先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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動き出す思惑

「第一回ヴァンガードチャンピオンシップ。当時のファイター達にとって初めての大舞台。各々の最高戦力を拵え挑んだ記念すべき大会。結果としてそれはヴァンガードという名前を世界に知らしめ、今のような人気を獲得することに成功しました。多くの人を注目させたMFS。全てのファイター達を奮起させたピオネール。そんな魅力的な要因を生み出すに至ったこの大会の中で、事件は起きました。そしてそれは表舞台では知られず、当時の数少ないファイター達に火花が飛んだ」

 

マサヨシは目を瞑り、思い出すように語り出した。トモキもまた、当時のことを脳裏に浮かべながら静かに聞いていた。

 

「何故あのようなことが起きたのでしょうね。竜魂乱舞発売時はあまりデッキの研究がなされなかったのが原因でしょうか……。いえ、例え研究が進んでいたとしても当時のカードプールの浅さではこうなったことは必然なのでしょう」

 

残念そうに呟くマサヨシだったが、次の瞬間目を見開いた。表情は変わらないが、その雰囲気は誰をも寄せ付けない怒りに満ちていた。

 

「約八割のファイターが同じデッキ同じプレイングを惜しみもなく展開。どこを見ても同じ面白みのないファイトが行われ、個性の欠片も見せないそれらファイターによって大会は一色に染まりました。もっとも知名度があり、他の髄を許さない安定性を持つロイヤルパラディンに」

 

記憶の片隅にあったものを鮮明に思い出す。期待に胸を膨らませ挑んだあの頃。しかし現実はただの作業ゲー。ただひたすらに同じことを繰り返し、尽きることのないと思われたヴァンガードへの情熱は図らずも薄れていった。

 

「そしてそれらカード群の中でも一際……いえ、根元となったカード。ヴァンガード史上最強にして最初に制限を受けたFV、『ばーくがる』によって純粋にファイトを楽しもうと思っていたファイター達の願いは脆くも崩さりました」

 

ばーくがる……騎士王降臨にて登場したロイヤルパラディンのFV。このユニットがロイパラにライドされた時にリアガードにスペリオルコールするお馴染みのスキルを搭載しており、もっとも問題となったのはそのもう一つのスキル。

 

起【R】:[このユニットをレストする]あなたの山札から、「未来の騎士 リュー」か「ふろうがる」を1枚まで探し、Rにコールし、その山札をシャッフルする。

 

すなわちリアガードにいるこのユニットをただレストするだけで一枚分のアドバンテージが得られるのだ。もちろんデメリットもあり、呼び出せる二枚のユニットは双方トリガーでデッキからサーチすることは単純にデッキのトリガー率を下げることに繋がる。しかし……

 

「そもそもトリガーが出るかどうかなんてわかりませんし、序盤から一ラインを作って確実にアタックしてくる方が脅威ですからね」

 

そう、確率が高くとも出るか出ないかは運次第であることを考えれば、アドバンテージを保証されているこのスキルの強さは言うまでもない。

 

後半になればパワー4000しかないこのユニットは邪魔になってくるが、まるでそれを補完するようにロイパラには優秀なユニットが存在した。

 

騎士王アルフレッド

 

G3であるこのユニットがヴァンガードの時、自ターンにのみこのユニットのパワーは自分のロイパラのユニットの数だけ2000上がる。この条件はユニットのスペリオルコールに長けたロイパラにとって難しいことではなく、自身もCB3で山札からユニットを呼べるため高いパワーでのアタックが約束されている。

 

リアガードには最大五枚まで置けるため、ブーストなしで20000でのアタックが可能だが、このユニットがヴァンガードの時ブーストすることが出来ない。逆に言えばV裏の枠にはロイパラであれば何を置いても問題ないということ。すなわちここにばーくがるを置けば山札に残っている限り恒久的にユニットを呼べるのだ。枠が空いているのであればばーくがるのスキルで埋めることで高いパワーでアタックが可能だが、5000しかないふろうがるではブースト値が低いため、後半に呼ぶことは少ないと思う。しかしばーくがるを腐らせないこのユニットは相性がいいと言えるだろう。

 

このユニットを呼び出すスキルの他にも、ばーくがるにはもう一つ役割があった。そして、それこそが制限にまでになるこのユニットの強さである。

 

ばーくがるによって呼び出せるもう一つのユニット、未来の騎士リュー。このユニットもトリガーなのだが、ふろうがるとは違いスキルを持っている。

 

起:【R】[CB1,あなたのRから、「未来の騎士 リュー」と「ばーくがる」と「ふろうがる」を1枚ずつ選び、ソウルに置く]あなたのグレード1のヴァンガードがいるなら、あなたの山札から「ブラスター・ブレード」を1枚まで探し、ライドし、その山札をシャッフルする。

 

すなわち、ブラスター・ブレードにスペリオルライドするスキル。条件となるユニットはばーくがるで呼べるため除去でもされない限りほぼ確実に使用出来るだろう。ただし、ダメージの関係上最速でG1にライドした段階では使用出来ないため、同じタイプのスペリオルライドと違い、グレードでの有利が取れない。

 

さらに、デッキのトリガー率を下げてしまうのにアドバンテージは山札から呼ぶブラスター・ブレード一枚のみ。簡単に言えばCB1とデッキに眠るトリガー二枚を犠牲にしてすることで、ばーくがるをブラスター・ブレードに変え、ソウルを貯めるといったもの。

 

端から見ればあまりアドバンテージが取れておらず、優秀なCBを有するロイパラにとってはソウルよりもCBを温存したいところ。

 

では、何故このユニットが問題となったのか

 

ヴァンガードにおいても事故というものがある。トリガーが全く出ないかトリガー事故。手札がG3ばかりでガード出来ないなどといった手札事故。しかしその中でももっとも辛い状況となるのがライド事故である。

 

ユニットをコールするにはヴァンガードに存在するユニットのG以下でなければならない。つまりライド事故した場合、そのGより上のカードは完璧に腐らせてしまうことになる。また、G3になれないということはツインドライブ!!も使用出来ないためターンが経つ度に手札の差が生まれてくる上、トリガーの発生率も下がることになる。

 

したがって、ライド事故は絶対に避けなければならないが、こればかりは引いたカードによるためどうしようもない。しかし、上で説明した通りばーくがるはリューによってG2のライド事故をほぼ確実に防ぐことが可能なのである。これを防ぐことが出来るとなれば前のコストも軽く思える上、ソウルも貯まるためSSDのスキルも使用出来る。

 

連続で多くのファイトをしなければならない大会では、事故を出来る限り避けることが求められたため多くのファイター達がこのカードを使うに至ったわけである。

 

「大会終盤戦では九割以上がロイパラでしたからね。ここまでくると逆に笑えてきますよ。あのピオネールの内の三人もロイパラでしたので、無敗で勝ち上がれたの頷けます。私としては、もう一人のピオネール『リセ』と言う方がかげろうであそこまで勝ち上がれたのが不思議で仕方ありません。世間的にはピオネール最弱と呼ばれていますが……」

「リセっ!?」

 

トモキは驚いた様子でその言葉を口にした。

突然のその反応にマサヨシは首を傾けた。

 

「どうかなさいましたか?」

「あっ……いや……何でもない…」

 

あからさまに何かを隠している様子のトモキだったが、マサヨシは特に言及せず、話を続けた。

 

「まあいいでしょう。話が脱線していましたね。その結果ばーくがるはFVとしての地位剥奪。しかし、その後もロイパラの強さは健在でしたが第二回大会では他のクランでもある程度対抗出来るまでに落ち着き、このまま良好な環境が続くと思われました」

「ふーん、思われましたってことは、続かなかったってわけか」

「……今回発売された双剣覚醒において、非常に強力なカードが追加されました」

 

マサヨシはまるで自分の表情を隠すように帽子を被り、ショーケースのほうまで近寄ると三枚のカードを取り出した。再びトモキの方へ近寄ると、取り出したカードをトモキに見えるように机に置いた。

 

「ドラゴニック・オーバーロード・ジエンド。マジェスティ・ロード・ブラスター。ファントム・ブラスター・オーバーロード。近い内に行われる第三回大会での台風の目になるであろうカードです。これらは今までのヴァンガードにおいての基準、いわば法則を無視した異例のカード」

「今までの基準を無視?一体どういうことなんだ?」

「トモキさんなら理解していただけると思います。簡単に申し上げますと、ヴァンガードでの相手ターンの最大パワー11000。それを越えたのです」

「なっ!?11000越えるってんなもんがあるのか!11000でもきついってのに……」

「ええ。ただ条件もあります。この二枚のオーバーロードはソウルに指定のカードが無ければならない。しかもその条件となるカードはG3であるため、普通にやるとすればパワーが上がるのはその対象のG3にライドした次のターン。それらのクランには現在手札を消費せずにソウルを溜める方法はないため、ライドに余計に手札を使わざる終えませんが、成功すれば相手ターン中までパワーが2000上がります」

「なるほど、それで相手ターンまで12000と……」

「13000ですよ」

「へ?」

 

間抜けな声を漏らしたトモキは、マサヨシが差し出した二枚のカードを良く見た。

 

「こいつらもともとが11000なのかよ……。ぶっ壊れじゃねぇか……」

「もちろん自ターンで13000ですから攻撃力もあります。そして、このカードの強さはそれだけではない」

「この下のスキルのことか」

「ええ。双方とも今回初めて追加されたスキル、『ペルソナブラスト』を持っています。ヴァンガード専用でこれは特定条件下において、同名カードをコストとして手札から捨てることで発動出来ます。こちらのPBOはアタック時にCB3と同名カードを捨てることでパワー+10000クリティカル+1するスキルを持ってます」

「ふーん、弱くはないけどCB3でそれならまぁいいスキルだな、完ガされるかもしれないし。13000になれるだけで十分だしこんなもんだろうな」

「そうですね。このPBOが所属するシャドウパラディンは他にも有用なCBがあるのでこのスキルはあまり使われることはありません。……しかし、こちらは格が違います」

 

そう言うと、マサヨシはジエンドに手を添えた。

 

「このカードのアタックがヒットした時、CB2と同名カードを捨てることで自身をスタンドするスキルです」

「あー、やっぱりオーバーロードみたいにスタンドするのか。もちろんそれでスタンドしたらツインドライブ!!を失うんだよな?」

「失いません」

「は?」

「ツインドライブ!!を持ったままこのカードはスタンドするんです。ですから単純にペルソナで一枚捨てることを考えるとスキルを使えばCB2で手札一枚の交換と一枚のアド、そして不確定ですがトリガーによるアドバンテージまで得ることが出来ます」

「……こいつ13000になれるって言ってなかったか?」

「そうですよ。ですからこのカードは最低でも11000でスタンド。前のドライブチェックでクリティカルがあればクリティカルを持ったままスタンド出来ますね。さらに今回の弾で『オーバーロード』と『ブラスター』専用の10000ブーストも出たのでヒットはなかなかに容易でしょう。リアガードにもヴァンガードにこれらの名前があることで12000になるG2が追加されたので、11000であるこのユニット共々、リアガードのパワーもかなり高い水準を持ってます」

「サポートも完璧ってわけか……。10000ブーストってかげろうだとコンローいるからほぼ確実に持ってこれないか?それにエルモで手札交換すればジエンドってカードも引きやすくなるし」

「まさにその通りです。ギミック的にPBOもお見せしましたが、本当に怖いのはジエンドのほうなのです。自身のスキルもそうですが、何よりかげろうというクランが問題なのです。クラン特性である除去によって後列を潰せば、アタックが通らず、リアガードのパワーも高くなり、ばーくがるがいない現在おそらく最強のFVであるコンローの存在が、かつてのロイパラを彷彿させる脅威となると私は思っております」

「同じ過ちを繰り返すかもしれないってわけか……。ところで11000を越えるカードってもう一枚あるよな?そいつはどうなんだ?」

 

そう問うトモキにマサヨシは無言でそのカードに手を添えた。

 

「このカードもある条件で相手ターンまでパワーが2000上がりますが、先ほどのカードとは違い元のパワーが10000なので上がったとして12000にしかなりません」

「へぇ、ならさっきまでの奴等よりはまだましだな。十分鬼畜だけど」

「ただしクリティカルが常時2なります」

「ですよねー。今までの見てそれだけで終わるとは思ってなかったわ……。しかしクリティカル2とか頭おかしい」

「予想通りの反応をしていただけて嬉しい限りです。このカードも特定ユニットをソウルにいることが条件なのですが、他と違いこのカードは二種類のユニットが必要なのです。ただ、このユニット自身が場に条件となるユニットがいたらソウルに置き、自身のパワーを10000上げるスキルを持っているため、そこまで難しくありません」

「二種類をソウルに入れるって……パーフェクトライザーのダイソンみたいだな。あれより酷いが……」

「そしてこのユニットの名前からある程度察しているかもしれませんが、条件となるユニットはブレードとダークの二枚です。これらのユニットを持ってくるユニットも今回の弾で出たため簡単ではありませんが、現実的な確率でこれを発動してきます。先ほどのジエンドと共に、このカードも次の大会で猛威を奮うであろうと思われます」

「こいつの所属クランはロイパラか……。ロイパラ自体も強いから、確かに怖いわな」

「最強のリアガード、バロミデス。安定性の騎士王。FT(ファイナルターン)を狙えるSSD。他にも優秀なユニットがいますので成功しなかったにしても一筋縄ではこれらに勝つのは難しいでしょうね」

 

マサヨシは説明を終え、これらのカードをもとあった場所に戻すと、再びトモキのほうへ歩み寄った。

 

「さて、ここまで聞いていただいた段階で今のヴァンガードの現状を知っていただけたと思います。私たちが望むのはこのような慢性化しつつある今の環境に終止符を打つこと。ファイトする喜びを噛み締め、多種多様の力が行き混じる世界を作ることなのです。もし、あなたにもうヴァンガードに対する思いが無くなってしまったのであれば、私たちはもうあなたに何も望みません。しかし、まだあなたに少しでも、ヴァンガードに対する思いがあるのであれば、あなたの力を貸していただきたいのです。これからのヴァンガードのために。我々の願いのために」

 

「……」

 

改めてそう聞かれたトモキは黙った。

 

未練はない。あの時……デッキを捨てた時にはそう思っていた。しかし、ツカサに誘われて久しぶりにヴァンガードをやってみてトモキは知った。カードを展開していく楽しみ、トリガーを引くときのスリル、そして勝利した時の喜びは決して錆びることなくトモキの中で芽生えたことを。

しかし、捨てられなかったと情けない自分を嘲笑うことはしても開き直ってまた始める気にはなれなかった。

自分の飽き癖でまたヴァンガードを手放すことが怖かったのかもしれない。

 

「もし、俺が強力するとしてあんたらはどうやってそんな大それたことをするつもりなんだ?」

 

もし、彼らのいうことが本当なら願ってもいないことだ。しかしそんな夢みたいなことが出来るとは思えない。

マサヨシは少し考えると決心したように頷いた。

 

「そうですね。ただ漠然とそんなことを言われても信用出来ませんからね。教えましょう、私たちの計画を。何故あなたが必要なのかを」

 

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

 

「ちっ、胸くそ悪い天気だ……」

 

 

曇り空を見上げながらクリアはそう言った。

 

 

基本的に休日はやることがないクリアは、いつもアネモネに通っているのだが、今日は特にアネモネへ向かう足取りが重かった。

 

 

(あいつのせいで結局昨日はよく眠れなかった……。もうすぐここを離れるとか言ってたな……。ハジメがそのことを知ったらどんな顔をするか……)

 

柄にもなくそんなことを考えていると突然大粒の雨が降り注いだ。

 

「チッ……」

 

また舌打ちをする。

天気が崩れることは知っていたため折り畳みかさを持ってはいたが、アネモネまでそんなに距離もなく傘を出すのも面倒だったため、走ることにした。

 

程なくしてアネモネに到着したクリアだったが、思っていた以上に雨が酷かったため身体中びしょびしょになってしまった。

 

持ってきていたタオルを取りだし、頭を拭きながら店内に入ると何かのポスターを貼っている店長の姿を捉えた。

 

特に興味もなかったためそのままいつもの席に行こうとするが、

 

「あっ、クリア君じゃない。今日はいつもより来るの遅かったから来ないかと思ってたわよ。それにしても雨突然降り始めたわね」

 

そう話しかけられ、クリアは歩みを止めた。

 

「ああ、そうだな。……そのポスターはなんなんだ?」

 

店長が此れ見よがしにポスターを見せながらニタァと笑うので、クリアは仕方なくそう聞いた。

 

「さすがクリア君は目の付け所が違うわね!今回もやるわよ!第三回ヴァンガードチャンピオンシップ!」

「いや、俺でないから」

「えー!どうしてよ!クリア君がいないと家の店が盛り上がらないのに……」

「そうだよ~。クリア君みたいな強い人が行かないのは勿体ないと思うな」

「そんなもの俺の勝手……なっ!?」

 

クリアが言葉を返そうとした瞬間、いつもの銀髪の奴がニヤニヤ笑いながら後ろに立っていた。

 

「どうしておまえが……」「なんだ、クリア先輩来てたんすか」

 

そこまでいいかけるとこちらに気づいたハジメとカイリが近寄ってきた。

 

「チッ、ちょっとお前こい!」

「うわぁ!」

 

クリアはツカサの腕を引っ張りながらフリースペースの奥まで行った。

 

「クリアさんどうしちゃったんだろうね?」

「さぁ?ツカサ先輩に何か用でもあったんじゃないか?そう言えば店長、もうすぐヴァンガードチャンピオンシップがあるみたいだけどクリア先輩には宣伝出来た?」

 

そう聞かれた店長は首を振りながらお手上げのポーズを取った。

 

「全然だめ……。前回も出場を拒否してたからもしかしたら今回も出る気がないかもしれないわね……」

「そうか……。クリア先輩みたいな人こそ出たほうがいいと思うのになぁ……」

「……あのさ、俺そのヴァンガードチャンピオンシップっていうのよく知らないんだけど……」

 

言いづらそうに言うカイリに店長はニコッと笑うと口を開いた。

 

「それはいけないわね!それじゃあカイリ君のためにヴァンガードチャンピオンシップがなんたるかを教えましょう!ねっ、ハジメ」

「やっぱりな……」

 

わかっていたように店長が言い終わった瞬間にハジメはそう言った。

 

「まぁ、別にいいけどさ。ヴァンガードチャンピオンシップっていうのはヴァンガードの中で多分一番大きな大会だ。これに勝ち上がっていくと最終的に全国まで行けるんだ」

「全国……。俺とはまるで無縁な言葉だね……」

「そんなことはないさ。ヴァンガードは運ゲーだ。運が良ければ俺だってお前だって行けるんだぜ?」

「確かにそうだけど……。そこまで行くにはかなり勝たないと駄目なんでしょ?」

「……まぁ、ショップ大会で上位二人。県大会で上位三人。全国大会予選で上位四人に勝ち残らないと決勝トーナメントには行けないな……」

「うわ……正直ショップ大会の段階で行ける気がしないよ……」

「……たしかに……。普通にやったら上位二人はクリア先輩とツカサ先輩だろうからな……」

 

突然の諦めムードになった二人に店長はおもいっきり二人の背中を叩いた。

 

「何やる前から諦めてるのよ!やってみなきゃわかんないでしょうが!」

「ぐうぇ!?……マジ遠慮なしで叩いてくるっすよね……」

 

カイリもまた噎せながら、チラッとポスターを見ると何か違和感を感じた。

 

「……あれ、たしか次行われるそのヴァンガードチャンピオンシップって第三回なんですよね?このポスター第二回のやつっぽいですけど……」

「え?」

 

その言葉を聞き、ハジメもポスターをよく確認すると普通に第二回ヴァンガードチャンピオンシップと堂々と書いてあった。

 

「あれ、本当だ。どういうことっすか?店長」

「えっと……それは……」

 

店長は困った様子あっちこっちに視線を向けると閃いたように手を叩いた。

 

「ちょっと、新しいポスターを取り寄せるの忘れちゃってて……。でも雰囲気作りはしないといけないじゃない?だから前回のポスターを引っ張り出してきたのよ!」

 

冷や汗をかきながら言う店長を疑り深く見るハジメ。

 

「ふーん、ならしょうがないな。にしても良くそんな前のポスターなんかとってたもんっすね」

 

ハジメの反応からなんとか誤魔化せたと思った店長は肩を撫で下ろす。

 

「ポスターは基本的に取ってあるからね。良かったら余ってるやつでも見る?」

「おぉ!見たいっす見たいっす!欲しいの合ったらもらっちゃってもいいっすかね?」

「それは欲しいものによるわね。ほら、カイリ君も!」

「あっ、はい!」

 

依然としてポスターを眺めていたカイリに声をかけ、三人は店の奥に入っていった。

 

フリースペースの隅まできたクリアとツカサは相対して座ると、誰にも聞こえない声で話した。

 

「なんでお前普通に店に来てるんだ?」

「ん?普通以外に店に来る方法なんてあるの?」

 

ピクッとクリアの血管が浮き出る。そして食い入るようにツカサを見るとこう言った。

 

「お前昨日自分で言ったこと覚えてないのか?自分はもうすぐここを離れると」

「言ったよ。でも何度か会うとも言ったよね?」

 

たしかに言っていた……。だがこれほど早くに会えると思っていなかったクリアにとって腑に落ちなかった。

 

「なら、聞かせてもらおうか?お前が何故そうまでして勝ちに拘るのかを」

「まあまあいいじゃない!そんな堅っ苦しい話しはさー」

「何?」

 

いつものようにニヤニヤ笑いながらツカサは言った。そして、ポケットからデッキを取り出すとFVを置き、ファイトの準備をした。

 

「ボクがここに来たのは君とファイトをしたかったから。ただそれだけだよ」

 

自分を真っ直ぐに見据えてくるツカサにそれまでに抱いていた不満を振り払わされた。

こいつは本当にただ自分とファイトすることを望んでいる。それも真剣勝負。

クリアも黙って鞄からデッキを取り出すとFVを置き、ファイトの準備をした。

 

「何も言わずに勝負を受けてくれてありがとう。きっと、こうやってファイト出来るのは最後だと思うから……」

「……今なにか言ったか?」

「ううん。何でもないよ!」

 

ツカサは慌ててそう言った。

お互いはお互いのデッキをシャッフルし、相手に返すとデッキの上から五枚を裏向きのまま引いた。

 

「先攻後攻は前みたいにサイコロでいいかな?」

「ああ、それでいい」

「んじゃっ、投げるよ~」

 

そう言うと、ツカサはサイコロを投げた。

出た目は『4』クリアからの先攻である。

 

お互いはそれぞれマリガンをすると再び五枚になるようにカードを引く。

 

「スタンドアップ、ヴァンガード」

「スタンドアップ、The・ヴァンガード!」

 

掛け声とともにFVを表替えす。

 

「神鷹一拍子」

「案内するゾンビ」

 

始めてファイトした時とは違い、お互い相手の手の内を知っているためファイトは早いペースで進んだ。

 

「三日月のブースト、満月でヴァンガードにアタック」18000

「ナイト・スピリットとナイトミストをインターセプト!」25000

「ツインドライブ……」

 

クリアはデッキに手を添えるとツカサを見据えた。

唐突にファイト仕掛けてきたツカサの真意とはなんなのか。たしか昨日のあのとき、クリアにいろいろと迷惑をかけると言っていた。これがそうなのか……。

 

だが、等のツカサはただ普通にファイトを楽しんでいるようだった。

 

前回ファイトした時と違い、堅実なプレイングを見せ、デッキ内のカードを記憶するアイデテック・イメージも使用していないように思えた。

 

本当にツカサはただ自分とファイトがしたかっただけなのか……

 

ファイトも終盤に差し掛かり、クリアのターン。ツカサのダメージは5点、手札の状況からトリガーが出なければガード出来る状態だった。

 

「三日月のブースト、満月でヴァンガードにアタック」18000

「出ないと信じてバンシーでガード!」20000

「ツインドライブ」

 

もし、ここでクリティカルが出れば間違いなくクリアの勝利は確定するだろう。しかし、クリアのデッキのトリガー配分は☆5引7治4。

既にクリティカルは4枚出てしまっているため出る確率は低い。

 

しかし、ツカサのデッキに残るヒールは少ない。

つまり、とにかくトリガーさえでればおそらく勝負は決するだろう。

 

クリアはデッキを手を添えると、カードを一枚捲った。

 

「ファーストチェック、サイレント・トム」

 

トリガーなし。ギリギリでガードしたからにはトリガーが出なければツカサはこちらのアタックを防いでくるだろう。

こちらのダメージ5。ツインドライブのカードを含めても手札は三枚。これを守られたら次のターンでクリアは負ける。

 

「セカンドチェック……」

 

 

クリアが二枚目のトリガーを捲ろうとした瞬間だった。

 

 

パチッ!

 

 

「うわっ!?」

 

突然店内を照らしていた蛍光灯の光が消え、雲によって日が遮られた店内は闇に包まれた。

 

すると、遠くでゴロゴロと雷が落ちた音がなり、クリアは何故停電したのかを察した。

 

暗闇に包まれた店内は少しパニックに陥り、いたるところで声が上がった。

視界を遮られた人はこの事態に驚き、固定されていなかった机とぶつかり机を震えさせた。

この状況にツカサもまた声を上げたが、まるで動じていない様子のクリアに気づき、声をかけた。

 

「クリア君停電したのに全然気にならないみたいだね……。肝っ玉だな~」

「ああ。俺はむしろ暗い方のが落ち着くからな」

 

暫くすると蛍光灯は点滅しながら店内を照らし出した。

照らされた店内は机とぶつかったことで卓上にあったカードが散らばり、それはクリア達の机も例外ではなかった。

 

散らばったデッキを見て舌打ちをするクリアにツカサは残念そうに呟いた。

 

「最後のドライブチェック……確認出来なかったね……」

 

今までに見たことない程、悲しそうな表情をするツカサにクリアは「ああ」と短く返すことしか出来なかった。

 

「あー、びっくりした。いきなり真っ暗になるんだもんな」

「店長さんが非常電源に切り替えてくれなかったら今も真っ暗のままだったけどね」

「だな。あーあ、ポスターもらい損ねたじゃねぇか……」

 

店の奥に入っていたハジメとカイリはそう話しながら出てきた。

二人に気づいたツカサは、またいつものように笑い、二人もクリア達に気づき、そちらに近寄った。

 

瞬間だった。雨でぐしゃぐしゃになったスーツを来た男性が慌ただしく店内に入ってくると、辺りを見渡しながら叫んだ。

 

「ツカサ様!大丈夫ですか!」

 

突然の来訪者に店内にいた客は呆然とした。そしてその視線は、呼ばれたツカサに集中した。

 

「ツカサ先輩呼んでるっすけど、知り合いっすか……?」

 

ハジメは俯いていたツカサにそう声をかけたが、それに構わずツカサはその男性に近づいた。

ツカサに気づいた男性はホッとした様子でツカサの安否を気遣ったが、ツカサはお構い無しに怒鳴った。

 

「ここには絶対に来るなって言ったはずだ!」

 

ハッと思い出した男性は軽く会釈をすると店内を出ていった。

事態を飲み込めていない店内で、ツカサはハジメ達に近付くといつもと同じ様子で口を開いた。

 

「変なところ見せちゃったね。ボクはもうこれで帰ることにするよ。ごめんね、驚かして」

 

呆気に取られていたハジメ達にツカサはそう言うと出口に向かった。

 

ハッと我に帰ったハジメは慌ててツカサの肩を掴み、ツカサの歩みを止めた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!さっきの人は一体誰なんすか!」

 

そう必死に聞いてくるハジメに対してツカサは握られていた手を振り払った。

 

「ごめん、それについて君たちに話すことは何もないんだ。本当にごめんね」

 

再び歩を進めるツカサ。外は真っ暗で、そこへ向かおうとするツカサの姿にハジメは悪い予感を感じた。

 

「また!アネモネに来てくれますよね!ツカサ先輩!」

 

少し立ち止まったが、振り返らずツカサはそのまま歩き出した。

 

「先輩!」

 

そして店の外に出たツカサの姿は雨が降り頻るその暗闇の中へと消えていった。

 

ハジメ暫く立ち尽くしたが、不意にクリアに歩み寄った。

 

「……クリア先輩は何か知らないんすか……?さっきツカサ先輩に何かようがあったみたいっすけど……」

 

すがるような思いでハジメはそう聞いた。

 

「……さぁな……」

「先輩!」

 

瞳孔が開き、息を乱しながら訴えてくるハジメにクリアは冷たく返した。

 

「悪いが、俺はあいつとファイトをしたかっただけだ。さっきの男も知らないし、そもそもあいつのことについて俺は何も知らない。お前もそうだろう」

「くっ……」

 

ハジメは俯き、黙った

そう……あくまで自分とツカサとの繋がりはヴァンガードのみ。ツカサが何処に住んでどんな家族で、そしてどうしてこの町に来たのかもハジメは知り得なかった。

 

「ハジメ……」

 

心配そうに声をかけるカイリに構わずハジメは言った。

 

「知ってますよ……。ツカサ先輩はヴァンガードが好きだということを俺は知ってるっす!」

「あぁ、たしかにな。だが、それはお前が見たあいつの姿でしかない。ヴァンガードに向かう姿勢のあいつを。しかし、内に秘めるあいつのことをお前は知らない。あいつにとってのヴァンガードという存在の在り方を俺たちは知らない。今の俺たちに……出来ることは何もない」

「うっ……そんな……」

 

崩れるように座り込むハジメ。

クリアも荷物をまとめ、ハジメを横目で見ると出口へ向かった。

 

(今の俺たちには……な)


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