「さらに右下に蛹怪人ギラファをコール、アイアンカッターでルインにアタックするっす」12000
「ナイトミストでインターセプトするよ」14000
インセプしてくることを読んでいたハジメは素早くヴァンガードの邪甲将軍をレストさせた。
「ミリピードのブースト、邪甲将軍で……」
顔は動かさず、視線のみでその先を見据えた。
「ルインシェイドをアタック!」21000
「うぇっ!?ハジメもヴァンガードでリアガードにアタック!?」
「もしかしてあまりに不利すぎて投げやりになってるのかしら……」
カイリと店長が心配そうにそう呟くなか、ツカサは少し驚きながらも感心したように感嘆をあげた。
「へぇ~、ノーガードだよ」
「ツインドライブ!!ファーストチェック、シェルタービートル!GET!クリティカルトリガー!効果は全てレディ・ボムに。セカンドチェック、ブラッディヘラクレス」
ハジメのトリガーに少し残念そうな表情をするカイリ達に対し、ツカサ「ありゃりゃ」と困った様子で呟いた。
「じゃっ、ルインシェイドは退却するよ」
「蛹怪人のブースト、レディ・ボムでヴァンガードにアタック!クリティカル2!」20000
「仕方がないけどこれも受けるしかなさそうだね……。ノーガード。ダメージチェック、一枚目……お化けのりっく、ヒールトリガーGETだ。裏側のダメージを回復して一応パワーはヴァンガードに。二枚目、カットラス」
「これで俺のターンは終了っす」
メガコロニー
前列
アイアンカッター/邪甲将軍/ボム
後列
/ミリピード/蛹怪人
手札3
ダメージ表2
グランブルー
前列
/バスカーク/
後列
サムライ//
手札5
ダメージ表3
「ボクのスタンド&ドロー。スキルでSC(ルインシェイド)」
「う~ん」と唸りながら手札を見るツカサ。
それを見ながらハジメは眉間を摘んだ。
(たしかさっきのツインドライブでバンシーがあったな……。ここでもしバンシーとイービルのスキルを使ってこなかったらトリガーくるとみて間違いない……。ユニットを変換出来るグランブルーで欲しいユニットと言ったらロマリオくらいなもんだし、ドライブチェックでトリガーを出すことにリスクはないしな)
次にハジメはツカサのダメージに視線を移した。
(運よくグランブルーの要であるカットラスがダメージやソウルに入っているのが不幸中の幸いだろうな。さっきのクリティカルでヒールを出されたのは驚いたけど、流れは止まった。後はいつもの俺の戦い方で真っ向から勝負だ!)
ツカサは手札のカードをとり、ユニットを配置していった。
「んじゃまっ、左上に荒海のバンシーをコール!スキルでこのカードをソウルに入れてドロー。ふむ、V裏にイービルシェイド(6000)。左上にスケルトンの剣士(8000)、右上にブルーブラッドをコール。ブルーブラッドでアイアンカッターにアタック!」10000
「レディ・ボムでインターセプト!」15000
「イービルシェイドのブースト、バスカークでヴァンガードにアタック!」18000
「……ノーガードっす」
スキルを使ってこなかった……、そう思ったハジメは冷静にそう宣言した。
「ツインドライブ!!」
「ファーストチェック……伊達男ロマリオ。セカンドチェック……お化けのちゃっぴー。トリガーなしだよ」
トリガーがないにも関わらず、特に残念がる素振りを見せないツカサはドライブチェックのカードを手札に加えた。
「ダメージチェック、パラライズ・マドンナ」
ハジメはダメージを受けた後、チラッと横目でツカサを見た。
(トリガーなし……。だというのにイービルのスキルを使ってこなかったということはそれだけトリガーがトップ付近に無かったということか……?でも手札にロマリオが入った。次の先輩のターンで一ライン完成するということだな。そして次のアタックは……。サムライと剣士の合計パワーは15000。つまり……)
「サムライのブースト、スケルトンの剣士でアイアンカッターにアタック!」15000
(5000でガード出来るヴァンガードにはアタックしてこない……。ここは……)
「ノーガードっす。アイアンカッターは退却」
ハジメがアイアンカッターをドロップゾーンに置いたことを確認するとツカサはターンを終了した。
「俺のスタンド&ドロー。右上にヴァイオレント・ヴェスバー(9000)をコール!スキルでデッキトップオープン!おっけ!ブラッディ・ヘラクレス(10000)を左上にスペリオルコール!」
ユニットをコールし終え、ハジメはそのままバトルに入った。
「まずはエスペシャルを潰すっすよ!蛹怪人のブースト、ヴェスパーでスケルトンの剣士にアタック!」15000
「結局10000ガードを要求してくるならガードしても仕方ないね。ノーガード、スケルトンの剣士は退却」
よしっ、と心の中で呟くと続けざまにアタックしていった。
「ミリピードのブースト、邪甲将軍でヴァンガードにアタック!」21000
このアタックにクスッと笑ったツカサは口を開いた。
「君のやりたいことは分かったよ。邪甲将軍のスキルを使うつもりだね?」
「さーて、どうでしょうかね?」
「ま~たまた惚けちゃって~。こんなに丁度いい餌がいるっていうのに使わないほうがおかしいじゃないか~」
冗談混じりに喋る二人。端から見れば楽しそうにファイトをしてるようにしているその様は、事情を知っているカイリにとって辛いものだった。
もうこうしてファイトすることも出来なくなってしまうかもしれない……。ということを思うとそれは一際目立ったのだ。
そんな時、突然店の扉が開き青年が一人店内に入ってきた。
青年はキョロキョロと辺りを見渡すと、丁度ファイトをしているハジメ達を見つけ、ニヤリと笑うと彼らの方へ近づいてきた。
「よぉ!店長と……カイリって言ったっけか?久しぶりだな!」
「あ、えーっと……トモキさんでしたっけ?」
ファイトしている二人に邪魔にならないよう、話しかけてきた青年は、クリアの幼なじみの梶山トモキだった。
「あら、トモキ君。一人で来るなんて珍しいわね」
「あぁ。ちょっと野暮用があってさー。クリアの奴探してるんだけど知らね?ここにいると思って来たんだが……いないっぽいな」
再び辺りを見渡しながら言うトモキに、「う~ん」と唸りながら店長は答えた。
「たしかに今日は来てないわね。基本的に休みはいつも顔を見せてくれるのに……」
「まあ、いないなら仕方ないな!ところで白熱してんなー!二人とも」
そう呟きながらちょっかいを出そうとするトモキをカイリはまた慌てて制した。
「あぁ!?邪魔しちゃ駄目ですってば!今二人とも大事なファイトをしてるんですから!」
カイリに止められ、キョトンとしながらカイリの方を向いた。
「大事なファイト?大会でもやってんのか?」
「うーん、ちょっと事情がややこしいので上手く説明出来ませんが、とにかく邪魔しちゃ駄目なんです!」
切実にそう言うカイリに首を傾げるトモキだったが、特に言及せずファイトを見つめた。
「にしても相手はあのツカサとやってんだろ?ハジメも大変だなー」
「はい……、ツカサさんは本当に強いです。しかもただ強いだけじゃないんですよ」
「ただ強いだけじゃないって……つまりどういうことだってばよ?」
「ツカサさんには……アイデティック・イメージっていう能力があってですね。その能力でデッキの中身がわかってるらしいんですよ……」
それを聞き、トモキは突然真顔でカイリの肩に手をおいた。
「なっ……なんですか?」
「あぁ……わかるぜ。そういう時期だもんな、うん。俺も昔は『俺の右手の暗黒龍がぁ!』とか言ったもんだ」
「……なんか勘違いしてませんか?」
懐かしむように言うトモキにカイリは冷や汗をかきながら苦笑いを浮かべた。
「トモキ君ははいつも通りみたいね。でも、カイリ君の言ってることは本当みたいよ?」
店長がそうフォローすると、「ふーん」と言いながらツカサを見た。
「そういやあいつ、クリアに勝ったって言ってたな……。デッキの中が本当に見えるってんならあいつはレベル5クラスってことかもしれねぇってことか……」
そうブツブツ呟くトモキに首を傾げるカイリ。するとトモキはおもむろに出入口に歩を進めた。
「んじゃクリアもいないってことだし、俺これで帰るわ」
振り向きざまにそういうと、カイリは少し表情を曇らせた。
「えっ、もう帰っちゃうんですか?」
「ああ、他に用もないしな。邪魔したなー」
手を降りながらそう言うと、トモキは店を出ていった。
「忙しい人ですね」
「そうねー。でもクリア君と違って接しやすいでしょ?」
「……はい」
なんというまいか迷ったカイリだったが、本人もいないので苦笑いしながら正直に答えた。
「あの子も凄く強いから出来たら大会に出てほしいんだけどなー。……っていう前にこの調子だとツカサ君も出ないことになっちゃうかもしれないんだった」
「そうならないようにハジメを応援しないとですね」
トモキを見送った後、カイリと店長は再びファイトをしている盤上に視線を戻した。
「まっ、そんなパワーでアタックされちゃあガード出来ないからノーガードだよ」
ツカサがいつもの調子でそう言うと、ハジメはデッキに手を添えた。
「ツインドライブ!!ファーストチェック、メガコロニー戦闘員B。セカンドチェック、レイダー・マンティス!GET!ドロートリガー!一枚引いてパワーはアイアンカッターに加えるっす!」
「ダメージチェック……スピリット・イクシード。ボクもトリガーなしだ」
アタックがヒットしたことを確認したハジメは、早速ダメージを裏返した。
「邪甲将軍のアタックがヒットしたのでCB!リアガードの蛹怪人とヴェスパーを退却し、先輩のサムライとイービルを退却させるっすよ!」
「やっぱりやってきたね~。敢えてブースト出来るG1以下を退却させるあたりが嫌らしいよね」
「ヴァンガードの11000と相まってえげつなさが際立ってるっすよね。それにスタンド封じじゃなくて退却っすから復活能力も使えないっすよ!アイアンカッターでヴァンガードにアタック!」17000
「お化けのちゃっぴーでガード!そしてスキルを使わせて貰うよ!」20000
(お化けのちゃっぴーか……。ガードした時にデッキからグランブルーのユニットを一枚ドロップするカード。たしかさっきのツインドライブ!!できたカードだったな。もしかしてあれが欲しかったためにスキルを使わなかったのか?でも既にドロップゾーンにはナイトミスト、サムライとも落ちてるし、スカルドラゴンに関してはソウルに入ってる……特に落とすカードなんて無いんじゃ……)
ツカサは自分のデッキを手に取ると、全てのカードが見えるようにデッキを広げた。
(……!?デッキの中を確認しているということは再びデッキの中を記憶することが出来るということか……!しかもデッキの枚数は最初のほぼ半分。記憶出来る量も増えるのかもしれない……)
「う~ん、じゃっボクはこのネグロマールをドロップに落とすよ。でっ、ボクのターンだ」
メガコロニー
前列
アイアンカッター/邪甲将軍/
後列
/ミリピード/
手札6
ダメージ表1
ダメージ裏2
グランブルー
前列
/バスカーク/ブルーブラッド
後列
//
手札4
ダメージ表4
「スタンド&ドロー。スキルでSC(カットラス)」
あちゃぁといった様子でツカサは右手で頭を抱えた。
「たしか先輩のデッキにはカットラスが三枚入ってたっすよね。これでソウルのスカルドラゴンを落とすことが出来なくなったっすね」
「いやいや~、まだ方法はあるよ。さっきのヒールでダメージにあったカットラスがドロップに落ちたからネグロマールを使ってカットラスを蘇生させれば問題ないさ~」
「でもネグロマール、今一枚落としちゃったっすから後一枚しか入ってないっすよね……?」
それに対し、ツカサはニヤリと笑って答えた。
「来るときは……来るさ!とりあえず左下と右下にロマリオ、左上にルインシェイド、V裏にサムライをコールするよ!」
ユニットを揃えたツカサは一度デッキを見ながら少し考えると、ブルーブラッドに手を添えた。
「ロマリオのブースト、ブルーブラッドでアイアンカッターにアタック!」18000
(さっきのネグロマールを落としたのは何かの布石なのか……?とりあえず、ようやくファントムが来たんだ。そう簡単にはアイアンカッターは潰させない!)
「シェルタービートルでガード!」20000
「サムライのブースト、バスカークでヴァンガードにアタック!」19000
「……すいません、ちょっと考えます」
「うん?了解~」
ツカサに断りを入れると、ハジメは机に肘を付き、眉間を摘みながら手札を眺めた。
「いやに慎重ね……。ハジメらしくない……」
「さっきのギラファのスキルで自分の場も空いちゃいましたからね。ここで下手にガード札を切ったら次の自分のターンでのアタックが疎かになりかねませんし、慎重にもなりますよ……」
そう言うカイリに店長は少し驚いた後、真剣な表情でファイトを見ているカイリを見て思わずと口元が緩み、自分もまたファイトに視線を戻し、「そうね」と短く答えた。
(まだ先輩のデッキからは一枚もスタンドトリガーが出ていない……。ルインのスキルを使って来なかったのは恐らくデッキトップにあるのがトリガーなんだろう……。でもわざわざ11000になれるルインじゃなくブルーブラッドからアタックしてきたのはどういうことだ……プレミ?先輩に限って?)
考えがまとまらないハジメは顔を思い切り降ると、邪念を飛ばした。
(こんなこと考えててもらちがあかない。とにかくスタンドが残っているとなれば、少なくともダブルクリティカルなんて事故は起きないはず……。スタンドトリガーきたとしても、ブルーブラッドのパワーは10000、例えスタンドしても11000であるヴァンガードにはアタック出来ない……。例えトリガーでパワーを上げても、さっきみたいにリアのアイアンカッターにアタックしてくるはずだ。俺の手札には完全ガードがある。それも先輩には見えてない。ここは無理に守らず、トリガーにかけるほうがいいか……)
指針を立てたハジメは手札を机に置き、ノーガードを宣言した。
「ノーガードだね。じゃっ、悪いけどツインドライブ!!させてもらうよ!ファーストチェック……スケルトンの見張り番!スタンドトリガーGET!ブルーブラッドをスタンドしパワーはルインに!セカンドチェック……サムライスピリット」
ため息をつき、肩の荷を下ろすとハジメはダメージチェックを行った。
「ダメージチェック、治療戦闘員ランプリ!GET!ヒールトリガー!回復しませんが、パワーはリアガードのアイアンカッターに加えるっす!」15000
「ありゃ、これじゃあブルーブラッドがアタック出来ないね。じゃっ、ロマリオのブースト、ルインでヴァンガードにアタック!さらにルインのスキルで二枚ドロップ!(ルイン、荒海のバンシー)」24000
ハジメはツカサが落としたカードを見た後、盤上を見つめた。
(わざわざルインのスキルを使ったということは次のカードはトリガーか……。もしここでルインのスキルを使ってこなかったらブルーブラッドからのアタックにも納得出来たんだがなぁ……。まぁいいや、とにかくこのアタックはどうするかを考えよう)
(今ヒールが来たということは次もヒールである可能性は薄い……。ドローも既に三枚出てるからこれもなしと考えていいか。次に出すユニットは既に揃ってるし出来ることならガード値の高いG0が欲しい……。もしここでトリガーが出て無駄トリガーになるくらいなら……)
ハジメはカードを一枚とり、ガーディアンサークルにコールした。
「パラライズ・マドンナでガード!手札のレイダー・マンティスを捨てて完全ガード!」
「一点余裕があるのに防ぐか~。まっ、これでボクのターンは終了だよ」
メガコロニー
前列
アイアンカッター/邪甲将軍/
後列
/ミリピード/
手札3ダメージ表2
ダメージ裏2
グランブルー
前列
ルイン/バスカーク/ブルーブラッド
後列
ロマリオ/サムライ/ロマリオ
手札4
ダメージ表4
「俺のスタンド&ドロー!」
引いたカードはシャープネル・スコルピオ。ハジメが待ち望んでいたG0のユニットだった。
ハジメは静かにガッツポーズを取ると、一斉にユニットをコールしていった。
「左下にファントム・ブラック、右上にブラッディ・ヘラクレス、右下に戦闘員B(6000)をコールっす!」
ユニットを展開し終えたハジメは、ツカサの場を流し見た。
(もう恐らくファイトに決着がつくか……。けど、ここは無理せず相手の戦力を削ったほうが得策か……。先輩の手札は四枚、うち一枚は10000ガードもある。このターンは相手の手札を消費させ、次の俺のターンで決めてやる!)
(そのためにはあのロマリオが邪魔だな……。あれがいるせいで先輩はナイトミストをドロップから持ってくるだけでラインが作られる……。となればギラファで焼くのが一番か。戦闘員Bでもいいけどその場合片方しか縛れない上に他にアタッカーがいたらサムライに変えられてなしにされちまうのが落ち。たとえギラファのアタックを防がれても、このアタックを防ぐとなれば20000ものガードが……)
その時、ハジメの視線にスタンドしているブルーブラッドが映った。
(そうだ!さっきのスタンドでアタック出来なかったブルーブラッドがそのままだからミリピードのブースト値が下がっているんだった……。まさかツカサ先輩、それを狙って……?いや、けどまだ手はある。もしギラファのスキルを使う場合、まずリアガードからアタックしないといけない。ただ先輩のダメージは四点。ヴァンガードにアタックした場合、ドライブチェックでクリティカルが出る可能性を考えるなら一点受けて残りのアタックをガードしてくるはずだ)
(もしそこでトリガーが出れば万事休す……。となれば、最初のアタックはヴァンガードを狙う必要はない。先にスタンドしているブルーブラッドを潰せばミリピードの条件も満たせるし、ガードされたとしても結果としてヴァンガードを止めるガード値は変わらない。よし!)
ハジメは持っている手札を裏向きにして机に置き、アタックに専念した。
「戦闘員Bのブースト、ブラッディでそのスタンドしてるブルーブラッドにアタック!」16000
「ミリピードの条件を満たすためにスタンドしてるブルーブラッドにアタックしてきたってところかな~?せっかくの戦闘員Bのブーストなのに……」
「どうせまたさっきみたいにドロップゾーンから蘇生してなしにされるのは御免っすからね!」
「ハハッ、だよね~。じゃっ、このアタックはノーガードだよ。ブルーブラッドは退却」
特に驚く様子もなく、ツカサはブルーブラッドをドロップゾーンに置いた。
「ミリピードのブースト、邪甲将軍でヴァンガードにアタック!」21000
アタックを宣言した後、ハジメはツカサの手札に視線を向けた。
(ヘラクレスのアタックを普通に通してきたか……。ということは手札にもう一枚10000ガードがあるか完全ガードがあるということか……?)
そう熱心に推測を並べるが、そんなハジメを嘲笑うようにツカサは口を開いた。
「ノーガードだよ。さぁ、ドライブチェックどうぞ~」
「なっ!?」と思わず声を漏らす。ツカサは依然と表情を変えなかった。
(どういうことだ……。先輩はロマリオを潰されても怖くないということか……?いや、それにしたって、クリティカルが出るかもしれないヴァンガードのアタックをノーガードだなんて……)
予期せぬ行動に若干混乱するハジメ。だが、これはチャンスでもある。もしこれでクリティカルが出ればそれでゲームエンド。ハジメの勝利となる。
(でも今クリティカルを引いたせいで次にクリティカルが出る可能性は低い……。けど、やるしかない!)
「ツイン……ドライブ!!ファーストチェック、レイダー・マンティス!GET!ドロートリガー!一枚引き、パワーはアイアンカッターに」
カードを引いたハジメは苦い顔をした後、セカンドチェックに移行した。
「セカンドチェック、治療戦闘員ランプリ!GET!ヒールトリガー!ダメージを回復し、パワーはまたアイアンカッターに加えるっす!」
クリティカルは出なかったものの、ダブルトリガー。それもヒールにより圧倒的に有利になったハジメは次第ににやけただし、この結果にツカサがどのような反応をしているかをを確かめようとツカサの方を向いた。
瞬間、ハジメは自分が有利でありながらも何故か絶望にうちひしがれることになった。
(……どうして……どうして先輩はそんなに余裕な表情をしていられるんだ……。先輩には俺のデッキは見えてない……。ダブルトリガーをすることなんて予知することなんか出来ないはずなのに……)
トリガーによるアドバンテージは絶大である。したがって、それを連続で獲得出来れば膨大なアドとともに、相手の士気を下げることに繋がる。
しかし、ツカサは驚くどころかむしろ安心したような表情で盤上を見ていたのだ。
「ダメージチェック……荒海のバンシー!クリティカルトリガーGET!もちろんパワーは全てヴァンガードに加えるよ」15000
ツカサはトリガーのカードでヴァンガードにトントン指すと、ダメージに置いた。
「いや~、良かった良かった。さすがに連続でクリティカルは出ないだろうな~とは思ってたけどずいぶんとトリガーが重なってて焦っちゃったよ」
ニヤニヤ笑いながらツカサは呟いた。
「クリティカルが連続って……まさか、先輩にはさっき俺がクリティカルを引いたことを知っていたっていうんすか……?」
「憶測の範囲から出ない程度にはね~。だってハジメ君、さっきのドローでずいぶんと喜んでたし、あの状況から引いて喜ぶカードなんてクリティカルくらいなもんじゃない?」
ツカサの言葉を聞き、「そうか……」とハジメは軽率な自分を悔やんだ。相手の表情から引いたカードを予測する……。クリア先輩も良くやる手だ。
だからこそ、ポーカーフェイスを努めなければならないのに、自分が有利であることをいいことに普段の調子でファイトに挑んでしまった……。けど……!
「邪甲将軍のアタックがヒットしたんでCB!」
今は済んだこと気にしても仕方ない!たとえ先輩がこのスキルの存在に気づいていたとしても、使わないわけにはいかない!
ハジメはダメージを二枚裏返し、邪甲将軍のスキルを発動した。
(まずはとりあえず戦闘員Bを退却、もう一体はヘラクレスかミリピード……。ヘラクレスはインターセプトできるぶん次の先輩のアタックを防ぎやすくなる……。けどミリピードを潰したら火力が大幅に下がることになる。ヘラクレスが居なくなったとしても、今引いた邪甲将軍がいるからライン形成は問題ない。むしろミリピードを残しておけばミリピードのスキルを警戒してさっきみたいにあえてアタックしてこないかもしれない……)
「ヘラクレスと戦闘員Bを退却し、先輩の二枚のロマリオを退却させるっすよ!」
「ふぅん、インターセプト出来るヘラクレスよりブースト値が高いミリピードを残したんだね」
自分の場のロマリオを退却させるとツカサはそう呟いた。
「先輩の手札がどうなってるかわかりませんが、こちらのダメージ三点、10000ガードも二枚あるっすからね。ガードに関しては事欠かさないっすよ」
「なるほどね~」
ツカサは頷きながら呟くと、ハジメは次のアタックに移った。
「ファントムのブースト、アイアンカッターでヴァンガードにアタック!」30000
本来、15000でのガードを要求するアタックにトリガーを合わせた25000、ダメージチェックによるトリガーでバスカークのパワーが5000上がっているため、このアタックをガードするには20000のガードが必要となる。
ツカサはわかっている時点で10000ガードと5000ガードを持っており、たとえ他のカードがG3だとしても、ルインをインターセプトすればガード出来る。
すなわち、ハジメは防がれるとわかった上でアタックすることになる。
案の定、ツカサは手札からカードをガーディアンゾーンに置いたが、それはハジメにとって予想の遥か上をゆくものだった。
「ナイトミスト二枚、サムライスピリット、ルインをインターセプトしてガード!」35000
「なっ!?」
ガードはしてきた。しかし、あえて手札の10000ガードを使わずに他のユニット、それもルインをわざわざインターセプトして守ったのだった。
「先輩……、俺をなめてるんすか……?わざわざ10000ガードを残してガードするなんて正気の沙汰とは思えないっすよ!」
たまらずそう口走るハジメに対し、ツカサは普段にもまして冷静だった。
「なめてなんかいないよ。むしろその逆。ここまで本気のボクに食らいついてくるとは思っていなかった。やりにくさで言えばクリア君以上だよ。――でも」
ツカサはガード札をドロップゾーンに置くと、ハジメの方を向いた。
いつもと同じニヤニヤ笑うツカサに、カイリは寂しそうなイメージを感じた。
「やっぱり君ではボクは倒せない。君の戦い方は相手の動きを拘束するメガコロらしい戦い方だ。でも、実力はボクの能力に気づいていないクリア君にすら達しない」
ハジメは視線をそむけながら口を開いた。
「……たしかに俺はクリア先輩には勝てないっす……。けど!今間違いなく優勢なのは俺だ!プレミがあってもなくても、勝てばそれでいいじゃないっすか!」
ハジメの言葉にキョトンとするツカサだったが、微笑みながら答えた。
「……うん、そうだね。勝てばいい、それが全てさ。でも、君にはただ勝つだけじゃだめなんだよね」
「どういうことっすか……」
ハジメがそう聞くと、少し間をおいて答えた。
「……君は本当に仲間思いのいい子だ。だから、もしボクが普通に勝ったとしても君は諦めない。クリア君の言っていた通り、ヴァンガードは少なからず運が勝敗をわける。たった一回のファイトじゃ君はきっと満足しないと思うからね」
図星だったのか、少し動揺するハジメを尻目にツカサは続けた。
「だからこそ、どれだけ差を詰めても到底追い付くことの出来ない圧倒的な実力差を見せつけた上で勝利する必要があるのさ。君が何度やっても勝てないと思わせるだけの力の差を」
ツカサはおもむろに右手を胸の前まで上げる。
「そしてこれがその演出さ。このカードこそ、君を敗北に突き落とすフィニッシュカード」
上げた手を勢い良く右に振り払う。瞬間、デッキの一番上にあったカードが舞い上がった。
「幾千の恨み辛みを抱きし英雄たちに捧げよう。我は全てを統括する王」
頂点に達したそのカードは回転しながら重力に従い、落ちてきた。
「汝らに与えんは贄。その気高く昂揚な血肉を汝らの糧とするがいい――ライド、The・ヴァンガード!」
ツカサ回転するカードを上から掴むと、一気にVに置いた。
「魔の海域の王 バスカーク……!?」
「再ライド……だって……!?」
ハジメとカイリが口々に呟く。
ツカサはデッキトップのカードがバスカークとわかった上でライドした。そのことについてもはや咎める者は誰もいなかった。
そして、ツカサの行った行動が何を意味するのか理解するのにそれほど時間はかからなかった。
「さて、スキルでSC(バスカーク)。これで全ての準備が整ったわけだ。……ん?」
呆気にとられたハジメを見て、ツカサは首を傾げた。
「別にデッキの上のカードを当てたことはどうってことないよね。不思議がっているのはこのカードに注目してたからかな?」
ツカサはそう言ってドロップゾーンからネグロマールを取り出した。
「……さっきのちゃっぴーのスキルで落としたのは、俺にバスカークのスキルから注目を外すために落としたってことっすか……」
「ううん。正直に言うと、他に落としたいカードが無かったから仕方なくネグロマールを落としたんだ~。まぁ、ハジメ君には効果的だったみたいだけどね~」
ニヤニヤ笑いながらそう言うツカサ。しかしハジメは納得がいかなかった。
「ならどうしてトリガーの発動を見逃してわざわざちゃっぴーを手札に引き込んだんすか!落としたいカードなんてないのに」
「それは薄々君も気付いているんじゃないかな?もちろん、デッキの中を見るためさ。デッキの枚数は半分以下。ここまでこればトリガーの種類まで判別出来るようになるからね~」
「トリガーの種類まで!?ということは……」
「さぁ、お喋りはここまでだ!バスカークのスキルを発動させてもらうよ!」
するとツカサはダメージを全てを裏返し、ソウルを全てドロップゾーンに置いた。
「『演舞活殺自在』!これによりボクはドロップゾーンにあるグランブルーを五枚スペリオルコールすることが出来る!」
そのままドロップゾーンを手に取ったツカサは、五枚のカードを場に展開する。
「左上にスケルトンの剣士、左下と右下にロマリオ、右上に不死竜スカルドラゴン(10000)。サムライを退却してイービルをスペリオルコール!」
エスペシャルインターセプトによる防御力をもつ剣士。グランブルー最強のアタッカースカルドラゴン。その二枚のパワーを補完するロマリオ。そして10000ブーストのイービル。
ほぼ壊滅状態から一転、最高の布陣を作り上げたツカサ。
(種類までわかってる……。そんなのもう頭がついてこないぜ……。つまり俺は……一体どうガードすりゃいいんだよ……)
この壮絶な演出と先ほどのツカサの言葉によるハジメの心境は、少なからずプレイに影響をきたした。
そんなハジメに構わず、ツカサはバトルに入った。
「ロマリオのブースト、スケルトンの剣士でヴァンガードにアタック!」16000
「っ……治療戦闘員ランプリでガード!」21000
「ロマリオのブースト、スカルドラゴンでヴァンガードにアタック!」21000
「くっ……シャープネル・スコルピオ、アイアンカッターをインターセプトでガード!」25000
「イービルのブースト、バスカークでヴァンガードにアタック!イービルのスキル発動!(ルイン、突風のジン)」22000
「……ノーガード!」
「ツインドライブ!!ファースト、GETスタンドトリガー!スカルドラゴンに全て。セカンド、GETクリティカルトリガー!クリティカルはヴァンガード、パワーはスカルドラゴンに加えるよ」
全てのトリガーをめくる前に言い当てたツカサを二枚のトリガーを一緒に手札に加えた。
「ダメージチェック……一枚目、ヘル・スパイダー。二枚目……っ!?エリート怪人ギラファ……」
ダメージを置く。この時点でハジメはもう次のスカルドラゴンのアタックを防ぐ術はなくなった。
残りの勝ち筋は……六点目にヒールを出すのみ……。
「スカルドラゴンでヴァンガードにアタック!」23000
「ノーガード……。ダメージチェック……!」
ハジメは恐る恐るトリガーを捲る。そこに待ち受ける結末を怯えながら。
* * * * *
「くそっ!」
机を叩きながら大きな声で悪態をつくハジメ。
それは店内に響き、周りにいた人は何事かと皆がハジメの方を向くが、すぐに自分たちの輪に視線を戻した。
「……あそこでトリガーが出てたらまだガード出来たのに……。惜しかったね……」
「そ、そうよ。あのツカサ君にあれだけ食らいつけたのはすごいわよ?もう少しで勝てたんだし……」
カイリと店長がそう励ますも、ハジメは俯いたまま顔を上げなかった。
「惜しい……?惜しいだって……?……っ!惜しいもんか!俺は……俺の力じゃあ到底あの人には勝てなかった……!」
悔しそうに呟くハジメにカイリと店長はお互いの顔を見あった。
ハジメは拳を震わせながらあの時のことを話し出した。
「……俺のダメージが六点になった後、先輩は俺だけに見えるようにデッキトップを捲ったんだ……。その時の俺は、邪甲将軍のスキルでヘラクレスを退却させたことを後悔していた。もう少しで勝てたのにって。でも、それはただの俺の勝手なイメージに過ぎなかった。デッキトップのカード。次のターンで俺が与えることになるカード……そこにあったのは……ヒールトリガー……」
ざわっ……とカイリと店長は無意識に体を震わせた。
そしてハジメは両腕を机に置きながら悔しそうに呟いた。
「勝てないんだよ……。たとえガードしたとしても手札には邪甲将軍だけ。次にアタッカーを引いたとしても先輩には合計40000のガード値。その上ダメージを一点受けられる……」
ハジメが言い終えると、少しの間彼らの中が静寂に包まれた。周りでカードをやっている音が妙に大きく聞こえた。
ハジメは顔を上げる。そしてまたツカサの言っていたことを思い出した。
「先輩の言う通りだ……。俺の実力じゃあ先輩には勝てない……。どれだけ工夫を凝らしても……俺は素のクリア先輩にすら……」「俺が……どうかしたのか?」
「「!?」」
聞き覚えのある声が後ろから聞こえ、三人は一斉に振り向いた。
そこにいたのは小野クリア。このカードショップ【アネモネ】最強のファイターである。
店長は安心したようにクリアに声をかけた。
「なーんだクリア君かー。驚かせないでよー」
「……驚かせたつもりはないが……」
そう返したクリアは、落ち込んでいるハジメを見て眉をひそめた。
「どうかしたのか?」
柄にもなくそう聞くクリアに、ハジメは立ち上がると俯いたまま、クリアの方へ歩み寄った。
「……だった」
「なんだと?」
小声で呟くハジメの声をクリアは聞き取れず、そう聞き返す。
「……俺じゃあ……ツカサ先輩を止めるのは無理だった……!」
決して認めたくない、しかし覆すことの叶わないこの想いをハジメは悔しそうに吐き出した。
「もうあんな間違いはしないと誓ったのに……!もう繰り返さないと誓ったのに!俺は……!」
「……あいつにあったのか」
「……」
無言になる。わざわざ話さずとも、お互いが何を思っているかを理解できた。
クリアはため息をつくと、ハジメのカードが散らばった机にまで歩みより、近くにカバンを置くと自分のデッキを取り出した。
「さっさとカードをまとめろ。始めるぞ」
FVとデッキを定位置に置き、ファイトの申し込みをするクリアに動揺する三人。
「あの……クリアさん……。ハジメはさっきファイトして今はそんな気分じゃ……」
「そんなもの、俺の知ったことじゃない」
ハジメの気を使うカイリに、クリアはぶっきらぼうにそう返した。
「……どうして俺なんですか?」
さすがのハジメもクリアの行動が読めず、そう聞いた。
それに対し、クリアは鼻で笑うとまるで当然といった様子で口を開いた。
「フン、決まってる。今ここで俺と本気でやりあえるのがお前しかいないからだ」
「えっ……」
予想だにしていなかった返答にハジメは声を漏らした。
「俺にもどうやら、負けられない戦いというものをしなければならなくなってな。少しウォーミングアップをしにここに来たんだ。お前とファイトしにな」
目を瞑り淡々と話すクリアの話を呆然としながらハジメは聞いていた。
「それって……もしかして……」
期待を込めたハジメの言葉にクリアはニヤリと笑った。
「さぁ、こい!お前の全力を俺にぶつけてみろ!」
「……へ、ヘヘッ、後悔しても知らないっすよ!」
顔を上げると気を取り戻したハジメはそう言ってクリアの対面の席に座った。
それを見ていたカイリと店長はお互いの顔を見て笑うと二人のファイトを見ることにした。
クリアが一体どういう意図でこのようなことをしたのかはわからない。本当に何かの目的があってなのか、ハジメを元気づけるためなのか……。
しかし、カイリはそんなことはどうでも良かった。
ただ、ハジメがまた楽しくファイトしていることに安心していたからだ。
それに、ツカサへの繋がりはまだ残っている。
明日アキトシにこのことを話し、それからどうするかを考えよう。きっとどうにかなる。そう自分に言い聞かせながら。