先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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意志の証明

コンローはFVの専用ユニット。故に複数枚投入することは珍しいが、デッキからG1以下をサーチ出来るこのカードを採用することは無いことはない。

 

ただ、他に優秀のCBを多く持つかげろうにおいてこのカードを使用することは他のユニットのメリットを殺してしまう可能性がある。

 

一体何をサーチするのか……デッキを眺めるショウの取り出すカードに皆が注目した。

 

「僕がサーチするカードは……ヒートネイル・サラマンダー!」

「チッ……またかよ……」

 

ショウの手札に加えるカードに、コウヘイは顔をしかめる。

それと同時に、見ていた周りの観客はこのショウの言動に矛盾を感じる。

 

「あれ、さっきと言ってることが違いませんか?ガード強要なんて気にせずって……」

 

シロウが疑問を呟く最中、ショウは次々とユニットを配置していく。

 

「左下と右下にヒートネイル、右上にネハーレン(10000)をコールし、バトルに入るよ」

 

クレステッド/ジ・エンド/ネハーレン

ヒートネイル//ヒートネイル

 

「つまり……こういうことなんだろうな」

 

このコールしたユニット達から、ハジメは一つの予想を立てた。

 

「『ジ・エンドのスキルは使わないからさっさとG1を退却させろ』ってことなんじゃないか?ヒートネイルは対象が無きゃ意味のないスキルだしな」

 

このハジメの仮説に、タイキは思わず顔を青ざめた。

 

「うぇ……それ超辛いな……。しかもユニット全部10000以上だから相当アタックしにくいし、並大抵の嫌がらせじゃねーぞ……」

 

コウヘイのリアガードにはパワー9000のユニットが二枚。後列を失えば最悪アタック出来るユニットがVのみという事態に繋がる。

 

「……ショウさん、怒ってるんだ……」

「えっ?」

 

不意にカイリは口を開く。終始笑みを絶やさないショウをカイリは心の奥底で怒りを孕んでいると考えていた。

 

「カイリがそう言うならそうなんだろうな。まぁ、あんなこと言われて平気でいられるわけはないよな。師匠にとって、あのクレステッドは邪魔でも、ましてやゴミカードでもない。デッキに必要なかけがえのないユニットの一つなんだろうからな」

 

ニヤニヤ笑みを浮かべるショウを見つめながらハジメは語る。

 

短い間しかなかったが、すぐに意気投合を果たしたハジメも、ショウの考えをなんとなくではあるが理解出来るようになっていた。

 

ショウがマイナーカードを使う理由を、その心意気を。

 

「早速いこうか。ジ・エンドでヴァンガードにアタック!」11000

「くっ……」

 

ブーストのないVからのアタック。10000の札を切れば一枚分ガードをすることが出来るが、その場合横のヒートネイルのブーストされたアタックを防ぐことは出来なくなる。

 

むしろブーストがあれば快くノーガードを宣言出来るこのアタックをコウヘイは少しの沈黙の後、ノーガードを宣言した。

 

「なるほどね、ダメージトリガーに賭けるわけだ。ツインドライブ!!に入ろう。ファースト、コンロー。セカンド、ドラゴンダンサー モニカ。ドロートリガー、一枚引いてパワーはクレステッドへ」

「ダメージチェック……ヒステリック・シャーリー!ドロートリガーだ!一枚引き、パワーはVに加える!」

 

希望のダメージトリガーに冷や汗をかきながらも勝機を見出だすコウヘイ。

 

ショウにとってはあまり美味しくない状況ではあるが、その程度で彼は動じたりはしなかった。

 

「なら、ヒートネイルのブースト、ネハーレンでリアガードのグウィンにアタック!」16000

「……ノーガード、グウィンは退却」

 

コウヘイは手札を一瞥し、小さく頷くとそう宣言する。

 

「ヒートネイルのブースト、クレステッドで退廃をアタック!」21000

「なっ!?そっちに来んのか……!くそっ、ノーガードだ……」

 

悪態をつきながら退廃をドロップゾーンに置くコウヘイ。

 

彼のヒートネイルのスキルを意識した「クレステッドはVに来る」と言う思い込みをピンポイントについていくショウ。

 

(何大袈裟に驚いてるのかしら……普通に考えればこれが定石なのに……)

 

ミヤコはファイトを見ながら心の中で呟く。

 

(彼の手札は今のドロートリガー以外分かってる。わざわざ10000でガードされることがわかっているVにアタックする必要なんてない残りカードはG1。全ての前列を潰してしまえば今引いたカードと次に引くカードにアタッカーを引かなければラインを完成させることは出来ない。――でもこれはあくまで冷静に盤面を見られる私だから出来る思考)

 

ミヤコは絶え間のない奇行に顔を歪めるコウヘイを、目を細目ながら見つめた。

 

(もし……私があそこに座っていたとして、今の考えを捻りだせるかが疑問ね……。先に彼のファイトを見ていて良かったわ)

 

ミヤコは誰にも気付かれない所で小さくほくそ笑む。

 

(これであらゆることに順応して手を打つことが出来る。どんな相手に当たったとしても――)

 

派手な友人の横でファイトを見ているクリアを見据えながら。

 

(――彼と当たるまで、私は負けるわけにはいかないんだから)

 

かげろう

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏3

 

ターンはコウヘイに移る。

 

手札は三枚、ダメージチェックのドローで引いたカードは熱望のアモン。G2のアタッカーである

 

しかし、ショウのアタックで前列を全て失った彼にとって、次のドローは戦況を立て直せるかの瀬戸際。

 

ここでアタッカーを引かなければより後の展開が厳しくなるだろう。コウヘイもそれを熟知しており、祈る気持ちでカードをドローする

 

「俺のスタンド&ドロー!……うっしゃあ!来たぜ来たぜ!左上に退廃、右側に熱望の悪魔 アモン(8000)と漆黒の詩人 アモン(6000)をコールだ!アモン達はソウルのダクイレが六枚以上あれば自ターン中パワー+3000!」

 

見事にアタッカーを引き寄せたコウヘイ。

 

退廃/ベルゼバブ/熱望

誘惑//漆黒

 

戦況は完全にショウに向いているが、運はコウヘイに味方していると言ったところか。

 

「さっきはよくもやってくれたな……。やられたらやり返すのが俺の信条なんだ。お前のネハーレンを刈らせてもらうぜ!」

 

二枚のアモンをレストさせ、挑発的な態度でコウヘイはそう言った。

 

漆黒は9000、熱望は11000。つまり20000でのアタックを止めるには15000以上のガードが必要となる。

 

理由は不純であるが、ドライブチェックでアタッカーが見えてないこのアタックはあながち間違っていないだろう。

 

「ノーガード、ネハーレンは退却するよ」

 

流石の要求値にノーガードを強いられるショウ。これを確認したコウヘイは波に乗ったかのように強気で次のアタックに移った。

 

「次行くぜ!ベルゼバブでヴァンガードにアタック!」11000

「ドラゴンモンク ゲンジョウでガード!」21000

「チッ、コンロー以外に10000ガードを握ってやがったか……。だがまだドライブチェックが残っている。ここでクリティカルを引き、その憎たらしい企みを崩してやんよ!ツインドライブ!!」

 

彼の意識は完全にヒートネイルに向けられていた。コンローで再びヒートネイルを持ってくることを。そして全てのヒット時効果持ちのアタックに四苦八苦する自分をイメージしながら。

 

「ファーストチェック、誘惑のサキュバス。セカンドチェック、悪魔の国のダーククイーン!スタンドトリガーだ!効果は全て熱望に加える!」16000

「熱望は自身のスキルでお前の自慢のジ・エンドと同じ11000のパワーを持つ!トリガーの乗ったこいつのアタックで10000ガードを要求するぜ!」

 

気迫のあるこのアタックにも、ショウは澄ました様子で対応した。

 

「そうだね。でもそのアタックは通すことにしよう。余裕はあるからさ。ダメージチェック、ガトリングクロー。一枚引き、パワーはVへ」16000

「ぐっ……またダメージトリガーか……」(またこの面倒なシチュエーションかよ……)

 

歯を食いしばりながらボソリと呟くコウヘイ。再びクレステッドをアタックするか否かを考えなければならない。

 

「だがこうなったらさっきと同じだ。あんなカードを破壊するより5000ガードを切らせたほうがうめぇ。誘惑のブースト、退廃でヴァンガードにアタック!」16000

「ほほう、ならお望み通り。ガトリングクローでガード!」21000

 

ダクイレ

手札3

ダメージ表1

ダメージ裏2

 

クレステッドと5000を天秤にかけてのコウヘイの決断。しかしこの考えは軽率であるとノブヒロは考えた。

 

(たしかにシチュエーションは同じだが、ユニット配置は変わっている。リアガードの左右のブーストは6000。ベルゼバブは11000。かげろうの強力ユニットってのは概ね9000。さっきのように手札に変わりのユニットがおり、後列が配置されていないのであればラインの形成は状況によって変更出来る。――だが、)

 

ノブヒロはチラリとショウの盤面を眺める。コストの概念を無くせば、全てのアタックが追撃浴びせることに特化したユニット達である。

 

(既に6000が配置されているここに再びラインを形成するとなれば9000では足りない。しかし、都合よく10000のアタッカーを二枚も引くことは難しい。そう言う意味でクレステッドは見事にその微弱なパワーを補完していると言えるな)

 

普段の軽い雰囲気とは違った真剣な眼差しファイトを眺める。ヴァンガードは特に考えて運用しなくてもどうにかなるカードゲーム。

 

その一端は、トリガーによる恩恵があまりに大きく、多少の不利を簡単にひっくり返してしまうため。

 

だが、トリガーの出が均衡している場合、プレイングの差は顕著に表れる。

 

ユニットの配置、アタック先、トリガーの選択、デッキ構築……それを統括するプレイング。

 

ショウのそれは、全ての面でコウヘイを上回る。いや、コウヘイだけではない。彼のそれは、おそらくこのショップ内でもかなりの上位に食い込むほどの潜在力を持っている。

 

自分よりも……もしかしたらクリア以上の……。

 

(汗が吹き出す……。なかなか味わうようなワクワク感だ……。面白れぇ……)

 

クリア、ツカサ、ショウ。思わぬ収穫に笑みが止まらないノブヒロ。

 

(全部まとめて戴いてやる……。この波乱の大会を終わってから後悔しないようにな……!)

 

 

「僕のスタンド&ドロー。覚悟していた筈だよ。僕の手札のコンローをガードに使わせることが出来なかった時点で、この先の展開がどうなるかを」

「グッ……」

 

コンローをコールしたショウはまるで忠告するかのような言動でそう言った。

 

知っている。これからこの男が一体何をするかを。このファイトを見ている全員がそれを理解していた。

 

「コンローのCB、自身を退却させ、僕はデッキに残る最後のヒートネイルを手札に加える。そしてV裏にコール。さらに、右上にストライケン。これで僕の舞台は完成した!」

 

クレステッド/ジ・エンド/ストライケン

ヒートネイル/ヒートネイル/ヒートネイル

 

真っ直ぐコウヘイを見つめながらショウは言った。

 

相手のG1を除去することに特化した布陣。ヒートネイルはスキルでデッキに戻るが、デッキにありさえすればコンローで持ってくることが出来る。

 

「これがこのデッキの真の在り方、『輪廻葬魁(ディルブライト・リフレイン)』。繰り返される破壊の輪廻に相手は最早戦う意思すら失う!ダメージにまだ余裕はあるよね。ここからじっくりねっとり……」

「わからねぇ……」

 

俯きながら言葉を遮る。楽しく説明していたショウは気分が削がれたのか、若干不機嫌そうにコウヘイ聞き返す。

 

「わからない……?何がだい?」

 

コウヘイは手札をその場に置くと、頭を掻きながら口を開く。

 

「悔しいが、お兄さんは間違いなく俺より強い。おそらくこのあと俺がどれだけいいトリガーを引いたとしても、お兄さんに勝つことは出来ない」

 

そう言うコウヘイの様子からは始めの舐めたような態度が感じられず、ショウもその変化に首を傾げた。

 

「どういう心変わりだい?さっきはあんなに生意気な口を出していたのにさ」

 

その問いに重いため息をつくと、手を上げながら呟いた。

 

「疲れちまったんだよ……。お兄さんの相手をするのが……。ここまで馬鹿にされるのは始めてなんだ。このまんまの調子で相手してたらストレスで禿げちまう」

 

もうファイトを続けるのはうんざりと言う雰囲気のコウヘイ。しかし、気がかりはまだ残っている。

 

「ヒートネイルの強さはよーく分かった。お兄さんの言う通り、こうなったら流石の俺でもやる気無くなる。けど分からんもんは分からん」

 

すると視線をクレステッドに向け、誰もが疑問に感じている事柄を聞いた。

 

「それだけの実力を持ち合わせていながら、なんでそんなカードを使うかが分からない。これはそのカードを蔑んでいるわけじゃねぇ。お兄さんのその行動は、相手を舐め腐った行為だと忠告してんだ」

 

至極まともな……いや、むしろ今まで誰も気づかなかった核心をつくコウヘイの発言に目を丸くするショウ。

 

「ほほう、なるほど。そう言うことは考えたことなかったかな。たしかに普通に考えれば、大会という公然の場でこんな訳の分からないカードを使ったら真面目にファイトをする相手からしてみたら僕がその相手に対して侮辱していると捉えられても仕方ないね」

 

それを真に受け止めるショウは少し落ち込んだ様子でそう呟く。しかし、それでも彼は自分がこのデッキを使うことに後悔はしていない。それだけの覚悟は既にしてあるのだから。

 

「でも君は勘違いしている。君はまるで使えないカードを無理矢理スポットライトに当て、あたかもこのカードが必要であるかのように僕が演出していると思っているけど、このカードはこのデッキには欠かせない……いや、最早切り札と言っても過言ではないほどの役割を持っている」

「なんの効果を持たないこのカードが……切り札?」

 

理解の範疇を超えた発言。しかし、誰もショウが嘘をついているとは考えなかった。あんなファイトをするファイターだ。おそらく本気でそう思っているのだろう。

 

「フフン、そうだね。じゃあ君にいくつかクイズを出していこう。僕がそれを直接言うより、自分で気づいてもらったほうが理解しやすいと思うしさ」

 

ショウはご機嫌に笑いながらそう言った。自分のデッキを明かすことを楽しんでいるかのように。

 

「まず前提条件として、僕のデッキはコンローを利用してヒートネイルのスキルを最大限に使うことを目的としたデッキだ。当然、そのキーとなるヒートネイルは四枚入ってる。さて、僕のデッキにコンローは何枚入っているでしょう?」

 

突如始まったクイズ大会に観客は知人と顔を向き合いながら口々に話し出した。

 

「そこまで言うなら答えは四枚のフル投入なんだろ?」

 

空気を読まずすぐに答えを口に出すクリア。呆気に取られる他の観客に、横にいたツカサは思わず苦笑いを浮かべた。

 

「流石のお早いご回答。コンローはFVを考えれば実質的な投入枚数は三枚だから、そこまで枠を割くわけじゃない。次の問題、僕のデッキのトリガー配分はどうなっているでしょう?」

 

続けざまに質問を出すショウ。

 

「ヒール4、ドロー7~8、残りクリティカルと言ったとこか?」

 

少し間が空いた後、ノブヒロが答えた。

 

「いい答えだね。ドロー7で他は彼の言う通りさ。次はちょっと難しいかな?僕のデッキには一体何枚のG1が入ってるでしょう?ヒントはバーが三枚入ってる」

 

ショウが質問を出してからしばらく経つ。が、答えるものは誰もいない。クリアやノブヒロもこの問題に口を閉じる。

 

発覚しているのはヒントのバーが三枚と必須のヒートネイルが四枚の合計七枚。

 

今まで見えているカードはキンナラとエルモの二種類。

 

エルモはおそらくジ・エンドの為のカード。コンローで持ってくることが出来るため一枚で十分。

キンナラはヤクシャのスキルの始動に使うのと同時に、ヒートネイルが来るまでの凌ぎ。自身の能力で場から離れることが出来る為、2.3枚が妥当か。

 

混色ではない為、当然守護者を入っているだろう。ドロートリガーが多く投入されてはいるが、コンローの存在を考えるとこれも2.3枚。

 

これで13枚と仮定する。これ以上の投入は、コンローを投入する関係上他のGの枠を割かなければならない。バランスを考慮するならばこれが限界か。

 

クリアやノブヒロの他、ある程度のファイターはここまで考えをまとめていた。だが、それを口に出して言おうとするものはいない。

 

その一端は6000ブースターが余りにも多すぎるという点。

 

オバロが入っていないこのデッキにバーニングホーンを入れてもスキルが発動できるかは不安定。

 

CBは他で使う為、バーサークは入っていないだろうが、ベリコウスティはおそらく入っている。

 

しかし、ベリコウスティとヒートネイルでは15000。11000に対応出来ない。

 

また、コンローは基本的にヒートネイルに使ってしまうため、ベリコウスティが来た時点でバーを持ってくることは難しい。

 

後少し、8000ないし7000のユニットのカードの投入が求められる。

 

しかし実際にそんな枠は存在しない。が、ここまで見てきたショウという人物はどうにかしてしているかもしれないという錯覚を覚えさせる。

 

故に、答えが出ないのだ。

 

一向に答えのでない現状に、ショウは満足したようにニヤリと笑みを浮かべる。

 

「じゃあ答えあわせをしよう。僕のデッキに入っているG1は、ヒートネイルが四枚、バーが三枚、バリィが三枚、キンナラが四枚、エルモが一枚の15枚。多分分かってる人はいたと僕は思うわけだけどさ」

「なっ!G1が15枚!?コンローも四枚入ってんだよな!?」

 

驚きを隠しきれないコウヘイの言葉にショウは惚けた表情で首を傾げた。

 

「そうだけどさ、そんな驚くようなことじゃないよ。だって枠が余っちゃったんだもん」

「枠が余った?何を言って……」

 

ショウは不敵に笑うと、自分の場とドロップのストライケンとネハーレンを手に取った。

 

「だって僕のデッキに入っているG2はネハーレンとストライケンの二種類しか入ってないんだからさ」

「G2が……たったの二種類……?」

 

まるで当然のような態度で言うショウに共感するものはその場においてツカサのみ。

 

誰もがその無謀さに頭がついていかなかった。

 

「なるほどな……」

 

そんな中、クリアが先頭を切って意見を述べる。

 

「ストライケン、ネハーレン。この二枚はパワー10000のアタッカー。ほぼノーリスクでヒートネイルのブーストで16000を到達することが出来るわけか。この際ライド事故云々は置いておこう。どうせお前はそんなこと考慮していないだろうからな」

「ほほう?よくお分かりで」

 

悪戯っぽく笑うショウ。そんなショウにクリアは目を細めた。

 

「今回のように運がよくライド出来たとしよう。それでどうする?お前に残されたG2は残り七枚。当然相手もヒートネイルのスキルを警戒してリアガードを潰してくる。そうしたらお前はアタッカーの枯渇を招くことになる」

「そうだぜ!大体お兄さん、まだ俺の質問に答えてねぇじゃないか!結局なんでクレステッドを使ってるのかをよ!?」

 

二人が続けてそう言うと、ショウは突然笑い出した。

 

「なんだ、もう方程式は出来てるじゃない。ユニットの枯渇、それを補うのがまさにクレステッドの役割なのさ」

「なに?」

 

ユニットの枯渇を防ぐのがクレステッド……?訳がわからない……と言わんばかりに不穏な表情を作る。

 

「よく考えてみてよ。今じゃ僕のデッキは普通のかげろうデッキじゃないことは皆もよく知ってると思うけど、初見でそんなことを見極める方法なんてないわけさ」

 

たしかにドライブチェックでジ・エンドが出た時、その場にいた多くのファイターが彼のデッキのおおよその構築を予想した。

 

環境トップに君臨するオバロデッキだと。

 

「かげろうには優秀なアタッカーが多く混在してる。パワーの高いバーニングホーン、除去のバーサーク、回復のベリコウスティ。オバロ自身もそのスキルと11000というパワーで十分なプレッシャーを相手に与えることが出来るよね。そこへ僕がふざけてクレステッドを出そう。何かしら相手が動揺したり、怒ったりしたとしても、流石にそれじゃあファイトにならないから、一度落ち着いてこのクレステッドについて考えるよね。さっきの君みたいにさ」

 

ショウはコウヘイを見ながらそう呟く。

 

「しかし答えは出ない。当然だ。だってなんのスキルも持ってないんだ。考えようがない。ならどうするか……。答えは簡単だ」

 

ショウの言葉に呼応するようにコウヘイもその時の自分の心情が思い浮かんだ。自分がとったクレステッドの対処法を。

 

「ほうっておく……というより、無視をすると言ったほうが正しいかな。さっきも言ったように、かげろうにはたくさんの優秀なユニットが揃っている。せっかく出てきた無能のG3をわざわざ潰してそれらのユニットが出てこられても困るよね」

 

賛同を求めるようにコウヘイを見ながらそう言うショウ。コウヘイは眉を潜めながら悔しそうに言葉を漏らす。

 

「全部お見通しってわけかよ……」

「違うさ。こうなるように“誘導(リード)”したのさ。デッキ構築の段階でね。君だけじゃない、事故がなければネットの世界のあらゆるファイターを誑かすことは可能だった。だから君は自信を持っていい。これから強くなればいいんだから」

 

総てを出しきった満足げな表情でショウはそう言った。

 

しかし、コウヘイは煮え切らない様子で溜め息を溢す。

 

「……どうしてお兄さんはそこまでそんなカードに拘ってんだ?たしかにお兄さんの言っていることは筋が通ってる。けどわざわざそのユニットを使う必要はないんじゃあないかって俺は思う」

 

この問いにショウは目を丸くする。予想だにしなかった言葉に驚き、なんと返答しようか困りながらも、ショウは穏やかな笑みを浮かべた。

 

「そうだね……僕は証明がしたいのかもしれない。この世に無駄なカードなんて存在しないということを。認めさせたいんだ、あらゆるユニットにはそのユニットにしかない役割があるということを。もし、それでもこの世に無駄なカードが存在すると主張するなら――」

 

覚束ない思いを確固たる言葉に変換する。初めて外に出す己の信念。

 

「――僕がそのカードに役割を与える。相手がアッと驚くような使い方で、そのカードの凄さを思い知らせてやる!それが僕がヴァンガードする理念であり、理想であり、真理なのさ!」

 

チラッとクレステッドを一瞥した後、コウヘイを真っ直ぐ見据えるショウ。

 

「あの時はたしかに君に多少の怒りを覚えはしたけど、今は全然気にしていないよ。だって君はもうクレステッドの凄さを体験してくれたんだからさ」

 

ありのままの自分を語り終えたショウ。コウヘイは何かを悟ったように「フッ」と顔を綻ばせる。

 

「適当にやってるような俺じゃ勝てないわけだ。完敗だぜ、実力的にも、精神的にもな。けど俺は分かったぜ、自分の弱さをな。だから次やるとき、こう上手くはいかないぜ?」

「フフン、それは楽しみだね。その時はまた別のデッキでお相手してあげるよ」

 

 

ショップ予選 0回戦目

勝者 宮下ショウ


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