これらのユニットを使うには他のクランに混ぜることが強いられてしまうのだ。
嫌がおうとも何かしらのクランに入れなければならないぬばたまというクラン。それに対してツカサが何故このように呟いたのか。それには理由がある。
「ぬばたまのクラン特性はハンデス。つまり相手の手札をスキルで消費させることに特化したクランです。相手のアタックを手札のカードでガードするこのヴァンガードにおいて、手札を削るというスキルは非常に強力なスキルと言えるでしょう」
「そうね……。手札が無いとアタックを防げないからダメージが蓄積してしまうものね……。でもオラクルとぬばたまって相性良かったかしら?」
「はっきり言って、オラクルとぬばたまの相性は最悪と言っていいでしょうね。自分の手札を増やすオラクルと相手の手札を減らすぬばたま。端から聞けば非常に強く感じますが、ぬばたまのスキルの使用にはとある条件がありますからね」
「相手の手札より自分の手札のほうが少なくないと使えないのよね……たしか」
「はい。その制限のおかげでぬばたまは低コストによるハンデスを可能にしているわけですからね。オラクルの手札増強の関係性を考えれば、ぬばたまのスキルはほぼ無駄スキル。限られた条件下でしかその能力を活用出来ません」
「それなら序盤からバンバン展開すればいいんじゃない?そうすればこちらの手札を減らせるし、アタックで相手にプレッシャーを与えられて一石二鳥なんだし」
「たしかにそうすればぬばたまのスキルを使いやすくはなります。しかし、いつも都合よく展開するカードがくるとは限りませんし、何より自分の手札が少なくなるということは単純なアドバンテージで不利がついてしまいます」
吉田君はファイトを意識しつつも、店長に顔を見ながら話を続けた。
「たとえば上手く手札が揃い展開出来たとしましょう。次の相手のターン、相手はこちらの手札が少ないことを見越して徹底的にRを狙ってきますよね。でもこちらは先ほど全力で展開してしまった為ガードする手札はほとんど残されていない」
「そうこうするうちにぬばたまのユニットは退却され、残ったのは少ないダメージと少ない手札、隙間の空いてしまった盤面のみ。たとえ上手くトリガーが出たり目的のカードを引き当てたとしてもそこから流れを引き戻すことは難しいでしょう」
「なるほどね……。序盤から展開して泣きを見るのはコウヘイ君のファイトで明らかになってることだものね。それなら一番一般的な運用法はなんなの?」
「そうですね……。ハンデスを持つドレッドマスターもしくはボイドマスターを片列に配置し、最初にRにアタックすることが一般的でしょうか」
「ターンが自分に移った時の状況として、相手はドライブチェックで手札を増やし、こちらはガードで手札を消費しています。ターンドローもありますが、その場合よほど展開を抑えない限りこちらの手札は負けているので最初のアタックはスキルの条件を満たせます。」
「しかしこれはVからのアタックを制限させられるとも言えますね。たとえ相手がガードしなかったとしてもドライブチェックで手札は増えてしまいますから、ハンデスはほとんどの場合無効となりますね」
吉田君の説明を聞くうち、その複雑さからどんどん難しい表情を濃くしていく店長。
「……随分と難しいわね。それだけ強力なスキルというのはわかるけど……」
「かなり上級者向けのクランですからね。普通の運用では、混色を強いられるぬばたまは本来の単クランの劣化にしかなりません。ですが……」
思わずにやけてしまう口を隠しながらショウを見る吉田君。既に彼はショウのショーに魅了されていた。
「超上級者にして普通の運用のふの字も知らない彼の実力なら、ぬばたまは本来の力を発揮するのかもしれませんね」
異彩を放つ二枚のカード。ツカサはその二枚を見ながら小さくため息をついた。
「でも意外だったかな~。ショウさんのことだから、もっとこうどうやったら扱えるかがわからないようなユニットを使ってくると思ってたんだけどね」
「クレステッドのことかい?あれは初見でようやく実用レベルになるデッキだからさ。既に中身を知られているツカサ君には使えないよ。それに――」
ショウは手札のカードを一枚取り、そのカードの角をツカサに向けた。
「君にその戦法が通じないということはさっきの僕のファイトを見ている君の様子から気付いてるんだ。僕だって負けるより勝ってショーの見納めをしたいからね。合理的な方法で君を追い詰めさせてもらうよ」
手に取ったカードをそのままVの後ろにコールする。それは普通のオラクルのユニットであるが、ツカサは取り分けそのユニットに注目した。
「オラクルガーディアン ブルーアイ(5000)をコール!これで舞台は整った。さぁ、いこうか!」
チガスミ/半月/
ドレッド/ブルーアイ/
「ブルーアイのブースト、半月でヴァンガードにアタック!」14000
ショウのセオリーに反したVからのアタック。当然、これに疑問を抱いた店長は早速この意図を吉田君に聞いた。
「Rからのアタックというのは相手と自分の手札の差が僅かで、あらかじめ相手にガードを切らせない、ドライブチェックで自分の手札を増やさない為に行う技法です。今回のように手札の差が大きい場合、一枚ドライブチェックで手札が増えたとしても十分ハンデスを狙うことが出来ます」
「それはそうかもしれないけど、それは相手がガードをしなかった時の話でしょ?もしツカサ君がここでガードしたら結局ハンデス出来なくなっちゃうんじゃない?」
「それが狙いですよ。こんな序盤からわざわざガードすることは自殺行為ですからね。単純に最低10000一枚でガードしたとしてツカサ君の手札は6枚。ハンデスの効力は残りますし、グランブルーのトリガーにドローはなくVはG1なので5000のユニットをコール出来るのはG1のみ。5000二枚で最低ガードをすることは現実的ではなく、15000でガードした場合は無駄に5000のガードを強いることになる」
「ショウさんから見れば、わざわざCBを使って手札を削るより、勝手に相手が5000多くガードしてくれたほうがCBを節約出来ますし、自分の術中に入れやすくなる。ぬばたまの特性を生かしたとても上手い手ですよ」
無意識に自分の手札を確認すると、ツカサはアタックを仕掛けたショウの意図を読み取る。
(なるほどね、最初のダークキャットはぬばたまのスキルを万全の状態で発動させる為の布石だったわけだ。ハンデスは自分と相手の手札の差を参照するスキル。お互いの総数を底上げして柔軟に立ち回れる手札枚数を維持しつつハンデスを狙える状況を作り上げたというわけだ。流石ショウさん、やることが斜め上をいってるよ。なら、ここでボクの取れる行動はただ一つ)
ツカサは手札を机に置くことで、今から言う自分の言葉を強調した。
「ノーガードだよ。ここまでは詰め将棋と同じ、僕には苦汁の選択肢しか残されてないからね」
「それは潔いことで。本当、君とのファイトはやりにくいったらありゃしないよ」
不満をぼやきながらドライブチェックを行うショウ。
本来ドライブチェックはトリガーによるアドバンテージを発生させるかの有無を決定するものであり、ファイトの中で最もはらはらする場面であるが、今ファイトをしている二人はまるで特に気にしていないような軽い調子でそれを処理していく。
「ドライブチェックはっと。おっ、サイキックバード!クリティカルトリガーじゃまいか!でもなぁ……」
「序盤のクリティカルはそこまで美味しくないから処理に困りますよね~」
「そうそう。特に僕のデッキはこういう有利対面に対応してないからなぁ……。ここはトリガーの効果全てをチガスミに加えようかな」
「ダメージチェックで要求値が下がるのを懸念しての割り振りだね。でも残念ながら……」
そう呟きながらデッキに手をかけるツカサ。その顔はいたずらが成功した子どものような無邪気な笑顔を浮かべていた。
「一枚目からもうトリガーなんだよね~。Vへの要求値は10000のままでよろしく!」
捲ったナイトスピリットをダメージに置き、ツカサを敬礼のポーズを取りながらショウにそう言った。
「ぐぬぬ……。また面倒なことをしなさる……」
渋い表情で唸るショウを見てツカサは楽しそうに笑いながら呟いた。
「ハハッ、案内するゾンビでも狙ったらどうかな~?」
「どうせノーガードでしょうが!オラクルにはヒール以外にCBを回復する方法が無いんだからそうホイホイ使えないんだよい……」
「うん、知ってる」
「何故突然真顔になったし……。仕方がない、ドレットのブースト、チガスミでヴァンガードにアタック!」20000
「それは当然通さないよ。スケルトンの見張り番でガード!」22000
「だろうね……。僕のターンはこれで終了さ」
オラクル
手札5
ダメージ表1
ダメージ裏0
「ボクのスタンド&ドロー。ナイトミスト(8000)にライド、The・ヴァンガード!ユニットの使い回しを得意とするグランブルーにとってぬばたまのスキルは面倒この上ない存在だからね。どんどん手札を使わせてもらうよ!」
G2にライドしたツカサはつづけざまにユニットをコールしていく。
「V裏にイービル・シェイド(6000)、右上に大幹部 ブルーブラッド(10000)をコールしてバトルに入るよ!」
案内/ナイトミスト/ブルーブラット
サムライ/イービル/
二枚のユニットがコールされたツカサの盤面。ショウはコールされたユニット、ツカサの手札、そして自分の手札を順に目を追った。
(ツカサ君の手札はこれで四枚。グランブルーにドロートリガーはないから僕のターンに回ってくるころには五枚になると。そして僕の手札も同じ五枚。このアタックで二枚ガードに使えば最低でも最初のアタックでハンデスを狙うことは出来そうだ。ただ……)
ショウは自分の手札から今度はアタックに取りかかるツカサに視線を向ける。
「ブルーブラッドでチガスミにアタック!」10000
アタック対象の宣言を聞き、思惑通りの筋書きにニヤリと笑う。
(当然、あちらさんもハンデスされないようにチガスミを狙ってくるわけだ。ここまでは予定通り。後はここからどれだけあれを引き込めるかどうかだけど、まずは……)
ショウは手札からカードを一枚取り、ガーディアンサークルにコールする。
「三日月でガード!」13000
ガード成功。
何気ない普通のプレイであるが、二人にとって、その何気ない行動一つ一つが相手を出し抜く布石に繋がる。
「ふ~ん、そうくるんだ」
「フフン、そんなこっちの私情を探るような目をしなくてもいいじゃないか。もっと気楽にいこうじゃないか?」
「勿論、そのつもりだよ。イービルのブースト、ナイトミストでチガスミにアタック!」14000
再びチガスミへのアタックを宣言するツカサ。これにはショウも苦笑いを浮かべた。
「その割には嫉妬に狙ってくるよね」
「それがいるとボクが気楽にいけないんだよね~」
「それはたしかに言えてる。仕方ないなぁ……ノーガードだよ」
張り合いに折れ、ノーガードをしたショウは場のチガスミを手に取る。
「これで次のぬばたまがくるまでは気楽にいけるかな?ドライブチェック!……ダンシング・カットラス。トリガーなしだよ」
「おっけ。チガスミは退却するよ」
「サムライのブースト、案内するゾンビでVにアタック!」12000
「それもノーガード。ダメージチェック、ドレッドマスター」
「これでボクのターンは終了」
グランブルー
手札5
ダメージ表1
ダメージ裏0
ターンはショウに移行。
最もショウに思考が近いツカサでさえ、長すぎる前髪で見えない彼の瞳と同じように、ショウの考えは閉ざされたままだった。
(さてさて、どうしたものかな~。今のショウさんとボクとの関係はいわば川とダムといったところかな……。ショウさんの戦い方はイレギュラーなゲームメイクで相手を翻弄し、油断させたところでベストな布陣を完成、優勢のまま相手を飲み込む嫌らしい戦法。一度彼に流れが傾けば、おそらくそれを塞き止めることはかなり難しいだろうね~)
「スタンド&ドローっと。ん?どうしたんだい?そんなにニヤニヤして」
「べ~つに~」
意味ありげなツカサの返答の仕方にショウは訳がわからず首を傾げた。
「変なの……って変なのは今に始まったことじゃなかったですな」
「ほっといてよ」
にこやかな笑みを浮かべながらツカサはそう言った。
「まぁいいさ。一先ず、ツクヨミのスキルを使うよ。今のところ全部成功してるけど今度はどうだろか……」
焦らすように一枚ずつ丁寧にカードを取り、手に取った五枚のカードを確認したショウは「あっ」と小さく声を漏らした。
「こりゃヤバいですな……。初めて全部成功しちゃったよ……」
複雑そうな顔をしながらショウは五枚の中にあった満月の女神ツクヨミ(11000)を取りライドした。
「全然やばくなくないかな?むしろボクのほうが追い詰められてるって意味でヤヴァイ」
「いやいや、こんなところでこんなに運使っちゃうと後々怖いじゃん?まぁ、運のいいうちに色々やっておこうかな」
そう言うと、先ほどドライブチェックで引いたサイキック・バード(4000)をコールするショウ。そしてそのカードをソウルに入れ、ツカサを見る。
「サイキック・バードのスキルで一枚引くよい。これでソウルは六枚。これから何が始まるか……わかるかい?」
「そうだね~。ツクヨミ、ダメージが二点、ソウルが六枚となれば……」
「理解出来たようだね。今の環境においてジエンド、マジェにも匹敵する力を持ち合わせたツクヨミデッキの真の恐ろしさを教えてあげ……」
喋りながらダメージに手を伸ばすショウ。誰もがツクヨミのスキルを発動すると考える中、突然ショウは手をパッと挙げた。
「なーい。使ったらハンデス出来なくなっちゃうからね。君はもうこの呪縛からは逃れらないのさ!」
「なんか、調子が乗ってきたみたいだね」
ハイテンションなショウのノリにツカサはそう呟いた。
ふっ――とショウは小さくため息を吐く。高ぶっていたテンションはまるで水を被せられた灯火のように冷めきっていた。
「なーんてね。こういう相手とのファイトは初めてだからどうにも調子が狂っちゃってさ。テンションが空回りしてるだけなんだよね」
微笑みを作りながらショウは胸ポケットに手を突っ込む。
「――やめようか。どれだけ僕が探りを入れても、この関係は崩れないんだから。君とのファイトは遠回りする必要なんてない、ということだろうね」
ポケットから手を抜く。するとその手にはヘアピンが握られていた。
「…………」
ツカサは黙ったまま成り行きを見守る。その表情からは既に笑みは消えていた。
自分の前髪を横に避け、ヘアピンを止める。露になった瞳は閉じていたが、その顔はまるで初対面のような印象を与えた。
「ここから僕は真っ向勝負でいく、それは何故か、もう隠す必要がないから、既に舞台は完成したから、何故僕がこんなことを始めたかわかるかい?」
早口にショウはそう言う。二人の間を取り待っていた快適な空気は一転、重圧感に包まれる。
「このファイトを自分の眼にやけつける為、完全な状態でこのファイトの終結を見届ける為」
ゆっくりとその瞳を開いていく。普段のおちゃらかな雰囲気からは想像出来ない程とげとげしく鋭いその瞳は、真っ直ぐツカサを貫いた。
「ここからが本当の“ショウタイム”。この世紀の一戦に君は何を思う?」
挑発的な態度でショウはそう言う。遠慮なんて少しもない。徹底的にこちらを叩き潰そうという気概がひしひしと体に伝わる。
「そうだね……。こんなファイトは初めてだからちょっとはっきりとしたことは言えないけど……」
俯きながらゆっくり口を開く。慣れない戸惑いを覚えるツカサは淡々と言葉を発していく。すると、右手で自分の右目を覆った。その仕草は、かつて最強のファイターとの一戦を彷彿させる。
「ゾクゾクするよ……!ファイターズドームでのクリア君とのファイトとは違うこの高揚……。堪らないよ……」
割けているのではないかと錯覚するほど口を尖らせながら笑うツカサ。
押さえていた右手を下げ、ショウに対抗するようにツカサも対戦相手をじっと見据えた。
「ボクも絶対に忘れない。アイデテック・イメージを総動員してボクの記憶に刻み付ける」
普段のニヤニヤ顔とは違う冷ややかな笑み。その右目はどことなく赤く澱んでいるように見えた。
「ボクの勝利とともにね」