真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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初期の主人公君は「能力は強いのに七体のサーヴァントの中では最弱」です。
多分最初にセイバーと出会ってなかったらランサーかバーサーカーあたりにあっさりぶっころころされていたことでしょう。

それでは、どうぞ。


第四話 引越しと賊と暗殺者と

目の前にあるのは山積みの書簡。

 

「・・・ああ、後悔先にたたずってこういう事を言うんだな・・・」

 

朱里に呼ばれ、事務仕事の手伝いをすることになった。

文字は洛陽に居たときに勉強していたので、特に問題なく仕事を始めることが出来たのだが・・・。

ギルガメッシュの能力と俺の知識を総動員したところ、桃香の数十倍の速度で仕事が片付けられることが発覚した。

朱里と雛里は目を丸くしていただけだったが、黙っていなかったのが愛紗。

ここぞとばかりに仕事を持ってきて、今や立派な事務員となってしまった。

目の前で仕事をする桃香をちらりと見ながら、自分の仕事を進めていく。

機密性の高い文書やらは桃香や朱里、雛里が処理しているので、俺はその他の陳情や草案を処理している。

問題の解決策などがさくっと浮かんでくるのは助かる。

 

「ふぅ。・・・今日はこれで終わりか? 朱里」

 

「はい。お疲れ様です」

 

「お兄さんもう終わっちゃったの!?」

 

半分くらいを終わらせた桃香ががばっ、と体を起こして聞いてくる。

 

「うぅー・・・お兄さん、私のもやってぇ~!」

 

涙目の桃香がそう言うが、傍らに立つ愛紗が

 

「いけません桃香さま。自分の仕事は自分でしなければ意味がないのですよ?」

 

「うぅ、はぁい・・・」

 

これ以上抵抗すれば愛紗の説教が始まることをこれまでの経験で感じ取ったのであろう桃香が引き下がる。

 

「・・・まぁ、助言くらいはするから。・・・それくらい良いよな、愛紗?」

 

「・・・ええ。直接手を出さないのなら許可します」

 

「だって」

 

桃香はなんだか感動してます! という顔をして、俺の手を握ってきた。

 

「ありがとー!」

 

・・・因みにこの後、俺に助言を求めすぎた桃香に、愛紗の説教が炸裂した。

 

・・・

 

「セイバー」

 

「ん? ギルか。どうした?」

 

とうとうセイバー組にもギルと呼ばれることになってしまった。

もう、気にしないことにしよう。

 

「ちょっと訓練に付き合ってくれないか? ・・・流石に、英霊と戦えるくらいにはなっておきたい」

 

「それは良い心がけだ。私も一応セイバーのクラスだからな。剣技なら任せてくれ」

 

「ありがたい。・・・俺の剣って言えば・・・乖離剣でいいかな?」

 

「・・・私を殺す気か? ・・・ほら、こっちに来い」

 

兵士の訓練場まで連れてこられる。

銀は他の兵士と走り込みをしているらしい。あ、そう言えば体力作ろうとか思ってたんだっけ。

 

「そら、模造刀だ」

 

そう言って投げ渡される。

 

「成る程ね。この手があったか」

 

「さて、まずは体に覚え込ませるのが早いな。かかってこい」

 

「よーし・・・行くぜ、師匠!」

 

「こい! 弟子よ!」

 

何故か熱血な訓練が始まった。

 

・・・

 

「・・・ご主人サマ、ここどこだ?」

 

「お前が連れてきたのになんだそれ!」

 

「細かいこと気にすんな。禿げるぞ?」

 

「うっせえ!」

 

「お、あっちに村あんじゃん。やすもーぜー」

 

「な、なんて自分勝手なやつ・・・いや待て! つーかお前そのカッコで行くのっ!?」

 

「だいじょぶだいじょぶ。これでも俺、子供に人気あるのよ? 数千年先では」

 

「め、めちゃくちゃ不安だ・・・」

 

そう言いつつ、マスターは馬を走らせる。

不思議な術を使えるみたいだし、たぶん何かの策があるんだろうと若干開き直っているようだ。

そうこうしているうちに、村が見えてくる。

 

「やっぱり、俺の道案内は的確だねぇ」

 

「・・・それは認めるけどな」

 

「ほら、暗い顔してんなよ。変なのがよってくるぜ」

 

「はいはい・・・あー・・・今日はここで一泊かなぁ」

 

そんなことを思いながら、マスターはライダーの後ろに続くように村へと馬を走らせた。

 

・・・

 

「・・・おや」

 

何故か唐草模様の風呂敷を背負っている男二人組が目的地に着いた。

 

「まぁまぁの所じゃないか。さて、取り敢えずは住処を探さなければな、ランサー」

 

「そうですね。所持金はかなり有りますので、何処かを買い取ってしまうのもありかもしれません」

 

「成る程。最初は宿で良いが・・・長期戦になりそうだし、此処に腰を据えるのもありか」

 

「はい」

 

「よし、まずは今日の宿からだ。行くぞ、ランサー」

 

「はっ」

 

まわりの視線を一挙に集めながら、ランサー組は街を進んでいく。

 

・・・

 

「よし、今日はここまでにするか!」

 

「ありがとう、ござい、ました・・・!」

 

息を切らせながら言葉を返す。

本当ならば体力はかなりあるはずなのだが、俺が体の動かし方を解っていない所為で無駄に体力を使ってしまったのだ。

本格的に訓練を積む必要があるな。

 

「明日もやるからな」

 

「了解・・・ふぅ・・・」

 

息を整える。確か風呂の日は・・・ああ、明後日か。

なら、川で汗を流してこよう。

セイバーも同じ事を考えていたらしく、どうだ、川で水浴びでも、と誘われた。

 

「ああ、俺もそうしようと思っていたところだ。喜んで」

 

川の水は中々冷たくて心地よかった。

汗を流し、セイバーと少し話をして、川から出る。

なんだか、運動したなぁ、と心から思う。

 

「そう言えば、おぬし、此処に召喚される前は普通の民として生きていたんだよな?」

 

「ん・・・ああ、そうだな」

 

唐突なセイバーの質問に、少し曖昧に言葉を返す。

俺の言葉に、セイバーはふむ、と唸って、何かを考え始めた。

川から城へ戻り、別れた後も、セイバーは何かを考え続けていた。

・・・変なの。

 

・・・

 

「・・・」

 

「召喚には成功したが・・・バーサーカーのみか」

 

「他の六体は散らばらされたようだ。まぁ、いずれ一つの地に結集するだろうけど」

 

「ほう。・・・まぁいい。こいつの真名は分からんのか?」

 

「持っている武器も見慣れないものだし・・・解らないね」

 

「まぁいい・・・取り敢えず、何処か適当なところを回ってサーヴァントを探すぞ」

 

「了解。じゃあ、始めよう」

 

・・・

 

「・・・引っ越し?」

 

いつものように仕事をしていると、桃香にそう切り出された。

 

「うん。徐州の州牧っていうのになったから、ここからお引っ越ししないといけないんだよね」

 

ああ、だから最近なんだかばたばたしてたのか。

何処かに攻められたのかとちょっと不安だったのだが、そう言うことか。

・・・あれ? セイバーは何も言っていなかったが・・・。

 

「もうみんなには言ってあるんだよな?」

 

「うん。お引っ越しの事話そうと思ったんだけど、その時にはもうお兄さんお仕事終わって何処か行っちゃってたから。言いそびれちゃった」

 

ごめんね、と手を合わせる桃香。

俺は仕事を何日分か一気にやってしまうので、タイミングが合わなければとことん桃香とは会わない。

・・・今度からは毎日仕事をするようにしよう。大切な話を逃すのでは話にならない。

 

「そっか。解った。準備しておく」

 

と言っても、私物なんかは王の財宝(ゲートオブバビロン)の中に入っているのだが・・・。

兵士達の手伝いでもしてこようかな。力仕事なんかは手伝えそうだし。

 

「お願いね。・・・それにしても、徐州ってどんな所なんだろうなぁ・・・」

 

そう言って引っ越し先の徐州を想像し始める桃香。

・・・和むなぁ、蜀の人達って。

 

・・・

 

徐州で仕事をして、新しい土地にもに慣れてきたな、と感じてきた頃、なにやら城の中があわただしい。

なんだろうか、と思って騒ぎが起こっている方へ向かうと、玉座に着いた。

部屋をのぞいてみると、桃香達の前にいるのは・・・公孫賛。

・・・そう言えば、袁紹が反董卓連合の後公孫賛を攻撃するんだったな。

やっぱり早いな。あんまり経ってないぞ、あれから。

仲間になった公孫賛が桃香達を変なやつら、と笑って、そのまま安心して気絶したのを見届けて、俺は玉座の間を後にした。

後にしたって言っても、のぞき見してただけなんだけど。

 

・・・

 

それからまた時は過ぎ、仕事が終わってから街へ出かけられるくらいの余裕が出来てきた頃、仕事中の執務室に一つの知らせが入った。

袁術がこちらに攻めて来た、との話だ。

すぐに迎撃準備を整える桃香達。

・・・そう言えば、呂布が居るんだったな、袁術の所に。

行きたいのだが、セイバーも俺も居なくなってしまえば月を守る者が居なくなってしまう。

そんな城に月を置いていくわけにもいかず、更に俺は留守を任されたのだ。行けるはずも無い。

そう言えば、こっちに来てからと言う物、戦というのを見た事がないな。

いつか見に行ってみよう。本物はどんな物か、見ておく必要があるし。

 

・・・

 

桃香達が出かけていって数日。

暇になれば城壁に上がって帰りを待ってしまうあたり、結構俺って心配性なんだろうか、と思う。

仲間になるのは解ってるんだが、イレギュラーが沢山いるこの世界で、果たして原作通りになるのか、と言う不安がある。

・・・あ。

遠くに見えるのは桃香達の軍ではないか。

少し遠くて見づらいが、呂布っぽい頭が見える。

あの赤い髪と触覚は間違いない・・・と思う。隣でぴょこぴょこ動くのは陳宮だろう。

ホッと胸をなで下ろす。

 

「やっぱり、ギルさんだったんですね」

 

後ろから声を掛けられ、驚いて変な声が出そうになる。

それを抑えて、ゆっくりと後ろを振り向く。

そこには、ふふ、と微笑む月が立っていた。

 

「月か。どうしたんだ? こんなところで」

 

「桃香さま達が出発してから、暇が有ればギルさん此処に立ってましたよね?」

 

「見てたのか」

 

「はい。最初は誰かが城壁に居るなぁ、位だったんですけど。流石に毎日見ると気になるものですよ」

 

月は俺の隣に来ると、俺の見ていた方向を見る。

 

「何を見てたんですか?」

 

「桃香達が帰ってくるのを見てた」

 

俺がそう言うと、月はんー、と唸りながら桃香達を見つけようとするが、しばらくすると諦めたのか、城壁から乗り出していた身を戻した。

 

「見えないです・・・」

 

「だろうね。・・・あ、そうだ。呂布と陳宮、桃香達と一緒にいるよ」

 

「えっ・・・? ほ、ホントですか!?」

 

「うん。見覚えのある触覚が見えた」

 

「良かった・・・生きてたんですね・・・」

 

行方不明になっていた呂布と陳宮が生きていたとわかったからか、胸に手を当ててほっ、と息をつく月。・・・触覚についてはスルーか。

 

「このままだったら・・・昼ご飯の前には着くかな。後で詠も呼んで、呂布達に会いに行こう」

 

月の頭を撫でながら、そう提案してみる。

確か愛紗が月達が生きていると口を滑らせるはずだし、会っても問題ないはずだ。

 

「はいっ」

 

まぁ、滑らせて無くても、この笑顔のためだったら俺が言っても良いな、と思う。

 

・・・

 

帰ってきて、呂布達を連れて玉座に来た桃香達を迎える。

やっぱりもう生きていることは伝わっているのか、呂布はキョロキョロとまわりを見渡し、月と詠を視界に入れ、こちらに近づいてくる。

 

「・・・月、詠。・・・生きてた」

 

「はい、生きてましたよ。恋さんも、良く無事で・・・」

 

「恋、強い」

 

「そうですね。でも、心配しました・・・」

 

そう言って、呂布に抱きつく月。

詠もいつものツンツンぶりはなりを潜め、穏やかな顔でその光景を見ていた。

 

「ほら、詠も行ってこいよ」

 

詠もあの二人と会うのは久しぶりなはずだ。

とん、と背中を押すと、詠はわわわ、とあたふたしながら、呂布達の前に立つ。

 

「あ、えっと、その・・・久しぶり」

 

「ん。詠・・・元気?」

 

「元気よ。あんた達も元気で何よりね」

 

少し恨めしげに詠に睨まれたが、口笛を吹きながら顔を逸らすことで対処した。

二人と話していた呂布だが、きゅるる、と恋の腹の虫がなった。

恋は少し恥ずかしそうに俯くと、桃香が

 

「じゃあ、ご飯にしようか。丁度お昼だし、みんなと一緒に食べよう?」

 

こうして、また新しく仲間が増えた。

 

・・・

 

「・・・お」

 

「・・・ん?」

 

城の通路を歩いていると、公孫賛にばったり出会った。

 

「お前は・・・確か、ギルとか言ったな」

 

「すでに俺の名前を知ってたのか。それなら話は早いな。宜しく、公孫賛」

 

「宜しく。・・・ああ、それと、私のことは白蓮で良い」

 

「良いのか?」

 

「良いって。桃香が真名を許す位の奴なんだし、ギルって言うのも、真名なんだろ?」

 

「ギルガメッシュが本当の真名なんだけどな。ま、そう言うことなら遠慮無く呼ばせて貰うよ。改めて宜しく、白蓮」

 

「ああ。・・・そうだ、ちょうど良い」

 

「・・・何がだ?」

 

「いや、ちょっと聞きたいことがあってな・・・?」

 

それから、日が暮れるまで白蓮の話に付き合った。

まぁ、仕事も終わってたし、暇だったから別に良かったんだけど。

むしろ、白蓮と仲良くなれたから嬉しかった。

 

・・・

 

いつも通り仕事を終わらせ、セイバーと手合わせ。

最近は結構良いところまで行くので、成長してるんだなぁ、と自分でも思う。

セイバーと手合わせするのは、他の兵士が訓練場を使わなくなった夜。

手合わせが終わった後、風呂か川に入って汗を流し、また明日、と別れる。

今日はなんだか眠れなかったので、城壁の上へと登る。

そう言えば、ギルガメッシュは宝物庫からワインを出してたよな、と思いつき、取り敢えず出してみる。

・・・そう言えば、ワインなんて・・・と言うか、酒なんて飲んだこと無いな、と気付くが、すでに杯に注いでしまっている。

まぁ、成人してるんだし、大丈夫だろう、と一口。

一瞬葡萄のジュースかな、と思うくらいに喉を軽く通っていくワイン。

しばらく異変がないかと待ってみたが、特にそんな違和感は感じられなかった。と言うか、もっと飲みたいと思える味だ。

さすがは王の財宝に入っている酒だ。初めて酒を飲んだ俺でも飲めるとは・・・。

此処は景色も良いし、今度から酒は此処で飲むことにしよう。自分がどれだけ飲めるのかも気になるところだし。

 

・・・

 

今日は一日休みを貰った。

城にはセイバーが居るので、ちょっと街まで足を伸ばす。

土地も移ったことだし、いろいろな店をのぞくのも悪くない。

この時代、土地が変われば流通する品物まで変わるので、新鮮な気分になる。

さて、まずは食事からかな・・・。・・・あれ? あそこでやってるのって・・・。

 

「・・・っは!」

 

取り敢えず財布が一杯になったところで我に返る。

いつの間に賭け事なんてしてたんだろうか。

・・・まずいな。つい幸運Aを乱用したくなってしまう・・・。

 

「・・・ちょっと稼ぎすぎたな」

 

執務室での手伝いは本採用となって仕事となったので、給金を貰っている。

ほとんど手を着けていないので、元々十分な貯蓄はあったのだが・・・。

 

「ちょっとオーバーキルしすぎたかな」

 

流石にすっぽんぽんはやりすぎた。

泣きながら何処かへ消えていったし、あのおじさん。

 

「にしても、どっかで・・・お」

 

ちょうど良い。本屋がある。

こう言うところは、城の書庫にはない本があったりするからな。

本屋へ足を踏み入れる。

おぉ、やっぱり品揃えって違うんだな、土地で。

 

「・・・あ、これ面白そう・・・」

 

手を伸ばすと、反対側から伸びてきた手にぶつかる。

 

「おっと。悪い・・・な・・・?」

 

「あわわっ、ごめんなさ・・・あれ?」

 

雛里じゃないか。

 

「おぉ、雛里も休みか?」

 

「あ、は、はいっ。その、ギルさんも・・・ですか?」

 

「そうだよ。お金も貯まってきたから、何か買おうかなって」

 

賭け事で荒稼ぎしてきたとは言えない・・・! 

 

「雛里はなんの本を買いに?」

 

そう言って雛里の持っている本を見ようとすると・・・。

 

「っ!」

 

後ろに隠された。

 

「・・・何で隠した?」

 

「あの、えと、その・・・」

 

右から回り込む。が、くるりと回って避けられた。

 

「・・・怪しいな、雛里」

 

「あわわわわ・・・怪しくなんて、なななないですよ・・・?」

 

凄い動揺してるし・・・。

 

「・・・まぁいいや。人間誰しも秘密がある。追求はしないで置こう」

 

「ど、どもです」

 

「その代わり!」

 

「ひぅっ!」

 

がしっ、と雛里の肩をつかむ。

 

「一日俺の散歩につきあって貰うぞ?」

 

・・・あれ? なんだか脅し文句のようになってないか・・・? 

 

「あわわ・・・は、はいぃ・・・」

 

雛里も少し涙目だし。

傍から見るとどう見ても恐喝です。本当にありがとうございました。

 

「と、取り敢えず、会計を済ませよっか!」

 

話題を変える。

雛里はパタパタとお代を払いに行った。

 

「ふぅ。さて、雛里をどう連れ回そっかな」

 

やれやれとため息をつきながら壁にのしかかると、何かごつごつした感触。

 

「・・・ん?」

 

振り向くと、骸骨をかたどったお面を着けた全身真っ黒の人間が居た。

本屋の店員らしく、ピンク色のフリフリエプロンを着けている。・・・いやいや、フリフリて。

 

「・・・って、あれ? お前・・・アサシン!?」

 

ばっ、と距離を取る。

 

「おま、なんでこんな・・・ああいや、ええ!?」

 

駄目だ。混乱して考えがまとまらない。これもアサシンの作戦の内か! くそ、まんまと罠にはまったか! 

アサシンは片手にはたきを持ってこちらをじっと見つめてくる。いや、目が何処にあるか知らないんだけど。

 

「・・・戦う気・・・無いのか・・・?」

 

俺の言葉に、こくりと首肯するアサシン。

 

「アサシン? どうしたの?」

 

ぴょこん、と本棚から出てきた少女。

 

「お客さん? ・・・えっと、なんかしちゃいました? この子」

 

そう言ってアサシンを指さす少女。

 

「あー、いや、その・・・君が・・・マスター?」

 

「っ! ・・・じゃ、じゃあ、あなた、関係者・・・?」

 

「一応・・・あ、待って待って! 戦う気はないから!」

 

まだ英霊同士どころか将ともろくに戦えないのに、わざわざ戦う必要性を感じられない。

 

「・・・ほんと?」

 

「ホント」

 

「・・・信じるよ?」

 

「どうぞ」

 

「よし、じゃあ、今日から仲間だねっ」

 

「あ、ああ・・・宜しく」

 

握手を求められたので、握手をする。

 

「ギルさん、お会計終わりました・・・。・・・何をなさってるんですか・・・?」

 

後ろから雛里の声が聞こえる。

そう言えば、すっかり忘れてたな・・・。

 

「あ・・・それじゃ、俺はこの子と予定があるから・・・また来るよ!」

 

そう言って、雛里の手を引いて店を出る。

・・・アサシンの顔を見せたら泣きそうだしな、雛里。

 

・・・

 

「さっき本屋で何をなさっていたんですか?」

 

喫茶店のようなところでお茶を飲みながら休憩していると、予想通り雛里がそう聞いてきた。

 

「うん。ちょっとあの人と仲良くなってね。友情の握手をしてたんだ」

 

「友情・・・ですか・・・。そう言えば、もう一人居たような・・・」

 

「そ、それは多分見間違いかなぁ。影が人に見えたんだよ、うん」

 

「影ですかぁ・・・。そう言えば、真っ黒だった気がします」

 

「そうそう。・・・あはは」

 

何とか誤魔化せたか・・・。

 

「それにしても、雛里がこうして付き合ってくれるとは思わなかったよ」

 

「・・・えと・・・ギルさんはあの本のこと深く追求しないでくれたので・・・」

 

「そのお礼、ってこと?」

 

「それも一つの理由ですが・・・。もう一つ・・・私は一度ギルさんと・・・その・・・お話してみたかったんです」

 

「俺と?」

 

「はい。聞けば、洛陽にいたときは月ちゃんと兵士さんの間を取り持ったり、月ちゃんと詠さんをこの蜀へ匿って貰うことを提案したり。・・・それに」

 

雛里は一口お茶で喉を濡らしてから、続ける。

 

「こちらに匿った後見せた事務仕事の異常な速さ、処理能力の高さ・・・それに、風の噂では張遼さんと手合わせして素手で勝ったとか・・・」

 

・・・あれ。霞と手合わせしたのって人気のない所だった筈なんだけど。誰かに見られてたのかなぁ・・・。

 

「武も知も兼ね備えているギルさんと、一度ゆっくり話してみたかったんです。・・・ちょっと、誤算もありましたけど・・・」

 

誤算というのはこの喫茶店の様な所へたどり着くまでの事だろう。

あれから何件か本屋をはしごして、桃があったので買って食べてみたり、人混みの中ではぐれそうだからと肩車してみたり・・・。

兎に角、雛里を連れ回したので、結構雛里は疲れてたりする。

此処に寄ったのも、雛里が少し疲れた表情をしたからだし。

・・・ちょっとはしゃぎすぎたな。自重しないと。

 

「そうだったんだ。・・・良いよ。答えられることなら答えよう」

 

「では早速・・・何故、洛陽で月ちゃんに仕えてたんですか?」

 

「うーん・・・あれは・・・」

 

偶然と数奇な巡り合わせ、とでも言うしかないのだが・・・。

 

「月に拾って貰ったんだ、俺」

 

「拾って貰った・・・?」

 

湯飲みを両手で持ちながら、きょとんとする雛里。

一応言っておくが嘘ではないぞ。・・・一応、行くところがない訳だったし、拾って貰ったことには変わりない。

 

「それで、恩返しのために・・・?」

 

「そうだな・・・。それで、洛陽で月と過ごしてる内に・・・守ってあげたくなったんだよ。だから、最後まで月を守ろうって決めたんだ」

 

「成る程・・・。そう言えば、月ちゃんに拾って貰うまでは何をしていたんですか? ギルさんほど才能がある人が生き倒れるなんて思えませんが・・・」

 

「あ、あーっと・・・」

 

しまったな・・・。一度死んだ、とか言えないぞ・・・。

 

「そ、そう! 旅をしてたんだ! それで、偶然に偶然が重なって路銀も食料も無くなって・・・」

 

「旅ですかぁ・・・。星さんみたいな事をしてたんですね」

 

凄いです、とにこりと微笑みながら言ってくる雛里。・・・眩しい! その笑顔が眩しい! 

良心にかなり響くが、此処はこの嘘を貫かせて貰おう。ごめん、雛里。

 

「あれ? 雛里ちゃん? それに・・・ギルさんも。珍しいですね?」

 

声がする方向へ振り向くと、朱里が居た。

 

「朱里ちゃん・・・? お仕事終わったの?」

 

「うんっ。今日はなんだか早く終わっちゃって・・・夕方またお仕事があるんだけど、それまで休憩になったの」

 

そう言って、こちらに近づいてくる朱里。

 

「雛里ちゃん今日休みだって聞いたから探してたんだけど居なくて・・・。しょうがないから一人で歩いてたら、此処で見つけたの」

 

「へぇ、凄い偶然だな」

 

どうぞ、と椅子を勧める。

 

「どうもです・・・。って、その・・・お邪魔でしたか・・・?」

 

俺と雛里を交互に見ながら朱里がおずおずと言ってくる。

 

「ん? ・・・ああ、別に。邪魔って事はないぞ。むしろ、来てくれて良かったかも」

 

「え? 来て良かった・・・ですか?」

 

「ああ。今雛里から俺のことをいろいろ聞かれててな。・・・その、ここに匿われるまでどうしてたか、とか」

 

「あぁ・・・そう言うことですか・・・。そうですね・・・とっても気になるところです」

 

「だから、今質問を受け付けてたんだ。・・・朱里は、なんかある? 俺に質問とか」

 

「そう、ですねぇ・・・」

 

んー・・・と顎に手を当てて考え込む朱里。

雛里も雛里で聞きたいことを検索中のようだ。

・・・さて、まだ日は高い。

この二人とのお茶会は、もう少し楽しめそうだ。

 

・・・

 

「・・・ンン?」

 

「どした、ライダー。素っ頓狂な声だして」

 

「んー、やっぱ勘違いじゃないな。俺たちが向かってるとこ、サーヴァントいるぜ」

 

「サーヴァントって・・・お前みたいなのが居るのか!? おいおい、引き返そうぜー!」

 

「今から違うとこいってるほど、食料と路銀に余裕ないだろ?」

 

「・・・あー、もう! 良いよ! いきゃいいんだろ! ほらライダー、急ぐぞ!」

 

そう言って、馬の速度を上げるマスター。

 

「いいねぇ、若者って言うのはこうじゃねえと。さて、俺も迷える若者を導かないとな」

 

ライダーはマスターに置いていかれないよう、加速していった。

 

・・・

 

あのお茶会の後、俺に対して少しぎこちない対応をしていた朱里と雛里は、慣れてくれたのか仕事中も少し雑談する程度の仲になった。

今も仕事終わりに片づけをしながら朱里と雛里の趣味を聞いているところだ。

 

「ふぅん・・・。お菓子作り、ねぇ」

 

「はい・・・。朱里ちゃんはとっても上手なんですよ」

 

「成る程ね・・・。まぁ、それは今度作ってもらうとして・・・そろそろ訓練の時間だな」

 

「あ・・・そう言えば、兵士さんに手合わせして貰って居るんですよね? 確か・・・正刃さん・・・でしたっけ」

 

冗談のようだが、セイバーは真名を誰にも教えない為に、セイバーとそのまま兵士に伝えたところ・・・正刃という名前になってしまったんだそうだ。

おもわず笑ってしまって模造刀でぼこぼこにされた時は怖かったし痛かった。しかも鬼の形相だったし。・・・バーサーカーのクラス適性もあるんじゃないのか、と思ったのは内緒だ。

 

「そうそう。あいつ、かなり強いから勉強になるんだ」

 

「そうですよね・・・。将にもなれるかもしれませんね」

 

「でもま、セイバーはなる気がないみたいだけど」

 

「・・・そうなんですか?」

 

雛里が意外です、と付け足してこちらを見る。

苦笑いだけを返して、執務室を出た。

 

・・・

 

「せいっ! はっ!」

 

今日も今日とて訓練である。

最初の頃は兵士の居ない時を狙って居たが、たまたま目撃されてからは兵士達の希望で昼間にやることとなった。

何でも、見てるだけで頑張ろうという気分になれるかららしい。

ま、そう言ってもらえるとなんだか嬉しいのだが。

 

「・・・よしっ、今日はここまで!」

 

訓練中、唐突にセイバーがそう言った。

・・・あれ? いつもはもっと長く訓練するのだが・・・。

 

「おおっ? 早くないか、セイバー」

 

「今日は、特別訓練だ」

 

「ほう。宝具でも使うのか?」

 

「馬鹿者。昼間っから宝具を発動させてなんになる」

 

「・・・じゃあ、何をしに?」

 

「戦いだ」

 

「へっ?」

 

・・・

 

セイバーに連れられ、馬を走らせる。

セイバーと俺は自分の鎧を着けているので、蜀の兵士だとは思われないだろう。

馬に乗れるのか不安だったが、少しすると慣れた。セイバーの教育のたまものだ。スパルタだったけど。

銀には月を守って貰ってる。董卓だという事は知らせていない。まぁ、マスター同士友好を深めて貰いたいが・・・詠がいるしなぁ。

・・・あ、そういえば聞きたいことが。

 

「なぁセイバー、何処に向かってるんだ?」

 

「黄巾党の残党と賊が共同戦線を張って村を襲っているらしいのだ。それを討伐しに行く」

 

「そんな仕事もあるんだな」

 

へぇ、と呟くと、セイバーが

 

「何を言っている。これは個人的な戦いだ」

 

なんて言い出した。

 

「はっ? じゃあ、これって許可無く出てきてるわけ?」

 

「大丈夫だ。休みは取ってあるし、外出許可も取った。賊を倒すのだから、事後承諾で問題ないだろう」

 

・・・思いつきじゃないだろうな? 

まさか、こんな事を休みの度にやってるのか・・・? 

 

「因みに、こうして個人的な戦にでるのは初めてだぞ。念のため」

 

セイバーが声を掛けてくる。

・・・心を読まれた・・・。思ったよりショックだ。

 

「今日は、戦を知らないお前のための戦いだ」

 

「俺のため・・・?」

 

「前に話していただろう? 戦いのない、平和な国で過ごしていた、と」

 

「あ、ああ・・・」

 

覚えてたのか、そんな前の話。

 

「だから、お前は一度戦いを知らないといけない」

 

「そりゃ、一度戦は見ておこうとは思ってたけど・・・」

 

「まぁ・・・見ておくだけで済むかは、お前次第だけどな」

 

「は? ・・・何を」

 

言ってるんだ、と続けようとして、セイバーに遮られた。

 

「む・・・しまった! 村がもう襲撃されてる!」

 

慌てて前方に目をやると、確かに火の手が上がっている。

 

「行くぞギル! 限界まで馬を走らせろ!」

 

「わ、解った!」

 

近づいていくと、村は酷いことになっていた。

家はつぶれ、家畜は殺され、燃える物はほとんど燃えていた。

 

「これが・・・乱世」

 

「そうだ。・・・向こうでまだ戦いが続いてる。行くぞ! 何か適当な獲物を抜いておけ!」

 

両手に双剣を出して、駆けるセイバー。

俺も王の財宝から蛇狩りの鎌(ハルペー)を取り出し、走り出す。

 

「はぁっ!」

 

一足先に戦いに飛び込んだセイバーが剣を振るう。

 

「がっ」

 

短い悲鳴を上げて絶命する賊。

村人はこちらに気付き、少し安堵した表情を浮かべる。

 

「ギル! お前も手伝え!」

 

「ああ・・・!」

 

少し放心していたらしい。・・・しっかりしないと。

蛇狩りの鎌(ハルペー)を持つ手に力を込めて、駆ける。

セイバーとの特訓は剣ばっかりだったが、蛇狩りの鎌(ハルペー)は洛陽にいたときから練習してたんだ。・・・扱えるはず! 

俺に気付いた数人が剣や短剣を持って突っ込んでくる。

 

「くそっ!」

 

悪態をつきながら蛇狩りの鎌(ハルペー)を振る。

何か柔らかい物を通過した様な感覚の後、温かい何かが頬に飛んできた。

 

「・・・はっ・・・」

 

肺から空気が漏れる。

 

「・・・血」

 

目の前には胴体が無くなった三人の男。

残りの男はそれを見て足を止めた。

 

「・・・中々やる見てぇだな、金ぴか」

 

「あれ、金か? ・・・ま、どっちにしろ売れそうな鎧だな」

 

「行くぞ、儲けは山分けだ」

 

止めたのも少しの間だけ。

今度は数の利を生かして連携してくるだろう。

取り敢えず、深呼吸。

終わってからだ。全て、終わってからこのもやもや全てを吐き出そう。

・・・今は・・・出来るだけ考えないように・・・! 

 

「死ぃねええええええ!」

 

「うるせええええええ!」

 

かけ声と共に飛びかかってきた一人に蛇狩りの鎌(ハルペー)を振る。

男はそれを剣で受け止めようとするが、英霊の力で振るった宝具を受け止めるには剣が脆すぎた。

抵抗もなく砕ける剣。そのまま刃は男を袈裟切りに斬って、絶命させる。

 

「隙だらけだぜっ!」

 

死んだ仲間のことはどうでも良いのか、残りの二人は大した動揺もなく背中に剣を振り下ろしてくる。

 

「ちっ・・・!」

 

蛇狩りの鎌(ハルペー)を振った勢いそのままに後ろに攻撃する。

 

「うおっ!」

 

一人は避けたが、すでに勢いづいていたもう一人は蛇狩りの鎌(ハルペー)の刃を首に受けて、頭をごとりと落とした。

 

「う・・・ぷ・・・」

 

下手なグロ画像よりも応えるぞ、これ・・・! 

片手で口を押さえ、込み上がってきた何かを飲み込む。

何が込み上がってきたのかは考えないことにする。

 

「くそ、アレでも倒せねえのかよ・・・」

 

残った一人が毒づく。

その瞬間を隙だと判断して飛びかかり、胴を狙って一閃。

 

「へっ・・・?」

 

油断してたのか、俺の速さについてこれなかった最後の一人は、呆けた顔のままあっけなく死んだ。

・・・セイバーも終わったみたいだな。賊はもう居ない・・・か。

 

「げぼっ!」

 

ハルペーをしまう余裕もなく、吐き出す。

血の匂いがする。何かの肉が焼ける匂いも。

なんか腐った匂いもするし・・・まわりに広がるのは地獄だ。

数十人の村人と、数十人の賊の死体。

どれもろくな死に方はしてない。俺やセイバーがやったらしき死体は切り口も綺麗だが・・・他のは頭が割れてたり眼球飛び出てたり悲惨な物だ。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

まさか、これほどまでとは。

テレビで見たより酷い。・・・凄く酷い。

見ておかなきゃな、なんて言っていた少し前の俺に見せてやりたい位だ。

 

「・・・落ち着いたか、ギル」

 

「セイバー・・・か・・・」

 

いつのまにか、傍らにはセイバーが立っていた。

 

「もしかして・・・このため・・・に?」

 

「ああ。平和に慣れきっているお前が戦争を・・・戦いという物を正しく感じ取れているか疑問だったのでな」

 

「・・・なる、ほど」

 

セイバーが水の入った水筒を渡してくれる。

 

「酷い顔だぞ。口をゆすいだら、川にでも行ってくるが良い」

 

「・・・いや、良いよ」

 

水を口に含んで、うがいした後に吐き出す。

残りの水は頭からぶっかけて、いろんなもやもやを洗い流す。

 

「・・・もう、大丈夫だから」

 

セイバーも・・・銀も、もしかしたら月もこれを見た事があるのだろう。

普通に暮らしているときに襲いかかるこの猛威。

それに比べて、俺は甘かったのだ。

勝てるかどうかしか考えてなかったし、死んでいく人なんて将くらいしか心配してなかった。

・・・駄目だなぁ、俺。

 

「・・・うん。・・・ありがとう、セイバー」

 

「うむ・・・まぁ、まだ甘いところはあるが大分吹っ切れてきたようだな。・・・そら、村人達がお待ちだ」

 

セイバーの視線を追うと、こちらに駆けてくる村人達。

隠れていた人間も出てきているのか、最初に見たときより多く見える。

 

「さて、後始末も手伝ってから帰るぞ。帰るまでが訓練だ」

 

「なんだその遠足理論」

 

「ん? 何かおかしいこと言ったか・・・?」

 

「・・・いや、こっちの話」

 

・・・

 

あの後、村人に名前を聞かれて咄嗟にアーチャーと答えてしまったので、何故か俺の名前は亜茶となった。・・・あーちゃ、と読むらしい。

正刃と亜茶として村人に歓迎され、いろいろなお礼を断って、街へと帰った。

 

「・・・亜茶、だって」

 

「はは、良いじゃないか。私も正刃と呼ばれて居るんだから」

 

なんでクラス名を答えてしまったんだろうか。そこだけが悔やまれる。

 

「ま、これからはギルも少しは今の世の中というのが解っただろう?」

 

「・・・ああ。・・・さて、さっさと帰ろう! 月と銀が待ってる」

 

「うむ。そうするとしよう」

 

少し暗くなった空気を振り払うように、馬を走らせた。

夕飯までには着くかな。・・・あー、でも肉料理は遠慮したいなぁ・・・。

 

・・・

 

「出来たー!」

 

「・・・五月蠅いよ、キャスター」

 

「おっと、ごめんごめん。今度は君が徹夜明けか? 珍しいね」

 

「ちょっとねー・・・本が面白くて・・・気付いたら空が白んでた」

 

「本にはそう言う魅力があるよね」

 

そう言って笑うキャスター。

マスターは疲れた笑顔を浮かべながら首肯する。

 

「確かにね。・・・で、何が出来たのさ?」

 

「うむ、驚かないでくれよ・・・? なんと、レーダーが出来たのさ!」

 

「れーだー・・・?」

 

「あー・・・そっか。君には通じないか。えっと、探査機、と言うのかな。まぁ兎に角、見た方が早い」

 

キャスターは大きい羅針盤のような物を部屋から引っ張り出した。

 

「おっきいねぇ」

 

「ま、この時代の物で作った品だから仕方がないさ。で、これをこうやると・・・」

 

キャスターが台座に触ると、くるくると動き出す針。

しばらくすると、ぴたりと一つの方向を指して止まる。

 

「何を指してるんだい?」

 

「サーヴァントのだいたいの位置さ。何故か今回の戦いでは、サーヴァントがサーヴァントに気付きにくいらしくてね。戦いがなければどの方向にいるのかさえ解らない」

 

「そうなの? マスターもそうなのかな」

 

「じゃないかな。お互いがお互いを認識できないみたいだから、もしかしたら街ですれ違ってるかもね」

 

「うわ、ぞっとしない」

 

「ま、そんな悩みも今日で終わり! これからはこれがあるからね。一応マスターにも使えるようにした。ほら、取り敢えず此処に手を突いて」

 

キャスターはマスターの手をレーダーの台座のような所に触れさせる。

 

「で、魔力を流す。サーヴァントが使ったらサーヴァントを探して、マスターが使ったらマスターを捜すように出来てる」

 

「へぇ、凄いじゃないか。君って結構凄いサーヴァントなんだねぇ」

 

「ふっふっふ。・・・さて、次の発明でもするかな。マスターはこれから就寝かな?」

 

「うん。ちょっと興奮して忘れてたけど、そう言えば徹夜明けだったね。・・・ふぁ~・・・じゃ、ボクは寝るよ。・・・おやすみ、キャスター」

 

「おやすみー」

 

寝室に入っていくマスターを見送って、キャスターは自分の部屋へ戻る。

 

「さって、次は何を・・・うーん・・・」

 

・・・

 

あの後、勝手に賊と戦ったことは怒られたが、村を救ったと言うことで何とか相殺して貰った。

罰は無し。だけど、セイバーと俺は二人して愛紗の説教を喰らうのだった。

 

「全く。・・・良いですか!? これからは勝手に賊退治になんてでないように! ・・・そもそもギル殿は訓練を初めて日が浅いのですから・・・」

 

なんというか、途中二度くらい同じ説教を喰らった。ループって怖い。

取り敢えず、セイバーと一緒に謝り倒して許しを得た。正座のしすぎで足が痺れているが、さっさと愛紗の前から居なくならないと追加の説教があるかもしれないので、二人してちょっと急ぐ。

 

「・・・ふぅ。凄いな、関羽は」

 

「はは、愛紗は真面目な奴だからなぁ」

 

「さって、今日は仕事有るのか?」

 

「ん・・・そうだな。自分の分と・・・桃香の仕事でも手伝ってこようかな」

 

「うむ。なら、今日の訓練は夜だな。ではな、ギル」

 

「あいあいさー」

 

訓練場へと向かっていくセイバー。

・・・さて、これから執務室に向かうわけだが・・・愛紗が来ませんように。

 

・・・

 

「・・・よっしゃ」

 

ちょっとガッツポーズ。

そうだよな。訓練とかあるよな、愛紗にも。

 

「お兄さん、ちょっと聞きたいんだけど・・・」

 

「ん、なんだ」

 

「えっとね? ・・・」

 

桃香に助言をしたり、たまにくだらない事を話していると、扉が開く。

朱里か雛里かな? と見てみると、お茶の乗ったお盆を持った月だった。

 

「あ、月」

 

「ギルさん、こんにちは」

 

「おう、こんにちは。・・・なんだか久しぶりな気がするなぁ」

 

「そうですね~。あ、お茶持ってきました。ギルさんも飲みますか?」

 

「あ、うん。お願い」

 

「じゃ、ちょっと休憩だねっ」

 

桃香が筆を置いて、背伸びをする。

月が俺と桃香の分のお茶を注いで、渡してくれる。

 

「ありがと。・・・ん、美味しいな」

 

お茶なんて素人だが、それでも前回飲んだより美味くなってるのは解る。

 

「ホントですか? ・・・良かった・・・」

 

ほっ、と息をつく月。

俺は余ってる椅子を用意して月に勧める。

 

「月も座れよ。一緒に休憩しようぜ」

 

「えっと・・・ちょっとだけ、なら」

 

「それでもいいよー。一緒にお茶飲もうよ」

 

桃香が余った湯飲みにお茶を煎れて、月に渡す。

 

「あ、ありがとうございます」

 

それを両手で受け取って、一口。

うーむ、えさを食べるハムスターみたいだ・・・。

 

「月、仕事は慣れたのか?」

 

「はい。皆さん良くしてくれてますから、すぐに慣れました」

 

「そっか。良かった」

 

「ふふ、お兄さん、心配してたんだね」

 

「当たり前だろう。洛陽にいたときから一緒だったんだから」

 

月の頭を撫でながら答える。

月はへぅ、と言いつつも抵抗せず、恥ずかしそうに顔を俯かせるだけだった。

やっぱりさらさらだな、と思いながら撫でていると、ふと思い出したことが。

最近色々あってスルー気味だったが、バーサーカーがついに召喚されたのだ。

それを小声で月に伝える。

 

「・・・じゃあ・・・始まるんですか・・・?」

 

「多分。・・・でも、セイバーもいるし、俺も訓練してる。・・・大丈夫だ、月は絶対に守るから」

 

今ならセイバーに訓練を着けて貰って、いろいろと教えて貰っているから、勝てはしなくても粘れるはずだ。

後は、俺が宝具を上手く使って、セイバーの援護も出来るようにならないと・・・。

 

「はい。・・・私、ギルさんのこと、信じてますから」

 

そう言って柔らかい笑顔を見せてくれる月。

ここまで信頼を寄せてくれてるんだから、サーヴァントとして張り切らないとな。

 

「ありがと。・・・さて、桃香、休憩終わり。仕事再開しようか!」

 

「えぇー! もうちょっと休みたいよー!」

 

「甘えるなよ、全く。まだ半分も進んで無いじゃないか。それ、今日中にやらないとまずい奴だろ? ほら、ちょっとは手伝うから」

 

「うぅー・・・りょーかーい・・・」

 

渋々筆を執る桃香。

月は立ち上がり、空になった湯飲みを回収して

 

「それでは、私もお仕事に戻りますね? ・・・ギルさん、桃香さま、頑張ってください」

 

「はぁ~い・・・」

 

「こら桃香」

 

「ふふ」

 

一度笑ってから、部屋を後にする月。

扉が閉まるまで見送ってから、桃香に助言をやったり、ちょっと手伝ったりする。

さて、夕飯までには終わるかな、このペースだと。

 

・・・

 

夜、セイバーとの訓練も終わり、風呂に入った後、少し体を冷やすために城壁の上へと来ていた。

ワインを取り出し飲んでいると、コツリ、と足音。

 

「・・・星か」

 

「おや、ギル殿。奇遇ですな」

 

こちらに気付いた星が近づいてきて、隣に腰を下ろす。

そして、俺の手にあるグラスを覗き込み、ふむ、と呟く。

 

「見た事のない飲み物・・・酒ですかな?」

 

「そうだよ。この辺では見ない酒かな」

 

どうぞ、とワインを注いだ杯を渡す。

 

「いただきましょう。・・・むむ」

 

ぐいっ、と飲み干した星が唸る。

・・・ワインって一口で飲むものじゃないような・・・。まぁ、ワインなんて知らないだろうし、仕方がないんだけど。

 

「これは・・・今まで飲んだ事のない味ですな」

 

「だろうね」

 

遠い異国の飲み物だし、今この時代に作られてるかも怪しいぞ。

 

「それでは、お礼にこれを」

 

そう言って取り出したのは小さい壷。

・・・まさかとは思うが・・・。

 

「メンマか?」

 

「おお、良くおわかりになりましたな。その通り。メンマです」

 

「・・・ああ、うん」

 

なんだろう、この妙な感情。

取り敢えず、勧められたので食べてみる。

あ、美味しい。

 

「美味しいよ、星。うん、凄いな」

 

「おお、ギル殿は解る人ですな! ささ、もう一つ」

 

「ありがと。・・・ほら、もう一杯注いであげるよ」

 

こうして、自分のお薦めを相手にあげたり、何故か仮面の良さについて語られたりしたが、特に何もなく宴会は終わった。

星は今まで会ったことのないタイプだから新鮮だったな。また一緒にこうして酒を飲んでみたりしたいものだ。

別れ際にそう言ってみると、星はにっこりと笑って

 

「ええ、是非」

 

それだけ言って、去っていった。

・・・ああ、本当に今まで会ったことのないタイプだ。

 

・・・

 

街へ出る。

最近はセイバーも銀も居るため、こうして俺が暇つぶし兼警備として街を歩く事が多くなった。

こういう警備なんかは、裏路地もしっかり見ないといけない。・・・決して、賭け事をやっているからちょっと巻き上げてやろうとかは思っていない。

ああ、それと・・・余談ではあるが、袁紹達を保護した。

曹操との戦いに負け、落ち延びてきたところを捕まった、と。

その三人を白蓮に押しつけ・・・げふんげふん、任せた所も原作と一緒だ。

・・・じゃあ、そろそろ・・・。

 

「曹操が・・・来るのか」

 

そんなことを呟きながら警備から城に戻ると、数時間前まではいつも通りだった城内が、急にあわただしくなった。

・・・来たか! 

兵士を捕まえて話を聞くと、やはり北方から攻めてきた大軍団がいる、という話を聞けた。

・・・取り敢えず月と詠の無事を確認に行かないと。

 

・・・




政務のたびに桃香の対面に座らされる主人公君は毎日大変なんだとか。
・・・いえ、桃香に質問攻めにされるのがですよ? けして巨大な桃が云々とかではないですよ?

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