先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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先導者としての在り方

「でも、これで六点目ヒール出たら勝てないかもしれないから一応ヒールが出なかったらファイナルターンってことでよろしく~。ボクのスタンド&ドロー」

 

「なんて都合のいいファイナルターンなんすか……」

 

ハジメのつっこみの聞こえていないツカサは、まるで水を得た魚のようにニヤニヤ笑いながら手札を二枚とり展開した。

 

「まずは騎士王 アルフレッド、真理の騎士ゴードンをコール。ゴードンとといぷがるはこのままじゃ14000だけど、騎士王がいることで17000になるからね」

 

ユニットを展開し終えたツカサは、確認をとるようにそう言った。しかし、ここでこの盤面を見たハジメ達は疑問に思った。

 

クリアのダメージは四点、手札はドライブチェックで加えられた二枚のみであるためたしかに決められない場面ではない。

 

だが、先ほどのダメージチェックでツカサはクリティカルを落としているためこのドライブチェックでクリティカルトリガーを引く確率は低く、ツカサは六点目ヒールというが、もしクリティカルが出ず、クリアのダメージチェックで何かしらトリガーが出てしまってはファイナルターンは成立しない。

 

なにより――

 

ハジメとシロウは今までのツカサのファイトを思い出しながらツカサを見据えた。

 

――あの演出に異常なまでにこだわるツカサがこんな形で終わらせて満足出来るとは思えない。

 

「そういえば、話したっけ?どうしてボクがロイヤルパラディンを使うわけ」

 

唐突に語りだすツカサ。クリアはどうでもいいと言わんばかりに目を瞑った。

 

「そんな顔しないでよ~。結構大事なことなんだからさ」

 

苦笑いを浮かべながらスタンディングテーブルに体重を乗せツカサは言った。そして少し観客席のカイリ達に視線を向けた後、自分の右目を手で覆った。

 

「正直言って、この力を使うのに一番都合がいいのはグランブルーなんだよね。デッキ破壊によるデッキ調整が出来るし、グレードさえ分かれば復活能力を前提にファイトを進めることが出来るしね」

 

そういうと、次は自分のデッキに視線を向ける。

 

「まぁ、地力が圧倒的に上のロイパラなら特にそれを気にしなくても強さ的には変わらないからいいんだけさ。でも単純な強さじゃボクが満足しないのは知ってるよね?」

 

目を瞑りながら息を吐き出しながら身体の力を抜いていく。脱力感を感じさせるその様子から、ツカサはカッと目を見開きながら口を開く。

 

「そしてロイヤルパラディンにはあるのさ、ボクを高揚させるユニットが。その一枚のカードの存在がそのままこのデッキを使う理由になっている……!」

 

声を強めながらまるで訴えるように言うツカサ。すると、今までの調子から一転、まるで嘲笑うような口調で言葉を続けた。

 

「そもそも王たるもの、人と同じことをしているようじゃ未熟だよね。せっかくの力を溝に捨ててるに等しい行為……やだやだ、そんなつまらない人間にはなりたくないよ」

 

顔をほころばす。残り一枚の手札を指に挟んだツカサはその腕を横に振った。

 

「ボクが最初に知ったカードはブラスター・ブレード。でも今や誰もが使う汎用ヴァンガード。だからボクは新たな力を求める。唯一無二の分身。それが王の証。見せてあげるよ、誰にも出来ない、ボクのみが扱うことの許された最凶のユニットを」

 

ドーム内が沈黙にはりつめる中、ツカサの存在その中でも一際輝いて見えた。

 

「暗雲の中に照らされし一筋の光よ!己が意思のもと、この荒廃した世界に救いを与えん!さぁ、今こそその時だ!」

 

騎士王の背後、そこに現れたのは眩い光を浮かべる一人の青年。

 

白と青を基調とした衣服を纏った彼は、どことなくツカサに似ていた。

 

「コール、The・リアガード!導きの賢者 ゼノン(6000)!」

 

「導きの賢者……」「ゼノン……!?」

 

コールされたユニットを聞き、ハジメ達は思わずそう言った。

 

「そしてゼノンはリアガードにコールされた時、【ヴァニタス・リインカーネイション】を発動!デッキトップのカードがG3の時、ボクはそのユニットにライドすることが出来る!ただし、G3じゃない場合そのユニットをドロップゾーンに落とさなければならない……がそんなことは有り得ない。何故なら、ボクにはすでにこのカードが何か分かっているからだ」

 

再び腕を横に勢いよく振るう。

 

瞬間、ツカサのデッキトップのカードが天に舞い上がる。

 

と、同時にゼノンは浮かべていた光の玉をVであるガンスロッドに放った。

 

光を受けたガンスロッドの身体は光と共鳴するようにして同化し、同化した光はさらに輝きを増し、そのまま天に向かって飛び上がった。

 

飛び上がった光は、ある高さまでゆくと弾けとび、空を純白に覆った。

 

「騎士達の神よ――出でて神秘の力を奮え……!そして――我らに勝利を翳せ!スペリオルライド、The・ヴァンガード!ソウルセイバー・ドラゴン(10000)!」

 

天空が光に支配され、その中から神々しい輝きを放つドラゴン。ソウルセイバー・ドラゴンが姿を現した。

 

ツカサはソウルのカードをドロップゾーンに置きながらクリアに後ろに君臨するブレイジングフレアを見た。

 

「ソウルセイバー・ドラゴンがVにライドした時、彼女も君と同じようにソウルを五枚支払うことでスキルを発動するよ」

 

空に浮遊するソウルセイバー・ドラゴンはツカサに答えるように翼と腕を広げた。

 

「【ホーリー・チャージング・ロアー】。ボクは、騎士王とゼノン、そしてといぷがるの力を引き上げる!」

 

ソウルセイバーは咆哮をあげ、それはドーム全体に響き渡る。

 

純白に輝く空が少しずつ晴れて行く。だが、ツカサが選んだユニットに限りまるでスポットライトが当たっているかのように照らされていた。

 

「22000と20000、26000でのアタックに加えてツインドライブ!!。君はこのアタックを止められるかな~?」

 

前屈みに前髪から覗きこむようにクリアを見ながらそう言った。

 

一方、観客席から見ていたハジメ達の反応はというと……、

 

「ツカサ先輩はこれを狙っていたってことか……。なんつうえげつなさだ……」

「はっはっは!なるほど、ゼノンか!たしかにデッキの中身が分かる彼ならではのユニットだ。流石の僕でもあれは完全に運に委ねたいといけないからなぁ」

「感心してる場合じゃないよ!お兄ちゃん。クリアさんの手札は二枚、ダメージは四点。あんなにパワーが高くちゃたとえクリティカルトリガーが出なくても守りきれないよ……」

 

ハジメとシロウが心配そうにファイトを見ている中、ショウだけは純粋にツカサの戦い方に感心していた。

 

少し離れたところで同じくファイトを見ていたカイリもまた、ツカサが先導したこの状況に圧倒されていた。

 

「こんなの……予測出来るわけがない……。流石ツカサさんだ、真っ向から勝負をする気なんかさらさら無いってことですね。ユウさんはこのことを……」

 

カイリはそう言いながらユウへと視線を向ける。その時、カイリは自分の目を疑った。

 

ユウは手を股の上で握りながら俯いていた。既に彼女はファイトなど見ていなかったのだ。

 

「フッ、試してみろよ。お前の全力が俺に通用するかを」

 

右手を肘の高さまで上げ、ニヤリと笑いながらクリアはそう呟いた。

 

その態度にキッと眉間に皺を寄せるツカサ。一度として楽以外の感情を表さなかったツカサの顔が初めて崩れ去った。

 

「減らず口を叩くね。どこからそんなことが言えるのやら」

「減らず口?違うな。お前は俺に恐れている。俺にはそれがわかる」

 

サングラスかけてからプレイ以外で決して口を開かなかったクリアの挑発的な態度。その様はまるでかつてのクリアとツカサの立場が逆転しているかのようであった。

 

「このボクが恐れている?君を?何を根拠に……」

「そうか?ならその顔中を埋め尽くす汗はなんなんだ?」

 

ツカサはハッとして頬を触った。手のひらはあっという間に濡れ、ツカサはグッと手のひらを握った。

 

「これは……、関係ないさ、何はともあれこれで終わらせる。それでボクは王になるんだ」

「そうか」

 

顔を歪ませながら言う。観客席からはこの一連の流れを黙って聞いていた。

 

Vに手を添えるツカサ。その後、自分のデッキを見た。

 

「リアンのブースト……ソウルセイバーが君の首を討ち取る……!そしてソウルセイバーはVにアタックした時にパワーが3000上がる……」20000

「ノーガードだ」

 

ツカサは目を尖らせる。間髪を入れないクリアの宣言にツカサはニヤリと笑みを浮かべる。

 

「一瞬も悩まずノーガードか……。いや、それ以外に勝つ道はないから仕方ないと言えば仕方ないね」

「でもあのツカサ先輩の言い方、クリティカルトリガーがあってもおかしくないっすよ……。もしこれでクリア先輩が負けたらツカサ先輩は……」

「それでも、堪え忍ぶしかないさ。それに君は忘れている」

「忘れている……?」

 

ハジメはそう言うとショウに視線を向ける。

 

ショウはそんなハジメを尻目に、視線を修羅場を迎えながらも悠然と佇む一人のファイターに向ける。すると、ハジメもそれにつられてそちらに視線を向けた。

 

「あそこに立っているファイターはそんじょそこらにいるようなファイターじゃない。天下無双、世界に旋風を起こした無敵の代名詞、ピオネールだ!」

 

ニカッと白い歯を見せながらショウは笑ってみせた。

 

「腕を広げて待っていればいいさ。今の先導者である彼の腕を信じてさ」

 

そう彼は呟いた。まるで古い親友のような雰囲気を醸し出す彼の言葉は、ハジメを安心させるには十分過ぎる効力を発揮した。

 

「一体……どうしたんですか……?」

 

俯くユウに気を使いながら話しかけるカイリ。先ほどまでは楽しそうにファイトを見ていたのに何故……。

 

「……彼らがファイトを始めてから、どれくらい時間が経ちましたか?」

 

俯いたまま感情のこもっていない声を出すユウ。

 

「えっ、どれくらい経ったか……ですか?えーっと……俺達が来た頃にはニターン経ってましたから……多分20分くらいじゃないですかね?」

 

必死に考えたあと、自信なさげにカイリはそう言った。

 

「そうですか」と短く答えると、ユウは顔を上げた。

 

虚ろな表情をするユウの顔を見たカイリは声をかけることもなく、ただ見ていることしか出来なかった。

 

「――貴方は、ツカサの異変に気付いていますか?」

「えっ……あぁ、はい……。ツカサさんの様子がおかしいことですよね……。もしかしてあれがさっき言っていたパンドーラーの副作用というやつですか?」

「……わかりません」

 

ぽつりとユウは呟く。カイリにはユウが一体何を伝えたいのか分からなかった。

 

ユウは両手をぎゅっと握ったまま口を開いた。

 

「パンドーラーの力が発動した後に引き起こる副産物。それの一つとして異常な眠気に襲われることがあります。規格外の負担が脳にのしかかった反動ですわね。しかし、これはツカサの気分次第で克服出来ます」

「克服……?でも、気分次第で脳の疲労が回復出来るもの何ですか?」

 

カイリの問いにユウは首を振った。

 

「もちろん、それは否です。気分次第というのは眠気以上の興奮が彼を支配した時のことを呼びます」

「眠気以上の興奮……」

 

カイリは、そう呟きながらツカサを見た。

 

今までのうとうとした様子は完全に消え失せている。ユウの言っていることが本当ならばおそらくゼノンのスキルを使ったからだろう。

 

しかし……それでもツカサの態度は普段に比べると大きな差異があった。

 

「貴方の言う通り、眠気は飛ばせても疲労は蓄積します。眠気を無理矢理振り払った今のツカサにはもう普段のような冷静な判断は出来ないでしょう」

「……」

 

カイリは黙ったまま視線をユウに向けた。ユウの口調は全てを承知した上での発言のように聞こえた。

 

しかし、目の前の彼女は明らかに動揺している。異常事態に手を煩わせているようだった。

 

「でもそれだけ分かってるってことは試したことがあるんですよね?それなら問題無いんじゃないんですか?」

 

カイリは出来る限り平静を装いながらそう言った。

 

ツカサに何かあってほしくない、その思いがその言葉には含まれていた。

 

「たしかに、あれを使用するにあたって何度か模擬戦は行いました。それを使用した状態でファイトが出来るのかどうか。どんな変化が出て、それが発現するまでにどれだけの時間が残されているのか」

「脳波、心拍、様々な面からそれらを感知出来るよう、私たちは尽力しました。そして、予想通り変化は起きました」

「それが、あの状態だったんですね」

「えぇ。もともとツカサは、アイデテックの影響で常人以上の睡眠時間を必要としていました。どれだけ優秀でもツカサの脳も私たちと同じ。あくまでストッパーが外れてしまっただけです。流れ出る水は私たち以上に激しいですが、それを補充するにも私たち以上に時間がかかる」

「ですので、彼のこの変化は私たちにとっては許容の範囲内。高ぶる感情によってそれを飛ばすことは例外でしたが、さして問題にはなりえません。身体的、精神的にも障害を患うことが無いと分かった私はツカサのこの行動を容認しました。ただし、制限はあります」

「制限……?」

「害がないというのはあくまであれを使用して一定時間内に体を休めればの話です。その時間はヴァンガードファイトを一度するのに差し支えないと判断し、必ずそれまでにファイトを終わらせることを条件に容認しました……」

「なるほど、だからさっき俺に時間を聞いたんですね……」

「――私との模擬戦では最大で45分程度が限界だと判断されました。それだけあれば勝ち負け問わず、ファイトは終わるでしょう。長引いてもいずれはデッキアウトがあります」

「そうですね、粘れるデッキはオラクルのような手札が増えるデッキ位なものですからね。――ちなみに、その制限時間ギリギリになった時、ツカサさんはどうなってしまうんですか?」

 

カイリは、そうユウに聞いた。まだその時間まで余裕はあるものの、カイリはそれを確認せずにはいられなかった。

 

ユウは、少し間隔をあけると静かに口を開いた。

 

「……異常な眠気に襲われ、汗が吹き出し、冷静な判断が出来なくなります」

「えっ、それって……」

 

ユウはまた顔を顔を俯きながら呟いた。

 

「そう、今まさにツカサの症状がその時間ギリギリの症状なのです……」

 

ツカサは服の袖で汗を拭くと、デッキに手を添えた。

 

ツカサ自身は意識していないが、息も若干荒くなってきている。

 

「ツインドライブ!!……」

 

ツカサはそう言った後、またチラッとクリアの方を見た。

 

まるで時間が止まっているんじゃないかと思わせるほどに微動だもせず、クリアはじっとこちらを見ていた。

 

ツカサはため息を吐いた後、重い手を捻りながらデッキを捲った。

 

「ファーストチェックはまぁるがる……。ドロートリガー……。一枚引いてパワーはゴードンに……。セカンドチェックは閃光の盾 イゾルデ」

 

ツカサはトリガーしたカードを手札に加えた。トリガーはあったものの、出たのはドロートリガー。まだ勝負は決しない。

 

「こえぇ……。マジでクリティカルが出るかと思ったっすよ……」

「どうやらさっきのははったりだったようだね。でも状況は変わらない。ここでドロートリガーでも出ないと六点目ヒールに頼らないといけないから辛いかなー」

 

身震いをしながら呟くハジメにショウは他人事のようにそう言った。

 

首の皮一枚繋いだにも関わらず、眉ひとつ動かさないクリア。

 

トリガーの処理を終えたことを確認し、ダメージチェックを行う。

 

「ダメージチェック、ガトリングクロー・ドラゴン。GETドロートリガー。一枚引き、パワーはVに」

「っ!?」

 

まさに起死回生のドロートリガー。流石のツカサもこれには動揺を隠せずにいた。

 

クリアはドロートリガーによって引いたカードをじっと見た後、卓上に伏せて置いた。

 

「本当にドロートリガーが出たみたいだね……。実力もさることながら運も桁外れだなー」

「クリア先輩、普段から運も凄いっすからね……。ツクヨミデッキであの人がライド事故してるところ見たことないっすよ……」

「それに今ドロートリガーで引いたカード、クリティカルトリガーでしたね……。手札には10000ガードが二枚、5000ガードが一枚にインターセプトもあるのでもう確実にガード出来ますね……」

 

クリアの運の良さを語りながら、ハジメ達はファイトを引き続き観戦した。

 

シロウの言う通り、既にクリアの手札にはツカサのアタックを防ぐためのガードが揃っている。

 

しかし、それは後ろからクリアの引いたカードを見ていたからわかったのであり、ツカサからはまだ勝機が残っていると見ることが出来る。

 

それもあってか、少なからず余裕な表情を浮かべながらゴードンに手を添えた。

 

「……ドロートリガーが出たのは驚いたけど、まだこちらが有利……。今のドローで10000ガードか完全ガードでも引かないと僕のアタックは防げない!」

 

まるで自分に言い聞かせるようにツカサはそう声を上げた。

 

しかし無情にも引いたカードはその10000ガードであり、それを知っているハジメ達は苦笑いを浮かべていた。

 

そんなことを知るよしもないツカサはそのままゴードンをレストさせ、アタックを宣言する。

 

「……といぷがるのブースト、ゴードンで……Vにアタック!」27000

 

トリガーとソウルセイバーのスキルによって膨れ上がった膨大なパワーによるアタック。

 

先ほどツカサはファイナルターンと言ったが、それに相応しいパワーラインである。しかし、運はクリアに味方していた。

 

これでクリアは確定的に次のターンが回ってくる。このアタックをガードし、上手くユニットが出れば展開。ツインドライブ!!でトリガーさえでれば、勝つ見込みは十分にある。

 

とハジメ達は考えていた。

 

しかし……、

 

「……ノーガードだ」

「「えぇっ!?ノーガード!?」」

 

その予想は脆くも崩れ去った。いや、ツカサから見ればこれは予定調和と見ることも出来るが、ガード出来ないのとガードをしなかったのでは大きく違う。

 

クリアのダメージは五点、ヒールがない限り負けてしまうのだ。ツカサは安心したように吐息を吐きながら吹き出る汗を拭った。

 

「ふぅ……ちょっと焦ったな~。今の流れだと10000ガード引いてボクプギャーされるかと思ったよ……。でも、世の中そんなに甘くなかったみたいだね」

 

クリアの行動にもどかしさを覚えたハジメとシロウに追い討ちをかけるように、このツカサの言葉が彼らの感情を逆撫でする。

 

「遂にクリア先輩もおかしくなっちまったのか……?ガード出来るアタックをガードしないなんて……」

「うぅ……、ツカサさんにガード出来るということを教えてあげたいですね……」

 

神妙な面持ちで呟くハジメとシロウ。ショウは、「うーん」と唸りながら考えていた。

 

「流石のショウさんもこれにはなんとも言えないっすよね……?」

「ん?うーん、今頑張って理由探してるんだけど、一応ないこともないさ」

「あるんすか……、ちなみにどういう理由なんすか?」

「うーん……、ただ現実的じゃなさすぎるんだよね。彼の手札には確かにこのアタックをガード出来る術がある。けどその場合、手札全てとリアガードを一枚潰さなきゃならない。そうするとたとえこのアタックをガードしても次のターンにアタッカーを引かないとトリガーにもよるけどほぼ確実に防がれるよね?」

「ツカサさんの手札にはさっきのドライブチェックで三枚……うち一枚は完全ガード。しかも場にはエスペシャル持ちのゴードン……。トリガーが一枚出たくらいじゃ突破は難しいですね……」

「じゃあショウさんはこう言いたいんすか?どうせ次のターン運が良くないと勝てないなら今その運に、ヒールにかけて手札を温存しようとクリアさんが考えてると?」

 

疑り深そうに言うハジメにショウは頷いた。

 

「うん。幸い、まだ彼のデッキにはヒールトリガーが四枚ある。次のターンにアタッカー+トリガーを引く運にかけるなら今トリガーを引く確率にかけるんじゃないかな?って思ったわけさ」

「……たしかにわからないでもないっすけどリスクがえげつないっすね……。今トリガーを二枚引いたのにさらに三枚目のトリガーにかけるなんて……」

「だから僕も現実的じゃないと思ったわけさ……。ただ、ガードして引いたカードがヒールだったらわりに合わないということもあるから駄目というわけじゃないんだけどさ。ただ普通やらないし、僕もやらない」

「それでドローでヒール引いて死んじゃうんだね」

「あるある過ぎてワロえない……」

 

三人がそう話している最中、唐突に驚きを隠せないような発言をクリアは口にする。

 

 

「――お前の目指す物、それは認めよう」

 

クイッとサングラスを上げながらクリアは呟く。

 

「フフン、このタイミングで認めてくれたということは同時にこの力を認めてくれたと取っていいのかな?」

 

自分の優位が絶対的になったからか、ツカサは鼻で笑いながら普段の口調を取り戻した。

 

「そうだな、お前は強い。もとの実力もあり、その超能力じみた力がさらにそれを助長している。この強さは他のピオネールに通じるものがある」

 

この言葉にツカサは目を丸くした。初めて自分を認めたという告白。嬉しく思う以上に、驚きのほうが大きかった。

 

しかし、ツカサはニヤリと笑う。この場面、認めざるをえないのだろう。ならば心置き無く喜ばせてもらおう。

 

「嬉しいな~。そういってもらえるとボクも自信が……」

「ただ……、お前は勘違いしている」

 

「あれっ」と声を遮られたツカサは肩を落とす。まぁ、流石にこの人一倍プライドの高い人がそう簡単に認めてくれはしないか……。

 

「勘違い?何をだい?」

「お前は王になることで、お前の大切な人の為になると言ったな」

「そうさ。それが彼女の願いであり、ボクの目標だ。誰かに理解してもらおうとは思わないけど、この道を遮ることは誰も許さない」

 

微笑しながらツカサは語る。曲げることのない決意。ツカサにとって、これが全てであり、生きる意味でもあった。

 

しかし、クリアはそれを嘲笑うかのように、ツカサの存在を否定する一言を呟く。

 

「お前は、本気でそれが出来ればそいつが喜んでくれると思っているのか?」

 

ツカサの眉がピクリと動く。

 

「……何が言いたいのさ。言ったじゃないか。彼女がそれを望んでいると。ボクたちのことを何も知らないのにそんなことを言うならいくら君と言えど許さないよ?」

「許さない……か。どうやらお前にはそのことで頭が一杯で視野が狭まっているようだな」

「なに?」

「なら、俺がはっきり言ってやろう」

 

クリアはサングラスをゆっくり外していく。

 

そして裸眼となった瞳でツカサを真っ直ぐ見据えた。

 

 

「お前が本気で大切に思ってるやつが、お前が自分のために身を削って、お前が目標を達成したとして、お前が壊れていく様を見て、本当にそいつが喜ぶのか?」

「っ……!?」

 

このクリアの言葉に、ツカサは言葉をつっかえる。そして、目線を下に向け自分の手を見た。

 

考えもしなかった……。自分はどうなろうと構わない、ただ彼女が笑顔でいてくれればそれでいい……まさにその考えをクリアに見透かされていた。

 

「お前のその力がノーリスクで使えるわけがない。そして、お前の今までの態度でそれは確定的なものになった」

 

声が出ない。図星ではあるがそれ以前に、ツカサは動揺で我を失っていた。

 

「別にそれで構わないというなら問題ない。お前の大切なやつがお前のことを道具としか思っておらず、お前もそれを承知の上でやってるなら俺は何も言わない。――だがな」

「どんなことであろうと、自分の大切なやつが苦しむことを前提に物事を成し遂げようとするなんてことはあり得ないんだよ。喜びを分かち合うことも、悲しみ分割することも出来ない苦しみをお前は知らない」

「そうなるくらいなら止めちまえ。それで後悔するなら、他の方法を模索しろ。お前の目指す道は、それだけではないはずだ」

 

ツカサは顔を上げる。己のためにそう語るクリアの顔を見るために。

 

非常に険しい表情……。まるでその痛みを知っているかのような印象をツカサは覚えた。

 

「……くるな!」

 

ツカサは突然そう叫んだ。観客席にいたハジメ達は、それに合わせてピクリと身体を反応させる。誰に言っているのかはわからないが、その様子をクリアは黙って見ていた。

 

「君にそんな思慮深い考えがあったとは思わなかった……。なるほど、君の忠告は何か深い思い入れがあるようだ。――けどね」

 

ツカサは、自分の目を覆いながら訴えるように言いはなった。

 

「もう引き返すことは出来ないんだよ……!既に道は完成してしまっている……。もう振り返ることは……」

「出来るさ」

 

クリアはニヤリと笑う。これ程までに苦悩する自分に対して、そんなこと至極簡単であるかのように、クリアは言った。

 

「俺がお前を導いてやるよ。このファイトに勝って、俺がお前のヴァンガードになってやる」

 

ファイターズドームは静寂に包まれる。

 

この状況でこの男はまだ勝つ気でいたのだった。ダメージは五点、ノーガードを宣言し、たとえヒールが出たとしても次のドロー次第では勝つことは難しいというこの状況に。

 

ツカサは一度自分のデッキを見たあと、目を開きながら信じられないといった様子でクリアを見た。

 

「君……正気かい?」

「ああ、少なくともお前よりはな」

 

挑発的な笑みを浮かべながらクリアは言った。それに対し、ツカサは顔を引き締めると冷たく呟いた。

 

「……強がっても結果は変わらないよ。パンドーラーは無敵だ。たとえ君が今からヒールトリガーを引いたとしても、ボクに勝つことは出来ない。そもそもヒールが出るかどうかだって……」

「そんなこと、やってみなければわからない。これは運ゲーだ。どんな状況であっても勝つ見込みが0になることのないゲームだ」

 

クリアはおもむろに手をデッキの上に乗せる。

 

「デッキにトリガーが有る限り、俺の敗北は訪れない。どんなことがあってもな。なにせ俺は……」

 

クリアはデッキのカードを捲っていく。一片の迷いのないダメージチェック。

 

ツカサと違い、クリアにはこのカードがヒールトリガーであるという絶対的な事実があるわけではない。

 

しかし、クリアにはツカサにはない圧倒的な経験、窮地を見てきた。

 

故に感じる。窮地を脱する術を。勝利に直結する最上の一手を。

 

そして導きだした答え、それが……、

 

「まさか……本当に……」

「三枚目の奇跡を……成し遂げた……」

「クリア君、君って人は……」

 

クリアは捲ったカードを指で挟みながらまるで当然と言わんばかりの笑みを浮かべながら、そのカードを、ドラゴンモンク ゲンジョウを見せつけた。

 

「今まで、こうやって勝ってきたんだからな」

 

起死回生のヒールトリガー。

 

ガードすることも出来たクリアの勝負強さが、この奇跡を生んだ。

 

「GET、ヒールトリガー。ダメージを一枚回復し、俺はVにパワーを加える」

 

トリガーにより、Vであるブレイジングフレアのパワーはさらに20000へと上昇。

 

残りツカサのアタックは、ソウルセイバーによって上昇した騎士王の26000のアタック。

 

「あんなに大きく感じた騎士王の力がこんなに小さく見える……。いや、君の影が大きく見えたからこそ、平凡に見えてしまってるんだね」

 

ツカサはどことなく穏やかな表情を浮かべながらそう呟いた。

 

「どうした?怖じ気づいたか?」

 

そんなツカサにクリアは挑発的な態度でそう言った。

 

しかし、それにも関わらずツカサはいつものニヤニヤ顔を作りながら、俯いた。

 

「冗談。むしろ感謝してるよ。君のおかげで、自分のこの決意が中途半端だったことに気づけたんだ。力に慢心して、どんなことでも自分の思い通りになる。そんな虚しい幻想を。でもね……」

 

ツカサは顔を上げ、クリアを見据えると勢いよく右手で指差しながら言いはなった。

 

「どうやらそれもここまでだ!このファイトの決着した時!ボクはさらに強くなることが出来る!真っ白な心でその結末を、その先の未来を受け入れられる!」

 

まるで雄叫びをあげているかのような力強い声でツカサは語る。

 

それは過去の自分を払拭し、未来の自分への可能性を宣言するかのような決意が感じられた。

 

このファイトに勝利し、王になる。己の身を犠牲になんてしない。彼女がいつまでも笑顔で、そして自分はその笑顔を最後まで見届けるために。

 

その思いは当然クリアにも届き、フッと笑った。言いたいことを言い、もうファイトを始めた時のモヤモヤした感情は一切ない。おそらく目の前のファイターは、今まで以上に抗ってくる。臨むところだ。

 

そしてお互いの意識は共鳴する。

 

「どちらの先導者(ヴァンガード)としての在り方がこのファイトの勝者に相応しいか……」

「どちらの先導者(ヴァンガード)としての在り方がこの先の未来を導くに相応しいか!」

 

「「勝負だ!」」


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