先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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奇行種

話がつき、歩み寄ってくるショウを見ながら女性は無表情でショウに声をかける。

 

「そう、貴方が私の相手をすると……」

「そういうことになるのかな。まあお手柔らかにお願いしますよ、お姉さん?……あれ?」

 

微笑みながらスタンディングテーブルにつく。すると何故か突然ショウは驚きながらスタンディングテーブルをまじまじと見た。

 

「あれあれ?これって普通のスタンディングテーブル?MFSじゃない感じ……?」

 

祈る気持ちで話しかけてくるショウに女性は眉間を寄せた。

 

「そうですわね。ここは次の第三回ヴァンガードチャンピオンシップ地区大会本選の会場。貴方が望んでいるMFSはこの隣」

 

女性がそう言うと、ショウは「なん……だと……」と言いあからさまに残念そうに表情を浮かべていた。

 

「貴方……まさかそれが目的で……?」

「そ、そんなわけないじゃないか!僕の弟の友達が困ってるってのにほっとけるわけがない!」

「そう、貴方シロウ君の兄だったの」

「あ……」

 

思わず声を漏らすショウ。女性はクスクス笑いながらデッキとFVを取りだし、スタンディングテーブルにセットしデッキから五枚引いた。

 

「貴方、面白いわね。いいわ、勝負しましょう。これで貴方が勝てば約束通りお友達に会わせましょう。勝てれば――ね」

 

動揺しつつも、ショウも負けじと自分のデッキとFVを取りだしスタンディングテーブルにセットし、カードを引いた。

 

「余裕ですねぇ。よほど自信がおありで。言っときますが、俺はシロウと違って初心者じゃないんで、あまり嘗めないほうがいいよ?」

「ふふふ、それは楽しみね」

「いいですよ。これから僕の実力を――思い知らせてやる」

 

お互いマリガンを終え、FVを手に取る。そして掛け声とともにFVを表替えした。

 

「「スタンドアップ!ヴァンガード!」」

 

 

「シールドシード・スクワイア」

 

「ブラウユンガー!」

 

お互いがFVを公開した時、女性はあることに気づいた。

 

「貴方……そのスリーブ……」

「ん?これが何か?」

 

ショウは自分の手札のカードを見せつけながらそう言った。ショウのつけているスリーブはヴァンガードサークルをバックにお馴染みのロゴのVanguardと書かれたスリーブ。

 

スリーブとは、カードが傷つかないように保護するビニール製の外装である。ヴァンガードにおいてもスリーブは重要であり、高レアリティのカードを傷をつけないように使用するのに重宝されている。

 

しかしこのスリーブ、ヴァンガードにおいては些かややこしい。

 

何故ならMFSを使ったファイトにおいて誤作動が起きる可能性が出てくるためだ。

もちろん端からMFSを使わないというのであれば問題ないが、そう思うファイターは少ない。誰もがいつかはMFSでのファイトを夢見ているからだ。

 

そこで出てきたのがアメージングドリーム社が開発した青いヴァンガードサークルが描かれたスリーブ。

これはカードから情報を読み込むMFSの妨げにならぬよう改良が施されており、ほぼ全てのファイター……カイリ、シロウも例外なく使われている。

 

しかし……

 

「えぇ、その赤いスリーブ。貴方もなかなか珍しいものを持ってるわね」

 

ショウの赤いヴァンガードサークルのスリーブを見ながら女性は呟いた。

 

「そのスリーブは第一回ヴァンガードチャンピオンシップ記念に作られたスリーブ。かつてピオネールの四人が使った色違いと同じモデルのものですわね」

「へーほー。じゃない!これってそんなに珍しいものだったのか!?いや、でも偽物かも……」

 

惚ける気が見られないショウを女性はジト目で見た。

 

「……惚けても無駄ですわよ?先程の様子ですと貴方はMFSをやる気でここに来たと伺えます。つまりそれは紛れもなく本物。ですわね?」

 

「あちゃあ」と頭を掻くショウ。しかし、その表情は特に気にしている様子はなかった。

 

「ばれちゃったか。でもこれに目がいくとはなかなかいい洞察力をお持ちでいらっしゃる。流石アメージングドリーム社員と言ったところ。でもこれで心置無く本気でやりあえるってことさ。そうだね?」

「そうですわね。それではいかせてもらいましょう。私のドロー」

 

戦いが始まる。二人のやり取りを見ていたカイリとシロウは顔を見合わすと二人のファイトを観戦することにした。

 

女性の先行。彼女は引いたカードを手札に加えると別のカードを取りヴァンガードに重ねた。

 

「カローラドラゴン(8000)にライド。シールドシードはスキルで左上に移動。私はこれでエンドですわ」

「アタック出来ないのにFVを前列に……?一体……」

 

始めから意図の読めないプレイングにカイリはそう呟いた。

ショウはフフンと笑うとカードを引いた。

 

「しとやかな雰囲気に似合わずなかなかアグレッシブなことをなさる。けど、そうでなくちゃ面白くないですな!僕はブラウパンツァーにライド!ブラウユンガーのスキルでデッキからブラウクリューガーをサーチ!」

 

ショウが使うのはもはやこの小説でお馴染み(?)となっているフルバウサイクル、ブラウシリーズ。

 

元々バトルライザーしかFVがいなかったノヴァにとって初めてのFV専用ユニットとして注目された。

 

対する女性のデッキはネオネクタール。デッキからのスペリオルコールを得意とするが、比較的に突出したスキルはあまり無い。しかし汎用性の高い互換カードを多く保有し、攻防共に抜群の安定性を誇るクランである。

 

「さしずめ、そのシールドシードはデコイ?シールドシードはアタックヒット時にスキルを持ってるけど、パワー5000しかないそのユニットを残しておくメリットはなさげだもんね。こっちのユニットを誘い出して次のターンに仕留めると言ったところかな?まあ、今手元に丁度いいユニットがいないからこのまま行くけどさ」

 

鼻歌交じりにショウは、ブラウパンツァーに手を添える。

 

「というわけでブラウパンツァーでヴァンガードにアタックするよい!」8000

「さすがに手慣れてますのね。それはノーガードですわよ」

「ドライブチェック!キング・オブ・ソード。ブランク(はずれ)!」

 

トリガーが出なかったにも関わらずショウは楽しそうにカードを手札に加えた。

 

「ダメージチェックです……魁の戦乙女ローレル」

「ほほう、魁の戦乙女ローレルね。なーんだジーンじゃないんだ」

「……逆にジーンを使ってる人なんているのかしら?そうとうな物好きくらいでしょう、ジーンを使う方は」

「で、ですよねー!ジーンを使っていいのは小学生までですよねー!」

 

嘲るように言う女性にショウはそう言った。ショウの様子からカイリは苦笑いを浮かべながら呟いた。

 

「ショウさん、使ってるんですね……」

「いや……まあ……うん……。とりあえず僕のターンは終了……」

 

しょんぼりするショウを横目に女性はカードを引く。

 

「私のスタンド&ドロー。私はアイリスナイト(10000)にライドし、左下にカローラドラゴンをコールしバトルに入ります」

 

シールドシード/アイリスナイト/

カローラ//

 

「アイリスナイトでヴァンガードにアタックしますわ」10000

「ノーガード!」

「ドライブチェックです……ドロートリガー。一枚引きパワーはシールドシードに加えます」

「ダメージチェック、ハングリー・タンプティーかぁ……。これは不味いかなー?」

 

言葉とは裏腹に、にこやかな笑顔を浮かべながら言うショウに女性も笑みを浮かべた。

 

「カローラのブースト、シールドシードでヴァンガードにアタックしますわ」18000

「はっは……。仕方ないけどこれもノーガード。ダメージチェック、シャイニング・レディ……おま遅すぎっぞ!」

「――ではアタックがヒットしたのでシールドシードのスキルを使わせていただきましょう」

 

女性はシールドシードを手に取ると、デッキの上に置きデッキを取った。

 

「シールドシードをデッキに戻し、デッキからブレイドシード・スクワイア(7000)をヴァンガード裏にレスト状態でスペリオルコールさせていただきますわ。そしてターンをエンドします」

 

ユニットをコールした後女性はそう宣言した。

 

「G0のユニットがG1になって帰ってきた……。これがさっきお兄ちゃんが言ってたスキル?」

「そうさ。しかもコールする場所も任意に選択出来るからライン調整も出来るってわけさ。だからさっきのアタックは防いでおきたかったけどあいにくガードが足りなくてスキルの発動を許しちゃったけどさ」

 

首を振るショウに対し、女性は微笑んだ。

 

「先程はシールドシードをデコイと思っていたようでしたが――見事な読みですわ。願わくはブラウパンツァーでも出していただけたらとおもっていましたが」

「フフン、そしたらG2がパワー9000の時15000。ネオネクタールのヴァンガードは11000だから5000ガード出来ちゃいますもんね。そう簡単に策には嵌まりませんよ!」

「ですが、シールドシードは処理出来ました。後は無難な、ネオネクタールらしいやり方でお相手致しますわ」

「それは楽しみだなぁ。僕のスタンド&ドロー!ブラウクリューガー(9000)にライド!さらにキング・オブ・ソードを左上にコール」

 

ユニットをコールするとショウは突然顔を俯いた。

 

「そちらがやる気満々ならこっちも遠慮はいらないと捉え、ここから僕のデッキの真骨頂を御披露目しますよい!」

 

そう言うと手札からカードを一枚振りかざし、勢いよく場にコールした。

 

「カルマ・クイーンをヴァンガード裏にコール!そしてCB!今来たばかりで悪いですがそのブレイドシードのスタンドを禁止する!」

 

どや顔で宣言するショウ。このプレイに女性を含むカイリ達は目を見開いた。

 

「ノヴァのデッキの中にメガコロニー!?」

「そう、貴方のデッキはノヴァコロニーというわけですか」

「そういうことさ。意地の悪いやり方だけど、やってる方はやっぱり楽しいからさー」

 

ニヤニヤ笑いながらショウは言った。

 

「でもどうしてわざわざノヴァのデッキにメガコロニーを入れたの?普通クランは統一したほうがいいんじゃないの?」

 

シロウの質問にショウは視線をそちらに向けると答えた。

 

「そりゃ基本的にスキルを使うときにヴァンガードのクランを参照したりトリガーが発動しなかったりするから普通は統一したほうが安定するからそう思うのも不思議じゃないけどさ。それじゃ満足出来ないのさ、僕にはさ。それにノヴァにメガコロを突っ込むのはそれなりにシナジーがあるのさ。例えばさ……」

 

ショウはダメージゾーンにあるハングリー・タンプティーを手に取りカイリ達に見せた。

 

「こいつはどんなスキルだったか覚えてる?」

「ハングリー・タンプティーですよね。それはリアガードにコールされた時に裏のダメージを一枚表にするスキルですよね。……あ、なるほどメガコロニーのスキルのスタンド封じはヴァンガード指定がないものもあるからそれと組み合わせて継続的にスタンドを禁止することが出来るというわけですね」

「そういうことさー。逆にノヴァのCBの多くは相手に依存するものばかりだから場に出した時に使えるスタンド封じとは相性が抜群にいいんだよねー」

 

自慢気に語りながらカルマ・クイーンを手に取りフリフリ横に振った。

女性は腕を組ながらため息をつく。

 

「まんまと出し抜かれたというわけですわね。でも、何故パワー8000のカローラドラゴンではなくブレイドシードを選択なされたのかしら」

 

声を掛けられたショウはカルマ・クイーンを置き、視線を戻した。

 

「ん?そんなの決まってるさ。ヴァンガードのアタックを通したくないためさ」

「しかし貴方のダメージはまだ二点。わざわざヴァンガードのアタックを止める必要はなくて?」

「十二分の大有りさ。なんせ次のターンに出てくるであろうヴァンガード、メイデン・オブ・トレイリングローズにはヒット時のスキルがあるんだからさ」

「そう、そこまでお見通しというわけですわね。いいでしょう、さあ準備が整ったのであればどうぞアタックなさってください」

「お言葉に甘えて……キング・オブ・ソードでヴァンガードにアタック!」10000

 

女性は自分の手札を見つめる。今までの余裕の表情がここで初めて解かれる。

ここでガードすることは容易い。しかし問題は次のヴァンガードのアタック。

ブラウクリューガーはフルバウサイクルの例に漏れずソウルに指定のカードがあればパワーが10000になり、ヴァンガードにおいてスキルを持っている。

 

それはこのカードのアタックがヴァンガードにヒットした時に発動するノヴァ十八番のカウンタコストの回復。

 

フルバウサイクルの全てのG2スキルの中でこれは最も使い勝手が悪い。ノヴァにはG2の段階で使えるCBが少ないためだ。しかもほとんどが相手に依存するため、大概はこのCB回復は無駄になる。

しかし、ショウのデッキはメガコロニーを絡めることでこちらの行動制限することに特化したデッキだと見てとれる。

 

その基盤となるCBを回復させることはこれ以降のプレイにも影響してくるだろう。

 

しかしここで無駄にガードに手札を使うことはまだ盤面の整っていないこの場面においては得策ではなく、手札さえあればスタンド封じもユニットを上書きすることで攻め手を緩めることもない。

 

「ダンシング・サンフラワーでガードしますわ」15000

「これはちょうどいいガード札。次はカルマのブーストのブラウクリューガーですけどガードします?」17000

「それはノーガードですわ。貴方のデッキに対してカウンタコストの回復を許すのは芳しくありませんが。無理にガード札は消費したくはありませんもの」

「なるほど、それは的確な判断で。じゃ、ドライブチェックいきますぞ!」

 

ノヴァコロニー

 

手札5

ダメージ表0

ダメージ裏2

 

ネオネクタール

 

手札5

ダメージ表1

ダメージ裏0

 

トリガーを捲るショウ。そのカードを見るとまたニヤリと笑みを溢し、そのカードを手でぶら下げながら女性に見せる。

 

「レディ・ボム。ブランク」

 

その憎らしい笑みにも動じることなく女性はダメージチェックを行う。

 

「ヘイヨー・パイナッポー。トリガーなし」

「おお!ヘイヨー!こっちも爆発してるぜい!」

 

ショウはそう声を上げながらレディ・ボムをフリフリ横に振った。

 

「貴方、本当に自由な人ね」

「それほどでもないさー。処理を続けるよ。ブラウクリューガーのアタックがヴァンガードにヒットしたからCBを一枚表にしてターン終了!」

「私のスタンド&ドロー」

 

女性はブレイドシード以外のユニットをスタンドさせ、ドローすると手札から一枚取り胸にあてた。

 

「古より咲きし大いなる薔薇の精霊よ。あなたの美しき種が世界を鮮やかに彩ってくれることを私は祈っています。メイデン・オブ・トレイリングローズ(11000)にライド」

「これは素晴らしい口上ですな。あなたの美しさと相まってそのトレイリングローズも輝いて見えますよ」

「フフフ、ありがとうございます。続けて、左上に魁の戦乙女ローレル(10000)、右上にアイリスナイトをコール致しますわ」

 

ローレル/トレイリングローズ/アイリスナイト

カローラ/ブレイドシード/

 

ユニットをコールし終えた女性は、そのままバトルに入った。

 

「アイリスナイトでヴァンガードにアタックしますわ」10000

「3分だ!3分間ガードする!」15000

「3分間ガードってどういうことさ……お兄ちゃん……」

 

スリーミニッツでガードするショウにシロウは呆れた様子でそう呟いた。

 

「ではトレイリングローズでヴァンガードにアタックですわ」11000

 

ブレイドシードがレストしているため、ブーストなしでのアタックである。

 

「あの、カイリさん。結局あのトレイリングローズはどんなスキルを持ってるんですか?お兄ちゃんの言い方だとヒット時のスキルみたいですけど」

 

ファイトが激化するG3での攻防のため、さすがにショウに聞くのは気が引けたシロウはそうカイリに聞いた。

 

「うん。トレイリングローズはアタックがヒットした時にペルソナブラスト、つまり手札から同名カードを捨てることでデッキの上から五枚のカードのうちの二枚をスペリオルコールするスキルを持ってるんだ。ちなみに残りのカードもデッキに戻るから五枚の中にトリガーがあっても減らないからかなり強い部類のスキルだね」

「なるほど……簡単に言えば手札一枚を二枚に変えられますもんね……。あれ、でも待ってください……。アタックヒット時にスキルが使えるということは間接的にアタック回数を増やせるということですか……?」

「それこそがあのカードの強みかな?まぁその場合ユニットを圧殺しないといけないからハンドアドバンテージはあまりなくなっちゃうけどね。それでも上手く前列後列あればラインアタックが四回も出来るようになるから強力だよね。ラインが整ってなくて連続アタックが出来なかったとしてもユニットを空いた枠にコール出来ればあっという間に一ライン作れることになるから次からのアタックも安定させられるってわけなんだ」

「とにかく使うだけ有利になれるってことですね……。もともとパワーが11000ありますしかなり安定性の高いユニットなんですね」

 

シロウはそう言いながら視線をスタンディングテーブルに戻した。ファイトは、今まさにショウがガードを置いている最中であった。

 

「メガコロニー戦闘員Aでガード!」2000

「ううぇ!?またよくわからないカードを……」

「たしかあれはガードした後にソウルに入るユニットですよね……。あのデッキにソウルを使うユニットなんているんですかね……」

 

カイリとシロウが困惑しているのと同じように、女性もこのショウの出したカードの異常性を指摘する。

 

「メガコロニー戦闘員Aですか。Mr.インビンジブルを使うにしてもあのスキルを使うにはそのデッキは適さないのではなくて?」

「そうでもないさ。たしかにCBを良く使うメガコロニーがいるとはいうけど、メガコロニーのおかげで長期戦になりやすいからさ。もし狙おうと思うのならなかなかコストは溜まるもんよ?ささ、ドライブチェックどうぞ?」

 

右手を差し出しながらショウはそう言った。

 

「いかせていただきますわ。ツインドライブ。ファーストチェック……ウォータリング・エルフ。スタンドトリガーGETですわ。全てアイリスナイトに。セカンドチェック……メイデン・オブ・トレイリングローズ」

 

ドライブチェックを終え、安心したようにショウは息を吐き出した。

 

「じゃ、メガコロニー戦闘員Aはスキルでソウルへ移動っと。危ない危ない。危うくペルソナ!カッ!されるところだった。でもこれでこの後もヴァンガードのアタックを通すわけにはいかなくなっちゃったなー」

「あら、貴方もともとトレイリングローズのアタックなんて通す気なんかさらさらないんじゃなくて?」

「はっはー、ばれた?」

 

笑いながら言うショウに女性も誘われてクスリと笑った。

 

「貴方……潔いにもほどがありますわよ」

「実際に通したくないからさー。けどこれはあくまで希望的観測ってやつさ。通したくはないけど時と状況に応じて対応するのが一流のヴァンガードファイターだからね。特に、そこのラインとか出来る限りお帰り願いたい……」

 

ショウは苦笑いを浮かべながら女性の場のローレルを横目で見た。

 

「フフフ、では貴方の嫌がるこのラインでアタック……と言いたいところですが先にスタンドしたアイリスナイトでアタックしますわ」15000

「そこはレッド・ライトニングでガード!」20000

 

二人がファイトに集中している最中、カイリは突然呻りだした。

 

「うーん……なんだろう……」

「どうしたんですか?カイリさん」

 

不意に呟くカイリにシロウはそう声をかけた。

 

「いや、大したことじゃないんだけど。なんだかショウさんのファイトを見てるとモヤモヤするっていうか……」

「あぁ、なるほど。お兄ちゃんのやり方が汚いって話ですね」

「違う違う!そうじゃないんだよ!なんていうか……こう安心して見てられるんだよね……」

 

そう思わざるを得なかった、というものか。ショウの戦い方にカイリは良く似た感覚を以前にも感じたことがあった。

しかし、それが一体何で、どうしてこんなにもモヤモヤした気分を生み出すのか。その時のカイリにはわからなかった。

 

ガードが成功し、レッド・ライトニングをドロップゾーンに置くショウ。それを確認し、女性はローレルに手を添えた。

 

「ではカローラのブースト、ローレルでヴァンガードにアタックしますわ。ローレルはヴァンガードにアタックした時、こちらのヴァンガードがネオネクタールだったらパワー+2000。カローラと合わせて20000となります」

 

アタックが宣言されショウは苦笑いを浮かべる。ショウのヴァンガードであるブラウクリューガーのパワーは10000。したがって、このアタックをガードするには15000ものガードが必要となる。

 

「まぁこれを見越して今までガードしてたようなものだからね。ノーガード!ダメージチェック、スリーミニッツ!ドロートリガーGET!一枚引かせてもらいますよい」

「私のターンはこれで終了ですわ」

 

ノヴァコロニー

 

手札4

ダメージ表2

ダメージ裏1

 

ネオネクタール

 

手札5

ダメージ表2

ダメージ裏0

 

「僕のスタンド&ドロー。それじゃこっちもかっこよく行きますぞ!劈くほどの笑い声が響きて舞い降りんは唯一生粋のヒーロー!悪がもたらす悪行はお前の力で正して見せろ!Mr.インビンシブル(10000)にライド!」

 

長ったらしい口上とともにヴァンガードにカードを重ねる。心なしか、聞いてるカイリ達のほうが恥ずかしく感じた。

 

「フフフ、なかなか面白い台詞ですわね。メガコロニーのスキルとインビンシブルのSCをかけたといったところかしら?」

「おお!気づいてもらえましたか!悪のもたらす悪行(CB)をインビンシブルが正す(回復させる)って意味なんですよ!そしてこのお姉さんと僕の扱いの悪さ。仕方ないね」

 

やれやれといった様子でショウは首を振ると、おもむろにデッキの上から一枚をソウルに入れた。

 

「とりあえずインビンシブルのスキルでSC(ドグー・メカニック)してダメージを一枚表に。さらに左上にレディ・ボム(9000)をコール!そしてCB、またまたヴァンガード裏のブレイドシードのスタンドを禁止!レディ・ボムの後ろにドグー・メカニック(7000)をコール!さらにスキルでダメージを一枚表に!」

 

ボム/インビンシブル/キング

ドグー/カルマ/

 

目まぐるしくダメージをコントロールするショウ。同じノヴァを使うカイリでもあれほどダメージに着手したことはなかった。

 

「先ほどはあんなにローレルを敬遠なされていたのにそれでもブレイドシードを縛られますのね」

「ヴァンガードを止めるなら一ラインくらい通すのはやむを得ないからさ。やっぱりトレイリングローズのスキルは怖いし。さぁ、やられたらやり返す!キング・オブ・ソードでアイリスナイトにアタック!」10000

「ノーガード。アイリスナイトは退却しますわ」

「ほほう、余裕ですなー。次はどうですかね?カルマのブースト、インビンシブルでヴァンガードにアタック!」17000

「それもノーガード。ダメージには余裕がありますしインビンシブルにはヒット時スキルはありませんものね」

「ぐぬぬ……無いこともないけど正直言ってあると断言出来ない……。悔しい……。というのは置いといていく!ツインドライブ!!ファースト!スリーミニッツ……お前は頑張りすぎだ……。とにかくドロートリガーGET!一枚引いてパワーはレディ・ボムに。セカンド!いいね、カルマ・クイーン!ブランク!」

 

勢い良くトリガーを捲っていくショウ。逆に女性は落ち着いた様子でダメージチェックを行う。

 

「ダメージチェック……木漏れ日の貴婦人。トリガーなし」

 

ダメージチェックを確認し終えたショウは安心したようにため息をついた。

 

「ふぅ、なかなかにダメージチェックは怖いものさ。せっかくのスタンド封じも一発のスタンドトリガーで無に還されちゃうからさ。最近のデッキはクリティカルばっかりで結構このデッキ刺さるんだけどスタンドトリガーを強いられるネオネクタールは逆に困っちゃうよね。けど、攻めては緩めませんぞ!ドグーのブースト、レディ・ボムでヴァンガードにアタック!」21000

 

女性はこのアタックに口を防ぎながら手札を眺める。

このアタックを通すのはかなり微妙なラインだ。今、自分のダメージは三点。これを通せばクリティカルトリガー圏内である四点となる。

 

本来ならここは相手のトリガー配分からガードをするかを判断しなければならないが、そもそもショウの使うデッキが普通じゃないことが女性の決断を遅らせる。

 

トリガーの発生率から見てドロートリガーを思考停止レベルの安定投入枚数、四枚を越えて入れているのは間違いない。

しかし、最初にガードに使ったシャイニング・レディから見てクリティカルも四枚以上入っていることは明白。

 

「はぁ……」

 

女性は深くため息をついた。

 

結局はトリガーが出るかどうかの駆け引き。こんなことをいつまでも考えても仕方がない。

今までに何度も味わったことのある局面。女性の経験から導きだされた答えは、

 

「ウォータリング・エルフ、ヘイヨー・パイナッポーでガードしますわ」26000

 

そう、これが得策。

もしこれを通し、次の相手のターン。ヴァンガードのアタックをクリティカル警戒の15000でガード。クリティカルが出て場合リアガードに割り振られまた15000でガードを強要される。

 

三点でキープすればたとえクリティカルが出たとしても、こちらもダメージチェックによりトリガー発動のチャンスがある。

ここでヒールかドローでも出れば話は違うが、これはラストアタック。他のトリガーでは無駄トリガーとなってしまうため、リスクが高すぎる。

 

「ガードされちゃいましたか。まぁダメージが追い付いたから良しとしよう!ターンエンド!」

 

さすがのショウもここは通して置きたかったのだろう。口調から残念な思いが露呈しているのを女性は感じ取った。

 

ノヴァコロニー

 

手札5

ダメージ表2

ダメージ裏1

 

ネオネクタール

 

手札3

ダメージ表3

ダメージ裏0

 

「では、私のスタンド&ドロー……っ!?」

 

全てテンプレと化したプレイング。間違いはない。この出来事も、決して予想していなかったわけではない。

 

(ウォータリング・エルフ……)

 

ダメージトリガーの可能性。

誰もが何度も苦汁を嘗めさせられたことのあるこの現象は決して防ぎようのない事実。

 

しかし、今回はわけが違う。

 

ウォータリング・エルフはスタンドトリガー。つまり、普通のファイトであれば無駄トリガーとなるユニットである。しかし、相手がスタンド禁止を扱うメガコロニーであることが女性にこのような後悔を生んだのだ。

 

クリティカル以外のトリガーが出ればアドバンテージが取れたという現実を。

 

「貴方のことを、私はまだ甘く見ていたのかもしれません」

「ん?唐突どうしたんです?」

 

ショウは視線をそちらに向け、首を傾げた。

 

「私もヴァンガードを始めて日は浅いですが、人並み以上の経験を積んだと自負しております」

「ほほう、それだけの実力を持ちながら始めたばかりだとしたらそれはそれは力のある方とファイトしたんでしょうな。うんうん」

 

腕組みをしながら頷きながらショウはそう言った。

 

「だからこそ――私にもそれなりの意地があります。貴方は強いのは理解していますが、そう簡単に負けるわけにはいきません!」

 

あまり話がつかめないショウだったが、手札を持つ左手を女性に差し出しながらニヤリと笑った。

 

「心構えは結構!しかしこの宮下ショウの壁はそう容易くは砕けませんぞい!」

 

「フフフ」と笑う。思わぬことを言われてしまった。自分が本来ならその役割を担わなければならないのに。しかし悪い気はしなかった。

 

今引いたウォータリング・エルフを見る。

このカードが彼へ対抗するキーカードとなるだろう。しかしまだその時期には早すぎる。

 

「私は右上にメイデン・オブ・トレイリングローズ、左下にキャラメル・ポップコーン(7000)をコール」

 

ローレル/トレイリングローズ/トレイリングローズ

カローラ/ブレイドシード/キャラメル

 

自分の考えを彼は気づいているかはわからないが、たとえ気づいていても対抗策はない。それまでに彼の手札を削り尽くす。

 

「キャラメル・ポップコーンのCBを二回使わせていただきますわ。そしてそのキャラメル・ポップコーンのブースト、トレイリングローズでヴァンガードにアタックします」20000

 

ショウは驚いた様子で手札のカードを選ぶ。

 

「これは辛いラインがもう一つ出来てしまったなー。ネオネクタールは特にCBに縛られないから気兼ねなく使えるってわけね。ふんふん、いや……。ここはノーガードしよう!ダメージチェック、」

 

そう、それは知っている。彼は確実にヴァンガードのアタックを防いでくるのだから、そのガードが楽になる初撃はトリガーにかけてくる。

出来ればトリガーは出ないことを望むが……。

 

「ツインブレーダー……。数少ない完ガ落ちてしまったよい……」

 

残念そうに呟くショウを女性は静かに微笑む。

 

「ヴァンガードのトレイリングローズでヴァンガードにアタックしますわ」11000

「レッド・ライトニングでガード!」20000

「ツインドライブ!!。ファーストチェック……メイデン・オブ・ブロッサムレイン。セカンドチェック……ダンガン・マロン。クリティカルトリガーGETです。全てローレルに」

「うおっ!?ここでクリティカルトリガーとはなかなかやりなさる。しかもローレルとの火力と合わさり最強に見える……」

「貴方のダメージは四点ですものね。このアタックは是が非でも防がないと。カローラのブースト、ローレルでヴァンガードにアタックしますわ」25000

「たった一度のトリガーでゲームが支配されるのがヴァンガードのいいところだけど今回は辛いものがあるなー。トリガーがドローで来て不安だったけど逆に助かった、ラウンドガール クララ、スリーミニッツ、レディ・ボムをインターセプトでガード!」30000

「願わくはこれでと思いましたが、やはりそうやすやすとはいきませんわね。残り手札は二枚。うち一枚はカルマ・クイーンということはわかっておりますが、わざわざレディ・ボムをインターセプトをするということは残りはアタッカーなのでしょうね。私のターンはこれで終了ですわ」

 

ノヴァコロニー

 

手札2

ダメージ表3

ダメージ裏1

 

ネオネクタール

 

手札4

ダメージ表1

ダメージ裏2

 

「それだけの読みが出来て日が浅いっていうのは才能を感じますねー。スタンド&ドロー!お、これはいいカード!さらにインビンシブルのSC(Mr.インビンシブル)コスト回復」

 

コストを回復させたショウは「さて」と呟きながら女性を見る。

 

これは何か企んでる顔だ、うん。さっきのドローで引いたのは反応から見てトリガーだろう。おそらくクリティカル以外のなにかが妥当か?

と考えた手前、正直特に何かするわけでもないから気にすることもないか。ちょうどいいカードも引いたことだし、後はチャンスを待とう。大丈夫、彼女の実力なら確実にその時は来る。


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