「ねぇ、お兄ちゃん」
とある日の夜中。
シロウはあることを聞くために兄であるショウの部屋の扉を開ける。
が、扉は半分くらいまで開いた後何かにつっかかって動かなくなり、シロウはショウが積み上げたダンボールがそのままにしてあるのを思い出した。なんとか人一人が通れる程度のスペースをすり抜け、部屋へと入る。
壁には壁紙やポスター、棚やその上には様々なフィギュアやプラモデルが飾られてた部屋の主の趣向を現すような内装。耐性のない人間ではおそらく拒絶反応を起こすこと間違いないだろう。
前からその惨状を知っているシロウは、特にきにすることもなく、ヘッドフォンをかけてパソコンを見つめる兄に声をかけた。
「ん?あぁ、シロウか。なにか用でもあった?」
声に気付いたショウはヘッドフォンをパソコンの近くに起き、顔を我が弟のほうへと向けると、にこやかな笑みを浮かべながら問いかけた。
「実は明日アネモネで大会があるんだけどさ、勿論お兄ちゃんも出るんだよね?」
「大会?」
シロウの言葉によくわからないといった様子で首を傾げるショウ。それに対し、まるで誘われるかのようにシロウもまた首を傾げた
「あれ?店長さんから聞いてない?明日、ヴァンガードチャンピオンシップのショップ予選があるんだってさ。僕は明日その大会に出場するつもりなんだけど、勿論お兄ちゃんも出るんだよね?」
まるでリピートしたかのような同じ問いかけに、ショウは「んー」と声を唸らせると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながらこう言った。
「そうだね、どうせ明日も暇だし、行っても言いかもしれないけどさ……本当に僕が行っても大丈夫かい?」
「?どういうことさ?」
「簡単なことさ」
ショウはそう言って立ち上がると、ベッドの下から黒いストレージを取りだし、それをシロウに見せびらかすようにして手に持った。
「たしかその大会って予選で勝ち残った数人しか上の段階に進めないんだよね?もし僕が出たらシロウが勝ち残る確率が下がっちゃうかもしれないって話さ」
取り出したストレージを開け、中のものを品定めする素振りを見せながら、ショウはシロウの様子を伺った。シロウが困っている姿を見るためだ。
しかし……
「……そんなの関係ないよ」
「ん?」
シロウは俯きながら少しの間を空けた後、そう断言した。
「確かにお兄ちゃんは強い。それはユウさんとのファイトの時に分かったし、今まで僕とやってた時は手加減してたんだって言うのも知ってる。……でも、」
拳をギュッと握り、頭の中にある映像を思い浮かべる。それが自分に勇気を与えてくれると思ったからだ。
「クリアさんとツカサさんのファイトを見て僕分かったんだ。ヴァンガードは終わるまで何が起こるか分からないってことを。強い人と戦うことが、どれだけ貴重な体験なのかをさ」
ショウの言っていることは確かに間違いないとシロウもわかっている。もしショウが出場しなければ、少なからず勝ち残る確立は上がるということを。それでも……、
「だから僕は自分の為に、本気のお兄ちゃんと戦ってみたいんだ。その結果がどういうものだとしてもね」
いつもと違うシロウの顔つきに一瞬驚いたショウであったが、すぐに笑みを浮かべ、持っていたストレージを仕舞った。
「うん、いい顔つきだね。それだけの意気込みがあればきっといいところまで行くと思うよ、うん。そうだね……クリア君やツカサ君とファイト出来るチャンスでもあることだし、ちょっと考えておこうかな」
「そうこなくっちゃね!僕もお兄ちゃんとツカサさんがどんなファイトをするのか見てみたいし」
シロウは満足した表情を浮かべると、扉の取手に手をかけた。
「じゃあ明日も僕がお兄ちゃんを起こしにくるからさ。あんまり寝起きが悪いとそこの人形壊しちゃうかもしれないから気を付けてよね」
「あ、うん……肝に命じておくよ」
この忠告に、ショウは冷や汗を流しながら答えると、シロウは部屋の扉を閉めた。
「さてさて、今日はちゃんと寝とかないといけない使命感を覚えたな」
ショウはそう呟きながらパソコンの横にあった財布を手に取り、中にあった一枚の写真を取り出した。
写真はとある病院の一室で撮られており、まだシロウと同じくらいのショウの姿と、同じくらいの男の子が二人。ベッドの上で優しい笑顔を浮かべる少女とその膝の上に、小さな赤ん坊の姿が映っていた。
「そろそろ……頃合いかな」
ショウはその写真をジッと見つめた後、近くに置いてあった赤いスリーブが入ったデッキを手に取り、二つを交互に見比べると、小さくため息をついた。
「もう僕は……君たちにどういう顔で会えばいいかわからなくなっちゃったよ」
* * * * *
「それじゃあ、そろそろ行くわね」
人通りの少ない道路に響くバイクの音。長い黒髪をヘルメットにしまいながら、バイクに跨がるとミヤコはそう言った。
「そっか~、やっぱり行っちゃうんだね……」
それを聞いた相手は、少し残念そうに呟きながら腕を後ろに回した。
「そんな顔しないでよ、サクヤ。あたしだって本当はサクヤと一緒にまた同じショップで出たいけど……」
ミヤコが悲愴な面持ちで呟くのを見て、話し相手であった夜野サクヤは慌ててその特徴的な白色の髪を揺らしながら首を振った。
「わぁ!ぜ~んぜん大丈夫だよ!ミヤコが一度やる!って言ったらもう何も聞かない性格なのは分かってるつもりだもんね。ミヤコと参加出来ないのはちょっぴり寂しいけど、逆に考えればそれだけ地区大会の切符を手に入れやすくなるってことでもあるんだし~!ミヤコはな~んにも心配せずにそのリセって奴をぶちのめせばいいんだよ!」
自分の手を握りながら精一杯の気持ちを込めてミヤコにそう言うサクヤ。
ミヤコはその訴えかけてくるような赤い瞳を見た後、クスッと笑みを溢した。
「フフッ、サクヤは本当にポジティブよね。あたしも見習わなくちゃ」
しおらしく呟くミヤコに、体をクネクネ揺らしながらサクヤは苦笑いを浮かべた。
「そんなことないよ~。それに、ミヤコにはそんな必要ないよ?ミヤコはそのままでも十分強くて積極的だし、むしろウチがその強さを見習わなくちゃだよ!だから安心して行っちゃってよ!ウチはもっと強くなるからさ!」
「そう、それは楽しみね。それじゃあ本当に強くなったかどうかは地区大会までお預けということになりそうね」
「それがいいね!じゃあミヤコはそのリセって奴ぶったおして地区大会に!ウチはなんとか地区大会への切符をもぎ取って地区大会に!そしてそこでウチの成長した姿を見せびらかしちゃうんだから!」
威勢よく言い切るサクヤの言葉をミヤコは終始微笑みながら聞いていた。
「これはあたしもうかうかしてられないわね。あそこのショップも強いファイターはそこそこいるからあたしもそこできっちり実力を上げることにするわ」
そう言うとミヤコはヘルメットのミラーを下ろし、サイドブレーキを外す。サクヤは、ミヤコが出発することを悟り手を振った。
「お互い頑張ろうね!」
ミヤコもそれに答えるように手を振った後、アクセルを回した。
* * * * *
カチ……カチ……
一定のリズムを刻みながらとある一室に響くクリック音。
自分のトレードマークであるバンダナを巻き付けた手をマウスに置くノブヒロは、パソコンのスクリーンをじっと見ていた。
「――銀色のファイターに要注意……か……。そんな派手なのがいるとしたら是非とも見てみたいもんだ」
ヘラヘラ笑いながら呟くノブヒロ。マウスのホイールを回し、一通りスクリーンを見た後、「よしっ」と声を出しながらブラウザを閉じた。
「そろそろ支度すっか。長いこと待ったのに定員オーバーで参加出来ませんでしたーじゃ話にならんからな」
ノブヒロは立ち上がると、パソコンの横に置いてある愛用のデッキケースを手に取り、中からデッキを取り出した。
「今日は頼むぜ、お前ら!今までのファイトは今日の為にあったと言っても過言じゃない程の大一番だ。俺も全身全霊の力を注ぐからお前らも俺に力を貸してくれな!」
デッキトップのカードを見ながら、デッキに意気込みを語っていく。
これは彼なりの儀式。運要素の高いヴァンガードにおいて、出来る限り運が良くなればというのは誰もが思うことである。
しかし、こんなことをしたところで確率が変わる訳ではない。あくまで自己満足に過ぎない。
ただ、彼にとってその自己満足が重要なのだ。自分のデッキを信じること、ユニットが自分を信じていると感じること。それこそが彼の必勝法なのだ。
ノブヒロはデッキケースにデッキを戻した後それをポケットにしまう。勝つための準備は整った。
今度は歩きながら手に巻き付けていたバンダナを解くと、頭に巻きながら鏡を見る。
蒼い目と茶髪の髪を蓄えた自分の顔を見ながら身だしなみを整える。これで出発するための準備も整った。
ノブヒロは気合いを入れるために自分の顔を両手で思い切り叩くと、玄関に向かった。
「うっし!準備万端!待ってろよー、クリア!」
* * * * *
「だぁー!むしゃくしゃする!どうしてこんな大事な日にえげつねぇことに悩まないといけないんだよ!」
「俺に言われてもなぁ……」
髪の毛をクシャクシャにしながら、ハジメは収まることのない鬱憤を吐き出すと、カイリは苦笑いを浮かべながらハジメを見た。
まだ日の傾く早朝の空の下。アネモネに行く途中にハジメの家があるカイリは、いつものように彼の家で合流したのだが、朝からずっと釈然としない雰囲気のハジメを気遣いながらアネモネへと向かっていた。
「朝からずっとそんな感じだけど、昨日何かあったの?」
さすがにわけもわからず騒いでいられては迷惑なので、カイリは少しでも宥める為にそう問いかけた。
「ん?あぁ……。実は昨日、前から気になってたことがあって、丁度そのことについてクリア先輩に聞く機会があったから聞いてみたんだよ」
「へぇ、それでそのクリア先輩の答えにハジメは頭を悩ましてるってわけだね」
「そういうこと。もし俺の予想が正しければ、これはえげつなさすぎてもはやホラーだぞ……」
「それって俺も知ってることだったりする?」
「ああ。っていうか、お前の言葉が事の元凶と言っても過言じゃない」
「お、俺何か言ったっけ?」
「言ったぞ?教えてやろうか?『あそこで見たのはやっぱりクリアさんだったんだなぁ』ってお前は言ったんだよ」
「……更に訳がわからなくなってきたんだけど……」
威圧的な表情で言ってくるハジメに、カイリは
ハジメの言っているのは、おそらく前にファイターズロードで人ごみを掻き分けて中へ入ろうとした時に自分が見た知り合いのことだろう。
あの時はこんなところにいるはずがないと思って特に気にしていなかったが、モーションフィギュアシステムでファイトしているクリアを見て、自分が見たのはクリア本人だったと認識したのだ。
特になんてこともないことだとカイリは考えているが、ハジメはそのことについてかなり深刻そうな表情で話した。
「その時間にあの場所をクリア先輩が通ったことがそもそもおかしいんだよ……。もしそれが本当なら俺はえげつない現象に見舞われてるということになる……」
「そ、そうなんだ……。つまり、ハジメが聞いたのは、クリアさんが本当にあの時あの場所にいたかどうかということなの?」
「当然だろ。カイリが見間違いをしているんだと信じきってたけど、やっぱりこう釈然としなかったからな。はっきりさせる為に本人に聞いたんだ」
「そしたら本人も間違いなくあの時間にあそこを通ったって言ったんだね……」
話の流れからなんとなく予想のついていたカイリはそう言った。
「そうなんだよ!どういうことだよ……。なんであの人はクリアさんがファイターズドームに行くって知ってたんだ……?」
「あの人?」
カイリがそう首を傾げると、ハジメはカイリの進行方向を立ち塞がるようにして立ち、真剣な眼差しで口を開いた。
「前に話したよな?どうして俺がファイターズドームへ行こうと思ったきっかけが何かって」
「うん、たしかアキトシさんに聞いてクリアさんとツカサさんがファイトすることを知ったんだよね」
「そう。で、どうしてあの人がクリア先輩がファイターズロードへ行くということを知っていたのかも話たよな?」
「うん。確か、実際にクリアさんがアメイジングドリーム社の人に連れて行かれるところを見たからだったんだよね。それがどう……あれ?」
ハジメに誘導される形で、カイリもまた自分の言っていることに矛盾に気づいた。
「なんでそんな早い時間に出発してるクリアさんが、1時間以上も後に着いた僕たちと一緒にファイターズロードについてるんだろう?」
「な!えげつないだろ!?」
矛盾点に気づいたカイリに親近感を感じたハジメは、自分の言っていることの正しさを訴えるような調子でそう言った。
「考えられるのは、あらかじめクリアさんがファイターズドームに向かうことを知っていたということだけど……」
「……っていうかそれなんじゃない?アキトシさんはツカサさんのことを調べてたみたいだし」
「それは俺も思った。でもそれは考えにくいぜ?」
「なんで?」
「そりゃお前。もし本当に知ってたら、俺と会った時にそんな遠まわしな言い方しなくても普通にファイターズドームでツカサ先輩とファイトするっていうことを言えばいいからな。そんなところで嘘ついてどうするんだよ?」
「それを俺に聞かれてもなぁ……。う~ん……」
二人は歩道で突っ立ったまま、腕組みをしながらそう唸っていると、おもむろにカイリが「あっ!」と声を上げながら自分の携帯電話を急いで確認した。
「ん?どうした?」
「こんなところで唸ってる場合じゃないよ!ほら!」
「うげ!やば!走るぞ!」
カイリが突きつけた携帯の時刻を見たハジメは、そうカイリに合図を送りながら駆け出した。
今日は第三回ヴァンガードチャンピオンシップ ショップ予選大会の日。カイリにとっては初めての公式大会であるが、今の状況から考えるとその願いが叶うかどうかの瀬戸際であった。
今の時刻は8時45分。大会参加の締め切りは9時なので間に合わないということは無いだろうが、あまり遅すぎて定員を越えてしまっていては元も子もない。
普段使わない筋肉を無理やり動かすハジメとカイリ。準備体操などしていない二人の筋肉は、まるで悲鳴のような軋む音発て、痛覚という形で主人に止まるよう訴えかける。
しかし、二人は止まらない。止まれない理由がその先にあった。
いつもの交差点を二人の視線は捕らえる。
「カイリ……!後少しだぜ……!」
「はぁ……うん……!」
ラストスパートと言わんばかりに、最後の力を振り絞り横断歩道を渡り、店の自動ドアをこじ開けながら二人はアネモネに滑り込んだ。
今の時刻は8時50分。限界にきていた己の足を鞭打ち、ハジメはレジで受付をしていた店長に声をかけた。
「お、やっと来たわねハジ……随分疲れてるわね……。大丈夫?」
ハジメに気付いた店長は待っていたかのようにそちらへ振り向くと、死にそうな面持ちでこちらにゆっくり歩いてくるハジメの姿があった。
なんとか笑って見せようとするハジメであったが、そんな体力は残っておらず、顔を引き攣っているようにしか見えなかった。
「店長……俺達大会に参加したいんすけど……まだ空いてるっすかね……?」
「……俺達?」
ハジメの言葉から店長はカイリの存在を思い出し、辺りを見渡す。
すると、出入口付近にあった椅子にまるで燃え尽きたボクサー選手のように項垂れながら座るカイリの姿があった。
大会が始まる前から既に満身創痍の二人に、店長は苦笑いを浮かべながらハジメの質問に答える。
「……一応後定員は5人だから全然平気だけど……。本当に大丈夫……?」
「大丈夫っす!ゲホゲホ……。その為にさっき頑張って走ってきたんすから……」
突然大声を出した為に咳き込むハジメ。しかし、大会参加への意気込みだけは失われてはいなかった。
「じゃあ一応二人とも登録しとくけど、二人とも無理しないこと。後、風邪ひくかもしれないから手洗いうがいも忘れないように」
「了解……っす」
ハジメはそう返事を返すとのそのそカイリの座っている机に向かい、同じように燃え尽きたように椅子に座った。
店長は溜め息をつき、含み笑いを浮かべながら見届けた後、登録用の用紙に二人の名前を書いた。
これで残り定員は三人。後10分で埋まるだろうか……。
店長は、名前を書いたボールペンを額に当て頬杖をつく。
受付は8時30分から始めたのだが、店自体は8時に開けたため、普段の客の入りから察するにすぐに埋まると考えていた。
「…………」
今度は店内全体を見渡す店長。ファイトをする者、雑談を楽しむ者、デッキの調整をする者様々いるが、単純にここにいるファイターが全員大会に参加するのであれば定員はあっという間に埋まるだろう。
しかし、現実には三人の余裕が生じている。この結果が、ヴァンガードチャンピオンシップという大会の敷居の高さを示しているのかもしれない。
そんな状態の中、店長は密かにワクワクしていた。今までに大会は二回あったが、その中でも今回の大会は一際、店長を高揚させるメンバーが揃っていた。
顔を上げ、ある方向に視線を向ける。
出入口近くに座るカイリとハジメに近付く一人の影。椿ノブヒロだ。
彼は、第二回大会におけるアネモネ代表のファイター。大会では運悪く地区大会で大会優勝者に当たってしまい惜しくも全国大会に出場することは叶わなかったが、卓越したプレイングスキルと運で地区大会でありながらその優勝者に対して、お互い一歩退かぬ熱いファイトを繰り広げた。
実力はクリアに負けず劣らずの実力者。今回の大会でもそんな熱いファイトを期待してよいだろう。
次に店長は、壁にもたれながら出入口をチラチラ確認している少女、尾崎ミヤコに視線を向けた。
自分自身は彼女についてよくは知らないが、ハジメの話からすると、非常に器用なプレイングをするらしい。
また、第一回、第二回と続く全てのヴァンガードチャンピオンシップにも出場しているらしく、本人の持つポテンシャルの高さも計り知れない。
何より、ハジメを軽くいなしてしまうその実力は本物。ハジメの言う堅実でありながら奇抜なファイトスタイルというものを是非とも拝見させてもらいたいところだ。
店長は柔らかな笑みを浮かべ、視線を反らすと、カイリとハジメの存在に気付いたシロウ、タイキ、ショウといった面々が二人に近寄るのを見かける。
トモキがいなくなり、完全なるクリア一辺倒となったアネモネ。しかも本人は大会に参加しなくなったため、低迷しつつあった活気が、今ではこれほどまでに盛り上がっている。
これは先に挙げた二人以外にも、ハジメを皮切りに多くの魅力的なファイターがここに訪れるようになったため。
純粋にファイトを楽しむ者、直向きに強さを求める者、倒したい相手とファイトせんと奮起する者など、理由は様々であるが、そう言った純粋な意志がより強い力を生み出すのに繋がるのだろう。
そしてその意志の矛先ともなっている、クリアとツカサにも是非参加してもらいたいが、まだ二人とも来ていない。今の時刻は8時55分。多少過ぎても問題ないが……。
店長は持っていたボールペンをいつでも書けるようにして握り、出入口に視線を向ける。
待ち人をいつでも迎えられるように。