先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

14 / 86
プライド

その時、不意にアネモネの扉が開く音が鳴る。入ってきたのはアネモネ最強のファイター、小野クリアであった。

彼はいつものように仏頂面で店内に入ると、直立不動で謝っているハジメとタイキが視界に入った。

 

(何やってるんだ。あいつら)

 

そう思いながらその相手であるミヤコに目を移した。

 

(見ない顔だな。また新参か……最近多くなってきたな。……ん?)

 

暫くミヤコを見ると、何か引っ掛かるものを感じた。

 

「フン」

 

クリアはそのまま定位置である隅の席に座った。

 

 

「ったく、良心でやってるのにどうしてこうなった……。とりあえず、ペイルを知らない人へのペイルムーンの特徴の説明だぞ」

「それは俺か!俺に言ってるのか!?」

「お前も含む、シロウやら何やらに向けてのだ!まぁ、さっきのトラピジーストを見れば分かるけど基本的にソウルを活用するクランだな。他にもソウルを参照するクランはいくらでもあるなか、ペイルは特にソウルの中身を重視してるんだ。特定カードがソウルにあればパワーが上がったり、トラピみたいに場のカードとソウルのカードを入れ換えることに長けてるんだけど、特にソウル移動による連続攻撃が脅威になる」

「アタックした後にスタンドするみたいな感じですか?」

「そうだな、ただそのスキルの起動がヒット時だから俺は出来る限りそのユニットのアタックをガードすればいいってわけだ」

「あー、そういやそんなスキルあったなー。でもたしかそれはそのスキルを持ったユニットだけしか変われねーし、そのユニット自身を再び場に出すことは出来ねーからソウルに丁度いいユニットが無かったら使い損じゃね?」

「だからさっきからミヤコさんはスカルや今ライドしたロベールでソウルを増やしてるんだよ。今のところ、手札のカードをソウルに入れるカード位しか確実に特定カードを入れるカードがなくて、しかもそれもあまり実用クラスじゃないからとにかくソウルを増やして特定カードを入れる確率を上げてるんだ」

「……なんか凄く難しそうなクランですね……」

「そうね」

 

今まで黙っていたミヤコが突然口を開き、ハジメ達は思わずミヤコへと視線を向けた。

 

「ラインの構成はもちろん、ヒット時効果を使うために立ち回らないといけないし、ソウルに入るカードだってほとんど運頼みだから他のクランより安定性は無いかも知れないけど……」

 

不意に口元が緩み、可愛らしく笑みを浮かべた。

 

「上手く回せた時の相手を一番アッと驚かせてあげられるところが、あたしがペイルムーンサーカス団を使う理由にもなってるのよ……」

 

今までと違い楽しそうに話すミヤコの姿に、ハジメ達は呆気に取られた。

 

「っ!?も、もう説明も終わったみたいだしファイト再開するよ!右下にミッドナイト・バニーをコールするよ!」

 

ハジメ達の視線に我に返ったミヤコは、照れ隠しをするようにカードをコールした。

 

「あっ!そうだ、さっきのロベールのデッキトップはそのままにしたんすよね……。ということはそれがトリガーであることは濃厚っすね……」

 

まじまじとミヤコのデッキトップを見るハジメにミヤコはニヤリと笑った。

 

「残念、ハズレよ。右上にニトロ・ジャグラーをコール。あたしがそのままデッキトップに置いたのは欲しいカードだったから。ニトロのスキルでSC!」

 

そう言ってソウルに送られたカードはクリムゾン・ビーストテイマー

それを見たタイキは感嘆の声をあげた。

 

「うめー!なるほどー、たしかクリムゾンは自身とさっきソウルに入ったターコイズのパワーアップの条件に必要だったからわざとトップをそのままにしたんすね!ペイルムーンの戦い方って見てるほうも面白いっすね!」

「お褒めに頂き、痛み入るわ」

「ううぅ……僕は何がどうなってるのかがよくわからないです……」

 

和やかな雰囲気に包まれ、ハジメはこのミヤコという女性を見直した。

 

(最初は強気な感じだったけど、話してみると凄くいい人だなぁ。タイキやシロウもいつの間にやら普通に話しに入ってくるようになったし、勇気を振り絞って声掛けて良かったぜ……)

 

「さぁ、行きましょうか?トラピのブースト、バーキングでヴァンガードにアタック!」16000

「あー、ノーガードっす!ダメージチェック……ファントム・ブラック」

「スカルのブースト、ロベールでヴァンガードにアタック!」17000

「それもノーガード!」

「丁度いいガード札がないようね。ツインドライブ!!一枚目、冥界の催眠術師。二枚目、スパイラルマスター。ドロートリガーGET。一枚引き、パワーは全てニトロへ」

「またドロートリガーですね……」

「ミヤコさんのデッキは最初、初期の☆4引8治4だと思ってたけど、さっきのSCでスタンドも入ってるみたいだからもしかしたら☆が入ってないのかも……?」

 

ハジメは少し期待を込めた視線をミヤコに向けた。

 

「そんな大事なこと言うわけないでしょ。さっ、ダメージチェックよ」

 

案の定教えて貰えなかったので、潔くデッキトップを捲ると声をあげた。

 

「GET!ドロートリガー!レイダー・マンティスのスキルで一枚引き、パワーはヴァンガードに加えるっす!これでこっちもプラマイ0っすよ!」16000

「ハズレね、確かにあたしがこのアタックでヴァンガードにアタックすればそうかもしれないけど、戦闘員Bと違ってバニーはリアガードにアタックがヒットしても使えるのよ?というわけで、バニーのブースト、ニトロでヘラクレスにアタック!」21000

「ぐぬぬ……そこにアタックっすか……」

 

自分の手札とにらめっこしながら唸っているハジメにシロウは口を開いた。

 

「あのバニーってやつにも何かヒット時スキルがあるんですか?」

「あぁ、しかもそれを助長する厄介なカードがソウルにあるから出来る限り通したくないんだがな……」

「ぶっはっはっは!相手を困らせるメガコロが逆に翻弄されてちゃ世話ねーな!」

「ちぃ……ならここは潔く……治療戦闘員ランプリとアイアンカッターをインターセプトでガード!」25000

「あたしのターンはこれで終了よ」

「俺のスタンド&ドロー!右側前列にヴァイオレント・ヴェスパー(9000)をコール!そしてスキル発動!」

 

そう言ってデッキの上に手を乗せるのを見てミヤコは気付いた。

 

「なるほどね。さっきガードを渋ってたのはヘラクレスを退かしてヴェスパーのスキルでトリガーが出てもラインが崩れないようにするためだったのね」

「そっすね……相手が10000Vと分かった以上、最低でも15000は作りたいっすからね……」

 

ハジメとミヤコが話しを続ける中、側で話しについていけてない様子のシロウにタイキは呟いた。

 

「あのヴァイオレント・ヴェスパーってのは前コウって奴が使ってたバイヴ・カーのメガコロ版だ」

「バイヴ・カー……デッキ一番上を捲ってそれが同じクランだったらコール出来るってやつでしたよね」

「おう。ハジメが言いてーのは、デッキトップがもしパワー5000以下だったら困るって話だな。メガコロのパワー5000以下のカードはトリガーしかねーから確率はあんまり高くねーが、もし出たらヴェスパーと合わせても14000。10000のロベールに対しては5000でガードできちまうからなー」

「なるほど……。でもそれってG2以上でも同じこと言えますよね?ハジメさんは手札にブースターなさそうですし」

「G2以上が出たら単純にヴェスパーを後ろに下げたりしたりすりゃいいからなー。問題はトリガーが出たらツインドライブでトリガー出にくくなることだな。それ以外ならデッキ内のトリガーの割合が増えて圧縮にもなってトリガーも出やすくなるしな。どうせ弾数欲しいだけだからそんなこと正直どーでもいいんだけど……」

「弾数……?」

「とにかく!トリガーじゃなきゃいいんだ!うおおお!」

 

気合いを入れてデッキトップを捲った瞬間、ハジメの気合いは吹き飛んだ。

 

「シェルタービートル(5000)……クリティカル……」

「……本当、そういうスキルのトリガーヒット率は異常ね」

 

同情するようにミヤコはそう言った。

 

「仕方ないっすね……。とりあえずこいつは右下にスペリオルコールします。そのままシェルターのブースト、ヴェスパーで……うーん、ニトロにアタックっす」14000

「でしょうね。ノーガード。ニトロは退却するわ」

「次にミリピのブースト、邪甲将軍でヴァンガードにアタック!って言ってもさっき完ガ引いてたしなぁ……」21000

「当たり。冥界の催眠術師でガード。手札のロベールを捨てて完全ガードよ」

「ですよねー……。ツインドライブ!!ファーストチェック、治療戦闘員ランプリ!GET!ヒールトリガー!回復してパワーはヘラクレスに。セカンドチェック、邪甲将軍ギラファっす。戦闘員Bのブースト、ヘラクレスでヴァンガードにアタックっす!」21000

「はぁ、それはノーガードよ。ダメージチェック、スカイハイ・ウォーカー。スタンドトリガーGETよ」

「そうみたいっすね。でも、戦闘員Bのスキルはヒット時に発動出来るっすからね。ミヤコさんがスタンドしたユニットを選んだ後にゆっくり選ばせてもらうっすよ」

 

ミヤコは自分の手札を一度確認するとバーキングをスタンドさせた。

 

「んじゃあアタックがヴァンガードにヒットしたんで戦闘員BのCB!バーキングの後ろのトラピのスタンドを禁じるっす」

 

メガコロ

 

手札5

ダメージ表2

ダメージ裏1

 

前列

ヘラクレス/邪甲将軍/ヴェスパー

 

後列

戦闘員B/ミリピ/シェルター

 

ペイル

 

手札2

ダメージ表3

 

前列

/ロベール/バーキング

 

後列

バニー/ニトロ/トラピ

 

「トラピ?スカルじゃなくて?」

「はい、トラピっすよ」

 

疑問に思ってそう言ったが、依然としてハジメはその選択を曲げなかった。

 

(スカルを禁止すればガードが楽になるのにそれでもトラピを禁止する……ということは)

 

ミヤコは一つの仮説をたてるとトラピ以外をスタンドさせ、ドローした。

 

「ロベールのスキルでSC(ニトロ)し、デッキトップを確認。これはデッキボトムに。左上にナイトメアドールありすをコール。バーキングでヘラクレスにアタック」10000

「ノーガードっす。ヘラクレスは退却」

「スカルのブースト、ロベールでヴァンガードにアタック」17000

「パラライズ・マドンナでガード!手札の邪甲将軍を捨てて完全ガード」

「ふーん、やっぱりそういうこと。さっきスカルを禁止しなかったのは端から完全ガードするつもりだから関係ないってわけね」

「それもあるっすけど、さっきみたいにトラピを使ってまたスカルをスタンドさせてSCさせられたくなかったんすよね」

「まあいいわ。ツインドライブ!!一枚目、ミッドナイト・バニー。二枚目、ダイナマイト・ジャグラー。クリティカルトリガーGET!」

 

ミヤコのトリガーにハジメは驚愕した。

 

「うげっ!クリティカルも入ってるんすか……」

「クリティカルがないとヴァンガードのアタックに脅威を感じなくなるでしょ?効果は全てリアガードのありすに加えるよ。バニーのブースト、ありすでヴァンガードにアタック。パワー22000クリティカル2」

「もともと通す気は無かったっすが、いっそう通せなくなったっすよ。治療戦闘員ランプリとレイダー・マンティスでガード!」26000

 

ハジメはドローすると、再び右上にヘラクレスを配置し、バトルに入った。

 

「この奇形ラインが気になるけど……気にしない!シェルターのブースト、ヴェスパーでバーキングにアタック!」14000

「ノーガード。バーキングは退却」

「ミリピのブースト、邪甲将軍でヴァンガードにアタック!」21000

 

ミヤコは仕方なさそうにため息をつくと、ノーガードを宣言した。

 

「おしっ!これでようやく処理出来るっすよ。ツインドライブ!!ファーストチェック、蛹怪人ギラファ。セカンドチェック、シェルタービートル!GET!クリティカルトリガー!ギラファにクリティカルを乗せて、パワーはヘラクレスに加えるっす!」

 

「うわっ……これはひっでーな……」

 

タイキは思わず呟いた。

ミヤコはダメージチェックを行い、一枚目にクリムゾン・ビーストテイマー、二枚目にお菓子なピエロが出た。

 

「ヒールトリガーGET。ダメージを回復してパワーはヴァンガードに」15000

「んでは邪甲将軍のアタックがヒットしたんでCBを使うっすよ!場のヴェスパー、シェルターを捨ててミヤコさんのバニーとスカルを退却させるっす!」

 

これでもかっといった様子でハジメはコストを払うとそう宣言した。

 

「あぁ、さっきタイキさんが言ってた弾数ってこれの事だったんですね。でもCB2に自分のユニットを二枚も捨てて相手のG1以下のユニットしか退却出来ないのってどうなんですかね……?しかもヒットさせないといけませんし……」

「見てるぶんだとあまり強そーなスキルじゃねーがこれがやられると面倒なんだわ……。とりあえずヒットはミリピの10000ブーストのおかげそこまで難しくねーんだ。むしろこれをガードしてくれたほうが相手の手札を削れるから美味しいんだわな。コストは今見てたみてーにヴェスパーが餌を呼んでくれるから実質一枚で二枚分のカードが削れんだよな。まぁさっきみたいにトリガーが出ると勿体ねーが……」

「でもG3のヴェスパーってパワー9000だからあんまりデッキに入れられませんよね……?それにいつも手札に来るとは限りませんし……」

「それがそーでもねーんだよなー……」

「そうなんですか?」

「おう、フルバウサイクルの特徴はさっきも言ったよな?G1は手札のG3を捨てることでサイクルのG3を持ってこれるってな。つまり、9000であるヴェスパーをたくさん採用してもG1で処理出来るから苦にならねーんだよ。しかも蛹が無かったとしてもG2ギラファにさえライド出来ればある程度の誤魔化しがきくし、場に出した後6000バニラに成り下がる蛹も邪甲将軍のスキルで処理すれば無駄がなくなるってわけだ」

「途中からよくわかんなくなりましたけどとりあえずヴェスパーを使うことによる事故は少ないし、コストの確保もそこまで難しくないってことですね……。かなり完成されてますね」

「トリガー配分も完璧だしな。どうしてこんなに虫が強いんだか……」

 

そうぼやきながらタイキ達は、ファイトに視線を戻した。

 

「ヘッヘッヘ、ずいぶんとすっかすかになったっすね」

「人のこと言ってるけど自分も大概よ?」

「まあ、あれは仕方ない犠牲っすからね……。では戦闘員Bのブースト、ヘラクレスでヴァンガードにアタック!」21000

「ダイナマイト・ジャグラーでガード」25000

「さすがに防がれちゃうっすか。ダメージ的にもユニットの数的にもまだまだファイトは終わりそうにないっすね」

 

余裕そうにハジメはターンを終了した。

 

「あたしのターン、スタンド&ドロー。ロベールのスキルでSC(クリムゾン)デッキトップのカードは……そのままで」

「そのまま……ってことはトリガーっすか……」

 

自分の手札を確認するとそう警戒した。

 

「V裏にバニー、左下にターコイズ(6000)、右上にロベールをコール」

「いい感じにユニットが来てたんすね……」

「そうね、でも手札もなくなってインターセプトも出来ないから守りが薄くなるのが痛いわね」

 

そう呟くとトラピをレストさせた。

ハジメはこの戦況にも動じないミヤコを感心した。

 

(最初からクランでのパワー差があるファイトで不利があるっていうのにこの様子だとどうってことはないって感じだな……。こういう状態に慣れてるって感じかな?何にしても、俺も油断出来ないな……)

 

「トラピのブースト、リアのロベールでヴァンガードにアタック」16000

 

このアタックにハジメは少し考えた。

 

(ここを通したいのはやまやまなんだがなぁ……。もしヴァンガードのアタックでクリティカルトリガーが出たら……。いや、すでに俺の手札では良くてもあのありすのアタックを防ぐだけで精一杯だ。クリティカルじゃないことを祈ってここは通すしかない……!)

 

「ノーガードっす!」

 

恐る恐るダメージを確認するハジメ。

 

「蛹怪人ギラファ……トリガーなしっすか……」

「バニーのブースト、ロベールでヴァンガードにアタック!」17000

「クリティカルさえでなけりゃなんとかなる……!ノーガードっす!」

「ツインドライブ!!ファーストチェック、GETスタンドトリガー。スカイハイ・ウォーカーのスキルでロベールをスタンドしてパワーはアリスに加えるよ。セカンドチェック、ナイトメアドールありす」

「スタンドトリガーでしたか……。危ない危ない……。ダメージチェック、シャープネル・スコルピオ!GET!クリティカルトリガー!効果は全て邪甲将軍に加えるっす!」

「それじゃ、バニーのブーストしたアタックがヒットした時、CB。バニーはソウルへ。ソウルから、V裏にトラピをスペリオルコール。さらに、トラピのスキルでもう一枚のトラピをソウルに置き、ソウルからマッドキャップ・マリオネットをスペリオルコール。マリオネットがコールされた時、手札からありすをソウルに置くよ」

 

ヴァンガードを除く全てのユニットがスタンドしたところで、ハジメはミヤコの行動を読みといた。

 

(恐らくあのトラピは俺のミリピのスキルを警戒してのものだろうけど、わざわざマリオネットをコールしたのは一体どういう意図なんだ……。ミヤコさんのことだから、何か考えての行動なのは間違いないんだけどな……。もともとソウルにありすが入っていなかったことを考えると、何か入れなければならない理由があるはずだ……)

「ターコイズのブースト、ありすでヴァンガードにアタック」24000

「それは何がなんでも防ぐっすよ!シェルタービートルでガード!」26000

 

既に手札の内容を把握していたミヤコは冷静にマリオネットをレストさせる

 

「マリオネットのブースト、ロベールでヘラクレスにアタック。」16000

「ノーガードっす……。ヘラクレスは退却……」

 

苦い顔でヘラクレスをドロップゾーンに置くのを確認すると、ミヤコはターンを終了した。

 

「俺のターン……スタンド&ドロー!……へ……ヘヘ、ここでこれを引けたのはついてるな……。左上にヴェスパーをコール!スキルでデッキトップオープン!」

 

そう言ってデッキトップを捲ると後ろにいたタイキ達が歓声を上げた。

 

「アイアンカッター・ビートル!完璧!パーフェクト!このえげつなさは他の類いを許さない!こいつは右上にコールするっすよ!そしてその後ろに蛹怪人ギラファをコール!これはもう決まりっすね!」

 

テンションが上がりそう口走ったハジメだったが、まだ先ほどのことが頭に引っ掛かっていた。

 

(とりあえず盤面は埋めれた。ミヤコさんの手札は一枚、しかも中身も10000ガードだって解ってる。ここで俺が全面を並べられた時点でほぼ勝ち確だ。でも、それはさっきのミヤコさんのプレイングからきた物だ。トラピのスキルでロベールをインターセプト出来るG2にせず、わざわざ自分の手札を犠牲にしたのは何か意味があるはずなんだけど……くそ……もう少しで何か分かりそうなんだが……)

 

そう思案を巡らせていると、待ちくたびれ様子のミヤコが口を開いた。

 

「何躊躇ってんの?上手いこと配置出来たんだからさっさとアタックしたら?」

「あぁ、すいません、今やりますんで!」

 

ミヤコに急かされ、慌てて蛹怪人をレストさせた。

 

「蛹怪人のブースト、アイアンカッターでヴァンガードにアタックっす!」18000

「ノーガードよ。ダメージチェック……お菓子なピエロ、ヒールトリガーGET。回復は出来ないけど、パワーは全てヴァンガードに」

 

トリガーを引いたミヤコはニヤリと笑い、対照的にまだ気持ちがはっきりしていないハジメは一層苦い表情を浮かべた。

 

(いや、もうトリガーなんて関係ない!このアタックでミヤコさんがヒールトリガーを引かない限り、残り二つのアタックは防げない)

 

そう自分を活気づけるとミリピをレストさせていった。

 

「ミリピのブースト、邪甲将軍でヴァンガードにアタック!」17000

「スカイハイ・ウォーカーでガード」25000

「えっ!?」

 

ヒールがなければ止めの一撃となるこのアタックにノーガードしてくると思っていたハジメは思わず声が漏れた。

 

(確かにこれでトリガーが一枚出たとしても通らない……。けどこれじゃあ次のヴェスパーのアタックが防げないじゃないか……)

 

困惑した様子にも構わずミヤコは言った。

 

「ほら、変な声出してないでさっさとドライブチェックする!」

 

再び急かされ、破れかぶれにドライブチェックをした。

 

「じゃあツインドライブ!!っす!ファーストチェック、治療戦闘員ランプリ!GET!ヒールトリガー!回復してパワーはヴェスパーに加えるっす。二枚目、戦闘員B」

 

カードを手札に加えたハジメはミヤコの表情を伺った。

先ほどのヒールトリガーが出てから、まるで余裕な様子だった。

 

(今ヒールトリガーが出た以上、もう一度ヒールが出る確率は絶望的なはずだし、何よりこの感じは防ぐことが出来る自信からきてるとしか思えない……。やっぱりこのアタックを防げるということか……。インターセプトも無く、手札もゼロ。この状況から10000ものガードを……。手札が……ゼロ?)

 

ハジメは気づいた。それは閃きに近いものであり、自分が始め念頭に抑えていたものだった。

 

(手札がゼロ!しまった……忘れてた……。あのカードの存在を……。くっ、最初あれほど警戒していたことなのにっ……!)

 

ハジメは自分のあまりの甘さ、そしてそこからくる悔しさから顔が歪んだ。

そして、自慢気に自分が強いことをアピールした上でのこの体たらくに自分の未熟さを思い知らされた。

 

「戦闘員Bのブースト……ヘラクレスでヴァンガードにアタック……」21000

「ソウルのラーク・ピジョンのスキル発動。手札が無いときにこのカードをガーディアンサークルにスペリオルコール。つまり、10000でガード」25000

 

すると突然、今までに腑に落ちなかったタイキは納得したように声を上げた。驚いたシロウは少しビクッとするとタイキに声をかけた。

 

「一体何がわかったんですか?」

「どうしてあの時マリオネットで手札のありすをソウルに入れたのかがわかったんだよ。あの状況じゃ、あれ以上ソウルの質を高めても無意味だし、かといってミヤコさんのことだから何かしら考えがあると思ってたが……」

「……たが何なんですか?」

「分からねーか?ラーク・ピジョンは手札がゼロの時じゃないとスキルは使えない。そしてG3であるありすはガードに使えないから完全ガードでもしない限り手札に残っちまう。だからミヤコさんは次のガードを考えてマリオネットでありすを処理をしたんだ。たったワンプレイでユニットをスタンドで残し、ミリピのブースト値を下げてさらにラーク・ピジョンの条件を満たした……。マジでミヤコさんのレベルたけーわ……」

 

この時、感心するタイキと同じことをハジメも思っていた。

 

(あんなの明らかじゃないか、ソウルを貯めるならスカルを出せばいい。わざわざ手札からソウルに入れたという入れなければならない理由があったからだ。そこで気づくべきだった……。何が店で一番強いだ!自分で言ったことが腹がたつ……)

 

「これで終了っす……」

「ずいぶんとしおらしくなったじゃない?もしかしてラーク・ピジョンのこと忘れてたとか?」

「……俺、まだまだでした……」

 

発揮のない声を出すハジメに、図星だとミヤコは察した。

 

「まあ、そう気をやむことはないよ。あんたは色んなことを考えてファイトしてこのカードの存在を忘れてた。ただそれだけでしょ?あたしから見てもあんたは十分強いよ。ただ詰めが甘かったね」

 

そう言われてシュンとなったハジメに少し苛ついたミヤコは声をあげた。

 

「ほら!まだファイトは終わってないよ!反省する暇あったら少しでも勝てるよう努める!」

「そうだぜハジメ。お前のそんなひねくれた姿は似合わねーよ」

「うるさいな!俺はお前と違ってそこまで負けたことがないんだよ!」

 

怒鳴り散らすハジメに惚けた様子でこう言った。

 

「おう、まあ確かに負けたりはよくするが、今までに一度だって勝負を投げたことはねーぜ?」

「……」

 

タイキの言葉を聞き、ハジメは黙った。

 

「もうちょい頭冷やそうぜ?別にプレミの一つや二つどーってことねーじゃねーか」

「……けどそれが負けに直結することもある。今がその時だ……」

「だからよー。今お前がやってるのはヴァンガードだぜ?最後の最後まで何が起こるかわかんねーものをここで諦めちまったらもったいねーだろ」

「諦める……?」

 

ハジメは不意に前にツカサの言っていた言葉を思い出した。

すると突然笑いだした。

 

「プッ……ハッハッハ!あの時は他人事だと思ってたんだけどな……。そうだよな、こんな状況でもこれがヴァンガードである以上何が起こるかわからない。幸い、今のヒールトリガーでまだ俺には生き残るチャンスが残ってる。」

 

そしてミヤコの方へ振り向いた。

 

「これで俺のターンは終了っす。ですが、絶対にこのターン守りきって次のターンで今度こそ俺が勝ちを宣言させてもらうっす!」

 

真っ直ぐこちらを見るその表情は、自然とミヤコの闘争心を奮い立たせた。

 

「面白いじゃない。なら、守れるものなら守ってみな!あたしのスタンド&ドロー!ロベールのSC(ダークメタル・バイコーン)!デッキトップのカードは下に。ターコイズのブースト、ありすでヴァンガードにアタック!」19000

「治療戦闘員ランプリでガード!」21000

「トラピのブースト、ロベールでヴァンガードにアタック!」16000

「ノーガードっす!」

「ツインドライブ!!一枚目、クリムゾン・ビーストテイマー。二枚目、スカイハイ・ウォーカー!スタンドトリガーGET!効果は全てありすに加えるよ!」

「ダメージチェック!シャープネル・スコルピオ!GET!クリティカルトリガー!効果は全てヴァンガードに!」

「ありすでリアガードのアイアンカッターにアタック!」15000

「ノーガードっす!アイアンカッターは退却!」

「ありすのアタックがヒットしたからCB!ありすをソウルに入れ、ターコイズを退却し左下にトラピをスペリオルコール!トラピのスキルでV裏のトラピをソウルに入れ、ソウルからありす左上にスペリオルコール!トラピのブースト、ありすでヴァンガードにアタック!」16000

「戦闘員Bでガード!」21000

「マリオネットのブースト、ロベールでヴァンガードにアタック!」16000

 

おそるおそるカードを捲っていく……。ミヤコの手札を考えるにここでヒールが発動すればハジメの勝利が確定する。

 

「ダメージは……レディボム。トリガーなしっす。」

 

祈りもむなしくヒールは出なかった。しかし、ハジメはそれ以上にスッキリした表情をしていた。

 

「いやぁ、完敗っす。ここまで負けを実感させらたのは久しぶりっすよ」

「そう、あたしもここまで骨のあるファイトは久しぶりだったよ」

 

すると今度はタイキの方へ視線を向けた。

 

「タイキ、さっきはあんなこと言って悪かったな……」

「あー、別に気にしてねーからいいよ。それよりお前がコテンパンにやられてる様を見られて良かったぜ」

「なんだとっ!?」

 

冗談混じりにそう話すタイキ達に、シロウは頑張って口を開いた。

 

「すいません!なんかさっきは質問しづらい雰囲気だったので聞けませんでしたが、あのありすのアタックがヒットした後何が起きたんですか?」

 

ファイト中、お互いスキルを理解していたため瞬く間に処理をされたため、シロウはその一連の流れを聞きたかった。

 

「あれは、CBでありすの代わりにソウルからカードをスペリオルコールするスキルだ。まぁ、バニーのヒット時版だな。それでソウルからトラピをスペリオルコールしたんだが、トラピ自身もコールされた時に他のユニットをソウルに入れてソウルからスペリオルコールするスキルを覚えてるよな?そのスキルで再びありすをコールしたってわけだ」

「なるほど……このスキルが無かったらハジメさん守りきれましたもんね……」

「あぁ、してやられたよ。でも俺もこれで前よりも強くなった気がするぜ!」

 

そう言うハジメの微笑みながら見ていたミヤコはあることを思い出した。

 

「そういえばあなた、この店で一番強いとか言ったのは嘘だったわけ?」

 

「あっ」とハジメも思い出したように声を漏らすと苦笑いを浮かべながら言った。

 

「あぁ~、そういえばそういうこともありましたね……。もしかして知り合いか何かを探しに来たんですか?」

 

そう話を反らすとミヤコはため息を漏らした。

 

「やっぱり嘘だったわけね……。半分当たり、半分ハズレってとこね。あなた達、『ピオネール』って知ってる?」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。