「恒例行事、行きますぞ!キングの後ろにカルマ・クイーンをコール!CBでブレードシードのスタンドを禁止!さらに左上に装甲妖精シュビーラ(10000)をコール!」
シュビーラ/インビンシブル/キング
ドグー/カルマ/カルマ
「装甲妖精シュビーラですか。たしかにそのデッキには適任のサブヴァンガードですわね」
感心する女性とは対照的にシロウはまたカイリに助けを求める視線を向けた。
「シュビーラっていうのはノヴァにおいて数少ないSBを持つユニットなんだ、メガブラストを除いてね。シュビーラのアタックがヒットした時、ソウル三枚を消費することで一枚ドローすることが出来るからソウルを溜めるインビンシブルと相性がいいんだ。しかもヴァンガードならノヴァにブーストされた時にパワー+3000されるから攻撃にも回れてあの人が言ってたようにショウさんのデッキには適任のカードなんだと思うよ」
「そうなんですか。そういえばカイリさんもインビンシブルを入れてるならあのカードとか入ってたりするんですか?」
「うーん、俺のデッキはあくまでライザーをソウルに入れるためにインビンシブルを使ってるからちょっとシュビーラは入ってないかな」
素朴で唐突な質問にカイリは苦笑いを浮かべながらそう言った。
「攻め手は万全!奪われた分取り返していくよい!カルマのブースト、キングでヴァンガードにアタック!」17000
「ダンガン・マロンでガードしますわ」21000
「だろうねー。それじゃあカルマのブースト、インビンシブルでヴァンガードにアタックしますぞ!」17000
もはや読み合いというより作業と化したこのやり取り。手札が少なくなればツインドライブの関係上、手札の中身は容易く把握することが出来る。
残り不確定要素はトリガーの発生。これもよほど手札に余裕がない限り、出る体でガードをする。例外はクリティカルトリガーダブル。
となれば後は簡単。相手のダメージは三点。たとえ一枚クリティカルが出ても負けることはない上、二回ものダメージチェックを受けることが出来るとなれば、
「それはノーガードですわ」
「だろうねー。ツインドライブ!!」
わかりきっている。ここでクリティカルトリガーダブルでも出ればパパッと終わるが、そんな終わり方誰も満足出来ないし、自分だってそんな勝ち方はごめん被りたい。いや、まぁ嫌ならクリティカルをリアガードに割り振ればいいけどそれだとナメプだと思われるかもしれないし、カイリ達のこともあるからそれでもいいんだけども……。
デッキを手で添えながら手札を見る。
こんなチャンス、これを逃していつ達するか!ましてやこのシチュエーションでそれが出来たらどれだけ高揚することが出来るか……。考えるだけでゾクゾクする。
「ずいぶんとトリガーを期待しているのかしら?手が震えてますわよ」
「フフン、わかります?それなりにやってるつもりでも、なかなかに慣れないもんで。いくよい!ファースト!ラウンドガール クララ!ヒールトリガーGET!ダメージを一枚回復してパワーはシュビーラに。セカンド!タフボーイ」
クリティカルはなし。ショウは我慢ができず、出来る限り女性に見えないようニヤリと笑う。それは尖るほど鋭く、いやらしく。
「ではダメージチェック、ダンシング・サンフラワー。ドロートリガーGET。一枚引いてパワーはヴァンガードに加えますわ」16000
「おおっと、それはうまい。じゃあこのアタックは避けていきますぞ。ドグーのブースト、シュビーラでローレルにアタック!」22000
「それは悩ましいですが、ノーガードですわ。ローレルは退却」
「それじゃあシュビーラのスキル。ソウルから……そうだなぁ、とりあえずブラウクリューガー以外の適当なやつを三枚をドロップしてドロー!で、ターンエンド!」
ノヴァコロニー
手札4
ダメージ表2
ダメージ裏1
ネオネクタール
手札4
ダメージ表2
ダメージ裏2
「これは思ったより長期戦になりますなー。まぁ、大体僕のせいだけどさー」
「私は別に気にしておりませんが、お連れの方々はそれなりに気にしているようですわよ?」
「はっはっはー。もうそっちの方向けないよねー」
頭に手を置き、冷や汗びっしょりにショウはそう言った。
相も変わらずやってくるスタンド封じにより、ブレードシード以外をスタンドさせ女性はドローした。
「先ほどはクリティカルは出なかったにしろ、安定してメガコロニーのユニットを引いているのは運が向いてますわね」
「それは言えてるなー。ほんと、クリティカルが出ない以外は完璧な回り方をしてますよ」
「フフフ。でもこちらもそういつまでも縛られているわけにはいきませんわよ。ブレードシードは退却」
退却させたのを合図にショウは笑みを浮かべ、口を開いた。
「ついに上書きしましたか。これでたしかにブースト出来るように出来ますけど間接的に手札を削って除去したことになりますからね。それはそれで美味しいなー」
「それについては重々承知しておりますわ。しかし、攻め時を逃すわけにはいきませんので」
「ふんふん、たしかにまだクリティカルトリガーは一枚しか出てないし、ヒールに関しては一枚もまだ見えてない。丁度僕のダメージも回復したことだしここぞとばかりにトレイリングローズのスキルを狙いに来たわけね。でも残念だなー。それもつかの間のひととき。次のターンにまた縛られるんだからさー」
手札のカードを右手の指に挟み強調するように右手を顔の辺りまで持っていきながらショウは言った。終始へらへらした態度をとるショウに対し、女性は右手でカードを一枚指に挟むとニコッと笑った。
「それに関してはもう遠慮いたしますわ。トレイリングローズの後ろは既に絶対領域となっておりますので」
「絶対領域?」
ここで初めてショウは眉間に皺を寄せ、女性の持つカードに注目する
「えぇ。もう貴方にここを侵すことは叶いません。ヴァンガード裏に、私はウォータリング・エルフ(4000)をコールしますわ」
「ウォータリング・エルフ……」
コールされたウォータリング・エルフを見ながらショウは呟く。前髪のせいでよく表情は見えないが、衝撃を受けているのは間違いない。
「……そうか、なるほど。あの人……うまい……」
「どういうことなんですか!あのウォータリング・エルフって何なんですか!上書きして出すカードが10000ガードのスタンドトリガーならむしろ有利になったんじゃないんですか?」
このコールに気勢をそがれたショウとカイリを見てシロウは心配そうに聞いた。
「うん……そうだよ。ただこれでもうヴァンガード裏を縛ることが出来なくなったんだ……」
「そんなことが……。あのユニットはスタンド封じが効かないスキルを持ってるということですか……?」
「そんな感じだね。ウォータリング・エルフは自身をソウルに入れることで自分のネオネクタールのパワーを+3000するスキルを持っているんだ。スタンド封じで制限出来るのはブーストとレストをコストにするスキルだけ」
「他の起動・自動スキルは条件さえ整えば使用出来る。つまりウォータリング・エルフそのものをスタンド封じに出来ないこともないけど、したところで相手側はソウルに入れて戦線強化出来るからスタンド封じそのものが無駄になるんだ……」
「そんな……」
深刻そうな表情で説明する。カイリ自身、危なげながらもゲームをコントロールするショウに安心感を抱いていた。
クリティカルが出ても決して余裕の表情を崩さないあのヴァンガードファイターが負けるわけがないと。
しかし、初めて表情を曇らせるショウを見てカイリは実感する。これはヴァンガードだ。どれだけ完璧に回しても一度の戦況の歪みがゲームを混沌に陥れる。
流れが変わる。ここから先は、神のみぞ知る領域。全ては、ヴァンガードであるショウに委ねるしかない。
「さらに私は左上にローレルをコール。ポップコーンのCBを二回使いますわ」
初めて全てのユニットがスタンドし、リアガードは全て20000もの火力を誇る。
「は、ははは。これは……。なかなか来るものがあるさー……」
乾いた笑顔でそう呟く。端から見たその顔はどことなく辛そうであった。そしてチラッとカイリ達の方へ視線を向けるショウは、突然にある行動を取った。
パンッ!!
「?突然どうかなさいましたか?」
両手で思い切り顔を叩くショウを見て女性はそう呟いた。
「いやー、この緩みきった顔を引き締めてやろうと思いましてさー。でもこれで多少はスッキリしたかな?」
ヒリヒリする皮膚を擦りながらショウは言った。
落ち着け自分!いくら何でもこれじゃあ感情がだだ漏れだ!相手を見ろ、これほどの相手に巡り会えたことに感謝して誇りあるファイトに努めるんだ!
深呼吸をしながら気分を落ち着かせる。そしてこちらに気遣う女性に対して口を開いた。
「遠慮しないで来てくださいな!こっちはさっきのヒールとシュビーラのドローで守りは万全!少なくともこのターンは守りきる!」
「フフフ、威勢がよいのはいいことですわ。それではバトルに移りましょう」
そう言うと女性はリアガードのトレイリングローズに手を添える。ショウの反応に満足したのか、笑みが絶えることがなかった。
「ポップコーンのブースト、トレイリングローズでヴァンガードにアタックしますわ」20000
「ノーガード!ダメージチェック、いいセンスだ!レッド・ライトニング!」
ニヤリと笑い女性を見るショウ。だが、女性の猛攻は止まらない。
「あら――残念ですわ。これではもうトレイリングローズのアタックは期待出来ませんわね。では単純にガードを削らせていただきましょうか。ウォータリング・エルフのブースト、トレイリングローズでヴァンガードにアタックしますわ」15000
「ラウンドガール クララでガード!」25000
先ほどドライブチェックで引いたヒールトリガーだ。あちらもこれは予想済みだろう。
正直なところ、ダメージが三点なのでさっきのアタックをガードしてこのアタックを通したいところだが、やっぱりトレイリングローズのペルソナは怖い……。
っていうかまたローレル出てきたか……。いや、じゃなかったらシュビーラのアタック通すわけがないか……。
ツインドライブを捲っていく女性。これにはその場にいた全ての人が注目した。
「ツインドライブ。ファーストチェック……スイート・ハニー。ヒールトリガーGETです。ダメージを一枚回復し、パワーはローレルへ。セカンドチェック……グラスビーズ・ドラゴン」
ホッと一息をつく。カイリとシロウ。ここでクリティカルでも出ようものならたとえガード出来たとしてもアタッカーが足りずにそのまま負けてしまっていたかもしれない。
それはショウにとっても例外ではない。ただ、ショウは一つ別のことを考えていた。
「さて、クリティカルが出なかったのでこの高いパワーでのアタックも無駄になってしまいましたわね……。まあよいでしょう。カローラのブーストでこのローレルは大人しくヴァンガードにアタックしますわ」25000
女性もまた、ここで一つの可能性を考えた上でこのアタックを選択した。
ショウのダメージは四点。15000ものガードをするこのアタックをわざわざここでガードする必要はあまりない。先ほどのドライブチェックから見てアタッカーはいないし、最悪ヒールトリガーが出てしまう可能性を考えればここはリアガードを潰すことに意味がある。
だがもしショウがまたスタンド封じのユニットを出す場合、リアガードを一つ空ける必要がある。圧殺すれば問題ないが、それではアドが実質的に取れない。
女性の考えとは、あえてヴァンガードにアタックすることでキングをインターセプトさせ、ガードを減らすというもの。
もしカローラやローレルにスタンドを禁止したとしても、既に手札には別のカローラがある。ローレルもガード値を下げずにユニットを展開出来ると考えれば問題ない。死角は――ない。
「カルマ・クイーン、タフ・ボーイ、キングをインターセプトでガード!」30000
やはりガードしてきた。残り手札は一枚。わざわざガードしたということはあの残っている一枚はレディ・ボムか。
ショウの顔は最初に比べれば明るくなったが、口がひきつっていることを見るとやはりまだ動揺を隠せずにいるのだろう。
次のショウのアタック。あちらは火力を捨ててひたすらにこちらを縛る構築。トリガーを除いて15000ガードを強要するガードはおそらくない。
クリティカルは出なかったものの、ヒールのおかげでダメージは三点。確実に防ぐことが出来る。
「私のターンはこれで終了しますわ。この状況で貴方が一体何をするのか――楽しみですわね」
ニコッと笑いながら宣言をする女性。
外から見ているカイリ達にはファイトをしている彼らの手札は見えていない。だからこそ、胸を抑える気持ちでショウに期待をした。
ショウのターンに移り、ショウは全てのユニットをスタンドさせる。
「――?どうしました?ドローしないのですか?」
ユニットをスタンドさせた後、俯きながら一向にドローする素振りを見せないショウに女性はそう問うた。
「……!?まさか……」
ここでカイリは声を上げる。ショウのメンタルは今まで接しているなかから察するにガラス張りだ。
ついに強度の限界が来たのかもしれない……。orzになるのも時間の問題か……。
そうカイリが絶望にうちひしがれていると不意にショウは口を開く。
「クックック……フハハハ……アーハッハッハ!」
突然狂いだしたように笑い出すショウ。
ついに壊れたか……と諦めに満ちた目でショウを見るが、次のショウの一言がカイリ達の心境を変化させる。
「あー辛かったー。笑いを抑えるの本当に辛かったー」
「――どういうことですか?」
厳しい表情でショウを見る女性。当たり前だ。あんな言葉、挑発以外の何物でもない。
ショウは取り敢えずドローし、そのカードを確認するとさらに笑いを堪えるように声を漏らした。
「いやぁ、すいません。ちょっとばかし上手くいきすぎてて開く顎が塞がらない……ククッ……」
スタンディングテーブルに手を置き、必死に笑いを堪えようとするが、それが逆に女性には逆撫でる。
腕を組み、あきれた様子でショウを見つめる。
上手くいきすぎてて……?訳がわからない。圧倒的に不利なのは彼の方である筈なのに彼にはそんなことはどうでもよいということなのか……。
少し落ち着いたショウは、デッキの上から一枚をソウルに差し込む。
「あー、ザ・ゴングかー。さすがにこれ以上の慰めはないかー。まぁ、いい意味でこれは僕のテンションを下げてくれたからよし!」
「そう、やっと冷静に口が聞けるようになったと言うわけですわね。その下品な笑いはまるで私に汚点があったからこそのものと見受けますが、その実ををお聞かせ願いますわ」
「んー、それは一つ語弊がありますなー。お姉さんに汚点なんて無いんですから。僕のデッキを把握した上でのプレイング、お見事と称賛はしても蔑むようなことはないさー。ただ、一つ訂正するとすれば……」
ショウは一枚のカードを取り、指に挟んだ。
「お姉さんがあまりにも巧すぎた、っていうところかな?」
「……理解出来ません。巧いことの何がいけないというのですか」
その問いにショウはニヤリと笑った。
「――強いていえば、相手が僕だったから」
……気違いじみている。その言葉がピッタリ当てはまると女性は感じた。
「さて、痛い視線を受けつつも持ち前の明るさで気にせずいくよい!奇想天外、皆の記憶に残る奇術の御披露目!」
掴んだカードを振り上げ、そのカードを先ほど空けた右上にコールする。
「さぁ、誰も知らないショーの――始まりさ!」
その勢いで揺れる髪から覗かせる瞳は、ショウと言う人柄からは想像出来ないほど鋭く輝いていた。
「――!?」
「なっ……!?あり得ない……あんなカードを使ってるだなんて……」
「……見たことないカード……」
威圧された空間。コールされたユニットはシロウ除くカイリ、そしてどんな奇怪なプレイングにも冷静に対処してきた女性でさえ狼狽えさせる。
読みきれるわけがない……。あんなユニットを使うファイターが存在するなんて……。あり得ない……
そんな中、おいてけぼりにされているシロウは、堪らずカイリに声をかけた。
「あの、カイリさん。何なんですか、あのユニットは。そんなに凄いカードなんですか?」
見ているだけのカイリでさえかなり動揺しているのか、コールされたユニットに目を奪われながらもシロウの問いに頷いた。
「……うん。凄い……。というより……あんなユニットをデッキに入れてる段階で既にヴァンガードという世界の範疇を越えてる……」
「そ……そんなに凄いカードなんですか、あれは」
「違うんだよ、シロウ君」
そう呟き、そのユニットを凝視するシロウにカイリは首を振った。
「あのユニットは、ヴァンガードというカードゲームが生まれた最初期に世に出たカードであるにも関わらず、あまりにも利便性の悪さにほぼ全てのファイターがその使用を諦めるほどの低級ユニット……」
カイリがそこまで呟くとまるでその続きを説明するかのように女性は口を開いた。
「使用する局面が限りなく限定され、ヴァンガードにライドしてはほぼバニラ……。G3という階級のカードでありながらその能力はG0と同等……。……その程度ユニットが……」
「以外と効くでしょ?このカード」
笑みを浮かべるショウは、そのコールしたユニット顔の近くまで持っていく。
「否定はしないよ。これは間違いなく最底辺級のカード。それでも――これは僕のデッキの切り札なんだ」
そしてそのユニットをそっとドロップゾーンに置くとショウは叫んだ。
「己が信じる道を突き進め!
『エグザイル・ドラゴン』
スキル――発動!」