先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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一応ここでファイト描写を書いていこうと思いますが、ここでのファイトはいわば前座です。

次の話から本格的なファイト描写を描いていこうと思います。


微笑の企み

ファイトはクリアが優勢で進んでいった。

 

一拍子から半月を除く満月へのスペリオルライドの成功、半月も手札からノーマルライドしていたため、理想的な回り方をしていた。

 

対して、カイリはG3へのライド事故が起きたが、次のターンにはパーフェクトライザー(11000)にライドでき、ソウルにもライザーが4枚送れたためもちなおすことが出来たように見えたが……。

 

「うわぁ……、えげつねぇ手札の差だなぁ」

 

パーフェクトライザーのスキルによるソウルチャージとG3へのライド事故、何より相手がツクヨミデッキであったこともあり、手札はクリア6枚、カイリ0枚と圧倒的だった。

 

「クックック、運が悪かったな。ま、そういう時もあるさ」

「うぅ……俺のターン……ドロー!よし!ハイパワードライザーカスタム(8000)をバトルライザーの前にコール!」

「ほう、なけなしの運を振り絞るか。だが、無意味だな」

 

クリアの言う通り、カイリの場にはヴァンガードのパーフェクトライザーに前のターンにコールしたバトルライザー、そして今コールしたライザーカスタムのみ。

 

さらにダメージは5点なのでこのターンに決めなければ十中八九負けてしまう状況だった。

 

しかしクリアのダメージはまだ4点、さらに手札は6枚あり、場にはインターセプトもできるサイレントトムが配置されており、磐石の体勢を敷いていた。

 

先程から時間がたったため客も増え、名も知られているクリアと挑戦者のカイリの二人のファイトを途中から見にきた外野から見ても、ここまでの圧倒的なアドの差から勝負は見えていた。

 

(確かにもう俺が勝つ望みは薄いかもしれない……でも俺は……せめてヴァンガードの中では俺の思うとおりにやってやる!)

「パーフェクトライザーでヴァンガードにアタック!パーフェクトライザーのスキルでパワー+12000され23000です!」

「オラクルガーディアンニケ、ドリームイーター、三日月でガード。31000だ」

 

意を決したカイリのアタックもクリアにはなんの重圧にもなりはしない。まるでいなすかのように、クリアは三枚ものガードをガーディアンサークルに置いた。

 

「一枚分ガード……。もしここでトリガーが2枚が出れば逆転ってわけか……」

 

普段ふざけた態度のハジメも友人のファイトとあって真剣な眼差しで現状を考察する。

 

「ツインドライブ!!」

 

祈る気持ちでデッキに手を添える。

先程から運ゲーと言われていたことを快く思っていなかったカイリも、この局面に至ってはやはり運頼みをせざるおえなかった。

 

「ファーストチェック!……シャイニング・レディ!クリティカルトリガーゲットです!」

「……だが、それじゃあ俺にダメージは通らない」

 

このトリガーで肩を撫で下ろしたカイリに、クリアは現実をつきつけるようにほくそ笑む。それを真に受けたカイリは苦い顔を浮かべながらトリガーを割り振った。

 

「……パワーはパーフェクトライザー、クリティカルはライザーカスタムに加えます……」

 

シャイニング・レディを手札に加え、再び祈る気持ちでデッキに手を添える。

 

「セカンドチェック!……パーフェクトライザー……トリガーなしです……」

 

カードを握る手の力が抜ける。一縷の望みを抱いて引いたカードからくる脱力感。まだ決着はついていないものの、勝つイメージを失ったカイリにもはやまともなプレイニングを望むのは限界があった。

 

「バトルライザーのブースト……ライザーカスタムでヴァンガードにアタック……」22000

「しょこらでガード。手札の満月を捨て、完全ガードだ。勝負あったな」

「完全ガード持ってたのかよ……。もしあそこでトリガーをリアガードに加えても意味がなかったってことか……。まじ先輩えげつねぇわ……」

 

クリアはガーディアンのカードをドロップゾーンに置くと、カイリがバトルライザーをデッキに戻したのを見て、ターンエンドをしたのを察した。

 

「つまり、こういうことだ。どだけうまくカードを回したってライド事故が起きたら勝てないし、トリガーが出なくても勝てない。そういうゲームなんだよ、これは」

 

ドローしたカードを手札に加えながらクリアは言った。

しかしカイリにもう言い返せるだけの気力を持ち合わせてはいなかった。

 

クリアの場には、三日月とアマテラス、ヴァンガードの満月とみるく、そしてジェミニとサイレントトムが配置されており、カイリの手札は今のツインドライブで加えたシャイニング・レディとパーフェクトライザーのみ、インターセプトのできるライザーカスタムもいるがどう見ても防ぐことは不可能。

 

「さて、ファイナルターンだ。三日月のブースト、アマテラスでヴァンガードにアタックだ!」17000

 

カイリは黙ったまま右手をデッキの上へと移動させる。

早くこのファイトを終わらせるために……

 

 

「諦めるにははまだ早いんじゃないかな?」

「えっ!?」

 

耳慣れない声が店内に小さく響く。そしてその場にいた全ての視線がその声の主の方へと向けられた。

 

「銀……髪……?」

 

そこにはあまりにも不自然な銀色の髪とクリアと同じ学生服を着た青年が背もたれを逆にして座っていた。ニヤニヤ微笑するその青年は、自分が注目されていることを気にしていないかのようにカイリ達のファイトを見ていた。

 

(……誰だあいつ。俺と同じ学ランだが、あんな銀髪やろう見たことがない)

 

クリアはそう思いながらその青年を見つめた。

 

「諦めるなって……見ればわかると思いますけどもうどうあがいたって俺に勝ち目は……」

「かもしれないねぇ~。でもそれはあちらさんが言ってるだけじゃん?」

 

青年はニヤニヤ笑いなからそう言った。

しかしすでに戦意を失ったカイリからしてみたらそんなことを言われても迷惑以外のなにものでもなかった。

 

「でも……実際そうですし……これ以上続けても……」

 

 

「他人に惑わされるな。自分の描いたイメージを信じろてみなよ」

「!?」

「……じゃなきゃ~、ヴァンガードやってやる意味がないじゃん?」

 

先程までのニヤけた顔から一転したかと思うと、再び人を小バカにしたようなニヤニヤした顔に戻った。

 

カイリは一瞬驚いたものの、目を下ろし、自分の手札のパーフェクトライザーを見つめた。

そこには、先程までのカイリの姿はなかった。

 

「すいません、途中でファイトを止めてしまって……」

 

カイリは再びクリアに目を移し、そう言った。

 

(そうだ……さっき自分でそう誓ったじゃないか……もう迷ったりしない!)

 

「そのアタックはシャイニング・レディでガードします!」21000

(バカの一つ覚えにガードするか……結果はなにも変わらないっていうのに)

 

クリアはそう思いながら、自分の場のみるくに手を添える。

 

「みるくのブースト、満月でヴァンガードにアタック!みるくのスキルは手札が2枚なので発動しない。17000だ」

 

みるくと満月をそれぞれレストさせ、カイリに目を向ける。

その瞳からは勝負を諦めない確固たる意思が伺えた。

 

「ノーガードです!」

 

「チッ、ツインドライブ!!」

(忌々しい……まるでヒールトリガーが出ることを知っているみたいに振る舞いやがる。世の中、そう甘くはいかねぇんだよ!)

 

クリアはイライラしながらデッキに手を添える。

 

「ファーストチェック!半月の女神ツクヨミ。トリガーなし」

 

クリアは半月を手札に加える。カイリは表情を変えない。クリアは再びデッキに手を添える。

 

「セカンドチェック」

 

クリアはドライブチェックのカードを確認すると、クックックと嘲笑いながらそのカードを自慢気にカイリへとつきつけた。

 

「ロゼンジ・メイガス!ヒールトリガーだ!ダメージは回復しないがパワーはサイレントトムに加える!悪いが、これで終いだ!!」

 

だめ押しと言わんばかりの結果にクリアのテンションは高ぶった。しかし、それでもカイリは表情を変えず、自分のデッキに手を添える。

 

「ダメージチェック!」

 

デッキトップのカードをカイリは確認せず、そのままトリガーゾーンに置く。そこにいた全ての者が同時に確認することができた。

 

そのカードに歓声が上がる。青年もニヤけた顔から目を見開き、勝利を確信していたクリアも動揺を隠せずにいた。

 

「ウォールボーイ!ヒールトリガーゲット!ダメージを一枚回復し、パワーはヴァンガードに加えます!」16000

 

カイリは力強くそう言うとそのカードをダメージゾーンに置いた。

 

逆転に繋がる一手、とまではいかないが、首の皮一枚つなぐことができた。しかし、まだクリアの優位に変わりない。

 

「まさか……本当に引くとはな。だが、時間の無駄だ。お前の手札にはガード出来ないパーフェクトライザーのみ。ライザーカスタムでインターセプトしてもパワー21000。このアタックは防げない」

 

クリアは場のジェミニとサイレントトムをレストさせ、アタックを宣言する。

 

(違いねぇ……。しかし、まさかここまでやるとは思ってなかった。もう十分だぜ、カイリ)

 

圧倒的不利な状況でも諦めないカイリを見て、ハジメは静かに称賛した。

 

「ノーガードです!」

 

再びデッキに手を添えるカイリ。

 

「……ダメージチェック!」

 

カイリは再びダメージチェックのカードをそのままトリガーゾーンに置く。己がイメージを信じて……。

 

「……バトルライザー……。スタンドトリガーです……。ライザーカスタムをスタンドし、パワーをパーフェクトライザーに……」

 

トリガーゾーンのこのカードをダメージゾーンに置いた。

 

「これでダメージ6点……。俺の負けです……」

 

結局クリアの言うとおり、結果は変わらなかった。それでもカイリにとって、このファイトは敗北以上の意味を見出だすことが出来たような錯覚を覚える。

 

(勝てなかった……でもなんだろう。負けたのにとても清々しい気分だ……)

 

ファイトが終わった瞬間観客から拍手が沸き起こった。

 

「えっ……、なんで……」

「みんな君のファイトに感化されたんだね~」

 

青年はカイリの肩を叩くとそう言った。

 

「でも俺……、結局負けちゃったし……」

「だから言ってるじゃ~ん?感化されたってね。みんなあれだけ不利な状況でも臆することなくファイトした君を称賛してくれてるのさ」

 

青年はそう言うとクリアに目を向ける。

 

「ましてや、格上の相手にあれだけのファイトを初心者がするなんてなかなか出来ないと思うよ」

「……一つ聞かせろ」

 

青年の言葉を黙って聞いていたクリアは不意に口を開いた。

 

「ファイト中にお前が初めて口出しした時、あの状況ではどうガードしても結末は変わらなかった。お前は何を思ってあんなことを言い出したんだ?」

 

クリアの言葉に「ん~」と考える素振りをするとバカにしたようなニヤけた顔で言い放った。

 

「君の驚いた顔が見たかったからかな~?」

「なんだと?」

 

青年の言葉にクリアは眉間を歪ませた。

 

「確かにあの場面では、あのままノーガードでヒールトリガーが発動しても、満月のアタックはシャイニング・レディでガードしたとして、次のサイレントトムのアタックは防げないね~。満月のアタックをライザーカスタムでインターセプトしたらそもそもトムのアタックをガード出来なくなっちゃうから考えないとしてね」

 

青年はそんなクリアの表情に目もくれず、先程座っていた椅子に同じようにして座った。

 

「何も変わらないと思うけど、一つだけ、ちょっと違うことがあるんだよね~」

 

人差し指を立てながらそう言った。

 

「違うことって……?」

 

カイリはたまらずそう聞くと青年はニヤリと笑い、カイリのダメージゾーンを指差す。

 

「ヒールトリガーの発動するタイミングさ」

「発動する……タイミング……?」

 

カイリは思わず青年の言葉をおうむ返しすると青年は頷いた。そして再びカイリ達座っている机に歩み寄る。

 

「そうそう。トリガーの発動をより効果的にするためにね。まぁ、もしあそこでガードしていなかったとしても、ヒールトリガーが発動すれば少なからず君はプレッシャーを背負うことになるだろうけど……」

 

青年はカイリのダメージゾーンからウォールボーイをつまみ上げる。

 

「でもそれじゃあ足りない。結局ドライブチェックを残している分気持ちに余裕が出てくるし、もしドライブチェックでトリガーが発動してヒールもろとも流れをもってかれちゃったら元も子もない。何事にも演出は大事だからね~」

 

青年はそのままそのカードをカイリのデッキに加えると、他の場のカードもデッキに加えていった。

 

「だからこそ、ドライブチェックの後にヒールを発動することで、トリガーを衝撃的に演出して流れを一気にもっていく。それがボクの考えだったんだ。ただ結果、2回目のヒールは出なかったけどね~。でもボクはとしては……」

 

バトルライザーをデッキボトムに重ね、デッキをカイリに渡す。

そして青年は傍目でクリアを見つめた。

 

「完璧に勝ちを確信していた君の顔が臆した瞬間を見れただけで満足かな……」

「……お前、それが本当の狙いだな?」

 

クリアの一言に青年は慌てて首を降って否定した。

 

「いやいや、別にそれを狙ってやるほどボクは腹黒くないよ!これは偶然の産物であって悪気はなかったんだって!そう怒らないでよ~」

 

カイリは二人のやり取りを邪魔しないようにスッと立ち上がり、ハジメの近くに戻った。

 

「勝手に怒ってると決めつけるな。俺もそんなことでキレるほど器は小さくない。……だが……」

 

クリアも自分の場のFVを除く全てのカードを自分のデッキに加えていった。

 

「俺は今のファイトを真剣にやっていた。恐らくそいつもな。結果が変わらないから黙っていたが、神聖なファイトの途中に口を挟んできたお前は気にくわない」

 

クリアは集めたデッキをシャッフルした。FVはそのままに。そしてFVを裏向きにする。

 

「来るなら来い。もっとも、お前にそれだけの度胸があればだが」

 

軽い挑発に対し、青年はまるで待ってましたと言わんばかりにクリアの正面に座った。

 

「ヴァンガードファイターは惹かれあう、なんて誰かしらが言ってたけど本当だったんだね」

 

青年は再びニヤニヤ笑いながらそう言った。そしてポケットからデッキケースを取りだし、デッキからFVを裏向きにして置いた。


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