「Vがスタンド!?じゃあまたツインドライブ!!が……」
「ああ。もちろん“すること”が出来る」
誇ったように男は少年にそう言った。
ジ・エンドのスキルはCB2と手札一枚で一度のアタックとツインドライブ!!、つまり手札を二枚補給することが出来、さらにドライブチェックである以上、トリガーが発動する可能性も孕んでおり、状況によっては膨大な量のアドバンテージを得ることが出来る。
「しかもヒットさせるのにV、R関係なく発動もヒットしてからコストを払うからリスクも低い。最初のドライブチェックでクリティカルが出ればクリティカルを持ったままスタンド出来るし、コストさえあれば連続で使うことも可能。そのうえ13000にもなれるなんて本当にぶっ壊れてるよね~」
ツカサはスタンドしたジ・エンドを見ながら気楽そうに呟いた。
「そのわりには随分と余裕だな。タッグファイトは味方の苦難がそのまま自分の苦しみでもあるんだぞ?」
「そんなの分かってるよ~。でも、さっきトリガーした10000ガードを使わずわざわざノーガードをしたんだ。つまり何かしらの考えが合ってあえてこの状況を作ったんだとボクは思う。だからボクは信じるだけさ。クリア君の思惑をね」
頭の後ろに手を回し、真っ直ぐクリアを見ながらツカサはそう言った。
男は一瞬ツカサが何を言っているのか分からなかった。もし先ほどの10000ガード、すなわちサイキックを使えばツクヨミのスキルを発動することが出来なくなる。はったりなのか……?
しかし、おそらくその最後の言葉に嘘偽りは無いのだろう。何故ならツカサはその気になればガードに手札を使うことが出来るのだから。
それをしなかったのはツカサがとても大きな信頼をクリアに寄せていたため。
本人も決してレベルが低い訳ではない。しかし、そんな彼がこれほどの信頼を置くということは、それほどクリアが持つ力が強大であると示唆させているということ。
男は警戒心を強め、目の前の相手と対峙する。ツカサの言う思惑を破綻させんとするために。
「スタンドしたジ・エンドでVにアタック!」11000
「ノーガードだ」
まるでリプレイを見ているかのようなこのやり取り。
男は眉をひそめると、デッキからカードを捲っていった。
「ツインドライブ!!一枚目、バーサーク。二枚目、ドラゴニック・オーバーロード。トリガーなしだ」
「ダメージチェック、三日月の女神ツクヨミ」
「バーのブースト、ベリコウスティでVにアタック」22000
「ロゼンジ・メイガス、半月をインターセプトでガード」24000
「……俺はこれで終了だ」
かげろう
手札8
表ダメージ1(0)
裏ダメージ1(1)
「……ふぅ」
男がターンの終了を告げると、少年は息をつきながら緊張を解いた。
たった三回のアタックであったが、少年にはそれ以上のプレッシャーを感じていたのだ。
「俺のスタンド&ドロー。半月のスキル……成功。満月の女神 ツクヨミ(11000)にスペリオルライド、ザ・ヴァンガード。こちらもやらせてもらおうか」
クリアは手札のカードを一枚指に挟むとそれを男に見せつける。
「取られたら取り返す。サイキック・バード(4000)をコール。そしてスキル。自身をソウルに入れ、一枚引く。これで俺のソウルは六枚、ツクヨミのスキルを発動」
クリアはそう言うと、今し方受けたダメージ二枚裏返した。
「『荒奇葬神(すさくほうもち)』。俺は二枚引き、手札からCEOアマテラスをソウルに置く」
シンプルかつ強力なスキル。一枚のアドバンテージと手札の調整、そしてソウルを一枚増やすという動作を起動効果で使用出来るため、事故でも起きない限りほぼ使用が約束される。
当然、男もその存在には気付いているため特に関心を示さず、自分の手札を前に出した。
「取ったら取り返すか……。俺の手札は八枚。さて、これをどう取り返すのかねぇ?」
「試してみるか?俺は右列にジェミニ(8000)とサイレント トム(8000)、左上に満月、V裏にドリーム・イーター(5000)をコール。バトルに入る」
満月/満月/トム
三日月/ドリーム/ジェミニ
(トムが来たか。オラクルシンクタンクを象徴するアタッカーの一つ。こいつのアタックはG0でガードすることはできない。厄介なスキルだが……)
男はチラリとヨシキを見ると彼も同じことを考えていたのか、目を合わせニヤリと笑みを浮かべた。
「ドリームのブースト、Vの満月でヴァンガードにアタック」16000
「ノーガード」
「ツインドライブ!!ファースト、稲葉の白兎。セカンド、バトルシスター じんじゃー。GET、クリティカルトリガー。クリティカルはV、パワーはトムに加える。悪いな、今回の弾で強化されたのはかげろうだけじゃないんでな」13000
憎たらしげな笑みを浮かべるクリア。二度目のクリティカルトリガーに男もこれには思わず顔をひそめた。
「チッ、運のいいやつめ。ダメージチェック。一枚目、バリィ。二枚目、槍の化身 ター。クリティカルトリガーか、効果は全てVに加える」16000
「三日月のブースト、満月でベリコウスティにアタック」18000
「ノーガード。ベリコウスティは退却」
「ジェミニのブースト、トムでVにアタック。トムがアタックした時、相手はG0のユニットをガーディアンとしてコール出来ない」21000
お互いトリガーの効果でパワーが上がっているため、このアタックには10000のガードが必要となる。
しかし、トムはG0でのガードができないため、ガードするには最低でも手札を二枚使わなければならない。
――本来なら。
「レッド・ライトニングでガード!」26000
「えっ!?」
ヨシキのタッグガード。この行為に堪らずツカサは声を漏らした。
「ちょっとちょっと、聞いてなかったの?G0はガード出来ないんだけど」
「あーはっは!なんか言ってるすよ、兄貴!」
「ヒッヒッヒ、お前こそ忘れてるんじゃないのか?タッグファイトのルールを」
ツカサの反応があまりに予想通り過ぎたのか、男とヨシキは笑いながらそう言った。
そんな男の態度が腑に落ちないツカサは睨み付けるようにクリアを見た。
「さっきも言っただろ。タッグファイトにおいて、相手を指定するスキルの場合、適用されるのは目の前の相手だけだ。つまり相方はそのスキルに縛られることなく、すり抜けることが出来る」
呆れた様子で説明をするクリア。最初にタッグファイトをしたことがないと聞いた時点である程度察してはいたが……。
そしてやはり当然のようにツカサは不機嫌そうな表情を浮かべながら不満を吐き出した
。
「え~、何それ。じゃあトムとかもうただの8000アタッカーじゃん。クリア君はそれ知っててトムを出したの?」
「いいからお前は少し黙れ……。これじゃあいつまで経ってもファイトが終わらん……」
鬱陶しそうに頭を抱えるクリア。そんなクリアに言葉がツボにきたのか、笑い声を上げながらヨシキはデッキに手を添えた。
「はっ、違いねぇ……。そいじゃあアタックが終わったんなら、俺のターンやらせてもらうぜ!」
オラクル
手札4
表ダメージ0(0)
裏ダメージ3(2)
「スタンド&ドロー。タッグファイトの真髄、見せてやるぜ!Mr.インビンジフル(10000)にライド!」
高らかに宣言しながらライドを決めるヨシキ。
もはやこの小説お馴染みのカードであるMr.インビンシブル。このカードはメインフェイズの始めにSCしダメージを一枚表にするスキルを持っている。
「SC(マジシャンガール キララ)ダメージを一枚表に」
「ふ~ん。タッグファイトの真髄ね~。かげろうの強力なCBをノヴァのコスト回復で使い回すってわけだ。なるほどね」
ツカサはチラッとクリアを見た後、そう呟いた。
「その通り。焼きはオラクルのほうしか出来ねぇが、出てくるジェミニを潰していけばそいつのトムは完全に死ぬ!」
口を尖らせながらクリアのトムを見るヨシキ。しかし、クリア本人はまるで関係ないように目を瞑って立ち尽くしていた。
「それはボクがさせないよ!」
クワッと前に出ながらツカサは言った。しかし、ヨシキは馬鹿にしたように目を見開く。
「はっ、強がんなよ。ヴァンガードはどこぞのカードゲームと違って相手のスキルを妨害することは出来ねぇ。大人しく傍観してな」
「それはどうかな。――最終的には君が傍観者になってもらうよ」
突如、ツカサの声質が変わる。それに一瞬臆したヨシキは舌打ちをしながらはね除けるように声を荒げた。
「チッ、やれるもんならやってみな!左列にタフボーイとキララ、右上にブラウクリューガー(9000)をコール!」
キララ/インビンシブル/ブラウクリューガー
タフボーイ//
「ブラウクリューガーでナイトミストにアタック!」9000
「ノーガード、ナイトミストは退却するよ」
「インビンシブルでVにアタック!」10000
「それもノーガード」
ヨシキは舐めたような笑みを浮かべながら言うツカサを見て歯ぎしりをする。
(タッグファイトのルールもまともに知らない餓鬼が、いきがってんじゃねぇよ!)
「ツインドライブ!!一枚目、スリーミニッツ!ドロートリガーだ!一枚引きパワーはキララへ。二枚目!はっ、レッド・ライトニング!クリティカルトリガー、クリティカルはもちろんV、パワーはキララに加える!さぁ、2ダメージだ!」
ダブルトリガーにテンションが上がるヨシキ。さすがのダブルトリガーに目を丸くするツカサではあったが、仕方がないようにため息をついた。
「ダメージチェック。ファースト、バスカーク。セカンド、イービル・シェイド」
トリガーなし。ダメージは7対5。そこにダブルトリガーでパワーが膨れ上がったキララのアタックがイクシードに襲いかかる。
「さぁ、後が無いぜ!?タフボーイのブースト、キララでVにアタック!」27000
「間違いないね。というわけで突風のジンでガード!仕方ないからライドしようと思ってたバスカークを捨てて完全ガード!」
「防いだか、まぁいいさ。これで俺のターンは終了。さぁ、見せてみろよ。お前のその思惑をよ!」
ノヴァ
手札4
表ダメージ1(3)
裏ダメージ0(1)
挑発的な態度を取るヨシキに、ツカサは口元を緩めながらドローした。
「焦らない焦らない。何事にもゆとりを持たないとね。先ずは左上に荒海のバンシー(4000)をコール、そしてスキルでソウルに入れて一枚ドロー。ふむ、V裏にカットラスをコール。そしてSB。ちょっとコストもらうね」
ツカサがそう言って先ほど入れたバンシーを捨てると、クリアも察したように自身のソウルのアマテラスをドロップゾーンに置いた。
「ダメージと同じでソウルも共有出来るからボクはこれで引くことが出来る。ツクヨミは最低六枚ソウルに有ればいいからこのSBは特に痛手は生じない。最後に左上にルイン・シェイド(9000)をコールしてバトルに入る!」
ルイン/イクシード/ネグロマール
カットラス/カットラス/案内
ツカサがそう宣言するのと同時に、男の眉がつり上がる。男が疑問に思う原因。それはツカサの場にあった。
(どういうことだ……。ラインが滅茶苦茶だ。ドロップゾーンにはサムライがいる以上、その気になればライン調整は出来るはず。わざわざ案内をそのままにしたのはツクヨミにCBを温存するためか?いや、それ以上に気がかりなのは……)
男は、視線を今まさにアタックしようとしているツカサに向けた。
(こいつ……、ヨシキがインビンシブルにライドしてから迷いが無くなってやがる。最初はタッグファイトの戸惑いをテンションだけで誤魔化そうとしていたようだが、今はそんな雰囲気も感じさせない。何か核心的なものをこのインビンシブルから感じ取ったというのか……)
沸き上がる疑問。もはやヨシキの態度を気にかける余裕すら無くすほど、男の神経は目の前の二人のファイターに向けられていた。
「…………」
同じくインビンシブルにライドしてから無言を続けるクリアは、男が違和感を感じしかめっ面をすると、キッと目を尖らせた。
「案内するゾンビのブースト、ネグロマールでキララにアタック!」13000
「貧弱なパワーだな、おい。そいつはブラウクリューガーをインターセプトしてガードだ!」14000
「だよね~。なら、カットラスのブースト、イクシードでVにアタック!」15000
「それは……ノーガードだ!」
ヨシキは一度手札を確認すると、顔をしかめながらそう言った。
「ツインドライブ!!ファースト、サムライ。セカンド、荒海のバンシー!GET、クリティカルトリガー!」
まるで先ほどのお返しと言わんばかりのクリティカルトリガー。お互いが一歩も引かないこのクリティカル合戦に、側で見ていた少年は夢中で見いっていた。
もちろん、出された側はこれを良しとするわけもなく、「またか」と吐き捨てるようにして呟いた。
「お互い調子いいね~。ヴァンガードの神様はこのダメージレースを均衡に保ちたいという思し召しかな?――なら」
ツカサはニヤリと笑みを浮かべる。その表情からは何かよからぬことを考えているということが嫌でも伝わってきた。
「効果は全てルイン・シェイドに加えるよ!こっちはまず一点のダメージを要求するよ!」
「なにっ!?」
タッグファイトだろうと構わず、お得意の奇策を発揮するツカサ。
ヨシキがそう声を出して驚くように、男もまたこれには目を丸くするが、この行動にクリアがどんな反応をしているかが気になった。
「…………」
クリアは全く動じることなくその場に立ち尽くしていた。この行為がクリアにとっても望んでいた結果なのか、それとも既に口出しをするのが面倒になっていたのかは定かではない。
ただ、彼にとってこれが予定の範囲内なのだろう。でなければ少なからずのアクションを起こすはずだ。
ヨシキは動揺を押し殺しながらダメージを捲る。
「……ダメージチェック、ツインブレーダー。トリガーなしだ……」
トリガーが無いことを確認したツカサはニヤリと笑みを浮かべると、まだスタンドしているルインに手を添えた。
「カットラスのブースト、ルインでヴァンガードにアタック!ルインはスキルで二枚ドロップ(不死竜スカルドラゴン、スケルトンの見張り番)、パワー+2000!」21000
クリティカル2であるルインのアタック。これがヒットすればヨシキ達のダメージは後が無くなる。
「チッ、守るに決まってんだろ!スリーミニッツとレッ……っ!?」
瞬間、ヨシキの手が止まる。ツカサは何事かと首を傾げると、ヨシキは恐る恐る男の顔を見て、唾を飲み込むと何かを察したようにスリーミニッツのみGにコールした。
「スリーミニッツでガード……」15000
「加えて、ガトリングクローとモニカでタッグガードだ」25000
シュンとなりながらも取り敢えずガードに成功したヨシキ。
「?まぁいいや。ボクのターンはこれで終了」
グランブルー
手札5
表ダメージ2(0)
裏ダメージ2(3)
険しい表情を浮かべる男の様子にクリアは視線を向けた。
(あそこでかげろうのほうがノヴァにタッグガードをしたのはおそらくまだこちらのトムを警戒してのことだろう。たとえバーサークで焼けるといえど、ツクヨミのドロー力を念頭に入れた堅実な判断だ。もう少しノヴァの奴みたいな奴ならやり易かったのだが……)
クリアは恨めしそうにツカサを見つめるヨシキを見ながらそう思った。
「俺のスタンド&ドロー!左上にバーサーク・ドラゴンをコール、そしてCBだ。ジェミニには退却してもらおう」
クリアは知っていたかのように速やかにジェミニをドロップゾーンに置いた。
それを確認し、男は再び手札を確認し仕方なさそうに舌を打った。
「右上にバーニングホーンをコール、そしてバトルだ」
バーサーク/ジ・エンド/バーニングホーン
バー/エルモ/
「バーニングホーンでトムにアタック」12000
「半月でガードだ」13000
「エルモのブースト、ジ・エンドでヴァンガードにアタック」17000
「じんじゃー、白兎でガードだ」26000
前のドライブチェックのカードをそのままガードに使用するクリア。決して自分の手の内を見せようとはしないということだろう。
「ツインドライブ!!一枚目、ゲンジョウ!チッ、回復はないがパワーはバーサークに加える!二枚目、ゴジョー。次だ!バーのブースト、バーサークでトムにアタック!」22000
「ノーガード、トムは退却」
最後のアタックを終え、今回クリアは一点のダメージも受けることなく相手ターンを退けた。
しかし、男にとってそんなことはどうでも良かった。ただひたすらに込み上げるもどかしさに、彼は細心の注意を払いながらファイトを進める。
彼らが何をしてくるにしても、それは必ずこちらで対策出来る範囲から出ることはない。何故ならこれはヴァンガードなのだから。
自分を落ち着かせるように、これ以降のファイトをシミュレーションする。こうでもしなければ、彼はもうこの空間に耐えることが出来なくなっていた。
かげろう
手札7
表ダメージ3(0)
裏ダメージ1(2)
「スタンド&ドロー。――ツクヨミのCB」
引いたカード確認し、そのカード卓上に伏せたクリアはコストを余すことなく使っていく。
ツクヨミのこのスキルの欠点として、メインフェイズに使用するためデッキトップにあるトリガーを引いてしまう可能性があるということ。
非公開領域であるデッキの中からトリガーを避けてドローするというのは不可能だが、たとえば前のトップカードがトリガーなら次はトリガー以外を引きやすくなる、と考えられなくもない。
少なくとも――
「俺は今ドローしたビクトリー・メーカーをソウルに入れ、スキルで引いたこのトムとジェミニを再び左列にコールする」
――トリガーが二枚連続で捲れたならば次の二枚のカードが両方ともトリガーである確率は格段に下がる。
満月/満月/トム
三日月/ドリーム/ジェミニ
「チッ、また出てきやがったが。どうせまた次のターンにはバーサークで焼かられるっていうのによ」
ヨシキが憎らしげにそう言うと、クリアはフッと笑った。
「トムで一発相手に圧力を与えられれば十分だ。ドリームのブースト、Vの満月でVにアタック!」16000
余裕な表情を浮かべながらクリアはアタックを宣言する。男は手札にあるバーサークを一目見るとカードを一枚取った。
「ゲンジョウとバーサークをインターセプトでガード!」26000
「ツインドライブ!!ファースト、オラクルガーディアン・ニケ。GETクリティカルトリガー。効果は全てトムに。セカンド、戦巫女 タギツヒメ。ジェミニのブースト、トムでヴァンガードにアタック」21000
「ベリコウスティと……」
男は手札からガーディアンをコールすると、ギロリと威圧的な視線をヨシキに向けた。
「あっ!レッド・ライトニングでガードだ!」26000
それに気づいたヨシキは慌ててガードをする。
「三日月のブースト、満月でヴァンガードにアタック」18000
「チッ、ノーガードだ。ダメージ、槍の化身ター」
ダメージに余裕があるためか、それとも丁度いいガード札が無かったか、男はそう言ってダメージを受けた。
クリアは目を瞑りながら無表情でそれを確認すると手札を卓上に置いた。
「これで俺はエンドだ」
オラクル
手札3
表ダメージ0(0)
裏ダメージ3(4)
「俺のスタンド&ドロー……。そしてインビンシブルのSC(ドグー・メカニック)。そしてダメージを表に」
男からの指摘を受けるようになり、覚束ない手先で処理を進めていくヨシキ。
しかし、ここからの行動は既に決まっている。
「右上にハングリー・タンプティー(9000)をコール!スキルでダメージを表にする!」
かげろうの強力なCBを使う為にダメージコストを回復させること。これこそがノヴァの強みであり、タッグファイトにおける役割。
サポートに徹することで自分のプレイングスキルの低さを補い、委ねることで男が最も動きやすい環境を提供する。これこそが彼らがタッグファイトをする上での必勝法だ。
(いつもと同じことをすりゃいいんだ……。そうすりゃ後は兄貴がなんとかしてくれる!)
ヨシキはそう自分に言い聞かせると、続けてユニットをコールした。
「V裏にブラウパンツァー(6000)をコールし、バトルだ!」
キララ/インビンシブル/タンプティー
タフボーイ/ブラウパンツァー/
「タンプティーでルインにアタック!」9000
「それはノーガード。ルインは退却するよ」
「ブラウパンツァーのブースト、インビンシブルでVにアタック!」16000
「スケルトンの見張り番とサムライでガード!」25000
「ツインドライブ!!一枚目、ドグー・メカニック。二枚目、ラウンドガール クララ!ヒールトリガーだ!ダメージを回復し、パワーはキララに加える!タフボーイのブースト、キララで……ネグロマールにアタック!」22000
アタックする対象に少し悩んだ末、ヨシキはツカサの手札を見た後そう宣言した。
「うーん、キララでそこをアタックかぁ。仕方ない、ノーガードだよ」
ツカサがそう言ってネグロマールをドロップゾーンに置くのを確認したヨシキは、表になっているダメージと男の手札を見比べながら口を開いた。
「キララのアタックがヒットした時、CB!一枚引き、俺のターンは終了だ……」
ターンの終了を宣言したヨシキは、今度は恐る恐る男の表情を伺う。自分のこの動かし方が良かったか悪かったかを確認するために。
ノヴァ
手札4
表ダメージ0(2)
裏ダメージ1(3)
「…………」
男は黙りこくりながらクリアを見据えている様だった。
ヨシキはどうしたのかと思いながら自分もクリアを見ると、特に今までと変わりなく腕組みをしながら目を閉じていた。
男が何も言わないということは今の自分のプレイングは特に問題は無いのだろう。ツカサの手札は三枚、うち一枚はトリガー。CBもなし。ならここはダメージを与えるより戦力を削りこちらの体勢を整えたほうがいい。
CBを使ったとはいえ、まだ2つ残っているし男の場、手札から考えるにこの場面で使えるCBはバーサークのみ。この使用に差し支えはないはず。
ヨシキはこのプレイングに自信をもちながら今しがたドローしたツカサに視線を戻した。
「ボクのスタンド&ドロー。案内するゾンビを前に移動して後ろにロマリオ。左上にバスカーク(10000)をコールするよ」
バスカーク/イクシード/案内
カットラス/カットラス/ロマリオ
「ロマリオのブースト、案内するゾンビでキララにアタック!」13000
「ハングリー・タンプティーをインターセプト!」14000
「カットラスのブースト、イクシードでVにアタック!」15000
ツカサのVによるアタック。ヨシキ達のダメージはヒールトリガーで回復したため、たとえクリティカルトリガーが出たとしても負けることはない。
「そいつはノーガ……」「ブルーレイ・ドラコキッドでガード」
ヨシキがノーガードを宣言しようとした瞬間、横で男がそう言いながらガーディアンをコールした。
何事かと思いながら目を丸くし、ヨシキは男の顔を見る。
(銀髪のVのアタックは二回目、たとえこちらがトリガーを発動したとしても効果は薄い。だが学ランはおそらくVからアタックしてくるはず。ならここをガードし、次の学ランのアタックでトリガーにかけるほうが効率はいい……)
男が真顔でヨシキを見つめ返すと、ヨシキは察したように頷くき手札からカードを取った。
「加えて、スリーミニッツでガード!」25000
「ツインドライブ!!ファースト、突風のジン。セカンド、大幹部 ブルーブラット。残念、トリガーなし。気を取り直してカットラスのブースト、バスカークでVにアタック!」15000
「ラウンドガール クララでガードだ!」20000
「これでボクのターンは終了だよ」
前の男のターンと同じように一点のダメージを許さずそのターンを終わらせたヨシキ。
ターンは一巡したが、ダメージはほとんど変わらず7対6。長い均衡が四人の間で保たれている。
しかし、それも時間の問題。攻防が続けば続くほど手札は消耗し、受けるダメージに余裕が無くなれば嫌がおうでも手札を使わなければならないのだから。
グランブルー
手札4
表ダメージ0(0)
裏ダメージ4(3)
「スタンド&ドロー。左上にバーサークをコールし、CB!ジェミニを退却させる。そして右下にゴジョー(7000)をコール」
バーサーク/ジ・エンド/バーニングホーン
バー/エルモ/ゴジョー
「エルモのブースト、ジ・エンドでVにアタック」17000
「オラクルガーディアン・ニケ、トムをインターセプト」26000
少ない手札にも確実なガードを使うクリア。CBは無いため、ペルソナは使えないがクリティカルが出ればそれでジ・エンド。賢明な判断である。
「ツインドライブ!!だ。一枚目、槍の化身 ター。クリティカルだ、効果は全てバーサークに。二枚目、バーサーク。バーのブースト、バーサークでヴァンガードにアタック」22000
案の定トリガーしたクリティカル。しかし、クリアの手札は二枚。たとえここでガード出来たとしても除去とインターセプトで消えた右ラインの埋め合わせが出来なくなってしまう。
そして、男もそれを見越して先にトリガーの乗ったバーサークからアタックしたのだ。
(……こい……ガードしてこい。お前がガードすりゃ、俺はゆっくりバーニングホーンで残った満月を潰す。出来なきゃ俺達の勝ちだ。このクリティカルが均衡したゲームを俺達に傾かせた。さぁ、その澄ました表情を歪ませて見せろ!)
男は不敵な笑みを浮かべながらクリアをジッと見据える。自分に優勢が回ったことで、精神的に余裕が出来た為だろう。
それに対しクリアは手札を一瞥したかと思うと、突然口元を緩め男に視線を向けた。
「いやにご機嫌だな。そんなにトリガーが出たのが嬉しかったのか?」
煽るような口振りクリアはそう言った。こんなことを最初に言われれば多少頭にくるだろうが、この局面においてそれはただの強がりにしか聞こえない。
「当然だ。王手をかけるクリティカルがここで出たんだ。寧ろ喜ばないほうがおかしいんじゃないか?」
「なるほど、王手をかける……か。いや、王手にならずともそれなりの痛手を出せると考えての発言だろうな。だが――忘れてないか?」
「なに?」
鼻で笑いながら言うクリアに男は眉をつり上げる。
「分からないのか?何もタッグファイトをやってるのは――」
「くっ……まさか!?」
男は目を開きながら視線をクリアの横、つまりツカサのガーディアンゾーンに向ける。
そこには、二枚のカードとニヤニヤ笑みを浮かべるツカサの姿があった。
「――お前らだけじゃないんだぜ?」
「バンシーとブルーブラットでタッグガード!」26000
――忘れていたわけではない。ただ、ツカサがタッグファイトに慣れていないということもあり、タッグガードをしないのではないのかという思い込みがこのような発想を産んだ。
「チッ、そうかよ。まぁいい、やることは変わらん。ゴジョーのブースト、バーニングホーンでRの満月にアタックだ」18000
「ノーガード、満月は退却」
少しの迷いもなく満月を退却させるクリア。そんな彼に目を細めると、男は再び警戒を張り巡らせる。
「……ターン終了だ」
かげろう
手札5
表ダメージ0(0)
裏ダメージ5(1)
「俺のスタンド&ドロー。左上に半月、右列にタギツ(9000)と三日月をコールする」
半月/満月/タギツ
三日月/ドリーム/三日月
「……引き当てやがったか」
「あぁ、お陰様でな。ドリームのブースト、満月でVにアタックだ」16000
余裕な表情を浮かべるクリアに男は顔をしかめると、当初の予定通りノーガードを宣言した。
「ツインドライブ!!ファースト、サイキックバード。GETクリティカル、クリティカルはV、パワーは半月に加える。セカンド、ロゼンジ。GETヒール、回復し、パワーは半月に」
「ダブルトリガーか……。ダメージチェック。一枚目、槍の化身ター。クリティカルトリガー、効果は全てVに。二枚目、ワイバーンガード バリィ」16000
「狙い通りトリガーが出たわけか。だが、無意味だ。三日月のブースト、タギツでバーニングホーンにアタック」19000
「けっ、無駄に15000ガード要求ってか?アホらしい。ノーガード、バーニングホーンは退却だ」
「三日月のブースト、半月でヴァンガードにアタックだ」26000
「ドラコキッドとカーバンクルでガード」31000
「ほう、バーサークは残したか。ということはさっきのジ・エンド以外にアタッカーがいないみたいだな……」
ドンッ!
クリアの声を遮るように鈍い音が五人の間に流れた。
「ヒッ!?」
「あ……兄貴……?」
突如、男は右手で握り拳を作り、それで思いきりスタンディングテーブルを叩いた。男のこの行動に少年は声にならない悲鳴を上げる。
ヨシキが恐る恐る声をかけると男は叩いた腕を震わせながら口を開いた。
「……てめぇ、さっきまで大人しかったのによく喋るじゃねぇか、おい。うっぜぇんだよ……!自分が不利になったからって開き直ってんじゃねぇぞ……!」
完全にキレた。誰が見てもそう分かるほど、目の瞳孔は開ききり、男の顔は血管で膨れ上がっていた。
ヨシキはそんな男の様子に顔を青くしながら後退りし、さすがのツカサもこれには苦笑いを浮かべ「あらら」と呟きながら冷や汗をかいた。
「クックック、そりゃ勘違いだぜ。おまえ」
ニヤリと口を尖らせながらクリアは言った。その表情はまるで、いつもツカサが浮かべる人を馬鹿にしたようなニヤニヤ笑いであった。
「不利になった?違うな、不利になってんのはお前らのほうだ」
クリアは手札を持つ手を男に向ける。対等とは程遠い、見下したような態度で男に言いはなった。
「開き直った?違うな、俺は……いや、俺達は王手を取ったことでなめてかかってんだよ。分からないか?もうお前ら、何も出来無いんだぜ?」
「何も出来ない、だと?はっ、それはお前らのほうじゃないのか?お前はCBで既にツクヨミのスキルを使うことが出来ず、銀髪のほうに関してはCBがなくてG0で殴る始末。だが、俺達は違う。タッグファイトの利点を最大に生かしたデッキ構築とプレイング。たとえピオネールのようなビックネームが相手になったとしても、タッグファイトじゃ俺達に勝つことは出来ねぇ」
「俺のターンはこれで終了。それは面白い。ならそれを一つ見せてくれないか?」
クリアは手札を伏せ、目を閉じながらそう言った。
「チッ、言われなくてもやるってんだよ。ヨシキ!たしかさっきドグーを引いてたな。それとインビシブルのスキルでコストを回復させろ!お前ら、手札はもうギリギリだよな?さっきのバーサークで潰し、ジ・エンドを絡めて徹底的に……」
「出来ないっす……」
男が虎視眈々と己の策を口に出しているところをヨシキは汗だくで言った。
「あ?なんだって?よく聞こえなかっ……」
「出来ないんすよ……。兄貴……」
ピキッと更に血管がふくれ上げた男は、怒りをそのままにヨシキを怒鳴り散らした。
「んだとっ!?俺の言うことが聞けねぇってのか!ヨシキ!」
「おいおい、そう言わさんな。クックック、どうやら舎弟のほうが物分かりが良いみたいだぜ?」
「なにっ!?」
「言っただろ?『ユニットのスキルが適用されるのは自分と目の前の相手のみ』。つまりノヴァのコスト回復も自分のダメージのものしか適用されない」
「何そんな当たり前のことを今さら言いやがんだ。そんなの端から知って……!?」
鬱陶しそうにダメージに視線を向けた瞬間、男は絶句した。
今まで気にしていなかった。いや、気にする必要の少ない二つのダメージゾーン。
何度もタッグファイトをしたことのある男にとっても初めての光景がそこにはあった。