ファイトは終盤に差し掛かる。
ツカサの残りアタックである騎士王はVへ攻撃。
もちろん、クリアはこれを手札の10000ガードでガードし、ツカサはターンを終了した。
ツカサ
手札3
ダメージ表2
ダメージ裏3
クリア
手札2
ダメージ表3
ダメージ裏2
「なんか……凄いことになってきたっすね……」
ハジメは冷や汗を流し、ファイトに目を奪われながらそう言った。
「そうだね。まさか本当にヒールトリガーを引くとは……。形成は一気に逆転――と言いたいところだけど、クリア君の場のラインは二つしか完成していない。このターンのドローでブースターかトリガーを出さないと勝負はまだわからないね。最悪、トリガーをコールしてエスペシャルインターセプトを持つゴードンに10000ガードを要求してもいいかな……?」
「それでもツカサさんがさっきのドロートリガーで10000ガードを引いたとしたらまだわからないよ。そのうえ今、トリガーを三枚も出たからこの後にトリガーを引く可能性は期待しずらい……。うーん……」
「まずはクリア先輩のドローに注目するしかないな」
皆が固唾を飲んでファイトを見守るなか、クリアは自分のターンを宣言しカードをドローする。
それを確認したクリアはフッと笑った後、持っていたサングラスを卓上の隅に置いた。
「いいのかい?君の切り札を置いたりなんかして」
「あぁ。もうこいつは必要無くなったからな。それに、切り札なら――」
ツカサの問いに、クリアはニヤリと笑い今引いたカードを顔の前に翳す。
「今来たところだ」
この自信満々のクリアの様子にツカサを首を傾げた。
「今きた……?この状況でそんな大胆なことを言うんだからただのブースターって訳じゃ無いんだね?」
「安心しろ。お前の好きな演出だ。そして絶望するんだな」
クリアはそう言うと、引いたカードをそのままVに重ねて置いた。
「何人(なんぴ)とも触れることすら許されない千軍万馬の古強者よ。己が力を解放し、総ての希望焼き尽くせ……」
クリアの口上とともに、Vであるブレイジングフレアの周りに幾つもの聖布が飛び出し、それらは次第にブレイジングフレアの巨体を包んで行く。
「ライド、The・ヴァンガード。封竜 ブロケード(10000)」
ブレイジングフレアを包んだ聖布から次第に炎がこぼれ出す。
瞬間、聖布に包まれた竜は耳を劈くような咆哮をあげながら、身を包んでいた聖布を焼き付くし、その姿を表した。
「ブロケードのスキル、【ヴァニッシング・フィールド】。このカードがヴァンガードに存在する限り、相手はインターセプトを使うことは出来ない。ブロケード!」
このクリアの声に答えるように、ブロケードは雄叫びをあげながら自らの体を発光させる。
瞬間、ツカサの後方。すなわち、彼が率いるロイヤルパラディンが立つ大地が燃え上がり、リアガードのユニット達はその業火に耐えるので精一杯と言った状態になった。
「ここでそのユニットを出すか……いや、いいセンスだ!」
親指を立てながらグッジョブと言わんばかりにショウはそう言った。
そんなショウを横目に、シロウはハジメに声をかけた。
「あのブロケードっていうカードは名前の通り、相手のリアガードのインターセプトを封じるだけのユニットなんですか?」
声をかけられ、チラッとシロウを見た後、視線をファイトに戻し声を返した。
「そうだな。あれがいる限り、ツカサ先輩はどのユニットのアタックに対してもゴードンをインターセプトすることはできないことになる」
「そうなんですか。でもちょっと微妙なスキルですね……。ただインターセプトを封じるだけというのは……。パワーが11000あればまだ……」
「それは発売当時誰もが思っていたことだな。確かにインターセプトを封じることができれば相手のG2をG3と同義に変換させることができ、インターセプトの利点であるアドを引き継いだまま場を空けることができなるわけだから弱いわけじゃない。ただ……それだけなんだ。今じゃそれと同じくらいのスキルを持った11000ユニットやパワー上昇系ユニットが蔓延ってる。正直、それだけのスキルだけじゃあVという台座に居座らせるには役者不足だ」
「じゃあ、どうしてクリアさんはあのユニットを……」
困惑した表情をするシロウを見たハジメはニヤリと笑みを浮かべる。
「たしかに普通に使ったんじゃそうなる。が、使い手が最強なだけに今のブロケードはまさに封印を解き放った最強の竜と化している!」
「最強の竜……?それってどういう……」
シロウはそう言うハジメの顔を見て、ショウと同じような顔で笑っていることに気付く。
それは期待と興奮をはらんだ笑顔。
ハジメもショウ同様に、このクリアのプレイングに魅せられていたのだろう。
「たしかに普通にVで運用したんじゃただ相手のリアガードの張り替えを抑止するだけの力しかない。だが、ライドしたそのターンがファイナルターンだとしたらどうだ?」
「ライドしたそのターン……?」
シロウはハジメの言葉を繰り返す。
ライドしたそのターンとはまさに今のクリアの状況。
ファイナルターンということはこのターンで相手の手札、リアガードのガードを推しきり、ダメージを六点にするということ。
「ライドしたターン……リアガードのガード……あっ!」
シロウは思わず声を漏らし、すぐに視線をファイトに向けた。
このターンでクリアがダメージを与えるには最大20000と完全ガードを躱さなければならない。そしてその内の10000ガードとはエスペシャルインターセプトを持つゴードンのこと。
つまり、ハジメが言いたいのは……。
「ブロケードにライドすることで間接的に相手のガードを削ったということですね!」
「ビンゴ!そう言うことだ!」
シロウとハジメは同じような笑顔で顔を見合わせた。
「これでツカサ先輩のガードは最大でも10000と完全ガードのみ!クリア先輩がトリガーをコールすればベリコウスティはアタックすることが出来るし、守りきれない!」
勝利への確信。
ハジメ達は、その思いからか安心感を抱き、その後のファイトを見つめた。
「さらに俺はブルーレイ・ドラコキッド(5000)をコールする」
「ブルーレイ・ドラコキッド!?もしかしてさっきのドローで引いたカードってそれだったの!?……ってことはさっきのボクのアタックをガード出来たのにも関わらずノーガードしたということ?」
ツカサはコールされたドラコキッドとクリアを交互に見ながらそう言った。
「あぁ。だが別におかしいことじゃないだろ?現に俺があそこでガードしていなければこの状況に至らなかったわけだからな」
クリアはそう説明する。よほどツカサの驚いた顔を見て気分が良くなったのか、ドヤ顔を浮かべていた。
「なるほどね……。それは見事と言わざるを得ないな~。――でも、まさかこれで勝ったとか思ってないよね?」
「なに?」
そう呟きながら眉を吊り上げるクリアにツカサは微笑した。
「これでボクの手札の枚数上、どれだけ理想的な手札を握っていたとしても防ぐことは出来ない。奇跡でも起きないとね」
口がさらに吊り上げり、微笑はいつものニヤニヤ顔に変貌する。
「このシチュエーション、初めて君とファイトした時のことを思い出すよ。――もっとも、立場は逆転してるけどね」
この言葉にクリアは真顔に戻り、視線をツカサのデッキに向けた。
「――そうか、それがお前の切り札というわけか。しかし、それを明かしてしまっていいのか?その一言が俺のプレイングに影響してしまうかもしれないぞ?」
「大差ないさ。言おうが言わまいが、君が最初から六点目ヒールを警戒してるのはさっきの君のプレイングであらかた感じ取ってるからね。それに、いいとは思わない?時は最初に収束する。リフレインしたんだ。この最高のシチュエーションに、少しの懸念があっちゃそれこそ問題だ」
「そうか」
クリアもまた、そう言いながらニヤリと笑った。
「初めてファイトした時?その時を携わっていない僕はどうすれば……」
「ハジメさん、これって……」
「あぁ、間違いないな」
会話についていけていないショウの傍ら、ハジメとシロウはお互いの顔を見あった。
「最初のファイト……おそらくツカサ先輩はクリア先輩がツクヨミのスキルでヒールがあることを知っていたのを再現してるんだ」
「ツカサさんのパンドーラのもっとも恐ろしいところがこのタイミングできたということですね……」
「あー、なるー。彼らはその事について話してたのか」
ハジメ達の会話に聞き耳を立てていたショウを手を叩きながらそう納得した。
「しかし、ツクヨミのデッキ把握のスキルが使えるだけの長期戦を初めてのファイトで繰り広げ、そして、デッキは違えど同じ局面を彼らは迎えた。まさに運命的ロマンを感じさせるねー」
ショウは、そう言いながらクリアとツカサを交互に見る。
感じたことのない感情。
言うなればそれは好奇心か。今までただ漠然とファイトしてきたショウにとって、ファイトよりファイターに興味を抱くことはこれが初めてだったのだ。
「小野クリア君に新田ツカサ君か……。いずれ、お手合わせしてもらいたいな」
一気に形成を逆転されたクリアであったが、そんな中でも彼はただじっとツカサを見ながらその場に立ち尽くしていた。
ツカサと会ってからの一ヶ月間。
淡々と過ぎて行く時の流れが遅く感じた。そんな錯覚を覚えるような濃い日々が続いた。
アイデテック・イメージ、ピオネール、アメージングドリーム社、そしてモーションフィギュアシステム。
奴の出会いを皮切りに、多くのことがクリアの乾ききった感覚を刺激した。
面倒くさいという自分の性格を忘れてしまうほどの変化を与えたこいつに、感謝に近い感情を少なからず抱いた。
だからこそ、報いなければなるまい。
もう道を踏み外すことのないと信じられるこの男に、少しの刺激を、この俺から分け与えてやろう。
「――流石は自分で言うだけあって驚異的な汎用性だな。なるほど、これで立場は再び逆転したと言うわけか」
おもむろに語り出すクリア。
ツカサはこれにクリアが何を言いたいのかわからないと言った様子であったが、すぐにその真意に気付き、顔を明るくさせた。
「そうさ、どちらにしてももう君にはどうすることも出来ない。このパンドーラーの前にはね。たとえ君があえてダメージを与えなかったとしても関係ないさ。ボクには……このデッキから何がくるのかわかっているんだから」
同じことを繰り返す。アイデテック・イメージを持つツカサにとってこのようなことは難しくない。
しかし、ツカサは今までにないくらい高揚していた。最高のファイトを飾る最後の演出として、これはまさにツカサのイメージにもっとも理想に近いものだったからだ。
「そうだな……安心しろ。俺が今からやることは変な小細工は一切ない。シンプルな一つの事象だ」
クリアはそう言うと、自分乗せたVであるブロケードに手を添えた。かつて自分がやられた時のことを思い出しながら。
「クリティカルを乗せたアタックを通せばいい。ただそれだけだ」
* * * * *
「俺、わかった気がします」
カイリは様変わりした雰囲気でファイトをするクリアとツカサを見ながらそう呟いた。
「……わかったとは?」
ユウもまた、この雰囲気に困惑しつつそう問う。
この原因とはまさにツカサの顔色の変貌。
予想外のツカサの変化に心配していたのもつかの間、あっさりと普段の調子に戻ったこの過程を受け入れるにはあまりにも情報が少なかった。
しかし、次のカイリの言葉によってこの疑問は解き明かされようとしていた。
「ツカサさんがどうしてまだその時間じゃないのにあんなに体調を崩していたかがわかったんです……」
「それは……本当ですか?」
疑心暗鬼に聞き直すユウ。
自分以上に情報量の少ないカイリがこの現状を考察することが出来るのか……。その時点ではそう思わざるをえなかった。
「はい……。あくまで俺の憶測なんですけど……」
カイリは自信なさげに続けた。
「ツカサさんは……クリアさんのことが怖かったんだと思います」
「……えっ?」
あまりに検討違いな返答にユウは思わず声を漏らした。
まさか彼は先ほどクリアが言った挑発を真に受けたのだろうか。
ツカサが誰かに恐怖を抱くなんて言うことはあり得ない。それはユウが一番知っている。
「それは……もちろん何か根拠があって仰っているのですよね?」
「うっ…そうやって言われると自信はありませんが……」
カイリはユウに視線を向けたあと、今度はツカサを見た。
「容姿、プレイング、言動、何もかもが異質であり、そんな奇怪じみた相手を前にはどんなファイターであっても少なからず動揺すると思います。いくらツカサさんのことをよく知っているユウさんでもそうですよね?」
そう言われ、ユウは前にパンドーラーのテストでツカサとファイトした時のことを思い出す。
スタンディングテーブルを挟んで初めてわかるツカサのプレッシャー。そして何をしてくるかわからない圧倒的なプレイングに、気付いた時には既に敗北していた。
「ツカサさんにとってきっと初めての相手だったんだと思うんです……。何をしても、どんなことを言っても、眉一つ動かさないほど自分に動じないファイターとファイトすることが……。脳に負担のかかるパンドーラーを使用したこと、そして無意識に抱いたクリアさんへの不安感が、ツカサさんの疲労を加速させたんだと思います……」
それがカイリの導きだした答え。
初めてツカサと会ってから今日までに得た情報を振り絞り、カイリはそう語った。
「…………」
それを聞いたユウは黙りこみ、今までのツカサの様子を思い出した。
そしてそこで初めて気付く。ツカサの体調を管理していたユウにとっての死角。
それはツカサの精神面、ストレスだ。
カイリの言う通り、ツカサは今までおよそのことを思い通りに進めてきた。
モーションフィギュアシステム然りパンドーラー・イメージ然り。それはファイトにおいても同じ。
ヴァンガードを否定された一件はあれ、それへの対抗手段は順調に進んでいたためそこまで苦にすることはなかっただろう。
故に、ツカサは今までに蓄積した内在的圧力は無と言っていい。
「なるほど……そう言うことでしたのね……」
ユウはそう呟きながら微笑んだ。
過程に過ぎないと思っていた最終調整がここで初めて生きてきた、ということか。
パンドーラー・イメージはツカサの精神状態によりその副作用は早くも遅くもなる。しかも一度発現したとしても精神状態が良好であれば回避することが可能。
とても大きな収穫だ。これから先パンドーラーを使う機会があるとすればこれは意識する必要のある事柄だ。
しかし、ここで一つの疑問を生む。ファイトが終わった時のことだ。
パンドーラが精神状態で身体への影響が変化するのなら、ファイトが終わり繋ぎ止めていた箍が外れることは、その今までの負担がのしかかっても不思議ではない。
これは、結果を見なければわからないため保留にするとして……。
ユウは、視線をファイトとユウの反応の両方を気にしながらキョロキョロ首を振るカイリに向けた。
自分にも掴みとることがなかった真実に気付いたこの少年をユウは心の中で称えるために。
彼は、自分のように論理的に物事を判断するのではなく、無意識下で人の感情、心を感じ取る天性の才能を秘めている。
それが他人への異常な関心へと繋がってしまっているのだろう。
ユウは「フフッ」と笑いながら小さく呟いた。
「私にもわかりましたよ、ツカサ。彼が貴方以上に強くなると思える理由が」
* * * * *
「ゴジョーのブースト、ブロケードでVにアタック」17000
長きファイトの決着を運命付けるファーストアタック。
「ノーガードだよ」
ツカサは特に考える素振りもみせず速やかにそう宣言した。
ブロケードの登場により、すでに全てのアタックをガードすることの出来ないツカサにとっての今できる最大のプレイング。
次のダメージがヒールであることを知ってはいるものの、ここでクリティカルが出てしまえば全ては無駄になってしまう。
しかし、ツカサはこの局面においても自分のほうが勝機が高いと思っていた。
「クリア君、一ついいかい?」
クリアがドライブチェックでデッキに手を置いたその時、ツカサはクリアに向けてそう声をかけた。
「……なんだ?」
「ちょっと確認しておきたいことがあるんだ。嫌なら話してくれなくてもいいよ」
視線だけを自分に向けるクリアにツカサは腰に手をあてながら続けた。
「君のデッキのトリガー配分。ボクはクリティカル6ドロー6ヒール4だと考えてる。例外はあれ、ブレイジングフレアの入っている君のデッキにガトリングクローを抜いてまで他のドローを入れるとは思えないからね。それでもしボクの考えている通りだとすれば……」
ツカサはそのままの状態でクリアの手が置かれたデッキに目を向けた。
「残りクリティカルトリガーは一枚。さっきはドラコキッドを見て驚いたけどそれはそれで良かったよ。これでボクはガードを宣言する負担が少なくて済んだからね。じゃなきゃ残り枚数の少ないデッキの内のクリティカルトリガー二枚を警戒しないといけない。ヒールも残り三枚あるからそのトリガーが手札にあったら次のボクのアタックをガードされてしまうかもしれない」
ツカサはここで一呼吸入れると再び口を開いた。
「早い話がトリガー配分が知りたいって話さ。これは推測に過ぎないし、君のその攻めの姿勢はクリティカルがあることの表れなのかもしれないけど、最後くらいはそれくらいの精神的安らぎが欲しいんだ」
「なるほど。そういう話か。まぁいい。教えてやろう。俺のデッキのトリガー配分は……」
クリアは少し溜めるとフッと笑いながら呟いた。
「配分はお前の言う通りだ。俺のデッキにクリティカルは一枚しか残っていない」
ツカサの考察を聞き、このギリギリの局面の中でもショウはお気楽そうに感嘆の声を上げる。
「やるねぇ。この状況下でもきっちり相手のトリガー配分について読み取るとは、関心関心」
「何を関心してるんすかショウさん……。クリア先輩のデッキの残り枚数は大体20枚ってとこっすからツインドライブでその中から一枚のクリティカルトリガーを出す為には10%の確率を引き当てないといけない……。こんなことならヒールトリガーにかけてあのクリティカルを手札に残して温存したほうが……」
「それでも確率は30%満たない。しかも手札を温存したとしても次の彼のターンのトリガーの出方次第じゃ結局守れない。ってなることも考えることが出来る、よね?」
「うっ……」
言葉につまるハジメを見てショウはクスクス笑った。
「もう理屈は通じないのさ。後は委ねるしかない。幸運の女神様にでもね」
クリアの言葉を聞いたツカサは安心した様子で腰に当てていた手を降ろした。
「やっぱりね。こればかりはピオネールと言えどどうしようもないもんね。でもその度胸は認めるよ。安寧なヒールトリガーに頼ることなくこの場で決めようと言う決断力を。だからボクも君に一つ教えてあげるよ」
ツカサ握っていた手札を一枚抜くとそれをクリアに向けて翳した。
「ボクがさっき引いたカードは幸運の運び手 エポナ。たとえ君がヒールやドローをダブルトリガーしてもボクは守りきることが出来る。君に残された勝利への道は、ここでクリティカルを引くしかない、理解できたかい?」
ツカサはニヤリと笑みを浮かびながら呟く。
ダブルトリガーによる可能性すら失い、確率上で圧倒的な不利となったクリア。
しかし、クリアにはそんなこと百も承知であった。
最初のダブルトリガー、先ほどの六点目ヒール。もうクリアは十分過ぎる程の運を使い果たしている。
いや、それだけのことをしなければ目の前のファイターに対抗することは出来なかっただろう。
「あぁ。そんなもの、とっくの昔に理解している。俺はいつもと同じことするだけだ」
そう言うとクリアはデッキに乗せた手でカードを一枚掴む。そして、全てを決する叫び声がドーム全体に響き渡った。
「ツインドライブ!!」