先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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好敵手

ドサッ

 

「「ツカサさん!」」

「ツカサ先輩!」

 

薄れゆくユニット達の中に響く、人の倒れる鈍い音。

 

死力を尽くしたファイト。しかし、終わりというのは呆気ないものだ。

 

「ユウさん!」

「わかっています!私についてきてください!」

 

今まで落ち着いた雰囲気であったユウが初めて声をあげる。

 

観客席にいた全員は、ユウを先頭に階段をかけ上がり、MFSによる違和感だらけの扉からドームを出た。

 

「ったく……何がどうなってるんだよ……。一体ツカサ先輩の身に何が起こってるんすか!ユウさん!」

「それは……もう私にも分かりません……」

 

訴えるように言うハジメにユウは自信なさげにそう呟いた。

 

ファイトに夢中で気づかなかったが、結果的にファイトは制限時間の45分を越えてしまっていた。

 

だからユウにすら予測することが出来ないのだろう、と後ろから追うカイリは思った。

 

(ツカサさんのファイトを許可したことを後悔していなければいいんだけど……)

 

しばらく行くと、初めにクリアが入ってきた扉が見え、外にいた黒服の男が既に扉を開けてくれていた。

 

カイリ達はそのまま中に走り込む。それに気づいたクリアは、カイリ達に視線を向けた後、既に片付けたデッキとサングラスをしまい、出口へ向かった。

 

すぐにツカサへ近寄ろうとするカイリ達であったが……

 

「えっ……あれって」

 

カイリはそう呟く。そこにはツカサに寄り添うように涙を流す一人のシロウと同じくらいの幼い少女の姿があった。

 

「ユウさん……あの子は……」

 

カイリがそう言うと、ユウは複雑そうな顔をしながら口を開いた。

 

「……彼女は『新田ソラ』。MFSの製作者であり、ツカサが尽くしてきた人物であり――」

 

ユウは胸に手を当て、一拍おくとゆっくり口を開いた。

 

「私の娘であり、ツカサの妹です」

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「――あらら、やっぱり来ちゃったんだね。来ないでって言ったのに」

 

倒れていたツカサが目を開くと、そこには長い金髪の少女が瞳に映った。

 

ツカサがそう言うと、ソラは溢れでる涙を拭いながらツカサの胸に両手を付きながら口を開いた。

 

「そんなの……無理に決まってるんだぞ……。お兄ちゃんがこんな苦しい思いをしてるのにあたしはただ見てるだけなんて……」

「なに言ってるんだ。君はもう十分やったんだ。君はただ純粋無垢にやりたいことをすればいいんだから。今までみたいにね」

「でも……」

 

後ろめたい気持ちを含んだソラの言葉にツカサは目を瞑りながら安心させるように言った。

 

「大丈夫。最初はボク自身どうなってもいいって思ってたけど、そんな浅はかな考えはもうないよ。大体、そんな事故犠牲な精神で人を救おうなんていうのがそもそも間違ってたよ」

 

そこまで言うと、ツカサはソラを見ながらニカッと笑い呟いた。

 

「ボクは君の笑顔を見るために、それだけのためにこうやって頑張ってきたんだ。それを見るまではボクは君の側に居続けるよ。だから、もし今ボクの為に何かしたいと思ってるなら君の笑顔を見せて欲しいな~」

 

ソラは呆気にとられたようにツカサを見た。すると、ソラは一生懸命流れ出る涙を拭い、目一杯の笑顔をツカサのために作った。

 

ツカサはその作られた笑顔の頬に流れる涙を見ながら悪戯っぽく笑った。

 

「ハハッ、昔に比べてソラは随分優しくなったよね~。もしかしてもうボク頑張らなくてもいいかな?」

 

ツカサの言葉を聞いたソラは、涙を拭いながら呟く。

 

「昔に比べては……余計だぞ……。それにあたしはまだヴァンガードを広めることを諦めた訳じゃないんだからな!」

 

むすっとしながら言うソラにツカサはニヤリと笑った。

 

「そうそう、君はそうでなくっちゃさ。それにそのことについては問題ないよ」

 

ツカサはそう言うとソラの後方を見る。そしてソラもそれにつられて後ろを見た。

 

そう、そこにいた最強のヴァンガードファイターを。

 

「クリア君……」

「悪いな」

 

クリアは言った。持っていたデッキを翳しながら。

 

「こいつ、運ゲーなんだ」

 

そう言うと、ツカサは参ったような表情を浮かべながら目を瞑った。

 

「まったく……本当にクリア君には敵わないな」

 

ツカサは穏やかな表情を浮かべながら呟いた。

 

「本当にあそこでクリティカルトリガー引くんだもんな~。せっかくのボクのヒールトリガーが無駄になっちゃったよ」

「ふん、いい気なもんだな。あれだけ言って結局ファイトに負けたと言うのにヘラヘラしやがって」

「まぁね。ボクはもう後悔しないようにしたんだ。どんなことがあってもね。でも、ヴァンガードを広めることは止めないよ。これからもボクは君たちの下でヴァンガードを広めるために尽力することにしたからね」

 

ツカサはクリアを見ながらニッと笑った。まるで自分の家に土足で踏み込んでくるかのような感情をクリアは覚えた。

 

「……勝手にしろ」

 

クリアはため息をつくとそう言いながら脚を踏み出した。

 

「ツカサ」

「えっ!?」

 

クリアは背を向けながらツカサの名を呼んだ。そう、今まで決して名前で呼んでくれなかったクリアが初めてツカサの名を呼んだのだ。

 

「たしかにこのファイトでは俺が勝った。だが前のファイトを踏まえると一勝一敗の引き分けだ。お前が本当の意味で俺を越えたいのであればせいぜい……」

 

クリアは肩を落とす。後ろから見ていたツカサにはその表情は見えなかったが、なんとなくその時のクリアが笑っているのがわかった。

 

「俺の戦いを見逃さないようにするんだな」

 

クリアはそう言うと歩みを進めた。

 

「なんだ、あいつ……。お兄ちゃんに勝ったからって調子ずきやがって。お兄ちゃんもそう思うでしょ?」

「ううん……きっとあれはクリア君なりにボクを気を使ってるんだよ、きっと」

「そうなの?」

「多分ね」

 

疑り深そうに言うソラにツカサは微笑みながらそう言った。そして去って行くクリアを見届けながらツカサは呟いた。

 

「見逃さないように……か。遠慮せずこれからも君についていっていいんだね、ボクは……」

 

そしてクリアからのメッセージを理解したツカサは心の中で呟いた。

 

(ありがとう。そして、これからもよろしくお願いします!)

 

クリアが出て行った扉を仰向けの状態で見送る。すると、今度は逆の方向から大勢の足音が聞こえてきた。

 

「ツカサさん!」

「ん?」

 

誰かが自分の名を呼んだのを聞き、ツカサはそちらへ顔を起こした。そして、そこにあった光景にツカサは笑いながら口を開いた。

 

「やぁ、皆勢揃いだね」

 

そこにはユウを先頭にカイリ、ハジメ、シロウ、そして新顔であるショウが肩を揺らしながらこちらを見ていた。

 

そして、ツカサのそんなお気楽な発言にユウは心配そうにツカサに近づく。

 

「平気……なのですか……?」

「平気……ではないかな?今はとっても我慢してるからあれだけど、尋常じゃないほどの眠気が襲ってきててちょっと気を許しただけでも寝ちゃうね。って言えるくらいには平気だけど……」

「――お母様」

 

ツカサが乾いた笑顔を浮かべる側で、ソラは突然立ち上がる。

 

ツカサが無事であることに安堵するのも束の間、こちらを厳しい形相で見ているソラに気付いたユウは堪らず視線を反らした。

 

「お母様は知っていたのか?お兄ちゃんがこうなることを。お兄ちゃんがこんなに苦しい思いをしてることに私には大したことないなんて嘘を……!」

「ソラ!」

 

声を震わせながら怒りを剥き出すソラを、ツカサはボロボロの身体にも関わらず、大声でソラの名を呼んだ。

 

「なんだ!お兄ちゃんはいいのか!?あたしがこのことを知っていればこんなことにはならなかったかもしれないんだぞ!?」

「ケホッ……違うんだよ、ソラ」

 

ツカサは噎せながらも必死にあることをソラに伝えようとした。

 

「君にボクの身体のことを話さないように諭したのは……ボクなんだ……」

「えっ……。なんで……」

 

先ほどまでの怒りの形相から一転、ソラは困惑した様子でツカサを見た。

 

ツカサはフッと笑った後、横になったまま、天井を見つめた。

 

「君があの人にヴァンガードを否定されたあの時から、ボクはただ純粋に君に笑ってほしいということだけを思って生きてきた。前にボクに見せてくれたあの無邪気な笑顔を……。だからボクはどんなことをしてもあの時の君に戻ってほしいと思った。あの人にどんなことをしてでもヴァンガードを認めさせると誓ったんだ」

 

ツカサは自分の顔に手を置くと続けて呟く。

 

「そのためにはこの力が必要だとボクは思ったんだ。たとえ身を磨り減らすことになってもね」

 

当時の自分の心情を思い出しながらそう言うと、ツカサは視線を涙で目が真っ赤になったソラに向けた。

 

「でもそれを君に知られたら今みたいに止められるかもしれない。だからお母さんやスタッフの人にボクが手を回しておいたんだ。君にこのことを話さないようにってね」

 

呆然とそれを聞くソラ。しかし、その表情は次第にむすっとしだし、手を震わせ始めた。

 

「ソラのことだから構わずやらせてくれるかもとも思ってたけど、そんなことは無かったね。いやぁ、ソラは本当に優しいな~」

「…………」

 

ソラは黙り込み、顔を俯けながらツカサに近づく……。

 

ドンッ

 

「ぐうぇっ!?」

 

ツカサの傍に近づいたソラは勢いよくツカサの腹にずつき叩き込んだ。

 

ツカサは堪らず呻き声をもらしながら自分の腹に顔を埋めるソラを見た。さすがに怒らせてしまったかと焦るツカサとそれを宥めようとするユウ。

 

「怒らないでください……ツカサは貴方のことを思って……」

「言った……だぞ……」

 

「え?」

 

顔を埋めたままブツブツ呟くソラであったが、すぐに顔を上げるとまた涙目になりながらツカサに向けて訴えるようにこう言った。

 

「言ったはずだぞ!お兄ちゃんはあたしの箱舟だってことを!まさか忘れたわけじゃあるまいな!」

 

ツカサはこの言葉にハッとする。そして無意識の内にある情景が脳裏に映りこんだ。

 

あの日。そよ風に乗ってきたかのように、その少女は突如自分の前に現れたのだ。そう、自分の運命を携えながら……。

 

ツカサはフッと笑うと静かに自分の名前を呟いた。

 

「ボクの名前は新田 嗣(ツカサ)。君をあの人と、未来を繋ぐ者。忘れるわけないじゃないか。だって、これは――」

 

ツカサは目を瞑りながらソラにギュッと抱きついた。穏やかな笑みを浮かべながら優しく、儚げに。

 

「君がボクにくれた初めてのプレゼントなんだから……」

 

 

 

「えっと……あのー……」

 

新田親子のいいムードに水を挿すカイリ。

 

なにも空気が読めなかったのではなく、あまりに場違いな自分の存在に耐えきれなくなり、声をかけたのが原因である。

 

「あっ、ごめんごめん。君たちのことすっかり忘れてたよ」

 

カイリの声を聞き取ったツカサはソラを離すと笑いながらそう言った。

 

「君たちにも随分と迷惑かけちゃったね。こんな格好だけど謝るよ。本当にごめんなさい」

 

既に立つことすらままならないツカサは、会釈するようにしてそう謝った。しかし、そんなツカサにハジメとカイリは慌てて首を振りながら答える。

 

「そんな!謝らないで下さいよ!これは俺たちが勝手にやったことなんですから!」

「そうっすよ!寧ろ俺たちが来たことでツカサ先輩達の邪魔になったんじゃないっすか?」

「そんなことはないよ。いや、寧ろ助かった。君たちが居たことでファイトがもっと楽しくなったんだから。やっぱり、芸を見せるならそれを見てくれる人が必要だからね」

 

ツカサは二人を安心させるようにそう言った。そしてツカサの視線は一番後ろにいた見知らぬ顔の青年に向けた。

 

「それで、そっちの人は……?」

「あっ……この人は……」

 

カイリが紹介しよう後ろを振り向くと、ショウはスッとカイリの横を通りすぎる。その時、カイリはショウが僅かながら息を乱しているような気がした。

 

「僕は宮下ショウ。君たちのファイトを楽しく見させてもらったよ。うん、素晴らしい戦いだった」

 

ニカッと笑い、ショウは握手を求めながらそう言った。

 

ツカサは腕を差し出しながらショウの名前を繰り返し、問いかける。

 

「宮下……。ということはショウさんはシロウ君のお兄さん……?」

「ショウで構わんよ。光栄だなー、僕のことを知ってもらえてるなんてさ。あのピオネールの彼とここまでの激闘を繰り広げた君にさ」

「さすがのボクでも年上の人に呼び捨ては気が引けるかな~。まっ、負けちゃったけどね。でも本当にクリア君とのファイトはやりがいがあるよ、うん。ショウさんもクリア君とファイトしてみてはどうかな?お強いって噂だし、きっと面白いファイトが見れると思うな~」

 

ツカサはショウを見ながらニヤリと笑うとそう言った。

 

「そうだねぇ。機会があればそうしたいねー。でも――」

 

ショウは天井を見上げながらそう呟く。

 

下からそれを見ていたツカサは、目が隠れるほどに長い前髪の下から覗かせる瞳を見てツカサは目を見開く。

 

彼は顔を上に向けているだけで、視線はずっとこちらを見ていたのだ。その隠された尖った瞳は、温和な雰囲気から想像できないほどのプレッシャーをツカサに放った。

 

「出来れば――君ともやってみたいかな」

 

まるで自分自身を見ているかのようなショウのニヤケ顔に、ツカサもまた同じようにニヤリと笑った。

 

「ハハッ、そうだね。ボクも君とやってみたくなったよ。フフッ、なんでかな。君には、なにかボクと同じ匂いを感じるよ」

 

何気ないツカサからの言葉。しかし、端から聞いていたカイリはこの言葉に目を丸くいた。

 

ツカサとショウ、どちらのファイトも見てきたカイリだからこそ分かる共通点。ファイトスタイルの一致。しかし、それを知らないツカサがそう言ったのは恐らく感じ取ったのだろう。

 

ショウもまた、ただのファイターでないということを。

 

「まぁ、それはまた今度考えるとしてさー……」

 

いつもの調子に戻ったショウはそう言うと、少し離れてこちらのやり取りを見ていたソラに視線を向けた。

 

「あのお嬢さんは誰なのかな?多分、僕だけじゃなく他のみんなもそう思ってると思うんだけどさ」

「……っ!?」

 

突然自分に話を振られたソラは声にならない悲鳴を上げ、後退りした。

 

ソラは、助け舟を求め視線をツカサに向けるが……、

 

「あっ、そうだね。ボクもそれは前々から考えてたんだ」

「お兄ちゃん!?」

 

まさかの裏切りにソラは思わずそう叫んだ。

 

「いや、だってソラいつもボク達やスタッフの人としか接しないじゃない?やっぱり年の近い友達がいた方がいいとボクは思うんだ。大丈夫、彼らなら快く友達になってくれるよ」

 

ツカサは安心させるようにそう言ったが、ソラが求めていたのはそんなことではなかった。

 

「ちがっ……そういうことじゃなくて……」

「そうですわね……。ツカサの言ってることは一利あると私も思いますわ」

 

まさかの不意討ち。頷きながらツカサの言葉に賛同するユウをソラは勢いよく首を振り信じられないといった様子で見つめた。

 

「お母様まで!?……グヌヌ」

「いや、そんな警戒しなくても大丈夫だって」

 

威嚇する猫のようにカイリ達を睨むソラにツカサは苦笑いを浮かべながらそう言った。

 

「ボクも最初は友達がいなかったのはソラも知ってるよね?ボクも最初は特に友達なんていてもいなくても変わらないって思ってたんだ、君と同じでね。彼らとの接触した時は、必要事項だったから建前でクリア君以外には適当に接していこうと思ってたけど……」

 

ソラの顔を見ながら話していたツカサは、視線をカイリ達に移した。

 

「みんなと接してボクはとても楽しいと感じるようになったんだ。みんなと喋ったり、ファイトしたり、一悶着もあったりもしたけど、ボクは今まで以上に笑えるようになったんだ。だからボクはソラにもこの気持ちを共有したいと思った。君がもっと笑顔でいて欲しいから……」

 

ツカサは清々しい笑顔を浮かべながらソラにそう言った。

 

「…………」

 

あまりに熱心に語るツカサにソラは、心を揺らす。恥ずかしいという思いと同時に、彼らと出会ってからのツカサの様子を思い出しながら、ソラは決心した。

 

ソラは足を一歩踏み出し、カイリ達の前で立ち止まると恥ずかしさを紛らわせるように大きな声で言った。

 

「あたしの名前は新田ソラ!このMFSを作り!みなが尊敬しているこの新田ツカサの妹だ!いいか、先に言っておくが私を子ども扱いすることは許さない!私のような天才と接することをありがたく思うんだな!」

 

ソラの声はドームの中で反響し、声は次第に静まっていた。

 

「「…………」」

 

再び静寂に包まれるファイターズドーム。

 

その静寂を最初に断ち切ったのは他でもなく、最初にこれを言い出した張本人であるショウであった。

 

「……それはそれはご高名な!その若さで人類の英知と言ってもおかしくないこのMFSを作ったとは!そんなお偉い方とお口を聞けるとは僕はとても運がいいなー」

 

なんとも胡散臭いショウの言葉。しかし本人は本気で言ってるようで、彼のその誠意の高さがそれを証明していた。

 

そんなショウを見て、一瞬我を忘れるが直ぐに気を取り戻し、ニヤリと微笑んだ。

 

「ほほう、なかなか物わかりが良いじゃないか、お前。よし、ならお前をあたしの僕第一号にしてやろう!」

 

その気になったソラは、そうショウを指差しながらそう言った。

 

さすがに失礼過ぎるソラの言葉に、シロウは大丈夫だとは思うものの心配そうにショウの様子を伺った。

しかしそれはただの杞憂に過ぎなかった。

 

「ははー。有り難き幸せでございます。あっ、ソラ様お肩でもお揉み致しましょうか?」

「うむ、構わんぞ」

 

いけしゃあしゃあとソラに近づくショウ。ソラも満更でもない様子でそう返事をした。

 

あまりに飄飄としたショウの態度に困惑したシロウは意見を求めようと、苦笑いを浮かべているハジメに近づくが、

 

「すげぇ……。ショウさん、正真正銘、まごうことなき紳士だな……。ん?なんだ?シロウ」

 

シロウに気付いたハジメはそう言って顔を見たが、シロウは何か確信をついたような顔をしながらショウを見ていた。

 

「僕、ここに来てお兄ちゃんへの見方が変わりました。前はただだらしないだけの人だと思ってましたけど、やるときにはやってくれて、しかもあんなに紳士な部分があったなんて知りませんでした」

「あっ、いや、別に紳士ってそう言う意味じゃ……」

 

恐らく自分の言葉を真に受けたのだろうシロウにハジメはそう言いかけるが、シロウはそれに構わず言葉を続けた。

 

「きっと今もあの子が親しみやすいようにわざとあんな風にしてるんですね!僕もちょっと行ってきます!」

「あ!おい!ちょっと待っ……」「ハジメ」

 

ハジメがシロウを呼び止めようとするとカイリが静かにそれを制した。

 

「それは言わないであげようよ。ショウさんの威厳に関わるからさ」

「あ……あぁ、そうだな。兄貴が変態ってなると流石にあれだもんな」

 

「ん?どうした?息が荒いようだが」

「気のせいですよ、うん。気のせい気のせい」

 

カイリとハジメは何とも言えない表情でショウを眺める。

 

それと打って変わってツカサとユウも楽しそうに戯れているソラを眺めながら口を開いた。

 

「良かったですね。ソラの笑顔が見れて」

 

ユウは横になっているツカサの腕を肩に回し、体を起こしながらそう言った。

 

「うん。でもボクは何もしてあげられなかったけどね……」

「そんなことはありませんよ。貴方があの子に勇気を与えてくれたのは紛れもない事実。きっとあの子も貴方に感謝してますよ」

「ハハッ、そう言ってくれると助かるかな」

 

覚束ない足取りのツカサは、体重をユウにゆだねながらなんとか立ち上がった。

 

「ですが、もうそれは使えないでしょうね」

 

ユウはそう言いながらツカサが握っていた一枚のカードに視線を向けた。これは、クリアからもらったクリティカルトリガーにより入った六点目のカード。

 

ファイトの終焉を向かえ、身体的に、精神的にも支える力を失い倒れたツカサであったが、このダメージチェックのカードだけは握り締めていたのだ。

 

「そうだね。これ以上、ソラを悲しませるわけにはいかないし、これに頼らなくてもボクはここに来たときからもう力を持っていたみたいだ」

 

そう言うとツカサはカイリ達を順に見ながら微笑んだ。

 

すると、ツカサの視線に気づいたカイリがこちらに話しかけてきた。

 

「もう休むんですね」

「うん、もう無理する必要がなくなったからね。今はゆっくり休ませてもらうことにするよ」

「ツカサ先輩!もうどこにもいかないっすよね!?アネモネに……俺達の所にいてくれるっすよね!?」

 

懇願するようにハジメそう言った。恐らく、ツカサがいなくて一番心配したのは彼だろう。

 

ツカサは一度ハジメを見た後フッと笑い、振り返り背を向けた。

 

「……こんなに迷惑をかけたボクだけど、また君達のところに遊びに行ってもいいのかい?」

 

背中越しから語るツカサの一言。

 

ハジメとカイリはお互いの顔を見た後、満面の笑みを浮かべながら声を揃えて叫んだ。

 

「もちろんっす!」

「もちろんです!」

 

どんな障害も吹き飛ばしてしまいそうな二人の返事にユウは微笑した。

 

ツカサも穏やかな笑みを浮かべながら持っていたカードを見ながら囁くように呟く。

 

「ほら、僕にもこんなに仲間が出来たんだ。君たちの力を借りなくても苦難を乗り越えられる力を、僕は手に入れたんだ。またいつか、君の力を貸してもらうことがあるかもしれないけど、今は見守っていて欲しい。だから、その時まで――」

 

ツカサはそのカードをポケットにしまうと、ユウに寄り添いながら前を向いた。

 

「さよなら、ランスロット」

 

そう言うと、ぎこちなくも確かな一歩を踏み、ツカサは歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“なんだ、よく頑張ったじゃないか”

 

「っ!?」

 

ハッとし後ろを振り替える。しかし、そこにはソラとカイリ達が自己紹介をしている姿しかなかった。

 

「どうかしましたか?」

 

突然振り返ったツカサにユウをそう言った。

 

「ん、今何か声が……ううん、なんでもない。たぶん気のせいだと思う」

 

一度あたりを見回したツカサであってが、自分が疲れているのだろうと思い、そうユウに返した。

 

「フフフ、そうですか。早く身体の調子を戻したほうが良いようですわね」

「そうだね。早く皆の所に戻らないといけないしね」

 

ユウとツカサはお互いの顔を見て微笑むと再び歩き出した。

 

 

 

 

 

“今回は良くもったと誉めてやるよ。――だがな”

 

男は不敵に微笑む。それは人を賞賛する笑みではなく、まるで好物を眼前にした獣のような笑みであった。

 

“お前はどう抗っても俺様から逃れることは出来ない。せいぜいそれまでを楽しむことだな”

 

第一章 銀色の先導者―完―




ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。

この作品は僕の処女作であり、まだ小説執筆が初めてということで、途中かなり書き方が変わってきました。

これが見ている方々に混乱を招いたとしたら、謝罪を申し上げたいと思います。本当にすいません。

しかし、これはまだ自分が執筆に慣れていないということもあり、自分が最も書きやすく、皆様がより読みやすいような文章に書けるように努めていった結果でもあります。

この小説はまだまだ終わりませんが、これからも自身の成長を育みながら執筆活動を頑張っていきたいと思います。

2度目になりますが、ここまで読んでいただき、ありがとうございました。そして、これからもよろしくお願いします!

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