「……ライド、The・ヴァンガード。ベリコウスティドラゴン(9000)。続けて、フレイムエッジ・ドラゴン(9000)、鎧の化身 バー(8000)をコール」
左側に展開されるリアガード。それをツカサはニヤニヤ笑いながら見つめていた。
(まさにテンプレな展開、と言ったところだね。フレイムエッジはアタックがヒットした時にSCするユニット。かげろうでソウルを使うユニットはブレイジングフレア・ドラゴンのみ。そうだな～……、サブVでオバロが入ってることはあってもジエンドまでは入ってない可能性が多少上がったと考えていいかな。となると次にライドするVはこれで行こうかな……。そしてVのベリコウスティはアタックがVにヒットした時にコストが回復するスキル。コスト回復に長けてるノヴァと違ってかげろうは……)
ユニットを展開し終えたクリアは不意にダメージのカードを一枚取り、裏返した。
「コンローのCB。コンローを退却し、デッキからドラゴンモンク ゴジョー(7000)を手札に加える。そしてコール」
フレイムエッジ/ベリコウスティ/
バー/ゴジョー/
(コンローがいるおかげでほぼ確実にコスト回復させる必要性を産み出せるってわけだ。ん……？)
クリアのプレイングを読みといてきたツカサであったが、ここで少し表情が真顔に戻った。
「ゴジョーのスキル。手札より、ドラゴニック・オーバーロードを捨て、一枚ドロー」
スキルの起動によってゴジョーはレスト状態となった。したがって、このバトルでクリアはベリコウスティのアタックをブーストなしでアタックしなければならない。
(やっぱりオバロはあったみたいだね。でもまさかゴジョーをレストしてくるとは思ってなかったな～……。う～ん、参ったぞ～……)
ツカサは再び笑顔を作ると冷や汗をかきながら自分のデッキを見た。ツカサの心情など構わず、クリアはそのままバトルに入った。
「ベリコウスティでヴァンガードに……」
するとここでクリアの口が止まる。ただ、ツカサもなぜクリアが口を止めたのかは理解できた。
それは非常に分かりやすい違和感。この広い空間でそこまで大きな声を出していないにも関わらず、突然自分の声がこの空間全体に反響したのだ。
ツカサはクスリと笑うとクリアの後方に視線を向けながら口を開いた。
「どうやら来たみたいだね。やっぱり」
「……」
声につられ、クリアもツカサの向いた方へ視線を向けた。
観客席の最前列。そこには柵にもたれながらこちらを観戦しているカイリ、ハジメ、シロウの姿と二人の男女がいた。
クリアは視線を戻すとサングラス越しにツカサをギロリと睨み付ける。
「あ～！勘違いしないでよ～。別にボクが呼んだわけじゃないんだからさ。やっぱりって言ったのはなんとなく来る気がしただけ。ちなみにあそこにいる女の人はボクのお母さんね」
「……なに？」
このやり取りに終始口を閉じていたクリアもこの言葉には思わずそう呟かざるおえなかった。
そして再びその女性の方を向いた。長く伸びたブロンドの髪。一児の母とは思えないほど女性の顔立ちは幼く感じられた。
二人の会話はMFSに備え付けられたマイクによって誰でも聞き取ることが出来たため、クリアがこちらを見ていることに気づいたユウは淑やかにお辞儀をした。
すると突然、ユウの横からショウが顔を出しながらクリア達に手を振った。クリアはもう一人が誰なのかを訴えるように再びツカサに視線を戻した。
「う～ん……、あの人はちょっと知らないかな……」
『ですよねー……』
嫌でも聞こえる二人の会話に、ショウは地面に手を付きながらいつものポーズを取った。
『仕方ないっすよ……登場するのが一番遅いんすもん、ショウさん……」
『くっ……』
ショウが落ち込んでいることなど露知らず、ツカサとクリアはファイトに注意を戻した。
「さぁて、観客も来たことだし続きをしようか。クリア君！」
「ベリコウスティでヴァンガードにアタック」9000
言われなくてもわかってると言わんばかりにクリアは間髪入れずにアタックを宣言した。
「そのアタックはちょっと厄介だけど、ノーガードだよ」
「ドライブチェック、ベリコウスティドラゴン」
「ボクのダメージチェックはまぁるがる、ドロートリガーだ。引いてパワーはリアガードのガラハッドに加えるよ」14000
「ベリコウスティのスキル。ダメージを表に」
ここまでのやり取りを見て、ハジメはショウに声をかけた。
「どう思います？ショウさん」
「うん、やっぱり72は小さいかなって思うわけよ。僕は好きだけど」
「なんでそんな話になってるんすか!?後で混ぜてください！」
「どういうことなの……」
二人のやり取りを見てカイリは退きながらそう言った。
「あっ、そうだった……気づいたら思わず……。クリア先輩とツカサ先輩の動きをどう思いますかって話っすよ」
「あぁ、そっちね。ちょっと自分を擁護するのにいっぱいいっぱいだからさ……」
ここでも遺憾なくガラスのハートを発揮していくショウ。ここに来て彼の心が砕けたのは筆者も知らない。っていうかどうでもいい。
「あっ！そんなこと言うからまたショウさん落ち込んじゃったじゃないですか！」
「お兄ちゃんの為だけに尺とりすぎじゃないですか……？」
「もはや僕の描写もされないなんて……」
「だぁー！なんかグダグダになってきた！ユウさんはどう思うっすか？」
「私にふりますか……。まぁいいでしょう」
出来る限り関わらないよう努めていたユウだったが、ハジメの問いに仕方なさそうに答えた。
「かげろうのCBは除去による相手の戦線を崩す強力なものが多いです。したがってそのコストの回復が出来るベリコウスティのアタックを通すのは一見無謀に思われるでしょうが、ツカサはダメージチェックでドローが来るのをわかっていたため、トリガーを発動させるために攻撃を受けたと考えるのが妥当でしょう」
「そっすよね……。俺もそこまでは同じなんすけど、そのトリガーのパワーをリアガードに割り振ったのがよくわからないんすよね……」
「そうですわね……。普通に考えれば手札にアタッカーがいないがためもしくはダメージがもっと欲しいがためでしょうが……」
「次のクリア先輩のアタックをどうするかで答えは出てきそうっすね」
ハジメとユウの会話におされたように、クリアはフレイムエッジに手をかけた。
「バーのブースト、フレイムエッジでヴァンガードにアタック」17000
「それも好ましくないけどノーガードかな。ダメージチェックは閃光の盾 イゾルデだよ」
「フレイムエッジのアタックがヒットした時、SC(ゴジョー)……エンド」
ツカサ
手札6
ダメージ表3
クリア
手札4
ダメージ表2
「じゃっ、ボクのスタンド&ドロー。ここまでノーガードしてきて君はどう考えてるのかな～。ヒット時効果を持つその二枚のアタックを通したボクをさ」
唐突に語り出すツカサ。しかしクリアは一貫して言葉を発することはなかった。ツカサはフッと笑うと手札からカードを一枚取り、天に向けて掲げた。
「降臨せよ、戦士達の主……ライド、The・ヴァンガード！」
その声と共にブラスター・ブレードは、ツカサと同じように愛剣を天に向けて突き上げた。
瞬間、耳を劈く音ともにブラスター・ブレードに向けて雷が落ちた。
その勢いで砂煙が上がり、徐々に晴れていくとそこには燃えるような鬣を蓄えた馬と、巨大な剣を片手で悠々と握る一人の騎士が姿を表した。
「騎士王 アルフレッド。どうかな？いずれ王となるボクにぴったりなユニットだと思わない？」
「……さぁな」
諦めることなく何度もクリアに話しかけるツカサ。しかし依然興味を示さないクリアにツカサは「ふぅん……」と少し落ち込んだが、何かを思い付いたように手を叩くと再びクリアに話しかけた。
「身内話以外であんまり興味を持ってもらえないようだから一つ気分転換に面白い話題を持ち込もうと思うんだ。カイリ君達もいることだしね」
クリアはこの言葉に眉をつり上げる。
(何が何でも俺を自分のペースに引き込みたいのか、こいつは)
「そんな呆れた顔しないでよ。せっかくのショーなんだ、楽しまなきゃそんじゃん？フフン」
腕を広げながら不敵に笑うツカサ。
「面白い話……この状況で一体何を話そうっていうんだ？ツカサ先輩は」
「わからない……」
ツカサのこの行動に疑問に思うのはカイリ達も同様だった。
「ただよく考えたら、君にこの話をしてもあまり面白くないかもしれないかな。自分の知ってることをベラベラ話してもだからなんだって思うのが普通だもんね」
「……俺の知ってることだと？」
「そうさ、だからこの話はカイリ君達に向けてのものになるかな」
ツカサは観客席にいるカイリに視線を向けながらそう言った。
「むしろ勝手に話すとクリア君が困っちゃうかな？何故君がサングラスをかけているのか真相を暴こうって言うんだからさ」
「クリアさんのサングラスをかけてる秘密を暴く……？」
思わず同じ言葉を口ずさむカイリ。
「……」
ツカサは、クリアの動向を伺う。また睨めつけられるかな？と思っていたツカサだったが、クリアはその予想に背いた表情をとった。
「クックック……面白い。言ってみろ」
クリアはサングラスを外しながら笑うとそう言った。
「あれ、思ってたより好意的な反応なんだね。てっきりまた恨めしそうな目で睨み付けられると思ってたよ」
「俺は単純にどういう経緯でそれを知ったのかが気になっただけだ。知られているところで俺のプレイングに支障をきたすわけじゃないしな」
「まっ、たしかにそうだよね。ボクみたいに具体的に何かしらの種があるわけじゃないもんね」
ツカサもニヤニヤしながらそう言った。そして、スタンディングテーブルに置かれたサングラスを見ながら口を開く。
「君がサングラスをかけている理由……。それは……ファイトに勝つためだよね？」
「……ああ」
あまりにも短すぎる質疑応答。端から聞いていたカイリ達には彼らのやり取りを理解することは困難を極めた。
「ハハッ！ちょっと漠然すぎたね。正確にはサングラスをかけることによって自分を抑制、コントロール出来るようにしたんだよね。今までのクリア君だったらあれだけしつこくファイト中に無駄話してたらイライラが加速するもんね」
ツカサの言葉にクリアは眉をしかめると、目を瞑りながら言った。
「誰もお前の行為に苛ついていないなんて言っていないと思うが？」
「あははは～……」
笑って誤魔化すツカサにクリアはため息をつくと、ツカサの目を見ていった。
「まぁいい。なら、どうしてそう思った。お前がそうやって思うに至った理由があるのだろう」
「うん、そうだね。理由は君が言ってたからかな」
「何？」
「忘れたかい？あの雷の落ちたアネモネでの出来事を。ボクとのファイトでテンションの高ぶっていたあの状態から、停電してボクが君に声をかけるまでの短い時間で君は異常なまでの冷静さを確保していたよね。むしろ停電して焦るのが普通なのに。そして君の『暗いところのほうが落ち着く』って一言でボクはこういう考えに至ったってわけさ。満足してもらえたかい？」
「クックック……ああ、満足だ」
笑いながら言うクリアはサングラスを手に取った。
「こいつの真意を知られていないようだからな」
「あれ？違ったのかい？なかなか核心をついてると思ってたんだけどな～」
「見る目は悪くない。お前の言う通り、こいつは言わば煙草みたいなもんだ。俺のこの苛つきやすい性格を一時的の抑えるためのな。だが、今はそれだけじゃないんだよ」
クリアは手に取ったサングラスをかけ、右手をスタンディングテーブルに置かれていた手札の束に触れながら言った。
「こいつは俺の過程であり、目論み。俺があいつに勝つための考えうる限りの足掻きなんだよ」
サングラスをかけてなお、クリアの瞳には力強い光があることをツカサは感じ取った。
ツカサはニヤリと笑い、アルフレッドに向けて手を振った。
「なるほどね。じゃあその目論み、あいつっていう人の前にボクが潰してあげるよ！アルフレッド！CBだ！」
ダメージを三枚裏返す。ツカサの声に従うように騎士王は剣を天に向けて突き立てる。
「アルフレッドのスキルにより、ボクはデッキからG2以下のロイヤルパラディンのユニットを一枚スペリオルコールすることが出来る！」
デッキを手に取り、広げたツカサは一通りカードを見おえるとその中から一枚を抜き取った。
「小さな賢者 マロン(8000)を右の後列に！」
瞬間、アルフレッドの剣が眩く輝き、その光は天へ舞い巨大な光柱を造り出すとそこから巨大な本を持った少年が現れた。
「一回シャッフルして貰うね。……ありがとう、そのままボクはリアンのスキルを発動！リアンをレストし、手札の武器商人 ゴヴァノンを捨てて一枚引く。マロンの前に真理の騎士 ゴードン(8000)、ガラハッドの後ろにといぷがる(6000)をコールするよ」
ガラハッド/騎士王/ゴードン
といぷがる/リアン/マロン
場を一気に展開するツカサ。ツカサの後ろに展開された六体ものユニット達の姿はまさに圧巻であった。
「序章はここまで。ここからはG3による猛攻が始まるわけだ。ボクとしてはファイトをたくさん楽しみたいから出来れば頑張ってガードしてほしいな～」
懲りずに挑発していくツカサにクリアは鼻で笑い、指をクイクイと振りながらこちらも挑発した。ツカサはニヤリと笑うと、アタックフェイズに入った。
「なるほどね。さっき彼がわざとダメージを受けたのはアルフレッドのスキルを使いたいがためだったわけだ」
ショウは柵に手をつき、もたれながらそう言った。
「そっすね。ただあれが本当にマロンを呼びたかったためなのかどうか……」
「うん？どういうこと？マロンを呼ぶ以外に彼には何か目的があると言いたいわけかい？」
ハジメの言葉にショウはそちらに視線を向けながらそう言った。
「確信はないっすけど……まぁそっすね。ツカサ先輩はデッキの中身を完璧に把握出来るんすから、これから引くカードがいいものか悪いものかも分かるわけっすよね。でも分かるだけで操作することは出来ないから、もしこれから引くカードがあまり良くない時やさっきのガラハッドのスキルでトリガーが下にいったらデッキをシャッフルして元に戻したいと思うのが普通じゃないっすか？」
「ほうほう、つまり今のアルフレッドのスキルはあくまでデッキをシャッフルするために使ったと言いたいわけだね？」
「それはツカサ先輩の手札を見ないとわからないっすね……。本当にG1が足りなかっただけかもしれないですし……」
「かー、ややこしいなー。君もよくそんなところまで頭回るなー」
「一度ツカサ先輩とはファイトしたことがあるっすからね……。まぁ、負けましたけど……」
「そりゃ仕方ないさー。そんな規格外の能力持たれたら最初はどうしようもないからねー。しかし彼、小野クリア君だっけかな？ピオネールの実力はボクもわかってるつもりだからこのまま何も起こらずに終わるとは思えないなー」
「普段のクリア先輩ならいくらでも見たことあるっすけど、本気の今のクリア先輩は俺も見たことないっすからね……。なんとも言えないっす……」
「ふぅん。まぁ、ツカサ君のドライブチェックは既に調節されてるから、トリガーは多分出るだろうけど次のクリア君の挙動に注目だねー」
「えっ？調節？そんなことしてましたっけ？」
ハジメは思わずそうショウに聞いた。
「あれ、気づいてなかったかい？リアンのスキルによるドロー。騎士王のブーストをしなくてもいいメリットを生かしたあのプレイングは手札を整えるとともに、デッキに眠ってるトリガーを掘ることも兼ねていると思ってたんだけどさー」
「な……なるほど……」
ショウの説得力ある説明にハジメは納得する。
デッキを掘ることも容易であるグランブルーでなくロイヤルパラディンを使う理由。もちろん、もともとのクラン自体のスペックもあるが、理由はおそらくスペリオルコールによるデッキのシャッフル。
グランブルーによるデッキ破壊はトリガーのある場所までカードを削ることは容易であるが、必要以上の使用はデッキアウト招く。
(グランブルーの感覚で考えてたから気づかなかった……。騎士王の後ろにリアンを置けば一枚だけだけど、継続的にデッキを削ることが出来る。先輩がロイパラを使う理由はこれだったのか……。しかし、この人……。さっきはわからないふりしてたけど、噂通り只者じゃないな……)
ハジメは楽しそうにファイトを眺めるショウを見ながらそう思った。
「騎士王でヴァンガードにアタックするよ。騎士王はスキルで場にいるロイパラの数だけパワーが2000上がる。ボクの場は全部埋まってるからパワー20000でのアタックだよ」
「ノーガードだ」
「おっけ～。じゃっ、ツインドライブ!!だ」
ガードをしないことを知っていたのか、ツカサは間髪入れずに返事をするとデッキに手を添えた。
「今回のトリガーは二枚。これでちょ～っとばかりボクが有利になる感じだね。ファーストチェック、アラバスター・オウル。GET、クリティカルトリガー。クリティカルはとりあえずVだけど、パワーはどっちもそんなに変わらないからガラハッドにあげようかな」14000
ニヤニヤ笑いながら指に挟んだトリガーを手札に加えるとそのままデッキを捲った。
「セカンドチェック、世界樹の巫女 エレイン。GET、ヒールトリガー。回復してパワーは……そうだな～君のダメージトリガーにもよるから一応ゴードンにあげるよ」13000
ダブルトリガー、それもクリティカルとヒールが発動したことにより、実質的にダメージは三点もの差が生まれたことになる。
脅威のトリガーにカイリ達は狼狽えた。
「えげつねぇ……、ショウの言ってた通りトリガーが出たっすけどまさかダブルでくるとは……」
「いやー、さすがにこれは僕も予想外だけどさー」
「でもまだクリアさんにもダメージチェックが残ってます。ここで上手くトリガーが発動してくれれば……」
ダブルトリガーによる圧倒的なアドバンテージの差が生じたにも関わらず、クリアは依然として動じなかった。
「まぁ、自分であんなことを言っておきながらあれだけど、クリア君本当に反応薄いよね。言ってもダメージ三点分の差なんだし」
クリアの反応にツカサはそう言わずにはいられなかった。
「こんなことでいちいち反応してどうする。ヴァンガードは運ゲーだ。何が起きてもおかしくない。起きた総てのものは結果論に過ぎない」
クリアはダメージチェックを始める。捲られていくカードは、自分の責務全うするようにダメージへと置かれていった。
「アインス、レッドジャム・カーバンクル。ドロートリガー。一枚引き、パワーはV。ツヴァイ、ブルーレイ・ドラコキッド。クリティカルトリガー。全てV。そしてこいつもな」19000
ツカサのトリガーに対抗するようなダブルトリガー。
非常に珍しいダブルトリガーをこうも連続で出す二人のファイターにカイリ達は息を飲んだ。
「僕でも分かるほど凄いファイトです……」
「一枚でも出ればとか思ってたら二枚とも出やがった……」
「ヒュー、やるねー。二人とも」
「これがピオネールの実力……」
各々が感想を述べる側で、ユウは手を抑えながらツカサを見ていた。そしてクスッと笑った。
「楽しそうね、ツカサ」
ダブルトリガーにダブルトリガーを返されたツカサは一瞬、思考が止まりながらも直ぐにニヤリと笑い、クリアを見据えた。
「ハハッ、そうでなくちゃ面白くないよね！といぷがるのブースト！ガラハッドでフレイムエッジにアタック！」20000
「ノーガード、フレイムエッジ退却」
「マロンのブースト！ゴードンでヴァンガードにアタック！」21000
「バーサーク・ドラゴンでガード」24000
ツカサ
手札6
ダメージ裏2
クリア
手札4
ダメージ表4
「スタンド&ドロー」
クリアは引いたカードを少し確認すると裏側のまま手札の置かれたスタンディングテーブルに置いた。そのまま横に手を動かし、別の手札を一枚手に取ると、Vに重ねておいた。
「この世の総てのものを焼き尽くす黙示録の炎。ライド、The・ヴァンガード」
ベリコウスティは天に向けて咆哮あげると、その身は赤い光となり天に飛び上がった。
光が見えなくなったその瞬間、巨大な赤い閃光がクリアに向けて飛来する。
「ドラゴニック・オーバーロード(11000)」
強烈な風圧を放ちながら舞い降りた真紅の竜は目の前の騎士達に宣戦布告するかのように咆哮をあげた。
全身から敵意を剥き出すオーバーロードに、ツカサは武者震いをたてながら目を見開いた。
「騎士王に対してのオーバーロード……。いいよ、いいよぉ！最高のシチュエーションだぁ！やっぱりボクの楽しませ方をわかってるな～、クリア君は～」
沸き上がる興奮を押さえきれずにいるツカサとは対照的にクリアは特に反応を示すことなくユニットを展開していった。
「ドラゴニック・オーバーロード、魔竜導師 キンナラ(6000)、ベリコウスティ・ドラゴンをコール」
オーバーロード/オーバーロード/ベリコウスティ
バー/ゴジョー/キンナラ
「二枚目のオーバーロード……」
展開されたユニットを見てシロウは思わずそう呟いた。
「いや、さっきゴジョーで捨ててたからあれは三枚目だな。しかしオバロがこの序盤で三枚もあったとは、思ってたより手札が最強だったんだな……クリア先輩」
「しかも彼ら、ガードのことなんて考えてないように全力で展開している。一片の迷いもなく相手を打ち倒そうという気構えを感じさせるよね。しかし、クリア君はそんな手札でよくあんなに冷静でいられたもんだ。あれでさっきダブルトリガーを突きつけられたっていうんだからいかにハートが強いかをうかがえるなー」
「ショウさんもファイト中はかなりハートが強いと思いますよ？ファイト中は……」
「あれはハートが強いっていうか開き直ってるっていうのが大きいからさー。僕のハートの強さは言わずもがなさー」
「そ、そうなんですか……」
観客席でそう話している最中、クリアは徐にダメージに手を置く。
「加えて、俺はここでオーバーロードのCBを起動する。もちろんリアガードのな」16000
そう言うと、クリアはダメージを三枚裏返した。
オーバーロードは、CBでパワーを5000上昇させ、ツインドライブ!!を失い、リアガードへのアタックがヒットした時にスタンドする自動効果を付与するスキルを持っている。ヴァンガードで使用した場合、最大で三回ものドライブチェックをすることが可能だが、最初のアタックをガードされてしまったら実質一回しか出来ないためリスクが高い。
反面、リアガードであればツインドライブ!!を失うこのスキルはデメリットとして機能せず、自分のターン中このスキルは発動するため一度アタックに失敗してもスタンドトリガーが発動すればリアガードへヒットした時にスタンドするスキルを維持したままスタンドすることが出来る。
「ドラゴニック・オーバーロードの【エターナルフレイム】だね。いいよ、こっちはいつでも準備おっけ～だ」
「バーのブースト、オーバーロードでゴードンにアタック」24000
ゴードンのパワーは8000、したがってこのアタックをガードするには20000ものガードが必要となる。
ゴードンはエスペシャルインターセプト、すなわちインターセプトした時にガード値を+5000、10000でのガードが出来き、オーバーロードはヒットした時にスタンドするため容易に通すことの出来ないアタックではある。が、例えば通すとしてゴードンは退却、10000ものガードを失いオーバーロードはスタンド。ブースターはスタンド出来ないためオーバーロードは16000でのアタックをすることになる。
ツカサの場にはパワー9000のガラハッドとパワー10000の騎士王。どちらにアタックした場合でも(十中八九ガラハッドであるが)10000のガードを要求するため、結果的にこのアタックにはどう頑張っても20000ものアドバンテージを失ってしまうことに繋がる。
ならばどういう基準でガードするか否かを決めるか。
ツカサはまだクリアのデッキのトリガー配分がわからずにいた。
ここまで、ドローとクリティカル以外のトリガーは見えていない。しかも、トリガーの種類は同じでもカードそのものの種類が違うため容易にトリガーを予想することはできなかった。
もしスタンドトリガーがあった場合、ガードをしてリアガードを残すことはリスクが上がることを意味し、その後の展開にも支障をきたす。また、ゴードン自身はあくまで自分の延命、すなわちその後のゲーム進行を有利にするために、ガードを節約するためにコールしたのであり、攻めに転じた際には邪魔になる。
ツカサの手札にはすでにその戦力が整っており、ダメージもまだ2点であるためヴァンガードのアタックをわざわざガードする必要もない。むしろリアガードのベリコウスティのアタックをガードしたほうが得策であり、ここでガードをしても結局ゴードンをインターセプトをするのであれば変わらない。
「手厳しいアタックだよね～。仕方がないけどノーガードだよ。ゴードンは退却」
「オーバーロードのアタックがヒットした時、スキルでスタンドする」
すぐさま攻撃の体制を立て直すオーバーロード。そのままリアガードにアタックすると誰もが思っていた。
が、
「ゴジョーのブースト、Vのオーバーロードでヴァンガードにアタック」18000
「うぇっ!?リアガード残したままVでアタック!?」
このプレイングにハジメは思わず声をあげる。
「ど、どういうことですか……？」
ハジメの反応にシロウはそう聞いた。
「いや、もしツカサ先輩が展開したユニットがG3なら問題ないんだが、今場に残ってるのはG2のガラハッド。つまりインターセプトが出来るんだぜ？」
「なるほど……、先にVからアタックしたらインターセプトして場を開ければオーバーロードもただパワー5000上がっただけのユニットに過ぎないですもんね……。じゃあクリアさんは何かインターセプトをさせないような策があってあのアタックを……？」
「いんや、違うね」
二人の会話に聞き耳をたてていたショウはファイトを眺めながらそう言った。
「違うって、じゃあどういうことなのさ。お兄ちゃん」
「簡単な話さー。インターセプトをしないという確信があるわけじゃない。むしろ逆……、クリア君はガラハッドをインターセプトさせるためにわざとVからアタックしたのさ」
「「インターセプトさせるために……？」」
訳がわからないと言いたげな表情で呟く二人。
「そうさ。例えば、君たちがツカサ君の立場だったと仮定してこのVのアタックをどうする？」
「そっすね……。ダメージは二点っすからたとえクリティカルが出ても負けることはない……。となるとノーガードしますかね。ん、つまりショウさんが言いたいのは、クリア先輩はガラハッドをインターセプトさせるというよりツカサ先輩のガード誘うために先にVからアタックしたっていうことっすか？」
「そういうことさ。普通Vがアタックしたものをガードする場合、トリガーが出てもいいように5000多くガードを使うよね？普段からやってるとそれが当たり前に思うかもしれないけど、端から見れば無駄に5000多くガードするのはアド損だ。だから僕たちは基本的にダメージに余裕があればVのアタックはノーガードしてガードを温存するようにしてるよね？」
「そういうことっすか……。オバロのアタックを10000でガードさせるかわりにVで15000のガードを要求。トリガーが乗ればベリコウスティに与えてさらにガード強要。オバロのあの起動効果を餌にするなんて……」
「もしガードしなくても、トリガーがあればオバロに乗せてガラハッドをアタックすればいいですもんね……」
納得し、クリアの思惑を理解した二人。それと同じように、ツカサもすでにこのクリアの考えには気づいていた。
(……どうしよう。正直、どうガードしてもクリア君の思惑から抜け出せない……。さすがは百戦錬磨のピオネール、プレイング一つでこちらのガードをより多く要求してくるな～。でも、これではっきりした)
ツカサはクリアのデッキに目を移した。
(クリア君のデッキにはスタンドトリガーは入ってない。多分クリティカル6か7ドロー6か5ヒール4のバランス配分。ガトリングクローを四枚入れない理由はあまりないし、こちらにトリガー配分を悟らせないようにしているとしたらモニカも入ってるかもしれない)
次にツカサは視線を自分の手札に戻した。
(このアタック、トリガーが発動することも考えるとやっぱりガラハッドを残すのは得策じゃないかな。結果的に15000でガードするなら……)
「アラバスター・オウルとガラハッドをインターセプトでガード！」25000
ガードを宣言するツカサ。それを見てハジメとシロウは口を開いた
「やっぱりガードしてきたっすね……」
「ツカサさんはクリアさんの考えてることがわかってるんですか？」
「わかっててもそうするしかないっていうのが妥当だろうな。クリティカルでも乗ろうものならオバロが文字通り火を吹くからな」
ガードをしたのを確認したクリアは表情を変えることなくドライブチェックに移行した。
「ツインドライブ!!、アインス、ブレイシングフレア・ドラゴン。ツヴァイ、ドラゴンダンサーモニカ。GET、ドロートリガー」
クリアは引いたカードを確認したあと、カードを伏せトリガーの効果をベリコウスティに乗せた。
「オーバーロードでヴァンガードにアタック」16000
「スタンドの驚異は去った。それは通すことにするよ。ダメージチェックは小さな賢者 マロン」
「キンナラのブースト、ベリコウスティでヴァンガードにアタック」20000
「それもノーガード。残念、ここでトリガーなんだよね～」
ヤレヤレといった様子でツカサは、アラバスター・オウルをダメージに置いた。ツカサの言動に少し動きを止めたクリアだったが、すぐに手をダメージに置いた。
「ベリコウスティのスキル、ダメージを一枚表に戻す。……エンド」
ツカサ
手札5
ダメージ表2
ダメージ裏2
クリア
手札4
ダメージ表2
ダメージ裏2