先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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最低のファイター

「さて、今日は気を引き締めてかからねば……」

 

吉田君はそう自分を奮い立てながらアネモネへ向かう。

 

今日はヴァンガードチャンピオンシップ開幕の日。多くのファイターが待ち望んでいた祭典だ。

 

自分の仕事は、そんなファイター達を導き、より上の舞台に上がれるようサポートすること。最初の大会から勤めている役割ではあるが、それでもプレッシャーを感じずにはいられなかった。

 

「そういえば、今回の大会で三回目になるんですね……」

 

気を紛らせるように独り言を呟く吉田君。彼にとって今までの大会はどれも掛け替えのない大事な記憶として、今でも鮮明に思い出すことが出来る。

 

第一回大会では、クリアとトモキがアネモネの代表として地区大会に出場。

 

二人共、他を寄せ付けぬ圧倒的な力で勝ち抜き、激戦が予想された地区大会を余裕で突破する。

 

全国大会予選では、突然のトモキのドロップアウトがあったものの、その意思を受け継いだクリアが無敗で予選を突破。今では『ピオネール』と呼ばれる程の大物とされている。

 

「名前だけが一人歩きしている気もしますけどね」

 

吉田君は苦笑いを浮かべながら静かに呟いた。

 

第二回大会では、前の二人の姿はなく、ノブヒロとコウヘイが代表として出場。

 

ノブヒロは、第一回大会にも出場した経験があり、ショップ大会での活躍も目を見張るものがあったが、初戦でいきなり後のチャンピオンシップ優勝者に激突。最善を尽くしたものの、一歩及ばずそこで敗退。

 

しかし、ファイト内容だけで言えば決勝戦にも負けず劣らずの熱戦を繰り広げ、結果以上の成果を残したと吉田君は考えていた。

 

「もう少し後に当たっていればまだチャンスはあったんですがね……。仕方ありません。さて、問題はコウヘイ君ですね……」

 

吉田君は当時のことを思い出し、苦笑いを浮かべながら呟く。

 

長谷コウヘイ、あまり店にも顔を出さない気紛れなファイターで、一応ショップ大会を勝ち抜き地区大会への出場を果たした。

 

しかし、そのプレイングスキルはお世辞にも高いとは言えず、ショップ大会ではたまたま運が良かったから勝てたようなもの。

 

「彼はちょっと苦手ですね……。ショップ大会を勝ち上がったということで少し調子づいてる節がありますし、同じ代表のノブヒロ君が初戦負けしたせいで、自分の敗けを軽く見てしまっている。今回の大会までにその性格が直っていれば良いのですが……」

 

一つ悩みが増えてしまった吉田君は、アネモネの店内に足を踏み入れる。

 

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!」」

「おや?」

 

吉田君が店内に入ると、活気づいた人の集まりが出来ているのに気付く。先程の掛け声からおそらく誰かがヴァンガードファイトを始めたのだろう。

 

吉田君は少し焦りながら自分の腕時計を確認する。9時10分。まだ大会は始まってはいない。

当然だ。何故なら大会の進行は吉田君本人がすることになっているのだから。

 

勝手に始めることなど出来る訳がない。ではあの人だかりは一体何なのか……。

 

真意を確めるべくそちらへ足を進める吉田君。すると、物凄い勢いでこちらに走りよってくる一人の影があった。

 

「おはよう!吉田君!待ってたわよー!」

「うわっ!?どうしたんですか店長、そんなに慌てて。っていうかあの人だかりは何なんですか?」

 

少し涙目になっている店長を尻目に、吉田君は何より気になっている目先の事態について問いかける。

 

「ん?あぁ、あれね……」と店長は吉田君の肩を掴みながら横目で人だかりを見ると端的に説明した。

 

「あれについては、また説明するのも字数的に勿体ないからちょっと前のページを読むことをオススメするわ」

「メメタァな発言はやめて下さい……。とりあえず空気をよんで分かったことにしますが……。店長は何かあったんですか……?」

「よく聞いてくれたわ!吉田君……後、お願い出来る……?」

 

店長は上目遣いでそう言いながら、視線をカウンターのパソコンに向けた。それを聞いた吉田君は呆れた表情を作り、重いため息をついた。

 

「珍しく店長がやる気満々で俺に遅れて来てもいいって言ってくれるから安心して来てみれば……案の定ですか……」

「ぐっ……面目ない……」

 

目を落としながら落ち込む店長。それを見ていた吉田君は「やれやれ」と呟きながら柔らかい笑みを浮かべた。

 

「――でも嬉しかったですよ。いつも俺に頼りっきりの店長がそうやって俺に気を使ってくれたことは。おかげでゆっくり休めましたし」

 

吉田君は自分の肩を掴む店長の手をゆっくり下ろすとカウンターへと歩みを進める。

 

「店長は彼等のファイトを見守ってあげてください。後は俺がやっておきますので」

「いつもいつも……迷惑かけるわね」

 

店長が感謝の意を込めてそう言うと、吉田君はそちらへ振り向き、ニッと笑いながら呟いた。

 

「仕事ですから」

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「リザードソルジャー コンロー(5000)!」

「ヴァーミリオン・ゲートキーパー(5000)!」

 

掛け声とともにFVを表替えすショウとコウヘイ。ファイトが始まると、先程の嫌悪感は薄れ、お互いファイトに集中した。

 

「ショウさん、かげろうなんだ……」

 

ショウのFVを見たカイリは思わずそう呟く。

 

「そうだね。やっぱり勝つ為のデッキとなれば一番お手軽なのはかげろうだからさ」

「えっ……?」

 

視線をコウヘイに向けたまま、ニヤリと笑みを浮かべながら呟くショウにカイリは疑問を抱いた。

 

普段のショウとは思えないこの発言。確かに現在のトップクランであるかげろうを使えば勝率は多少上がるかもしれないが、そんなファイトをして満足出来るのだろうか……。

 

すると突然、コウヘイは馬鹿にしたように鼻で笑って見せた。

 

「フン、デッキが強くても使う奴が駄目なら意味なんてないない。逆に使う奴が強ければどんなデッキだって使いこなせるって寸法よ。いくぜ!俺のドロー!悪魔の国のマーチラビット(6000)にライド!ゲートキーパーにダークイレギュラーズがライドした時、スキル発動!SC(プリズナー・ビースト)してターン終了!」

「実力はおいといて言ってることは正しいな」

 

ノブヒロは苦笑いを浮かべながら感心したように呟く。

 

大会前の参加権をかけたこのファイト。特に名の知れたファイターではない二人であるが、そのファイトを多くのファイターが観戦していた。

 

理由としては、おそらく大会までの時間にすることがないためだろう。

 

野良ファイトをしても良いのだが、その場合周りのファイターに自分の力がばれてしまう可能性がある。まぁ、いちいちそんなことを確認する者などいないだろうが。

 

もう一つの理由として、いずれ相手となるかもしれない二人の実力を測るため、といったところか。

 

もちろん、ミヤコなど単なる暇潰しとして見ている者もいれば、ショウのことが心配で見守るカイリ達の存在もある。

 

しかし、その中でも特にこのファイトを楽しんで観戦しているファイターがいた。

 

「いや~、噂だけで実際にファイトを見るのは初めてだからショウさんがどんなファイトをするか楽しみだね!クリア君!」

「どうしてお前はなんでもかんでも俺を巻き込もうとするんだ……」

 

その名は新田ツカサ。ファイターズドームの一件から、彼は特にショウに対して興味を示していた。

 

「……フフン」

 

チラッとクリアとツカサの姿を一瞥したショウは鼻唄混じりにデッキに手を乗せた。

 

「さぁ、僕のターンだ」

 

ご機嫌な様子でカードをドローするショウ。予め決めていたか、考える素振りもなくヴァンガードをライドさせる。

 

「魔竜導師 キンナラ(6000)にライド!コンローはスキルで左下にスペリオルコール。そのままキンナラでヴァンガードにアタック!」6000

「コンローのブーストはなしか。だが、ここでガードする必要はない。ノーガードだ」

「ほほう?ならドライブチェック……」

 

ファイト最初のドライブチェック。この場面でのトリガーで差が付かれることはあまりない。

 

しかし、ショウがドライブチェックを捲った瞬間、辺りに戦慄が走った。

 

「ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド。残念、トリガーはなし」

 

トリガーはない。だが、トリガー以上にこれを見ていたファイターは恐怖を覚える。

 

「ドラゴニック・オーバーロード・ジ・エンド……。そんな強力なカードを使うほど、師匠の勝利への執着は凄いってことか……」

 

たった一枚のカードが皆のショウを見る目を変えさせる。余裕を見せていたコウヘイも、実際にあのカードを見て思わず顔を強張らせた。

 

現環境におけるトップカード。かげろうというクランを頂点に君臨させるきっかけとなった最強の切り札である。

 

これを見たクリアは疑り深そうな目でツカサを見た後、声をかける。

 

「……お前、前にアイツは自分と同じジャンルのファイターと言っていなかったか?」

「えっ!?いや……その筈だけど……」

 

返答に戸惑うツカサ。ツカサ自身も、ショウの扱うデッキに不信感を抱いていた。

 

「どうしたのさ?早くダメージチェックしないとお店側に迷惑がかかっちゃうよ?あんまり時間もないからさ」

 

そんな周りの反応も、ショウは茅の外の出来事であるかのように澄ました顔でコウヘイを急かす。

 

「んなもんわかってら!ダメージチェック、ヴェアヴォルフ・ズィーガー。トリガーはなしだ!」

 

眉間をしかめながらコウヘイはデッキトップのカードを乱暴にダメージに置いた。

 

「フフン、僕のターンはこれで終了だよ」

 

かげろう

手札6

ダメージ表0

ダメージ裏0

 

ダクイレ

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

「フン!ちょっと強いデッキを使ってるからって調子づきやがって……。その澄ました顔を青く塗り潰してやんよ!俺のスタンド&ドロー!退廃のサキュバス(9000)にライド!」

「退廃のサキュバス……これはまたなかなかいいカードにライドしましたな」

 

ライドされたユニットを確認したショウは、そうコウヘイを賞賛する。しかし、前の態度と憎たらしげなその笑みのせいでコウヘイにはその言葉が嫌味にしか聞こえなかった。

 

「言ってな!そう言ってられるのも今のうちなんだからな。俺は手札から、ドリーン・ザ・スラスター(6000)をV裏にコールする!その瞬間、Vの退廃のスキルを発動!」

 

そう言うと、コウヘイはデッキに手を添えながら勝ち誇ったように笑みを浮かべる。

 

「退廃がVに存在する限り、俺はリアガードをコールする度にSCすることが出来る。一枚目はドリーンでSC(悪魔の国のダーククイーン)だ!」

「リアガードをコールする度にSCが出来る……ということはユニットを全部入れれば1ターンに五枚もSCが出来るということ!?」

 

退廃のスキルに圧倒されるシロウ。だが、ダークイレギュラーズの怖さはこれだけではなかった。

 

「驚くのはまだ早いぜ!今コールされたドリーンはメインフェイズにソウルにカードが入った時、そのターン中パワーを+3000するスキルを持っている。この意味が分かるか?いや、分からなくていい。今から実践してやっからな!」

 

高ぶるテンションをそのままに、コウヘイは次々とユニットをコールしてゆく。

 

「左の列にヴェアヴォルフ・ズィーガー(10000)と誘惑のサキュバス(7000)をコール!二枚コールされたから退廃のスキルで二枚SC(シュティル・ヴァンピーア、熱望の悪魔 アモン)!誘惑のサキュバスのスキルで更に一枚SC(ブリッツー・リッター)!」

 

どんどん厚さを増してゆくソウルの束。それに比例してドリーンのパワーもどんどん上がってゆく。

 

「更にヒステリック・シャーリー(4000)をコール!SC(退廃のサキュバス)!畳み掛けるぜ!シャーリーのスキル発動!自身をソウルに置くことでSC(誘惑のサキュバス)!合計七枚のソウルに入った!すなわち、ドリーンのパワーは27000!退廃のパワーと合わせて36000だ!」

 

圧倒的高パワー。ショウの現在のヴァンガードであるキンナラのパワーは6000。たとえ手札のG0を三枚ガーディアンに使ったとしても防ぐことは出来ない。

 

脇に控える誘惑とヴェアヴォルフのアタックを考えると、ガードするには相当の手札を必要とする。

 

「ノーガードだよ。さぁドライブチェックどうぞ?」

 

もちろん、ガードするのであればだが……。

 

この序盤でガードする必要性はほぼ零。むしろダメージが無ければCBを使えないため、たとえ5000でガード出来るようなアタックでもノーガードを宣言するだろう。

 

このコウヘイのプレイングで、シロウはおろか、ファイトを見ている全員がコウヘイの実力の底が知れた。

 

「なんかノブさんがなんで弱いって言ったのか分かった気がするな……」

 

タイキは、コウヘイを蔑むような目で見ながらそう語り始める。

 

「テンションやノリでその場に適応した最善のプレイングなんかは出来るわけがない。まるで昔の俺……いや、昔の俺以下だ」

 

それは昔の自分への軽蔑と報復。ツカサとハジメの言葉で本当の戦い方というものを気づかされたタイキは、それまでの自分を意味嫌うようになっていた。

 

だからこそ、このコウヘイの見るに堪えない酷いプレイングが許せなかった。ただ、なんとなく、漠然とした理由ではあるが、心の中を揺さぶるこの気持ちを抑えることは出来なかったのだ。

 

そして、このコウヘイの招いた愚行は、ある者をその場から背けるに至った。

 

「あれ!?まだ始まったばかりなのにクリア君戻っちゃうの?」

 

ツカサは、その場から立ち去ろうとするクリアの背を見つめながらそう声をかけた。

クリアは、その場で立ち止まると顔だけをこちらに向け、

 

「ああ。もうこれ以上見たところで何も得るものはない。後の展開は、見ずとも分かるからな」

 

お互いのデッキ、実力はおおよそ把握したことによる発言。ツカサの言う一風変わったファイトスタイルに少し期待していたクリアは、先程のジ・エンドとコウヘイのプレイングを見て、見切りをつけていた。

 

「ちょっと待った!」

 

観戦していた1ファイターでしかないクリアを呼び止める一人の声。それを聞き、クリアは足を止めた。

 

「……なんだ?」

 

クリアはそう言いながら声の主を見据える。今まさにファイトをしている宮下ショウを。

 

「君に帰られちゃあちょっと困るのさ、僕にとってはね」

「……ここからお前は、俺の興味をそそるような意味のあるファイトを見せることが出来るというのか?」

 

ショウはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「まぁ、見ててよ」

 

ドローするそのショウの姿からは自信が満ち溢れていた。

 

「ここから御披露目しよう。どんなファイターをも飲み込む奇妙きてれつな奇行の数々を。気狂いなまでの異常を。

 

さぁ、ショータイムの始まりさ!」

 

ショウが決め台詞発した最中、ボロクソに言われていた張本人もやはり黙っていることはできなかったようで、コウヘイはたまらず舌打ちを打った。

 

「チッ、どいつも見る目のないやつばっかだな。まぁいい。過程なんざ結果で霞むことになるんだからな」

 

己のファイトスタイルを改める兆しの見えないコウヘイの発言。ただ、ショウにとってコウヘイの今のプレイングなど気にしてはいなかった。

 

「そうかな?僕はむしろ逆だと思うんだけどさ」

 

引いたカードを確認したショウはそう否定する。

 

「結果なんて言うのは勝つか負けるかの二つしかない。目新しくもなんの面白味もない。それを知らない人が知って面白いと思うかな?まぁ、それは人によるから何とも言えないけどさ。引き分けは面白いし。けど、一つだけ確実に言えることがある」

 

引いたカードを手札に加え、手札の別のカードを手に取る。一片の迷いのない面持ちでショウは話を続ける。

 

「過程はそのファイターの性格、生きざま、あらゆる者を見通す。そしてそれは見るものを魅了するに十分な効力を持っている。僕はそのチャンスを無駄にする行為は絶対にしない。勝とうと負けようと、僕はひたすらに自分のファイトを貫いてみせる。臥竜 ストライケン(10000)にライド!」

「臥竜……ストライケン……?」

 

見慣れないカードに思わず名前を口ずさまシロウ。そんなシロウを思ってか、ショウはユニットの説明を話始める。

 

「臥竜 ストライケン。このユニットはなかなか面白いスキルを持っている。このカードがVに存在する限り、ジェノサイド・ジャックと同じ拘束、すなわちアタックすることが出来なくなる。さらに言えばジャックのように拘束解除能力を持っておらず、他のユニットに拘束を無効化にするスキルが存在しないこのカードは、Vに立ってしまえば最後。そのターンでのドライブチェックを行えなくなってしまう」

 

終始笑みを溢しながらショウは続ける。

 

「もちろん、それだけのユニットならただのバニラの劣化だから、他にもスキルはあるのさ。まず一つはこのユニットがアタックされた時、そのバトル中このカードのパワーを+5000するスキル。現在、単体で15000以上のユニットは存在しないからトリガーでもない限りブーストのないアタックはこのカードには通用しない」

「まぁ、これはあるということだけ覚えておけばいいよ。重要なのはもう一つのスキル。このユニットにかげろうがライドした時、ヴァンガードのパワーを+5000、クリティカルを+1することが出来るということ。さぁ、手始めにまずこのスキルを料理していこうか」

 

ショウはそう言うと、ダメージを一枚裏返し、コンローを退却させた。

 

「僕はまずコンローのスキルでデッキから魔竜導師 キンナラを手札に加えて、そのままこのカードを左下にコール」

 

洗練された手さばきでデッキからカードを抜き取るショウ。ユニットをコールすると、チラリとクリアとツカサの方を一瞥した。

 

「何をするかと思えば、ただ相手の後列を除去してストライケンのスキルを有効活用しようって魂胆か?そんなもの痛くも痒くも……」

「言ったよね?重要なのはこのユニットにライドされた時のスキルのみってさ。でも君みたいな人は歓迎だよ。単純であればあるほどこれからやることが劇的に思えるだろうからね」

 

強がりを言うコウヘイを遮り、ショウは煽るようにそう語る。

 

当然、単純と言われて平気でいられるわけもなく。眉をしかめながら言い返そうとするコウヘイであったが、次のショウの行動にその言葉を失った。

 

「キンナラのCB!このカードをソウルに置き、僕は君のドリーンを退却させる!その瞬間、手札の魔竜戦鬼 ヤクシャのスキルを発動!僕はこのカードをヴァンガードにする権利を獲得する!」

 

カードを高らかに翳す。そのままショウはそのカードをヴァンガードに降り下ろした。

 

「臥竜の力を得て新なる力を見せつけろ!魔竜戦鬼 ヤクシャ(9000)にスペリオルライド!」

 

少ない手数で一気にG3まで昇格したショウのヴァンガード。初めて見たシロウでも、このライドが意味することはすぐに察することが出来た。

 

「そうか!これでストライケンの拘束のデメリットを帳消しにして、メリットだけを得ることが出来るってわけだね!お兄ちゃん!」

「その通り!パワーが下がるのはちょっと痛いけど、それを補うに有り余るだけのスペックをこのカードを得た!」

「グッ……猪口才な……」

 

意表を付かれたスペリオルライドにたじろぐコウヘイ。コウヘイの手札は先程の全力展開で僅か二枚しか残っていなかった。

 

まさにショウらしいテクニカルなプレイングとデッキ構築と感心するカイリ達であったが、クリアを始めとするツカサ、ノブヒロ、ミヤコといった歴戦のファイター達はこの流れを特に動じることなく眺めていた。

 

「たしかに、見事なスペリオルライドと褒めてやりたいところだが……。この程度で俺達を驚かせるとは思っていないだろうな?こんなwikiにも書いてあるような芸当、誰にでも真似することは出来るぞ」

 

彼らの代表として、クリアは無表情でそうショウに言い聞かせた。

 

かげろう

手札5

ダメージ表0

ダメージ裏2

 

ダクイレ

手札2

ダメージ表0

ダメージ裏0

 

「と、思ってくれると信じてたよ」

 

ニヤリと笑みを浮かべるショウの口から意外な一言が飛び出した。クリアは「なに?」と呟きながら眉間をしかめ、目を尖らせながらショウを見つめた。

 

ショウの言葉はまるで、あらかじめクリア達がこう思うことを知っていたかのような……いや、そうとしか思えないような口振りであった。

 

不快感を覚えるクリアとは対照的に、カイリを始めとするハジメ、タイキ、シロウのショウ親衛隊(仮)の四人はこの発言に期待な眼差しで後の展開を見守る。

 

カイリとシロウはこの感覚を知っている。かつて、ファイターズドームにてツカサの母親であるユウとファイトしていた時と同じ。

 

おそらくこの先に待ち受けるは、ヴァンガード界において誰も訪れたことのない領域。

 

そう、あのエグザイル・ドラゴンを使いこなすことの出来るショウだからこそ、その真意に迫ることが出来るという確信を持てるのだ。

 

ショウは一枚のカードを手に取り、不敵な微笑みを浮かべる。

 

「物事には順序というものが存在する。さっきのは前座なのさ。より効果的に、より魅力的に演出するためのさ。っと、そういえばこのファイトも言葉を変えれば大会への前座だったね。それなら僕が筆頭を切ろう。これから始まる波乱の戦いに有らん限りの息吹を送ろう」

 

掴んだカードを天に突き刺す。それを見ていた観客は、何故かそのカードが輝いているように見えた。

 

ショウはそのままそのカードをリアガードとしてコールする。そのカードはどんなカードよりも光輝で、どんなカードよりも冷血で、そして……

 

「荒ぶるドラゴンの神よ……伝説は今、ここに始まる!

 

降臨せよ!クレステッド・ドラゴン!(10000)」

 

どんなカードよりも、何物にも染められないその巨体をその場のファイター達に見せつけていた。


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