真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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主人公君のメンタルは少しマシになったとはいえ現代の平均的な学生です。
なので、愛紗さんたちが敵をふっ飛ばしている間、あの細腕でどうやって人ふっ飛ばすんだ・・・なんて妙な思考を巡らせていたりします。

それでは、どうぞ。


第五話 移動と狂戦士と逃走と

桃香の「逃げちゃおう」発言から数時間。

沢山の民を連れて、目的地・・・益州にいる劉璋を倒し、場所をいただくために歩いている途中だ。

セイバーと銀は兵士として何処かに居る。そして俺は、月と詠を守るために二人のそばで一緒に歩いている。

そう言えば、あのアサシン組はどうしているだろうか。

一緒に逃げてるのかな。それとも・・・向こうに残ったのかな。

 

「・・・名前も聞いてないのになぁ」

 

一人呟く。

 

「誰のですか・・・?」

 

「え? ・・・あ、いや、なんでもないんだ」

 

「そう・・・ですか?」

 

月が疑いの目で見つめてくる。・・・良心の呵責が・・・! 

 

「そうだよ。あ、あはは・・・」

 

少しの間疑いの目で見られたが、少しするとまた前に目を戻した。

・・・危ない。もう少しあの目で見られてたら全部暴露するところだった。

 

・・・

 

なにやら桃香達の方があわただしい。

あ、えっと、長坂橋の戦いかな? 

鈴々が元気にはしゃいでいるから、間違いないだろう。

さて、じゃあ俺はセイバーにちょっと話をしてくるかな。

 

「ごめん月、ちょっと行ってくる」

 

「え? ど、何処にですか? ・・・ギルさーん・・・?」

 

少し悪い気もするが、すぐに済ませないといけない用事だ。

月のそばを少し離れるだけでもかなり不安になる。

・・・これじゃあ、心配性と言うより小心者だな。

さて、セイバーセイバー・・・っと。

 

・・・

 

セイバーに話を通して、月と詠の警護を頼む。

銀も近くに待機して、いつでもセイバーが守れるようになっている。

鈴々とその部隊が殿に動いていく。俺もその集団に紛れるようにこっそり着いていく。

曹操が来るなら、きっと北郷一刀もいるはず。

一目見ておかねばならないだろう。同じポリエステル仲間として。

 

「・・・あれ? あなたは・・・」

 

「あ、気にしないで。大丈夫だから」

 

「え? あ、はぁ・・・」

 

兵士の一人に話しかけられたが、曖昧にはぐらかしておく。

カリスマA+のおかげで、不審には思われなかったようだ。・・・っていうか、ホントに呪いの様だな、このカリスマ。

 

「さて・・・どうなってるのかな、魏は」

 

・・・

 

鈴々に呂布、陳宮が話し合い、鈴々と呂布が橋の前に残り、陳宮と兵士達が下がっていく。

陳急は俺を見つけると、ビックリして飛び跳ねてから、駆け寄ってくる。凄く猫っぽい。

 

「な、な、なんでギルが居るのです! 二人を守って居るんじゃないのですか!?」

 

「今は信用できる奴に任せてきてる。それに、これから起こることは見ないといけないから」

 

「見ないといけない・・・? なにか、あるのですか?」

 

「うん。・・・済まないけど、我が儘、聞いて欲しい」

 

「・・・ふん! 知らないのです! 勝手にするが良いのです!」

 

そう言って、下がっていく陳宮と兵士達。

一部は茂みに隠れて居るので、俺もそこに一緒に隠れる。

さて・・・前線に来るかなぁ。来るだろうなぁ。

 

・・・

 

鈴々の・・・張飛の凄さを目の当たりにした。

夏候惇、許緒、夏候淵の三人を一人で抑える鈴々は、英雄と言うに相応しかった。

・・・俺なんかより、ずっと英霊のようだった。悔しいなぁ。

だから、ちゃんと焼き付けておくことにする。

セイバーや鈴々・・・目標がドンドン増えていくな。

 

「・・・あ」

 

曹操・・・。

そして、その傍らに立つのは・・・北郷一刀。

同じ服だ。・・・細部まで一緒。なんだか変な感じ。

まぁ、こうやって茂みからのぞき込んでいるのもかなり変なんだけれど。

 

「・・・終わったか」

 

曹操に何かを言われた鈴々と呂布は撤退を始める。

兵士達も茂みから出て、前に追いつくべく動き出す。

俺も置いて行かれないようにしないと・・・。

 

・・・

 

「あんまり滞在できなかったなー。まさか太守が逃げ出すとは・・・」

 

「ま、いいんじゃねーの? 勝てないときは逃げる。大切だと思うぜ」

 

「いっちょまえにいいこと言うじゃねえか。さ、俺たちもあの太守を追うぜ」

 

「あん? なんでだ?」

 

「さっき言ったサーヴァントなんだが、あの太守と一緒に移動してるっぽいぞ。それを追おうと思ってな」

 

「あんでだよ。きっと勝てねえって。やめとこうぜ、戦うなんて無茶なこと」

 

「戦わねえよ。まだな。まずは情報収集だ。俺、そういうの得意だからよ」

 

「ふーん・・・ま、いいや。お前のことは信頼してるしな。お前がいうなら別にいやとはいわねえよ」

 

「けけ、お前、いいマスターだな。そら、追いつくまでもう少しだ、気張れよー」

 

「よーし、俺も覚悟決めたぜ! そらそらいくぜー!」

 

「おうおう、いい顔になったじゃないか」

 

・・・

 

桃香達の元へと戻ると、月が駆け寄ってくる。

 

「いきなり何処へ行っていたんですか・・・!?」

 

「ごめん。ちょっと鈴々の部隊と一緒に長坂橋行ってた。・・・詳しく説明してる時間無かったんだ。ほんとにごめん!」

 

手を合わせて拝み倒すと、月は涙目になりながら

 

「・・・今度からは、ちゃんと教えてくださいね? ・・・いきなり居なくなるから、心配だったんですから・・・」

 

そう言って、抱きついてくる月。

あー・・・しまった。

予想以上に心配かけちゃったみたいだな。

 

「解った。今度からは月に心配かけないようにするよ」

 

「・・・はい。約束ですよ?」

 

「うん」

 

抱きついたまま顔を上げた月の頭を撫でる。

目の端に涙を浮かべたまま、月は笑顔を浮かべた。

 

「・・・詠ちゃんも心配してました。後で詠ちゃんにも謝っておいた方が良いですよ、ギルさん」

 

「・・・了解」

 

詠か・・・。心配してくれてたのか。嬉しいかもしれない。少し不謹慎だけど。

噂をすればなんとやら。月と話していると、詠がやってくる。

 

「・・・帰ってきてたのね。いきなり居なくなって・・・もう!」

 

腹を一発殴られた。

物理的にはそうでもない一発だが、精神的にはきいた。まさか、詠を泣かせてしまうとは・・・。

・・・そう言えば、見ない顔が二人ほど。・・・まさか、馬超と馬岱か? 

 

「あ、おにいさーん! こっちこっちー!」

 

桃香に呼ばれて前へ出る。

愛紗がこちらを見て

 

「・・・勝手な行動については、後でお話があります」

 

と一言だけ告げて、目をそらされた。

・・・うおぉっ、寒気が・・・! 

 

「あ、あははー・・・。そうだ、お兄さん。紹介するね。この人は馬超さん。で、こっちが馬岱ちゃん」

 

俺と愛紗のやり取りを見て乾いた笑い声を上げた桃香が新しく入った二人の紹介をしてくれる。・・・やっぱりか。

 

「宜しく。ギルガメッシュだ」

 

握手をしようと手を出す。

馬超は少し遠慮がちに手を握り、馬岱は元気よく握手してくれた。

 

「よ、よろしく・・・ぎ、ぎるがめす?」

 

「・・・言いづらいなら、ギルで良い」

 

「そ、そうか。悪いな。・・・宜しく、ギル」

 

「よろしくねー、ギル兄様ー!」

 

「・・・に、兄様?」

 

ご主人様は無いだろうな、と思ってはいたが・・・兄様とは。

 

「お兄様っぽいからギル兄様っ。・・・駄目ー?」

 

「駄目と言うことは無い。・・・むしろ良いっ」

 

俺の言葉にちょっと笑ってから、桃香はじゃあ、ご飯にしようか、と切り出した。

俺が来る前にすでに仲間になることは決まって居たらしく、二人の歓迎もかねて将や兵士と食事をしよう、ということになったらしい。

 

「あ、そうそう! ギルさんっていうの、真名なんだって!」

 

「そうなんだ~・・・。・・・って、えぇー!?」

 

・・・やっぱり、この驚いた顔はクセになる。

その後、食事をとっているときに馬超と馬岱に真名を呼ぶことを許して貰い、それに触発されたのか、呂布と陳宮からも真名を許された。

ねねから真名を許して貰うときのねねの態度は、詠よりも渋々だった、とだけ言っておく。

 

・・・

 

益州へ向かい、劉璋の居る蜀に向かって最初の一歩を踏み出した桃香達。

諷陵という城に入城した桃香達に、長老が謁見を申し込んでくる。

最近では俺も会議などに顔を出させて貰っているので、詳しい話も聞く事が出来るようになった。

朱里と雛里が推薦してくれたらしい。愛紗も桃香も俺の能力を認めてくれたのか、特に異論無く受け入れられた。

そして、その謁見の場で長老が言い出したのは、桃香に太守になって欲しい、と言うことだった。

益州の内部はぼろぼろ。国民はその状況から大乱に巻き込まれるのではないかとびくびくしながら過ごしているらしい。

そんな状況で現れた桃香達。有能な太守に変わって欲しい、と言う長老の願いを聞き届けた桃香達は、成都を手に入れ、益州を平定するための出陣準備を始めた。

 

「成都までどれくらいのお城があるのかなぁ」

 

桃香の呟きに、朱里が答える。

 

「諷陵は益州の端の端にあります。ですから、成都までは二十個くらいお城を落とさないとたどり着けませんね」

 

二十個と聞いた桃香が驚きの声を上げる。

対城宝具があってもかなり苦労する数だな・・・かなり単純に計算してエクスカリバー二十発分だ。

劉璋の話をしながら進む桃香達の近くで歩きながら、成都までの話を思い出す。

確か、まず最初に黄忠と戦い、次に・・・厳顔・・・だっけな。

駄目だな。こっちに来てから時間経ってるからか、原作の記憶が薄くなってきてる。

・・・まぁ、かなりのイレギュラーが居るんだ。原作がそのまま進むとは思えない。

何処かでサーヴァントとの戦いがあるはずだ。・・・そのときは、セイバーと共に、前に出なきゃな。

 

・・・

 

黄忠の居る城へと着き、出陣準備が完了した。黄忠は籠城を選んだので、こっちは糧食を気にしながら戦わなければいけない。

いつものように月と詠を守れるように・・・。後ついでに桃香と軍師達も守れるように配置に付く。

 

「お兄さんの鎧って、袁紹さん達と同じ金色なんだねー!」

 

「ああ。・・・でも、あっちとは違うから安心して良い」

 

何てったってギルガメッシュが自ら選んだ鎧だ。袁紹のただ金ぴかな鎧とは格が違う。

 

「さて、そろそろ始まるな・・・」

 

愛紗達が位置に着く。

 

「行くぞ!」

 

愛紗の号令で、城へとぶつかっていく兵士達。

それを見ながら、手に持った蛇狩りの鎌(ハルペー)を強く握った。

 

・・・

 

黄忠の軍をある程度蹴散らすと、城門が開いた。

それを好機と愛紗が号令をかける。

 

「城門が開いた! 全軍突撃!」

 

「待て愛紗! 誰か出てくる!」

 

しかし開いた城門から白旗を掲げた何人かが歩いてくるのを見つけた星が愛紗を押し留める。

愛紗と星の二人が話を聞きに向かう。

これで、黄忠が仲間になるのか。・・・なんだか、緊張したなぁ。

新しく仲間になった、黄忠・・・紫苑の居城で大休止をとることになり、兵士達はここに来てやっと出来た休みを使い、その間に将達は会議を開いて、これからの指針を決めていた。

 

「巴郡にいる厳顔と魏延の二人を説得できたなら、成都までの城は全て桃香さまの物になるでしょう」

 

「そんなに人徳がある人なんだ~。・・・じゃあ、巴郡へ向かおっか!」

 

桃香の言葉にみんなが賛成する。

 

「じゃあ、紫苑さん、説得の時は力を貸して?」

 

「はい」

 

「それじゃあ、みんなは休んだ後、明後日の出陣に向けて部隊の編成をよろしくね!」

 

「御意」

 

愛紗と星の返事がかぶる。

 

「あ、朱里、雛里。俺と一緒に城内の物資の確認してくれないか?」

 

確認しておいて悪いことはないはずだ。

俺一人では出来ないかもしれないので、二人に協力を要請する。

 

「はいっ」

 

二人は元気よく返事をしてくれた。

かなり嬉しい。

 

・・・

 

朱里、雛里と共に城内の物資を確認して居たら、すっかり日も暮れてしまった。

 

「悪いな、こんなに遅くなっちゃって」

 

「いえ、ギルさんが居なければもう少し遅くなっていたでしょう。晩ご飯に間に合って良かったです!」

 

「そう言ってくれると助かるよ。ありがと、朱里」

 

帽子の上から朱里の頭を撫でる。帽子ごと撫でるのは少し乱暴だが、一々脱がせるのも変だしな。

 

「はわわっ。そんなっ、ありがとうなんてっ・・・!」

 

こちらを見上げてパタパタと手を振る朱里。

 

「雛里も手伝ってくれてありがとう」

 

ぽす、と帽子の上に手を置く。

油断していたのか、雛里はびくりと飛び跳ねた後、あわあわと慌てていた。

ああもう、癒されるなぁ、二人を見てると。

 

・・・

 

晩ご飯の後、流石にセイバーとの訓練もないので一人城壁の上に出て警戒をする。

傷兵などの手当で大分兵士が居なくなったので、手数が足りないらしく、兵士の代わりに俺はあたりを警戒していた。

朱里達が言うには劉璋の軍が来るなんて考えられないが、一応、と言うことらしい。

 

「・・・ふぅ。次は厳顔か」

 

夕飯も終わり、ほとんどの人間が寝静まっている時間。

少しひんやりするが、まぁ許容できない程でもない。

 

「っ!」

 

城壁の上で警備している最中、突然背筋に悪寒が走る。自分の感覚を信じて、夜空を見上げる。

視界に入ったのは月の真ん中に出来た黒い点。

だんだんと大きくなるそれは・・・人!? 

 

「くっ!」

 

思わず腕で顔を覆ってしまった俺の頭上を通っていく人型の何か。

ずぅん、と城壁の下に着地したそいつからは、禍々しい雰囲気を醸し出している。

まさか、こいつは・・・! 

 

「サーヴァント!」

 

急いで城壁から飛び降りる。

 

「はあああ! ニー!」

 

飛び降りた勢いを利用して、背後から飛び膝蹴りを相手に放つ。・・・キャラが違うとか言わない! 

後頭部に膝が当たるが、ダメージはないようだ。こいつ・・・堅い! 

 

「おおおおおおおおお!」

 

バーサーカーは振り向きざま俺の足を掴み、下へ叩き付けた。

 

「ぐっ!?」

 

格闘戦は不利か・・・! だけど、注意はこっちに向いた! 

 

「喰らえっ! 王の財宝(ゲートオブバビロン)!」

 

至近距離から数十本の宝具を射出する。

相手は俺の足から手を放し、後ろに下がった。

 

「・・・見た目に合わず、素早いじゃないか」

 

だが、この力で確信した。こいつ、バーサーカーだ。

最強と言われるサーヴァントに、俺一人でどれくらい持つか・・・! 

 

「うだうだ考えてても仕方がないか。俺が居なくなれば月を守れなくなる!」

 

エアを取り出す。

いつもの訓練のように扱えば良い。・・・落ち着け、俺。

バーサーカーは武器を構えた。あれは・・・偃月刀? ・・・いや・・・薙刀か・・・! 

 

「くっ!」

 

成る程、何処かで見たことがあると思ったら・・・! 

 

「バーサーカー・・・お前・・・!」

 

手に持った薙刀、背中にある七つの武器。

極めつけは僧の格好・・・! 

 

「武蔵坊弁慶かっ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおっ!」

 

雄叫びを上げて突進してくるバーサーカー。

弁慶の元々の怪力にくわえて、バーサーカーの狂化が加われば、多分ほとんどのサーヴァントはかなわないだろう。

早く来い、セイバー・・・! 俺一人だとあんまりもたないぞ・・・!

 

「くっ!」

 

エアを回転させて、受け流しやすくする。

そのおかげで捌けるようになってはいるが・・・いつまで持つか。

エアの刀身を動かすにも魔力がいるので、あんまり長期戦は出来ない。

かといって、あの素早さならば王の財宝(ゲートオブバビロン)も無駄打ちになるだろうし・・・。

天の鎖(エルキドゥ)も意味無いだろうなぁ。確か普通の人間だったはずだし。弁慶って。

 

「ん? ・・・うおっ、あぶなっ!」

 

考え事をしていたからか、すぐ横を薙刀が通っていった。

 

「おおおおおおおおおおおおお!」

 

弁慶はそれだけ叫びながら突っ込んでくる。

ただ突っ込んでくるだけだが、耐久高い上に腕力もトップクラスの暴風みたいなこいつにはそれが一番の戦法なんだろう。

俺は薙刀を横に受け流し、懐に潜り込む。

二メートル以上あるのでかなりの威圧感だが、恐れていてはジリ貧になってやられる。

突っ込むか・・・!

 

「はぁあああああああああああっ!」

 

胴にエアを打ち込む。

 

「回転数・・・最大!」

 

柄から白いガスとも魔力ともつかない物が吹き出す。

ネイキッドギルガメッシュの時みたいにエアを回転させ続け、胴を薙ごうとするが・・・。

 

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 

「ぐっ!?」

 

脳天に肘鉄を食らう。

視界がぐらりと揺れ、危うく倒れそうになるが、力を振り絞って距離をとる。

 

「・・・くぅ・・・やるじゃないか、弁慶・・・!」

 

頭を抑えながらエアを構える。

弁慶は唸りながら薙刀を構える。確か、名前は『岩融(いわとおし)』だったかな。

まぁ、アレは岩も物ともしないわな、確かに。

圧倒的な威圧感を放つ薙刀に冷や汗を流しながら、俺はいつ攻撃が来ても良いように弁慶の一挙手一投足に警戒を放つ。

 

「っ!」

 

地面が揺れたかと勘違いするほどの踏み込みで弁慶は跳んできた。

 

「うおおおっ!?」

 

横に転がるように避ける。

ずざざ、と地面に倒れ込む。

 

「あ、ぶねっ・・・!」

 

急いで立ち上がる。

こちらに振り返った弁慶が動こうとした瞬間・・・。

 

「ギル殿っ!?」

 

声が響いた。

 

「・・・愛紗っ!?」

 

俺と弁慶は同時に声の方向を向く。

・・・まずいっ! 

咄嗟に走って、愛紗を抱える。

 

「なんですかこやつ・・・きゃっ!?」

 

何とか愛紗を抱えて弁慶の攻撃範囲から逃げる。

 

「・・・くそっ!」

 

「おおおおおおおおおおおおおお!」

 

城内に入ってしまった! 

えっと、人の居ない方は・・・ああくそ! 人のいないところを探す方が難しいぞ、今! 

 

「愛紗! 人がいない所ってどっちだ!」

 

走りながら脇に抱えた愛紗に聞く。

 

「えっ? え、えっと、・・・っあ、書庫っ! 書庫なら今は物置になっているので滅多に人は来ないかと・・・!」

 

「ありがとう!」

 

曲がり角を右へ。

弁慶は素直にこちらを追ってきてくれている。

 

「そのままだ・・・そのままこいよ・・・!」

 

「ギル殿! あやつはなんなのですかっ!? あの者が放つ威圧感・・・同じ人間の物とは思えません!」

 

俺からすればあんた達将の威圧感も人間離れしてるがな! 

 

「詳しいことは後で! 今はあいつを人気のないところへ・・・ってうおっ!?」

 

曲がり角からにゅっ、と人型の何かが出てくる。

思わずキャッチして、そのまま走り続ける。

 

「はわわっ! な、ななななな・・・!?」

 

朱里っ!? 

なんでこの子はこんな時間に・・・!? 

 

「朱里!? 何で此処に!?」

 

愛紗が代わりに聞いてくれた。

 

「ふぇ!? え、えっと・・・はわわっ! 後ろの巨人さんは誰ですかぁ~!?」

 

と、取り敢えず逃げないと・・・! 

書庫・・・あそこか! 

がしゃん、と扉を片方ぶっ壊して転がり込む。

置いてあったものが幾つか崩れたが、緊急事態と言うことで許して貰おう。

 

「二人とも、奥へ!」

 

「で、ですが・・・」

 

「良いから! 今は俺の言うこと聞いてくれ!」

 

肩を掴んで頼み込む。

俺の勢いに折れてくれたのか、とまどいながら頷くと

 

「わ、解りました」

 

と言ってくれた。

 

「・・・朱里も」

 

「は、はいです」

 

二人が奥へと進んでいった瞬間、扉が完全に吹き飛んだ。・・・あーあ、しーらね。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

俺を視界に入れると、弁慶は雄叫びを上げる。

後ろからひうっ、と聞こえたのは多分朱里の声だろう。耳を押さえている姿が目に浮かぶ。

 

「・・・さぁて、これからどうしよう・・・」

 

もちろんエアはあるが、もう回し続ける魔力も振り回す体力も無い。

薙刀を構えた弁慶が走り出し・・・。

 

「はあああああああっ!」

 

横っ面から体当たりを噛まされて外へと吹っ飛んだ。

 

「間に合ったか!?」

 

「セイバー!」

 

「ギル! ・・・無事だったか。あれはバーサーカーだな!? 行くぞっ!」

 

「先に行っててくれ! こっちに愛紗・・・関羽と諸葛亮が居るんだ!」

 

「・・・なにっ!? ・・・急いでくれよ!?」

 

そう言って、バーサーカーが飛んでいった壁から出て行くセイバー。壁も壊れたか。・・・あーあ、しーらね。

・・・取り敢えず、二人を安全なところに・・・。

 

「愛紗、朱里。・・・無事?」

 

「・・・ええ、一応」

 

「だ、だいじょぶれふ・・・」

 

「良かった・・・。詳しいことは後で話すから、今はあいつと一緒に逃げて」

 

元出入り口から顔をのぞかせた銀に二人を任せ、俺も壁の穴から飛び降りる。

 

・・・

 

「セイバー!」

 

剣戟が聞こえる方へと向かうと、セイバーが弁慶と戦っていた。

弁慶は力のままに薙刀を振るい、セイバーはそれを避け、時には反撃しながら弁慶のまわりを回り、かく乱するように動いていた。

 

「流石に私だけでは勝てんか・・・!」

 

俺の隣に飛び退いてきたセイバーがそう吐き捨てる。

 

「行くぞ、セイバー。二人で一人前なんだから、俺達は」

 

「・・・そうだったな。援護を頼む。・・・私に当てるなよ?」

 

「じゃあ、集中させることだな。・・・いくぞっ!」

 

「応ッ!」

 

セイバーが駆ける。雄叫びを上げた弁慶は双剣の一撃を薙刀で受け、払う。

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)ッ!」

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)の展開を最小限に抑え、的確に撃つ。

集中しないと出来ないことなので一対一だと不可能だが、セイバーが居る今なら全力を出せる・・・! 

 

「おおおおおおおおっ!」

 

迫る宝具を払おうと薙刀を振るうが、十数本が固まって飛んでいるのを一撃で振り落とせるはずがない。

数本は払われずに弁慶の体に刺さる。

 

「はぁっ!」

 

その一瞬で隙の出来た弁慶にセイバーが切りかかる。

 

「おおおおおおおおおおおっ!」

 

完全に立場が逆転した。

射撃と接近の二つで翻弄することによって、ただでさえ理性のないバーサーカーは対処できなくなる。

 

「でも・・・そろそろまずいかも」

 

五度目の宝具射出の後、かなり気怠くなってくる。

まずいな・・・。魔力が無くなってきてる・・・。

発射する宝具の数も少なくなって、さっきまで十数本撃ててたのが、今では五本・・・

 

「セイッ!」

 

セイバーの一撃が腹に入る。

が、少したたらを踏んだ程度で、すぐに体制を整える。

 

「くそ・・・!」

 

戻ってきたセイバーがふぅっ、と息を吐く。

 

「化け物だな、あやつは・・・」

 

確かに。さすがは狂戦士。

 

「どうする? ジリ貧だぞ、このままだと」

 

「・・・どうするもこうするも、こうやって隙を見つけるしか無いだろう」

 

「けど・・・俺、そろそろ限界だぞ・・・」

 

「私の奥の手を使うか・・・」

 

「宝具・・・か・・・?」

 

「少し違うがな。・・・詠唱に時間がかかる。時間稼ぎを・・・ん?」

 

セイバーが何かに気付いたように声を上げる。

 

「バーサーカーが・・・帰って行く・・・?」

 

セイバーの視線を追うと、城壁を越え、荒野を駆けて、何処かへ走り去っていく弁慶がいた。

城壁の上でしばらく見ていたが、戻ってこない。本当に帰ったらしい。

 

「・・・なんで急に・・・?」

 

「さぁな。・・・兎に角、助かった、と言うことだろう」

 

「ふぅ・・・」

 

とすん、と城壁に腰掛ける。

 

「・・・バーサーカー・・・強敵だな・・・」

 

「ああ。・・・そうだ。あいつの真名が解った」

 

「本当か!?」

 

「ああ。武蔵坊弁慶。日本の英雄だ」

 

「・・・ほう。・・・これはこれは」

 

情報が来たらしい。セイバーがふぅむ、と考え込む。

 

「まぁ、今は兎に角・・・」

 

「ん?」

 

「関羽と諸葛亮に説明をするのが先だろうな」

 

「・・・あ」

 

・・・

 

「何故戻るように言った?」

 

「ライダーが気付いて、かなりの速度で迫ってたからね。三体一じゃ流石に厳しいだろう?」

 

「・・・まぁいい。次は・・・誰にしようか」

 

・・・

 

あの襲撃から一夜明けて、翌日。愛紗と朱里を前に、俺はどう説明しようか悩む。

サーヴァントのこととかを話して良いのだろうか。

話すとしても、どの辺まで話そうか。

 

「で、ギル殿。昨日の侵入者は何者なのですか? 少なくとも、常人ではないようでしたが・・・」

 

まぁたしかに。あんな筋骨隆々の大男が異様な雰囲気を醸し出してたらそう思うのも無理はないよな。

それに、書庫もぶっ壊しちゃったし。

 

「・・・アレは弁慶っていう男で、その・・・強い奴を探して襲撃を繰り返してる奴なんだ」

 

俺は嘘を交えて説明する。やっぱり、この二人まで巻き込むわけにはいかない。

 

「弁慶・・・聞いたことのない名前ですね」

 

だろうな。

 

「でも、あの人の強さは凄かったです・・・壁や扉を軽々と破壊して・・・鈴々ちゃんや恋さんでもあんなに簡単に破壊するのは難しいと思います」

 

「確かにな。・・・だが、あの者は理性がないように見えた。仲間に誘うのは難しいだろうな」

 

「ああ。あいつは理性のない狂戦士。だから、話が通じるような奴じゃないんだ。今度襲撃が来たら、俺とセイバーで何とかするから」

 

「私も共に戦います。鈴々と恋も誘えば、多分あやつに引けをとることはないでしょう」

 

「・・・いや、無理だ」

 

「何故ですか!? 私たちの武が信用ならないと!?」

 

「信用してない訳じゃない。・・・だけど、人間はあいつにかなわない」

 

「・・・『人間は』・・・?」

 

・・・あ。失言した。

 

「まるで、ギル殿が人間じゃないような言葉ですね」

 

「いや、その・・・」

 

愛紗は容赦なくたたみ込んでくる。

 

「・・・何か、隠していることが有るようですね」

 

「あー・・・あはは、そのー」

 

「ギル殿っ!」

 

「解った! 言うよ! 言いますからその偃月刀を下ろして!」

 

・・・

 

こうして偃月刀で脅された俺は愛紗に聖杯戦争のことをすべて話してしまった。

 

「・・・では、その英霊と言うのが・・・」

 

「・・・俺なんだ。・・・でも、純粋な英霊では無いんだけど」

 

「成る程・・・。では、正刃さんも英霊さんなんですね?」

 

「うん。・・・黙ってて、ごめん」

 

「・・・終わったことをいつまでも責める気はありません」

 

少し怒りながらも、愛紗はあまり俺を責めなかった。

朱里は英霊という未知の存在に少し好奇心を持っているようだが・・・。

 

「しかし・・・弁慶という者・・・アレは一筋縄ではいきませんね」

 

愛紗が昨日のことを思い出すように目をつぶって喋る。

英霊という者を教えるついでにバーサーカーの怖さも教えたので、その事を含めて言っているんだろう。

 

「・・・ああ。俺とセイバーの二人がかりでも苦戦した。もう一人居れば違うんだろうが・・・」

 

「ですが、これ以上仲間になる英霊が居るのでしょうか・・・」

 

「一人、心当たりはある」

 

「そうなのですか?」

 

「うん。今は曹操の領地だけど、俺達が前にいたところにアサシンとそのマスターがいた。その二人が居たら少しは違ったんだけどなぁ」

 

「前にいたところって・・・荊州ですか・・・」

 

「ああ。難しいよなぁ、かなり」

 

「そうですね・・・。今では魏の兵が国境を守備しているでしょうし・・・」

 

黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)でも使えれば話は違ったんだろうけど・・・あの大きさを宝物庫から出すには俺の技量が足りない。

それに、黄金と宝石の飛行船(ヴィマーナ)は目立つし・・・。

 

「後は、まだ見ぬ英霊に期待するしかないかな。かなり確率低いけど」

 

残ってるのは・・・ライダーとキャスター、ランサーか。

ランサーが仲間になってくれれば心強いんだけどなぁ・・・。

・・・余談ではあるが、昨日のあの弁慶の雄叫びで起きた人間は居ないらしい。・・・何故? 

 

・・・

 

英霊のことはみんなには内緒にしておいて欲しい、と愛紗と朱里に言うと、二人は頷いてくれた。嬉しい限りだ。

仕事の時間だと呼びに来た紫苑の声で、三人の会議はお開きとなり、俺は暇になってしまった。

セイバーは確か明日のために準備があるとかで引っ張られていったっけ。

俺がいつもやるような事務仕事はここからすぐに発つのでほとんど無く、かといって街へ遊びに行くほど神経太くない俺は、城内をうろうろするのだった。

 

「・・・あー・・・暇だな~・・・」

 

中庭では愛紗や星、紫苑たちが兵士達と共に明日の準備らしきことをしている。

手伝おうかと言ってみるが、すでにほとんどの準備は終わっていて、後は陣形の確認など俺が役立てないことばかりだったので、断られた。

どうしようか、と城壁の上ではぁ、とため息をつきながら下を見下ろしていると、とんとん、と肩を叩かれた。

 

「・・・ん? ・・・あ、月」

 

「こんにちは。・・・どうか、したんですか?」

 

挨拶の後、心配そうに尋ねてくる月。

 

「ん・・・特に何があったって訳じゃないんだけどね。やることなくて、暇だなって思ってたとこ」

 

「そうなんですか・・・。あ、なら・・・」

 

そう言って、月は少しとまどい気味に

 

「私たちのお手伝い、してくれませんか・・・?」

 

と、言ってきた。

 

・・・

 

月の言葉に喜んで、と返すと、月はありがとうございます、と言って歩き始めた。

 

「今、傷兵さんの手当とか、細々とした雑用をして居るんです。ちょっと力仕事もあったので、どうしようかなって思ってたんです」

 

「そっか。兵士使うわけにも行かないからな」

 

兵士は警備の人をのぞいて全て中庭で最終確認中だ。手伝って、など言えるはずもない。

そこに神々の如く暇をもてあましている俺がいたので、声を掛けた、と言う訳らしい。

 

「傷兵って結構多いのか?」

 

「いえ、紫苑さんが早めに降ってくれたのでそんなには。それでも、怪我人は結構居ましたから・・・」

 

悲しそうに顔を伏せる月。

 

「・・・優しいなぁ、月は」

 

ぽすん、と頭に手を置いて、撫でる。

 

「優しい、ですか・・・?」

 

「人が傷ついて、悲しいって思ったんだろ?」

 

「・・・はい」

 

「なら、月は優しいよ。桃香達も、優しいからこそこうやって戦ってるんだし」

 

「ギルさん・・・」

 

「ほら、笑顔笑顔。月は笑ってる方が可愛いんだから」

 

思ったことを素直に口に出してみる。案外恥ずかしいが、そこは見ないふりをする。

 

「へぅ・・・。可愛いだなんて・・・」

 

予想通り頬を真っ赤にして恥ずかしがる月で和みながら、傷兵が集められている場所へと向かった。

 

・・・

 

「申し上げます! 前方に敵軍を発見! 数は八万前後! 旗は厳と魏です!」

 

「ご苦労。下がって休んでいろ」

 

「はっ!」

 

報告を聞いた愛紗が思案する。

 

「敵は城を捨て、野戦で決着をつけるつもりか・・・」

 

「解せんな。籠城を捨てるとは・・・。何を考えている・・・?」

 

「うーん、味方の援軍が来ないから、とか?」

 

「今は情報が不足しています。もうちょっと情報を集めてから判断しないと・・・。罠かもしれませんし」

 

雛里の言葉を聞いた桃香がぽんと手を叩く。

 

「情報と言えば紫苑さんだよっ。あっ、でも、言いたくなかったら言わなくても大丈夫だよ?」

 

「お気遣いありがとうございます。大丈夫です。私はもうここの人間ですから」

 

そう言ってにこりと笑う紫苑。

 

「厳顔と魏延は共に心から戦を楽しむ、生粋の武人です。元々、劉璋様を頂点とする現政権を口やかましく批判していましたから、援軍は無いでしょう」

 

「体育会系~・・・。戦うことが楽しいって人達なんだね~」

 

蒲公英が呆れたようにそう言う。

 

「そうね。あの二人は根っからのいくさ人なのよ。酒と喧嘩、それに大戦をこよなく愛する武人。それが厳顔と魏延という人間よ」

 

その蒲公英の言葉に応えるように紫苑が付け加える。

 

「それで野戦を望むと? ・・・はた迷惑な人達ですなー」

 

ねねが両手を挙げ、降参と言わんばかりにため息をつく。ねねの心を一言で代弁するなら、「しんじらんねー」であろう。

 

「・・・しかし、その信念はよく分かる。私のように、同じ武の世界に住む者にはな」

 

俺には解りません、先生! 

・・・と言ったところで、俺は好き好んで戦うわけではないので解らないのが当然なのだが。

 

「・・・だけどさ、いくら援軍が来ないから籠城を捨てるって戦術的には下策だろ?」

 

「・・・違う」

 

翠の言葉に、恋が口を挟んだ。

 

「え? 違うのか・・・? ・・・って、何が違うんだ・・・?」

 

あ、翻訳係の北郷君いないんだったな。俺が通訳してやろう。

 

「戦術がどうとか、そう言うこと考えてないっていうことを言いたいんじゃないかな。・・・だよな? 恋」

 

俺の言葉に、こくりと首肯する恋。

その後、ゆっくりと口を開き

 

「・・・誇り。それだけ」

 

「・・・戦術など考えず、誇りを示すためだけに野戦で堂々と決着を望む、か。・・・その気持ちは分かるな」

 

「潔い奴らなのだ」

 

・・・潔い、のかな。

当事者じゃないから当然厳顔達の気持ちは解らないけど・・・なんか、違和感を感じる。

『誇りのために死ぬ』というのが、いまいち解ってないんだろうなぁ、俺。

 

「・・・では、部隊を配置した後、進軍を再開しましょう」

 

雛里の声で、我に返る。

いつのまにか、話は進んでいたみたいだ。

 

「りょーかいっ。それじゃ、先鋒は紫苑さん。鈴々ちゃん、翠ちゃんにお願いするね。三人の補佐は、雛里ちゃん、白蓮ちゃん、蒲公英ちゃんがしてくれる?」

 

雛里、白蓮、蒲公英がそれぞれ返事を返す。

 

「愛紗ちゃんと星ちゃんは左右についてね」

 

二人もやはり返事を返す。

 

「恋ちゃんは予備隊として本隊で待機。朱里ちゃんとねねちゃんも同じく、私のそばにいてね」

 

三人の返事を聞いた後、桃香は俺を見て

 

「お兄さんは、月ちゃんと詠ちゃんのそばに居てあげて?」

 

「・・・了解」

 

月と詠は本隊の近くで手伝いをしているはずだ。二人を連れて、此処に戻ってくればいいだろう。

二人を迎えに行き、桃香達の元へと戻ると・・・丁度、準備が整ったところだった。

 

「それじゃあ行くよ。・・・全軍、突撃!」

 

桃香の声で、全員が動き始めた。

 

・・・

 

「桃香さま、敵陣が崩れましたよぉ!」

 

「うん! みんな、敵陣に押し込んじゃおう!」

 

「了解です! 関羽隊、我が旗に続け! 敵陣中央を猛撃する!」

 

「趙雲隊は敵の左翼に突入後、敵陣を真一文字に突っ切る! 攻撃はするなよ! 駆け抜けることだけを考えよ!」

 

愛紗と星が敵軍へと突っ込んでいく。

 

「翠、白蓮お姉ちゃん! いっくよー!」

 

「おっしゃ任せろ! アタシは左手の兵を蹴散らす! たんぽぽは右手の方だ! 少しは功を立てろよ!」

 

「とーぜん! 兄様に良いところ見せないとね! いってきまーす!」

 

三人はすぐに人の波にのまれて見えなくなる。

だが、人の動きが激しいところがいくつかあるので、そこで暴れているのだろう。

 

「よーし、私も負けてられないな。雛里! 私も前に出る!」

 

「はいっ、お願いします!」

 

雛里に声を掛けて、走り始める白蓮とその部隊。

・・・死亡フラグ、立てて行かなかったな。

 

「・・・でも、もしもがあるしな。・・・恋。白蓮の事守ってやってくれ」

 

「・・・」

 

コクリ、と頷いて恋も白蓮の後に続く。

・・・なんだろうか、この言いしれぬ不安は。

白蓮なら、戦いの最中に死亡フラグ立てそうだしなぁ・・・。

 

「紫苑さん、二人の説得、いつ頃が良いかな?」

 

みんなが出かけたところで、桃香が紫苑に聞く。

 

「二人が納得いくまで戦ってからですね。今このときに説得しても、戦には負けたが喧嘩には負けてない、と言い張るでしょう」

 

「ということは・・・。一騎打ちで勝負をつけろ、って事かな?」

 

「はい。そうすれば、ようやく聞く耳持つでしょう」

 

「説得できるかどうかは、鈴々ちゃん達にかかってるっていうことかぁ・・・」

 

そう呟いて、桃香は両手を胸の前で握り合わせた。

 

・・・

 

魏延は罠に引っかかり、厳顔は鈴々との一騎打ちで降参した。

それを見た桃香と紫苑が、鈴々達の下へと歩いていく。

ふぅ・・・。俺が戦ってる訳じゃないのに、緊張した・・・。

・・・うお、魏延の時が止まってる。・・・そう言えば、桃香に一目惚れするんだっけか。

そうこうしているうちに話がまとまったようで、桃香達の号令でみんなが入城していく。

入城した後、朱里と雛里が斥候を放ち、厳顔と魏延が桃香に降ったことを流布すると、その効果はすぐに現れた。

黄忠、厳顔、魏延の三人が降ったことを知った各地の軍が、次々に参戦を表明し、軍勢はあっという間にふくれあがった。

後は益州の州都である成都を目指すのみ。

厳顔の城で軍の再編成や瓢箪の準備などを行った後、桃香達は意気揚々と進軍を開始した。

 

「・・・そして、成都についたわけだが・・・」

 

「どうかしましたか? ギルさん」

 

「・・・いや、どうって事じゃないんだが・・・」

 

なんだか、あっけない気がしてなぁ。

 

「それじゃあ、みんな、行くよ! 蜀のみんなのために、戦おう!」

 

愛紗達に指示を出し終えた桃香がそう言うと、兵達から雄叫びが上がる。

・・・この士気に愛紗達が加われば、敵はいないかな。

 

・・・

 

「城門が開いたぞ!」

 

「分かったよ! みんな! 今が好機! 城門を突破して、内部を制圧しよう! 愛紗ちゃん、星ちゃん、宜しくね!」

 

「御意!」

 

二人は見事に同時に言い放つと、駆けていく。

 

「白蓮ちゃん、たんぽぽちゃん、城門突破を計る二人の援護をお願い!」

 

「おうっ!」

 

「たんぽぽにお任せー!」

 

「鈴々ちゃんは裏門から敵を揺さぶって!」

 

「了解なのだ! 張飛隊、いくのだ!」

 

「応ッ!」

 

「朱里ちゃん、雛里ちゃんは住民達に城を攻めてる趣旨と、占領した後の身分や財産の保証を約束する旨、宣伝しておいてね!」

 

「御意です!」

 

最初の二人のように見事に同時に言いはなった朱里と雛里は兵士達に指示を出しに行く。

 

「えーと、他には・・・うーん・・・」

 

「おおかた必要な指示は出したぞ、桃香。大丈夫じゃないかな」

 

「そうかな? なにか、忘れてたりしてない?」

 

「ん。無いと思うよ」

 

「そっか。・・・ふぅ~・・・」

 

「お疲れ様」

 

桃香を労って、城門へと視線を向ける。

そろそろ、制圧できる頃かな。

 

・・・

 

「騒がしいね」

 

「だろうね。劉備率いる軍勢が此処に攻め入ってきたんだから」

 

「ふぅん、そう。どうなるのかなぁ」

 

「さぁ? 取り敢えず、僕達の身分や財産は保証してくれるらしいよ」

 

「そっか。なら、この本達も没収されたりはしないわけだ」

 

「そうなるね」

 

「・・・そうか。劉備が、ねぇ」

 

「? キャスター、どうかしたのかい?」

 

「いや、なんでもないよ。なんでもないんだ」

 

キャスターの横にはレーダーがあり、その針はすぐ近くにサーヴァントが居る事を示していた。

 

・・・




キャスター組はふと本を読んでいるときに聖杯戦争中だと言うことを忘れ、「旅行とかいいねぇ。あ、ほら見てみてよ。これ食べに行こうか」「・・・この町、と言うか家から離れたら聖杯戦争で不利にならない?」「聖杯・・・戦争・・・? ・・・ああ、そういえばそんなのやってたね!」と言うやり取りを最低三回はしています。

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