先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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痕跡

青年が薄ら笑いを浮かべながらそう言い放つと、少しの間の後にカイリも同じような薄ら笑いを浮かべながら一枚のカードを取り出した。

 

「もちろん守りますよ。ツインブレーダーでね、コストはレッド・ライトニングで。いつかくると思ってましたからね。当然でしょう?」

 

カイリは挑発的にそう言うと青年はしかめっ面に鼻で笑った。

 

「ふん、まぁいいさ。ツインドライブ!!ファーストチェック、GETスタンドトリガー!ダークサイドトランペッターのスキルでドンナーをスタンド!パワーはリアのバイヴへ。セカンドチェック、GETドロートリガー!アビス・フリーザーのスキルで一枚引き、パワーはドンナーに加える!」

 

「あー、せっかく完全ガード使ったのにまたダブルトリガーなんて……」

「さっきトリガーを二枚も飛ばしたのにな……鬼かよ……」

 

「仕切り直しだ。ドンナーでライザーにアタック」17000

「……ウォールボーイでガード」21000

「ま、そりゃ守るわな。なら、アリアンロッドのブースト、バイヴでライザーにアタック!さぁ、守ってみろよ?」21000

「……ノーガードです。パーフェクトライザーは退却」

「おっと、あと少しで条件が満たせたのに守れなかったか。残念だったな。俺のターンはこれで終了だ」

 

青年は白々しくもそう言いながらターンを終了した。

 

ノヴァ

 

手札2

ダメージ表3

ダメージ裏1

 

前列

/インビン/インビン

後列

シャウト/ライザーカスタム/ライザーカスタム

 

シャドパラ

 

手札4

ダメージ裏4

 

前列

ドンナー/PBD/バイヴ

後列

/グリム/アリアンロッド

 

店の扉が開き、ハジメとツカサは店内に入ると、カイリが見知らぬ青年とファイトしているのを見つけた。

 

「あの人もハジメ君の知り合いかい?」

「さぁ?始めてみる顔っすね。タイキの近くにいる小学生は知り合いっすけど……」

 

ツカサの問いにハジメは真顔で答えた。

 

「ふ~む。まぁ、近くまで行ってみようか」

 

ツカサの提案にハジメも賛同した。

 

「僕のスタンド&ドロー」

 

「……僕?」

 

ハジメは近くまで来るとカイリの異変に気付いた。

 

「おー、ハジメ。……にツカサ先輩どうもっす」

「あぁ、ところで……どうしたんだ?」

「おう、実はな……」

 

タイキはハジメとツカサにここまでの経緯を話した。

 

「……つまり、これでカイリが負けたらこの店のカードを全部持ってかれるってことなのか」

「そーいうことだな。カイリからしたら今までとは違う、負けられないファイトを自分に強いったわけだな。そりゃこんだけ慎重にもなるわなー」

「負けられないファイト……。自分で……」

 

ハジメは自分の言ったことがフラグであったのを実感した。

そして、雰囲気の変わったカイリをじっと見た。

 

(僕……、そしてこの口調……。まるっきり昔のカイリじゃねぇか……)

 

ハジメとツカサが来ている事にまだ気づいていないカイリは、そのまま何事もないかのようにカードをドローした。

 

「僕のスタンド&ドロー。インビンシブルのSC(ツインブレーダー)し、ダメージを一枚表に。右側前列にハイパワーライザーカスタム(8000)をコール。そしてシャウトのブーストでドンナーにアタックします」15000

「惜しいなぁ。あと1000パワーが高けれりゃヴァンガードに10000ガードを要求出来たのになぁ」

「で、ガードするんですか?しないんですか?」

 

急かすように聞くカイリに青年もムッとした表情でドンナーをドロップゾーンに置いた。

 

「ガードしないならしないで直ぐに退却させればいいのに。無駄が多いですね」

 

青年はフッと笑った。

 

「確かにそうだな。まるで……今のてめぇみたいだよなぁ?」

 

二人は一度にらみ合うと、カイリは無表情でライザーカスタムに手を添えた。

 

「……ライザーカスタムのブースト、ヴァンガードのインビンシブルでヴァンガードにアタックします」16000

「漆黒の盾マクリールでガード、手札のアビスフリーザーをドロップし、完全ガードだ」

 

カイリは静かにデッキに手を添えた。

 

「ツインドライブ!!ファーストチェック、キング・オブ・ソード。セカンドチェック……タフ・ボーイ。トリガーなしです」

 

それを聞いた青年はニタァと笑った。

 

「……ライザーカスタムのブースト、リアガードのインビンシブルでヴァンガードにアタックします」16000

「ダークサイド・トランペッターでガードだ」21000

「……僕のターンはこれで終了です……」

 

ノヴァ

 

手札4

ダメージ表4

 

前列

ハイパワー/インビン/インビン

後列

シャウト/ライザーカスタム/ライザーカスタム

 

シャドパラ

 

手札1

ダメージ裏4

 

前列

/PBD/バイヴ

後列

/グリム/アリアンロッド

 

「……これヤバくないですか?」

「あぁ、かなりヤベー……」

 

ドライブチェックを終えたカイリを見ながらシロウとタイキは呟いた。

 

「ありゃ~、トリガー出なかったか~。カイリ君、ずいぶんソウルにトリガーを吸っちゃってるね~。しかもダメージにライザーが飛んじゃってるし。こりゃ厳しいね~」

「それに手札には力をもて余したパーフェクトが一枚ある……。カイリのやつ、それでもパーフェクトに拘ってるのか……」

 

悔しそうに呟くハジメをツカサは見ると、視線をカイリに戻した。

 

「俺のターン、スタンド&ドロー」

 

引いたガードを確認すると、思わず顔を顰めた。

 

(くっそ!またバイヴかよ!手札にはネヴァンが一枚、攻め手が足りねぇ。CBさえあればダムドを打って一気に引導を渡せるってぇのに……。あの時、ブラスターダークのスキルは使わないほうが良かったか……。ワンチャン賭けるしかねぇか……)

 

「バイヴを左側前列にコール。スキル発動!デッキトップオープン。ブラスターダーク……。こいつは左側後列にスペリオルコール!そしてバイヴと前後を入れ替える」

 

(くっ、トリガーですら出ねぇのか。インターセプトを得ただけでも良しとするしかねぇか……。少なくとも……)

 

青年の視線はカイリの場にあるハイパワーを捕らえた。

 

「ブラスターダークでハイパワーにアタック」9000

「キング・オブ・ソードでガードします」13000

 

(当然か……。次のPBDのアタック、これでクリティカルが来さえすりゃフィニッシュだ)

 

青年は無意識に冷や汗を拭った。ガードの合計が10000しかない青年にとっても、このターンに決めなければならないというプレッシャーがのし掛かっていた。

 

「グリムのブースト、PBDでヴァンガードにアタック」16000

「ノーガードです」

 

既に覚悟したカイリは力強く宣言した。

 

「ちっ、ツインドライブ!!」

 

そんなカイリにイライラする青年は、感情を露にしながらカードを捲っていく。

 

「ファーストチェック、GET!スタンドトリガー!ダークサイドトランペッターのスキルでダークをスタンド!パワーは右側のバイヴに加える!セカンドチェック、PBD」

「ダメージチェック、GET!ドロートリガー!スリーミニッツのスキルで一枚引き、パワーはヴァンガードのインビンシブルへ」15000

 

青年の眉間の皺がさらに深くなった。

 

(クソッ、これでこのターンに決めるのはほぼ不可能っ……!だが……)

 

「ダークでハイパワーにアタック!」9000

「タフボーイでガードします」13000

 

(あのライザーさえ潰せば次のターン、クリティカルが出ない限り守り切れる……!潰せさえすれば……)

 

青年はただひたすらにハイパワーを攻撃した。

 

「アリアンロッドのブースト、バイヴでハイパワーにアタックだ!トリガーの効果でパワーは21000だ!ガード出来るか?出来ねぇだろ!?」

 

目を見開いて訴える青年にカイリは俯きながら言った。

 

「ノーガードです。ハイパワーは退却します」

「ふっ、だろうな?俺のターンはこれで終わりだが、次のターンを防ぎ、このファイトに引導を渡すのはこの俺だ!」

 

青年高らかに言い放った。

 

「……僕のターン、スタンド&ドロー。随分と喜んでますが、少しライザーに気をとられ過ぎじゃないですか?」

「……なんだと?」

「もしあそこでヴァンガードにアタックしていれば、僕の手札のタフボーイとこのハイパワーを使わなければ守れなかったんです。つまり、あなたはわざわざ僕に手札を残してくれたんですよ」

 

カイリの説明に青年は低い声で笑った。

 

「おいおい、ドヤ顔で言ってるとこ悪ぃが、その発言はマヌケ過ぎるんじゃねぇか?わざわざ自分の手の内を証すなんてなぁ……」

「問題ありませんよ。何故なら……」

 

カイリは手札のカードを取り、ヴァンガードに重ねた。

 

「ライド、パーフェクトライザー。このターンがファイナルターンです。そして引導を渡すのはこの僕です」

 

絶対に負けないという信念を瞳に宿しながら、カイリはスキルの発動を宣言した。

 

「パーフェクトライザーがライドした時、スキル発動。場にいるライザーを含むカードを全てソウルに移動します。そして、パーフェクトライザーは自分のターンにソウルのライザーの数だけ、パワーを+3000します。ライザーは三枚あるのでパワーは9000上がります」

 

当然、このカイリの決心に見ていたハジメ達も唸らずにはいられなかった。

 

「このターンで決めるとはカイリも大きく出たなー」

「あっちの彼のダメージは四点。手札には未判明のカード一枚に合計ガード値は15000。未判明カードをガード値5000と考え、トリガーを考慮しなければ、一点余裕のある彼はパーフェクトのアタックを通し、他のアタックを全て守り切ればこのターンを凌げるね~」

「カイリさんがクリティカルトリガーを引ければ完璧なんですけどね……」

 

各々が意見を溢す中、ハジメはじっと見ると静かに笑った。

 

(俺ってやつは……すぐに決めつける癖をどうにかしたほうがいいな。なんだ、カイリのやつ一丁前にヴァンガードやってるじゃねぇか。……頑張れよ!)

 

そんなハジメの思いも知らず、カイリはユニットを次々と配置していく。

 

「左側前列にMr.インビンシブル、ヴァンガード裏にラウンドガールクララ(5000)、左側後列にタフボーイをコールします」

 

(……なるほどねぇ、やつの手札にあったのはインビンシブルだったってわけか。だが、てめぇの言う『G3を手札に持っている』なんてそんな不確定な可能性に賭けてライザーを残すほうがどうかしてる。むしろ……)

 

青年はカイリの布陣を見て、鼻で笑った。

 

「おいおい、確かにパーフェクトのパワーは上がったみてぇだが、リアガードにライザーがいねぇせいでもともとのパワーが9000しかねぇみてぇだぜ?」

 

パーフェクトライザーは基礎パワーが11000なのだが、リアガードにライザーを含むカードが無ければパワーが2000下がるスキルを持っている。したがって、アタックするパーフェクトのパワーはスキルによるパンプ(パワーの上昇)で9000上がり、クララのブーストも合わせると23000となる。

 

「言いましたよね?これが最後だということを。そもそもこのターンで攻撃が防がれたらパワーに関係なく負けますし、アタックに関しては2000下がったところでなんら問題はありません。どうせガード出来ないでしょう?」

 

カイリの言葉に、自分の手札を確認した青年は舌打ちを打った。

 

「このターンでカイリさんが決められないとほぼ負けが確定しちゃうんですかね……?」

 

張り詰めた状況に不安を隠し切れないシロウはそう問いかける。

 

「そうだね~。パーフェクトライザーにライドしたことで場にいたライザーが全てソウルに入ってしまってカイリ君は手札にあるカードを全てコールしなきゃいけなくなった。しかもこれで決めるためにガード値10000のクララまで出している。これで決められなかったらほぼ確実に負けるね~」

「決められなかったらっすけどねー。今のカイリならなんかいける気がするっすよ。なっ、ハジメ」

「あぁ、全開のあいつならきっと決めてくれる……!」

 

(……悔しいが、やつの言う通りヴァンガードのパーフェクトは通すしかねぇ……。だが、恐らく今引いたカードはあのラウンドガールクララだとすりゃ、次にトリガーが出る確率は低くなる。さらに付け加えりゃこっちのトリガーが出ることだってある。あんな安い挑発なんてのらねぇよ。俺は堅実にいかせてもらう)

 

青年が指針をたてたところでカイリはシャウトに手を添えた。

 

「シャウトのブースト、インビンシブルでヴァンガードにアタック」17000

「ダークサイドトランペッターでガードだ」21000

 

青年がカードを捨てると、カイリの口元が緩んだ。

 

「でしょうね。でも、次はどうでしょうね」

「……どうだかねぇ。もし俺の持っているこの未判明カードが完全ガードだったとしたらどうだ?」

 

そう言うと青年は、手札のカードを一枚取り、強調した。

 

「それはないでしょう」

「……何故そう言い切れる?」

「もしそれが完全ガードなら、あなたは先ほどのターンでコールしてたはずです。ダークのブーストと合わせれば15000と最低限のラインは作れましたし、それをやっていれば僕はガード出来ずにダメージを食らってました」

 

カイリの説明を聞き、青年は不機嫌そうな顔をするとこう吐き捨てた。

 

「けっ、ガード出来なかったにしても今引いたカードはヒールなんだろ?白々しい」

「ばれてましたか、さすがですね。まぁ、それはあくまで憶測で本当は最初のアタックをガードした時点であなたのガード値が残り5000しかないところで確信したんですけどね。これではパーフェクトのアタックを防いでも、もしリアガードにクリティカルがのってしまったらガード出来ませんからね。では満足したところで、クララのブースト、パーフェクトライザーでヴァンガードにアタックします」23000

「……ノーガードだ」

 

(こい……クリティカルこい……!)

 

シロウはじっとカイリのデッキを睨み付けながらそう願った。

忘れてるかもしれないので、これでカイリが負けると青年にショップ内のカードを全て買われてしまい、カードを買いにきたシロウは買えなくなってしまうのである。

 

「ツインドライブ!!ファーストチェック、マジシャンガールキララ。セカンドチェック、ハイパワーライザーカスタム……。トリガーなしです」

 

カイリはドライブチェックのカードを手札に加えた。

シロウ達は気を落とし、青年は高笑いを上げた。

 

「ハーハッハ!この土壇場で引けねぇとは、やはりてめぇはその程度なんだよ。さて、俺のダメージチェックだ」

 

青年もまた、自分のデッキの一番上を捲った。

そしてそれを確認した青年は笑い、そのカードをまざまざとカイリに見せつけた。

 

「俺は違う。GETヒールトリガーだ!ダメージは回復しねぇが、アビス・ヒーラーのスキルでヴァンガードのPBDにパワー+5000だ!」

 

勝ち誇った様子でトリガーをダメージゾーンに置いた。

カイリは俯いたまま黙ってしまった。

 

「どうしたぁ?おじけついたかぁ?」

「……一つだけいいですか?」

 

カイリは徐に口を開いた。

 

「なんだ?言っとくが、約束は変えねぇぞ?」

「そんなことはしませんよ。ただ……一つだけ聞きたいことがあるんです」

 

そう言うとカイリは自分の手札を青年に公開した。

 

「……なんの真似だ?」

「あなたの手札を見せて欲しいんですよ。正直、ここまでくると手札の内容なんてそこまで意味ないですからね、ドライブチェックでだいたいわかりますし。もうほとんど結果は見えてますし、余裕なあなたなら指して問題ないでしょう?」

 

カイリの申し出に青年は鼻で笑った。

 

「往生際の悪ぃやつだな。だが、さっきてめぇも言ってたんだ。別に構わねぇよ。そして絶望するんだな」

 

青年は自分の手札をカイリに見えるように机に置いた。

 

「なるほど、見えないカードはネヴァンだったんですね。リアガードのダークと合わせてガードは10000あったんですね」

「あぁ、たとえこのトリガーが出なくても、俺は次のアタックもガード出来た。理解出来たか?」

「はい、理解出来ましたよ」

 

青年の問いにカイリはニヤリと笑った。

 

「今まで憶測だった勝利のイメージがこれで確信であったということがね」

 

追い詰められた人間とは思えないカイリの発言を、青年は負け惜しみと思い吹き出した。

 

「おいおい、次ははったりかよ。難癖つけなきゃファイトも続けられねぇのか?」

 

カイリの言動にシロウとタイキは顔を見合った。

 

「もう後残りアタックは一回……。しかもあっちはトリガーが乗ってパワー16000。5000でガードできちまうってーのにどうやって勝つってんだよ……」

「……きっとカイリさんには何かとっておきの作戦があるんですよ!きっと!」

「でも後出来るのはアタック一回だけだぜ?何が出来るってんだよ?」

「うっ……」

 

そんな二人とは違い、ハジメは面白そうにカイリを見ており、ツカサはそんなハジメを微笑みながら見た。

 

(ヴァンガードには数多くのユニットが存在する。相手を圧倒するパワーの高いユニット、相手を翻弄するトリッキーなスキルを持つユニット。ヴァンガードファイターはこの数あるユニットを束ね采配し、勝利を導くものだ。もちろん、価値の高いカードを使ったほうが強いし、勝率も高くなる。でも、それだけじゃあ勝てない)

 

ツカサは、カイリへと視線を移す。

 

(カイリ君、君はそれが解っているんだよね。運が絡むのはもちろん、それを想定した上でのプレイング。さらに、相手の考え、手の内を読むこと。何よりユニットを個々ではなく一つの集合として回すこと、そのことを。そして今、勝利を導くは紛れもなく、先導者である君の手に委ねられた。さぁ、ここまで君が導いてきた軌跡を、君のヴァンガードとしての在り方をボクに見せてくれ!)

 

ツカサのこの思いに応えるようにカイリは場のタフ・ボーイに手を添えた。

 

「難癖じゃあありませんよ。ただ、見せてくれたことに敬意を評してるんですよ。しかし惜しむらくはやはりパーフェクトライザーを気にしすぎたことですね。それさえ払拭されていたら恐らく僕はあなたに負けていたでしょう」

 

「意識の差が勝敗を分けるとてめぇは言いてぇのか?この運ゲーに」

「少なからず、そうですね。多分もうわかるはずですよ、その意味が。タフボーイのブースト、インビンシブルでリアガードのダークにアタック!」18000

 

青年はレストされたカードを見た後、視線をカイリに向けた。

 

「ノーガードだ。ダークを退却させる」

 

(グダグダ言葉を並べた割には普通にアタックしてきたな。俺の手札を確認した上で勝ちを宣言したってぇのに。16000のPBDにアタックしても必要ガード値は5000、ならばその選択を絞るためにインターセプトをもつダークにアタックしてきたと言ったところか。期待させるわりには質素なもんだなぁ。ヒット時効果があるわけでもな……!?)

 

退却されたカードをドロップゾーンに置こうとした青年の手が止まった。

 

(……ダメージ表5枚なのはいい。こんな早い段階でソウルにカードは……!?)

 

「気付いたようですね」

「くっ……!?」

 

カイリはニヤリと笑って、ソウルのカードを青年にもわかるように並べて見せた。

 

「本来であれば、インビンシブルのスキルなんてものは死にスキルです。特にSCユニットが存在しないノヴァグラップラーにおいては。しかし、今回は別です。今の僕のソウルはきっちり八枚。これはパーフェクトライザーのライザーをソウルに送るスキルで満たしたものです。もし普通にやっていれば、あなた程のファイターです、そのことに気付いたでしょう。先程のヒールトリガーを今退却させたダークにのせた筈です。しかし、それをしなかった。何故ならあなたはパーフェクトライザーに気を取られてソウルに入ったライザーのことばかりを気にして、ソウルのカードの把握を疎かにしたからです」

 

カイリはそのソウルを全てドロップゾーンに置き、ダメージも全て裏返した。

 

「インビンシブルのアタックがヒットした時、メガブラスト!『トルネードスタンドギャラクティカ』これがあなたに勝利するための力です」

 

「そうか!そういやーそんな効果あったな!」

「トルネードスタンドギャラクティカ……?」

 

むず痒さを取っ払ったようなスッキリした表情で声を上げると、首を傾げたシロウがそうタイキは問いかける。

 

「長ったらしい名前だがそれに負けないくらいインパクトのあるスキルだぜ。アタックがヒットした時にSB8CB5っていう大きなコストが必要で、これをメガブラストっていうんだが、全てのユニットをスタンドさせるスキルだ」

「全て!?ということはヴァンガードもスタンド出来るんですか!?」

「もちろんだ。だからツインドライブも出来るんだぜ?」

 

まるで自分のことのように自慢気にタイキは言った。

 

青年はカイリのスタンドしたユニット達を見て、ギシッと歯ぎしりをした。

 

(くっ、パーフェクトライザーに気を取られてインビンシブルのスキルを忘れてたぜ……。くそっ、もし……)

 

「もし、さっきのヒールトリガーを今退却されたダークにのせていれば凌げたんですけどね」

「ちっ!」

 

まるで青年の心を読んでいたかのようにカイリは言った。

 

(そうだ……ダークにさせ上げてりゃ今のアタックは5000でガードでき、たとえPBDにアタックしてきたとしてもダークのインターセプトとネヴァンでガードすりゃ守りきれた……!)

自分の手札、ダメージを見ながら青年はそう思った。

 

「だが、ソウルにライザーはいなくなった。PBDは16000でてめぇのパーフェクトのアタックはたったの14000。俺がまたヒールトリガーを出せれば俺はまだ負けはしない!」

「難しいこと言いますね。今ヒールトリガーが出たのにさらにもう一枚ヒールトリガーが出るなんてかなり可能性が薄いですよ?」

「さぁて、どうだかなぁ?」

「……止めてくださいよ。それなんか出ちゃうフラグたってしまいます……」

 

カイリは参った様子でシャウトに手を添えた。

 

「シャウトのブースト、インビンシブルでヴァンガードにアタック」17000

「ノーガードだ。ダメージチェック……」

 

青年はおそるおそるデッキの一番上を捲った。

 

みんながダメージチェックを注目するなか、カードが表を向けた。

 

「ブラスタージャベリン……。くっ、トリガーなしだ……」

 

瞬間、カイリの後ろにいたシロウとタイキは歓声をあげた。

 

「やったぁ!カイリさん、やりましたよ!」

「たまげたぜ、カイリ!相手も相当なやり手だっていうのによくやったぜ!」

 

カイリもまた、安堵の表情を浮かべながらも、悔しげにダメージチェックで引いたジャベリンを見ていた青年に向けて口を開いた。

 

「約束です、申し訳ありませんが、大人しくお引き取り下さい」

「あぁ、わかってるよ。今日は大人しく引き下がってやらぁ……」

 

その言葉に青年はカイリを睨み付け、カードをデッキに集めると舌打ちをしながら言った。

 

「……てめぇ、名前は」

「……何ですって?」

「てめぇの名前は何だって聞いてんだよ!」

 

苛つきながらぶっきらぼうに青年は言った。

カイリは少し戸惑いながらも青年を見て答えた。

 

「カイリです。上越カイリです」

「俺は黒柳コウ。いいか、上越カイリ。今回は俺がてめぇに油断をして招いた結果だ。次にまたやるとき、こう上手くいくとは思わんことだなぁ」

 

デッキをデッキケースに入れ、席を立ったコウはカイリにそう言いはなった。

 

「そうでしょうね。ですが、次も勝つのはこの僕です」

 

カイリもまた負けじとコウに言った。

コウは「フンッ」と鼻で笑うと店を出ていった。

 

コウが店を出た後、緊張状態から解かれたシロウとタイキは再びカイリの勝利を喜んだ。

 

「次も勝つとかカイリも随分大きなこと言えるようになったもんだなー。お前本当にカイリか?」

「違いますよ、これが本当のカイリさんなんですよ!ね?カイリさん」

 

そう言って、カイリの顔を見たシロウは驚愕した。

 

顔は青ざめ、手や足をガタガタと震わせ、まるで何かに怯えたような表情をしているのをシロウた。

 

「カイリさん……?」

「あぁ……ああぁ……」

 

シロウがおそるおそる声をかけるとうめき声に近い声をあげて頭を抱え始めた。

 

「ハァハァ……どうしよう……僕は……なんて……酷いこと……」

「カイリ!?カイリ!」

 

息も荒くなり、尋常な様子ではないことを悟ったハジメは、カイリに近寄りカイリの名を呼んだ。

 

「ハァハァ……怒らせてしまった……恨まれてしまった……僕は……僕は……」

「カイリ!大丈夫だ!お前何も悪くない!お前は何もしていない!」

「ハァハァ……ハジメ……君?」

 

ようやくハジメの存在を知ったのか、カイリは頭を抱えたままハジメの名を言った。

 

「ハジメ君じゃない!ハジメだ!落ち着け!カイリ!」

「ハ……ジメ……?僕は……俺は……悪く……ない……?」

 

落ち着いたのか、呼吸は少し整い、震えも治まってきた。

 

「あぁ!お前は何も悪くない!お前は、友達のために戦い、それに勝っただけだ!むしろ称賛されることをしたんだよ!」

「友達の……ため……。そうか……俺は……シロウ君のために、カードを買ってあげるためにファイトしてたんだよね……。忘れてたよ」

 

カイリは顔をあげ、心配そうに見ているシロウへ視線を向けた。

 

「ごめんね、シロウ君。心配させちゃったみたいだね」

「そ、そんなことはないです!僕、カイリさんを信じてましたから!」

 

シロウが分かりやすく強がっていることにカイリは微笑みながら、席を立った。

 

「ごめんね、ハジメ。また君に助けられちゃったみたいだね。」

「んなことはないさ。お前はお前の信じたことをして、俺はそれを見ていただけだからな。ほら、カードは俺が片付けとくからお前は行ってこいよ」

「ありがとう、ハジメ!じゃあ行こっか。シロウ君」

「はい!」

「あー、まてまて、俺もついてってやるよー」

 

カイリは、シロウと共に事なきを得てほっとしている吉田君のついているレジに向かうと、慌ててタイキもそれについていった。

それを見ていたハジメは、「ふぅ」と息を吐くと、後ろからツカサが肩を叩いた。

 

「いつものカイリ君に戻って良かったね。いや、手慣れたものだと言った方がいいかな?」

「兄さん……あの……」

「あ~!大丈夫大丈夫、言わなくて大丈夫だよ~。カイリ君もまた、何か背負ってた時期があったのかもしれないけど今はあんなに楽しそうにしてるんだから、そんなこともう気にしなくて大丈夫だろうからね」

「……そうっすね」

 

ツカサとハジメはレジに行ったはいいが、買うパックにとことん悩んでいる三人を見ながらそう話した。

ツカサの言葉に少し違和感を感じたハジメだったが、今はこのほのぼのとした空間を満喫した。


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