真・恋姫†無双 ご都合主義で聖杯戦争!?   作:AUOジョンソン

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「新年には新しいパンツを穿く派」「すがすがしい気分になるもんな」

それでは、どうぞ。


第二十五話 終わりと再開と新しい始まりと

「・・・ふぅ」

 

馬の上で、俺は疲れを感じながらため息をつく。

ようやく五胡の軍団に襲われたという蜀の国境近くまで追いついた。

ここに駐屯して何泊かするらしく、せわしなく兵士たちが動き回っている。

・・・桃香たちに追いつこうと走っていたのだが、途中で泣いている子供を助け、その子の母親から貰った果物から始まった物々交換は、ものの数分で果物を馬にした。

はじめは何だこのわらしべ長者、とか思っていたが、たぶんステータスの幸運と黄金率あたりが何かやっているのだろうとあたりをつけた。

まぁ、馬がいることに越したことは無い。走るより楽だし。

そう思って走らせること数時間・・・。桃香たち蜀の軍団の元へ追いついたのだ。

 

「とにかく、月ともう一度パスを繋がないとな。・・・つなげてくれるかなぁ」

 

勝手なことをしすぎたし、怒って、もう知りません! とか言われるかもしれない。

・・・あ、それはそれで可愛いな。

変な妄想を頭の中で描いていると、きょとんとした顔の月に出会った。

小首をかしげて、何度か目をこすって俺を確認しているようだ。

 

「・・・へぅ。ギルさんが、見えます」

 

「ははは。そりゃ見えるよ。実体化・・・いや、受肉してるもの」

 

以前から俺の体はは受肉している扱いで常に実体化している変則サーヴァントだったが、泥を被ったことによって完全に受肉したらしい。

泥を被る前は少量だけど実体化のために魔力を使っていたのだが、もうそんなものは必要ないようだ。

 

「・・・ギルさんは、また一人で戦いに出て行ったと聞きました」

 

「ごめんな。対城宝具以上の宝具を持ってるのは俺しかいなかったからさ」

 

「パスが消えてびっくりしました」

 

月は、一つ一つ淡々と・・・いつもの世間話のときのように口を開く。

 

「あー・・・たぶん、受肉した時に接続が初期化されたのかな」

 

だから、と俺は続ける。

 

「もう一度、俺のマスターになってくれないか、月」

 

月は驚きに目を見開く。が、すぐに真剣な顔になると

 

「・・・もう、マスター(わたし)に無断で勝手に戦ったりしませんか?」

 

そう聞いてきた。

 

「努力する。もう聖杯戦争も無いだろうし、英霊の力は月の意思のとおりに使う」

 

「ちゃんと、私も戦場で・・・あなたの隣で、戦わせてくれますか?」

 

「ああ。振り下ろされる剣からも降り注ぐ矢からも突き出される槍からも月を守る」

 

「・・・私のこと、好きですか」

 

「大好きだ。月は?」

 

間髪いれず答えた言葉を聴いて、しばらく俺の目を見つめる月。

俺も、視線が厳しくならないように心がけ、その瞳を見返す。

少し頬を染めた月が、ふっと微笑む。

 

「――はい。私も、あなたの事が大好きです」

 

月がそう口にした瞬間、胸の前で組んでいる月の手の甲に、赤い光が宿る。

何段階かすっとばしているが、再び月との契約に成功したらしい。・・・たぶん、貂蝉あたりが一枚噛んでいると俺は予測する。

 

「あ・・・。ふふ、これで、元通りですね、ギルさん」

 

嬉しそうに走りよってくる月を受け止め、頭を撫でる。

準備で走り回ったのか、髪の毛が乱れていた。

ゆったりとしたウェーブになるように、月の髪の毛に指を絡める。

引っ掛けないように、優しく。髪の毛を梳くように上から下へ撫でていく。

 

「ん・・・。気持ち良いです、ギルさん」

 

俺の腹に顔をうずめた月が、くすくすと笑いながらそう言った。

 

・・・

 

あの後、セイバーと銀から一発ずつ殴られ、響にしがみつかれ、泣かれた後、聖杯を壊した後の異常について説明を受けた。

・・・いろいろと暗躍してるな、貂蝉たち。

 

「・・・それにしても、良かったな」

 

「何がだ?」

 

「お前が受肉したことが、だ。聖杯が破壊されてもお前は残る。・・・お前は、ここに残るべきだからな」

 

セイバーが優しく微笑む。

 

「私は知ってのとおり劉備だ。だが、彼女とは違う可能性の劉備。だから、あまり蜀に居座るべきではないと私は思う。・・・アサシンについてはその姿だけで恐れる民も出てくるだろう」

 

だから、私たちは聖杯を破壊しなくとも消えるべきだと、セイバーは言った。

 

「だが、お前は違う。民に慕われ、将に慕われ、王に慕われ・・・主に慕われているお前は、残るべきだ」

 

そのまま、セイバーはどこか遠くを見ながら、言葉を続ける。

その背後にいるアサシンは一言も話さないが、その視線はセイバーの言葉を肯定しているように感じた。

セイバーは炊き出しを始めた兵士たちをほほえましく見守りながら、口を開く。

 

「・・・二日後に、私とアサシンの聖杯戦争は終結する」

 

貂蝉から告げられたタイムリミット。

この聖杯戦争においては、聖杯からのバックアップを失った英霊を引きとどめる為にはマスターの魔力だけでは不十分で、管理者の力を以ってしても二日しか保てない。

だから、今日の夜はおそらく銀と響は自身のサーヴァントとの別れを済ませるのだろう。

・・・それを思うとなんだか申し訳なく感じてくる。

 

「・・・申し訳なく感じてるって顔だな、ギル」

 

・・・まさにそのとおり。

泥に耐え切ったのもほとんど実力ではなく意地と偶然が成した奇跡だったし、もとより消えるのを覚悟していただけあって、なんだかもやもやとする。

 

「まぁ、どちらかというとこれからの聖杯戦争がきついかもな」

 

「・・・これから?」

 

「ああ。月殿や詠殿。その他にも沢山の将たちと一緒に、平和の維持という聖杯の為、戦っていくのだ。・・・いうなれば、たった一人の聖杯戦争ってとこだな」

 

たった一人の聖杯戦争、か。

 

「ま、そう悲観することは無い。私もアサシンもライダーも、座から見守っててやろう」

 

「・・・ははっ。それは心強い」

 

そうなると、情けないところは見せられないな。

 

「とりあえずはまぁ、五胡か」

 

「そうだな。しばらくはその対応に追われると思う」

 

天下三分も成ったし、そっちも進めながらの平行作業になると思うけど。

 

「くく、そういえばギルは曹操や孫策の目の前で宝具をご開帳したらしいじゃないか」

 

「・・・あー」

 

嫌なことを思い出させてくれるなぁ、この剣士。

というかセイバーも目の前で急に現れたり消えたりと忙しそうだったがな。

 

「まぁ、そのあたりの対応に慌てるギルの姿も、酒の肴にしてやるよ」

 

あっはっは、と何の気負いもなく大笑いするセイバー。

二日後にはここを離れるとは思えないぐらい、後悔や未練などひとかけらも無い、高らかな笑い声だった。

 

・・・

 

「で?」

 

「で、とは・・・」

 

「ふふ、分かってるでしょ、ギル?」

 

目の前に立つのは曹操と雪蓮。その後ろで桃香がおろおろとしている。

 

「えーと、もしかして・・・」

 

「もしかしなくても、あの奇妙な空間のことよ」

 

奇妙なとは心外な。王の財宝(ゲートオブバビロン)の展開はかっこいいじゃないか。

空間に生まれる波紋。その中心から浮かび上がる宝具! ・・・わっかんないかなぁ。

 

「あれは何? あなたは妖術師だったの?」

 

「あ、あのっ、華琳さん! あれはね・・・!」

 

それから、桃香の説明と俺の補足が続いた。

聖杯戦争のことや、サーヴァントのこと等、桃香は自分にされた説明をほとんどそのまんま流用していた。

曹操は頭がいいし、雪蓮は勘がいいので、桃香のあたふたとした言葉でもきちんと理解していた。

 

「なるほど。その・・・聖杯戦争? とやらに巻き込まれてたわけね?」

 

「え、えーと、まぁ、そんな感じ・・・です」

 

大丈夫か桃香。なんかふらふらしてるけど。

 

「ふぅん。・・・興味深いわね、そのサーヴァントっていうの」

 

「そうね。・・・英霊、ねぇ」

 

興味深そうにじろじろと見てくる二人。

 

「・・・ま、いろいろと影で助けてくれてたらしいですし? 一応不問にはしてあげるわ」

 

曹操が腕を組んではぁ、とため息をつく。

 

「た・だ・し。宝具を人前で使用することを禁止するわ。当たり前だけど、あなた一人で三国を壊滅させかねない戦力ですからね」

 

ま、その条件はもっともだし、戦いが終わったのなら『戦争そのもの』と評される俺の力を使うこともほとんどなくなるだろう。

曹操の言葉に頷きを返し、よいしょと立ち上がる。

 

「じゃあ、もういいか曹操」

 

「ええ。・・・あ、待ちなさい」

 

「ん?」

 

「私の部隊を聖杯の泥から助けてくれたお礼に、真名を預けます。華琳よ。これからもよろしくね、ギル」

 

「ありがとうな、華琳。俺はギルガメッシュがそのまま真名だ。これからも末永く桃香をよろしくしてやってくれ」

 

それだけ言って立ち去る。これから、三国の王たちがいろいろと決めるんだろうし、俺がいては邪魔だろう。

 

・・・

 

夜、城壁の上でワインを飲んでいると、気配が近づいてくる。

敵意は感じないので放置していると、気配は隣で立ち止まった。

 

「ギル、一人で何飲んでるんだ?」

 

「・・・セイバーか」

 

視線を向けると、くっくと含み笑いをするセイバーがいた。

 

「いいのかよ、今日で消えるんだろ?」

 

確か、午前零時を回ると消えてしまうと貂蝉たちから聞いた。

こんなところにいるより銀と一緒にいるほうが・・・。

 

「いいのさ。マスターにはきちんと別れを告げた。それに、マスターは今日夜の警備の当番だ」

 

「ふぅん。・・・飲むか?」

 

王の財宝(ゲートオブバビロン)の中にあった神代の酒を酒器に注いで渡す。

 

「む、いただこう」

 

そういって酒器を受け取ったセイバーは、少しだけ酒器を傾け、ワインを口に流した。

ワインの飲み方は教えてあるので、前に飲ませた星のような一気飲みはせず、ゆっくりと味を楽しんでいるようだ。

 

「・・・うむ、やはりいつ飲んでもうまいな。お前の宝物庫の中身をもう少し味わいたかったよ」

 

「そうだな。じゃ、次の聖杯戦争で出会ったら、だな」

 

「・・・はは、次にあうことは確定なのか、ギル」

 

「そりゃあな。英霊なら、機会はいつでもあるだろ」

 

「それもそうか。・・・なら、次は一晩中酒を酌み交わすぞ、ギル」

 

「ああ。楽しみにしてるよ、セイバー」

 

「・・・劉備殿を頼むぞ。性別が違うとはいえ私だ。もしもの時何をするか分からんからな」

 

セイバーはそういってからワインを飲み干し、酒器を城壁に置くと、くるりときびすを返した。

俺はセイバーの気配が遠ざかり・・・消えてしまうまで、セイバーのほうを振り向かず、ただ酒器を傾けた。

 

「一人、か」

 

そのまま酒器を傾けていると、鼻を啜る音とともに、足音が聞こえてきた。

 

「えぐ、う、ひぐっ・・・」

 

「響?」

 

「あ・・・ぎ、ぎる、さん・・・」

 

メイド服の袖で目をこすり、無理矢理にこりと笑う響。

 

「ハサン、消えちゃった」

 

強張った笑みを浮かべながら、響は努めて明るく言い放った。

しかし、すぐにうつむいてしまい、その小さい肩を震わせてしまっている。

どう声をかけていいのか分からず、そっか、と言ってから、口を開く。

 

「セイバーも、今消えた」

 

響はそですか、と短く答えると、ふらふらと俺のほうへと近づいてくる。

何をしたいのかをなんとなく悟った俺は、響を受け止めるためにしゃがんだ。

丁度俺の胸に顔をうずめた響は、俺の体に腕を回し抱きつくと、力強く抱きしめてきた。

 

「今だけ・・・今だけ、泣くね?」

 

「俺でいいなら、こうやって胸くらい貸すよ」

 

「・・・はは、ギルさん、大好き。・・・ふえ、うぇ、ふええええん・・・!」

 

ゆっくりと響を抱きしめ、背中をさする。

響が落ち着くまで、しばらくそのままで時間を過ごした。

 

・・・

 

「・・・はふ。ごめん、ぬれちゃったね」

 

そういって俺のシャツを見つめる響。

見ている場所はさっきまで響が顔を埋めていた場所であり、まぁ、その、なんていうか・・・いろんな液体でぬれている。

だが、嫌悪感なんかは沸かない。むしろ、こうして俺を頼ってくれたことが嬉しいと感じる。

だから、響に心配をかけないように笑顔で言葉を返した。

 

「構わんよ。響が落ち着いてくれれば、それで」

 

「・・・もう、反則なんだから、そういうの」

 

そういって響は少し腫れぼったくなった瞳を閉じて、ゆっくりと深呼吸した。

 

「うん、復活。みんな大好き明るい響ちゃんに戻ったよ、ギルさん」

 

「そっか」

 

「そだよ。だから、もどろ? ギルさん」

 

「ん、そうするか。・・・っと、その前に」

 

宝物庫から水と布を取り出し、布を湿らせる。

きょとんとしている響を尻目に、布を絞って余計な水分を抜くと、ゆっくりと響の涙の跡をふき取る。

・・・まぁ、涙の跡だけじゃなかったんだけど。

 

「ふえ、ごめんねギルさん、こんなことさせて。それ、洗って返すよ」

 

「いいよ、これは家宝にするから」

 

「まさかの変態発言っ!?」

 

「『響の体液つき布』・・・大事にするよ」

 

「やめてぇっ! それだけはやめてぇっ!」

 

必死に顔を拭いた布を取り返そうとするが、俺はすっと宝物庫にしまった。

 

「はふっ!? そ、そうだった・・・ギルさんにはそのとんでも蔵があるんだった・・・!」

 

うえーん私汚されちゃったよぅ、と言いつつ泣きまねを始める響に笑いかけると、えへへ、と響も笑い返してくれた。

・・・少し無理矢理だったが、少しは元気出ただろうか。

 

「よし、戻るぞ、響」

 

「うんっ」

 

そういうと、響は俺の手に飛びついた。

やっぱり少しは不安定なんだろう。アサシンが消えた直後だしな。

響の手をつぶさないように、優しく握り返した。

こちらを向いた響が微笑みかけてきた気がしたが・・・俺が見た時には、すでに前を向いてしまっていた。

 

「・・・ギルさんは、消えないよね?」

 

「消えないよ」

 

「よかったぁ」

 

それ以降、響の部屋に着くまで、一切会話は無かった。

それでも・・・響は満足げな笑みを浮かべ、おやすみ、また明日、と言って部屋へと戻っていった。

今この瞬間、聖杯戦争は終わった。七体のサーヴァントの内、六体が消え、俺一人が残った。

・・・今日はもう寝よう。明日から、また忙しくなってくる。

 

・・・

 

「お、お帰りなさいっ、ギルさんっ!」

 

「・・・おおっと、部屋を間違えた」

 

部屋に戻ると、布団を上半身に巻きつけ、寝台に正座した月がいたので、ゆっくりと扉を閉めた。

あれ、ここ俺の部屋じゃなかったかな? 間違えたか。

 

「間違ってませんよっ!?」

 

扉の向こうから月の必死そうな声が聞こえてくる。

・・・取り合えず、扉を開いて月のところまで近づく。

寝台に座り、お疲れ様、と声をかけながら頭をなでる。

 

「で、何やってるんだ、月」

 

「へぅ、あの、こ、今夜は、その・・・」

 

「今夜は?」

 

「こ、今夜は、その、わ、私を貰ってください・・・!」

 

月は顔を真っ赤にしながらそういいきると、布団をはずして飛び掛ってくる。

って、下着しか着てな・・・っ!? 

あまりの驚きに、小柄な月の突撃すら受け止めきれず一緒に寝台に倒れこんだ。

 

「月、なんてはしたない格好を・・・」

 

「恥ずかしいですけど・・・ぎ、ギルさんを誘うためなら・・・!」

 

その言葉に、俺は月との会話を思い出す。

 

「ちょっとまて、まさか心の準備って・・・」

 

「ご、ご想像にお任せします・・・」

 

まさか、そんな心の準備だったとか予想できるかっ。

・・・しかしまぁ、どうするべきか。

はっきり言って断る理由は無いし、ここまでしてくれた月をむげには扱えない。

据え膳食わぬはなんとやらだ。意を決し、俺は口を開く。

 

「月、いいんだな?」

 

俺の言葉を聴いて、月は笑顔でうなずいた。

 

「はい。ギルさんがいいんです」

 

「・・・分かった」

 

俺は上に乗っている月を抱き寄せて体勢を入れ替えると、寝台に寝転がる月にゆっくりと口付けた。

 

・・・

 

「・・・うぅむ」

 

寝台から降りて、いまだ眠っている月に布団をかける。

 

「ん・・・」

 

少しだけ息を漏らした後、月はすぅすぅと再び寝息を立て始める。

起こさないように静かに頭をなでてから、部屋を出る。

 

「・・・やってしまった」

 

ただでさえ小柄な月に、いろいろと無茶をしてしまった。

まぁ、痛いばかりじゃなかったようでよかったというべきか。

後悔とも反省ともつかない思考を繰り返していると、朱里に出会った。

両手にいっぱいの竹簡を抱えた朱里は、すっきりした笑顔で挨拶してくる。

 

「あ、ギルさん。おはようございます」

 

「お、朱里。おはよう」

 

「今日はいろいろとお手伝いお願いしますね」

 

「大丈夫、精一杯やらせてもらうよ」

 

五胡との対応は三国間で協力してからはじめての合同の問題だった。

恐ろしいほどの統率を見せ、陣形を持たないゆえに戦いにくい。

 

「ギルさんが協力してくだされば、心強いですっ」

 

「そういってくれて嬉しいよ」

 

これからいろいろと考えることは増えるんだろうけど、こうして過ごせるのは嬉しいかな。

 

・・・

 

三国の間での戦いが終わってから半年。

五胡との戦いも漸く落ち着き、襲撃はほとんどなくなっていた。

落ち着いたのだから、三国間での交流をしようと提案したのは桃香だ。

一ヶ月ごとにお互いの国でお祭り騒ぎをしようという案はすぐに採用され、今月は蜀で魏と呉を迎えることになっている。

 

「楽しみだなぁ~。・・・お迎えの用意はできてるのかな、朱里ちゃん」

 

「完璧ですよ。おいしいご飯においしいお酒、それに果物だってそろってますっ」

 

「完璧だね、朱里ちゃんっ」

 

「催し物の準備もいっぱいしてありますよ」

 

・・・ああ、そうだったなぁ。

各国の将たちが飲兵衛王者決定戦とか天下一品武道会とか貿易と防衛を主題とする論文発表とか競馬大会とかお祭りとかを要請してくれたおかげで、その開催に関する準備や時間の割り振りなんかでとてつもなく苦労したのを思い出した。

朱里と雛里を中心に、軍師や文官はちょくちょく徹夜だったのを覚えている。

もちろん俺も手伝ったが、いつもの二倍くらいの仕事量だった。よくもまぁ無事に開催までこぎつけたものだ。

 

「先触れも着ていますし、もう少しでみなさん到着すると思いますよ」

 

「あ、孫家の牙門旗ですっ」

 

「呉が到着したのか。誰が来るんだっけ?」

 

俺の質問に、雛里は頭に人差し指を当てると

 

「ええと、報告では、周泰さん、陸孫さん、周瑜さん、孫策さん、孫権さんの五人ですね」

 

・・・良かった、シャオはいないみたいだな。

以前建業で出会ったときにはシャオと呼ぶように強制させられたし、シャオはギルのお嫁さんになるのっ、と言って聞かなかったため、後から月を中心とした蜀の面々に説教を食らったことを思い出した。

しかしまぁ、王族が二人来るって・・・。たぶん、蓮華あたりが後学のために、とか言ってシャオに任せてきたんじゃないだろうか。

 

「あ、来たっ! おーい!」

 

桃香が呉の将たちを率いて歩いてくる雪蓮と蓮華に手を振る。

二人は笑顔で振り替えし、こちらに歩いてくる。

 

「雪蓮さん、蓮華ちゃん、いらっしゃい!」

 

「これから一週間、世話になるわ、桃香」

 

「よろしくお願いします」

 

「精一杯、おもてなしさせていただきますっ。じゃあ朱里ちゃん、呉の皆さんをお部屋に案内してね」

 

桃香の言葉に、朱里が笑顔で答える。

 

「御意です。ではこちらへ」

 

「ありがと。・・・じゃ、また後でね~」

 

ひらひらと手を振って去っていく雪蓮。

 

「呉は到着、と」

 

「魏のかたがたも、呉のかたがたと同様先触れはもう到着していますから・・・あ、見えました。魏の牙門旗です」

 

「ん? ・・・ほんとだ。・・・って、すごい数だな」

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ・・・みんな来たんじゃないかなぁ?」

 

桃香の前まで華琳がやってくる。

 

「ごきげんよう。久しぶりね、桃香」

 

「はいっ。華琳さんもお変わりなく」

 

「おかげさまでね。・・・ギルも元気そうで何よりよ」

 

「お、ありがと。一刀も、良く来たな」

 

「おう、久しぶりだな」

 

その後、桃香が華琳に大会の賞品は何かを説明していると、提供一刀の『意匠を凝らしたとっても可愛いお召し物』の話になった。

 

「一刀が意匠を? ・・・聞いてないわよ?」

 

華琳が一刀に詰め寄る。

 

「いやー、こういうのは当日まで隠すものなんだよ。なぁ、ギル?」

 

「ん? ・・・ま、サプライズって言うのはそういうもんだよな」

 

「だよなぁ!」

 

「さぷらいず? ・・・はぁ、まぁいいわ」

 

そういって華琳がため息をつきながらこちらに向き直る。

・・・ちなみに今回の賞品である服については、前回の交流の時に一刀に話を持ちかけられ、俺はカリスマA++と黄金率A+をフル活用し、一刀の意匠を表現できる職人、材料をそろえた。

この日のためのフルオーダーメイドで、全ての将に合うものを作成した。

一刀と俺の趣味が爆発した全ての人間を可愛くする服だ。・・・俺たちの執念とかで概念武装になってるんじゃないかとたまに不安になるくらいの完成度となっているので、賞品としては完璧だろう。

雛里が魏の人たちを部屋へと案内する。

・・・さぁて、忙しくなるぞ。

 

「頑張るか、なぁ、桃香」

 

「うんっ。こういうことだったら、私、頑張っちゃうよ~!」

 

「いい返事だ。さて、まずは・・・」

 

笑顔の桃香につられて、俺も笑顔になる。

取り合えず時間が空けば月と詠をデートに誘うのもいいだろう。

一週間のお祭り騒ぎ・・・自分なりに、楽しもう。

桃香が頑張って作った平和のために。

 

「よし、祭りを始めるぞ!」

 

・・・

 

話は変わるのだが、貂蝉から変な話を聞いた。

一ヶ月前まで話はさかのぼるのだが、その時に貂蝉と卑弥呼に話したいことがあると部屋まで押しかけられた。

 

「あのね、世界がちょっとおかしいことになってるみたいなの」

 

「・・・は?」

 

なんだ、また面倒ごとか? 勘弁なんだが。

 

「別に何があるというわけでもないわ。ただ・・・その、近くにある平行世界がこの世界にくっつきかけてるの」

 

「・・・面倒ごとになる予感」

 

「そうでもないと思うわよん? まぁ、私たちにも予測しかできないんだけど、悪いことにはならないと思うわ」

 

「そうだな。ただ、いろんな可能性がぶつかった世界が生まれるかも知れぬ、と言うことだけ覚えておればよい」

 

「確実にそれ、危なくないか?」

 

俺の言葉に、やぁねぇうふふ、と気持ち悪い笑い声を上げた貂蝉は、とにかく、と話を切り替えた。

 

「後数ヶ月以内で異変は起きるわ。たぶん・・・来月くらいには分かると思うわよん」

 

「うむ。その異変に気づけるのはおそらくサーヴァントであるおぬしくらいであろう。他の人間たちにはただの日常だと認識されるだろうがな」

 

「おいおい、また聖杯戦争が起きるなんてことは無いよな?」

 

「ええ、それは安心してくれていいわ。過激派も聖杯の欠片を見つけるのに苦心しているみたいだし、おそらくもう彼らが聖杯戦争を起こすことはなくなるでしょうね」

 

「・・・なら良いんだ。ま、忠告ありがとう。気をつけるよ」

 

「うふふ、お礼を言いたいのはこちらのほうよん。聖杯戦争をこわしてくれてあ・り・が・と・うっ。チュッ」

 

「避けるッ!」

 

貂蝉が投げキッスをかましやがったので、命がけで避ける。

おそらく語尾にははぁと、とか付いていたに違いない。

 

「あら、残念ねぇ。ご主人様と同じくらい素敵な男だと思ったのにぃ」

 

「冗談は存在だけにしてくれ。・・・それじゃ」

 

「ええ。頑張ってねん」

 

・・・そういって二人は去っていったのだ。

何でそんな事をいきなり言い出したかというと・・・。

 

「うむ、この空気・・・久しぶりだな」

 

「ケケッ、平和みたいだな・・・子供の笑顔が溢れてるぜぇ」

 

「・・・」

 

何にも無かったかのような顔をして、あいつらが歩いてきたからだ。

うん、これが異常に違いない。流石にこれは・・・無いんじゃないかな・・・。

 

「お、ギルか。息災のようで何より。いやぁ、頑張っているようだな?」

 

「この時代って空気がうまいよなぁ。やっぱ、現代より空気が澄んでいるんだろうな」

 

「・・・」

 

って、まさか残りも・・・

 

「ん? ・・・ああ、心配しなくても良い。バーサーカーは誰だったか・・・ほら、呉の弓腰姫。あいつのところに行ったと。キャスターとランサーはまぁ、元のマスターのところだろうな」

 

やれやれ、何を考えているんだか、と肩をすくめると、その体勢のまま、なぁ? とこちらに同意を求めてくる。

そして俺の前で立ち止まると、こいつら・・・セイバーとライダーの二人は笑顔を浮かべる。アサシンの表情は・・・響にしか分からないだろうな。

 

「ま、これからもよろしく頼む。・・・たった一人の聖杯戦争とかいったが・・・また七人に戻ってしまったらしい」

 

「しかし過激派はいない。それにみんなも俺たちがいるのを疑問に思っていない」

 

「なるほど、これが・・・平行世界が混ざったってことか」

 

たぶん、ホロウみたいになってしまったんだろう。

あれ、それだったら四日間繰り返すことに? 

疑問は尽きないが、今は良い。とりあえずは喜ぶとしよう。

 

「まぁいい。・・・今、三国の将たちが集まってお祭り騒ぎしてるんだ。お前らも楽しんでいけ」

 

「はっはっは、なら、ギルとあの酒を飲み明かすとしようか!」

 

「お、料理対決なんてあるのか。・・・飛び込み参加は可能なのか?」

 

セイバーは俺の方をばしばしと叩きながら大笑いし、ライダーは俺が渡した三国交流の目録を見て何かつぶやいている。

アサシンは猫背のままきょろきょろと周りを見渡している。響でも探しているんだろうか。

 

「歓迎するよ。ようこそ。セイバー、ライダー、アサシン」

 

こうして、三国の大戦と聖杯戦争は終わり・・・新しい世界が始まった。

たぶん、いろいろと問題も起きるだろうが、心配は無い。これだけのサーヴァントがいるのだ。

世界の歪みだろうと黒い聖杯だろうと打ち破れる。そう信じている。

 

・・・




これにてご都合主義で聖杯戦争は終了となります。
まぁ、すぐにご都合主義で萌将伝をアップすると思うので、終わりって感じはしないと思いますが。
まだしばらく、作者と拙作にお付き合いくださいませ。


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