先導者としての在り方[上]   作:イミテーター

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別のサイトで書いてましたが規制を食らってしまったのでこちらに移転しました。

イミテーターと申します。

まだまだ未熟な時に書いたものなので幼稚な表現があるときもありますが、ページが進むにつれ改善できていると思ってるのでよろしければお付き合いください。



銀色の先導者
運ゲー


それなりの交通量と人が行き交う交差点のすぐそば。

街路樹が植えられた歩道に沿って立ち並ぶ建物中に一際カラフルな紫色の花を模したような看板を構えた店があった。

 

新築のような新鮮味のある雰囲気を醸し出すその店の名は、【カードショップ“アネモネ”】

 

この店の近くを通る歩行者は、テンションの高い若者の声を聞くという。ガラス張りの自動ドアには、男の子が好きそうな迫力あるドラゴンの絵が描かれたポスターが貼ってあり、看板を見ない人へ、この店が一体どのような店なのかを諭させる役割を果たしていた。

 

「あぁ……また負けた……」

 

その時、また店内から少年の落胆したような声が漏れ、そこには二人の学生が机を挟んで座っていた。中学生くらいの二人の少年は、お互い青に近い黒色の学生服を身に纏い、一人は耳にかかるくらいの短髪の黒髪を片手でくしゃくしゃにかき混ぜながら、卓上のカードを片付け始めた。

 

「しゃーないしゃーない。こっちは何だかんだで結構ぶんまわってたからな」

 

学生服と同じような青みのかかった黒髪の少年もヘラヘラ笑いながら同じようにカードを片付け始める。

 

「たしかにそれもあるかもしれないけど、何て言うか勝ちへのイメージが思い付かないんだよね……」

 

まるで癖のように溜め息を連発する少年。彼の名は【上越カイリ】。最近始めたばかりの初心者で、こうしてカードショップに来たのも今日が初めてだった。

 

「う~ん、たしかにあそこでガードする必要はなかったな。どうせ守れないなら諦めてヒールにかけるべきだったろうな」

 

あまりに落ち込んでいるカイリに唸りながらそう呟くのは、彼の友人の【里見ハジメ】カイリをこのカードゲームに誘った張本人であり、この行きつけの店を彼に教えた。

 

彼等がやっているカードゲームとは、最近新しく始まった【ヴァンガード】というもの。ヴァンガードという自身の分身を戦わせ、先にダメージを六点与えたほうの勝利となる。

 

このゲームは、他のカードゲームに比べて特に運の要素が強く、それは初心者でもベテランファイターに勝てる可能性を孕んでいるほど。しかし、それはかなり運が良くなければ叶わず、カイリのような初心者が勝てるようになるにはある程度慣れが必要となる。

 

「はぁ……だよね。俺も後からそれ思った」

「まっ!そういうのも踏まえてこれから覚えていけばいいじゃないか?数やればそのうちヴァンガードの神様が微笑んでくれるだろうぜ」

「そんな適当な……」

 

またヘラヘラ笑いながら他人事のように呟くハジメに、カイリはゲッソリとした様子で彼を見つめた。

 

「そういえば今日は知り合い誰もこないなぁ。誰か来てくれればカイリの相手になってもらおうと思ったのに……」

 

物足りないといった様子で店の出入口を見つめるハジメ。すると、まるで狙っていたかのようにそのガラス張りの自動ドアが開き、外から真っ黒の学生服着た仏頂面の高校生が手提げ鞄を肩に乗せながら中に入ってきた。

 

「あっ!クリア先輩!ちわっす!」

「ん、ああ。ハジメか」

 

クリアと呼ばれた高校生はそう短く返すと、お気に入りの店の角の机に荷物を置いた。

 

「ハジメの知り合い?」

「おう!俺がこのショップの中で一番強いと思ってるファイターだぜ!あ、そうだ!」

 

ハジメは唐突に何かを思い付くと、自分のカードをそのままに、鞄からデッキホルダーを取り出すクリアへと近づいた。

 

「クリア先輩!ちょっとアイツの相手をしてもらえないっすかね?アイツまだヴァンガード始めたばっかで色々と経験を積ませてやりたいんすよ!」

「ちょっ!?ハジメ!」

 

ハジメの突然の申し出に、カイリも慌てて自分のカードをそのままにしてクリアの座る机に向かった。

 

「なんだよカイリぃ。お前はやりたくないのかよ?」

 

「いや、そういうことじゃなくて……。こんなの突然過ぎるよ……。先輩だって暇じゃないだろうし、きっと俺みたいな初心者とやったってあんまり面白くないだろうし……」

「別に構わねぇよ」

 

えっーーっと呆気に取られたような声をあげながらカイリはデッキホルダーから自分のデッキを取り出すクリアを見つめる。

 

「別にやってやってもいいと言ったんだ。ヴァンガードなんていうのは所詮運ゲー。初心者だとかそういうのは関係ないんだよ」

 

まるで怒っているのではないかと錯覚してしまうような仏頂面だが、声質から察するに恐らく怒ってはいないだろう。というか、ここまでで怒らせるようなことは何もしてないのでよほど短気でなければそんな心配はしなくてもいいか。

 

しかし、この言葉にカイリは少し疑問を抱く。

 

たしかにこのゲームは運ゲーではあるが、それだけで勝てるほどこのゲームは甘くはない。何度かのファイトを経て、カイリはそのような価値観を持っていた。

 

「いや……このゲームそんなに単純じゃないと思いますけど……」

 

出来る限り控えめな印象を出しながらそう呟く。自分とのファイトでクリアに不快な思いをさせないようにというカイリの気づかいである。

 

しかし、逆にクリアはこの言葉に眉を吊り上げる。まるで威嚇するかのような鋭い視線をカイリに向けながら、クリアは自分のデッキを机の上に置いた。

 

「ならそれを証明してみせろ。お前のそのちんけな考え方が本当にあってるのかどうかをな」

 

 

  *  *  *  *  *

 

 

(どうしてこんなことに……)

 

カイリは自分の置かされたこの状況を心の中で嘆いた。自分はまだまだ未熟な初心者。それに対して相手はこのショップ最強と名高いファイター。勝負は戦う前から見えている。

 

カイリは自分のデッキをシャッフルしながら、今から相手をすることになるファイターへと視線を向ける。

 

名前は小野クリア。何でもこの店の開店当初からいる古参で、実力もかなりのものらしい。見た目は黒髪の仏頂面に首からは十字架のペンダントをぶら下げ、いかにも人を寄せ付けないという噂だ。

 

「何人の顔をジロジロ見てやがる。さっさと俺のデッキをシャッフルしろ」

「は、はい!」

 

しかし近くで見るとそのより強面な風貌が協調され、カイリもそのことを身をもって納得する。

 

「先輩先輩、一応コイツ初心者なんである程度手加減してくれるとありがたいんすけど……」

「ああ、分かってる。これはその為のデッキだからな」

 

ハジメがそう確認すると、カイリから自分のデッキを受け取ったクリアはニヤリと笑った。

 

「先行後攻は面倒だから俺からいいな?基本的にヴァンガードはは特にどちらが有利とかはあまり無いからな」

「あっ、はい。分かりました」

「準備はいいな。なら、始めるぞ」

 

クリアの言葉にお互いは自分のFVを掴む。カイリにとって初めての野良ファイト。緊張して震える手を無理やり抑え込み、掛け声とともに自分のFVを表替えす。

 

「「スタンドアップ、ヴァンガード!」」

 

表替えた二人の分身。カイリのFVはメンテナンスを行っている白い角みを帯びたロボット。クリアは神々しい青い鷹が描かれたカードだった。

 

「バトルライザー!(3000)」

「神鷹一拍子(5000)」

 

「ぶっ!?ちょっ!先輩!ツクヨミはえげつないっすよ!」

 

成り行きを見ていたハジメはこれを見て思わず吹き出した。先ほど自分が相手が初心者であることを忠告したのに、いざ始まれば使うデッキは現環境でもトップクラスの力を持つツクヨミデッキ。これではあまりにもカイリに荷が重いとハジメは思ったからだ。

 

しかし、そんなハジメの言葉も特に気にしていないのか、クリアは自分のデッキへと手を伸ばす。

 

「関係ねぇよ。さて……俺のターンだ」


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