基本的に私が書いていくファイトは他の方に比べて長くなってしまう傾向がありますが、他のところでは見られないような独自性のあるファイト展開になっていると自負しております。
手札枚数、デッキ枚数、残りトリガー、ドロップゾーンやバトルゾーンとあらゆるところに細心の注意を払って描いておりますので、読んでいる皆さんにもある程度予想しながら読んでいただけたら幸いです。
クリアと青年はお互い相手のデッキをシャッフルし、そのデッキを相手の場に置いた。
(こいつ……さっきからずっとニヤニヤしやがって、気持ち悪い……そのだらしない顔をすぐに真っ青にしてやるよ!)
平静を装っていたが、さすがのクリアもあれほどおちょくられて頭にきていた。
「で、先行後攻はどう決めるんだ?」
クリアは自分のデッキを定位置に置き、青年に聞いた。
「ん~、じゃっ、こんなのはどうかな?」
青年も自分のデッキを置くと、少し考える素振りを見せたあと、ポケットから何かを机の上に投げ下ろした。
「これは……サイコロ?」
カイリが呟くと青年はそのサイコロをつまんだ。
「そそ、これを振って偶数がでたらそちらさんの先行。奇数が出たらボクの先行ってわけ。そんな感じでおけ?」
「なんでもいい。さっさと始めろ」
クリアが手で顔を支えながら言うと、青年は「んじゃっ」と言ってサイコロを振った。
サイコロは机の上をクリアのほうへ向かうように転がり、落ちるか落ちないかのギリギリのところで止まった。
「5……お前からだな」
クリアはサイコロをつまみ上げ青年へと投げた。青年はそれをキャッチし、サイコロをポケットに入れた。
「どうも~、んじゃまっ、5枚ドロ~」
お互いは5枚引き、クリアは2枚、青年は3枚マリガンした。
「あぁ~、こりゃちょっときついかな~?」
青年は自分の手札を見ながらアチャ~というような表情をとる。
(……黙ってやれないのか……こいつは……)
クリアはそう思いながらマリガンで引き直した手札を見るとニヤリと笑う。
「それじゃあ始めるぞ!」
「ういういっす!」
「スタンドアップ、ヴァンガード!」
「スタンドアップ、The・ヴァンガード!」
((うわっ……Theって……))
その時、その場にいた全ての思いが重なった。
「神鷹一拍子」
「案内するゾンビ!」
お互いがFVを表にした瞬間、クリアは青年のVを見て苦笑した。
「あんな態度をとるやつが一体なにを使うかと思ったが……まさかオワコンブルーとはな!」
クリアがそう言った後、始めたばかりのカイリはその言葉の意味を知るために、ハジメに声をかけた。
「オワコンブルーってなに?」
「ん?あぁ、お前俺と自分のクランしかわからないんだったな。オワコンブルーってのはグランブルーのことだよ」
ハジメはカイリの質問にすぐに察し、説明を始めた。
「へぇ……でもなんでオワコンなの?」
「グランブルーってのは第2段から単クラン化できるようになったんだけど、それ以降、現在の環境までPRパックを除く全てのパックに封入されなったことを皮肉って呼ばれてるらしいぜ」
「そうなんだ……」
それを聞いたカイリは青年へと目を向ける。
「ねぇ、あの人の裏に移動しない?」
「ん?別にいいけど。どうしたんだ?」
「なんだか興味がわいてきてさ……初めてだよ、こんな風に思ったの」
カイリのその言葉にハジメはわざとらしく驚き、引いた。
「……まさか……お前アッーなほうに目覚めちまったのか!?」
「なっ……!?そんなんじゃないってば!」
カイリが訂正してもハジメはニヤニヤしながらそのままカイリをいじった。
「どうだか~?そうなると俺も危ないな!」
「だから違うってば!」
二人がそうふざけあっている最中、青年はクリアの言葉を聞いて顔を俯いた後溜め息をついた。
「ま~、確かにカードプールの狭いグランブルーはデッキ構築も偏って対策取りやすいし、グランブルーの長所も今の環境だと向かい風だから、多分全クランでも弱小の部類に入るかもしれないね~」
青年は神鷹一拍子を見ながら続ける。
「しかも相手は最強の部類に入るツクヨミアマテ、始まる前から力量の差は歴然だけど……」
一拍子から今度はクリアに目を移す。その目はまるで獲物を狙う獣のように鋭く、クリアはその変化に動揺した。
「もしこれで勝ったらカッコイイじゃん?」
空気が変わる。このファイトを見ている全ての者がその変化を感じ取った。
それはクリアも同じであり、無意識に手札を握る手に力が入る。
(……なんだ……こいつは……)
青年はニヤリと笑うとデッキから一枚、ドローする。
「見せてあげるよ。そして知ってもらう。グランブルーの戦い方をね」
クリアもそれにつられたのか、同じようにニヤリと笑った。
「それじゃっ、まずはボクのターンでドローさせてもらうよ」
青年は引いたカードを手札に加える。その後ろから、カイリとハジメは青年の手札を覗きこんだ。
「こりゃ……確かに厳しい手札だな」
ハジメはそう言った。
「そう?ちゃんとG1からG3まであるしトリガーも一枚だけだからそんなに悪くなさそうだけど」
その言葉にカイリは首を傾ける。
「まぁ、端から見たらそうかもしれねぇけどさ。問題はその手札にあるG3だ」
カイリが青年の手札を確認しているのを傍目に説明を続けた。
「深淵の呪術師ネグロマール、確かに強力なスキルを持っているがあれをVにするにはあまりにも非力すぎる」
「パワー8000……確かにあれじゃあクリアさんのデッキの猛攻には耐えられないね……」
カイリも納得したところでハジメもファイトに集中した。
(早いとこあのカードを引かないといくらなんでも先輩には勝てない……さてさて)
青年は手札からカードを一枚取りだし、Vに重ねる。
「ライド、The・ヴァンガード!イービル・シェイド!(6000)続けて、案内するゾンビのスキルで、このカードをヴァンガードの後ろにコール!これでボクのターンは終わりだよ」
「うぇっ!?イービルにライド!?」
「ん?なんかおかしいの?」
青年のプレイに驚愕を隠せずにいたハジメにカイリはまた首を傾ける。
「あぁ、あのイービル・シェイドっていうのはV専用のブースターなんだ。あれを引いたらとりあえずV裏に置くのが定石なんだけど……」
「他のG1があるなかわざわざそのカードにライドしてしかもFVをV裏にコールするのは普通じゃないってことだね?」
「そうなんだよ。案内するゾンビはまだなんとでもできるけど……このにいさんの考えてることがわからねぇ……」
「俺のターン、ドロー。ライドフェイズの始めに神鷹一拍子のスキル発動」
クリアはドローしたカードを手札に加えるとそう言ってデッキの上から5枚を確認する。
「あれなんだよね……。あれでライド事故の発生を抑えて、しかも成功したら手札一枚ぶんのアドバンテージが取れる……。やってみてあのスキルの恐ろしさを実感したよ」
カイリは先程のファイトを思いだしながら呟いた。
「ふん、対象のカードはなし。」
クリアはその5枚のカードの順番を並び替え、デッキの下に差し込む。カイリとハジメはそれをみて安堵する。
しかし、クリアはそのまま手札からカードを一枚選び、Vに重ねるようにして置いた。
「三日月の女神ツクヨミ(7000)に、ライド!」
「さすが先輩……抜け目ねぇ」
きっちり手札に代わりのツクヨミを握っていたクリアを、ハジメは苦笑いを浮かべながらそう呟いた。
「さらに、Vの後ろにお天気お姉さんみるく(6000)、右の前列にオラクルガーディアンジェミニ(8000)をコールだ。」
「ジェミニでヴァンガードにアタック」8000
「そいつぁ、ノーガードで。ダメージチェック……大幹部ブルーブラッド」
「みるくのブースト、三日月でヴァンガードにアタック!」13000
「普通に無理っす、ノーガード」
お手上げのポーズを取りながら青年はそう宣言した。
「ドライブチェック。プロミス・ドーター、トリガーなし」
「ダメージチェック……不死竜スカルドラゴン。ん~、まぁまぁかな」
「俺はこれでターンエンドだ」
ツクヨミ グランブルー
手札 4 5
ダメ表 0 2
ダメ裏 0 0
「んじゃっ、ボクのターンね」
青年はドローしたカードを手札に加えると、手札から一枚選び、Vに重ねるようにして置いた。
「ライド、The・ヴァンガード!キャプテン・ナイトミスト!(8000)。さらに右側の前列にサムライ・スピリット(7000)をコール!んでもってサムライ・スピリットでヴァンガードにアタック!」7000
青年はサムライをレストさせ、ニヤリと笑いながらクリアに目を向けた。クリアは少し考えると、手札から一枚選び、ガーディアンサークルに置く。
「ドリームイーターでガード。」12000
クリアがガーディアンサークルからドロップゾーンに置くと、青年は不意に「プププ」と吹き出した。クリアはまたかとうんざりしたような顔をすると青年に問いかける。
「何がおかしいんだ?」
青年は笑いを堪えるような素振りを見せるとクリアに返答した。
「いや~、あれだけ運ゲ運ゲって言ってた割りには随分と堅実なプレイングするんだな~って思ってさ~」
「フン、誉め言葉として受け取っておこう」
自分の言葉を軽くいなされた青年はつまらなさそうな顔を浮かべながら案内するゾンビに手を添える。
「じゃっ、案内するゾンビのブースト、ナイトミストで~」
青年は無駄に溜めながらクリアの場へ指差した。
「ジェミニにアタックしよう!」13000
「「えっ!?ジェミニ!?」」
さすがのカイリもこのプレイの無謀さに気づいたのか、ハジメとともに声を上げた。
「もしこれでクリティカルでも出ようものなら……」
「度胸があるのか無謀なのか……。どちらにしてもドライブチェックでクリティカルが出れば完全な無駄トリガーになっちまう……」
これにはクリアも青年のこの大胆なプレイングに動揺した。
(……確かに普通に考えて、俺の手札は3枚、さっきのドライブチェックでプロミスがある以上、残りの手札はライド用のカードだというのは予想できる。だがまさかヴァンガードでアタックしてくるというのは予想外だった……。仕方がない)
「ノーガードだ」
「ドライブチェック!ダンシング・カットラス!トリガーなしだけど、ジェミニ君にはお帰り願おう!」
クリアは自分の動揺を隠すように無表情でジェミニをドロップゾーンに置いた。
ツクヨミ グランブルー
手札 3 5
ダメ表 0 2
ダメ裏0 0
「俺のスタンド&ドロー。三日月のスキル発動」
クリアはデッキから五枚見ると鼻で笑い、その中から一枚を選んでVに重ねた。
「半月の女神ツクヨミ(9000)をスペリオルライド!残りのカードはデッキボトムに置く。さらに、ソウルに一拍子と三日月があるため、半月のスキル発動!デッキトップから二枚をソウルに置く」
「スペリオルライド成功……。これで先輩は手札一枚分のアドバンテージを得たわけだ。にいさんが案内するゾンビでのアドバンテージと合わせるとこれでおあいこってことになったな」
ハジメは独り言のように呟いた。
「手札より、サイレントトム(8000)を右側前列に、半月とサイキックバード(4000)を左側にコール」
「……ねぇ、トリガーのカードをコールしたけどあれ大丈夫なの?」
カイリはクリアの場を見ながらハジメに聞いた。
「あのサイキックバードっていうのは自身をソウルに置くことでドロー出来るカードで、今回の場合半月にブーストすることでパワー13000、つまり全てのユニットに10000ものガードが要求出来るんだ。用が済んだらソウル増やしてドロー、そして場を整理出来る。堅実かつ効率的な運用だ。しかもあのデッキにおいては……」
ハジメが説明している間にクリアはアタックステップに入った。
「まぁ見てればわかるって。こっちに集中しようぜ」
「みるくのブースト、半月でヴァンガードにアタック!」15000
「ノーガードで~」
「ドライブチェック!ミラクルキッド。ドロートリガーGETだ。ドローし、パワーはトムに加える」
「まじか~い。とりまダメージチェック!」
青年は大袈裟にそう言うとデッキの上から一枚捲った。
「お、スケルトンの見張り番!スタンドトリガーGET!案内するゾンビをスタンドさせてパワーをヴァンガードに加えるよ」13000
「サイレントトムでサムライ・スピリットにアタック!13000だ。サイレントトムのスキルでG0のカードはガードに使えない」「おやおや~?いいのかい?そんなホイホイアタックしちゃって」
「構わねぇよ。さっさとドロップゾーンに置いとけ」
「何故ガードしないとばれたし!?」
青年がサムライをドロップゾーンに置くのを見ながらカイリは唸った。
「うーん。なんで2人ともリアガードにアタックしてるんだろう?G1だからインターセプト出来ないし……」
「いや、今のは全然ありだぜ。あれでG1を潰せば、再び手札からG1かG0を出さなければいけないから間接的に相手のガードを減らしたことになる。でも先輩は多分もう1つ狙いがあるんだろうな……」
「なるほど……というか、あのアタックにそんなに色んな意味があるの!?」
カイトの驚く顔に、ハジメはちょっと考えながら頷いた。
「これは俺の予想だからわかんねぇけど、あのサムライスピリットっていうのと、今ヴァンガードのキャプテン・ナイトミスト、そして今ダメージゾーンにあるスカルドラゴンっていうのはドロップゾーンにあれば場のグランブルーのユニットを捨て、CBで場にスペリオルコール出来るカードなんだが……」
「いらなくなったユニットを有効活用出来るってことだね」
「そう、どんなに場が散らかっていてもCBさえあれば最低でもパワー15000でのアタックとインターセプトのユニットをコール出来るというのがグランブルーの強みの1つなんだが……」
ハジメは呟きながらクリアの場を見た。
「相手はヴァンガードが11000になるユニットを有するツクヨミ……強みを1つ潰されたもののインターセプトを使えるナイトミストはカットラスのSBの後に変えたいから出来る限り後列にはパワー8000のロマリオを置きたい……。先輩はサムライをドロップゾーンに置いて、いつでもこのにいさんにCBを使える状況を作ったんだと思う。CBを無駄遣いさせるために」
ハジメの説明にカイトは冷や汗をかいた。
「なんというか……俺がやってたヴァンガードとなんか違う……」
カイリがそんな風に圧倒されている中、クリアは虎視眈々と目の前の相手の内を暴こうと身構えていた。
(やつは俺のデッキがわかっている以上、11000を警戒しているはずだ。だが、言動といい、さっきのジェミニへのアタックといい何をやってくるかわからない……。何も考えずに普通とは違うことをしているということも十分考えられる。もし本当に何も考えてないなら俺の相手ではない。何か策があるにしろ、目の前のアドに目が眩んでサムライをスペリオルコールするのであればその程度の実力ということ。見極る……お前の実力を)
未知であるが故の恐怖。先の見えないファイトに、クリア
手札を見ながら唸っている青年を見据えた。
「うん?なにかあった?」
「なんでもない。サイキックバードのブースト、半月でヴァンガードにアタックだ。」13000
青年の問いに構わず、クリアはまだスタンドしているサイキックバードと半月をレストさせる。
青年は突然のアタックに再び手札とにらめっこすると、諦めたように手札からカードを一枚選びガーディアンサークルに置いた。
「もったいないけどお化けのちゃっぴーでガード!スキル発動、デッキから荒海のパンシーをドロップゾーンに置くよ!」23000
「「うぇっ!?クリティカルを捨てた!?」」
周りからもカイリ達と同様に青年のこの行為にざわついた。
「ちゃっぴーでガードするよりもクリティカル落とすほうがよっぽどもったいねぇだろうに……」
「……ハジメ、あれってどういうことなんだろう?」
「もうわからん……この人の考えてることは俺にはさっぱりわからん……」
そんな誰もが困惑するなか、たった一人だけ、クリアだけは冷静だった。
ツクヨミ グランブルー
手札 3 4
ダメ表 0 3
ダメ裏 0 0