先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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伝説のドラゴン

「なっ……!?」

「これは……面白い!」

「うそ……」

「おいおい、マジかよ……」

 

どのようなプレイにも少しの表情の変化を見せなかったクリア、ツカサ、ミヤコ、ノブヒロですら思わず声を漏らすショウの奇行。

 

無理もない。今コールされたクレステッド・ドラゴンを初めて見るシロウでさえ、登場した瞬間にその異常性を認識することが出来るのだから。

 

「そんな……このカード、G3なのにスキルを持っていない……」

 

誰が見ても一目瞭然。クレステッド・ドラゴンはスキルを持たない数少ないG3の一枚。

 

かといってパワーも高いかと言われれば、標準の10000。故にこのカードはあらゆるG3の下位互換とされ、他のG3の発売以降、完全に忘れ去られることになった。

 

本来であればこのカードを採用する理由など皆無。あのエグザイル・ドラゴンでさえ用途はあれ、このカードはなんの能力を持たないバニラ。一発芸を披露するのと同じような愚行なのだ。

 

コウヘイもこのカードの登場に驚きはしたものの、その性能故にひきつりながらも声を上げながら笑って見せた。

 

「ヒッ……ははは!大層なこと言って何を出すかと見てみればただのゴミカードじゃねぇか!驚かしやがって!だがいい茶番だったぜ、たしかにそんなクズカード出されりゃ誰だって驚くわ」

 

馬鹿にしたように言いたいほうだい言うコウヘイ。

 

その言い方に怒りを露にするタイキとハジメであったが、ショウは以前として静かに笑みを浮かべているのみだった。

 

それを見たカイリは心の中で自分に言い聞かせる。

 

あのショウがただの出落ちだけを狙ってあのカードを採用する訳がない。

 

あのカードが持つ特有の……クレステッド・ドラゴンにしかできない役割があったからこそ、ショウはあのカードを使っているに違いない。

 

何故なら彼は、あのエグザイル・ドラゴンを使いこなす程のファイターなのだから。

 

「さて、みんなこのカードの放つ威圧を堪能してもらったところで、続きをやらせてもらおうかな。まだファイトは始まったばかりなんだからさ、楽しんでやろう!」

 

コウヘイの一言にも動じず、にこやかにそう言うと再び手札のカードを一枚取り、クレステッドの後列に置いた。

 

「ヒートネイル・サラマンダー(6000)をコール。僕はこれでバトルに入るよ」

 

クレステッド/ヤクシャ/

ヒートネイル//

 

「ヒートネイル・サラマンダーはかげろうをブーストしたそのアタックがヴァンガードにヒットした時、相手のG1のリアガードを退却させるスキルを持っている。加えて、ヤクシャはストライケンのスキルでクリティカルが+1。君がどのアタックを通すのか……。お手並み拝見だ」

「チッ……」

 

コウヘイはそれを聞き届けた後、舌打ちをし自分の手札を確認する。

 

一枚は次のターンにライドするためのG3。もう一枚は先程のドライブチェックで引いたヒールトリガーだ。

 

場にはインターセプトが出来るヴェアヴォルフがいるため、その気になればヤクシャのアタックを15000でガードすることが出来る。

 

が、その場合次のヒートネイルのブーストの乗ったクレステッドのアタックを防ぐことが出来ず、最後に残された誘惑を退却され、場はがら空き・手札は一枚という最悪の事態を招く。

 

どれを取っても手痛い打撃を食らうこの状況に顔を歪めるコウヘイ。

 

「考えてるねぇ、けど時間は限られてる。早速ヤクシャでヴァンガードにアタック!パワー14000、クリティカル2だ!」

 

容赦のないショウの攻撃。コウヘイにはショウのそのにこやかな笑みは、嘲笑うかのように映っていた。

 

奥歯を噛み締めながら思案を巡らせた後、コウヘイは諦めたように小さく呟いた。

 

「ノーガードだ……」

「ほほう、なら僕のツインドライブ!!」

 

ショウは、着々とことを進める。

その最中、一度臆したクリアはすぐに冷静さを取り戻し、今のこの状況を考察した。

 

(今のダクイレの判断は正しい。クリティカルは怖いが、それ以上にこの序盤で戦線を崩壊されることは敗北を意味する。かげろうが先程のドライブチェックで引いたジ・エンドをコールしなかったのはおそらく次のターンにライドするためだろう。明らかになっているG3は三種。この配分とジ・エンドのスキルから考えるにオバロは入っていない。

 

――問題はあのカード……)

 

クリアはその圧倒的存在感を放つクレステッドに注目した。

 

(何故奴があのカードを採用しているのか……。それだけが一番の気がかりだ……)

 

クリアだけでなく、ミヤコもまた真剣な眼差しでショウのデッキを考察する。

 

(普通のかげろうデッキではないのはたしかね。ストライケンとヤクシャのコンボにヒートネイル・サラマンダー。始めのジ・エンドは虚仮威しと言ったところかしら。まぁ、かげろうそのものが強力で今までのカードも安定はしないだけで決めればかなりのプレッシャー与えることは出来るわね)

 

クレステッドの与えたショウへの好奇心が、どれほど大きかったかが伺える。

 

ノブヒロもそれは同じ。彼は、少し前にショウの戦い方を聞いていたため、多少の耐性はあったが、実際にこれを目撃してそのあまりのインパクトに度肝を抜かれた。

 

(流石にこれは驚かされたぜ……。ストライケンはヤクシャだけでなくジ・エンドとの相性もいい。高まったパワーとクリティカルにスタンドが合わされば一気にゲームエンドまで持っていけるからな。ストライケンのデメリットもヒートネイルで後列を潰すことでカバー。ガードされたとしても次のジ・エンドのアタックでさらに手札の消費を加速させる……。見た目の意外性に相反してかなり補完性の高いデッキと言えるな……。あのカードを除いて……)

 

奇怪と戦略の入り交じるデッキと評価するノブヒロ。

 

しかし、彼と同じファイトスタイルを持つもう一人のファイターは、全てを見透しているかのようにこの現状を武者震いを発てながら見ていた。

 

「君とのファイト……とても楽しみになってきたよ」

「それは……嬉しい反応だね」

 

人を馬鹿にしたようなニヤニヤ顔をする二人の奇術師。

彼らの見る先に何があるのか、おそらく彼らにしか分からないだろう。

 

「ファースト、ガトリングクロー・ドラゴン。ドロートリガーで一枚引き、パワーはクレステッドへ。セカンド、ドラゴンナイト ネハーレン」

「ダメージチェック……一枚目、ヒステリック・シャーリー!俺もドロートリガーだ!一枚引き、当然パワーはVに!二枚目、グウィン・ザ・リッパー」

「これでVへのアタックはノーカンになったわけだね。今引いたカードが何かは分からないけど、10000でガードされると分かっててヴァンガードにアタックする必要性は薄いよね。というわけで、ヒートネイルのブースト、クレステッドでリアガードのヴェアヴォルフにアタック!」21000

「ノーガード、ヴェアヴォルフは退却だ……!」

 

ダメージは互角。しかし手札、盤面、試合の流れ、あらゆる面でショウが優勢であった。

 

かげろう

手札6

ダメージ表0

ダメージ裏2

 

ダクイレ

手札3

ダメージ表2

ダメージ裏0

 

「俺のスタンド&ドロー!先を越されはしたが、すぐに取り戻す!双翅の王 ベルゼバブ(10000)にライド!ベルゼバブはソウルのダークイレギュラーズが八枚ある時、パワー+1000」

 

流石のコウヘイも自分が不利であることを自覚している為か、慎重にカードを選んでユニットをコールしていく……

 

「ドヤ顔でコールしたとこ悪いが、その邪魔なカードにはご退場してもらうぜ!」

 

ことはなかった。

 

「左上にグウィン・ザ・リッパー(9000)をコール!そしてCBでヒートネイルを退却させる!そして右上に退廃のサキュバスをコールし、バトルに入る!」

 

グウィン/ベルゼバブ/退廃

誘惑//

 

相も変わらず全力でユニットを展開していくコウヘイ。このコールにより、彼の手札は0となった。

 

「ここまでプレイングがえぐいと逆に苦笑いだな……」

「たしかに……」

 

一向に学習する気配を見せないコウヘイの姿に、怒りを通り越して呆れてしまうハジメとタイキであった。

 

「いくぜ!ベルゼバブでヴァンガードにアタック!」11000

「ガトリングクローでガード!」14000

 

ヴァンガードのアタックをたったの5000でガードするショウ。

 

「おいおい、いいのか?これじゃあトリガーが一枚でも出ちまっただけで通っちまうぜ?まっ、追加のガードは受付ないけどな。ツインドライブ!!」

 

コウヘイもこれについて指摘。ショウの行う奇行を少しも疑うことなく、ドライブチェックを行った。

 

「ファーストチェック、漆黒の詩人 アモン。セカンドチェック、ブリッツ・リッター!GET、クリティカルトリガー!効果は全てVに!」

 

案の定貫通。二点ものダメージを受けることとなったショウであるが、まるで予定調和であるかのように瞬き一つせず、平常心のままダメージチェックを行う。

 

「ダメージチェック。ファースト、槍の化身ター。クリティカルトリガーの効果は全てVに加えるよ。セカンド、希望の火 エルモ」14000

「チッ、お兄さんもトリガーが発動したのか……」(まずい……これじゃあ、退廃がアタックすることが出来ない……)

 

何をしても必ず滞ってしまうコウヘイ。彼のプレイングに難があるのは勿論だが、それ以上にこのような状況を作り上げているのはショウのプレイングか。

 

「ヤクシャのパワーはこれで14000……。さっきお兄ちゃんが5000でガードをしたのはこれを狙っていたということですか?」

 

シロウはカイリにそう問いかける。

 

「うーん、それは俺にも分からないかな……。今のはたまたまダメージチェックでトリガーが出たからアタック出来なくなっただけだからね。いくらショウさんでもツカサさんみたいにデッキのトリガーを任意に発動させることは出来ないと思うし……」

 

トリガーに一度臆したコウヘイであったが、まだアタックできるユニットがいることを思いだし、早速そのユニットに手をかける。

 

「たしかに退廃はアタック出来なくなったが、まだ俺にはもう1ライン残ってる!誘惑のブースト、グウィンで……」

 

ここで突然、コウヘイの口が止まる。

 

アタックする矛先は二つ。一つ目はトリガーの効果でパワーが14000に上がったVのヤクシャ。

二つ目は何のスキルも持たず、インターセプトも出来ないただの置物のような存在であるクレステッド。

 

Vにアタックする場合、誘惑とグウィンの合計パワーは16000。ショウはこのアタックを5000でガードすることが出来る。

 

しかしクレステッドにアタックした場合、パワーは標準のままであるためガードするには10000の札が必要となる。

 

前のターンにショウはドライブチェックでネハーレンを引いているため、たとえクレステッドを退却したところでネハーレンをそこにコールされるのが関の山。

 

ただ、他にアタッカーがいないのであればラインが一つ完成せず、二つのアタックにさえ気を使えばよくなる。

 

したがって本来であればリアガードへのアタックが定石となるが今回、この局面においては少しだけ違う。

 

(……わざわざあのクズカードにアタックしても絶対ノーガードだろ……)

 

そのアタックするリアガードが何の能力を持たないクレステッドであるということが、コウヘイの決断を遅らせる。

 

「グッ……Vにアタックだ!」16000

 

何も考えず正攻法を取るということができないことにもどかしさを覚えつつも、一つの決断と共にアタックを宣言するコウヘイ。

 

それに対してショウは、ニヤリと笑みを浮かべた後手札からカードを一枚取った。

 

「レッドジェム・カーバンクルでガード!」19000

 

まるでそうくること知っていたかのような素早い手つきがガードを切る。

 

「これで俺のターンは終了……!」

 

コール、アタックする順番などの不備はあったものの、最後のアタックに関してだけいえば多くのファイター達の共感を得ることが出来た。

 

それはクリアも例外ではない。

 

(今まで一つとしてまともな動きをしていなかったが、あのラストアタックはまだ評価出来るか。相手は最高の地力を保有するクラン、かげろう。バーニングホーンは入っていないにしろ、他にもバーサークやベリコウスティなど強力のユニットが控えている。あそこでわざわざ盤面を開けてやるより、少しでも手札を削るほうのが得策と言える。

 

――だが……)

 

クリアは徐に今からドローをしようとしているショウに視線を向ける。

 

(このどこからともなく沸き上がる違和感はなんだ……。何か、途方もない出来事が巻き起こる……そんな曖昧なイメージが浮かび上がってくる……)

 

ダクイレ

手札2

ダメージ表0

ダメージ裏2

 

「僕のスタンド&ドロー。――終わりなき探求の果て、辿り着きし最終進化。荒ぶる魂を昇華させ、今こそ真の姿を現せ!クロスじゃなくて普通にライド!ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド!(11000)」

 

遂に姿を現した現環境のトップカードであるジ・エンド。

 

しかし、このカードの強さであるクロスライドが機能していない為、本来の強さは発揮していないが、それでもこのカードが相手に与える威圧は多大なものがあった。

 

何より警戒しなければならないのが使用しているファイターがショウであるということ。普通の運用を期待してはならないのだ。

 

「僕の表のダメージは二枚。このままを維持すればコウヘイ君はこのジ・エンドの呪縛から逃れることが出来なくなるわけだ」

 

わざと確認を取ることで、コウヘイによりジ・エンドのスキルを意識させるショウ。

 

ジ・エンドのスキルは、Vのこのユニットのアタックがヒットした時、CB2とペルソナブラストを使用することでVのこのユニットをスタンドさせるというもの。

 

Vが再びスタンドするという性質上、最初のツインドライブ!!でトリガーをこのユニットに乗せればトリガーの効果を維持したままスタンドすることが出来る。

 

パワーが5000上がれば5000上がった数値でアタック出来、クリティカルが乗ればクリティカルを増やしたままアタックが出来るということである。

 

Vをスタンドさせるというスキルは他にもあるが、その他のカードとは一線を画する最大の違いがこのカードにはある。

 

それはツインドライブ!!を失わないということ。

このスキルを使用することのディスアドバンテージはペルソナブラストで使う手札一枚。

 

それに対するメリットは、一度のアタック。一度のツインドライブ!!手札一枚分のアドバンテージと、先のコストからは想像出来ないほどのアドバンテージを得ることが出来るのである。

 

いかにコウヘイと言えど、このカードを警戒しないわけにはいかず、身体を身構えながら次のショウの動きを待つ。

 

「まぁまぁ、そんな身構えなくても大丈夫だよ。たしかにジ・エンドは強いけど、このカードはあまりにも目立ち過ぎる。普通にアタックしてたんじゃ到底ヒットさせてはくれないもんね。まぁ、ガード強要力があるというのが強みなんだろうけどさ。そんなじめじめしたことはしたくないのさ、僕は。

 

――だから……」

 

ショウは徐にカードを取ると、そのカードをリアガードにコールし、そのままCBを裏返した。

 

「一緒に楽しもうじゃないか。ガードの強要なんてそんなくだらないことなんか忘れてさ」

 

親しみを込めた笑みから放たれたこの行動。しかし、その言葉の真意をこの行動から読み取ることは誰にも出来なかった。

 

「リザードソルジャー コンローをコールし、CB!このユニットは退却する」

「リザードソルジャー コンロー!?」「アイツ……また変なことを始めだしたな……」

 

ショウのこの行動にまた周りがざわめき始める。


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