真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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「結界と言えば領域。領域と言えば・・・絶対領域!」「なんだか強そうな響きだな・・・ギル、それはどんな魔術なのだ?」「男性ならば抗えない絶対的な領域だ。しかも、女性ならば全員使うことが出来ると言う破格の魔術・・・いや、魔法なのだ!」「な、なんと・・・!?」

もちろん、後に真実を知ったセイバーからボッコボコにされました。


それでは、どうぞ。


第七話 結界と桃園と劉備と

「いてぇ・・・」

 

あの後眠ってしまったらしく、気がついたら月と一緒に寝台に倒れていた。体がぽきぽきと鳴る。

月を心配した詠が俺の部屋へと来て発した「何してるのよ!」という怒鳴り声で月と俺は目を覚ました。

 

「詠ちゃん? ・・・もう朝・・・?」

 

「ギル! あんた月に何かしたんじゃないでしょうね!?」

 

つかつかと俺の方へとやってきて、俺につかみかかる勢いで迫ってくる詠に、落ち着け、と言ってから

 

「誓って言う。何もしてない」

 

「そうだよ、ギルさんは何もしてないよ、詠ちゃん」

 

強いて言うならば、頭を撫でて和んでいただけだ。

それくらいなら、「何もしてない」にカテゴライズされるだろう。

 

「ホントに何もされてないの、月!」

 

「大丈夫だよ、詠ちゃん。・・・そう言えば、お仕事は?」

 

「さっき終わったのよ。徹夜明けで部屋に戻ったら月が居ないから探しに来たのよ!」

 

「あー・・・お疲れ様」

 

「お疲れ様じゃないわよ!」

 

「うおっ」

 

反射的にのけぞる。目の前を拳が通っていった。・・・危ないな、全く。

 

「詠ちゃんっ」

 

「ふんっ。・・・月が無事で安心したわ。今日は午後まで休みだし、寝てくる。・・・もうっ、行くよ、月」

 

詠は後に呆れたように言葉を付け足し、月を引っ張って部屋から出て行った。

嵐のような数分だったな・・・。

 

「さてと」

 

俺も午後までは休みだ。セイバーの所に顔を出すかな? 

 

・・・

 

訓練場に行くと、またセイバーは居ないと言われた。

最近タイミング悪いな、と思いつつ、俺は兵士に作ってもらった人の大きさのわら人形を抱えて、いつもの練習スポットへと向かった。

 

「よっ、と」

 

人形の下半身に取り付けた棒を地面にさして、的にする。

 

「よし・・・天の鎖(エルキドゥ)!」

 

わら人形を指さすと、背後から鎖が三本飛んでいく。

しかし、鎖はわら人形に掠りもせずに城壁に突き刺さり、止まる。

 

「・・・おいおい」

 

初めて使ったとはいえ、流石にこれは・・・。

 

「やっぱり、練習あるのみか」

 

天の鎖(エルキドゥ)を宝物庫へと戻してから、再びわら人形を指さす。

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

じゃららら、と一直線に鎖が飛んで・・・。

 

「おおっ!」

 

一本だけだが、わら人形の腕にかすったぞ! 

 

「おお・・・!」

 

これは、早い内に習得できるかもしれないな。

バーサーカーに神格が無いとしても、他のクラスに神格が高いサーヴァントが居るかもしれないしな。使えるようになっておいて損はないはずだ。

 

・・・

 

「・・・天の鎖(エルキドゥ)!」

 

じゃららら、と三本の鎖が上、正面、左から迫り、わら人形に突き刺さる。

 

「完璧だ・・・」

 

代わりに日が沈むほどの時間を犠牲にしてしまったけど。

仕事あったとしたら明日に回して・・・うん、十分許容量だ。

もう今日は疲れてしまったし・・・水浴びでもして、夕食を食べて寝ることにしようか。

 

「ごめんな、わら人形。結構ぼっこぼこにしちゃったよ」

 

右腕は吹っ飛んでいて、胴体にも致命的な穴が幾つか開いているわら人形を労ってから、川へと向かった。

 

「川、冷たそうだなぁ」

 

「心配しなくて良いよ。君、今からそれどころじゃなくなるんだから」

 

「っ!?」

 

声が聞こえた瞬間、膨大な魔力の何かが迫ってきたのを感じて、その場を飛び退く。

さっきまで俺が居たところで爆発が起きる。・・・なんじゃこりゃ・・・。

 

「おや、セイバーでもないのに素早い動きをするじゃないか」

 

「なんだ、お前は?」

 

「なんだとはご挨拶だね。分かるだろう? 私もサーヴァントでね」

 

やっぱりサーヴァントか

クラスは・・・ライダーかランサー、キャスターのどれか、か。

剣を持っているが、セイバーではないんだろう。銀のサーヴァントもセイバーだし、同じクラスが二つあることになってしまう。

 

「一応教えておこうかな。私のクラスはキャスター。今日この日のためにいろいろと用意したんだ。まずは、お手並み拝見だねっ!」

 

「くっ!」

 

何かが投げ込まれる。

俺の少し前に投げられた何かはぱりんと音を立てて割れる。

 

「・・・フラスコ・・・?」

 

「へぇ、よく知ってるね。そう。フラスコさ」

 

割れたフラスコが着弾した地面から、もくもくと煙が上がる。

 

「これを作ったのは久しぶりだし、試験代わりになってくれよ、アーチャー」

 

「・・・なんだ、こいつ・・・」

 

バーサーカーほどの背丈で、腕が太く、目が三つある。

しかもそいつの心臓は外に出ていて、どくどくと脈動しているのが見える。

 

「知らないかな? 人工生命体・・・ホムンクルスさ」

 

「これが・・・!?」

 

どうみても失敗作っぽいんだが・・・。

確か、ホムンクルスって人の形してて、小人なんだろ? それに、フラスコの中でしか生きられないらしいし・・・。

 

「ふふん、初めてホムンクルスが作られてから何年経っていると思って居るんだい? あれに改良を加えるなんて、朝飯前さ!」

 

「もう夕飯の時間だけどな・・・」

 

「つっこみをいれる気力くらいはあるみたいだね。まぁいいや。さっきも言ったとおり、今日はこいつの試験だ。改良点を見つけたりしないといけないからね。・・・いけ、実験体第一号! 初陣だ!」

 

「グルル・・・」

 

うなり声を上げて、どすり、どすり、と一歩一歩を踏みしめるように歩いてくるホムンクルス。・・・って、あれ? 

 

「・・・ふむ」

 

キャスターは顎に手を考えてから、一言呟いた。

 

「・・・失敗したな。力を上げることばかり考えて、速度を考えてなかった。体の重さを支えきれてないんだな。・・・勉強になったよ、アーチャー!」

 

「かなり最初のところで躓いてるじゃねえか!」

 

ついツッコミをいれてしまう。

 

「はははっ、実験に失敗は付き物さ!」

 

キャスターはそれを笑いながら認め

 

「ふむ、改善点その1、遅い・・・と」

 

竹簡にさらさらと問題点を書き記していた。

 

「があぁっ!」

 

「おっと」

 

振り下ろされるホムンクルスの拳を避ける。

クレーターが出来るほどの腕力だが、テレフォンパンチにも程がある速度なので、避けるのは苦ではない。・・・なんだろう、張り合い無いなぁ。

 

天の鎖(エルキドゥ)!」

 

ちょうど良いので、今日の練習の成果を試すことにした。

じゃららら、と五本の鎖がホムンクルスを縛り付ける。

 

「・・・力が強いと言っても、天の鎖(エルキドゥ)は千切れないんだな。・・・俺も一つ、勉強になったよ」

 

右腕をあげる。

 

「久しぶりに、かな? ・・・王の財宝(ゲートオブバビロン)・・・!」

 

右腕を振り下ろすと、鎖で縛り付けられ、跪かされたホムンクルスを宝具の雨が襲う。

 

「ガ、ブッ」

 

断末魔もあげさせずに、宝具の雨はホムンクルスを消し去った。

 

「・・・へぇ。宝具を射出する『アーチャー』か。興味深いな。・・・さて、今日はこれで失礼するよ。じゃあね」

 

「あ、待てっ・・・って、もういないし。逃げ足早いなぁ」

 

魔力を使って逃げている訳じゃないから俺じゃあ追いかけられないし・・・。

これから宝具の練習は慎重に行わないと・・・。この城に居るってばれちゃったから、これからもキャスターはしかけてくるかな・・・。

 

「面倒だなぁ、あのキャラ」

 

多分、俺が苦手とするキャラクターだろう。

 

「まぁいいか。月の事までは分かってないだろうし」

 

月がマスターだと分かっているなら、俺の前に姿を現さずに月を狙うだろうし。

 

「・・・考えるのはやめよう。さ、川へ行かないと。もう晩ご飯は諦めるしかないなぁ」

 

かなり時間が経ってしまったらしい。

 

「宝物庫の中に何かあるかなぁ。水浴びが終わったらちょっと探してみよう」

 

はぁ、とため息をついて、俺は宝物庫から洗面道具を取り出す。

 

「・・・この所帯じみた使い方に慣れてしまった自分が怖い」

 

・・・

 

「ふぃー、アーチャー強いじゃないか。いくら失敗作とはいえ、魔力は結構込めていたのだが。・・・うむ、しかし、速さとは・・・」

 

夜の街をキャスターは走っていた。

追われている訳ではないが、いち早く工房へ戻り、準備を進めないといけない。

 

「さて、彼には実験に協力して貰わないとね。・・・ん?」

 

「よお、待てよ」

 

キャスターの真っ正面に人影が現れる。キャスターは立ち止まり、腰の剣へと手を伸ばす。

 

「ははっ、凄いな、キミ。私よりキャスターみたいだ」

 

「あー、もとはそんなもんだ。でも、クラスはライダー。よろしくなー」

 

「ライダー!? そ、その格好で・・・?」

 

「うるせえ! 人が気にしてることズバズバ言いやがって・・・!」

 

「あ、これは不味いね・・・逃げるが勝ちかな!」

 

そう言いながら、キャスターは地面に小さい石のような物を叩き付ける。

その石は目映く発光して、ライダーの目を眩ませた。

 

「おおっ!?」

 

外套で目を覆い、ライダーは一歩後ずさる。

その間に、キャスターは裏の路地へと逃げ込んでいった。

 

「逃げられたか・・・ちっ、冷めちまった」

 

ライダーはそう悪態をつくと、屋根の上へと移動する。

 

「ま、キャスターなら今の一瞬で転移魔術でも使ったんだろうな。あーあー、ああいう正統派キャスターはいろいろ使えて羨ましいよなぁ」

 

ライダーは舌打ちを一つしてから、自分とマスターが泊まっている宿へと飛んだ。

 

・・・

 

ある昼下がり、成都へとやってきた一組の男女が居た。

 

「・・・成都、着いたぞぉ! ・・・ほら、アサシンも! ばんざーい!」

 

「・・・」

 

マスターの少女の命令を聞き、アサシンは包帯でグルグル巻きにされている右腕と人にしては黒い左腕をあげた。

 

「ふぅ。満足だー」

 

馬を小屋へといれて、少女は歩き始める。

 

「さて、夜までには宿を見つけないとね」

 

まわりをキョロキョロと見回しながら、少女は呟く。

その後ろでは、アサシンが少女とは違う目的でキョロキョロとしていた。

 

「後、働くところとか・・・うーん、大変だなぁ」

 

アサシンの格好は目立つらしく、ただ歩いているだけでも注目を集めた。

しかし少女はその事に疑問を抱きつつも原因に気付かないまま饅頭屋や宿屋へと赴いて、そこの店主や店員を存分に驚かせた。

その原因がアサシンだと気付いたのは、寝台に入っていざ眠ろうとした瞬間だったらしい。

 

・・・

 

「・・・ランサー、どう思う?」

 

「はっ。・・・すでに、この町から居なくなっているものかと・・・」

 

マスターの質問に、ランサーは神妙に答える。

 

「くそっ! またか! またなのか! 二度目だぞ!?」

 

「はっ」

 

「・・・次こそ、大丈夫だろうな・・・?」

 

「はっ!」

 

「よし・・・行くぞ。引っ越しだ」

 

「はっ。・・・全員、かかれー!」

 

ランサーから現れた何人かの質素なランサーがテキパキと私財などを纏めていく。

 

「・・・それができ次第出立するぞ」

 

「はっ」

 

そう言って、マスターが外へ出ようと扉を開けると、目の前には三人の人間が立っていた。

 

「・・・誰だ?」

 

「私は曹孟徳。魏の国王をやっているわ」

 

「ああ、あの。・・・で、その曹孟徳が何用だ?」

 

「あなたと一緒に住んでいる男、今いるかしら?」

 

「あいつのことか?」

 

そう言って、マスターは部屋の中で引っ越し準備の指揮を執っているランサーを指さした。

 

「秋蘭、あれかしら?」

 

「・・・はい。似顔絵とも似ています」

 

「そう。・・・彼を呼んで貰っても?」

 

「構わない。・・・ランサー!」

 

「はっ!」

 

マスターが呼びかけると、ランサーはすぐに返事をして、駆け寄ってくる。

 

「乱叉、と言うのね?」

 

「はっ」

 

ランサー、だがな、というマスターのつぶやきは誰にも聞こえなかったらしく、目の前の少女・・・曹孟徳は話を続ける。

 

「あなた、かなり強いみたいじゃない?」

 

「強い・・・?」

 

「聞いた話によると、この乱叉と言う男と、向こうで働いているのと同じ格好をした男達数人が黄巾党の残党数百人を相手し、打ち勝ったと聞いたのだ」

 

「・・・ああ、あれか」

 

マスターは記憶をたぐり寄せる。

そう言えば、此処に来る途中で因縁をつけられ、腹が立ったので壊滅させたな。

黄巾党の残党というが、山賊などの賊が半分以上だったが。

良くもまぁあんなに集められたものだと感心した事を覚えている。・・・まぁ、サーヴァントの敵ではなかったが。

 

「確かにそんなこともやったな・・・」

 

「その話を聞いて、あなたに興味を持ったのよ。丁度此処に視察に来る用事もあったことだしね」

 

面倒くさい事になった、とマスターはため息をついた。

 

「決めたわ。あなた、私の元で働く気はない?」

 

「ありません! 自分の主はただ一人であります!」

 

「・・・即答ね」

 

「貴様! 華林様の誘いを断るなど!」

 

曹孟徳はその言葉に顔をしかめるだけだったが、後ろに立っていた二人の内一人がその言葉に怒りを露わにする。

 

「姉者、落ち着け」

 

「しかしだな!」

 

「秋蘭の言う通りよ。落ち着きなさい」

 

「ま、それに今から引っ越すところだ。そこの女がいくら喚こうとどっちみち雇うのは不可能だな」

 

「そうですね。・・・おや。マスター、準備が完了したようです」

 

ランサーが部屋の様子を見て、マスターに伝える。

 

「む。・・・ならば、出発するか。次こそ、あいつを見つけなければな」

 

「あいつ? ・・・誰かを捜しているの?」

 

「そうだ。これで引っ越しは二回目だ。全く、金も無限じゃないというのに」

 

「因みに探し人はなんと言うのかしら?」

 

「言っても分からんだろうよ。さて、失礼する」

 

曹操の横を通り抜け、マスターは歩き始める。

ランサーは荷物を持ってその後ろに着いていく。

 

「ならば、目的地は? それくらいは教えてくれるでしょう?」

 

「蜀だ。成都へと向かう」

 

「蜀へ・・・?」

 

曹操の顔が一瞬引きつる。

 

「・・・そう。なら、また会うかもしれないわね」

 

「一生ごめんだがね」

 

・・・

 

二人が去った後、秋蘭は憤る春蘭を宥めていた。

そこへ曹操がやってきて、春蘭をすぐに落ち着かせる。

 

「・・・あら・・・?」

 

そう言えば、と曹操は去っていった二人の背中を見てから、家の中へと目線を戻す。

 

「あの男達は何処へ行ったのかしら・・・?」

 

家の中を調べてみてもあの荷物を纏めていた男達はいなかった。

三人は疑問符を頭の上に浮かべながらも、特に気にせずに街へと戻った。

 

・・・

 

「ほう、キャスターと」

 

川で汗を流した後、セイバーと銀を探し出し、今日合ったことを報告しておく。

 

「ああ。なんか凄い面倒くさそうな性格してた。たぶん、俺あいつと友達にはなれないかな」

 

「はははっ! サーヴァントもそんなこと考えるのか!」

 

「・・・言っただろ、俺、純粋な英霊じゃないんだよ」

 

銀が笑いながら言いはなった言葉に反論する。

 

「ま、それは後回しだ。ギル、キャスターの正体には心当たり無いのか?」

 

「心当たりって言ったって・・・あんな魔術師、見たこと無いぜ」

 

「ふぅむ・・・。私は元々魔術師の知識は疎いしなぁ・・・」

 

「俺はちんぷんかんぷんだ。魔術師の存在なんて、最近知ったことだからな」

 

三人して、う~ん・・・と悩む。

 

「取り敢えず、キャスターが街の人間に危害を加えていないか、調べる必要があるな。それによっては、急いで始末する必要もある」

 

「ああ・・・人間の魔力を吸い取る結界とかあったなぁ」

 

メディアがキャスターとして召喚されたとき、街の人間の魔力を吸い取って自分の物としていたはずだ。

魔術師がそう言うことに長けているのなら、あのキャスターも人間から魔力を吸い取る事もあるかもしれない。

そうなったら、セイバーと俺で全力をかけて見つけなければいけない。

 

「取り敢えず、セイバーは街に警備に行くときに最近倒れる人間が多くないか聞き回ってくれ」

 

「了解した。ギル、お前はどうするのだ?」

 

「城の中に何か無いか探してみるよ。そう言うのは、俺の方が動きやすいだろ?」

 

「成る程な。城に何か仕掛けがされているかもしれないし。良いんじゃないか」

 

「・・・そうだな。私も賛成だ」

 

キャスターと言うぐらいだから、魔術師じゃない人間の警備などかいくぐれるだろう。

それでいろいろと歩き回って何かをしかけているかもしれない。

メドゥーサの他者封印・(ブラッドフォート)鮮血神殿(・アンドロメダ)のような宝具を持っていないとは言い切れないし。

 

「じゃあ、明日から早速動こう」

 

「うむ。気をつけろよ、ギル」

 

「ああ、そっちこそ」

 

・・・

 

「ここも、何もなし、と」

 

翌日、さっそく城に怪しいところがないか調べているが、二時間ほど経った今でもそれらしい物や痕跡は見つからない。

サーヴァントになった事で、俺でも魔術の痕跡などは微妙ながらも分かるようになっているから、見逃してるって事はないだろうけど・・・。

 

「うーむ、キャスターって言うわりには、詰めが甘いなぁ」

 

ホムンクルスの実験のためだけに俺の前に姿を現すとは・・・なんという奴だろうか。

 

「後出会ってないのは・・・ランサーとライダーだけか。どんな英霊なんだろうなぁ・・・」

 

キャスターみたいなキャラじゃなきゃ良いかな。

 

「さて・・・後探してないところはっと」

 

他の所を探そうときびすを返した瞬間・・・。

 

「うわわわわわわわ!?」

 

「!?」

 

目の前に黒い何かが着地した。

思わず王の財宝(ゲートオブバビロン)から宝具を取り出しそうになって、ようやく俺は落ちてきた物をまともに見た。

 

「・・・アサシンと・・・そのマスター?」

 

「うぇ? ・・・おー! あの時のサーヴァントさん!」

 

「久しぶり。・・・っていうか、何で此処に?」

 

「いやー、狂戦士さんに襲われちゃいまして。一人であの街にいるよりは、あなたが居る方が安全かなぁ、とこっちまで逃げてきたんだよ!」

 

大変だったんだからねー! とアサシンのマスターはいかに大変だったかを説明し始めた。

その説明を一通りしてから、少女はふぃー、と息をついて

 

「あ、そうだ。サーヴァントさん、あなたのお名前は?」

 

今思い出した、と言う風な顔をして、少女が訊いてきた。

 

「俺か? 俺はギルガメッシュ。アーチャーのクラスだ」

 

「ぎるがめーす・・・? ・・・えっと、ギルさんだね!」

 

「・・・ああ、うん。もうそれで良いよ。・・・はぁ」

 

「ギルさんか~・・・。あ、私の名前は楽元! が、く、げ、ん、ね。真名は響! 響って呼んでね!」

 

「響・・・きょう、か。良い名前だな」

 

「え、そ、そうかな。えへへ~」

 

顔を赤くして照れ始めたぞ。耐性なさ過ぎだろう。

 

「あ、そだ。こっちがアサシン。真名は」

 

「分かるよ。ハサン・サッバーハ。宝具は『妄想心音(ザバーニーヤ)』・・・だったっけ?」

 

「おおっ、ギルさん、なんでそんなに知ってるの?」

 

・・・まさか、原作を知ってるから、とは言えないわな。

 

「たまたまだよ、たまたま。・・・さて、それで響」

 

「何かな?」

 

「仲間になりに来てくれたんだよな・・・?」

 

「うん! そうだよー。狂戦士さんはかなり強いみたいだったし、槍兵のサーヴァントさんも強そうだったよ!」

 

「・・・なんだって・・・? ランサーを見たのか!?」

 

「え、う、うん。らんさーって槍兵のことでしょ?」

 

「そうだ。どんな能力だった!?」

 

「わわわっ、落ち着いてよぉ!」

 

そう言われて、ようやく響の肩を掴んでいることに気付いた。

慌てて手を放して、落ち着くために深呼吸。

 

「ごめん。焦りすぎた。・・・で、ランサーはどんな奴だった?」

 

「えっとね、増えた!」

 

「増えた?」

 

そうだよー、と言ってから、響は続ける。

 

「狂戦士さんの攻撃を避けた瞬間に、五人に増えたの! でも、元々居た一人以外は、ちょっと変だったなぁ」

 

「変?」

 

「うん。元々の一人は服にいろんな飾りを着けてたんだけど、その他の人達は緑色の服と帽子だけだったなぁ」

 

「緑色の服・・・?」

 

そんな英霊いただろうか。どこぞで三角形集めている勇者じゃないだろうな。

後は・・・妖精とか、そう言うイメージだが・・・。ランサーにはならなさそうだよなぁ。

 

「それで、マスターさんの魔力で一杯増えるみたい! 最後には十人ぐらいになってたよ!」

 

十人!? 

凄いな・・・それが全て英霊なら、ランクがどうであれ手強いことに代わりはない。

 

「増える英霊・・・。なんだか、ワカメみたいだな」

 

「え・・・?」

 

「・・・ああいや、こっちの話し」

 

響になんでもないよ、とジェスチャーしてから、考え込む。

増える、緑色、服に飾り・・・。だああああ! 分からん! 

 

「まぁ兎に角、響とアサシンが仲間になってくれるなら力強いよ。こっちにはセイバーとそのマスターも居るんだ。後で紹介しよう」

 

「せいばーって・・・剣士の人?」

 

「そう。良い奴だよ。保証する。・・・そろそろ街から帰ってくる頃かな? 会いに行こうか」

 

「うん! 宜しくね!」

 

・・・

 

「やほー! 剣士さんとその主さん!」

 

「・・・おいギル。この女は?」

 

「直接聞いてくれよ」

 

銀がヒソヒソと耳打ちしてくるので、小声で答える。

俺の言葉に、銀は思いっきり顔をしかめて

 

「・・・俺、こういう女子苦手なんだよ」

 

「んなこといわれても。仲間になったんだから、仲良くしてくれよ」

 

「・・・よろしく。丁宮だ。・・・真名は銀。銀って呼んでくれ」

 

「おぉー! 私は楽元! 真名は響! 響って呼んでね、銀!」

 

「・・・はいはい」

 

うわ、凄いな。

銀があんなにテンション低いの初めてかもしれない。

 

「剣士さんも、響って呼んでね!」

 

「了解した。私はセイバー。真名は訳あって言えぬ。すまんな」

 

「いえいえー。ハサンに教えて貰ったけど、真名ってサーヴァントにとって命綱なんでしょ? いいよ、無理しなくても」

 

「・・・ありがとう。助かる」

 

「あ、そうだ。こっちがアサシン! ほら、お辞儀して!」

 

「・・・」

 

猫背の体を更に折り曲げて、お辞儀らしい動作をするアサシン。

 

「よろしく、だって!」

 

・・・成る程、アサシンの言葉はマスターである響しか分からないのか。

 

「で、だ。人数も増えたことだし、いろいろとやることも出てくるな」

 

「ああ。アサシンが加わってくれたのは嬉しい。こいつの気配遮断はかなり使えるからな」

 

アサシン、セイバー、響、銀、俺の五人で、早速話し合いをする。

俺のマスターが月だと言うことは、響とアサシンには教えておいた。

すでにセイバー組にも教えているので、もしもの時には月を頼めるな。

 

「セイバーと銀は何か変わった事とかあったか?」

 

「いんにゃ。全くなにも収穫無し。セイバーは?」

 

「私もだ。気分が悪くなったとかいう人間はいたが、散発的だった。集団で倒れたりはしていないようだ」

 

「そうか・・・。俺も、城の中には何も見つけ出せないままだし・・・」

 

「? みんな、なんの話ししてるの?」

 

・・・ああ、そう言えば響は知らないんだっけ。

一応、キャスターと出会ったことをかいつまんで話しておく。

 

「・・・ふぅん。・・・ねぇねぇ、私の意見、言っても良いかな」

 

「構わんぞ。新参古参の区別など無いからな」

 

「そか。じゃあ遠慮無く。・・・多分、魔術師さんは自分の事しか考えてないと思うよ?」

 

響は多分だけど、と付け加えてから、続ける。

 

「魔術師さんは、きっと自分の研究を完成させたいだけなんだと思う。まわりから魔力を吸い取らないのは・・・主さんが止めてるのかな?」

 

「マスターって言うのは勝つためなら何でもする奴って聞いたけどなぁ」

 

響の言葉に、銀が反論する。

 

「私や銀、ギルの主さんだって、そんなことはしないでしょ? ・・・だったら、その人もきっとそうだよ!」

 

・・・なんだ、その妙な自信。

 

「・・・確かにな。キャスターは準備を必要とするサーヴァント。召喚された初日から準備をする勢いじゃないと勝ち残れないと言われているし・・・。やるんだったら、すでに街中が大混乱だろう。この時代に耐性のある人間など少ししか居ないのだから」

 

セイバーが響の話しを裏付ける。

 

「成る程ね。ま、一応それも案に入れておこう。キャスターが仲間になってくれれば力強いし」

 

能力はかなり良さそうだったな。失敗作とはいえ、あんな大きなホムンクルスをフラスコに入れられるんだから。

・・・作った時は「ゲッ○だぜ!」とかいうんだろうか。

 

「じゃあ、俺達はいつも通りに調べることにしよう。アサシンと響は・・・そうだな、気の赴くままに行動してくれ」

 

「それってどういう・・・?」

 

「セイバー達の手伝いをして街中を歩いて調べるのも良し、俺の手伝いしてくれるのも良し、俺のマスターを守ってくれるならなお良し」

 

「・・・最後のは、ギルの願望だろ?」

 

「当たり前だろう。俺のマスターだからな」

 

「うーん・・・じゃ、ギルさんのマスターに会いに行きたいな! 良い?」

 

「良いぞ。じゃあ、頼んだ、セイバー、銀」

 

「りょーかい」

 

「了解した。がんばれよ、ギル」

 

「そっちこそ。・・・ほら、行くぞ、響」

 

「はいはーい!」

 

・・・

 

「月、今ちょっと良いか?」

 

「ぎ、ギルさんっ? 今ですか? 良いですよ」

 

歩いている月を見つけ話しかけると、俺を見た瞬間にあたふたし始めた。

ああもう! 和むなぁこんちくしょう! 

 

「新しい仲間が出来た。響、おいで」

 

「初めまして、がくげ・・・」

 

「ん?」

 

どうした、と聞く前に、響が月に抱きついた。

 

「か、可愛いー! ギルさんの主さんだから、もうちょっと怖そうなの想像してたけど、可愛い!」

 

「ひゃ、ひゃうっ!?」

 

ぎゅう、と抱きしめて、響は月を堪能しているようだ。

 

「・・・月、一応説明しておくな。今抱きついてるのがアサシン・・・暗殺者のサーヴァントのマスター、楽元。真名は・・・」

 

「響っていうんだ! 響ってよんで! ね、ね!」

 

「は、はい・・・。私は月です。月、とお呼び下さ・・・ひっ!?」

 

「ああもー! 可愛い!」

 

・・・

 

「・・・落ち着いたか、響」

 

「・・・うぅ、お恥ずかしい」

 

「・・・へぅ」

 

「・・・」

 

なんというか、重かった。

月に抱きついて頬ずりまで始めた響にアサシンと共にため息をつき、しばし傍観。

少しして、月が本気で困り始めたので引き離す。

それでも止まらない響に、背後に王の財宝(ゲートオブバビロン)を展開し、アサシンは妄想心音(ザバーニーヤ)の右腕を晒していた。

因みに、俺の王の財宝(ゲートオブバビロン)は中身を発射しなければ魔力を感知されないし、アサシンの妄想心音(ザバーニーヤ)も発動しない限りは感知されない。

俺達の宝具を見た響はようやく自身を取り戻し・・・。

 

「枕に顔を埋めて足ばたばたしたいよぉっ!」

 

「却下。落ち着いたら、いろいろと話さないとな。響は幸い女の子だし、月もいろいろ相談しやすいだろ?」

 

「はい。女性のマスターは初めてですから、心強いです」

 

にこり、とほほえむ月。

ああ、今響がいなかったら多分抱きついてた。

 

「うぅ。ふがいないけど、よろしくね、月ちゃん」

 

「はい。よろしくお願いします、響さん」

 

うむうむ、仲が良いのは大変よろしい。

 

・・・

 

アサシン組が加わり、結構な大所帯となってしまったチーム「戦いたくないでござる」は、取り敢えずキャスターを捜すことを目標にした。

・・・が、うまくいかないのは世の常なのか、幸運Aなのに、いっこうに事態が進まない。

こう言うときに限って、やはり・・・

 

「・・・南蛮? 五湖?」

 

「はいです。その二つの勢力が、国境近くの村へと襲撃を繰り返し、民達の生活を脅かしているのです」

 

「このままでは、いつか桃香さまへの不満が出てくるでしょう」

 

「実際、国境近くの村ではすでに桃香さまへの不満が出てきていると聞いています・・・」

 

あーっと・・・

ああ、アレか。確か、猛獲との戦いか。

 

「で、現状はどんな感じなんだ?」

 

「南蛮の方は村を襲った後はすぐに南蛮領に撤退していますので、領土を奪おうなどの野心はなく、一過性の物だと思います」

 

「成る程。・・・じゃあ、西から来てる・・・五湖の方は?」

 

「西の方は、村を一つ占拠して、その村を拠点に周囲へ被害を及ぼしています。優先すべきは、こちらだという結論に至りました」

 

「それで、南方の警備兵達が立てこもっている砦には将と兵五千を派遣し、防衛に徹することとなったのです」

 

「ふぅん。それで、将は誰に?」

 

「紫苑さんが将で、恋さんが副将。そして、ねねちゃんがお二人の補佐へと当たることになりました」

 

ふむふむ。

 

「じゃあ、まずは西から対処するんだな?」

 

「はい」

 

南蛮はともかく、五湖は不気味だ。何が起こるか分からないし・・・。

 

「・・・なら、俺もそれに着いていこう」

 

「ぎ、ギルさんもですか!?」

 

「駄目かな?」

 

「い、いえ、ギルさんが加わってくれればとても心強いですが・・・」

 

こうして、俺は五湖制圧へと着いていくことになった。

何もなければ、それで良いんだけど。

 

・・・

 

「へぅ。ギルさん、戦いに行ってしまうのですか・・・?」

 

「ああ。ごめんな、月」

 

「・・・いえ。ギルさんはちゃんと帰ってきてくれるから、大丈夫です」

 

「留守の間は・・・響、月と詠を頼んだぞ」

 

「了解っ。任せてよ!」

 

メイド服姿の響が元気に答える。

何故メイド服かというと、月や詠の近くにいて貰うためには、侍女という立場が適してる。響も仕事先を探していたことだし、ちょうど良かった。

なので、今響は侍女見習いと言うことで月や詠と一緒に働いているのだ。

その近くには、気配遮断で三人を見守るアサシンが居るのも忘れてはならない。斥候もついでに排除してくれてるし、かなり心強い仲間だ。

 

「それじゃあ、頼んだ」

 

「うんっ」

 

「ギルさん、その・・・頑張って、下さいね?」

 

「大丈夫だよ、月」

 

三人に別れを告げて、部屋を後にした。

さて、次はセイバーか。

 

・・・

 

「私も五湖の方だぞ。マスターは南の守りになったがな」

 

「そうなのか。なんだ、セイバーが行くなら俺が行かなくても大丈夫だったな」

 

「そうでもあるまい。バーサーカーなど二人でも勝てるか分からんし、まだ見ぬライダーや増えるランサーなど不安はいくらでもある」

 

「あ~・・・そうだったな」

 

それも含めて、準備はしていかないと。

 

・・・

 

西へと進軍して数日。敵までの距離が残り四里になったところで、戦闘態勢をとる。

斥候を放ち、出来る限りの準備をして・・・。

 

「見えた! 鈴々、行くぞ!」

 

ついに、五湖とぶつかる。

俺もみんなから見えないように宝物庫から蛇狩りの鎌(ハルペー)を取り出す。

なんだかんだ言って、結構愛着があるのだ。

 

「ゆくぞ! 我々の国を守るために!」

 

愛紗の声に、兵達が雄叫びを上げる。

さすがは愛紗だな。

突撃していく愛紗達に遅れないように馬を走らせる。

 

・・・

 

「敵が引いていく・・・」

 

かなり統率のとれた動きをしてるな・・・。やっぱり、不気味な国だ。

ふむ、取り敢えずは何事もなかったな。

良かった良かった。

 

「ギル、どうだった」

 

「こっちは異常なし。セイバーは?」

 

「こっちもだ。・・・だが、まだ気は抜くなよ」

 

「了解だ」

 

セイバーと別れる。

兵士達はこれから軍を再編成したり、村の復興を支援したりするそうだ。

桃香達はそこから少し離れたところで将だけで話し合いをしているので、そこへと向かう。

 

「このあたりに鎮守府を築き、兵隊さんを常駐させておくしかないかと・・・」

 

「でも、こんな辺境にずっといるの、可哀想じゃないかなぁ・・・?」

 

えっと、確か此処は・・・俺が天の御使いの代わりに言っておかないといけないな。

 

「なら、半年ずつ、二回に分けて兵隊を交代させればいい。一年くらいの勤務なら、我慢も出来るだろうし」

 

「あ、お兄さん」

 

「・・・それだったら、皆さん我慢してくれますね」

 

「よう。話し合いは大分まとまったか?」

 

「うん。後はえっと、此処で兵を率いる将軍も必要だよね」

 

「我等の内の誰かが赴任するのが一番だが・・・曹操達との戦いが控えている以上、それも無理だな」

 

「ならば・・・張仁、呉懿、呉蘭の三人に任せればいいのではないか?」

 

「あの三人ならば安心だな」

 

「あ、あと、法正さんもつけてください。それで内政、計略面でも安心かと」

 

「了解。じゃあ、それでいこー」

 

方針が決まった後、軍を動かすために、何人かの将が村へと向かう。

残ったのは桃香、朱里、雛里と俺だ。

 

「ふぅ、次は南蛮の方かな?」

 

「そうですね。此処の処理が終わったら、すぐに向かいましょう」

 

朱里がそう言った瞬間、聞きたくない声が聞こえた。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

大音量の雄叫び。

それに、魔力の反応! 

 

「バーサーカー!?」

 

「え? え? ・・・な、なにっ?」

 

百メートル先の荒野に着地するバーサーカー。

 

「はわわっ。ま、前に見た・・・」

 

「ちっ・・・。桃香! 朱里と雛里を連れて下がってろ!」

 

こんな真っ昼間から攻めてくるとは・・・! 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ひゃうっ!」

 

「はわわっ」

 

「あわわっ・・・!」

 

三人は腰が抜けたらしい。ぺたりと地面にへたり込み、動けないようだ。

向こうから愛紗と鈴々が駆けてくる。少し遅れて、翠達も走ってきているようだ。

セイバーがこの声を聞きつけていることを祈ろう・・・セイバーが来るまでは、俺がやるしかない

 

「行くぞ、バーサーカー。俺一人では不満かもしれないがな」

 

「ギル殿っ! こやつは・・・!」

 

「バーサーカーだ。前に言った狂戦士。桃香達のそばにいてやってくれ」

 

背後に王の財宝(ゲートオブバビロン)を展開する。

兵士たちは遠くにいるし、ここには将しかいない。

短時間ならば、宝具の行使も可能だろう。

 

「なっ・・・!?」

 

サーヴァントのことを知らない将達が驚いている。

だけど、今はそんなこと気にしている場合じゃない。

抜き取った宝剣でバーサーカーに斬り掛かる

 

「おおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「はあああああああああああああああ!」

 

薙刀と宝剣がぶつかる。

宝剣は一撃で弾かれ、宝物庫へと帰っていく。

 

「ちぃっ! 次ぃ!」

 

続々と宝具を抜いて、攻め立てる。

 

「はあああああっ!」

 

俺の振るった剣を後ろに下がって避けるバーサーカー。

薙刀を消して、手に刀を出した。

 

「刀・・・?」

 

弁慶で刀・・・まさか、千本の刀集めか・・・!? 

 

「おおおおおおおおっ!」

 

両手に持った太刀で斬り掛かってくるバーサーカー。

挟むように振るわれた太刀を防ごうとするが、宝具を取り出す時間がない。

仕方なく、腕でガードする。

 

「ぐぅっ・・・!?」

 

めきり、と嫌な音がして、両腕に痛みが走る。

力が入らなくなって、だらりと腕が下がる。

見てみると、鎧が凹んでいた。・・・嘘だろ。

 

「おおおおおっ!」

 

「ちっ!」

 

背後から宝具を射出して、バーサーカーを足止めする。

バーサーカーは太刀で次々と防ぐ。

防ぐ、折れる、防ぐ、防ぐ、折れる・・・。

いくらでも太刀が出てくるのは、少し俺の王の財宝(ゲートオブバビロン)と似ているな。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

「しまっ・・・!」

 

太刀の一本を投げられる。

予想もしていなかった一撃を避けようとしたが、間に合わず、肩に思いっきり喰らってしまった。

太刀は肩に突き刺さり、痛みを伝えてくる。

 

「い・・・てぇ・・・!」

 

がくり、と膝をついてしまう。

宝具の雨が止み、バーサーカーが突っ込んでくる。

 

「おおおおおおおお!」

 

「ていやああああああああ!」

 

目の前を通り過ぎる、影。

 

「間に合って、くれたか」

 

「またこうなるとはな。バーサーカーに嫌われてるのか? ギル」

 

目の前に立っているのは、雌雄一対の剣を持つ剣士・・・。

 

「出来る限りの援護はする。・・・すまん」

 

「謝ることはない。・・・私も、今度こそ奥の手を出すとしよう」

 

そう言って、詠唱を始めるセイバー。

真名開放じゃない・・・? 

 

「我ら三人、姓は違えども兄弟の契りを結びしからは」

 

・・・? 

なんだか、何処かで聞いたことのあるような・・・。

 

「心を同じくして助け合い、困窮する者達を救わん」

 

・・・そうか、そうだよ、後ろにいるじゃないか。これを言った人達が。

 

「上は国家に報い、下は民を案ずることを誓う」

 

バーサーカーが突っ込んで来るも、気にしないようにセイバーは詠唱を続ける。

 

「同年、同月、同日に生まれることを得ずとも」

 

「・・・これって・・・」

 

桃香達が気付いたらしい。

どういう事だ、という愛紗の声も聞こえる。

 

「願わくば、同年、同月、同日に死せん事を」

 

詠唱を終えたセイバーが、右手の剣を高く掲げる。

 

「固有結界・・・『桃園結義』」

 

あたりが荒野から桃園へと変わる。

いつのまにか、掲げた剣には偃月刀と、蛇矛が共にあった。

バーサーカーは変わった世界に戸惑ったのか立ち止まる。

 

「どうだ、狂戦士よ。桃園は美しいだろう」

 

セイバーはそう言うと、剣をバーサーカーに突きつける。

 

「我が名は劉備! 私一人では弱き力であるが・・・兄弟と共に戦うならば、負けはせん!」

 

「我は関羽。この青龍偃月刀にかけて・・・お前を討つ!」

 

「俺は張飛! 命のやりとりをしようじゃないか!」

 

あたりは、一変していた。

荒野は桃園へ。舞っていた砂は花びらへ。

セイバー・・・劉備は、関羽、張飛と共に、バーサーカーへと向かっていく。

 

「はああああああああっ!」

 

「ぬぅうううおおおおおおおおお!」

 

関羽と張飛の重い一撃がバーサーカーを捉える。

バーサーカーは両手に持った太刀でそれぞれ防ぐが、一瞬も持たずに砕ける。

すぐに『岩融(いわとおし)』に持ち替えたバーサーカーは、雄叫びを上げて薙刀を振り回す。

 

「そこだっ!」

 

関羽と張飛に気をとられすぎたバーサーカーは、劉備の接近に気付かず、一撃を食らう。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ! !」

 

「今回は前回のように逃がしはしないぞ!」

 

劉備がバーサーカーにそう言い放って、関羽、張飛と共にバーサーカーを攻め立てる。

 

「凄いな・・・」

 

劉備、だったのか。

 

「お兄さん!」

 

「桃香」

 

いつのまにか駆け寄ってきたらしい桃香達が、当然の疑問を口にする。

 

「あれって・・・劉備って言ってたけど・・・」

 

「間違いないよ。あいつは劉備。英霊の、劉備だ」

 

「英霊・・・?」

 

ああ、そこからか。

俺は愛紗と朱里にした説明をもう一度みんなにする。

朱里のフォローもあり、すぐに理解してくれたみたいだ。

 

「だから、あの劉備、関羽、張飛は本物だ。男なのは・・・まぁ、見なかったことに」

 

「でも、不思議な感じ・・・。男の人の自分を見るなんて・・・」

 

だろうなぁ。

・・・ああ、もしかしてセイバー、こう言うのが嫌で真名を隠していたんだろうか。

 

「兎に角・・・俺も援護しないと・・・」

 

「駄目だよお兄さん! 腕が変な方向に曲がってるんだよ!?」

 

そう言えばそうだったな。ちょっと麻痺してきたから忘れてた。

改めてみると、かなり酷い。まぁ、斬られずひしゃげただけだから、治るのに時間はかからないだろうが・・・。

 

「それにしても・・・英霊って凄いんだな。まわりの景色が一変してる」

 

固有結界・・・まさか、セイバーの奥の手がこれだとはな。

確か、一番魔法に近い魔術・・・だったはず。

何度目かの剣戟の後、バーサーカーが消える。

 

「き、消えたっ!?」

 

「・・・令呪か」

 

多分、令呪で呼び戻したんだ。固有結界の中から引っ張り出すには、そうするしかないだろうし。

 

「・・・ふむ」

 

セイバーが固有結界を解く。桃園や関羽、張飛が消えていく。

 

「・・・無事か、ギル」

 

「無事に見えるか?」

 

「言い返せるのなら無事だな。しばらくバーサーカーは襲いかかってこないだろう。かなり痛めつけてやったからな」

 

確かに、固有結界を発動した後の猛攻はすさまじかった。

劉備、関羽、張飛の武にくわえて、三人の連携。流石のバーサーカーも押されていたな。

 

「あ、あの・・・」

 

「む・・・」

 

桃香がセイバーに声をかける。

 

「劉備・・・さん、ですか?」

 

「やはり、ばれてしまったか」

 

劉備は気まずそうに苦笑いを返す。

 

「ま、今は南の紫苑たちの所へ急ごう。話しは道中すればいい」

 

「そ、そうだね・・・。うん。じゃあ、みんな、行こう!」

 

すでに準備の整っていた兵士達を連れ、俺達は南へ急行した。

 

・・・

 

「くそっ! こんな事で令呪を一つ使わされるとは!」

 

「しかし興味深いですね。今まで使おうとしても使えなかったのに」

 

「そんなことはどうでもいい! ・・・しかしセイバーめ・・・固有結界とは・・・」

 

・・・

 

「まぁ、今説明したとおり、私は君と・・・劉備玄徳と同じ存在だ。だが、私と君では相違点がある。まず、性別だな」

 

南蛮へ向かう道中、セイバーは桃香達に少し説明をしていた。

桃香と愛紗、鈴々と朱里だけを近くに集め、セイバーと俺が説明をする。

 

「そうだよね。正刃さんは男の人・・・だもんね」

 

桃香がセイバーを見てうぅん・・・と唸る。

 

「ですが、やはり凄い話しですね。望みを叶える杯とは・・・」

 

聖杯の事か。

でも、あれって欠陥品なんじゃなかったか? 

それに、この世界にあるんだろうか、聖杯。

 

「話しが大きすぎて、ついて行けないのだー・・・」

 

鈴々がぐたー、と馬にしなだれる。

 

「まぁ、あの狂戦士には何人人間がかかっても倒せないだろう。俺達に任せることだな」

 

恋なら少しは渡り合えるか? ・・・数合もったら良い方か。

まぁ、月と詠を拾ってくれた恩もあるし、桃香達は守らないとな。

 

・・・




「劉備様っ!」「はーい」「うん?」「・・・えっ?」「えっ」「えっ」

兵士が呼びに来るたびにこんな事態が起きるようになってしまったので、真名が分かってからもセイバーは正刃と呼ばれるのだった。

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